スタンダール作品のページ


Stendhal  1783〜1842 フランスの文豪、本名はマリー・アンリ・ベール。バルザックと共に近代写実主義小説の先駆。グルノーブルのブルジョワ家庭に生まれるが学業を途中で放棄、ナポレオンのイタリア遠征に参加。以後、終生変わらぬイタリア賛美者となる。帝政崩壊により失意の年月を過ごすが、1830年七月革命後イタリアのトリエステに仏領事として赴任、その間に代表作「赤と黒」(1830)と「パルムの僧院」(1839)を執筆。


※ 恋愛論ちょっと抜粋

1.アルマンス

2.イタリア年代記

3.パルムの僧院

4.アンリ・ブリュラールの生涯

 


 

● 「恋愛論」からちょっと抜粋 ●  原題:“De L'Amour”

 

1822年発表


1977年12月
人文書院刊

スタンダール全集
第8巻

新潮文庫(1冊)
岩波文庫(上下)

 

2000/06/25

恋愛の4分類
1.情熱恋愛
 2.趣味恋愛
・・・1760年頃パリでもっぱら流行していた恋
 3.肉体的恋愛
 4.虚栄恋愛

恋の7つの時期(過程)
1.感嘆
 2.どんなに嬉しいだろう云々
 3.希望
 4.恋が生まれる
 5.第1の
結晶作用
 6.疑惑が生まれる
 7.第2の
結晶作用

「結晶作用」について
ザルツブルクの塩抗で、冬に木の枝を廃坑の奥に投げ込んでおくと、2、3ヵ月後枝は結晶で覆われていて無数のダイヤモンドで飾られているよう、もとの小枝とは思えなくなるという事例をもとに恋の作用をスタンダールが解説した言葉として有名。
「目前に現れるあらゆることから、愛する相手が新しい美点をもつことを発見する精神の作用」とスタンダールは説明しています。

 

1.

●「アルマンス」●  ★★
 原題:“Armance” 

 

1826年発表


1977年9月
人文書院刊
スタンダール全集
第5巻

 

1978/08/27

スタンダールの第一作。そして、スタンダールの素晴らしさを始めて感じた作品ということで、私にとっては感慨深い作品です。
この作品の主題は、純愛への讃美という他ありません。貴族青年
オクターヴとその従妹で財産のないアルマンスとの間の恋愛物語。
アルマンスとオクターヴの愛には、端正な美しさが感じられます。2人の間では肉欲というものは全く問題にならず、障害となるのは2人の極度な倫理観。そうした2人の自己に対する厳しさが、自ずと愛の尊厳を高め、美しいものに仕上げています。
オクターヴは性的不能者であると指摘されていますが、本作品の主筋とは関係ないことのように思います。仮にオクターブを性的不能者とすることに意味があるとしたら、2人の愛について肉体的恋愛要素を排除する、ということでしょう。
アルマンスとオクターヴには堅苦しさも感じますが、結末に至る彼ら2人の愛の美しさには、圧倒されずにはいられません。
「恋愛論」を書いたスタンダールならではのことと思います。

 

2.

●「イタリア年代記」●   ★★☆
  原題:“Chroniques italiennes”

 

1837年以降発表


1977年10月
人文書院刊
スタンダール全集
第6巻

 

 

1993/07/18
2000/06/25

1833年ローマ滞在中に、スタンダールは16世紀の古記録を蒐集しました。それらをもとに書かれた中篇小説が、この「イタリア年代記」と総称される作品群です。
いずれも貴族階級の女性たちを主人公とし、その殆どは彼女らが初めて抱いた恋情の顛末を描いたストーリィです。一度恋を確信してしまうと、他のことを一切省みず自分の恋に突進してしまうという行動が、じつに印象的です。その恋愛の結果が死に結びついていることが、殊更にその情熱の激しさを物語っているようです。
「ロミオとジュリエット」のジュリエットを、もっと生き延びさせ、もっと恋情に執着させた、と言ったら想像がつくでしょうか。

中でも圧巻なのが「カストロの尼」
17歳の貴族の
娘エレナ・ダ・カンピレアーリと、22歳の野武士ジュリオ・ブランチフォルテの恋愛を描いた作品です。身分の差を越えて2人は純愛を貫くわけですが、エレナの父兄の反対と母親の策略によって、2人は切り離され、エレナはジュリオの死を信じこまされます。尼僧院長に収まったエレナは、美男子の司教チッタディーニと情交し、子を産むに至ったことから罪を問われることになります。エレナを脱獄させて救おうとカンピレアーリの奥方はエレナの獄に至りますが、ジュリオの生存を知ったエレナは、ジュリオに向けた悔悟の手紙を書いた後自害します。そのエレナの手紙には、ただ圧倒されます。
「ローマの貴婦人がたがみなしているように、あたしもなぜ身体だけの快楽を求めてはいけないのか、わからなくなってしまいました。みだらな気持ちを起こしたのでした。けれど、あの男に身は許しても、いやな不快な感情をおこさなかったことはただの一度もなく、快楽などまったくなるなるのでした。」(桑原武夫訳)
情熱恋愛
肉体的恋愛恋愛論参照)の2つを対比的に描き、エレナの自害によって肉体的恋愛に対する情熱恋愛の優位を謳った小説として、忘れ難い名作です。

他に気に入っている作品は、ベアトリーチェ・チェンチの毅然とした態度が印象的な「チェンチ一族」、スリリングな展開の「尼僧スコラスティカ」です。

ヴィットリア・アッコランボーニ Vittoria Accoramboni 1837.03
チェンチ一族 Les Cenci 1837.07
パリアノ公爵夫人 La Duchesse de Palliano 1838.08
カストロの尼 L'Abbesse de Castro 1839.02

深情け Trop de Faveur tue 1912.12遺稿から発表
尼僧スコラスティカ
−1740年にナポリ全市を震撼させた話− Suora Scolastica 死後発表、未完
サン・フランチェスコ−ア−リパ San Francesco-a-Ripa 1853.07
ヴァニナ・ヴァニニ Vanina Vanini 1829.12

 

3.

●「パルムの僧院」●  ★★☆
 原題:“La Chartreuse de Parma”

 

1839年発表


1977年6月
人文書院刊
スタンダール全集
第2巻


新潮文庫(上下)
岩波文庫(上下)

 

1992/10/31

小林信彦「世界でいちばん熱い島」がこの作品をモデルにしたと知り、20年ぶりに読み返しました。2週間半をかけてじっくり再読。そのストーリィの力強さに、改めて時代を超えて読み継がれている作品の底力を感じました。
ストーリィとしては、特にどうこういうものでは決してありません。
パルムという一公国内の権謀術策、その中での頼りない若い男女の恋物語が主筋で、歴史的にどうこうということもありません。
文学作品というより、大衆的な冒険小説と言うにふさわしく、それ故の面白さだった、と言えます。舞台設定も見事で、ストーリィのきめ細かさもなかなかのもの。主人公達男女2組の心情の絡みあい、それにまつわる人間関係、圧倒される読み応えがあります。
牢獄の中での
ファブリスクレリアの恋の様子も、細かな道具立てが2人の恋愛の進行状態を具体的に描き出しており、ロマンティックこのうえないものです。
2人の子の誘拐、その後の子供の死。クレリア、ファブリス、
公爵夫人と相次ぐ死。これらによって物語が急速に終息するところは、それまでの緩やかなストーリィ展開に比べると余りに早過ぎないかとも思いますが、一方で、その潔さ故に怠惰に陥ることなく見事に物語を終息し得たとして評価できるのかもしれません。

 

4.

●「アンリ・ブリュラールの生涯」●  ★★
 原題:“Vie de Henry Brulard”

 

1890年発表


1977年11月
人文書院刊
スタンダール全集
第7巻

 

1978/10/01

スタンダールの自伝的作品であり、死後に発表された未完の作品です。この作品については飽きることない興味をもって読み通しました。この作品は散文調で書かれていますが、そこにスタンダールの「書くことが生きがい」だという信条を見出し、興味を覚えたからです。
祖父の愛情や、父親と伯母の厳しい監視の下での少年期、同世代の子供達と交わることが許されたかった生い立ち、後の恋愛に対する非常な崇拝、それらの思い出が素朴に私の胸を打ちます。だからといって、陰惨な印象はありません。スタンダールの人格を形成するに至る少年期を、何よりも愛情深く見守ることができるからです。むしろ、パリに出てからのスタンダールの方が、面白みを欠くように思います。子供に過ぎないスタンダール、即ちアンリ・ベールの苦悩と安らぎに、人生の大いなる真実を感じるからです。
彼の少年期は現実として暗いものです。しかし、それにもかかわらず、一片の美しさを感じるのです。スタンダールの中に、美しいものへの強い讃美の心がある故と思います。

 

読書りすと(スタンダール作品)

 


 

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