byやませみ

5 温泉の化学

5-4 酸性泉

いろんな泉質の温泉があるなかで、酸性泉はとても特殊な位置を占めています。この章では、酸性泉とほかの温泉はどう違っているのか、酸性泉はどうやって出来るのかに焦点を当てて見ていくことにします。


5-4-1 日本の温泉のpH

まずは下の図をご覧下さい。これは全国2671カ所の温泉地について、pHを0.25ごとに区切ったときの温泉件数と総湧出量(棒グラフ)、平均温度(折れ線グラフ)を集計したものです。個々の源泉について集計したものではないので正確さの点では劣りますが、実態はかなり把握できているものと思います。




図5-4-1 pHを0.25毎に区分したときの温泉地件数・総湧出量・平均温度

温泉地の件数・湧出量ともに、大部分はpH6〜10の間にあって、pH8前後で最大になります。分布の山は中性(pH7)よりも大きくアルカリ(塩基)性の側によっていて、日本の温泉は中性〜弱アルカリ性のものが圧倒的に多いことがわかります。pH9以上の強アルカリ性泉は意外に数が多いですが、統計分布からは弱アルカリ性泉の特殊なものとみることができるようです。強アルカリ性泉の平均温度はかなり低くなっています。このあたりにアルカリ性が強くなる原因がありそうですが、これについてはまた別の章でとりあげます。

酸性領域のほうに眼をうつしますと、件数・湧出量ともに少ないのに対して、平均温度がたいへん高いのが一目瞭然ですね。さらにpH2以下のいわゆる強酸性泉だと、一件あたりの湧出量が非常に大きいことも特徴です。グラフでみると、pH4〜5のあたりに分布の谷間があり、酸性泉と中性〜弱アルカリ性泉とはなにか別の成因で出来ていることがうかがえます。

もう少しpHのようすを吟味してみましょう。下図は累積頻度の一種で、確率分布という概念を適用したものです。このグラフで直線的な分布をとるものは同一の性質を持つ集団で、たとえば身長とか試験の点数とかが相当します。人間の身長とサルの身長を同時に図示すると、2本の直線として現れてきます。

さて、図ではpH〜3.0と、pH5.6〜の2本の直線に分かれて見えます。pH3.0〜5.6の間は2つの分布の混合したものと見ることができます。やや専門的でしたが、酸性泉の特殊性がより明らかになったように思います。



図5-4-2 pHの統計分布(確率分布)

泉質名とpHの関係

見慣れない図ばかり出て恐縮ですがもう一つ。
下図は各温泉につけられた泉質名を、pHごとにカウントしてみたものです。中〜弱アルカリ性には塩化物泉が多く、やや酸性になると炭酸水素塩泉(炭酸泉を含む)が支配的になり、酸性泉のほとんどが硫酸塩泉からできていることがわかります。

硫酸塩泉は酸性のものと、弱アルカリ性のものの2種類あるのが妙な感じですが、先にバラしますと、前者には硫酸水素イオン(HSO
4-)が伴ってくるために酸性になっているのです。同様に、酸性領域にも塩化物泉が少し存在するのが見えますが、これは食塩泉ではなく、塩酸(HCl)による塩素イオンが多く含まれているためです。
(つづく)



図5-4-3 pHごとの泉質名のカウント 


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