佐藤賢一作品のページ No.



21.革命のライオン−小説フランス革命・第一部 1−
   (文庫:1.革命のライオン〜2.パリの蜂起)

22.バスチーユの陥落−小説フランス革命・第一部 2−
   (文庫:2.パリの蜂起〜3.バスティーユの陥落)

23.聖者の戦い−小説フランス革命・第一部 3−
   (文庫:4.聖者の戦い〜5.議会の迷走)

24.議会の迷走−小説フランス革命・第一部 4−
   (文庫:5.議会の迷走〜6.シスマの危機)

25.王の逃亡−小説フランス革命・第一部 5−
   (文庫:7.王の逃亡〜8.フィヤン派の野望

26.フイヤン派の野望−小説フランス革命・第一部 6−
   (文庫:8.フィヤン派の野望〜9.戦争の足音)

27.ジロンド派の興亡−小説フランス革命・第ニ部 7−
   (文庫:10.ジロンド派の興亡〜11.八月の蜂起)

28.共和政の樹立−小説フランス革命・第二部 8−
   (文庫:11.八月の蜂起〜12.共和制の樹立)

29.ジャコバン派の独裁−小説フランス革命・第二部 9−
   (文庫:13.サンキ・キュロットの暴走〜14.ジャコバン派の独裁)

30.粛清の嵐−小説フランス革命・第二部 10−
   (文庫:14.ジャコバン派の独裁〜15.粛清の嵐)


【作家歴】、ジャガーになった男、傭兵ピエール、赤目、双頭の鷲、王妃の離婚、カエサルを撃て、カルチェ・ラタン、二人のガスコン、ダルタニャンの生涯、オクシタニア

 → 佐藤賢一作品のページ No.1


黒い悪魔、ジャンヌ・ダルクまたはロメ、剣闘士スパルタクス、褐色の文豪、女信長、アメリカ第二次南北戦争、カペー朝、象牙色の賢者
、新徴組、ペリー

 → 佐藤賢一作品のページ No.2


徳の政治、革命の終焉、黒王妃、ヴァロワ朝、ラ・ミッション、ハンニバル戦争、ファイト、遺訓、ナポレオン1、ナポレオン2、ナポレオン3

 → 佐藤賢一作品のページ No.4


日蓮、最終飛行、チャンバラ

 → 佐藤賢一作品のページ No.5





     

21.

●「革命のライオン−小説フランス革命・第一部 1− ★★
 (文庫改題:1.革命のライオン〜2.パリの蜂起)


革命のライオン画像

2008年11月
集英社刊
(1500円+税)

2011年09月
2011年10月
集英社文庫化

(第1・2巻を3冊)



2008/12/26



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西洋歴史小説を書く作家は少なく、藤本ひとみ、佐藤賢一さんの2人がその旗手として登場したとき、とても新鮮な気持ちがしたものです。
藤本さんはもっぱらフランス革命時期を、佐藤さんは幅広く西洋歴史小説を執筆するという風で住み分けていた観があったのですが、佐藤さんがライフワークとして「小説フランス革命」(全10巻予定)に取り組んだと聞いて、あぁついに2人の領域が重なり合ったか、と感じたのがまず第一。
フランス革命というのはそれだけドラマ性の高い歴史事件なのだな、と改めて感じました。

さて、本書はその記念すべき第1巻。
フランス王家の財務長官であるネッケルが、国王ルイ16世に呼び出されたところから本小説は幕を開けます。
窮迫しているフランス王家の財政を立て直すため、貴族に税負担をのませようと、ルイ16世が 170年ぶりという“全国三部会”の開催を決めた時期。
全国三部会とは、第一身分=聖職者、第二身分=貴族、第三身分=平民という、三階級からなるフランス王国の議会。
平民は、国王が貴族と対決し、平民の意見も入れようとしてくれているのだと歓迎ムードですが、さてそう順調に行くのやら。歴史をすでに知っている我々と当時のフランス平民との意識の隔たりを強く感じる部分です。
そう、フランス人民といえども最初から革命を視野に入れていた訳ではないのですから。

本巻ストーリィは、ヴェルサイユで全国三部会が開催され、平民が第三身分部会を“国民会議”と宣して、自ら行動を起こし始めるところまで。
ストーリィの主役となるのは、不道徳で放蕩者の故に貴族議員の権利を剥奪され第三身分議員となった伯爵ミラボー40歳と、弁護士出身で何かと頭で考えてしまう傾向あるロベスピエール31歳という2人。
軍隊経験もあるうえに現実をわきまえ、目の前の現実をロベスピエールに解説してみせるのに女のあしらい方を以ってする好色漢ミラボーは、いかにも佐藤さんらしい人物造形。双頭の鷲デュ・ゲクランを思い出させてくれて懐かしい。
こうした動乱時期にあっては、破天荒な人物でないと時代をリードし、多くの人々を動かすことはできないのだな、と感じつつ読み進みます。

ヴェルサイユ/プロヴァンス/選挙運動/マルセイユ/小革命/パリ/議員行進/開会/処女演説/貴族の館/駆け引き/投票/球戯場の誓い/密談/親臨会議/急展開/告発/最後通牒

   

22.

●「バスティーユの陥落−小説フランス革命・第一部 2−」● ★★
 (文庫改題:2.パリの蜂起〜3.バスティーユの陥落)


バスチーユの陥落画像

2008年11月
集英社刊
(1500円+税)

2011年10月
2011年11月
集英社文庫化
(第1・2巻を3冊)



2008/12/27



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この「小説フランス革命」、佐藤さんは歴史的事実の流れではなく、少数の個人に重点を置いて描いているようです。
さながら、ヴェルサイユでの“憲法制定国民会議”の発足等々の第三身分部会議員らの動きは人形劇のよう。それを幕の後ろに居座ってロベスピエールがアナウンサーよろしく問い掛け、ミラボーが解説者のように原因分析、次の動きを予想してみせる、という風。
ミラボーとロベスピエールの対談・語りの中で、フランス革命の一段目が演じられているという印象です。

そのミラボーにうまく挑発され、パリでの平民決起の扇動役に仕立てあげられてしまっのが、ルイ・ル・グラン学院でロベスピエールの一年後輩だった弁護士カミーユ・デムーラン
恋人リュシルの目の前でミラボーに揶揄され、後先考えずに衝動的に行動してしまったという訳ですが、ふと冷静になると後悔と不安、でも英雄視されているのも快いと心中千々に乱れる様が面白い。
佐藤さんの手にかかると、フランス革命という激動の歴史も、コメディの様相をきたすようです。

舞台はヴェルサイユからパリへ。群集のエレルギーはついにバスティーユ陥落という成果をもたらす。
しかし、ミラボーの思いのままにならぬのは、立憲君主制を築き上げようとするミラボーの思惑に、国王ルイ16世がなかなか沿わないこと。
また、ミラボーが予想もしなかったことに、パン・小麦を求める女たちが一群となってヴェルサイユに押しかけ、国王一家をパリに拉致してしまったこと。これはつまり、意図せずとも国王一家の身柄拘束に他ならない?

群集が形成されると思いも寄らない行動が生まれる、歴史においては常に予想外の行動・結果が生まれるもの。
それを革命のエネルギーと見るより、群集行動故のコメディと、佐藤さんは達観して見つめている気がします。それが本「小説フランス革命」の面白さかもしれません。でもまだ序盤。

貴族の陰謀/パレ・ロワイヤル/武器をとれ/武器がない/武器がほしい/武器をさがせ/バスティーユ/ひた走れ/突き進め/革命か、暴動か/さらば、貴族よ/人権宣言/パレ・ロワイヤル再び/ヴェルサイユ行進/女たちの勝利/密使

   

23.

●「聖者の戦い−小説フランス革命・第一部 3−」● ★★
 (文庫改題:4.聖者の戦い〜5.議会の迷走)


聖者の戦い画像

2009年03月
集英社刊
(1500円+税)

2011年12月
2012年01月
集英社文庫化

(第3・4巻を3冊)



2009/04/23



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フランス革命という歴史的事実を描くのではなく、フランス革命という時代の渦中で主役を演じた人物たちが“語る”というスタイルをもって人間臭く描く、第3巻に至ってますますその印象は強まります。
その特色があるからこそ、この「小説フランス革命」は面白い。

ミラボーを敵視する議員たちがいつのまにか結集し、ミラボーは目指していた大臣席を手中にできず。
ロベスピエールはミラボーと袂を分かった途端、議会の中で存在感が薄まったことを悟り、ミラボーの後ろ盾があったればこそだったのかと愚痴り、ジャコバン・クラブを今後の足場にしようと決意する。
その一方で、ブルボン家に並ぶフランス名家の出身でオータン司教の肩書きをもつタレイランが登場。教会財産の国有化を提案し注目を集めるが、博打好きな性格とあって、根回し・慎重さには無縁という人物設定が面白い。
また、ロベスピエールの支持を表明する、巨漢の弁護士ダントンも登場。
それら個性的な人物たちが人物を中心に据えた「小説フランス革命」は、いよいよ賑やかです。

なお、憲法制定国民議会は、人民より高い地位を何とか固守したいと粘る聖職者たち、自分たちの利益・財産が確保できればもう革命騒ぎは終わりで良いと言わんばかりのブルジョア、急進的な左派の動静が対立し、混迷を深めるばかりのようです。
所詮人間とは、持てる者は自己満足または既得権保守に走り、持たざる者は破壊を望むものなのか。
そう思うと革命騒ぎとは、限りなく人間臭いドラマなのかもしれないと思います。

大貴族/神殿/ジャコバン・クラブ/新しき秩序/新聞/紹介/腐れ縁/僧衣の亡者/切り崩し/モンモラン報告/談合/対決/会見/アヴィニョン問題/連盟祭/告発/仲間として

   

24.

●「議会の迷走−小説フランス革命・第一部 4−」● ★☆
 (文庫改題:5.議会の迷走〜6.シスマの危機)


議会の迷走画像

2009年09月
集英社刊

(1500円+税)

2012年01月
2012年02月
集英社文庫化
(第3・4巻を3冊)



2009/10/27



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この大長篇歴史小説「小説フランス革命」において、ひとつの曲がり角を迎えたと言うべき巻。
「議会の迷走」という表題そのままに、国民議会は混乱、膠着状態。
革命の流れもここで足踏みして一服、ついでに本シリーズの面白さも一服、という印象です。

誰がこのフランスの主導権を握るのか、ラファイエットか、ブルジョア階層か、社会の下層に甘んじてきた一般市民か。
第一身分、第二身分、第三身分の3すくみではどうしようもないと、第三身分は第一身分(聖職者)を取り込もうとするが、うまく進まず。
オータン司教のタレイランは「聖職者民事基本法」を制定し、宗教者もフランス国家の下に置こうと企みますが、そう簡単にことが進む訳もなく、フランスの宗教勢力は分裂状態。
ロベスピエールは、相変わらず現実を無視したまま、理想ばかりを追い求める。そんなロベスピエールに、ミラボーは独裁政治への危惧を予告します。

何だかんだと言いつつ、ここまで本シリーズを魅力的に引っ張ってきたのは、ミラボーという傑物に他なりません。
貴族にもかかわらず第三身分(平民)議員、清濁併せ呑む懐の大きさ、雄弁家にして国民の人気は絶大、国王と国民議会の間にあって立憲君主制という目標を明確に掲げていた人物。
そのミラボーが本巻の最後で、病により生を全うします。まさに巨星堕つ、という感じ。
フランス革命は未だ未だ始まったばかり。本格的な革命史はこれからです。

ナンシー事件/抗議集会/議決/不評/有無をいわせず/第一人者/王の批准/サン・シュルピス教会/新しい僧侶/聖別/亡命禁止法/裏側/死の床/遺言/獅子の居所

 

25.

●「王の逃亡−小説フランス革命・第一部 5−」● ★★
 (文庫改題:7.王の逃亡〜8.フイヤン派の野望)


王の逃亡画像

2010年03月
集英社刊
(1500円+税)

2012年03月
2012年04月
集英社文庫化

(単5・6巻を3冊)



2010/05/29



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本巻は、ルイ16世が家族を伴ってのパリ脱出行を描いた巻。
そこで主人公となるのは、当然のごとく国王自身です。

一般的にフランス革命の歴史を辿る時、ルイ16世の胸の内を深く量ろうとすることは殆どなかったのではないか。どちらかというと、歴史に翻弄された不運な人物と、一つの駒のようにしか考えなかったように思います。
しかし、本書に登場するのは、ごく普通な一人の人間。
国王という公的立場にある間としてどう行動するのが正しいのか自問自答を繰り返しながら、家長として妻と子供たちを救いたいと願う。
もちろん、ダルタニャンミラボーのような超人的な活躍など望めませんが、いろいろ先の見通しを検討したり、ひと芝居もしてみたりと、それはそれで自分としてできることを精一杯尽くすのです。その辺り、共感を抱かざるを得ないところ。
また、パリ脱出の手引きをしたスウェーデン貴族のフェルセンについて、本当に妻の愛人なのかと心配を抱いたり、そのフェルセンの脱出計画の余りのお粗末さを嘆いたりと、とても人間的なフランス国王=ルイ16世の姿がそこにはあります。
今までルイ16世に関心を持つことは余りありませんでしたが、本作品では我々と等身大の人物として、魅力を感じるところ多々あります。そこが本巻の魅力。

さて、歴史どおり脱出行に失敗し、捕らわれてパリに戻された国王一家。自室に戻って鏡を覗いたマリー・アントワネット、その華やかだった金髪がすっかり白くなっているのを見て悲鳴を上げたという情景は、忘れ難いものがあります。

溜め息/決意/離れ業/三頭派/晩餐会/脱出/意外な展開/フェルセンポン・ドゥ・ソム・ヴェール/サント・ムヌー/ヴァレンヌ/旅券検め/ソースの家/二転三転/別意見/民の声/出迎え/朗報/パリの騒ぎ/沈黙

  

26.

●「フイヤン派の野望−小説フランス革命・第一部 6−」● ★☆
 (文庫改題:8.フイヤン派の野望〜9.戦争の足音)

フイヤン派の野望画像

2010年09月
集英社刊
(1500円+税)

2012年04月
2012年05月
集英社文庫化
(第5・6巻を3冊)

2010/10/24

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国王の脱出行、失敗を受けての巻。

ロベスピエールが中心となる“ジャコバン派”から、国王擁護の立場をとる三頭派らの議員が離脱し、“フイヤン派”を起こす。
2派が対立する中、ロベスピエールの身にも危険が迫ります。

これからどう出るか、どう動くか。各派ともその腹の探り合いといった感じで、大きな動きはなく、面白さとしては今一歩。
ミラボーのような個性的で人を圧倒するような人物の存在が懐かしくなります。
 

記念日/署名嘆願大作戦/フイヤン・クラブ/祖国の祭壇/罠/シャン・ドゥ・マルス/サン・トノレ街/デュプレイ家/再建の誓い/ピルニッツ宣言/最後の議会/立法議会の始まり/帰郷/パリへの手紙/故郷の人々/心の友/内閣改造/反戦論/迷い/珍客

                

27.

●「ジロンド派の興亡−小説フランス革命・第二部 7−」● ★☆
  (文庫:10.ジロンド派の興亡〜11.八月の蜂起


ジロンド派の興亡画像

2012年07月
集英社刊
(1500円+税)

2014年09月
2014年10月
集英社文庫化
(第7・8巻を3冊)


2012/07/28


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約2年ぶりの刊行となった第7巻。
出版社の紹介文によると、革命の過激化と終焉までを描く第二部の開幕だそうです(それで表紙の色が変わったのか?)。

“フイヤン派”に対抗してジロンド県出身者を中心にした“ジロンド派”が台頭、国王を追い詰めようとデモ等を繰り返します。
ジャコバン派、フイヤン派、そしてジロンド派と次々と派閥が起こる様は、いかにも革命が混乱している様子を見るようです。
それともうひとつ印象的だったのは、意外にも強かな策略家の姿を見せる
ルイ16世
歴史書ではこのルイ16世、ただ革命という動乱に流されるままだった印象でしたが、一番の当事者であれば決して手を拱いていた訳ではない、というのは当然のことだったかもしれません。

どの派も要は、国民を自分たちの思うままに操り、自分たちに都合の良い政治状況を作り出そうとしているのでしょうが、国民=群集というのはそう簡単に操れるものではない、それはもう巨大な怪物のような存在、と私には思えます。
本巻で
ロベスピエールの出番は少なく、最後の方で漸く登場。
その一方、かつてのポンパドール侯爵夫人の向こうを張り、自らサロンを主宰し政治に影響力を及ぼそうと熱望する女性=
マロン・ロマン夫人の登場に目を引かれます。

女であること/サロン/政界再編/砂糖/シェルブールの思い出/晴れの日/開戦/開眼/大理石の館/オーストリア委員会/先手/切り札/相談/六月二十日/群集/勝負/敗戦処理/復活の日/友情の名の下に/誤算

                  

28.

●「共和政の樹立−小説フランス革命・第二部 8−」● ★★
  (文庫:11.八月の蜂起〜12.共和制の樹立


共和政の樹立画像

2012年09月
集英社刊
(1600円+税)

2014年10月
2014年11月
集英社文庫化
(第7・8巻を3冊)



2012/10/23



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本シリーズの面白さは、時に主要人物の主観によって事態の推移が語られるところにあります。それによって、革命の主要人物にとってもままならぬ展開、予想もしなかった展開が繰り広げられる革命の姿が、歴然として語られるという効果をもたらしています。
とくに本巻ではその印象が強い。新聞発行人でやさ男の
デムーランまで蜂起に加わりますが思わぬ展開に驚愕し恐れおののき、一方の国王ルイも思わぬ展開に驚き呆れ果て、またロベスピエールは切歯扼腕する、等々。
思わぬ伏兵=青二才に過ぎない新人議員の発言で、国王をどう取り扱ったらよいのかという問題で混迷を深めていた
国民公会の議論があっという間に一つ方向へ大きく転換してしまうのですから、歴史とは如何にままならぬものか、決して合理的に進む訳ではないということを強く受け留めざるを得ません。

何故国王ルイは断罪されるに至ったのか。そしてまたルイはそれをどう受け入れたのか。
歴史の授業では当然のこととして読み過ごして来た歴史的事実が、本書では生々しい人間ドラマとして描かれます。国王処刑に費やした頁は僅かですが、自分の運命を得心し従容として断頭台に赴く国王ルイを描いた部分は本巻中の白眉と言えます。

※なお本巻中、強く印象に残る一文がありました。ロベスピエールが議会の混乱を嘆いて口にする言葉ですが、「政争とは、つまるところが政治の停滞に他ならなかった」というもの。まさに現在の日本の国会そのものではないでしょうか。歴史は繰り返す、でも知恵を発揮し愚かなことは繰り返さないで欲しいものです。

食事会/蜂起/ラ・マルセイエーズ/自信/味方/硝煙の彼方/臨時執行評議会/舵取り/大胆に/タンプル塔/九月虐殺/思わぬ顔ぶれ/国民公会の始まり/マラ/辞任問題/使途不明金/名演説/隠し戸棚/裁判/有徳の少数派/票決/その朝/断頭台

                    

29.

「ジャコバン派の独裁−小説フランス革命・第二部 9− ★★
  (文庫:13.サンキ・キュロットの暴走〜14.ジャコバン派の独裁


ジャコバン派の独裁画像

2012年12月
集英社刊
(1600円+税)

2014年12月
2015年01月
集英社文庫化
(第9・10巻を3冊)



2013/01/14



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表題は「ジャコバン派の独裁」ですが、本書において描かれるのは既成事実としての独裁ではなく、独裁に至る前段階の諸派対立事情。
といっても主には、国民公会で多数を占める
ジロンド派と、対抗勢力であるロベスピエール率いる処のジャコバン派との抗争。
ルイ16世処刑により英国は中立を破棄して国交断絶、近隣諸国も革命の輸出を許すまじと攻勢を強めます。国民公会の内外でも混乱は一層深まり、パリでは商店からの略奪が横行し、地方では
ヴァンデの乱が拡大するといった具合で混迷は深まるばかり。

デムーラン、ロベスピエール、ダントン、マラロラン夫人というお馴染みの登場人物に加え、本巻では新たにジャック・ルネ・エベールという饒舌な人物が登場します。
パリ市の第二助役というより、マラが発行する新聞「フランス共和国日報」と人気を二分する庶民的な新聞「デュシェーヌ親爺」の発行人。したがって、パリ市民たちに対してそれなりの発言力あり、という人物です。

自由主義経済を標榜し現状維持を図るジロンド派に対し、ジャコバン派は革命裁判所設置、公安委員会発足と攻勢を強め、最後にはジャコバン派の独裁が懸念されるという事態に、というストーリィ。
革命という劇薬の、一向に収まることにない影響の凄まじさをつくづく感じるばかりです。

暴動/サン・キュロットの魂/マラになりたい/愚か者の末路/民衆の恐怖/革命裁判所/デュムーリエ事件/全面戦争/ダントンの理由/猛攻/秘策/マラの逮捕/マラの裁判/マラの戦い/マラの勝利/新人権宣言/十二人委員会/秘密/俺っちの逮捕/思わぬ報せ/あと一歩/蜂起の始まり/議会の反応/ヴェルニョー/公安委の凶報/ダントンの願い

            

30.

「粛清の嵐−小説フランス革命・第二部 10− ★★
  (文庫:14.ジャコバン派の独裁〜15.粛清の嵐)


粛清の嵐画像

2013年03月
集英社刊
(1600円+税)

2015年01月
2015年02月
集英社文庫化
(第9・10巻を3冊)



2013/04/27



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前巻から引き続き、パリはますます混乱に満ち、過激の一途をたどるばかり。
マラの死後、もはや議会での正当な議論は消え失せ、暴力といっても過言ではない暴論、集団暴行がパリの街に渦巻くという風。
こんな状態をこそ“革命”と呼ぶのか、そう感じます。

ジャコバン派の若き議員サン・ジュスト“恐怖政治”を提唱し、ロベスピエールを革命の指導者に押し上げようと暗躍。
ジロンド派は排斥され、ついには国王の未亡人=マリー・アントワネットに続いてまとめて断頭台へ。ジロンド派のみならず、本書シリーズを彩ってきた登場人物までもがそれに続きます。
「民衆がそう望んでいるから」という言葉の、何と不気味で恐ろしいことか。そこに実態があるのかどうかさえ、もはや誰にも判らないのでしょうから。

そうした中で最初から革命の渦中に身を置き、新聞発行人、国民公会議員として活動を続けるデムーランは、何でこんなことになったのかと嘆くばかり。彼とリュシルの結婚式に立ち会ってくれた60人の内今も生き残っているのはもう2人しかいないという言葉には、革命の凄まじさを端的に語っています。
そして本巻最後に、
ダントン、ロベスピエール、デムーランという革命の古株3人が再び一堂に会します。そこから何が始まるのか。次巻が楽しみです。

モテない野郎は/逮捕状/窮地/逃亡/調整/通行禁止令/包囲/すっきりしない/この俺こそ/暗殺/後継者/大公委員会/コルドリエ派/俺っちに任せろ/蜂起再び/革命的理性を信じろ/ジロンド派の最期/前線/ストラスブール/脱キリスト教/自由の女神/対決/フランス語学校

            

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