byやませみ

5 温泉の化学

5-6 アルカリ性泉

pHが8.5以上の性質を示す温泉をアルカリ性泉といいます。入浴したときにつるつるすべすべする肌触りがとても気持ちいいので、女性にはとくに人気のある温泉です。ところが、アルカリ性泉がどうやってできるのか、なぜつるつるになるのか、肝心の点についてはまだ謎の多い泉質でもあります。



5-6-1 アルカリ性泉の分布と泉質

日本のアルカリ性泉の分布

pH値の入手できたアルカリ性泉696カ所の分布を下図に示しました。このうちpH9.5以上は109カ所、pH10以上は44カ所あります。ここで仮にpH9.5以上を強アルカリ性泉としてみると、分布がとくに集中してくる地域がいくつかみられます。

 1) 阿武隈山地から八溝山系
 2) 関東山地南部から丹沢山地
 3) 天竜〜奥三河地域
 4) 美濃山地
 5) 四国西部

図の左側の地質分布では赤系は新期の火山、青系は第三紀以降の若い堆積層ですが、見比べてみると これらの地域はいずれにもなく、白抜き部分の古期岩類(中古生層・花崗岩類)の分布域になっていることがわかります。火山や厚い堆積層がなければ、高温泉や湧出量の多い大規模温泉は形成されにくいのですが、替わりに小規模なアルカリ性泉がたくさんつくられていることになります。まことに地球の粋な計らいですが、このことはどうしてアルカリ性になるかという点を知るうえでとても重要です。




図5-6-1-1 アルカリ性泉の分布

アルカリ性泉の泉質

ひとくちにアルカリ性泉といっても、含まれる泉質は多様です。下図ではpH7.5以上の弱アルカリ性泉も含めて、pH0.2刻みの温泉地数の頻度分布をつくってみました(複数源泉では主力源泉で代表)。pH8.5あたりまでは、塩類泉も半数以上あることがわかります。

とくにpH8.0〜8.8あたりには炭酸水素塩泉や硫酸塩泉もたくさんあり、いわゆる「美人の湯」として有名な温泉が揃っています。ところが、これより高アルカリ性になると塩類泉の割合は急激に減少し、単純温泉が主体になっていきます。溶存成分が濃厚だと高アルカリ性になれない要因が何かありそうです。

さて、この図中で「単純温泉ほか」に分類した温泉の なかには、アルカリ性単純温泉・単純硫黄泉・単純放射能泉といった立派な泉質名がついているものの他に、泉質名のつけられない、いわゆる規定泉(温泉法の規定に該当する)の冷鉱泉も相当数あります。上記の強アルカリ性泉分布域にある温泉の大半がこのようなものです。

また、強アルカリ性泉は湧出量が非常に少ないことが一般的で、未利用で放置・廃棄されている源泉も多いのは残念なことです。分析は実施したものの、台帳には登録されない源泉も相当数あると思われるので、これらを含めれば強アルカリ性泉の総数はもっと多くなるでしょう。



図5-6-1-2 アルカリ性泉のpH頻度分布と泉質


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