byやませみ


7 関東周辺の温泉

7-2 草津・万座

7-2-2(1) 草津白根山周辺の温泉(1) 未利用の温泉

草津白根山の周辺には、草津・万座のほかにもたくさんの噴気や湧泉が分布しています。また、かつて硫黄や鉄が採掘された鉱山跡や坑道からも温泉が湧出しています。これらの大部分は未利用で放置されていますが、温泉の成因を考えるうえで興味深いものもあるので、ひととおり概観してみましょう。

【まずはご注意】
噴気に含まれる有毒ガスは空気より重いため、風のない日などは窪地に濃集していることがあります。群馬県では白根山全域の硫化水素発生危険予想図を作成し、自動監視装置を各所において警報を出すようにしていますが、少しでもおかしいなと感じたらすぐに退去するように心がけてください。硫化水素濃度が高くなると、かえって臭気を感じなくなるので非常に危険です。
また、白根山一帯は国立公園内ですので、むやみに掘り返したり浴槽を設置したりの行為は禁じられています。

草津白根山周辺のランドサット映像

図7-2-2-1 草津白根山周辺の噴気・湧泉

 記号は本文に対応
  1:湯釜 2:白根山頂北部 3:水釜東壁 4:香草温泉 5:神風坑 6:常布の滝
  7:群馬鉄山(穴地獄) 8:殺生河原 9:振子沢 10:嫗仙の滝 11:石津坑
  

1) 湯釜 
含Fe-Al・Ca-Cl・SO4 2〜25℃ pH=1.0〜1.1 溶存成分 7.63〜5.59g/kg
静穏なときの湯釜は美しい青緑色の湖水を湛え、魅力的な観光スポットとなっています。白根火山の涸釜、湯釜、水釜の3火口のうち、湯釜がもっとも活動的で、近年でもしばしば水蒸気爆発を起こして立入禁止になります。平常の湖水は気温より10〜12℃高いだけですが、噴火時には湖底から噴き出す火山ガスで超高温になり、湖水がほとんど蒸発することもあるそうです。強い酸性をしめす世界的にも珍しい「酸性湖」として有名ですが、pHがマイナスの価をとる酸性湖も知られているので、残念ながら「世界一」ではありません。

湖水が濁っているのは大量のコロイド硫黄が浮遊しているためで、湖底には大量の硫黄が沈殿しており、かつては工業用に採掘されていました。今でもときどき、湖底から熱水とともに黄色い硫黄の泥水がわき上がってくるのが観察されることがあります。

2) 白根山頂北部湧泉
単純酸性泉 94.5℃ pH=2.7 溶存成分0.175g/kg (1980m地点)
湯釜火口の北山麓の標高2000m付近にいくつかの噴気口が散在し、少量の噴気凝縮水がつくられています。高温ですが成分はきわめて薄いものです。

3) 水釜東壁湧泉
単純温泉(Ca−SO4) 95℃ pH=2.4 溶存成分0.546g/kg
湯釜に隣接して旧火口の水釜があり、東壁に少量の高温湧泉がみられます。

4) 香草(かくさ)温泉
含Fe−Al-SO4・Cl 55〜66℃ pH=1.1〜1.6 溶存成分14.444g/kg(7号泉)
白根山頂から約2km東方、毒水沢の標高1700m付近の左岸岸壁から湧出する温泉群です。上下100mほどの区間に10カ所ほどの湧出口がみられ、下から1号泉〜10号泉とよばれています。下流3カ所と上流7カ所は離れており、上流の方が温度・成分量が高くなっています。白根火山周辺の温泉では最も低いpH、とび抜けて濃い成分量をもつことで、地下深部から温泉の素が直に出てきたようなものだと考えられています。残念ながら湧出量はいずれも少なく、地理的条件も悪いため未利用で放置されています。

5) 神風坑内湧泉
Ca・Mg−Cl・SO4 50.2℃ pH=6.1 溶存成分4.044g/kg
入道沢の上流、かつての硫黄鉱山の採掘跡の坑内から湧出する温泉です。この周辺では珍しく中性に近いpHで、石津坑内湧泉(11)と似た性質をもっています。火山体の地下にはこのような中性の温泉水が大量に貯えられているのではないかと推測できます。

6) 常布(じょうふ)の滝湧泉
含Fe-Al−SO4・Cl 29〜33 ℃ pH= 2.5〜3.0 溶存成分4.061g/kg
常布の滝一帯の溶岩層の底部から浸出しています。Fe(II)イオンを100mg/kg以上も含む、たいへん 濃い緑バン泉なので、周囲の岩は赤茶色の析出物でにペンキを塗ったようになっています。香草温泉 が表流水で希釈されたようなものだと思われます。 なお、下流200mに湧出する泉源に露天風呂が作られてますから、入湯された方も多いと思いますが、 こちらは滝に出るものとは泉質が異なるようです。

7) 群馬鉄山(穴地獄)湧泉
含Fe-Al−SO4・Cl 17〜25℃ pH=2.5〜3.1  溶存成分2.577g/kg
かつて釜石に次ぐ産鉄量を誇った群馬鉄山の採掘跡から湧出する酸性冷鉱泉です。特有のコケ類が生育するため特別に保護されています。現・鋼管鉱業の所有地なので、立ち入りには許可を得てください。なお、鋼管鉱業休暇村にはボーリングでアルカリ性の温泉が湧出するそうですが、詳しいDATAが見つからなかったので図にはのせませんでした。

8) 殺生河原
単純硫黄泉(H2S=798mg/L) 95.0℃ pH=4.1 溶存成分0.052g/kg
噴気ガスのため樹木が枯れて地獄の風景になっています。噴気の成分は約96%が水蒸気ですが、残りのガス成分のうち65%が炭酸ガス(CO2)、35%が硫化水素(H2S)、0.1%が二酸化硫黄(SO2)となっています。これらの噴気の一部が冷えて凝縮し、温泉溜まりになっているところがあり、豪快な噴気からみてさぞかし強烈な温泉ができているかと思いきや、成分は案外うすいものです。草津温泉のもとはここの地下で作られていると推定されていますが、このような噴気はその抜け殻といえるものです。

9) 振子沢ボーリング孔
単純硫黄泉(H2S=150mg/L) 87.0℃ pH=3.90
振子沢で行われた噴気採取試験のボーリング孔で採取された温泉で、現在は封止されています。

10) 嫗仙(おうせん)の滝湧泉
(Al・Ca-SO4・Cl) 23.7℃ pH=2.4+ 溶存成分0.959g/kg
隠れた観光名所の嫗仙の滝ですが、この中ほどからの湧水は温泉に近い温度・成分をもっています。滝の上部は緻密な岩盤(溶結凝灰岩)ですが、中〜下部はやわらかい火砕流堆積物になっていて、その境目からの湧水で岩肌が少し赤っぽくなっています。草津温泉の一部が地下を浸透して地下水と混合流下してきたものと考えられています。

11) 石津坑内湧泉
Ca・Mg・Na−SO4・HCO3 61.0℃ pH=6.2 溶存成分1.367g/kg
本白根山の南山麓でかつて硫黄を採掘した鉱山跡があり、その坑内に湧出する温泉です。神風坑内湧泉(5)と同じくほぼ中性のpHを示す石膏泉型の泉質をもっています。
ここでは1968〜1985年に地熱開発調査が行われ、5本のボーリング(最長1500m)が試掘されました。白根山周辺のボーリングはほとんど行われてないため、貴重な資料を提供してくれます。このボーリングの掘削途中には大量の硫黄を含む強酸性熱水の突出があり、長さ40mにわたって溶融硫黄でパイプが詰まるという珍しい現象が生じました。


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