星 新一作品のページ


1926年東京都生、東京大学農学部卒。本名:親一。実父は星製薬株式会社を起業し衆議院議員も勤めた星一。1957年日本最初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参加、ショート・ショート分野の第一人者。68年ショートショート集「妄想銀行」および過去の業績に対して第21回日本推理作家協会賞を受賞。97年死去。


1.人民は弱し 官吏は強し

2.ブランコのむこうで

3.殿様の日

4.明治の人物誌

5.夜明けあと

6.天国からの道

7.ふしぎな夢

(付録)既読リスト

     


 

1.

●「人民は弱し 官吏は強し」● ★★★

 

1967年
文芸春秋刊

1978年7月
新潮文庫刊

 

1997/05/05

作者の実父・星一氏の自伝、星製薬の創業、発展、そして挫折の歴史を描く。 それと同時に、本書は官憲の横暴な権力行使の実録、と言って良い内容。
アメリカでの苦学留学から帰国した星一氏は理想に燃えて星製薬を創業し成功するが、最後には官憲による無茶苦茶な妨害により破産に至る。
当時の官憲、政治というのはこんなにもひどいものだったのか!とやりきれない思いがしますが、戦後の日本は本質的に変わり得たのでしょうか。
結果的に負けたとはいえ、正論を尽くし、それに奮闘した星一氏の姿は、官憲の姿に比し清々しい。単なるウラミ小説にならず、価値ある記録小説となっていると思います。

※星新一氏の合理性もこうした父君からの賜物なのでしょう。

 

2.

●「ブランコのむこうで」● ★★

  

 
1971年11月
新潮社刊

1978年5月
新潮文庫
第50刷
2005年6月
(400円+税)

 

2005/10/07

ある日家を出ると「ぼく」によく似た少年が前を歩いていた。その少年の後をずっとつけて歩きブランコに辿り着くと、驚いたことに少年はぼくそっくり。そして、少年の入っていったドアに続いて入ると、何とぼくはそのドアの向こう側に一人取り残されてしまうのです。振り返るとそこは建物の中ではなく、目の前には野原が広がっていた・・・。

自分の父親が寝ている間にみている夢の世界が最初。そして夢の世界で穴に入り込むたび、ぼくは次々と他の人の夢の世界に入り込むことになるという、ファンタジー・ストーリィ。
夢の世界に入り込みたいなどとはもう長く思ったことがありませんけど、子供の頃には夢の中でみた世界を極めてみたいと思ったりしたものです。
本書は星さんならではの奇抜な発想というより、子供が誰でも持っていたそんな思いを実現してみせたストーリィ、という気がします。
でも、夢の世界が現実の世界をある意味で反映したものであるなどとは、子供の頃には考えたこともありませんでした。
本書の中で、ぼくは夢の世界で眠ることにより、夢の持ち主の現実世界での様子を知ることができます。
現実と夢の世界の対比、そこには切なさや哀しさもありますけれど、本作品全体の雰囲気はほんわかしたもの。
読み終わってみれば、子供の頃を思い出すような懐かしさが残ります。
※なお、最後にぼくが入り込んだ赤ちゃんの夢の世界は、
「午後の恐竜」と同じアイデア。

 

3.

●「殿様の日」● ★★☆

 

新潮文庫

 

1992/04/10

珍しい時代もの。しかし、内容はショート・ショートの基本どおり。
さて、中味は? 時代物といってもチャンバラがあるわけではない。現代と全く変わりない社会の、バカバカしいという程の平凡な毎日がそこにはあります。
時代物というと、すぐチャンバラやお家騒動、事件を考えてしまいますが、実体は現代社会と殆ど変わらなかった筈。そうなると、他の時代小説より本書の方がより真実に近いのかもしれない。
そんな風に、読者を自然に納得させてしまうところが、作者の常変わらない上手さです。
「元禄お犬騒ぎ」、「薬草の栽培法」の最後の一文は圧巻!

殿様の日/ねずみ小僧次郎吉/江戸から来た男/元禄お犬騒ぎ/浅草の栽培法/紙の城

 

4.

●「明治の人物誌」● ★★

  

 
1978年12月
新潮社刊

1998年5月
新潮文庫刊
(629円+税)

  
1997/05/09

本書収録の10人には何の脈略もないように思えますが、筆者の実父・星一氏の活躍に関わった人々だと聞くと俄然興味が湧きます。何やら楽しそうな感じがするから不思議です。
そのためにはまず
人民は弱し官吏は強しを読んでおくことをお薦めしたい。 でも、読んでいなくても充分楽しめます。
文章はいつもの簡潔なもの。決して褒め称えるのではなく、客観的に突き放したようにまとめた寸評が、各人の特徴をうまく浮き上がらせていて楽しい。
彼らの共通点を考えると、それは欧米精神の良いところを吸収していること。合理的かつ自由な発想。広く長期的な視野。自分自身や一部層の利益ではなく、国、国民全体のためという視点。そして異質な人間を迎え入れる余地。
でも無欲無私の人は妨害や弾圧に弱い。とくに野口英世の伝記にからむ部分には、思わずあんまりだ!と再び憤激せざるをえない。
戦後生産技術は欧米に近づきましたが、精神面はまるで立ち遅れたままというのが日本の姿なのでしょうか。指導者層、とくに政界!

中村正直/野口英世/岩下清周/伊藤博文/新渡戸稲造/エジソン/後藤猛太郎/花井卓蔵/後藤新平/杉山茂丸

 

5.

●「夜明けあと」● ★★

   

 
1991年2月
新潮社刊
(1262円+税)

1996年7月
新潮文庫化

 
1991/03/20

明治時代の新聞から書き抜いたひとつひとつの文章を書き連ねただけ、 という変わり種の一冊。
それなのに、とても面白く、明治という時代がリアルに浮き出てきます。
抜粋しただけと言っても、その抜粋および並べかたに星さんのセンスが光っているわけです。
また、時々つけ加える星さんのコメントがとても良い。ショート・ショートの真髄と言って良いほど、エスプリが効いています。
当時の新聞と現在の新聞とでは、かなり違っていたのでしょうか。
あとがきの星さんの言葉によると、
「ラジオも、テレビも、週刊誌もなかった時代。新聞は、娯楽性を持つ必要があったのだろう。悲惨な事件や、理屈の主張は、あまりない。現代のテレビの、ニュース・ショーと共通したものがある。」とのことです。
後は、読んでみてのお楽しみ。

※題名は島崎藤村「夜明け前」を意識してのもの。

  

6.

●「天国からの道」● ★☆

  

 
2005年9月
新潮文庫刊

(476円+税)

 

2005/10/29

2000年03月出版芸術社刊「気まぐれスターダスト」から15篇、1998年新潮社刊「文庫未収録ショートショート」から6篇を収録した一冊。
そのほか、作家デビュー前の処女作
「狐のためいき」、ショートショート1001篇後の「担当員」を収録。

冒頭の「天国からの道」が図抜けている作品。
怠け者の天使達をちゃんと働かせようと、神様はガブリエル社ミカエル社の2組に分け成果を競わせます。負けたら大変、失業者となって重労働に従事しなくてはならないことから、競争意識に目覚めた天使たちは後のことなど考えもせずに人間へのサービスに邁進し始めます。
さて、2社はどんなサービスを繰り広げるのか? 次から次へと繰り出されるアイデア、星さんの発想力は本当に凄いなぁと改めて感心します。
ごく身近にあるアイデアのようですが誰も思いつかない、そんな事柄から次々とストーリィを生み出す、というところが星さんの魅力。本書では「天国からの道」が抜群です。
「狐のためいき」はちょっとペーソスある短篇。初期作品らしい雰囲気はあるものの、処女作とは思えないまとまりの良さあり。

天国からの道/禁断の実験/友情/ある声/悪夢/けがれなき新世界/平穏/つまらぬ現実/原因不明/ぼくらの時代/火星航路/Q星人来る/珍しい客/狐のためいき/担当員/収穫/壷/大宣伝/禁断の命令/疑惑/解放の時代

    

7.

●「ふしぎな夢」● 

  

 
2005年9月
新潮文庫刊

(476円+税)

 

2005/11/12

2000年03月出版芸術社刊「気まぐれスターダスト」から11篇を収録した一冊。

冒頭の「ふしぎな夢」は、夢で度々出会っていた少年とついに現実の世界で出会い、そのおかげで2人とも事故に遭わずに済むというファンタスティックで気持ちの良い小篇。
本書収録の作品は、最盛期のショートショートの面白さはありませんが、初期の作品らしい初々しさが楽しめます。節分けがあって中篇風になっているところも珍しい。
とくに面白かったのは「黒い光」。一瞬目を麻痺させる装置を発明しそれを使って悪事を重ねていた2人組に対し、科学的な発想をもとに少年が逮捕に協力するといったストーリィ。
そのほか、月基地建設隊を描く「月の裏側基地第1号」、火星基地隊員と宇宙人との出会いを描く「謎の宇宙船」、土星の第二衛星開拓隊+αを描く「ビーバ星のさわぎ」が楽しい。
中でも「ビーバ星のさわぎ」の結末の落ちは傑作!

ふしぎな夢/謎の星座/新しい実験/奇妙な機械/病院にて/エフ博士の症状/憎悪の惑星/黒い光/月の裏側基地第1号/謎の宇宙船/ピーパ星のさわぎ

 

付 録

星新一・既読本リスト

出版

読了

アシモフの雑学コレクション(編集) 新潮文庫 1986

ご依頼の件 新潮文庫 1989

未来いそっぷ 新潮文庫 1989

ボンボンと悪魔 新潮文庫 1990

妄想銀行 新潮文庫 1990

妖精配給会社 新潮文庫 1990

ありふれた手法 新潮文庫 1990

夜明けあと 新潮社 1991

凶夢など30 新潮文庫 1992

10

進化した猿たち1 新潮文庫 1992

11

殿様の日 新潮文庫 1992

12

かぼちゃの馬車 新潮文庫 1992

13

どんぐり民話館 新潮文庫 1993

14

だれかさんの悪夢 新潮文庫 1993

15

きまぐれ指数 新潮文庫 1993

16

きまぐれ遊歩道 新潮社 1993

17

さまざまな迷路 新潮文庫 1993

18

盗賊会社 新潮文庫 1993

19

これからの出来事 新潮文庫 1994

20

たくさんのタブー 新潮文庫 1994

21

つねならぬ話 新潮文庫 1994

22

ボッコちゃん 新潮文庫 1994

23

おみそれ社会 新潮文庫 1995

24

にぎやかな部屋 新潮文庫 1996

25

午後の恐竜 新潮文庫 1997

26

人民は弱し 官吏は強し 新潮文庫 1997

27

明治の人物誌 新潮文庫 1998

28

白い服の男 新潮文庫 1998

29

ノックの音が 新潮文庫 1999

30

ブランコのむこうで 新潮文庫 2005

31

天国からの道 新潮文庫 2005

32

ふしぎな夢 新潮文庫 2005

  


 

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