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2.おれたちの青空 3.静かな夜-佐川光晴作品集- 5.山あり愛あり 6.おれたちの約束 7.鉄童の旅(文庫改題:鉄道少年) 8.おれたちの故郷 10.あたらしい家族 |
大きくなる日、日の出、駒音高く、昭和40年男、満天の花、猫にならって、あけくれの少女 |
1. | |
●「おれのおばさん」● ★★☆ 岡山市文学賞(坪田譲治文学賞) |
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2013年03月
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主人公は、東京の有名進学校・開聖中学2年の高見陽介。 父親は逮捕、自宅も家庭も失い、せっかく入った進学校も退学して、ひとり札幌へ。それも4人部屋。かなり悲惨な状態と思うべきなのですが、本ストーリィはむしろ明るく、力強い。 子供が育つべき環境の原点がここにはあると感じます。本ストーリィだけ読むと、仲間もいて、むしろ羨ましく感じてしまう程なのです。 ※明野照葉「家族トランプ」と本作品は、女性キャラクターの豪快な魅力で引っ張る点が似ています。片や家族選び、片や孤児たちの共同生活と対照的な面はあるものの、何が大切かという原点に立ち戻った点で、2作品には共通するものがあります。 |
2. | |
●「おれたちの青空」● ★★ |
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2013年12月
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札幌にある児童養護施設=魴鮄舎(ほうぼうしゃ)を舞台に、運営者である恵子おばさん、そこに暮す子供たちの力強い姿を描いて坪田譲治文学賞を受賞した「おれのおばさん」の続編。 「おれのおばさん」の主要登場人物である中3生・柴田卓也、恵子おばさん各々の今ここに至るまでを描いたのが、「小石のように」と「あたしのいい人」。 「おれたちの青空」は、「おれのおばさん」の主人公であった高見陽介が主人公。卓也と同じく中学卒業=施設を出ていかなくてはならない時期を迎え、卓也自身で選択したこれからの道筋が描かれます。 本物語、卓也と陽介たちが施設を卒業し、それで完結なのでしょうか。まだまだ2人や仲間たち、そして恵子おばさんのその後を読みたいものですが。 小石のように/あたしのいい人/おれたちの青空 |
3. | |
●「静かな夜-佐川光晴作品集-」● ★★☆ |
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“佐川光晴作品集”と題された本書、中篇~短篇、4篇を収録していますが、これまでに読んだ2作とまるで異った内容であることに驚きます。 4篇の中でも逸品なのが、表題作「静かな夜」。 「二月」「八月」は連作、主人公は学生寮に住む北大生で、行動すべき目標が見いだせずに閉塞感と空虚感を抱いている。 静かな夜/崖の上/二月/八月 |
4. | |
●「おかえり、Mr.バットマン Welcome Back Mr.Batman」● ★★ |
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熟年離婚の危機、今更驚くこともない話題ですが、通常パターンの妻ではなく、夫側がそう決意した、というところが本ストーリィのミソ。 主人公の山名順一、翻訳家とはいえそれで食べていくことはできず、教員で今は教頭職にある妻との共稼ぎとは言いつつ、実は家事・子育ての全てを担ってきた主夫兼翻訳家。 これまでに読んだ佐川作品に比べると、ユーモラスかつ軽快なストーリィ運びが印象的。しかし、話の内容自体は切実なことであって、本来軽視はできない問題。そのアンバランスさが本作品の妙でしょう。 |
5. | |
「山あり愛あり」 ★★ |
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2016年02月
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主人公は大鉢周三、45歳。 そんな周三、世話になった弁護士の榊原から、シングルマザー支援のためのNPOバンクを発足させるつもりなので、ついては大口出資者の説得に一役買って欲しいという頼みを受けます。 お客さまのため、世の中のためと言いつつ、ホンネは自社の利益優先というのが企業の実態。その中でも典型的だったのがバブル期の銀行であったことでしょう。そう考えると、好きな登山を封印したまま銀行員生活で一生を終わりたくないと思った主人公の気持ちはよく判る気がします。 |
6. | |
「おれたちの約束」 ★★ |
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2016年05月
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「おれのおばさん」「おれたちの青空」に続くシリーズ3作目。 「おれたちの約束」は、高見陽介を主人公とした中篇。 「あたしのあした」は、児童養護施設=魴鮄舎を運営する恵子おばさんのある一日を語った短篇。 本シリーズは、その清新さ、強く生きようとする子供たちの個性的なところが魅力。今からでも、お薦めです。 おれたちの約束/あたしのあした |
7. | |
「鉄童(てつどう)の旅」 ★★☆ |
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2017年04月
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まるでファンタジーのような正念の冒険物語を感じさせられる題名です。 何と言ってもストーリィ構成が巧みで、ストーリィにどんどん惹き込まれていきます。 なお、主人公の現在の職業が鉄道検査技師ということもあり、鉄道の話があちこちに登場し、鉄道ファンの興味をそそります。 1.青函連絡船羊蹄丸/2.中央線快速電車/3.東海道線211系/4.相模線/5.雑誌「鉄道の友」/6.ワム60000・キハ81・20系客車/7.DD51形ディーゼル機関車/8.東室蘭駅/9.「鉄童の旅」はつづく |
8. | |
「おれたちの故郷(ふるさと)」 ★★ |
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2018年08月
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「おれのおばさん」シリーズ4作目。 自分も帰る場所が無くなってしまうと卓也は激昂。それに対して陽介は、自分たちにとって魴ぼう舎が故郷であることは間違いないが、恵子おばさんにとっての故郷は何なのか、と冷静に考え始めます。 本書、シリーズ完結編かと思いきや、シリーズ“第一部完結編”だそうです。 |
9. | |
「校長、お電話です!」 ★★ |
2018年07月
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子供や家族の問題を描くことが多かった佐川さんが教育問題に取り組んだ作品。 と言っても真っ向から取り組んだということではなく、新任校長として赴任した中学校が前任校長時代から抱えた問題をどう解決するか、という具体的問題に絞ったストーリィ。 もっとも一事が万事という言葉があるくらいですから、その問題に留まることなく、普遍性をもったストーリィと感じます。 主人公である柴山緑郎は47歳の若さで百瀬市立百瀬中学校の校長に任じられます。その百瀬中学校は、市長が学校改革で名を挙げようと教育評論家だった野田欣也を校長に据えた処、その独善的なやり方に教師や生徒らが反発して再三警察を呼ぶ騒動を巻き起こしたばかりか、野田校長のバッシングにより担任だった女性教師が心身を損ない長期休職に追い込まれ、さらには自殺未遂まで起こすという混乱を発生させた経緯あり。 さしづめ緑郎は再建を託された観がありますが、亡父の吾郎もまた同地域で父兄らに慕われた元校長で、緑郎に期待をかける知己が多いという状況。 さて緑郎は校長として、如何にして百瀬中学が抱えてきた問題を解決するのか、生徒や教師の信頼を勝ち得るのか、また周囲の期待に応えるのか。 校長としての真価を問われるという点ではお仕事小説のような面が無きにしも非ずですが、教育という舞台における責任者という立場は、お仕事小説と単純に言い切ることはできません。何しろ生徒たちを育てるという責務を担っているのですから。 そうした重要な問題を取り扱う作品にもかかわらず、全篇を通して軽快かつユーモラスな雰囲気に満ちているのが本作品の良さであり、読み易さ 何しろ主人公の“シバロク”こと柴山緑郎が人間味溢れていて魅力いっぱいです。稚気も茶目っ気もあり、そのうえ男気もある、その一方において常に自分の行動を自己チェックする慎重さも備えている、といった人物像。恋愛結婚したものの相手が一人娘で地元で教職にあるという理由から、結婚当初からずっと岡山と埼玉での別居夫婦という設定も愉快。なお、長女の奈々江が東大に合格して現在は緑郎のマンションに同居中で、貴重なサポート役になっているという配役も上手い。 ユーモラスで健やかで、学校という教育現場が抱える問題を考えさせられるストーリィ、お薦めです。 |
10. | |
「あたらしい家族」 ★★ |
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表題には何も書かれていませんが、“おれのおばさん”シリーズの外伝と言って良い作品ではないでしょうか。 主人公は上杉瞭(アキラ)、大学二次試験の時に高熱を発して北大医学部を不合格、父親から東京で受験勉強してこいと言われ札幌から送り出された下宿先が、18歳年上でバツイチの従兄=後藤善男の営む老人グループホーム八方園。 名前を聞けばはっと思い出すかもしれませんが、そう後藤善男と言えば、“おれのおばさん”こと恵子おばさんの元夫。 その八方園、元々は学生相手の下宿だったが建物が古くなって学生の代わりに近所の独居老女たちが住むようになる。ふとした縁で善男が居候し始めた後、家主だった政子さんが亡くなり善男がその後を託されたという次第。 それ以来、介護福祉士の資格をもっていた善男は7人の老女たちと管理人として同居、「婆ぁども」とお互いに罵声を飛ばし合いながらも元気に暮らしているという状況。 本作品は、医学部を目指す浪人生=アキラの視点から、善男の生い立ちと恵子との結婚から離婚に至るまでの経緯、善男がひとりで奮闘する八方園の状況、善男の再婚経緯という<後藤善男の物語>を描き出します。それと同時に、このグループホームに住まざるを得なかった老女たちの人生と触れ合うことによって貴重な人生経験を得て少し人間的に成長するという、若者の成長物語。 そしてそれらを包含して、老女たち、善男が里親となって引き取った日本とインドネシアの混血児である少女姉妹2人、善男の再婚相手から成る、ひとつの“新しい家族像”を描くストーリィ。 “おれのおばさん”シリーズのファンであるなら、本作品はその“前史”として興味尽きないでしょうし、元夫を主役とするもう一方の側の物語として読み応えある魅力的な物語となっています。 勿論、主役の後藤善男だけでなく、アキラや同居老女たち、そして八方園の主治医を務めてくれている細川節子、経理を担当している公認会計事務所勤務の河原有里という周辺人物も含め、登場人物各々が味のあるキャラクターであることも見逃せません。 プロローグ/子どものしあわせ/弔いのあと/婆さんたちの閑話/お嫁さんがやってくる/エピローグ |