三浦しをん作品のページ
No.1


1976年東京都生、早稲田大学第一文学部卒。1998年11月からウェブマガジンサイト Boiled Eggs Online にてウィークリー読書エッセイ「しをんのしおり」を連載。卒業した翌年の2000年「格闘する者に○」にて作家デビュー。2006年「まほろ駅前多田便利軒」にて 第135回直木賞、12年「舟を編む」にて本屋大賞、15年「あの家に暮らす四人の意女」にて織田作之助賞、18年「ののはな通信」にて島清恋愛文学賞・河合隼雄物語賞、「愛なき世界」にて日本植物学会賞特別賞を受賞。


1.
格闘する者に○

2.まほろ駅前多田便利軒

3.風が強く吹いている

4.きみはポラリス

5.あやつられ文楽鑑賞

6.仏果を得ず

7.

8.神去なあなあ日常

9.星間商事株式会社社史編纂室

10.天国旅行


シティ・マラソンズ、木暮荘物語、ふむふむ、舟を編む、神去なあなあ夜話、政と源、あの家に暮す四人の女、愛なき世界、エレジーは流れない、墨のゆらめき

 → 三浦しをん作品のページ No.2

 


        

1.

●「格闘する者に○(まる)」● ★★


格闘する者に○画像

2000年04月
草思社刊

2005年03月
新潮文庫
(476円+税)



2007/01/14



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過酷な就職戦線に立ち向かった女子大生・可南子を描いたデビュー作。

まず興味は就職戦線の様子にありました。30年前の私の頃も会社訪問解禁日がTVニュースになりその片隅に私も映ったりしましたが、その頃はまだ可愛げがあったような気がします。それ以降マニュアル化が進み、何でこんなになったの?と思うようになりましたが、本書に描かれる就職戦線はそんな時代のこと。
本書での可南子もそうですが、面接できちんとした質問をしてくれるならともかく、嘲った様な態度を取られたりこちらの人格を否定されるような態度を取られたりと、いくら就職のためとはいえ何でこんな不合理な目に遭わなければならないのか!と憤る気持ちはひしひしと伝わってきます。
とくに主人公・可南子は漫画オタクで、ノホホンと就職戦線を迎え、出版社への就職一本に絞ったというのですから尚更のこと。

ただ、本書はそんな時代性や就職戦線という特殊な場面を描いた点だけに良さがあるのではありません。
大学の友人である砂子二木君とのほんのりとした友情関係、腹違いの弟・旅人との腹を割った姉弟関係、義母とのどこか堅苦しくでも可笑し味ある関係、いつもタイミングがずれているという政治家の父親を客観的に眺める関係に見応えがあるのです。
端的にそれらが現れる場面のひとつが、入り婿である父親の後継者を選ばんとする親族・後援者会議の場面。これはかなり笑えます。
主人公の可南子についてダメぶりより、素直な優しさを感じるのは、脚フェチの初老書道家・西園寺さんとの付き合い。脚フェチに応じるのはともかく、孫娘と祖父の関係のような温かさを感じるのは私だけではないでしょう。

ともかくは可南子の就職戦線、奮戦ぶり、苦闘ぶり+周辺事情等々が、彼女の性格の率直さもあって忌憚なく描かれていくところに読み応えあります。デビュー作なのにこの完成度の高さはなかなかのもの。
※なお、重松清さんの解説の一言には、思わず噴き出しました。

志望/応募/協議/筆記/面接/進路/合否

           

2.

●「まほろ駅前多田便利軒」● ★☆       直木賞


まほろ駅前多田便利軒画像

2006年03月
文藝春秋刊

(1600円+税)

2009年01月
文春文庫化


2006/08/03


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こうした表題の作品は、一般的に主人公を狂言回しにして町の住人たちの物語や心温まる小話を書き上げるというパターンが多いのですが、本書はその点ちょっと変わっていて哀感を味わうことの多いところが特徴。

まほろ市は東京都とはいえ、郊外とも言うべき西南部に位置する市。東京でありながら東京と主張しきれないような位置づけが、そんな本ストーリィの哀感ある雰囲気を後押ししています。
第一、便利屋稼業で生計を立てている主人公の多田、その元へ一方的に転がり込み居候となった高校時代の同級生・行天の2人とも、“幸”フツーに在りとはとても言えない翳を持っています。
2人が毎篇巻き込まれるのは、キナ臭いことばかり。夜逃げや街娼、ヤク、殺人事件等々と。
一般的な温かみある“町もの”とは一線を画した、さしづめ裏版“町もの”連作短篇集と言ったところでしょうか。
それでも幸せか幸せでないかは、結局自分の気持ちの持ちようなのかもしれない。読み終えたとき、本作品はそんな風に投げかけてきたように感じます。
しかし、楽しいとは決して言えず、現実の苦味をかみ締めざるを得ないストーリィ6篇。独特の雰囲気はあるにしても、率直にいって私の好みとは
距離がある。

多田便利軒、繁盛中/行天には、謎がある/働く車は、満身創痍/走れ、便利屋/事実は、ひとつ/あのバス停で、また会おう

      

3.

●「風が強く吹いている」● ★★☆


風が強く吹いている画像

2006年09月
新潮社刊
(1800円+税)

2009年07月
新潮文庫化



2006/10/20



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箱根駅伝を舞台にしたスポーツ小説。
ボロアパートに住む学生10人が、突き動かされるようにして箱根駅伝に挑戦していくという爽快なストーリィです。

寛政大学に入学した蔵原走(かける)は、万引きの後追い詰められて知り合った清瀬灰二に誘われ、竹青荘という今にも朽ち倒れそうな古アパートに住むことになります。
これでやっと10人揃ったと喜んでいる清瀬に不安なものを感じていたところ、清瀬の狙いはなんと竹青荘の住人10人(全員寛政大学)で箱根駅伝を目指すことにあった。
箱根駅伝を目指すといっても、走と清瀬以外のメンバーは殆ど陸上競技の素人ばかり。
困惑するものの、清瀬にいろいろ恩義を負っている竹青荘の住人たちは皆そろってトレーニングを始めることになります。
 
競争熾烈なあの箱根駅伝を素人同然のメンバーで目指すというのですから、いくら小説とはいえ絶句してしまうのですが、本書を読み進んでいくとそんな困惑などすぐ吹き飛んでしまいます。
シッポまでみっちりアンコが詰まった鯛焼きのように、細部までしっかり味わえる読み甲斐ある作品。
ストーリィが面白いというより、読み進んでいくこと自体に楽しさがあります。ちょうど、走り続ける主人公たちと頁を繰る読み手の呼吸がぴったりシンクロしているかのように。
  
主人公は走ですけれど、走一人の物語ではなく、竹青荘のメンバー全員の物語であるところが、何といっても気持ち良い。事実、陸上競技というのは本来的に一人のスポーツですけれど、駅伝とくに箱根駅伝となると全くそれが異なる。全員が力を合わさなければ成り立たない競技だからです。

走、清瀬の2人だけでなく、他のメンバー8人も各々個性的。
仲間としての結びつきを強めながら嬉しそうに走っている様子がなんとも楽しそう。魅力十分です。
途中から彼らの応援に加わる八百屋の娘・葉菜子、走に恨みを抱き続けている東体大の榊、優勝候補である六道大のキャプテン・藤岡等々、周辺人物たちもそれぞれに存在感あるところが本書の堪えられない魅力です。
 
記録、あるいは勝つことが目標ではなく、清瀬が皆と一緒に目指した“頂点”とはどんなものなのか・・・・。読んでいる間、幾度も身の内から震えるような興奮を味わいました。それもまた“頂点”に繋がる事々でしょう。
私自身は決して彼らのような高みを自分の身体で味わうことはできませんけれど、頁を繰り続けることで高みを目指して走り続ける彼らと繋がっていると信じることができます。やっぱり本っていいな、と思います。

※この興奮、恩田陸「チョコレートコスモスで味わったものと似ています。
※箱根駅伝を舞台にした小説に安東能明「強奪箱根駅伝があります。こちらは純然たるサスペンス。

※映画化 → 「風が強く吹いている

  

4.

●「きみはポラリス Something Brilliant in My Heart」● ★☆


きみはポラリス画像

2007年05月
新潮社刊

(1600円+税)

2011年03月
新潮文庫化



2007/06/13



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「世間の注目も、原稿の注文も「あのこと」ばかり。なら、「恋愛」とやらを、とことん描いてやろうじゃないの! ということで始まった小説集」とのこと。
およそ“恋愛”という言葉からは想像も追いつかないような、あらゆる類の恋する想いを取り上げた、といった風の短篇集です。

始まりと最後を締めるのは、岡田寺島という高校以来の親友同士を描いたストーリィ。これが山椒はピリリ、という感じで快く刺激的であって、本書への興味をかき立ててくれます。そして最後には気持ち良く本書に幕を下ろしてくれます。
寺島の方は単純に親友と思っているだけのようですが、岡田の方はちと違うらしい。友達以上恋人未満という言葉がありますが、さしづめ友情以上恋情未満というところでしょうか。
そんな関係は男性同士だけでなく、女友達同士にだって勿論在ります。「夜にあふれるもの」がそうした篇。

ホラー風味あり、サスペンス風味あり、お互い騙し合ったまま夫婦生活を続けていこうとする曲者風の話から、「森を歩く」「春太の毎日」のようなコミカルな話までもありと、本書に描かれる相手を想う心は実に様々。
こんなものまで入るのか?と思う位なのですが、相手を想う気持ちは、誰にしろ、どんな気持ちにしろ、実にいろいろあるのだ、ということを本書は描いているのだと思います。
“恋愛小説”という範疇から逸脱するのかもしれませんけれど、こんな様々な姿があることこそむしろ現実ではないか、と思えてきます。
様々な主人公の、様々な想い、様々な組み合わせを描いて見せたところに、本書の妙があります。

永遠に完成しない二通の手紙/裏切らないこと/私たちがしたこと/夜にあふれるもの/骨片/ペーパークラフト/森を歩く/優雅な生活/春太の毎日/冬の一等星/永遠につづく手紙の最初の一文

      

5.

●「あやつられ文楽鑑賞」● ★★☆


あやつられ文楽鑑賞画像

2007年05月
ポプラ社刊
(1600円+税)

2011年09月
双葉文庫化



2008/01/09



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「底なし沼にはまった」という三浦しをんさんによる、文楽鑑賞体験記&鑑賞ガイド。これがもう、絶品と言いたいくらいの面白さ。
本書を読み進んでいくに連れ、次から次へと文楽の面白さが膨れ上がっていくようです。

“文楽”とは大夫の語り、人形遣い、三味線という3つの要素がひとつに合体して成る古典芸能(「文楽」=「人形浄瑠璃」)。
人形によって演じるというところに、独特な面白さがあるらしいのです。悲劇であってもその中に喜劇部分もあり、だからこそエンターテイメント性が極めて高いのだと三浦さんは説く。
先般読み終えたところの、文楽にかける青春ストーリィ仏果を得ず、本書と合わせて読んでいたらもっと楽しめていたことだろうと思うと、ちと悔しい。

本書ではまず、しをんさんと担当編集者のYさんが三味線、人形遣いの当代きっての演者を楽屋裏に訪ね、いろいろと話を伺うところから始まります。
そこでのお2人、憧れの人に会う女子高生の如くミーハー的に興奮しつつというお陰で、ド素人の私も気後れすることなく、その場を笑いながら楽しめました。
当代の名人たち、きりっとしていて、それでいて人を喰ったようなユーモアセンスもお持ち。人間としての魅力もたっぷり備えている面々、という印象です。

豊竹咲大夫さんが「びんぼくさい芝居は嫌い」、「・・・は、もう、やだったねぇ」と心底いやそうに、しみじみ語られたという部分には、ホント笑ってしまう。
大夫、三味線だけでなく、人形遣いも主遣い、左遣い、足遣いという3者が三位一体となって演じられる芸能だというのに、舞台が終われば各自ドライに過ごされている姿を拝見したりと、らしい。その一方、讃岐の内子座では、劇場裏で浴衣姿のまま寛いでいられたりと、文楽の演者は観客との距離が近いですなぁ〜。

それら実地見聞を重ねたうえで、代表的な演目の観劇記に進みます。歌舞伎や落語との比較論も興味津々で面白いのですが、何といっても絶品なのは「仮名手本忠臣蔵」「女殺油地獄」
いやはやこんなに面白いものだとは思いませんでした。読んでの面白さを盛り上げてくれるのは、しをんさんの絶妙のツッコミ。
そのツッコミの面白いことったらありません。「仏果を得ず」より余っ程面白かった、というくらいです。

なお、「仮名手本忠臣蔵」は、大阪の国立文楽劇場での通し上演に駆けつけたとのこと。朝10時半に始まって夜の 9時半までという、まさに一日がかりの観劇。凄いですねぇ〜。
人間の技を集めて成り立つ古典芸能、真に艶なるものかと感じた次第。いつか観に行ってみよう、という気持ちになりました。

まえがき/鶴澤燕二郎さんに聞く/桐竹勘十郎さんに聞く/京都南座に行く/楽屋での過ごしかた/開演前にお邪魔する/「仮名手本忠臣蔵」を見る/歌舞伎を見る/落語を聴く/睡魔との闘い「いい脳波が出てますよ」/「桂川連理柵」を見る/内子座に行く/「女殺油地獄」を見る/「浄瑠璃素人講釈」を読む/豊竹咲大夫さんに聞く/襲名披露講演に行く/あとがき

  

6.

●「仏果を得ず」● ★★


仏果を得ず画像

2007年11月
双葉社刊
(1500円+税)

2011年07月
双葉文庫化



2007/12/06



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「仏果」とは、修業を積んだ結果として得られる悟りのこと。
さしづめ表題は、修業は生きている間ずっと続くもの、そう簡単に悟ったりできるものか、という主人公の文楽にかける意気込みを語っているように感じます。

義太夫節・三味線と人形劇から成る“文楽(人形浄瑠璃)”
本書は、毎回悩みながらも演目ひとつひとつへの理解を深めながら、大夫として成長していく健(たける)を主人公とする、伝統芸能版青春ストーリィ(恋愛付き)です。
物語中の人物像をつかみきれず煩悶する健が、周辺のふとした出来事から目を開かれ、なんとか最後のところで役を演じる肝をつかむというのが、毎章のパターン。大夫としての上達は、即ち健自身の人間としての成長あってこそ、というのがミソ。

仕事における悩みもあれば、恋についての悩みもある。しかも、ストーリィは今まで知ることのなかった伝統芸能の世界で繰り広げられるという面白さ。久々に主人公と一緒にストーリィの中にはまり込む、という楽しさが本書にはあります。
各章の題名=文楽の演目という訳で、健大夫が煩悶を一話ずつクリアしていく(まるでゲームのような)という形で文楽の名作が紹介される一方、健自身の成長や恋の葛藤は全章を通じて進む、という二重構成のストーリィが、単純明快で読み易い。

こうした作品に欠かせないのは、主人公の脇を固める個性的な人物たち。本書でも、人間国宝のくせして無茶苦茶ぶりを遺憾なく発揮する師匠=笹本銀大夫、「実力はあるが変人」という評判の相三味線=鷺沢兎一郎、健が住みこんでいるラブホテルの管理人=誠二、文楽好きな小学生のミラちゃん、母親の真智、担任教師の藤根先生等々と、顔ぶれに不足はありません。
元々こうした芸能社会の人たちはクセ者ばかりのような・・・。

1.幕開き三番叟/2.女殺し油地獄/3.日高川入相花王/4.ひらがな盛衰記/5.本朝廿四孝/6.心中天の網島/7.妹背山婦女庭訓/8.仮名手本忠臣蔵

  

7.

●「 光 」● ★★


光画像

2008年11月
集英社刊
(1500円+税)

2013年10月
集英社文庫化


2009/02/08


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突然に襲ってきた津波のため、美浜島で生き残ったのは信之たち3人の子供と大人3人だけ。
その直後、幼馴染の美花を救うため、信之はある罪を犯す。
その20年後、再び「暴力が帰ってくる」というストーリィ。

これまで読んだ三浦しをん作品とは、全く作風の異なる作品。と言うより、三浦しをんらしさの欠片も感じられない。逆に言うなら、それだけ渾身の力を込めた作品ということなのかもしれません。
題名の「光」と対照的に、闇の深さばかりを感じる作品です。
こうした作品、私は常に好きではないのですが、圧倒的な迫力でぐいぐい読まされてしまう。

ストーリィは、島で生き残った子供たち=信之・美花・輔3人の物語と見えますが、私はむしろ、信之・輔・信之の妻である南海子の物語ではないかと思う。
この3人は、家庭の愛情を失う、あるいは愛情ある家庭の姿を知らないという点で共通します。
そしてその結果は、信之と南海子の幼い娘=椿に対する、南海子の姿に現れています。その部分が何とも私には痛ましく見えて仕方ない。
本作品で描かれる暴力は、もちろん肉体的な暴力です。
しかしふと、暴力とは、自分の勝手な思いを相手に押し付けることを指しているのではないか、と思う。

 

8.

●「神去(かむさり)なあなあ日常」● ★★


神去なあなあ日常画像

2009年05月
徳間書店刊
(1500円+税)

2012年09月
徳間文庫化



2009/06/04



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どういう意味の題名なのか全く判らず面喰いましたが、冒頭ですぐ判ります。
「神去」とは三重県中西部に位置する山奥の村の名前。「なあなあ」とはその神去村で日常的によく使われる言葉、「ゆっくり行こう」「まあ落ち着いて」という意味だとか。

高校を卒業したばかりの平野勇気、フリーターでもやりながら気楽に過ごそうと思っていたのに、突然担任教師から就職先を決めてやったぞと言われ、帰宅すると今度は母親が荷物はもう先方へ送ったと言う。唖然とする間に餞別を押し付けられ、そのまま自宅から叩き出されてしまいます。訳も判らぬままその足で神去村へ。
「緑の雇用」制度という林業に従事する人向けの助成金制度に、本人が知らぬまま応募されていたという次第。

ともかく生まれも育ちも横浜という現代の若者が、いきなり携帯も通じない山奥の村に放り込まれ、林業に従事するという、現代若者版お仕事ストーリィ。
とにかく興味は、都会生活とは隔絶した山の中の暮らしと、林業という仕事そのものにあります。
さしづめ、読者にとっても小説上林業体験記。
それぞれ趣きも狙いも異なるのかもしれませんが、箱根駅伝文楽と来て、今度は林業か!
でもその林業、決して疎かにはできないのです。国土が狭く山の多い日本にとって山林は貴重な自然資源、そして人の手が入らない山林は荒れる、のだそうですから。

神去村の暮らしや風習、林業仕事と、理屈抜きに珍しい&信じ難い体験が味わえる、楽しい一冊。

  

9.

●「星間商事株式会社社史編纂室 The Mystery of HOSHIMA Trading Co.」● ★☆


星間商事株式会社社史編纂室画像

2009年07月
筑摩書房刊

(1500円+税)

2014年03月
ちくま文庫化



2009/07/31



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題名からどんなストーリィを予想すればいいのやら。
企業小説、いやいや「社史編纂室」ですからねー、精々お仕事小説でしょうか。
社史編纂室の面々、いずれも能力ありながら他部から左遷されてきた社員ばかり。ただし、姿を見せたことがない幽霊部長、さぼってばかりの課長を除く(除くと後は3名のみなんですけど)。

やおい小説(ボーイズラブ)を書いては仲間と同人誌発行に熱を上げる、オタクの主人公=川田幸代29歳
同棲中の恋人=洋平はいつもふらっと旅に出てしまう風来坊で、この先どうなるのやら。
一方、仕事先の社史編纂室といえば、やる気のない社員ばかり。
何なのですかねー、このストーリィ。
ところが、突然課長が編纂室で同人誌を作ろうと言い出すかと思えば、幸代には脅迫状が届く。
どうも1950年代の星間商事には何かきな臭い秘密が隠されているらしい。
そして、幸代が書いたやおい小説という、小説中小説が同時並行で展開していく。
片や社史編纂、片や同人誌&やおい小説に明け暮れ、一方で洋平との恋人関係に悩むという、OL=幸代。さて彼女はこの閉塞状況をどう打開するのか?

あまり仕事に熱中せず、プライベートこそ熱中したいと、出世に捉われず会社生活を見るからこそ、楽しめる面もあり。
そんな、脱力してこそ楽しめるストーリィです。

  

10.

●「天国旅行」● ★★


天国旅行画像

2010年04月
新潮社刊
(1400円+税)

2013年08月
新潮文庫化



2010/04/24



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本書の題名からどう感じますか。また表紙を見てどう内容を予想しますか。
題名からだときっと、夢のある楽しい場? 表紙からだと??でしょうか。
天国まで行き着くことができれば、そこはバラ色なのかもしれません。でも、行き着かなかったら・・・・。

本書は、梶尾作品のようなファンタジーでなく、乙一作品のようなホラーでもない。
日常生活の中で死と向かい合ってしまった人々、その愛と死との関わりを描いた短篇集。
暗いストーリィもあれば、嬉しくなれるストーリィもある、のっぴきならない気分に襲われるストーリィもあると、死がそうであるように、それはいろいろ。
だからこそ一篇一篇読後感もいろいろで、中々一口では語れません。まずは読んでみること、です。

「森の奥」:富士樹海で首つり自殺しようとした中年男の話で、割とあるストーリィ。
「遺言」:お互い相手しかいないと思い詰めた仲だったのに、年月を経た今は・・・。それでも、というところがいい味。
「初盆の客」:本短篇集中では唯一と言える、と嬉しい幽霊話。オチも私好みで、楽しい気分になります。
「君は夜」:ここまで前世を信じ込むとなぁ、男としては怖い。どちらが悪いのか、その思いが変わってきます。
「炎」:学園、少女もの。少女たちだからこそでしょう、この展開は。
「星くずドライブ」:死んだ恋人の幽霊、よくあるパターンですけど、この底知れなさは、恐ろしい。
「SINK」:一家心中で一人生き残ってしまった少年のその後。常に死を見つめながら生きざるを得ないという姿は痛ましい。

森の奥/遺言/初盆の客/君は夜/炎/星くずドライブ/SINK

            

 三浦しをん作品のページ No.2

    


   

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