明野照葉
(あけのてるは)作品のページ


1959年東京都生、東京女子大学文理学部社会学科卒。1998年「雨女」にて第37回オール讀物推理小説新人賞を受賞して作家デビュー。2000年「輪(RINKAI)廻」にて第7回松本清張賞を受賞。

 
1.
痛いひと

2.家族トランプ

 


    

1.

●「痛いひと」● 

 
痛いひと画像
  
2005年11月
光文社刊

(1500円+税)

 

2005/12/14

 

amazon.co.jp

「痛い人」という題名から、どういうストーリィを予想するでしょうか。
「痛い人」とは自らの原因で痛い目にあう人のことを刺すのか、それとも隣人等のおかげで痛い目にあわされる人のことを言うのか。
本書の8篇にはどちらのストーリィがあるのですが、突き詰めていくといずれのストーリィもその両面を備えているとも言えるのです。
危ない人の話、不気味な女性につきまとわれる話もあれば、自分自身があるいは家族が変になってしまう話、ある人と出会って以来何故かトラブルばかり、という話もあります。
現代人の病んだ心の果てにあるストーリィではありますが、ブラック・コメディとも思えるのです。

書店店頭で惹きつけられたのは「それだけは言わないで」。その意味、とくに2回目の意味は読み手の想像力次第です。
現代IT社会ならではの話として面白かったのが、「伝染さないで」。パソコン好きのOLが不器量な新入社員を押し付けられます。その日以来彼女は公私共にトラブル続き。彼女にとって新入社員はウィルスだったのか。ウィルス(新入社員)を駆逐できるワクチンはあるのか。人間関係の問題がパソコンのウィルス感染問題に置き換えられて説明されてしまうところが可笑しい。

いずれもユニークかつやや怪奇的な短篇集。
気分の良いときは面白く読めるでしょうが、気が滅入っているときなどにはちょっと用心が必要かも。ちなみに私の読んだときの気分はその中間であったため、一言でいうと「微妙な味わい」。

パンドラの匣/脳の傷に酒がしみる/それだけは言わないで/充実/見つめてごらん/伝染さないで/降臨/汝の隣人愛すべし

   

2.

●「家族トランプ」● ★★☆

 
家族トランプ画像
  
2010年04月
実業之日本社
(1500円+税)

 

2010/06/16

 

amazon.co.jp

明野照葉さんというとミステリ、サスペンスの作家というイメージが強かったのですが、本書は打って変わって、独身OLの自分探し、そして下町の家族物語。
評判が良いらしいと聞いて読み始めたものの、それ程期待はしていなかったというのが正直なところ。ところが、参りました。
実に面白い、そしてまた、楽しい、のです。まさに脱帽。

主人公は33歳の独身OL、風見窓子。居心地の良い会社だったためついのんびり過ごしていたら、早や8年。結婚を考えない訳ではないが、全く当てがない。
それなのに、36歳までに結婚しないのなら家を出ていけと、両親が突然の宣告。結婚の強要でることはミエミエです。
そんな折、急速に親しい仲になったのは、社内でもやり手として評判な営業統括本部副部長、独身47歳という有磯潮美
リソさん」「ザミちゃん」と呼び合う仲になり、さらには東京下町=三ノ輪にある有磯の実家、居酒屋兼食堂の「磯屋」に足繁く通うまでに。
当初こそ、独身OLを主人公とした“お仕事小説”かと思ったら、ストーリィはどんどん下町食堂物語、さらには下町家族物語へと、あれよあれよという間に山の手物語から下町物語へと舞台は変転します。
この転がり落ちるような変転具合が実に鮮やかで、かつ楽しいのですが、会社ではバリバリのワーキングウーマンが、三ノ輪では下町の肝っ玉姉さんという姿に打って変わる、有磯潮美のキビキビとしてエネルギッシュな人物像がとにかく魅力。
それに比べると、主人公の窓子は地味なだけの平凡な女性という風ですが、結構良い味出しています。
潮美曰く「単に不器用−単に器用だけの人間よりずっといい」ということらしいのですから。

「家族トランプ」という表題は、家族選び、というトランプ遊びになぞらえた題名。
結婚は2人だけの問題ではなく、家族選びでもあるというのが本作品のミソ。
本作品では山の手と下町という窓子と有磯の家族が対照的に描かれています。私の場合も、父親の兄弟はそろって公務員、母親の兄弟はそろって商店街での店商売と対照的だったものですから、本ストーリィ、実感がありました。
家族選び小説の傑作、お薦めです!

     


   

to Top Page     to 国内作家 Index