|
|
3.吾輩は漱石である 5.四捨五入殺人事件 7.十二人の手紙 8.人間合格 9.四千万歩の男 10.シャンハイムーン |
|
夢の裂け目、あてになる国のつくり方、太鼓たたいて笛ふいて、話し言葉の日本語、兄おとうと、夢の泪、イソップ株式会社、円生と志ん生、箱根強羅ホテル、夢の痂 |
ロマンス、ムサシ、組曲虐殺、一週間、東慶寺花だより、グロウブ号の冒険、黄金の騎士団、一分ノ一、言語小説集、馬喰八十八伝 |
●「しみじみ日本・乃木大将」● ★★★ 読売文学賞戯曲賞受賞 |
|
1979年10月 新潮文庫
1989/05/15
|
乃木大将の評伝劇。乃木大将の軍馬3頭と近くの牝馬2頭が馬格分裂を起こし、各々前足と後足に分かれる。そして、乃木大将のその時々の場面を演じ、乃木大将という人物を語る。そんなアイデアが良い、面白い作品です。 よくもまあ、面白いことを思いつくものだなあと思うのですが、それが評伝戯曲恒例の楽しさです。 結局、乃木大将は、自決によって武人の型を完成させた。では、“武人の型”とは何なのか? それが正当なものであるかは、また別の問題でしょう。 |
●「イーハトーボの劇列車」● ★★ |
|
1988年01月
|
宮沢賢治の評伝劇。賢治の何回か上京する汽車内の場面と、東京での下宿の場面にて、 賢治の生涯が描かれています。 童話から受ける賢治像は、純粋な若い思想家というものですが、ここに描かれている賢治は、朴訥な、田舎出の、世間知に乏しい若者です。 夜汽車内で道連れになる人は、彼の童話の主人公たちらしく、童話への繋がりとして楽しい反面、それ故にかえって哀れさが呼び起こされます。 賢治を一段高い思想家として捉えるのではなく、朴訥な若者として真実を捉えようとする、井上さんの眼をそこに感じます。 宮沢賢治という人間像、賢治の童話の世界、理想が現実に打ち負ける姿、短い劇の中で、この作品は複雑な視点を多数内含しています。賢治の実際の生涯が如何なるものであったにしろ、賢治と言う人間を、また賢治の世界を、愛さずにはいられません。 |
●「吾輩は漱石である」● ★ |
|
1988年11月 1991/01/25 |
夏目漱石の評伝劇。 伊豆修善寺温泉で吐血した時の、漱石の“30分間の死”。その間に漱石が見たであろう、 と想定したストーリィを描く作品です。 4場面の中には、漱石が創作した主人公たちらしい人物らが登場します。三四郎とか、坊ちゃんとか、マドンナとか。しかし、もうひとつ私にはストーリィの意味合いが理解できませんでした。どういう目的での筋立てだったのか。 |
●「頭痛肩こり樋口一葉」● ★★★ |
|
1988年11月 1991/01/26 |
樋口一葉の評伝劇。19歳から死後2年目までの、お盆の時が舞台。現世と冥界の間に一葉を置いた着想がお見事です。 母親多喜の世間体におもねる態度、戸主だとして夏子(一葉)へプレッシャーをかける態度。半井桃水先生を慕いつつも、夏子は世間体、家族の為に諦めるほかなかった。女として死ぬ、生きているとしても死んだも同然、頭痛止むことなし。 世間体ばかり気にせず、幸せになる為には何が必要なのかを、人間はもっと考えることが大切なのである。それが本作品における井上さんのメッセージではないか、と受け取りました。 |
●「四捨五入殺人事件」● ★★★ |
|
1984年06月
|
井上さんにしては珍しい推理小説。しかし、井上さんらしく、ただの推理小説では決して
終わりません。 |
●「泣き虫なまいき石川啄木」● ★★★ |
|
1992年06月 |
石川啄木の評伝劇。 しかし、井上さんは単に啄木一家の悲惨な事実のみを伝えようとしただけではなく、主人公たちの心の変化を描いた筈。 葛藤、嘆き、相手へのいたわり。 この作品を読んでも目頭が熱くなりましたが、もっと、言葉さえもふさがれてしまう、という作品がありました。 |
●「十二人の手紙」● ★★ |
|
1980年04月
2005/03/07 |
書簡体小説というのは結構面白いもので、主人公の心情が率直に伝わってくる一方、主観的なものである故に主人公による騙しが入っていたり、逆に主人公が騙されているといった仕掛けがあり得ます。要は油断のならない代物なのです。 地方出の娘が勤め先の社長に弄ばれる話や、信仰篤い女性の転落人生。同じ手紙を使った仕掛けであっても、ラブ・コメディがある一方で、離婚を妻に承諾させるための策略等々と多彩。 「赤い手」は手紙によらず、出生届、失踪届、死亡届等の公的な届出書をもって一人の女性の人生を描き出すという趣向。もう脱帽するほかない見事さですが、最後に唯一付け加えられた手紙がさらなる感動を誘います。 ※電子メール全盛の現代、このような書簡体小説はいつまで成立しうるのでしょうか。廃れてしまうのはとても惜しい。 プロローグ・悪魔/葬送歌/赤い手/ペンフレンド/第三十番善楽寺/隣からの声/鍵/桃/シンデレラの死/玉の輿/里親/泥と雪/エピローグ・人質 |
●「人間合格」● ★★ |
|
|
太宰治の評伝劇。 戦前から戦中、そして戦後へと、3人の出会いが展開されていきます。他の2人の共産活動。それに加わろうとする修治、コミカルです。一方、修治の兄の番頭・中北は、3人と対照的、いわゆる実務家であり、常識人です。彼から見れば、3人とも、あらゆる面で“失格者”でしかありません。弟失格、学生失格と、次々と烙印を押していく場面は、リズミカルで面白いです! 人間というものを考える面白さのある作品ですが、「劇列車」「啄木」に比べると、今一歩迫力不足だった、という印象です。それと、本作品の雰囲気がやや暗い。太宰自体に暗い印象がありますし、他の2人にもそんなところがあります。 |
●「四千万歩の男(一)〜(五)」● ★★★ |
|
1990年 1992年11月〜
1991/01/16〜
|
日本地図を作った伊能忠敬 を描いた作品。 元来歴史上の人物を描く時、とかく偉人として捉えがちですが、本作品では伊能忠敬も周囲の人々も、当然の如く人間臭い。 この作品には、“歴史大河小説”というキャッチフレーズがついていますが、その面白さは次ぎのようなところにあります。 ただ、蝦夷地測量が終わって伊豆の測量になると、測量行という要素は薄れて、まさしく道中記という印象が強まります。 |
●「シャンハイムーン」● ★★★ 谷崎潤一郎賞受賞 |
|
|
中国を代表する作家・魯迅の評伝劇 。 国民党に脅かされる魯迅と妻の許広平、その2人が一時的に避難した場所は、本来敵である筈の日本人、内山完造、みきの内山書店でした。 人物誤認症、失語症という魯迅の症状をもって、魯迅の人生、深層心理を描き出す、という評伝劇のこの巧さには、ひたすら井上さんにひれ伏して感心する他ありません。また、魯迅ら2人と日本人4人との間の心の交流は、素晴らしいと称えるほかありません。 この作品では、周囲の人々も単なる脇役にとどまらず、各々が各々の行き方において主役となるストーリィが展開されていることが、魅力のひとつです。見逃して欲しくない一冊です。 |
井上ひさし作品のページ No.2 へ 井上ひさし作品のページ No.3 へ