佐藤賢一作品のページ No.



42.日蓮

43.最終飛行 

44.チャンバラ 

【作家歴】、ジャガーになった男、傭兵ピエール、赤目、双頭の鷲、王妃の離婚、カエサルを撃て、カルチェ・ラタン、二人のガスコン、ダルタニャンの生涯、オクシタニア

 → 佐藤賢一作品のページ No.1


黒い悪魔、ジャンヌ・ダルクまたはロメ、剣闘士スパルタクス、褐色の文豪、女信長、アメリカ第二次南北戦争、カペー朝、象牙色の賢者
、新徴組、ペリー

 → 佐藤賢一作品のページ No.2


革命のライオン、バスチーユの陥落、聖者の戦い、議会の迷走、王の逃亡
、フイヤン派の野望、ジロンド派の興亡、共和政の樹立、ジャコバン派の独裁、粛清の嵐

 → 佐藤賢一作品のページ No.3


徳の政治、革命の終焉、黒王妃、ヴァロワ朝、ラ・ミッション、ハンニバル戦争、ファイト、遺訓、ナポレオン1、ナポレオン2、ナポレオン3   

 → 佐藤賢一作品のページ No.4

  

           

42.

「日 蓮 The Passion of Nichiren ★☆


日蓮

2021年02月
新潮社

(1800円+税)

2023年10月
新潮文庫



2021/03/21



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鎌倉中期の僧、日蓮(1222〜1282年)
法然源空が広めた浄土宗、念仏を唱えさえすれば西方浄土に行けるという専修念仏の教えは誤り、釈迦が最後に唱えた
“法華経”=現世において人々を救済する教えこそ正しいと、浄土宗派、鎌倉幕府、念仏信者たちとの対立を恐れず、自らの主張を貫いた日蓮宗の宗祖である日蓮の姿を描いた時代長編。

日蓮、「南無妙法蓮華経」という言葉を知ってはいても、その具体的な内容を知っている訳ではなかったのですが、専修念仏に対する日蓮の徹底した攻撃、その論が何度も繰り返し語られているお陰で、その違いを理解しやすい作品になっています。

末法時代だからこの世ではもはや救われることはない、救いはひたすら西方浄土に求めるべきという浄土宗の教えを攻撃し、現世において救われることを目的とすべき、という主張は理解できます。
しかし、法華経以外の教えはすべて誤り、法然源空らも無間地獄に落ちること間違いなし、とまで断定しまう攻撃性には、辟易してしまうところがあります。

天変地異や蒙古襲来まで、正しい聖人がいなくなった所為と言われてしまうと、逆に信じられなくなってしまうものですが、21世紀からみて13世紀を批判してしまうのは適切ではないでしょう。
人間は常に、何かに救いを求めるものだと思いますので。

日蓮の教えを小説として描くという点で佐藤賢一さんの力作とは理解しつつも、日蓮に共感できるものではなかったため、読後感は今一つ。


【第1部 天変地異】1.朝日/2.説法/3.破裂/4.下総/5.破門/6.旅立ち/7.辻説法/8.草庵/9.地獄絵/10.一切経/11.客人/12.選択集/13.立正安国/14.予言/15.松葉ヶ谷/16.逃亡/17.断罪/18.伊豆/19.無智の悪人/20.母危篤/21.西条花房/22.小松原/23.道善房/24.清澄寺
【第2部 蒙古襲来】1.牒状/2.安国論御勘由来/3.大師講/4.祈雨/5.挑発/6.行敏難状/7.裏工作/8.対決/9.沙汰/10.連行/11.竜の口/12.寂光土/13.依知/14.使命/15.三昧堂/16.法難/17.塚原問答/18.一谷/19.下文/20.八日講/21.諫暁/22.申し出/23.三度の高名/24.息吹

         

43.

「最終飛行 ★★   


最終飛行

2021年05月
文芸春秋

(2200円+税)



2021/06/18



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「夜間飛行」「人間の土地」星の王子さま等の作品で知られる作家アントワーヌ・ドゥ・サン=テグジュペリ

ひととおりその作品を読んでいますので、パイロットであり作家であったこと、単身で偵察飛行に飛びたったまま帰らぬ人となったことは承知していましたが、余り思い入れのある作家ではなかったため、その生涯をよく知っていた訳ではありません。
そのサン=テグジュペリという人間像、軌跡を、故国フランスがドイツの侵攻を受けた第二次世界大戦中に絞って描いた、力作長編。

しかし、小説作品から受けるイメージが崩れるなぁ、本作に描かれる実物の人間像を知ると。
また、佐藤賢一さん独特の語り口の所為もありますが。
身長 190cmを超える巨漢、女性に気が多く、妻の
コンスエロをないがしろにしていたという印象は拭えず、そして何より、自分勝手極まりない。
相手の気持ちや思惑など歯牙にもかけず、どんな迷惑をかけようがまるで気にせず、自分の我を強く押し通す人物・・・。

そうした性格もあるのでしょうか。大戦中身を移した米国にて、ドイツ協調派の
ヴィシー政権にもドイツ抵抗派のドゥ・ゴール率いる自由フランスにも与しなかったために、亡命フランス人から批判を浴び、居場所を失う。
そんなサン=テグジュペリにとって息をつける場所は、かつて身を置いた偵察飛行隊だけだったのでしょうか。
飛行士としての年齢制限を超えているのにゴリ押しし、再び偵察飛行に何度も飛びたちます。そして最後・・・。

第二次大戦中におけるサン=テグジュペリの人物像・足跡を知るだけでなく、ドイツ侵攻を受けた後のフランスの分裂ぶりも知ることができ、歴史小説という面でも読み応えがありました。
また、「星の王子さま」に篭められた思いも知ることができたのも、貴重な収穫と言えます。

そして、最後の偵察飛行(本作で言う
「最終飛行」)の仔細はとても印象的です。
サン=テグジュペリ、地上ではなく、空高くにいるべき人物だったのだなぁと感じながら読了。読後感は、すっきりとしてとても爽やかです。


1.フランスは敗れる/2.アメリカに問う/3.ニューヨークの王子/4.アフリカへ、戦地へ/5.コルスを飛びたつ

       

44.

「チャンバラ ★★☆   


チャンバラ

2023年05月
中央公論新社

(1900円+税)



2023/06/28



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宮本武蔵が繰り広げた数々の勝負ごとを、迫真の“チャンバラ”として描いた長編。
その武蔵曰く、兵法というほどのものではない、ただのチャンバラにすぎん・・・と。

吉岡清十郎、吉岡伝七郎、一条寺下がり松での吉岡一門との死闘、鎖鎌の宍戸又兵衛、船島での佐々木小次郎との決闘。
そしてさらに・・・・。

本作で描かれるのは、剣理や人生観などではなく、ただ勝つか負けるかだけ。そこに格好良さなどはなく、要はどちらが生き延びるか、に過ぎません。
つまり、武蔵が何とか乗り越えてきた数々の勝負における、迫真の駆け引き、命のやりとりです。・・・・まさにチャンバラ。

延々と描かれる勝負の様がとても緻密かつ濃密で、面白いったらありません。
勝ち負けは本当に僅かの差でしかない、だからこそ<迫真>という言葉がまさに相応しい。

武蔵に負けず劣らず、勝負相手も真に個性的。そして相手の図抜けた技量に、武蔵は何度も追い詰められるのです。そこを乗り越えていくのは、武蔵の胆力と言うべきか。

吉岡清十郎とはまさに名勝負といった観。それに次ぐ伝七郎との勝負は、おっとぉ、という感じ。さらに一条寺下がり松での戦いは吉岡一門 108人が相手となればもう怒涛の如し。
それが宍戸又兵衛との闘いとなると、さらに面白くなってくるのです。
そして最後の・・・・は、もう何をかいわんや。

なお、佐々木小次郎との因縁については思わぬフィクションが凝らされていて、それはそれで楽しめます。

剣客同士の勝負シーンを堪能したい方に、是非お薦め!


(序)/1.新免無二と吉岡憲法/2.宮本武蔵と有馬喜兵衛/3.宮本武蔵と秋山新左エ門/4.吉弘加兵衛と井上九郎右衛門/5.宮本武蔵と吉岡清十郎/6.宮本武蔵と吉岡伝七郎/7.宮本武蔵と吉岡一門/8.宮本武蔵と宍戸又兵衛/9.宮本武蔵と佐々木小次郎/10.宮本武蔵と新免無二/(結)

       

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