byやませみ

2 温泉の分類いろいろ

2-4 成因による分類 火山性温泉と非火山性温泉

温泉は温度・湧出量・泉質や湧出形態など、とても多種多様です。まったく同じ温泉はないといってもいいでしょう。そのことが温泉ファンを温泉めぐりに熱中させているわけです。この多様さは温泉の成り立ち方(成因)が複雑にからんでいます。人間の性格がその生い立ちでさまざまに形成されていくのと同じです。

温泉ができるためには、1) 熱、2) 水、3) 成分、の3要素が必要です。各要素にはそれぞれ別個に複数の起源があって、それが組合わさって温泉の成因のバリエーションを形成しています。

1) 熱源のいろいろ

A) マグマ熱源
a-1) マグマ溜まりの熱 現在みられる火山の地下には、溶融状態の高温マグマ溜まりが存在し、膨大な熱エネルギーを放出しています。
a-2) 高温岩体の熱 比較的古い火山のマグマ溜まりは、ほとんど固結した現在でも高温を保って熱エネルギーを放出し続けています。
a-3) 貫入岩体の熱 マグマが枝状に分岐して岩盤中にはいりこんで固まった岩石(岩脈とか迸入岩ともいう)。地表にはまったく火山の形跡はなくても、地下の貫入岩が若干の熱エネルギーを保持していることがあります。

B) 非マグマ熱源
b-1) 自然地温の熱 ほとんどの岩石に微量含まれる放射性元素の崩壊熱によって、地殻は平均的に僅かずつ熱エネルギーを放出しています。地下深部では温泉ができるのに充分な温度になっています。
b-2) 地殻運動の熱 断層や褶曲などの地殻運動で岩盤が変形するときには、摩擦や圧縮で熱エネルギーが発生します。とくに活断層が運動するときの摩擦熱は意外に大きいことがわかってきました。
b-3) 放射性元素の熱 放射性元素を多く含む岩石では、自然地温を上回る熱を発生していることがあります。花崗岩にはその性質があるといわれています。

2) 水源のいろいろ

C) 循環水
地球上にあるふつうの水が地下の熱源で温められて温泉の水源となったものです。
c-1) 天水 地表に降った雨、雪などを総称して天水といいます。いわゆる淡水です。
c-2) 海水 海の水です。現海水と地層に閉じ込められた化石海水があります。

D) マグマ水
マグマが冷えて固結するときに岩石にとりこまれなかった水分です。熱水ともよばれます。一度も地表に出たことがないという点で、初生水とよばれたこともありましたが、いまではそのほとんどがプレート運動でマントル中に押し込まれたかつての地表水だったと考えられています。

E) 変成水
地殻の岩石が非常に大きい温度・圧力状態にさらされると、岩石の結晶が再構成されて変成岩というのになります。このときに絞り出された水分です。いまもなお実態はよくわかっていませんが、一部の温泉の水源ではないかと考えられています。

3) 成分源のいろいろ

F) マグマ水成分
マグマ水に含まれる成分です。熱水溶液ともよばれます。非常に高い濃度の成分を含んでいます。ガス成分にも富んでいます。

G) 岩石溶出成分
岩石中の鉱物に含まれる成分です。水に触れると少しずつ溶け出してきます。
H) 海水成分
海水にはほとんどあらゆる種類の成分が含まれています。
I) 有機成分
生命活動によってつくられた成分です。炭化水素など。

あれあれたくさんならんじゃいました。これを全部掛け合わせると6×4×4=96通りもの成因分類になっちゃいます。しかし96通りのすべてが同じ割合で出現しているわけではないので。比較的よく現れる温泉の成因について、温泉学者は以下のような分類をしています。料理に例えると定番のメニューといったところです。もちろん特別メニューのような変わった成因の温泉もたまにあります。サンマ塩焼きは今日のおかずの定番だけど、サンマ踊り食いは料理ブックには載らないぞ、といった感じです。

主要な成因による温泉の分類
註)おもに酒井・大木(1978)の分類に筆者が勝手に付加

A) 火山性温泉
熱源は主にマグマ熱で、水源は主に循環水、岩石溶出成分にマグマ水成分が加わったものです。高温泉が多いことや、泉質の多様さが特徴です。酸性泉や硫化水素泉のほとんどはこのタイプ。現在の火山の周囲に分布するほかに、日本のあちこちには時代の古いマグマ活動の痕跡があり、火山性温泉の名残のような温泉があります。

B) 非火山性温泉
B1) 海岸温泉:温泉水の主体が現海水からなるものです。熱源はいろいろです。泉質はとうぜんのことながら食塩泉ですが、イオン成分比はかなり変化しています。
B2) 深層地下水型温泉:温泉水の主体が循環水で、主に自然地温で温度が上昇したものです。含有成分量が希薄な温泉が多く、地下の地質により変化します。日本の平野部の地下に広く分布しています。
B3) 化石海水型温泉:古い海水が地下に封鎖されて温度上昇したものです、有機成分が多いのが特徴で、石油や天然ガスを含んで油田かん水になっていることもあります。マグマ熱が加わって高温になっていることもあります。関東平野や新潟平野によく出ます。
B4) グリーンタフ型温泉:大昔の海底火山活動で岩石中に固定された海水成分が、現在の循環水に溶出してきたものです。硫酸塩泉や食塩泉が多く、日本海側によく出ます。火山性温泉の化石ともいえますが、非火山性温泉に含めるのが一般的です。

C) 特殊な温泉
C1) 活断層にともなう温泉:活断層の摩擦熱で温度上昇した循環水です。
C2) 有馬型温泉:最も謎の多い温泉です。非常に濃い食塩泉で、重金属に富む特徴があります。数は多くありません。
C3) 放射能泉:放射性元素のイオンやガスに富む温泉です。単純温泉にともなうものと有馬型温泉にともなうものがあります。西日本に多く出ます。


個々の温泉がどういった成因で出来上がっているのか、と思いを巡らすのはとても楽しいことです。しかし、ある温泉学者が指摘しているように、充分な科学的証拠もなしに泉質などから単純に温泉型の分類にあてはめてしまうのは、大変に不用意なことです。人間の性格と同じように、温泉にもそれぞれの個性があり、その良さを見失うことになってしまうからです。

では以下の章からは、各温泉型の成因について現在までにわかっていることをお話ししましょう。

[2-4章 参考図書・参考文献]


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