安東能明
(あんどうよしあき)作品のページ


1956年静岡県生、明治大学政経学部卒。浜松市役所勤務の傍ら執筆した94年「死が舞い降りた」にて、第7回日本推理サスペンス大賞優秀賞を受賞。その後作家活動に専念し、2000年「鬼子母神」にて第1回ホラーサスペンス大賞特別賞、2010年「随監」にて日本推理作家協会賞・短編部門を受賞。


1.強奪 箱根駅伝

2.ポセイドンの涙

3.撃てない警官

4.伴連れ

  


            

1.

●「強奪 箱根駅伝」● ★☆


強奪箱根駅伝

2003年10月
新潮社刊

(1900円+税)

2006年12月
新潮文庫化


2004/01/11

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正月恒例の箱根駅伝を題材にしたサスペンス。
何と言っても、箱根駅伝という舞台設定が秀逸です。

神奈川大の津留康介。4年生になり、初めて駅伝出場の座を射止めます。ところが、大会直前の30日、女子マネージャーの水野友里が誘拐されるという事件が発生。
そして、犯人から届いた要求は、津留康介を代表選手から外せというもの。犯人の動機は、その目的は、一体何なのか。
犯人像が不明のまま、TV局まで巻き込み、2日の箱根駅伝がスタートします。
生放送までジャックし嘲弄する犯人、中継放送を死守しようとする幸田らTV局、犯人逮捕を最優先する警察という、3者対立の構図でストーリィは展開していきます。それに加え、困惑しつつも優勝を目指す神奈川大チームの存在も忘れられない。
サスペンス要素の他、箱根駅伝にまつわる緊張感、臨場感を満喫できるところが、本作品の魅力です。
私はこれまで箱根駅伝の実況中継を観たことがないのですが、駅伝ファンなら、さぞ堪えられないストーリィでしょう。
最後の生々しい逆転劇、フィニッシュの爽快感も、なかなかの味わいです。

           

2.

●「ポセイドンの涙」● 


ポセイドンの涙

2005年07月
幻冬舎刊

(1800円+税)

 

2005/10/25

青函トンネルを背景に、3人の幼馴染たちの過去に遡るサスペンス。
パリでデザイナーとして成功した三上連の元に脅迫状が届く。それは、彼が小学生の時に犯した殺人を示唆するものだった。そのため三上は直営店を開くという名目の元に函館に戻ってくるが、偶然にも青函トンネルの中から25年前のその死体が発見される。
函館にはその秘密を知る友人・江原政人が残っていたが、何と殺された内田保の娘・根本由貴までが時期を同じくして函館にやってきていた。
三上の元に脅迫状を送ったのは誰なのか、そして再び青函トンネル内で起きた殺人事件の犯人は?、というストーリィ。

率直に言って、読んでいる最中もやもやした気分が消えず、堪らない思いを味わいました。
登場人物たちもストーリィ展開も、とにかくすっきりしない。

三上連が、あるいは幼馴染3人が主人公となるべきところなのですが、それがそうなっていない。
三上は成功したデザイナーという割に優柔不断であるし、江原は善良なのかワルなのか、タフなのか気弱なのかはっきりしない。また、本来ヒロインであるべき由貴は、役割が少ないうえに何を考えているのか茫洋としたまま。
殺人事件は過去と現在にまたがり、捜査はその両面から展開されていくのですが、警察側でも課長の田口とベテラン係長の菅沼が争っているようでどちらが中心なのかはっきりしない。
要は、強い意思をもってストーリィを展開させていく主人公を欠き、大勢の登場人物がひしめき合っているという感じなのです。もやもやした気分が少しも晴れないのは、こうしたことが原因。
結局残ったのは、費用対効果を考えると青函トンネルは本当に作るべきものだったのかどうか、という投げかけでしょうか。
青函トンネル完成に投入された資金が巨額だっただけでなく、常時浸水する水を排水し続けるため、トンネルの維持費もまた膨大な額に上る(10年間で5百億円投入したとか)とのことです。

        

3.

●「撃てない警官」● ★☆


撃てない警官

2010年10月
新潮社刊
(1600円+税)

2013年06月
新潮文庫化

  

2010/11/06

  

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警察内の不祥事で一人責任を取らされ、警視庁総務部企画課の係長という要職にあった柴崎令司は、綾瀬署警務課課長代理に左遷される。
10年以上本庁の管理畑にあり、36歳で警部というエリート道をたどっていただけに、柴崎の屈辱感は大きい。
自分の身の安全を図り柴崎を犠牲にした上司の企画課長に怨みを募らせる一方で、慣れない所轄署仕事に振り回される日々。
そんな柴崎を主人公にした警察もの連作短編集。

エリート警察官が一転所轄署に左遷という舞台設定は今野敏「果断を思い出させますが、「果断」の竜崎警視長がどこの部署だろうと自分らしさを貫くのに対し、本書主人公の柴崎は義父がノンキャリで方面本部長まで出世した人物である所為か、昇進志向も強いし、復讐心も執拗、という人物。
慣れない現場仕事に、本庁のエリートだった俺が何でこんな後ろ向きの仕事をと自嘲しながらも、それなりに成果を上げるという展開が、本作品の妙味。

ある意味、サラリーマン警官らしい警官ということで、親近感があります。異動後、慣れない仕事にボヤキながらも奮闘するなどという展開も、まさにサラリーマン共通のものでしょう。
収録7篇のうち
「随監」が日本推理作家協会賞受賞作ですが、私としてはありきたりのストーリィのように思えます。
むしろ、
「第3室12号の囁き」の方がその意外性、複雑性から面白く感じました。

撃てない警官/孤独の帯/第3室12号の囁き/片識/内通者/随監/抱かれぬ子

     

4.
「伴連れ ★☆


伴連れ

2016年05月
新潮文庫刊
(710円+税)

 


2016/06/02

 


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「警察手帳紛失という大失態を演じた女性刑事は数々の事件の中で、捜査員として覚醒する」という出版社紹介文に興をそそられ読んでみたのですが、以前に読んだ撃てない警官から始まるシリーズの第3弾でした。
てっきり長編と思い込んでしまったのですが、短編集。

主人公は、ノンキャリながら警視庁のエリート部署に所属していたというのに、部下警官の拳銃自殺についてひとり責任を負わされて綾瀬警察署警務課課長代理に左遷された
柴崎令司警部補
本来、刑事事件の捜査に加わる筋合いではないポストなのですが、人手不足の警察署ということもあり、また上司である女性キャリア=
坂元真紀署長の命令とあっては従わざるを得ず。
しぶしぶながら命令されたとおり捜査に参加する坂崎が、予想外に事件解決の糸口をつかむという展開が、警察事件捜査ものとしてのシニカルな面白さ。

本書では上記に加え、
高野朋美という26歳の女性刑事に注目。
警察手帳紛失という大失態にもかかわらず、署長に呼ばれ問いただされて初めて紛失を認める、また大失態にもかかわらずどこかのんびりしているという、まさに“新人類”とあって刑事の仲間内でも持て余し者、という存在。
それが本書各章での事件捜査に、柴崎と一緒に参加するうち、次第に刑事らしさを身に着けていくという、長編成長ストーリィ要素も本書の楽しさのひとつ。
ただし、高野朋美の新人類ぶりについては、高野自身にも問題があったことはさりながら、指導側する上司らの側にも問題もかなりあったように私には見受けられます。
今後の高野朋美巡査の成長ぶりをまた見たいところ。


掏られた刑事/墜ちた者/Mの行方/脈の制動/伴連れ

   


  

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