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白馬・小谷と妙高の温泉 byやませみ


【第2回】 小谷温泉

小谷温泉は国道から中谷川を12kmほど遡った標高約850mにある高所の温泉です。開湯は弘治2年(1556)ころに元湯が発見されたという伝承がありますから、かれこれ450年になります。 「あつ湯・熱泉荘」「新湯・太田旅館」「元湯・山田旅館」という3軒の素敵な木造旅館があり、 それぞれに古い源泉を大切に守っています。

かつては農閑期には直江津や糸魚川からの湯治 客が多く、町ごと引っ越してきたような光景を呈していたそうで、今でも親子代々の湯治客が ずいぶん多いそうです。最近になって少し離れた上手に「村営雨飾荘」と「栃の樹亭」が開業して、登山基地にもなっています。

この周辺にはほかにも冷鉱泉ながら自然湧出の泉源があちこちで見出されていますから、小谷温泉の範囲はずいぶんと広いものと考えられています。山間の秘湯というと「昼なお暗い谷底」というイメージですが、小谷温泉は高台にあって明るく、自然林に囲まれているので健康的な環境に恵まれています。


新緑の小谷温泉
右が山田旅館、左が太田旅館 熱泉荘からの遠望


小谷温泉・あつ湯元「熱泉荘」

 TEL/0261-85-1241 無休 10-15時 500円

<掲示> 浴室前に分析表掲示(長野温協フォーム)
  あつゆ元熱泉荘(H1.8分析)
  Na-HCO3 58.0℃(使用位置42.0℃) pH=6.97 湧出量記載なし 自然湧出 蒸発残留物=2753mg/kg
  Na=708.2 Ca=50.5 K=18.2 Mg=16.1 Fe(II)=0.07 Cl=171.4 HCO3=1819 SO4=27.7
  H2SiO3=67.5 HBO2=24.3 CO2=209.2 総計=3114mg/kg

小谷温泉では最も下手に位置する。県道から少し奥に登った尾根上に建ち眺望は素晴らしく大 きい。進入路がかなり細いから大型の4駆などはやや苦労するかもしれない。旅館は古い建物 をほとんどそのまま使っているので、小谷温泉のなかでもいちばんの鄙びた雰囲気。静かに過 ごすには好適かと思う。泉源は横の沢を遡った奥に数カ所あるなかで最も低温のものを引いて おり、引湯してちょうど適温になる位置に宿を建てたのだというお話。

浴室は旅館より一段下に増築されたものだが、それでもかなり年季が入っている。男湯は2面が大きい窓なので明るく通風が良い。女湯も同様の作り。手作りっぽい径2.5mほどのコンクリ浴槽に、パイプ湯口から45℃の源泉が打たせ湯で15 L/minほども注がれている。とうぜん掛け流しだが、浴槽の両壁際に排水溝が切られているので床への溢れ出しはない。

トド化できないのがちょっと残念だけど、これは床へ析出が付くのを防ぐためであろう。無色透明に澄んだ湯は少し土類系の薬味があるとても柔らかい感触。山田旅館では感じなかった弱いつるすべ(1)をもっている。炭酸味もほとんどないので、引湯中にCO2が抜けてpHがやや高くなっていると推測。

滑らかなコンクリ浴槽の底には、灰色の粉状の析出がうっすらと溜まっていてやや滑りやすい。浴槽の内壁にはとげとげした緑灰色の析出がいっぱい付いているが、外傾斜になっているので背に直接あたらない構造になっている。「熱泉荘」というからさぞかし熱湯だろうと覚悟していたが、浴槽ではぴったり41℃の適温で、調整の妙に感心した。(2002.5.24)


熱泉荘の全景 左の白い増築部が浴室

簡素な浴室 打たせ湯で適温になっている



■ 小谷温泉「雨飾荘」

 TEL/0261-85-1607 無休 10-2030 300円 冬季休業

<掲示> 浴室前廊下に分析表掲示(長野温協フォーム)
  小谷温泉源泉(S61.11分析)
  Na-HCO3 52.1℃ pH=6.88 400 L/min 掘削180m・自噴 蒸発残留物=2351mg/kg
  Na=912.5 Ca=39.1 K=13.2 Mg=11.1 Fe(II)=0.3 Cl=97.1 HCO3=2437 SO4=3.2
  H2SiO3=71.9 HBO2=13.9 CO2=373.0 総計=3973mg/kg

山田旅館より上手に1kmくらい奥にある村営の大きなロッジ風の宿で、登山基地にもなっている。駐車場が広いから、夏秋の混雑時にはいちばん立ち寄りやすいかと思う。宿の少し上に有名な村営露天風呂(無料)があるが、ここには駐車スペースがないのでこちらから歩いたほうがよい。(この日は娘さん連れ御家族が入浴中だったので遠慮した)

浴室は2面が窓で明るく清潔。宿の収容人数に比較すると小さめだが、シーズンにはすぐ外にある大きな露天風呂にも湯が張られるそうだから心配ない。3x2mほどのタイル浴槽があるだけでシンプル。パイプ湯口から49℃くらいの源泉が40 L/minも大量に注がれ、全面的に溢れ出している。別パイプで5 L/minほど加水していても浴槽内ではかなり熱い。透明に澄んだ湯は、浸かっているあいだは弱いつるすべ(0.5)のみで軽い浴感だが、浴後の皮膚のテカテカ具合と爽快感はやっぱり濃い重曹泉ならではの優れたもの。金気や炭酸味が希薄なのでちょっと物足りない気もするけど、周囲の環境は抜群で健康感にあふれている。(2002.5.24)


明るく清潔な男性用内湯 掛け流し量が多い
 



小谷温泉・元湯「山田旅館」

 TEL/0261-85-1221 無休 10-15時 500円

<掲示> 脱衣所に分析表掲示
  小谷温泉元湯(H6.10分析)
  Na-HCO3 47.0℃ pH=6.8 86.6 L/min 自然湧出 蒸発残留物=1976mg/kg
  Na=707.8 Ca=41.9 K=11.2 Mg=13.4 Fe(II)=1.0 Cl=57.6 HCO3=2007
  H2SiO3=51.2 HBO2=12.7 CO2=415.4 総計=3323mg/kg
<参考> 浴室前に貼られている古い分析表(S29.9発行)
  重曹泉 47℃ pH=6.7 ラドン含量=1.3886 M.E.

木造3層の建物が有名な老舗旅館。元湯浴室を中央にはさんで江戸末期建造の本館と大正期の新館が並び壮観。古い写真ではどちらも障子と濡れ縁があるだけできわめて開放的なつくりだが、さすがに冬はこれでは寒いし老朽化も速いのでアルミサッシの外窓が新たに取り付けられている。最近になって鉄筋の別館が増築されたが、まったく周囲の情景と釣り合っていないので、もちっと作りようがあったのではないかと疑問に思う。これに合わせて「健康館」という現代風の浴室も設けられている。


木造3層の新館部 中央が元湯浴

元湯浴室の入り口
<元湯>
浴室の正面は写真のように古色蒼然としているが、内部は昭和40年代の共同湯みたいなつくり。浴槽は2mの正方形で深め、硬質コンクリに石片を混ぜた人造石のもの。床には滑りどめにマットが敷かれているがサビ色に変色して見た目は良くない。これを剥いでみると下はベージュ色のカラータイルになっていて、ぐっとモダンな雰囲気になる。浴槽の脇に直接に寝湯がついているのは珍しい。

置かれた木枕に析出が浸透して、石だか木だかわからないくらいに固まっているのが妙に愛嬌がある。浴槽横から高さ2mくらいの湯滝で約40 L/minの源泉が落下しており、裏側には長年の析出で石灰華の柱が見事にできあがっている。打たせ湯にするにはやや熱くて勢いがありすぎるので辛いが、囲われているので飛沫が散らなくて具合がすこぶる良い。

湯は薄いこぶだしのような味に明瞭で新鮮な鉄風味がついて美味しい。石灰のような淡い温泉臭も漂う。浴槽では微妙に濁った淡い緑色に見える。打たせ湯で揉まれるせいか炭酸はほとんど抜けているのが少し残念。つるすべはまったくなく浴感はあっさりとしているが、不思議に全身を包み込むような重厚な圧力感がある。浴後は粉っぽくさらさらした感触で、温もりというより爽快さのほうが勝っているから何度浸かってもあまり身体への負担は少ない気がする。

なお、パンフやガイドには「ラドンを含む」と書いてあるが、測定値はたいへん低いのであまり効果は期待できないと思う。


元湯の男湯 一人用の寝湯がついている

湯滝にできた石灰華の断面(資料館に展示)
<健康館>
新館前の駐車場下に増築したもの。いわゆる普通の観光旅館浴室で、ぶくぶく付きの真湯浴槽(循環だがなぜか超熱い)と小さい露天の温泉浴槽(掛け流しだがなぜか超ぬるい)がある。元湯の洗い場のカランは水しか出ないので、身体を洗うにはこっちが好都合だが、これといって特徴はない。

<資料館>
本館の脇に蔵を改造した資料館ができており無料で見学できる。1階は古い家財道具や民具に混じって歴代の分析表や写真なども多数置かれていて興味深い。2階は古文書や美術品が収蔵されている。火災から守る意味もあるのだろうが、旅館内にはこういったものは一切置かれていないので、きわめてすっきりしている。古箪笥だの鎧だの蓑笠だのと雑然と並べて、とかく民芸調になりがちなある種の宿の方向とは一線を画す老舗らしい奥ゆかしさが感じられて好印象。

<宿泊>
新館1階に泊めていただいた。最初は3階の部屋のはずだったのだが、連れが階段をしんどそうにしているのを案内のお姉さん(若女将か?)が見てすぐに替えてくれた。廊下の人通りが喧しいのが難だけど、元湯にいちばん近いので風呂の空き具合がわかって都合が良かった。古いほうの本館1階は家人の居室にもなっていてあまり使われないようだが、大座敷なのでグループなら借りられるようだ。本館2階は共同台所が近いから自炊客はこちらになるのだろう。

全体に掃除が完璧に行き届いていて、古いながらも清潔感にあふれていて快適。ただ、布団が昔サイズでやや小さめなので、背の高い人は足がはみ出るかもしれない。食事は基本的に食堂ですが、2日目は混んできたので少人数客は部屋食になった。両日ともなかなか豪華版で山菜も多く、じゅうぶんに満足できる内容でありました。(2002.5.23-25)


本館2階の外廊下 
創業時の看板が掲げられている

明治初期の本館 
内部はほとんど造営時のまま


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