K65.北の丸露場の風速減率と周辺の森林遮蔽率


著者:近藤 純正・與語基宏
東京都心の気象観測所は大手町から北の丸公園に移転される予定である。移転に先立ち、 2011年8月から試験観測が行われている。その観測資料によれば、晴天日中の最高気温 は森林内の北の丸露場が市街地の大手町露場よりも高温、夜間は逆に北の丸露場が 低温である。その主な理由は、北の丸露場の周辺に成長した過密な樹木が露場風速を 弱め、熱拡散が不十分であるからである。北の丸露場内の露場風速は、露場空間の 広さの割に弱い。
本章では、露場風速の弱化の原因として、雑草の場合と樹木の場合について考察する。 雑草の場合は露場空間に占める雑草地の面積率、樹木の場合は枝・葉が天空を遮る 遮蔽率をパラメータとして用いる。 (完成:2013年4月15日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新記録
2013年2月24日:筋書きの作成
2013年2月27日:備考、及び検定板のスリットの寸法などを追記
2013年3月24日:付録を追加(未完成)
2013年3月25日:図65.11は 12~1月の落葉期の図に取替え
2013年3月31日:付録に付録2を加筆
2013年4月14日:森林蔽率の測定結果を追加


  目次
        65.1 はしがき
        65.2 北の丸露場の露場風の特徴
        65.3 北の丸露場における周辺樹木の仰角分布
        65.4  森林の遮蔽率の測定
        65.5  露場広さ範囲内の樹木・雑草による風速の弱化
           その1:雑草の場合(面積率との関係)
           その2:樹木の場合(遮蔽率との関係)
        65.6 まとめ
        参考文献

        付録  北の丸露場の周辺環境の測定データ
           付録1 森林遮蔽率
           付録2 仰角α、樹高 h、露場広さ X


北の丸露場における露場風速の観測、周辺樹木の測量は気象庁観測部の 協力によるものである。

65.1 はしがき

東京の北の丸公園は、長期にわたり環境の変化が少ないとして、大手町露場の移転先 と考えられ、2011年8月から試験観測が行われている。試験観測の結果によれば、 晴天日中の気温は森林内の北の丸露場が市街地の大手町露場より1℃ほど高温、 平均値で0.5℃ほど高温となり、夜間は逆に北の丸露場が平均値で1℃ほど低温となる。 したがって、気温の日変化幅(気温日較差)は北の丸露場が曇天・雨天を含め年平均値 で1.3℃も大きい。

詳しくは、「研究の指針」の「K60.森林の開放空間 “日だまり”の気温」の図60.7と、「K54.日だまり効果 と気温:東京新露場」の表54.1を参照のこと。

気象庁が実施している通常の気象観測の目的は、観測所周辺の数km範囲を代表する 気象を知ることであり、観測所の条件として風通りが良いことが重要である。 しかし、林内に開設された露場付近は風が弱く、熱拡散が不十分なため北の丸露場 における気温日変化幅が大きくなると考えられる。

気象庁観測部では露場環境を知るために、2012年6月から大手町露場と北の丸露場の 高度2mで風速の観測を行っている。その観測資料を解析してみると、大手町露場は 周辺に高層ビルが多いが、南北方向に「風のみち」があり、露場空間の広さの割に 風通しがよい。他方、北の丸露場では他の森林内の開放空間で得られた風速の 50~80%で、かなり弱いことがわかってきた。

詳細は「研究の指針」の「K63.露場風速の解析-北の丸と 大手町」を参照のこと。

北の丸露場の風通りが悪い原因として、次のことが考えられる。
(1)露場が周辺より約2mの高さに土盛りされており、露場風速の観測高度が森林の 樹冠層(幹層の上の層)の高度、つまり林内の風速鉛直分布の弱風層にあること。

(2)露場の土盛りが林内の幹層を吹く風に対して障害物として作用し、露場および 露場周辺の風速を弱めている。ただし、土盛りによって、露場面は高くなり、 上空からの風は入り易く、風速を逆に強くする効果もある。

(3)露場空間の広さ「露場の広さ1、2」(X/<h>、<X/h>)で定義される 広さの範囲内に仰角αを測った樹木よりも低い樹木が多く存在し、森林内の風を 弱めていること。

ここに、X/h=tanαで定義するとき、h は測量器の視野内で見えるもっとも高い樹木 の樹高、X はその樹木までの水平距離、<>は全方位360°の平均値を表す。

本章では、北の丸露場の風速が弱い原因について考察し、各地観測所の環境を維持 管理する場合の参考とするものである。

露場の広さの定義

○方位別の露場の広さ=X/h=1/tanα

森林など樹木群の場合、仰角αを測る対象物の高さ h は視野内に見えるもっとも高い 樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離が X である。
方位は測風塔風向と同じ方向、北は0°、東は90°、・・・である
X は水平距離(m)、露場広さの実距離
hは樹高・建物などの高さ(m)
αは露場の中心(または露場中心付近)から測ったhを見上げたときの仰角

露場通風率と X/h の関係を表す場合、X/h は方位±20°範囲の平均値を用いる (方位5°間隔で測った場合は仰角9点、方位10°間隔の場合は5点の平均値)

○露場広さの範囲内にある草地など障害物の面積率

露場周辺に森林がある観測所では、通常、 h の手前には背丈の低い樹木や雑草が 存在することが多く、それら灌木・雑草から露場中心までの距離は 概略 0.9X 程度である。露場広さ X の範囲内の雑草などの影響により露場風速が 弱化する割合を検討するときに用いる「露場の広さ範囲内」とは概略 0.9X を指す。

よく管理された露場の場合、その範囲内は手入れされた芝生で覆われている。 手入れが疎かになり背丈が1~3mほどの雑草が生えた場合、その面積の露場広さに 対する面積の割合を「障害物の面積率」と呼ぶ。筑波大学の観測圃場内の雑草の面積率に 相当する。ただし、この雑草は生態系調査目的で残されたものである。

○露場広さ範囲内に存在する樹木の密度(森林の遮蔽率)

樹木の場合、上記の面積率の定義が明確でなくなる。この場合は、測定上の便利さから 樹木の枝・葉を地面に投影したときの空間密度(遮蔽率:しゃへいりつ)を用いる。 すなわち、地面から垂直に天空を見たとき、枝・葉で天空が隠される面積の割合で あり、放射温度計を用いて測定する方法が容易である。この方法を北の丸露場に おいて用いる(後述)。

近接樹木の距離 Op: 気象観測露場の中心から、もっとも近い距離にある樹木 の枝・葉(風を弱める地物)までの距離を「近接樹木までの水平距離(略して、近接 樹木の距離)Op 」と定義する。Op は露場近くの開けた空間の範囲のことであり、 北の丸露場については付録で示されている。

65.2 北の丸露場の露場風の特徴

図65.1は水平方向に広い森林内の風速鉛直分布の模式図である。風速は葉・枝から なる樹冠層のレベルで弱く、その下の幹層のレベルで少し強い。

森林内風速摸式図
図65.1 森林内の風速鉛直分布の模式図(Kondo・Akashi,1976; Watanabe・Kondo,1992; 渡辺、1994、の図9.4に基づく)。

北の丸露場における風速が他の開放空間において得た関係よりも弱い原因の一つとして、 北の丸露場は土盛りされており、露場面は周囲の林床より2mほど高く、露場面上の 高度は樹冠層のレベルに相当している。

これ以外の原因を探るために、すでに他の章で示した図( 「K63.露場風速の解析―北の丸と大手町」の図63.3および図63.4)を詳しく見 てみよう。

図65.2は北の丸露場で得た、露場の広さと露場通風率の関係である。横軸=3.4~4.2 にプロットされた4個の丸印は、測風塔風向が130~190°(南東~南)のとき、 横軸=2.6~2.65にプロットされた2個の丸印は測風塔風向が30~50°(北東)の ときの値である。

北の丸露場通風率
図65.2 北の丸露場の方位別露場の広さと露場通風率の関係(2012年6月)、 「K63.露場風速の解析―北の丸と大手町」の図63.3の 再掲、ただし北の丸露場のうち、観測時間が延べ1000分以上のデータのみを プロットしてある。赤星印は2012年1月30日(測風塔風向が北北西、風速=4.4m/sの とき)に露場下の南東側で熱線風速計によって観測した60分間データから得た値 である。

図中の破線は、これまでの平坦地の森林内の開放空間において得た実験式で、露場の 広さの範囲内には大きな障害物が無い場合である。

実験式(破線)に比べると、露場通風率が低下する割合は北東の風向(測風塔風向)の とき平均は76%(=32/42)、南東~南南西の風向のとき平均は55%(=28/51) であり、北の丸露場の風速は特別に弱い(各プロットの値は表65.2に示す)。

図65.3は測風塔風向と露場風向の差(縦軸)の測風塔風向(横軸)依存性である。 風向差の絶対値が小さい部分は緑の長方形で囲み、風向差が特に大きい部分は赤丸 および紫四角で囲んである。一般風の風向(測風塔風向)は北北東~東北東 (20~70°)と東南東~南南西(110~200°)で頻度が高く、南西~西北西 (225~290°)の風はほとんど無い。

北の丸風向ずれ
図65.3 露場風向のずれの測風塔風向依存性(2012年6月)。 「K63.露場風速の解析―北の丸と大手町」の図63.4の 再掲、ただし北の丸露場のみ取り出したもので、緑の長方形で囲んだ部分は風向差が ±45°以内の小さい範囲を示す。

図65.4は理解を容易にするために描いたもので、一般風すなわち測風塔風向(縦軸) と露場風向(横軸)を直接比較したものである。緑の長方形と、赤丸印と紫四角印 は図65.3のそれぞれに対応している。測風塔風向が北東のとき、露場の北東側は 背丈の高い樹木が多く(図65.5、図65.13、および図65.15の赤線を参照)、露場の風向 は相対的に開けた北西と南東から回りこんで吹くことになる。

露場対測風塔の風向
図65.4 測風塔風向(縦軸)と北の丸露場の風向(横軸)の関係(2012年6月)。

以上の図からわかることを表65.1にまとめた。


表65.1 北の丸露場の露場風の特徴(2012年6月)
   図の記号    測風塔風向     露場の風向・風速
    紫四角(大) 北北東~北東  西~北西にずれ、風速は実験式の78%程度
    赤丸(大)  北東      南東にずれ、風速は実験式の74%程度
    赤丸(小)  南東      一部南南西にずれ、風速は実験式の55%程度
    紫四角(小) 南南西     南東にずれ、風速は実験式の55%程度

  備考:測風塔風向が南東~南のとき、露場風向も同じ南東~南の頻度は高い。


備考:風の道
北の丸露場では、測風塔の風向きが北東のとき露場風向は大きく変わり北西寄りまたは 南東寄りとなる。これは「風の道」を意味している。つまり、仰角が低い方位(露場 広さが大きい方位)に風が入りやすく通り抜けやすいのである。
大手町露場では仰角の低い南の皇居の方位から南北方向に走る道路が風の道となって おり(「K63.露場風速の解析ー北の丸と大手町」の図63.2(b)と 図63.4を参照)、また館野では樹木・建物の仰角が低い方向から風がまわりこんでくる (「K62.露場風速の解析ー館野」の図62.5と図62.6を 参照)。
静岡では露場の北側に庁舎、南側にマンションや住宅があり、東西方向の仰角が低く 開けており、露場では南北の風はほとんど吹かず、東西の風となる (「K61.露場風速の解析ー静岡」の図61.4(上図)を参照)。

65.3 北の丸露場における周辺樹木の仰角分布

表65.1に示した特徴によれば、プロットの多くは風向のずれが±45°以内であるが、 一般風が北東寄りのとき露場風向は+90°または-90°ずれて北西または南東の風と なる。ただし、プロットのばらつきは大きく、測風塔風向が北東寄りの風は露場では 渦をまく不定の風になるというのが実態である。

その他の風向も含めると露場風向は南東~南の風が多い。

この特徴を方位別の樹木の仰角分布(図65.5)から考察してみよう。露場から測定 した仰角(緑実線)は110~180°(南東側)と270~320°(北西側)で小さくなって おり、風はこの低い方向を迂回して露場に吹き込んでくることがわかる。

仰角分布
図65.5 露場周辺の樹木の仰角の方位角依存性。緑実線は露場から測定した値 (仰角平均値=18.0°)、黒の実線と破線は露場面より2mほど低い露場外の東南東 の場所で測った値(仰角平均値=23.6°)と南南東の場所で測った値(仰角平均値 =24.0°)である。

露場から測った仰角αに比べて、高さが2mほど低い露場外で測った仰角は特に 140~180°(南東~南)で大きくなっている。つまり、露場の南東~南方向には 1/tanα=X/h(X:露場の広さ、h:樹木の高さ)で定義した露場の広さ(無次元) の範囲内にも樹木が多いことを意味している。

北の丸露場の特徴は、従来の実験式(図65.2の緑破線:森林内の開放空間で得た関係) を得た場所とは異なり、露場の広さの範囲内に樹木が多いことである。この特徴に より、南東寄りの風のときの露場通風率は著しく低下し実験式の55%程度である。

65.4 森林の遮蔽率の測定

放射温度計を天空に向けて森林内を歩き平均放射温度から森林の密度を測る。 森林の枝・葉が無い場合の放射温度は天空大気の放射温度となり、天空率ゼロの密 な場合の放射温度はほぼ気温に等しくなる。森林内では、これらの中間の温度となり、 森林の密度の関数となる。

用いる放射温度計はHioki 社製(日置電機)のFT3700(12,000円)(波長範囲=8~14μm、 距離対視野径比=12対1、測定範囲=-60~550℃)である。測定確度は-35℃~100℃ 範囲で2℃、-35~-60℃範囲は確度規定なしで精度はよくないが、使用に際して 検定板を用いるので、森林密度(遮蔽率)の測定には支障はない。

放射温度計
図65.6 放射温度計、左はレンズを手前に向けた写真、右は真横からの写真。右図の小さな オレンジ色は測定時に引くための測定トリガーである。

図65.6の左図の上の方に見える大きなオレンジ色の真ん中にレンズがあり、その 上下の2つの小穴はレーザ・マーカ照射口である。レンズから対象物や大気からの 放射が入り放射温度がわかる。小穴のレーザ・マーカーから出る赤色レーザ光線は、 温度を測っている照射範囲を知るためのものである。ダンボール構造の白色 ポリプロピレン板で作った内枠に透明の薄膜(赤外線を透過:花を包む透明の包装材、 ポリプロピレン)が張られている。外枠は内枠の透明の薄膜を保護するためのも のである。

水蒸気量の少ない冬期の快晴時には、天空の放射温度(大気の窓領域)は-60℃以下、 放射温度計の測定範囲より低温となることが多くて測れない。そこで、放射温度計の 感度が鈍くなるように加工する。

透明の薄膜(ポリプロピレン)やポリエチレン薄膜は赤外放射を透過するが、一部分 は不透過なので、放射温度計の感度を鈍くして、快晴の天空でも測定可能範囲の -40℃程度以上の放射温度が観測されるようにした。この薄膜はフィルタである。

図65.7は遮蔽率の検定板である。左から順番に、遮蔽率=100%、66.7%、33.3%で ある。この3枚の左隅をネジ止めしておき、測定時には各検定板を90°、180°ずらせて 手に持ち、天空に向ける。それらの下から放射温度計を天空に向けて放射温度を測定 する。

検定板と放射温度計のレンズ間は0.3m程度の距離に保ち、スリットを横断する前後 方向に0.1m程度放射温度計を振って、5~10秒間の放射温度の平均値を測定する。 この放射温度計は トリガーを引いている間の平均温度も表示されるようになっている。遮蔽率ゼロ%は 放射温度計のレンズの上に何も無い場合である。

検定板
図65.7 森林密度の検定板、白色はポリプロピレン板(肉厚=0.75mm)。 左:遮蔽率100%、中:遮蔽率67%、右:遮蔽率33%になるよう切り開けてある。
黒枠内の寸法=140×220mm、スリットの幅は13mmと26mmである。各検定板は 持ち運びに便利なように A4 大の大きさに作ってある。

図65.8は検定板を用いて測った天空の放射温度と遮蔽率の関係である。実線は平均値 を表す近似曲線である。近似的に直線関係であるが、快晴時(上図)に低温の範囲で 曲線になる傾向があるのは、縦軸を温度の直線目盛で表したからである。この実験式は、 放射温度の表示値の誤差も含まれており、これも同時に検定されることになる。 したがって、放射温度計は高精度でなくても、森林の密度(遮蔽率)を測定する ことができる。

この図に示した関係は、大気の状態によって変わる。大気の温度が高い時ほど、 水蒸気量が多いほど、縦軸の値が大きくなる。それゆえ、森林の遮蔽率を測る 直前・直後に検定板を用いて検定しなければならない。

検定グラフ
図65.8 天空の放射温度と遮蔽率の関係(フィルターを付けて感度を落とした場合)。 上:快晴時、下:曇天時

測定時の注意事項
(1)測定中は、上下2つのレーザ・マーカーが検定板の白色範囲から外れない よう注意する。
(2)検定板、フイルターなどに直射光は当てない。
(3)天頂角は0~20°の範囲内に保つ。
(4)天空範囲が一様なとき(快晴、または一様な雲のとき)測定する。

大気の放射温度は天頂角に依存し、天頂で最低温度を、天頂角=90°(水平方向) で気温を示す関数形となるが、天頂角=0~20°範囲なら天頂角依存性がわずかである。

測定の手順
(1)露場から各方位の仰角αを見る対象物(樹木)の高さ h とそこまでの水平 距離 X をレーザー距離計によって測る。各方位について、その距離 X を地図上に プロットする。それらプロットを結んだ範囲が露場広さである(付録を参照)。

(2)露場中心に近い所(距離=0~Op)には樹木がないので、森林の遮蔽率を測る 範囲(Op~X)を決める。

(3)検定板を用いて放射温度と遮蔽率の関係を求める。3~4回繰り返す。

(4)上記(2)において決められた露場に近い場所から、放射温度計を天空に向けて 各方位に向かって直線状にほぼ等速で歩きながら放射温度の平均値を読み取る。
周辺がやや複雑な北の丸露場では、付録に示すように、方位角30°間隔ごとに 測定する。歩く距離範囲ごとに放射温度の平均値を読み取る。

(5)全方位について天空の放射温度の測定が終われば、再度の検定(3)を行う。 放射温度の測定に長時間がかかり、天空大気の状態(平均温度・水蒸気量)が 変化するような場合、検定は途中にも行う。

(6)樹木がない露場中心付近の面積を考慮して、周辺の遮蔽率を方位ごとに計算する。 最終的には、方位30°範囲ごとの遮蔽率の平均値を求める(合計12方位)。

森林の密度と風速の関係についての解析では、この方法で定義・測定された森林の 遮蔽率を用いる(後掲の表65.2)。

65.5露場広さ範囲内の樹木・雑草による風速の弱化

その1:雑草の場合(面積率との関係)
図65.9は直径150mのほぼ円形の筑波大学圃場で観測した方位別露場の広さ(横軸) と露場通風率(縦軸)の関係である。図中の4個の×記号は測風塔の西側にある草地 (背丈は約2m、草地までの平均距離=18~19m)の方位(268~298°)から風が吹く ときを表し、破線で示す実験式のそれぞれ0.77、0.80、0.83、0.94倍に (6~23%小さく)なっている。

詳しくは「森林内の開放空間の風速」の図57.6、図57.7、 注3、及び「K59.露場の風速と周辺環境の管理」の図59.3と 図59.4に説明されている。

なお、筑波大学圃場では、測風塔風向と露場風向の差は小さい。

筑波大露場通風率
図65.9 筑波大学圃場における方位別露場の広さと露場通風率の関係。資料は 「研究の指針」の「K57.森林内の開放空間の風速」の 図57.5に基づく。

図65.10は露場の広さ範囲内にある草地など障害物の面積率と露場通風率の低下の 関係である。縦軸は風速減率(=露場通風率/実験式)である。実験式とは、 平坦地の森林空間で得られた露場通風率を表す実験式である。

筑波大の風速減率
図65.10 露場の広さ範囲内(<X/h)に存在する障害物の面積率(横軸)と風速減率 (縦軸)の関係。赤丸印は管理不十分の極端な2例、赤破線で囲まれる範囲には 多くの観測値が分布すると考えられる。

注意1:風速減率と抵抗係数
図65.10の横軸は、本来ならば障害物をつくる個々の葉面の抵抗 係数・葉面積の空間密度・障害物の風向方向の幅、及び草・樹木の背丈と露場風速計 からの距離の関数で表すべきだが、ここでは簡単化のために面積率をとってある。

図によれば、露場通風率は風上側に存在する障害物の面積率の増加にしたがって低下 する。面積率=1の特殊な例について、露場通風率の低下を概算してみよう。

(例1)草丈1mの雑草が一面に広がったとき
これは、露場フェンス内と周辺一帯に雑草が生えやすい観測所において、1年間 まったく管理せずに放置された場合に相当する。

大気安定度が中立状態と仮定する。雑草が無いときの地表面粗度は理想露場の場合 に等しくz0=0.003m、露場風速計の高度をZr=2m、その風速をUr、 測風塔の高度をZ=20m、その風速をUとする。

草丈h=1mの雑草が一面に生えた場合、地表面の粗度はz0+=0.2m、 ゼロ面変位はd=0.7h=0.7m、測風塔風速はUA+ 、摩擦速度を u* と する。

雑草が無いとき:
U=(u*/k)ln(ZA/0.003)
Ur=(u*/k)ln(Zr/0.003)
Ur/UA= ln(Zr/0.003)/ ln(ZA/0.003)=6.50/8.80=0.74

雑草が広い範囲に生えたとき:
UA+=(u*/k)ln(ZA-d/z0+)

Ur=(u*+/k)ln((Zr-d)/z0+)
Ur/UA+= ln((Zr-d)/0.2)/ ln((ZA―d)/0.2)=1.87/4.57=0.41

したがって露場風速(露場通風率)は0.55(=0.41/0.74)に低下することになる。

(例2)草丈1.8mの雑草が一面に広がったとき
上記と同様に、雑草が無いときの風速比 0.74 に対して、 草丈h=1.8mの雑草が広い範囲に生えたとき、地表面の粗度は増して z0+=0.3mに、ゼロ面変位はd=0.7h=1.26mとすれば、

UA+=(u*/k)ln((ZA-d)/z0+)
Ur=(u*/k)ln((Zr-d)/z0+)
Ur/UA+= ln((Zr-d)/0.3)/ ln((ZA―d)/0.3) =0.90/4.13=0.22

したがって露場風速(露場通風率)は0.30(=0.22/0.74)に低下することになる。

これら2例の目安の計算値から、露場の広さ範囲内に雑草の占める面積率が 1 と なれば、露場通風率は0.30~0.55程度に減少する。この概算値は図65.7の横軸の 面積率=1に2個の赤丸印でプロットしてある。

その2:樹木の場合(遮蔽率との関係)
北の丸露場について、露場近くに占める森林の遮蔽率と風速減率の関係を調べる。

65.2節~65.3節では、露場風速を最初に観測した2012年6月の解析結果を示したが、 遮蔽率の測定は落葉期~着葉はじめの2013年4月上旬に行うため、風速減率は同じ落葉 期の冬(2012年12月~2013年1月の2ヶ月間)に観測した値と比較する。

前項で定義したのと同様に風速減率は、露場広さ X/h の範囲内に存在する背丈の 低い樹木によって風速が弱められる割合とし、X/h の範囲内に樹木等が無い場合の 風速減率=1とする。

図65.11は、北の丸露場における露場風速の観測から得られた、測風塔風向と風速減率 の関係である。

北の丸風速減率
図65.11 北の丸露場における風向と風速減率(=露場通風率/露場通風率実験式) の関係(2012年12月~2013年1月観測)。

遮蔽率の測定
65.4節で説明した方法「森林の遮蔽率の測定」にしたがって、遮蔽率を測定し、 表65.2に示した(詳細は付録を参照)。図65.2では、観測時間が1000分以上を プロットしたが、この表には80分以上のものを記載してある。


表65.2 北の丸露場周辺の露場広さ範囲内における森林の遮蔽率(2013年4月9日)
  仰角αなどは2013年3月22日の測定値、雨量計と気温通風筒の間
    (雨量計から1m、気温通風筒から2m)、高さ1.4m
 X:露場広さの実距離(m)、方位間隔30°の平均値(レーザ距離計による仰角αと同時に測定)
  X/h:露場広さ(=1/tanα)、±20°範囲の平均値(5°間隔で測った9個の平均値)
  Op:近接樹木の距離(m)・・・・図65.13の露場中心から緑線までの距離
  全方位平均の X/h=<1/tanα> ・・・・「露場広さ2」
 遮蔽率:放射温度の測定値と検定板による測定日の検定値から求めた値
 遮蔽率平均値:露場中心から X までの遮蔽率の平均値
 風速減率:露場通風率の実験式からの減少の割合(2012年12月1日~2013年1月31日観測)
   観測時間が80分間以上のものを記載
 測風塔風向:方位と同じ行に記入

  方 位   X/h   X     Op   1-(Op/X)  遮蔽率 風速減率  測風塔風向
   °         m                  平均値
  0~ 30   2.97  22    14      0.36    0.32    0.69       0~ 30
 30~ 60   2.93  18    12      0.33    0.26    0.66      30~ 60
 60~ 90   2.88  22    11      0.50    0.30    0.76      60~ 90

 90~120   3.82  34    21      0.38    0.33    ....      90~120
120~150   4.07  41    24      0.41    0.19    0.65     120~150 
150~180   4.26 32   18      0.44    0.33    0.61     150~180

180~210   2.86  33    19      0.42    0.29    0.64     180~210
210~240   2.79  29    16      0.45    0.32    0.73     210~240
240~270   3.07  28    15      0.46    0.29    0.72     240~270

270~300   3.58  42    16      0.62    0.47    0.58     270~300
300~330   2.96  24    13      0.46    0.22    0.69     300~330
330~360   2.91  20    12      0.40    0.26    0.71     330~360

全方位平均 3.30  29    16      0.44    0.30    0.68      ....

備考:北の丸露場では距離区間 Op~X が低木の範囲(仰角αで定義したhより低い樹木の範囲)
   となっているので、ファクター[1-(Op/X) ] は前記「雑草の場合」(図65.10)の
   草地の面積率に相当する。 



森林の遮蔽率と風速の弱化の関係をみるとき、遮蔽率が1に近い極端な場合を概算 しておこう。

(例3)灌木(背丈4~6m程度)が露場のすぐ近傍まで広がったとき
これは、周辺X=50m程度の距離に樹高10~20m程度の樹木がある観測所において、 露場フェンスの外側(露場中心から10m~50m範囲)の管理をせずに10年ほど放置し、 背丈4~10m程度の密な灌木が成長してきた場合に相当する。

露場の広さの範囲内を想定する。灌木林が露場中心のすぐ近くまで迫ったときの風速 (露場風速)は、「K57.森林内の開放空間の風速」 の図57.10を参考にすれば、0.2程度に低下する。

また、「K56.風の解析―防風林などの風速低減域」 の図56.13を参考にして、密な森林を想定すれば、露場風速は森林密度がぼぼゼロの 場合に比べて 0.1 程度になる。

これらの考察から、灌木が密集した極端な場合の風速減率は 0.1~0.2 程度と見な してよいだろう。

風速減率と森林遮蔽率
図65.12 露場の広さ範囲内(<X/h)に存在する樹木の遮蔽率(横軸)と風速減率 (縦軸)の関係。プロットは表65.2の観測値、緑破線は多くの観測値が分布する 範囲と考えられる。

図65.12は北の丸露場における露場広さ(X/h)の範囲内に存在する樹木によって 生じる風速減率と森林の遮蔽率の関係である。風速減率は2012年12月~2013年1月までの 2ヶ月間の観測値、遮蔽率は2013年4月9日の測定値である。

風速減率の傾向を表す関係を緑破線で示した。

注意1でも説明したように、風速の減率は障害物をつくる個々の葉面の抵抗 係数・葉面積の空間密度などの関数で表すべきだが、ここでは簡単化のために 放射温度計で測った森林の遮蔽率をとってある。今後、各地の観測データが増えて きた場合は、そのことを考慮して分類し直せばよいだろう。

その場合、最初に、「K56.風の解析ー防風林などの風速低減域」 の図56.21が参考になる。

65.6 まとめ

気温などを観測する露場の「露場広さ」は、フェンスなどで囲まれた面積よりも 広い範囲として定義される。すなわち、露場から測った周辺の樹木・建物などの仰角α を測量したとき、露場広さ(無次元)=X/h=1/tanα によって表される。

本章では、「露場広さ」の範囲内に雑草や樹木が成長し、露場の風通しを 悪化させ、気温などの観測値に影響を及ぼすような場合を想定している。雑草の 面積率や樹木群による遮蔽率は、管理のよい観測所ではゼロであるが、管理が疎かに なった場合の露場風速の減率について、筑波大学圃場の雑草と北の丸露場周辺の 森林による風速弱化の資料をもとに考察した。

本章では、風速弱化の割合を次式で定義した。

風速減率=露場通風率 / 露場通風率実験式

ただし、露場通風率実験式(図65.2の緑破線)とは、よく管理された平坦地観測所つまり 露場周辺の露場広さ範囲内(露場中心から X/h まで)に雑草や低木が生えていない 観測所で得られた露場通風率の実験式のことである。

得られた結果は次の通りである。

(1)雑草の場合
露場周辺(露場フェンスの外側を含む)に雑草が生えた場合、風速減率は草地の 面積率の増加にしたがって小さくなる(図65.10)。風速減率は草地の面積率が 0.2(20%)のとき0.8程度であり、面積率が 0.7(70%)に増加すると 0.4~0.6 程度に低下すると予想される。

(2)樹木の場合
樹高10m~15m程度の樹木で囲まれた観測所において、 X/h の範囲内に樹高 4m~10m程度の低木が成長している場合、 風速減率は低木がつくる森林遮蔽率の増加とともに低下する(図65.12)。

風速減率は遮蔽率が 0.2(20%)のとき 0.7~0.8 程度であり、遮蔽率が 0.7(70%) になると 0.2~0.4 程度に低下すると予想される。

(3)付記
注意すべきは、風速に影響する抵抗係数は樹木の種類、落葉期・ 着葉期によって変化するため、抵抗係数と遮蔽率は1対1に対応するわけではない。 例えば、落葉期の細枝は遮蔽率が小さい割りに抵抗係数は大きく、風速を減少させる 割合は見かけよりも大きい(下記の備考を参照)。

このことに関して、着葉期の夏にも北の丸露場の周辺において、森林遮蔽率を測定し、 風速減率の季節変化との関係を調べておく必要がある。

北の丸露場の周辺は、第二次世界大戦終結までは皇居を守る近衛兵の兵営地であり、 練兵場もあった。終戦後に緑地・森林公園として整備されてきている。 将来にわたり樹木の成長、森林状態の変化が考えられる。

露場は、東京都心の都市気候の観測所とみなされるので、現段階における森林状態 を把握しておくことが重要である。森林状態が時代と共に変化し、それが 気象観測値にどのように影響するか重要課題となる。

図65.10と図65.12にプロットした観測データの数は少ないので、今後、他所で得られる 観測データの追加が望まれる。

目安として、風速の10%の低下が年平均気温の0.1℃の上昇に相当する。本章の結果は 重要な気候観測所の環境を良好に管理していくうえの指針となる。

備考:物体の抵抗係数
森林内の枝・葉(近似的に円柱・平板)について、レイノルズ数 R は 10~10、したがって R<10の範囲 を考えれば十分である。円柱の抵抗係数 Cd=0.9~1.2に対し、流れに平行な平板の 抵抗係数=1.328/R1/2が知られており(層流境界層のブラジウス式)、 Cd=0.01~0.04 程度となる。平板が流れに対して傾くにしたがって抵抗係数は大きく なり、最大値は 2 である。
現実には、葉面(近似的に平板)の風に対する傾きはこれら中間にあり、抵抗係数 は 0.1 の桁であり、多くの植生では Cd=0.2 程度である(「水環境の気象学」 のp.229)。つまり、天空の遮蔽率が同じ場合でも落葉した細枝(近似的に円柱)は 平らな葉面に比べて風速を減少させる割合が大きい。
一般的に言えることは、細い物体ほど抵抗係数は大きい。

参考文献

Kondo, J. and S. Akashi, 1976: Numerical studies on the two-dimensional flow in horizontally homogeneous canopy layers, Boundary-Layer Meteor., 10, 255-272.

Watanabe, T. and J. Kondo, 1990: The influence of canopy structure and density upon the mixing length within and above vegetation. J. Meteor. Soc. Jpn., 68, 227-235.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支、朝倉書店、 350pp.

渡辺 力、1994:植物と大気(近藤純正編、1994:水環境の気象学―地表面の水 収支・熱収支、朝倉書店、350pp.の第9章).




付録 北の丸露場の周辺環境の測定データ

測定者
近藤純正・與語基宏
植田 享・小池仁治・古宮章次
関 隆則

付録1 森林遮蔽率

65.4節で説明した森林の遮蔽率の測定を行う前に、露場からレーザー距離計 (トゥルパルス)によって、方位5°間隔で仰角αと樹木先端までの斜めの距離 d を 測り、その樹高 h(=d×sinα)と露場広さ X(=d×cosα)を計算する。 2013年3月22日、露場面上の高度=1.4mで測量した。

また、露場中心にもっとも近い樹木の枝・葉(近接樹)の下から露場中心までの水平 距離 Op も測った。表65.3は Op の測定値である。

図65.13は露場中心から撮影した周辺の写真、近接樹に付けた番号は表65.3に記載して ある。方位は露場中心から見た方位である(実際には近接樹から露場中心の標識 までの方位と水平距離を測り、方位は変換してある)。

周辺の樹木写真一覧
図65.13 露場中心から撮影した写真。番号は測定した近接樹木(表65.3)。


表65.3 北の丸露場周辺の樹木の枝・葉までの距離の測定値(2013年3月29日)
      番号:目標の樹木番号(図65.13の樹木に付けた番号)
      Op:露場中心から近接樹木までの水平距離(m)

    方 位  番号      Op 
     °            m
      9.3     9      13.6
     20.8     8      13.6
     27.2     7      16.2
     39.4     6      11.6
     57.8     5      10.6
     71.1     4      11.0
     91.0     3      13.0
     99.0     2      15.2
    107.0     1      19.6
    108.1    46      22.2
    111.8    45      25.8
    113.4    44      29.2
    119.0    43      29.6
    122.1    42      30.8
    126.3    41      29.2
    129.7    40      26.6
    134.2    39      28.8
    139.8    38      18.2
    150.4    37      19.2
    153.5    36      23.6
    161.2    35      11.6
    162.3    34      12.0
    170.3    33      17.2
    172.8    32      18.6
    176.0    31      19.2
    186.3    30      20.2
    193.0    29      21.2
    202.2    28      18.6
    214.0    27      18.6
    220.5    26      13.6
    225.5    25      19.2
    227.6    24      16.2
    233.4    23      14.6
    242.8    22      13.2
    252.1    21      14.2
    258.2    20      16.6
    264.9    19      16.2
    271.3    18      18.6
    275.1    17      20.6
    285.3    16      16.2
    295.0    15      13.6
    305.3    14      14.2
    320.9    13      13.2
    327.2    12      11.2
    341.3    11      11.2
    347.1    10      13.6


図65.14は露場中心からもっとも近い樹木の枝・葉(近接樹)までの水平距離 Op の 方位各分布である。

図65.15の赤線は露場広さの実距離 X 、緑線は近接樹木までの水平距離 Op (近接樹木の距離:露場近傍の開けた範囲)である。

近接樹までの水平距離
図65.14 露場中心からもっとも近い樹木の枝・葉(近接樹)までの水平距離 Op の 方位角分布(2013年3月29日)。

北の丸露場周辺樹木
図65.15 北の丸露場の周辺図。黄色は露場と道路、同心円は露場の中心から10m間隔 で描いた10m、20m、・・・・50mまでの距離。
赤丸印(露場内):樹木の仰角などの測量地点(2013年3月22日、露場面からの高度=1.4m)、
緑線:露場中心から最も近い樹木の枝・葉までの距離 Op(2013年3月29日測定)、
赤線:露場広さの実距離 X(2013年3月22日測定)。

現地の状況から判断すると、あまり細かな小面積ごとの森林遮蔽率を求めても意味が ない。そこで、空間を方位30°間隔に分割し、それぞれの面積の範囲ごとに森林遮蔽率 を計測する。方位30°間隔は15°の2つを計測して平均する。

露場に近い所では遮蔽率はゼロであり、Op (15°間隔ごとに違う)から X (30°間隔 の平均値)までの範囲を測定する。その模式図は図65.16に示した。

まず、65.4節で説明したように、計測の前後には検定板を用いて放射温度計の検定を 行う。等速度で歩いて測定した放射温度を換算して森林の遮蔽率を求める。

遮蔽率測定経路
図65.16 放射温度測定時の歩行経路の模式図、方位=120~150°の場合の例。 距離41mは露場広さの実距離 X (30°間隔の平均値)、距離28mは Op(120~135°の 平均値)、距離19mは Op(135~150°の平均値)である。 赤丸印と緑四角印は測定範囲を示す標識の設置場所、矢線は放射温度計を持って等速で 歩く経路、各経路上の放射温度の平均値を読み取る。

図65.16は例であり、方位=120~150°、露場広さの実距離 X (=41m)から近接樹 までの距離 Op (28m、19m)までの範囲を測定する場合である(表65.4参照)。 現実には、直線的に歩くことは不可能であり、ジグザグに歩き、放射温度計は 手の届く範囲で左右に振りながら測定した。

注意2:放射温度の測定
○放射温度計(Hioki, FT3700)の距離対視野径比=12対1(10mの距離に対して 測る面積の直径は0.83m)で狭い。 目的は面積範囲の放射温度の平均値を知ることであるので、放射温度計は 天空の天頂角=0~±20°程度の範囲を保ち、左右にスキャンする ように動かしつつ等速度で歩きながら測る。放射温度計のトリガー (押しボタン)を引いている間の平均値も表示されるので、この平均値を記録する。
○この放射温度計では、トリガーを引いているつもりでも、そのばねが強いことの原因 その他の理由で、測定終了時の「Hold」が表示されて連続測定とならない場合があるの で注意のこと(どんな器械でも完全なものはないので、注意しながら測定しよう)。
○なお、他の放射温度計では放射温度の平均値の定義が不明確で、トリガーを 引いている間ではなく、適当な時間間隔の平均値(平滑値)を示す器械も市販されて いる。使用に際して確かめ、その機能にしたがって平均値を求めること。

露場周辺の森林遮蔽率の測定は2013年4月9日11時~13時過ぎに行った。上層雲で覆われ ていたが、天空の放射温度の変動は比較的に少なく数℃の幅であり、測定途中に 延べ9回の検定を行った。それらは3枚の検定図に表した(図65.17)。

検定図
図65.17 森林の遮蔽率測定日の放射温度の検定、フィルターなし(2013年4月9日)

表65.4は放射温度の測定から換算した森林の遮蔽率である。

表65.4の最後の列に示す遮蔽率平均値(露場中心から露場広さ X までの平均値) は遮蔽率(Op ~ X 範囲の測定値)から、次式によって計算する。

遮蔽率平均値=遮蔽率×[1-(Op/X)]


表65.4 北の丸露場周辺の遮蔽率(2013年4月9日)
  X :露場広さ、方位間隔範囲(15°または30°)の平均値
  Op:露場近くの開けた範囲、露場中心から近接樹までの距離(m)
 遮蔽率:検定板による検定曲線から求めた遮蔽率、Op~X 範囲
 遮蔽率平均値:露場中心から X までの平均値=遮蔽率×[1-(Op/X)]

 方 位   X     Op   1-(Op/X)   遮蔽率  遮蔽率 
  °   m    m             Op~X   平均値

  0~15    24     14      0.42      0.91    0.38           
 15~30    21     15      0.29      0.89    0.25 
  0~30    22     14      0.36       ..     0.32

 30~45    16     12      0.25      0.76    0.19
 45~60    19    11      0.42      0.78    0.32
 30~60    18     12      0.33       ..     0.26

 60~75    23     11      0.52      0.57    0.29
 75~90    21     12      0.43      0.71    0.31
 60~90    22     11      0.50       ..     0.30

 90~105   26     16      0.38      0.88    0.33
105~120   43     27      0.37      0.85    0.32
 90~120   34     21      0.38       ..     0.33

120~135   48     28      0.42      0.42    0.18
135~150   35     19      0.46      0.44    0.20
120~150   41     24      0.41       ..     0.19

150~165   33     18      0.45      0.84    0.38
165~180   31     18      0.42      0.65    0.27
150~180   32     18      0.44       ..     0.33

180~195   36     20      0.44      0.70    0.31
195~210   30     19      0.37      0.73    0.27
180~210   33     19      0.42       ..     0.29

210~225   26     17      0.35      0.84    0.29         
225~240   32     15      0.53      0.66    0.35
210~240   29     16      0.45       ..     0.32

240~255   26     14      0.46      0.60    0.28
255~270   30     16      0.47      0.64    0.30
240~270   28     15      0.46       ..     0.29        

270~285   46     19      0.59      0.67    0.40
285~300   38     14      0.63      0.87    0.55
270~300   42     16      0.62       ..     0.47

300~315   22     14      0.36      0.28    0.10
315~330   27     12      0.56      0.59    0.33
300~330   24     13      0.46       ..     0.22

330~345   22     11      0.50      0.70    0.35
345~360   17     14      0.18      0.93    0.17
330~360   20     12      0.40       ..     0.26

全方位平均 29     16      0.44      0.71    0.30



付録2 仰角α、樹高 h、露場広さ X

仰角の測量およびその利用上の注意:
(1)仰角α<1.8°のときの取扱い
(2)樹木等の場合、仰角の平均値を読む
(3)露場通風率と露場広さの関係を調べるときの、仰角の移動平均値
(4) 遠くの電柱、露場内の機器などの取り扱い
については、次をクリックして参照のこと。

クリックして次の 「仰角の測量およびその利用上の注意」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
仰角の測量およびその利用上の注意


露場内から測った周辺樹木の仰角αなどの値は表65.5に示した。

今回の値と気象庁による前回(2012年6月25日)の測定値と比較すると、仰角αで最大 5~10°も違い、全体の方位角分布も20°ほどもずれている。この違いは、前回の 測量は高度0.5m、雨量計の南側1mで行われたことによる。

北の丸露場のように、とくに狭い露場では水平距離・高さの違いが0.1m以上もあると、 誤差となる。仰角などの測定は、周辺環境の変化をみるために行うのであるので、 測定場所には標識を設置し、測量器の位置(水平距離、高さ)が0.1m以上ずれない ように注意しなければならない。

表65.5 北の丸露場周辺の樹木の測量(2013年3月22日)
  α:仰角、周辺樹木の最大値(°)
  d:αの目標物までの斜め距離(m)
 h:αの目標物の高さ、測量高度=1.4mからの高さ=d×sinα(m)
 X: αの目標物までの水平距離(=露場広さの実距離)=d×cosα(m)
   測量地点は雨量計と通風筒の間、雨量計から1m、通風筒から2mの位置
  X/h=1/tanα: 露場広さ(無次元)
  X/h の±20°範囲平均:前後9方位の移動平均(露場風速の解析に利用)

 方 位   α    d      h     X    X/h     X/h の±20°
  °   m  m  m  m   1/tanα    移動平均

   0      22.4   24    9.1   22.2   2.43     2.91      
   5      21.6   26    9.6   24.2   2.53     2.87
  10      19.8   28    9.5   26.3   2.78     2.92
  15      20.1   24    8.2   22.5   2.73     2.97
  20      19.5   26    8.7   24.5   2.82     2.94
  25      17.6   18    5.4   17.2   3.15     3.00

  30      16.2   19    5.3   18.2   3.44     3.02
  35      15.3   16    4.2   15.4   3.66     3.02
  40      18.7   17    5.4   16.1   2.95     2.98
  45      18.7   15    4.8   14.2   2.95     2.93
  50      20.3   20    6.9   18.8   2.70     2.87
  55      19.7   22    7.4   20.7   2.79     2.88

  60      23.2   25    9.8   23.0   2.33     2.80
  65      22.9   26   10.1   24.0   2.37     2.79
  70      20.9   26    9.3   24.3   2.62     2.81
  75      15.8   20    5.4   19.2   3.53     2.88
  80      18.9   22    7.1   20.8   2.92     2.92
  85      18.9   22    7.1   20.8   2.92     3.10

  90      17.7   24    7.3   22.9   3.13     3.39
  95      17.0   24    7.0   23.0   3.27     3.59
 100      17.3   23    6.8   22.0   3.21     3.71
 105      14.2   40    9.8   38.8   3.95     3.82
 110      11.5   43    8.6   42.1   4.92     3.93
 115      12.8   48   10.6   46.8   4.40     4.05

 120      12.2   46    9.7   45.0   4.63     4.04
 125      14.3   47   11.6   45.5   3.92     4.01
 130      14.2   53   13.0   51.4   3.95     4.01
 135      13.5   55   12.8   53.5   4.17     4.07
 140      17.4   30    9.0   28.6   3.19     4.19
 145      18.6   31    9.9   29.4   2.97     4.28

 150      14.3   30    7.4   29.1   3.92     4.50
 155      10.4   57   10.3   56.1   5.45     4.54
 160      10.3   22    3.9   21.6   5.50     4.33
 165      10.5   24    4.4   23.6   5.40     4.26
 170       9.6   26    4.3   25.6   5.91     4.30
 175      13.0   58   13.0   26.5   4.33     4.27

 180      23.6   18    7.2   16.5   2.29     3.93
 185      21.5   18    6.6   16.7   2.54     3.59
 190      16.7   58   16.7   55.6   3.33     3.25
 195      15.4   60   15.9   57.8   3.63     2.86
 200      22.5   25    9.6   23.1   2.41     2.70
 205      22.4   24    9.1   22.2   2.43     2.78

 210      22.7   24    9.3   22.1   2.39     2.86
 215      22.9   24    9.3   22.1   2.37     2.88
 220      18.8   32   10.3   30.3   2.94     2.78
 225      18.6   33   10.5   31.3   2.97     2.79
 230      17.0   43   12.6   41.1   3.27     2.81
 235      16.0   33    9.1   31.7   3.49     2.91

 240      19.9   21    7.1   19.7   2.76     3.03
 245      21.8   21    7.8   19.5   2.50     3.02
 250      21.2   22    8.0   20.5   2.58     3.02
 255      16.9   47   13.7   45.0   3.29     3.07
 260      16.2   37   10.3   35.5   3.44     3.22
 265      19.2   21    6.9   19.8   2.87     3.28

 270      18.4   22    6.9   20.9   3.01     3.43
 275      15.2   52   13.6   50.2   3.68     3.59
 280      11.7   69   14.0   67.6   4.83     3.59
 285      16.8   28    8.1   26.8   3.31     3.58
 290      14.5   48   12.0   46.5   3.87     3.57
 295      14.1   47   11.4   45.6   3.98     3.54

 300      16.6   18    5.1   17.3   3.36     3.37
 305      16.7   18    5.2   17.2   3.33     3.13
 310      19.7   25    8.4   23.5   2.79     3.07
 315      20.6   23    8.1   21.5   2.66     2.96
 320      24.6   47   19.6   42.7   2.18     2.91
 325      20.2   21    7.2   19.7   2.72     2.87

 330      20.3   20    6.9   18.8   2.70     2.85
 335      19.1   38   12.4   35.9   2.89     2.90
 340      15.9   16    4.4   15.4   3.51     2.87
 345      18.4   17    5.4   16.1   3.01     2.91
 350      17.3   17    5.1   16.2   3.21     2.92
 355      17.3   16    4.8   15.3   3.21     2.92

 方 位   α    d      h     X    X/h     X/h の±20°
  °   m  m  m  m   1/tanα    移動平均

全方位平均17.6   30.3  8.8   28.9   3.30     ....
標準偏差   3.6   13.4  3.2   13.1   0.83     ....
備考:平均樹高
方位5°間隔の72方位について測った仰角αの樹木は、樹木の最先端の樹高とは限らず、 樹木の枝などの高さであり、測量器レベルからの高さの平均値<h>=8.8mである。 測量器の高さ(目の高さ)は1.4m、露場の土盛り高さは約2m、土盛りは周辺より 平均的に0.3~0.5mほど盛り上がっている。したがってαを測った樹木の地面からの 高さは、
高さ≒<h>+1.4m+2m+0.4m≒12.6mである。ゆえに、樹高の平均値>12.6m
平均樹高は15~16m程度であろうか。

測風塔が設置されている科学技術館の周辺一帯の樹木の平均樹高は、日陰を利用して すでに測ってある(2011年12月8日、20日)。そのときの平均樹高=16mであり、 この樹高と矛盾していない(「K56.風の解析ー防風林などの 風速低減域」を参照)。

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