井上ひさし作品のページ No.4



31.ロマンス

32.ムサシ

33.組曲虐殺

34.一週間

35.東慶寺花だより

36.グロウブ号の冒険

37.黄金の騎士団

38.一分ノ一

39.言語小説集

40.馬喰八十八伝


【作家歴】、しみじみ日本・乃木大将、イーハトーボの劇列車、 吾輩は漱石である、頭痛肩こり樋口一葉、四捨五入殺人事件、泣き虫なまいき石川啄木、十二人の手紙、人間合格、四千万歩の男、シャンハイムーン

→ 井上ひさし作品のページ No.1


ある八重子物語、マンザナわが町、父と暮らせば、井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室、東京セブンローズ、わが友フロイス、わが人生の時刻表、四千万歩の男忠敬の生き方、紙屋町さくらホテル、日本語は七通りの虹の色

→ 井上ひさし作品のページ No.2


夢の裂け目、あてになる国のつくり方、太鼓たたいて笛ふいて、話し言葉の日本語、兄おとうと、夢の泪、イソップ株式会社、円生と志ん生、箱根強羅ホテル、夢の

 → 井上ひさし作品のページ No.3

   


        

31.

●「ロマンス」● 絵:和田誠 ★★


ロマンス画像

2008年04月
集英社刊

(2000円+税)

 

2008/04/28

 

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井上さんお得意の評伝劇。今回はロシア人作家のチェーホフ
外国人としては魯迅(「シャンハイムーン」)に続いて2人目ですが、登場人物の全員が外国人というのは本劇が初めて。

評伝劇としてはこれまでの作品に比べ、面白味という点でやや見劣りする感じがしますが、チェーホフ作品に興味があるとなれば本作品は見逃せないところ。
チェーホフの生い立ちから、戯曲「かもめ」の失敗と成功、妻となった女優オリガ・クニッペルとの関係、チェーホフが目指していたもの、これらすべてが洩れなく、的確に、無駄なく描かれてしまうのですから。

ロシア文学というと、プーシキンゴーゴリトルストイドストエフスキイの名前が浮かびますが、それら文豪たちの文学を愛すれば愛する程、かえってチェーホフの文学は判り難いというところがあります。
具体的にいうと、何を描こうとしたのか、あるいは格別な思いなくあるがままの現実をただ描こうとしたのか。
いみじくもそれは、本作品にも登場するトルストイが「三人姉妹は抒情詩の傑作じゃ。しかし、ドラマではない」と評した言葉に通じます。是非は別として。

本劇に巧妙な仕掛けはありません。ただ周辺人物(妹のマリヤ、女優オリガ等)が一人の役者で演じられるのに対して、少年・青年・壮年・老年とチェーホフが4人の役者によって演じられるところがミソ。
そのお陰で劇をリレーしていくような様、4人揃って搭乗するということができるのですから。

私は確信もてませんが、チェーホフが目指していたのは悲劇ではなく、笑いと娯楽性に富むボードヴィル劇だった、というのは目を惹かれる着想です。
また、壮年チェーホフを演じた段田安則さん、オリガ役の大竹しのぶさん、マリヤ役の松たか子さんと、各場面の写真を見ながらその演技振りを想像しながら読んでいくのは楽しかったです。

             

32.

●「ムサシ」● ★★


ムサシ画像

2009年05月
集英社刊

(1200円+税)

  

2009/05/09

 

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題名の「ムサシ」とは、勿論宮本武蔵のこと。
あの巌流島の決闘から6年、命をとりとめた佐々木小次郎が改めて雌雄を決せんと武蔵に迫る、という筋立ての2幕戯曲。

時は元和4(1618)年夏、ところは鎌倉の禅寺=源氏山宝蓮寺。
その宝蓮寺開山式に際して集まったのが、住持の平心、京の大徳寺長老=沢庵禅師宮本武蔵、将軍家兵法指南役=柳生宗矩、大口寄進者の筆屋乙女木屋まい、という面々。
そこへ突然現れたのが、長年にわたり武蔵を探し求めてきた佐々木小次郎、という次第。
果たして武蔵と小次郎の果し合いは再現成るのか、そしてその結果は? というのが本作品の興味どころ。当然ですよね。

武蔵は言葉の駆け引き巧みで、小次郎は生真面目で一本気、沢庵禅師は超然としてある、というキャラクター設定は吉川英治「宮本武蔵」そのまま。
剣豪2人の間に立つもう一人の剣豪、柳生宗矩。興が乗るとなぜか能を踊りだしてしまうというキャラクター設定が、瓢げていて可笑しい。
本戯曲そのものによるのか、読む私の方に起因するのか、これまでの井上戯曲に比べると肩肘張らず、軽い感じで読めたという印象です。そもそも武蔵対小次郎という対決が、フィクション性高いドラマですから。
また、主役の武蔵・小次郎の存在が突出せず、2人を囲む他の登場人物とのバランスが良い、均衡が取れているという理由もあると思います。

さて本戯曲、狙いは何か、何を伝えようとしているのか、それは最後まで読んでのお楽しみです。

     

33.

●「組曲虐殺」● ★★


組曲虐殺画像

2010年05月
集英社刊

(1200円+税)

 

2010/05/04

 

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最近人気が出ているという「蟹工船」の作者、プロレタリア作家の小林多喜二を描いた評伝戯曲。
井上さんの評伝戯曲は数多くありますが、かなり衝撃的な題名です。
特に作家を描いた評伝戯曲にはユニークな題名が多いのですが、それは作家自身のユニークな個性があったればこそ。その点、小林多喜二は社会を批判しただけあって、真っ当でむしろ正直過ぎる人間だったと言えるでしょう。
その小林多喜二を、官憲は拷問により29歳という若さで死に至らしめた。それに対する怒りが、本書の題名に篭められているように感じます。

貧しい人の存在を深く胸に感じた、多喜二の少年時代がプロローグ。
本編は、2人の特高刑事と、姉のチマ、恋人の瀧子、信奉者であり妻となるふじ子の5人と絡み合いながら、小林多喜二という作家像を描き出していくストーリィ。

特別な趣向はなく、評伝戯曲の中ではオーソドックスな作品。しいていえば、多喜二の関わる内次第に考え方を変えていく2人の特高刑事の存在が妙味。

井上さんが先日亡くなったことで、本作品が最後の評伝戯曲になると思います。
井上さんの評伝戯曲のおかげで、これまで多くの注目すべき人の人生を、判り易く、凝縮された形で知ることができました。
改めて感謝の念を捧げると共に、もう読めなくなることが、とても残念です。

   

34.

●「一週間」● ★★☆


一週間画像

2010年06月
新潮社刊

(1900円+税)

2013年04月
新潮文庫化

 

2010/07/22

 

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第二次大戦終了後のソ連国内を舞台とし、レーニンの手紙をめぐる、極東赤軍政治部の将校らと、その秘密をにぎる日本人捕虜=小松修吉との、一週間にわたる凌ぎ合いを描いた長篇小説。

本作品、小説ではありますが、井上戯曲を読んでいるような感覚にとらわれます。
登場人物の語り、会話が主体となって書き綴られているからでしょう。ソ連側の登場人物が一様に日本語が達者という設定も、本来戯曲にふさわしいものです。
それなのに戯曲にならなかったのは、ひとえに物語スケールの大きさ、凍てつく氷の大地であるソ連という舞台が、芝居という枠の中には収まりきらなかった所為ではないかと思います。

本ストーリィ、会話が主体ですから、テンポよく軽快に読み進んでいくことができます。約 500頁という厚さはまるで気になりません。
鋭い批判の一方で諧謔がある。登場人物がそれぞれ只者ではない片鱗を見せる。ストーリィの秀逸さといい、登場人物キャラクターの奥行きといい、悲哀があって笑いもある構成といい、この辺りはやはり井上ひさし作品ならではの魅力です。
本作品ではさらに、井上さんの着眼点の見事さが際立って感じられます。
何故日本人捕虜はシベリアで苦渋を味わったのかという問題点を明らかにすることに加え、ロシア人が掲げたソ連社会主義と日本帝国軍部が掲げた「八紘一宇」の共通点をあぶり出し、弱者である日本の兵隊たち、ソ連邦内の少数民族、ひいては満州国元皇帝まで登場させ、その生きるための闘いを彼らの肉声をもって明瞭に語らせるのですから、読み応えたっぷり、かつ素晴らしい。

サスペンス劇の面白さに加え、笑劇の面白さも多々あり。
また、本物語中で語られる収容所脱出談の意外な成り行き、女性将校による色仕掛け等々、細部の面白さも見逃せません。
井上ひさし文学の集大成という趣も感じる一冊、お薦めです。

                

35.

●「東慶寺花だより」● ★★


東慶寺花だより画像

2010年11月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2013年05月
文春文庫化

  

2010/12/15

  

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時代小説、しかも駆け込み寺として有名な鎌倉・東慶寺というストーリィ設定が、最後の井上作品としてはまず意外。
しかし実際に本書を読んでみると、そこに描かれているのは、単に男女間の揉め事というに留まらず、様々な人間の姿。さらに突っ込んでいくと、人間の営みの多様さ、愚かさ、弱さ、愛しさが優しく描かれていることに気づきます。
折々にユーモア、諧謔を交えながら、登場する男女の人間性を丸裸にしつつ描いていく辺り、やはりこれは井上さんならではの人間模様集というべき一冊です。

主人公は、長年にわたり漢方医師の門下生として修行しながら、戯作者に夢を抱き何とか2作目を書き上げようと、東慶寺の御用宿である柏屋に泊まり込んでいる信次郎、23歳。
時に新米医師、時に戯作者らしい観察眼の持ち主という姿を見せながらも、柏屋の居候として毎度毎度様々な夫婦の縁切り問題に首を突っ込むというストーリィ設定で、信次郎=狂言回し&人の好い仲介者という役柄です。
その信次郎に加えて、柏屋の主人=
源兵衛と幼い娘の美代、番頭の利平お勝の夫婦、というのが各篇に共通する登場人物で、良いチームワークを発揮しています。

全15篇。その中でも、陶然となる「梅の章−おせん」、スリリングな「花菖蒲の章−おきん」と「落葉の章−珠江」、ミステリ風味ある「岩莨の章−おみつ」、井上さんらしい滑稽味溢れる「柳の章−おせつ」、嘘のような話の「白萩の章−おはま」はことに読み応えあり。

(梅の章)おせん/(桜の章)おぎん/(花菖蒲の章)おきん/(岩莨の章)おみつ/(花槐の章)惣右衛門/(柳の章)おせつ/(蛍袋の章)おけい/(鬼五加の章)おこう/(白萩の章)おはま/(竹の章)菊次/(石蕗の章)おゆう/(落葉の章)珠江/(黄蘗の章)おゆき/(蓼の章)おそめ/(藪椿の章)おゆう

            

36.

●「グロウブ号の冒険−附 ユートピア諸島航海記」● ★☆


グロウブ号の冒険

2011年04月
岩波書店刊

(1900円+税)

   

2011/05/09

  

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初の東大法学部出身の力士=山田山、引退後部屋付きとなった部屋の親方から新弟子探しを命じられて、何とカリブ海へ。
ところが船が遭難、山田山が打ち上げられたのは、誰も知らない、文明社会から隔絶したような島。でも、住民たちは皆素朴で穏やか、平和的。
ところが、島の外ではいつの間にか、グロウブ号とカリブの海賊が隠したという宝探しに大騒ぎ。
日本や世界の大企業までが宝探しにカリブ海へと押し掛け、大騒ぎ。山田山たちもその騒ぎに巻き込まれる、というストーリィ。

本作品は未完。執筆されたのはまだバブル経済の頃、1987年から岩波書店の雑誌に断続的に連載されていたとのこと。
その所為か、お金やさらなる投資(宝探しも有望な投資らしい)に浮かれる文明国の人々と、最低限のものがあれば良いとのどかに生きる島の住民たちの姿が対照的。
かなり社会風刺を含んだ作品になっていますが、時代が違うだけによっと古いと感じるところがないではありません。
しかし、言葉遊びや数字遊びが宝探しの鍵になっているところは、井上さんらしいところ。

本書については、こういう遺作があった、その遺作を読んだ、に尽きると言えます。
なお
、「ユートピア諸島航海記」は「グロウブ号」の前身とでも言うべき作品で、著者主宰の「こまつ座」の雑誌「the座」に1984年掲載された作品だそうです。もちろんこちらも未完。

            

37.

●「黄金(きん)の騎士団」● ★★


黄金の騎士団画像

2011年04月
講談社刊

(1900円+税)

2014年01月
講談社文庫化
(上下)

  

2011/05/19

  

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孤児だった自分を施設で育ててくれた田中のおばあさんが入院したと聞いて、新入社員特訓研修を退社してまで抜けて「聖母の騎士園・若葉ホーム」に戻ってきた外堀公一、若葉ホームが事実上、残された6人の少年たちだけで運営されていることに気づきます。
IQが天才的に高い少年をリーダー役に、学校で保険組合事業を展開して小遣い稼ぎをしているとはすぐ知らされたものの、まさか商品先物取引で巨額の資金を稼ぎ出しているとは。
“黄金の騎士団”と名乗る彼らが最終的に目論んでいたのは、子供たちだけからなる理想的な共和国の設立だった、というストーリィ。
もちろん、そう簡単にはいきません。彼らの前に様々な妨害者が現れます。
一方、彼ら子供たちの純真な気持ちが判るだけに心打たれます。

規格外の発想に基づく気宇壮大なSF的夢物語という点では、大ヒットとなった「吉里吉里人」に通じるものがあります。
また、弱者が力を合わせて自分たちの生活のために闘うという点は、
東京セブンローズを彷彿とさせます。
この点、本書は真に井上さんらしい大長編ストーリィ。

しかし、残念ながら本作品も遺作にして未完。
この後も、読者がとても予想できないような展開がきっと繰り広げられるだろうと確信できる作品だけに、未完となったのが本当に残念です。

               

38.

●「一分ノ一」● ★★


一分ノ一画像

2011年10月
講談社刊
上下
(各1900円+税)

2014年04月
講談社文庫
(上中下)

  

2011/11/22

  

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戦後日本、米英露中4ヵ国によって分割占領統治され、北ニッポン(ソ連占領)、中央ニッポン(米国占領)、西ニッポン(英国占領)、四国ニッポン(中国占領)に分かたれまま。そのうえ東京は50ヵ国によって分割占領されているという状態が40年続いている。
その間、各地域の社会&経済情勢等は占領国の影響下にあって4地域の差異が拡大するばかりか、日本語さえも占領国の言語との融合が進み、まさに日本は分裂して跡形もなくなる危機を迎えている、という仮想ストーリィ。

それでは日本地図を一色に塗ることができない、広域暴力団になりようがない、全国高校野球甲子園大会が開催できない、日本全国縦断ツアーができないと、地理学者、ヤクザ、高校野球部の監督、女性歌手が統一ニッポンを目指して活動を開始します。
ところが連合国の対日理事会、本来敵同士である筈なのに統一ニッポンを企てる者は共通の敵とばかり、CIA、英国情報部、KGB、中国公安部各々の秘密工作員が共同して4人の活動を阻止しようとします。
本書主人公となるのは、北ニッポンの地理学者=
サブーシャこと遠藤三郎

かつて「吉里吉里人」を創作した井上さんらしい奇想天外なストーリィ。そのうえ、言葉遊びあり、各国文化比較論あり、作中小説あり、サブーシャが何人もの人物に変身するといったドラマ&風変わりな対決シーンありと、まさに井上さんらしさ満載という作品です。
私が生まれた当時、東西ドイツ、東西ベルリン、そして南北朝鮮等々分裂国家は既成事実となっており不自然なものとは特に思っていませんでしたが、日本国・日本民族がそうなっていたらと思うと(本書を読めば当然のこと)、当事者である国民の悲痛はどれ程だったかと感じざるを得ません。
まして時間が経ってしまえばいつしかそれは既成事実となって、元に戻すことは至難のことになってしまう。南北朝鮮の現実がそれを語っています。
コミカルな展開の裏にある、重たい歴史的現実。未完故に本ストーリィの結末を知ることのできないことが、何とも悔しい。

                

39.

●「言語小説集」● ★★

 
言語小説集画像
 
2012年03月
新潮社刊
(1300円+税)

2014年12月
新潮文庫化

  


2012/04/19

  


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いかにも井上さん!と言うべき、言葉、日本語、方言を題材にした短篇集。
すぐ思い出すのはやはり言葉や方言を題材にした井上さんの戯曲
「国語元年」「国語事件殺人辞典」といった作品。
本書、その2作品と比較して格別に面白いとは言えませんが、井上さんならではの面白さを久々に味わえるという点では、まさにマニアにとっては嬉しい!と言えるでしょう。

「括弧の恋」:井上さんの発想にまず脱帽。ワープロの中で、愛し合う「と」、さらに!や?などの記号たちが喧々諤々、凌ぎ合うのですから。
「極刑」:役者を殺すには・・・、というところが的を得ていて絶妙、それに加えて最後のオチも愉快。
「耳鳴り」:耳鳴りに悩まされるミュージシャンが主人公。本篇は、言葉ではなく音を題材にした短篇。
「言い損い」:母親のおかげで奇妙な症状、言い損ない=言葉の置き換えに悩まされる青年が主人公。最後、京浜東北線と横須賀線に別れた男女の・・・、井上風に洒落てて、好きだなァ。
「五十年ぶり」:主人公は、井上作品に度々出てきそうな方言学者。緻密かつ確実な方言分析ができてこそ、という楽しさあり。
「見るな」:東北の船越方言が何とマレー言語に類似? なんとまぁ抱腹絶倒の発想からなるストーリィ。
「言語生涯」:突如として思いもよらぬ言葉が飛び出してしまうという言語障害を発症した駅員が主人公。「大便ながらくお待たせしました」「しらばくれましょう」等々、次々に飛び出す言葉の障害ぶりがマニアにとっては実に愉快。

本書7篇では、奇抜な発想という点で「括弧の恋」、言い損ないや言語障害といった言葉遊びの面白さという点では「言い損い」と「言語生涯」の2篇が魅力です。
言葉遊びが好きな方に、お薦めの一冊。

括弧の恋/極刑/耳鳴り/言い損い/五十年ぶり/見るな/言語生涯

 

40.
「馬喰八十八伝(ばくろうやそはちでん) ★★


馬喰八十八伝

1986年
朝日新聞社刊

1989年
朝日文庫化

2016年03月
光文社文庫
(780円+税)

 


2016/05/13

 


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井上ひさし作品の文庫復刊。
未読というだけでなく、如何にも井上さんらしい作品と思えたので読むことにしました。

年老いた母親の望みを叶えるため、種付け馬・
花雲の背に老母を乗せて嘘を封じる百か所参りをしている途中の若者。
馬の名産地・
桜七牧で花雲を盗まれ、訴えて真実を述べたというのに自分が悪者にされてしまい88回叩かれる刑を受けてしまいます。怒った若者は以後同じ数の嘘を吐くことを決意、名前を八十八と替えます。
悪代官やその手下、盗賊の頭目、さらに家老や藩主と嘘をもって張り合い、危機を乗り越え、一目惚れした娘
お今のためにさらなる大きな勝負を仕掛ける、という時代物冒険ロマン。
嘘という語りの面白さ、言葉の序列がオカシイ代官や言葉の区切りのオカシイ藩主との掛け合いの面白さ、加えて主人公に馬語まで操らせるといったところは、井上さんらしいユーモラスな味わい。
久々に井上ひさし作品の面白さをたっぷり堪能したという気分です。

最後はハッピーエンドという訳には行きませんが、八十八らの前に
お龍という年増女を登場させたところに救いがあるように感じられます。
嘘とは、一度付き始めると突き通すしかない、そしてその内容はどんどん大きくならざるを得ないものなのだなぁと、八十八の経過をみることによって感じられます。
嘘をついて幸せを手繰り寄せるなど、凡人には手の余ることと言うべきなのでしょう。

本編の主人公が八十八と名乗る以前こと/われらが主人公八十八に御難さわぎがつづくこと/われらが主人公八十八が第二第三の大嘘をつくこと/われらが主人公八十八の命が風前の灯となること/われらが主人公八十八が次々に難局を乗り切ること そしてロマンス/われらが主人公八十八が嘘についての若干の思索を試みること/われらが主人公八十八が高野村百姓衆と肝胆相照らす間柄となること/われらが主人公八十八が新たなる強敵と相見えること/われらが主人公八十八がついに桜の殿様と事を構えるに至ること/われらが主人公八十八がたったひとつの嘘がつけずに悩むこと

  

井上ひさしお薦めページ

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