K37.海上大気の諸問題 Q&A


著者:近藤 純正
これは2007年8月30~31日に開催された研究集会における講演 「K36. 海上大気の諸問題ー海上風、熱収支、温暖化 問題」で出された質問に対する回答である。 この章では直接的な回答のほか、関連することも加筆し理解を深めていただ けるようにした。(完成:2007年9月4日、3節に補足:9月9日)



トップページへ 研究指針の目次

  目次
	1.バルク式に関すること(4件)
	2.大気安定度と風に関すること(4件)
	3.熱収支に関すること(6件)
	4.気温と海水温度の相互関係のこと(2件)
	5.気候変動、1988年ジャンプに関すること(7件)
	6.その他、コメントや感想など(7件)
	
	あとがき   
	参考文献


1.バルク式に関すること

質問1.1 バルク式に用いる温度などのパラメータについて
(a) 海面上の大気フラックスを表すバルク式には、海面付近の大気と海面の温度等 のパラメータを用いており、なぜ大気と水中の温度差のパラメータ を用いないのか?
(b) また、バルク式で使用されるパラメータはどの程度、時空間的に普遍的なの か?(NK)

回答
(a) 大気側のフラックス(海面から大気へ出る顕熱及び潜熱)は、それぞれ 水面温度と気温の差、及び水面の飽和比湿と大気の比湿の差に比例する。 水中側のフラックス(顕熱)は水面温度とその直下の水温の差に比例する。 水中では潜熱(蒸発)に相当するフラックスは存在しないが、蒸発量の 大きさに応じて海中への塩分輸送が生じる。 熱フラックスの総量は水面で連続していなければならない。すなわち、

潜熱輸送量+顕熱輸送量+水面から上向きの赤外放射量+大気からの 下向き大気放射量+日射量
=水中での顕熱輸送量+日射量の透過量(水面反射を差し引いた ぶん)

が成立する(詳細はKondo, 1976b; Kondo et al, 1979, Fig.1 を参照)。

(b) もともとバルク式は乱流フラックスを30分程度の時間平均の風速等の 平均値で表現したものである。したがって、風速等が時間的空間的にほぼ 一定ならば長時間・広範囲の平均フラックスを同一のバルク式で表すことが できる。つまり、風速等の時間的空間的平均値をバルク式に用いて長時間 広範囲の平均フラックスを評価することができる。

風速等が時間的空間的に変動する条件では、見かけのバルク係数は大きく なることも小さくなることもある。顕熱輸送量の長時間平均値を求める際、 例えば水温・気温差がプラスになったりマイナスになったりするような場合、 平均のバルク式は意味を持たなくなる。

もともとバルク式は30分~1時間程度の間隔で連続してフラックスを評価 すればよいのだが、データがない場合もある。どの程度の時間的空間的な 代表性があるかどうかについては、個々の実データによって試してみなければ ならない。

Kondo(1972)の試みによると、太平洋上と大西洋上の定点観測点(12点) について、おおむね1日までのフラックスの時間平均値ならば、誤差は小さい が、数日以上の時間平均値では誤差が大きくなる。

個々の場合については、風速等の変動が異なり、風速・気温・比湿等の2次 相関、3次相関など調べてみる必要がある。


質問1.2 Kondo, 1975のバルク式が弱風と強風で合わないのだが?
Kondo, 1975のバルク式は渦相関法で求められたフラックス (Fairall, 2003: J. Climate)と比べて、3~15m/s 範囲では合うが それより弱風と強風で一致せず大きなバイアスがあるのでCOARE3.0という 手法に変更したが、ご意見をいただきたい。(HT)

回答
Kondo,1975にも不十分なところがあるかもしれないが、私は誰かの観測結果 が発表されたからといって、直ちにそれを信じるわけにはならない。 講演の本文のカルマン定数のところでも述べたように、アメリカ の多数の境界層研究グループが総合観測によって決めた定数であろうとも、 彼らによる観測がじょうずに行なわれたかどうかの吟味が必要であった。 Kondo,1975のバルク係数は渦相関法による多くの結果と比較して平均的に 違いは見つからない。弱風域と強風域において、多少の疑いを持ってきた。 弱風域では大気安定度の影響が大きくでることとフラックスが小さいことに よる。強風域では波しぶきが飛ぶようになり渦相関法の観測が困難と なるからである。

弱風域:
しばしば素晴らしい観測結果を出すオーストラリアの Bradley を私は昔から 信頼しているのだが、そのBradley et al,(1991)が海上で風速0.2~2m/s と いう微風条件で観測したフラックスを発表した。このデータでKondo, 1975の バルク式をチェックしたところ、矛盾無く一致していた(Kondo and Ishida, 1997:JAS)。

弱風の安定時(強安定)の乱流輸送・プロファイル関数に関しても不確かな ところがあり、私は気にしていた。この問題を解決すべく、仙台の北方の 広い田んぼで基礎研究を行ないプロファイル関数を決めることができた (Kondo et al, 1978: JAS)。この研究で得たプロファイル関数は、Kondo, 1975で用いてあったものと比べて細部では異なるのだが、安定な全域 ではほぼ一致するものであった。

強風域:
波しぶきが飛ぶような強風域では、超音波風速計のセンサーに水滴が付くこと、 音波伝播経路(20cm程度)及び光学経路内に水滴飛沫が飛ぶことにより、 フラックス測定がきわめて困難になる。
また、飛沫の空中での蒸発の効果などフラックス輸送が複雑になる。このパラメータ 化も気になっていながら、いまだに仕上がらないままの状態である。

Kondo, 1975では海水飛沫の飛ぶような条件に対しては渦相関法による結果は 含まれておらず、台風域内の大気中の運動量収支から推定したバルク係数を 利用してある(同論文のFig.3)。

渦相関法による顕熱・潜熱輸送量の測定では海水飛沫の問題があるのだが、 AMTEXでは寒気吹き出しの強風時について、ラジオゾンデ観測に基づく 大気収支法とKondo,1975のバルク法による比較の結果、顕熱・潜熱輸送量の 和が800W/m2程度に達する条件でもほぼ一致することが確かめ られている(Kondo, 1976a: J.Met.Soc.Jpn., Fig.8)。

そのほか、ブイ観測の場合には動揺の影響、船体をプラットホームとして 利用する場合には風の流れが船体によって歪むのだがそれを十分に検討して あるのだろうか。筆者らの場合、観測塔自体の影響を調べて、測器の取り付け 位置を決めて観測したのである( 「M16. 海面バルク法物語」)の図16.3を参照)。

Air-sea interaction 基礎研究では、ブイや観測船による精密な観測が できないということで、1959年伊勢湾台風(死者5,000人余)を契機として、 相模湾平塚沖に1965年に海洋観測塔が建造された。これは世界有数の施設で あり、80チャンネルの気象・海象パラメータが海底ケーブルを通して同時に サンプリングが可能である。私たちはこの塔を用いてAir-sea interaction の基礎研究を行ったのであるが、この塔を利用して基礎研究を行う研究者 は少数である。ブイや船体を利用する変わりに、この塔がなぜもっと 利用されないのか? この塔が解体されてしまえば、ふたたびこれに匹敵する 塔は造れないと思うのだが。

1950年代から2000年までの、こうした経過を知る私にとって、ある論文が 発表されたからといって、直ちにKondo, 1975を否定するわけにもならない。 今後に期待したい。


質問1.3 短時間のバルク係数について
乱流のモデリングに関して、平均化時間を10分間よりどんどん短くしたとき、 フラックスを正しく評価するにはバルク係数をどう見積もればよいか? それを書いた文献はないか。(HN)

回答
フラックスは瞬間(1秒)ごとに上向きになったり下向きになったり変化して いる。こうしたフラックスの10~30分間の平均値を風速・気温・比湿の 時間平均値で表すのがバルク式である(傾度法でも同じ)。

例えば顕熱輸送量では気温 T と鉛直流成分 w の積の平均値と気温の平均 鉛直勾配は比例関係にある。平均化時間を短くしていくと、この比例関係は だんだん崩れてきて、相関関係は弱くなりバルク式の意味はなくなる。 地表面からの高度にもよるが、10m程度の高度では、 乱流変動のスペクトルピークは1分程度のところにある。 それゆえ、バルク式が使えるのはせいぜい平均化時間が1分間までとして よいのではなかろうか。

これに関する文献は、フラックス測定が盛んに行われた1970年代にあった ように思うか、現在の筆者の手元にはない。

強い安定なときの実例(Kondo et al. 1978: JAS)によれば、運動量と顕熱 フラックスについて平均化時間2分では、ばらつきは大きいが、多数回の 平均では平均化時間30分の結果と大きくは違わなかった。乱流記録(同論文 のFig.2)から見ると、平均化時間1分以下では風速等の平均量と乱流フラックス の相関関係はほとんど無くなっている。

以上をまとめると、バルク式(同様に傾度法)が使えるのは平均化時間が 1分間以上としてよいだろう。


質問1.4 海上フラックスの評価では基本的にバルク法でよいか?
観測現場では渦相関法によってフラックスが観測されているが、ランダム ノイズが大きく、平均的な値が正しいかどうかという点で確信が持てない。 安定度を考慮したバルク法は簡単であり、渦相関法が正しいと考える人も いるが、現実にはバルク法のほうが安定した結果を得ている。基本的に バルク法を中心にしたフラックス観測でよいか?(NS)

回答
はい、そのように考えてよい。
渦相関法の良い点は、測器を設置した位置におけるフラックスを測定するので 正しいといえる。ただし、これは原理であり、現実には観測誤差が大きく データはばらつくのが普通である。渦相関法は基礎研究で用いるもので、 観測のプラットホームがしっかりした所で用いるべきだろう。

乱流フラックスを風速や気温などの平均値で表示するのがバルク法であり、 フラックス量と気温差などの平均値との相関係数は1ではなく、個々の 観測では±7%程度のバラツキは生じる。この±7%のばらつきは、広い 田んぼが続く場所で注意深い観測によって得た真実のばらつきの 大きさとみなしてよい。

注意深い観測とは、観測時の条件を厳選したうえに行うものである。 また、超音波風速計の発信・受信部の形状を理想的に造ることが できないので、器械の方向特性などを補正して得たものである。

海上のフラックスは測器の位置でのフラックスを求めることが目的では なく、100m~数km~数十kmの範囲の平均フラックスを知ることにある。 それゆえ、バルク法による個々の観測値のばらつきが±7%程度あっても、 空間平均の誤差はこれよりも小さくなる。

海洋上の現場で渦相関法を用いる場合、諸々の原因(動揺やブイ・船体の影響、 海水飛沫の影響)による誤差を正しく補正することはほとんど不可能なので、 ばらついた結果を得ることになる。

これらの事情からバルク法を推奨したい。



2.大気安定度と風に関すること

質問2.1 風向・風速に幅がある理由
図36.14(不安定時の温度風があるときの地衡風抵抗係数及び風向の図) において、地衡風速抵抗係数も風向 α も幅をもつ結果になるのはなぜか? (YT)

回答
図36.14では、地衡風抵抗係数にも風向にも幅があることを斜線範囲で示した。 この幅はデータ解析で得られる範囲である。地衡風速の定義は等圧線が平行で 定常状態における摩擦ゼロの条件で成り立つ風速である。しかし現実には、 等圧線は曲率をもつ(傾度風である)こと、完全に定常状態ではないこと、 不安定度の違い、観測誤差(観測値の代表性)などの影響がある。

それゆえ、地衡風抵抗係数(u*/G)も風向(α)も角度 δ (横軸:温度風 と海上風のなす角度)だけの関数で表すことができず、幅をもつことになる。


質問2.2.海面で風速が大きい理由
図36.10(表面ロスビー数と地衡風抵抗係数及び風向との関係)において、 横軸は粗度の逆数なので、「海面」「森林」と記されて いることからわかるように表面ロスビー数が大きいほど地面摩擦が小さい ことになる。地衡風との角度 α が表面ロスビー数が大きいほど、小さく なることは良く理解できるし、不安定なほど、つまり鉛直混合が大きいほど 角度 α が小さくなるのも直感的にわかる。
一方、地衡風抵抗係数(u*/Vg)の方は、どうも直感的にわかり難い。 森林でも海面でも地衡風速 Vg を同じとすると、摩擦速度 u* は摩擦の大きい 森林ほど大きく、摩擦の少ない海面の方が小さいように感じてしまい、 少し混乱した。
その混乱はたぶん、摩擦速度が「速度」と表記され、なにか粗度の違いを 考慮せず、地表面風速と同じように誤解したことによるのだと思う。(YT)

回答
図36.10は複雑なので、即座の理解が難しい。そこで、上空の 風速(地衡風)が同じ場合、粗度 z0 の違いによる地上風速の 鉛直分布を図37.1を示した。ただし、地衡風速(上空約1~1.5kmの風速) が20m/sのときである。

粗度 z0の目安は、大都市で1~3m,森林で0.3~1m,畑や草地で 0.1~0.3m,湖や海面で10-5~10-3m(風速に 依存する)である。

各種粗度上の風速分布
図37.1 各種地表面上の風速鉛直分布、ただし、地衡風速=20m/sのとき。 (地表面に近い大気の科学、図3.7、より転載; 本ホームページの「研究の指針」「基礎1:地表近くの風」の図1.4に同じ)

図37.1より、粗度が大きい地表面ほど、風速の高さに対する増加割合(摩擦 速度)が大きいことがわかる。図から読み取ると、 例えば、z0=1m の大都市と、z0=10―4 m の海面上の高度20mと10mの風速の差(と比)を比較すると、 前者では6.8-5.2=1.6m/s(6.8/5.2=1.31)、 後者では14.7-13.9=0.8m/s(14.7/13.9=1.06)となる。


質問2.3 風速ゼロの時の大気安定度
大気安定度の計算では、風速が分母にあるので、風速がゼロのときには計算 不能となる。その場合どうすればよいか?(U)

回答
最下部の接地境界層では、例えばバルクリチャードソン数には分母に風速の2乗が あり、大気境界層の安定度には風速が分母にある。風速がゼロまたはゼロに近い 場合は自然対流の状態であるので、別の式によって安定度を計算する。

自然対流のときは、顕熱輸送量と代表的な長さ(たとえば 対流層の厚さ)で表される速度スケールを用いる。

自然対流時の交換速度(ChU:バルク係数×風速)は水温気温差の3分の1に比例 する形式となる。詳細は「水環境の気象学」、p.111-p.116を参照。

具体例では、
交換速度:ChU=a+b×U・・・・・・・・微風でないとき
交換速度:ChU=c×(水温気温差)1/3・・・自然対流のとき
で表現される場合、両者の計算を行い、ChUの大きいほうを採用する等の 方法がある。


質問2.4 安定度と温度風の効果、その効果のスケール解析
(a) 図36.7、36.8で示されたように、大気安定度が不安定な場合、 大気混合層内の風速分布が鉛直方向にほぼ一様になる場合、温度風の関係が 変わり、その結果として、風速が一様になるのか、それとも運動量その ものが鉛直混合された結果なのか、またそれら両効果が効いているのか?
(b) この関係は観測する現象の水平、鉛直スケールや時間スケールに よると思う。今回の研究会のいくつかの発表で、海の中規模渦(数十km スケール)上での風速と海面水温との対応が示されたのだが、この程度の スケールでも同様の考え方をしてよいか?(AY)

回答
(a) 温度風は大規模場の気温の水平勾配で表されるものなので、鉛直混合に よって温度風ベクトルは直接的な影響は受けないと考えてよい。ここでは海上 を想定する。 温度風がない場合(気温の水平勾配がない場合)、風速鉛直分布はスパイラル を描いて高度変化しており、海上風向は15度程度になる。大気が不安定に なり、鉛直混合が盛んな混合層が形成された状態では、風速は 鉛直方向に混合され(運動量輸送が盛んになり)、上下の風向・風速差 は小さくなる。つまり海上風向は8度程度になり、海上風速は中立時の20%増し 程度になる。

温度風(気温の水平勾配)がある場合、条件(δ:温度風の方向と海上風の 方向の角度)によるのだが、温度風によって風速分布のスパイラルは ねじれた形になる(大気境界層の科学、図4.12を参照)。 ところが冬期東シナ海に寒冷気団が吹く出したような不安定な場合、 地衡風は大きな鉛直シアーをもっていても、実風速は鉛直混合 によって高度2km付近までほぼ一様になる。

つまり、不安定な混合層内では、温度風の有無に関わらず実風速は鉛直 方向にほぼ一様になる。温度風の有無による実風速の違いはあるが小さい。 顕著な違いは各レベルにおける等圧線を横切る角度(風向)に現れる。 したがって、天気図から得られる等圧線(等高度線)の方向と間隔から 実風速を推定する際に注意が必要となる。

(b) ここで説明しているのは大規模場(水平スケール1000km以上)を 対象としており、100km程度以下、しかも非定常性が大きい場合には 定量的な適用は難しくなる。

ゆえに、水平スケール数十kmの海洋の中規模渦上での風向・風速の関係は 冬期東シナ海で得た結果と比べ、定量的な違いはあるが、定性的には 安定度と風向・風速の関係は存在するので、図36.10~図36.13は参考に すべきだろう。つまり、上空の風速(地衡風)が同じであっても、 不安定海域では風速は大きくなり、風向は小さくなる。

一般に、鉛直混合の強さは混合層の厚さ、及び風速スケール (顕熱輸送量と共に増加)と共に大きくなる。したがって、混合層高度が 例えば100m程度以下では鉛直混合はそれほど強くならない。詳細は「水環境 の気象学」の図5.5、「大気境界層の科学」の図5.4、Kondo&Ishida(1997: JAS)のFig.15が参考になる。



3.熱収支に関すること

質問3.1 顕熱輸送量のピークはなぜ?
交換速度(風速)と顕熱輸送量の関係図(図36.17)において、ある風速で 顕熱輸送量がピークになるという理由が理解できない。(HN)

回答
その図は熱収支式を解いた結果を図示したもので、地表面温度を固定した ものでなく、フリーにして解いた結果だからである。図36.17は地表面と気温の 温度差(Ts-T)の図を省いてあったので、図37.2には(Ts-T)も付けて 説明しよう。

風速と地温気温差、熱フラックスの関係
図37.2 熱収支式を解いて得られる交換速度(風速)との関係。
上:地表面と気温の差、中:顕熱輸送量、下:潜熱輸送量。
条件は晴天日中の陸面を想定したもので、有効エネルギー(R↓-G)= 700W/m2、気温=20℃、相対湿度=50%の場合、パラメータは 地表面の湿潤度βを0.1きざみに表してある。 (水環境の気象学、図6.3; Kondo&Watanabe, 1992:JAS より転載)

地表面温度はフリーとしてあるので、風速が増加すると顕熱・潜熱 輸送量が大きくなり地表面温度は低下する。このことから、ある風速で 顕熱輸送量はピークをもつことになる。
質問3.3の後ろにつけた補足を参照のこと。


熱収支式の解と、バルク式のみの計算の違い
少し、時間をかけて熱収支式を解くことの意義を説明しよう。しっかり理解 できるようになれば、現象に対して基本的なことがわかるのである。
バルク式1つで計算する場合は、結果は容易で当たり前のことしかわからない が、熱収支式を解くこと(3式を使って顕熱、潜熱、地表面温度を同時に 解くこと)は複雑な現象の理解に役立つ。複雑な数値シミュレーション をたくさん実行する前に、基本的なことは熱収支式を解けばわかる 例を図27.2によって説明しよう。

図37.2を海陸風の理解に利用してみよう。
地表面の湿潤度β=0.5の線に注目しよう(晴天日中の草地を想定しCH =0.003m/s)。顕熱輸送量(中図)は、始め交換速度(風速)とともに増加 するが、CH=0.006m/s(風速2m/s)付近で極大値になったのち、 CH=0.026m/s(風速9m/s)付近でゼロとなり、以後マイナスの値 で増加する。これは風速9m/s以上では地表面は蒸発による冷却作用が強くなり 気温より低温になるからである。

海陸風は、日中の陸上が海上に比べて顕熱輸送量が大きく、昇温し、気圧が 下降して起こる循環流である。海・陸で気圧差が生じて風が吹き始めると、 陸上の顕熱輸送量は大きくなり、大気はますます昇温、気圧差増加、風速 増加の過程を繰り返す。しかし風速がある強さ以上になると、顕熱輸送量は 減少しはじめるので、風速は適当な大きさで平衡状態となる。平衡状態は、 顕熱輸送量の極大値をとる風速の近くにある。

図37.2によれば、顕熱輸送量の極大値をとる風速はβが小さいほど大きく、 海陸風の強さはβに依存する。


質問3.2 顕熱輸送量のピークはなぜ?(その2)
交換速度と顕熱輸送量の関係に関して、直感的には風が強くなると顕熱 輸送量が増大しつづけると思うのだが?

回答
上述の質問3.1の回答で述べた通りである。風速が強くなると顕熱輸送量が 増大しつづけるのはバルク式1つの意味であるのに対し、図37.2は熱収支式 3式を解いた結果である。つまり、地表面温度と顕熱・潜熱輸送量は共に 満足していなければならないのが自然の条件である。


質問3.3 顕熱輸送量のピークは海洋では生じないのでは?
黒潮などの強風域では海洋内部から海面に供給される熱輸送が常にあり、 水温は維持される傾向がある。そのような海域では図36.17(同様に図37.2) の顕熱ピークの関係は成立しないと思うが、いかがか?(HT)

回答
海洋内部から莫大な熱供給がある場合、風速など気象条件によって顕熱 輸送量はいろいろな場合がありうる。

図36.17(同様に図37.2)は有効エネルギー(R↓-G)を与えた場合の図である。ただしR↓は 入力放射量、G は地表面(陸面、海面)における地中(水中)への熱輸送量 (水温を温めるエネルギー:海洋による水平方向の運搬熱がある場合は 海洋運搬熱の発散量=G-海水温度を温める熱)である。

Gを別個に扱う場合はGを表す式を含む4つの式を解かねばならず、その例は 「水環境の気象学」152~159ページに掲載してあるように複雑になるので、 図36.17は簡単に1つの図になるように(R↓-G)を与えた場合を示した。

海洋で G が大きい場合についての実例は前章の 「K36. 海上大気の諸問題ー海上風、熱収支、温暖化問題」の付録に 示したので参考にされたい。


質問3.4 海上でのボーエン比と湿度
海上でのボーエン比(=顕熱輸送量/潜熱輸送量)の物理的意味は、 「大気が湿っているかいないか」の指標にしかならないか?(I)

回答
ボーエン比は地表面におけるエネルギーの顕熱・潜熱への配分比であり、 気候条件を表す重要なパラメータである。大気湿度にも依存するが、大気 湿度の単なる指標ではない。

ボーエン比は気温と地表面湿潤度に強く依存する。海洋では地表面湿潤度 β=1であるので、気温に大きく依存し、現実に出現する気象条件の範囲 では湿度や風速にも多少依存する。その敏感度は熱収支式を含む3つの式を 解けば容易にわかる。

乾燥域では地表面湿潤度βがゼロに近く、ボーエン比は水文気候を表す 重要なパラメータである。砂漠ではボーエン比が非常に大きく、湿潤気候帯 ではボーエン比が小さい。

ついでに、熱収支と密接な関係にある蒸発量(水収支量)に関わる重要な ことを説明しておこう。気候を明確に区分できるパラメータとして気候湿潤度がある。
気候湿潤度WI=(降水量P/ポテンシャル蒸発量Ep)
で定義される、ただしEpはその地域の気象条件のみで定義される仮想的な黒い 湿面からの蒸発量である。このWIの大きさによって乾燥域、半乾燥域、亜湿潤域、 湿潤域の区分が行われる(「地表面に近い大気の科学」p.240を参照)。



質問3.5 潜熱輸送量のマイナスについて
バルク式を用いると、大気の湿度が高く、比湿が水面の飽和比湿より大きい 場合、負の潜熱(マイナスの蒸発量:凝結)が計算される。衛星データによる 海上の比湿の推定から得た結果の解釈に困っているのだが、実際にマイナス つまり大気から水面へ潜熱(水蒸気)が輸送されているか?(T)

回答
その1:衛星から大気比湿の推定は原理的に可能だが、それは厚い大気層の 平均比湿の推定ならよい。しかし、海面上10m程度の高度における比湿を 推定することは原理的に難しく、精度が悪く誤差が大きいことに注意 すべきだ。それを用いたフラックスの計算値は信用できない、 と筆者は考える。

船舶(商船、漁船)による海上データが皆無の海域を除けば、海上の風速、 気温、湿度、天気などは3時間ごとに観測され気象通報されている。こうした データを使うほうが衛星から推定するよりもはるかに精度がよい。動揺する 小型ブイによるデータも精度が落ちる場合があるので、船舶データも 利用するがよい。

1974、75年のAMTEXでは研究者達による島嶼沿岸において得られたデータは 広域の状態を表すものでなかったので、船舶データを役立てることができた。

その2:大気の比湿が高く、潜熱フラックスはマイナス、つまり凝結する ことはありうる。直感的にわかる例として大きなビルの玄関で、 最近はじゅうたんが敷かれていることが多いが、床がコンクリート の場合、低温が続いて冷えている状態のとき、急に湿潤高温な南風が吹く ような場合、床は水でじめじめすることを経験する。これは凝結した結果 である。

海面や湖面では凝結した水の区別ができないが、大気から水面への凝結が 起きる場合はある。水深の深い十和田湖では、初夏(5~7月)の水温が 気温より低い時期に潜熱輸送量がマイナスになることが多く、月平均の蒸発量 は非常に小さくなる(水環境の気象学、図7.14)。

積雪面温度は0℃以上にはならないのだが、春先に暖かい湿った風が吹くとき、 河川流出が大きくなる。これは凝結による積雪面への潜熱の供給による融雪と、 大気水蒸気の雪面への凝結による効果が現れた現象である(身近な気象の 科学、図16.2、16.3、図16.7)。



質問3.6 大気の湿度は100%のときの蒸発量
大気の湿度が飽和状態のとき、蒸発は生じるか?(MK)

回答
大気の比湿が飽和状態のとき、蒸発はゼロだと考えるのは正しくない。
これを熱収支から説明しよう。電気コンロでやかんの湯を加熱するとき、 やかんの内部(水面上)は飽和湿度の状態となっている。それでもやかんの 湯は蒸発してしだいになくなってしまう。

これはやかんにエネルギーが供給されている限り、エネルギー保存の原理から、 そのエネルギーは湯を蒸発させる潜熱のエネルギー、やかんの外壁を通じて 顕熱と赤外放射によって外部へ放出されなばならない。エネルギー保存則 からやかんの中は水蒸気飽和であっても蒸発が生じるのである。

海面の場合も同様である。海面に放射エネルギーが正味注がれていれば、 そのエネルギーは顕熱・潜熱・赤外放射及び水温を上昇させるエネルギー となる。大気湿度が100%の場合、下層大気は霧となっているのだが、ほぼ 定常状態に達し水温がほぼ平衡になったとき、水面は気温よりも高くなって 水面直上の薄い気層内には霧はなく、蒸発が生じている。

目を水面近くに下ろして注意深く観察すると、この現象を目視することが できる。雨後の陸上でも放射冷却で霧ができている時にも、地面近くの 薄い層には霧は見えないことがある。

蒸発が生じるかどうかは、その時の気象条件を用いて熱収支式を解けば 判定することが可能である。



4.気温と海水温度の相互関係のこと

質問4.1 三陸の沿岸水温と気温の相互相関についての解釈は?
南三陸の江の島における水温変動と、その隣の金華山における気温変動 の関係(図36.20)において:
(a) 水温が気温の変動を規定していると解釈してよいか?
(b) この水温変動は主に親潮変動によるものと理解してよいか?
(c) この解析から「やませ」と親潮の関連など見られるか?

回答
(a) 図36.20は年平均値に示したもので、1年ごとの水温変動幅と1年ごとの気温 変動幅の相関関係(図示していないが、数十年サイクルの気温と水温の ジャンプ・ダウンについてもほぼ同じ相関関係)である。この関係から、 どちらが先に起きてどちらがあとで影響を受けた結果とは判断はできない。 筆者の考えでは、水温と気温は大気場・風速場を通して、相互に作用して 平均的には同時に変動していると解釈している。

(b)はい、その通り、水温変動は親潮変動(親潮が変動すれば黒潮も変動する) によるものと解釈している。 (c)はい、「やませ」との関連があると考えている。
もともとこの関係、江の島など北海道太平洋沿岸から八丈島にいたる水温 変動を調べることになった動機について説明しておこう。1980年代初期に 東北地方を中心に大冷夏・大凶作が生じた。古文書に残された江戸時代 初期からの記録と世界的な火山噴火の資料をつき合わせてみると、大規模 噴火の生じた時代に1年ほど遅れて飢饉・大凶作が頻発していることが 明らかになった。

ところが昭和初期(1931、1934、1935、1941、1945年)の大凶作頻発時代には 世界的な大噴火は生じていない。なぜなのか、と考えて始めたのが沿岸水温の 長期変動の解析であった。すると、大冷夏・大凶作の頻発した昭和初期には 三陸沖の水温が低温の時代であった。この時代でも太平洋高気圧の勢力が強い 年は冷夏にはならず、「やませ」の卓越する年には冷夏となっていた。

そうして終戦を境にして、1946年以後水温は大きくジャンプし、年平均水温は 江の島で1.5℃のジャンプがあった。夏平均も冬平均もジャンプ量はほとんど 同じである。親潮・黒潮の潮境から南北に離れるにしたがって ジャンプは小さくなっている。1980年までは高温時代が続き、 大冷夏・大凶作は生じることなく、戦後の日本は大きな経済発展をなした。

数十年サイクルで生じている世界の漁獲量の変動も海洋変動の長期変動と 関連している。これらは、「身近な気象の科学」の8章、9章、13章、18章に、 「地表面に近い大気の科学」の9章に、Kondo(1988: J.Climate) に示した。



質問4.2 水温-気温の相互関係と水産資源の予測は?
江の島ー金華山・石巻間の水温と気温の関係(図36.20)の結果 から魚など水産資源の動向の予測に応用できないか?(HY)

回答
予測には利用できないかもしれないが、現況把握にはりようできるのでは ないかと思う。前記の質問4.1の(c)に示した文献の図も参照してほしい。



5.気候変動、1988年ジャンプに関すること

質問5.1 1988年気温ジャンプは有意か?
都市効果や日だまり効果を除いた田舎観測所データによる年平均気温の 長期変動(図36.18)に見える1988年気温ジャンプは統計的に有意か?(HY)

回答
図36.18に示した5地点平均グラフだけからは1988年ジャンプの有意性は 不明と受け取れるかもしれないが、個々の地点について示したジャンプ量から 判断して統計的に有意と考えている(「K32.基準3地点の 温暖化量と都市昇温」の表32.4を参照)。
ただし、これらは予備的解析であり、現在1988年ジャンプについて詳細な解析 を進めている。その解析では日だまり効果などめんどうな補正を同時に行う 作業を進めている。



質問5.2 日だまり効果の補正方法は?
気象観測所における気温の日だまり効果の補正は具体的にどのようにして行う か?

回答
年平均気温の年々変動は±1℃程度で変動しており、日だまり効果はその 観測所のデータだけからはまったく判断はできない。ここでは観測環境が 比較的よい周辺の気象観測所の平均気温と対象観測所の気温の差から判断 している。

日だまり効果は露場の周辺に建物が建てられたり樹木が生長することで、 露場の高度1~2mにおける平均風速が弱化し、鉛直混合が弱まり、地表面から 上空へ拡散される乱流フラックス(顕熱・潜熱輸送量)が減少し、露場付近 の平均気温が上昇によるものである。

現在、露場では一般に風速は観測されていない。測風塔(高さ10~数十m)高度 における年平均風速の経年変化を見て、それが減少しておれば、露場の風速 も減少している確率が大きい。この情報が大きなヒントとなる。さらに日本 各地の現地に行き、聞き取り調査により年配者から昔からの状況変化を教えて もらったり、気象台・測候所に保管されている昔の写真や図面も参考にして いる。

具体的な補正方法(予備解析)はホームページ「研究の指針」の例えば、 岡山県内陸の旧津山測候所については、 「K35.基準5地点の温暖化量と都市昇温(2)」 の図35.6と「写真の記録」の「66.岡山県 の津山測候所」に掲載されている。他の地点については該当する章に 掲載してある。



質問5.3 1988年気温ジャンプと大規模場との関連は?
1988年の気温ジャンプは、大規模場のどのような変化と関係しているか? (NS)
1988年の気温ジャンプは、何によるものでしょうか?(CY)
1910年付近にも小さいがジャンプが見えるが?(CY)

回答
日本域における気温ジャンプは解析中にえられた現象であり、他の大規模場 の現象との対応はまだ調べていない。気温ジャンプを明確に解析するには、 現在面倒な補正(日だまり効果、観測法の変更、観測時刻の時代に よる変化等)を施してやっと現象が見えてきた段階である。
ご指摘のように、1910年付近のほか1946年付近にも小さいジャンプがありそう である。1940年前後~1952年まで1日3回観測から日平均気温が算定された時代が あり、その補正は行っているのだが、どうしてもある程度の誤差が含まれる。 現在、誤差を小さくするために25地点の気候変動観測所を筆者なりに選定 して作業を進めており、解析が終了すればより明確になると考えている。

大規模場の解析をなさっている皆様からの1988年ジャンプとの関連情報を 期待している。



質問5.4 1988年気温ジャンプと温暖化について
このジャンプも”地球温暖化”を示すのか?  温暖化は徐々に気温の 時系列に見えてくる現象ではないだろうか? 1988年以降は、ほぼ横ばい であるが温暖化との関連は?(TK)

回答
温室効果ガスの増加は単調に増加しているので、直接的な温室効果の変化は単調 に増加するだろう。しかし、筆者の考えでは、気候変化はそんなに単純な ものではなく、大気海洋間、植生大気間の相互作用や雲の活動を通して 起きる地球系の熱バランスなど複雑な過程のもとで生じる。それゆえ、 気温を例にとれば、気温の上昇・下降、ジャンプ・ダウンなども伴う のが自然の姿ではないだろうか。

1988年ジャンプがなければ、気温上昇を仮に直線近似で表す100年間当たり の上昇率は小さいが、1988年ジャンプを含めると大きくなる。 近年の都市化による都市の気温上昇に輪をかけて、最近30年間における 大きな気温上昇のために、最近とくに温暖化問題が政治・社会問題化して きたのではないだろうか。この問題化が市民に環境問題を認識させることに 役立ったものと思う。

ジャンプがあればダウンも、また平坦な時代もあるので、温室効果の増加に よる気温上昇を30年程度の時間スケールで論じてはならないと思う。



質問(コメント)5.5 1988年気温ジャンプに関する大規模場の情報
1988年の日本の気温ジャンプはいつの季節をもっとも反映するか?
そのころ、冬のモンスーンが急に弱まった事実がある(Nakamura et al. 2002: J. Climate)。(HN)

回答
気温資料の補正に難しい点があり、解析はまだ年平均気温についてしかできて いない。筆者の解析手法を真似て、若い人びとによって季節変動が明らかに されることを期待している。ただし、より正しい実態を見出す作業はたいへん なので、業績評価される若い人たちはこのような気候変動の解析はせず、 年齢を重ね経験を積んだのちとりかかることを勧めたい。



質問(コメント)5.6 海洋変動との関係
1988年ジャンプとグローバルな大気海洋変動と一致するかもしれない次の 現象がある。(S)

1975年頃まで・・・・・・・黒潮の直進傾向、親潮の北上傾向
1975~1990年頃まで・・・・黒潮の大蛇行、親潮の南下傾向
1990年頃以後・・・・・・・黒潮の直進傾向、親潮の北上傾向


質問5.7 気象庁の観測所の選定との違い
気象庁でも都市化の影響の小さい観測所17地点を選んで長期変動を監視して いる。近藤先生の選んだ地点とどのような違いがあるか?(NS)

回答
筆者による気候変動の資料解析は、「気象庁が都市化の影響が少ないとして 選んだ17地点のデータによる気温の長期変動には、都市化などの影響を受けて 過大に評価されている」という筆者の直感から始めたもので ある。図37.3は筆者の選んだ34地点である。

気候変動観測所34地点
図37.3 気候変動観測所34地点の地図。34地点のうち13地点(網走、根室、 寿都、石巻、山形、水戸、伏木、長野、飯田、境、彦根、多度津、浜田)は気象庁 が選んでいる17地点と共通しているが、日だまり効果の補正が必要である。

筆者の解析は発表されたデータの羅列ではなく、都市化・日だまり効果、 観測法と観測時間の変更に伴う補正を行い、より真実に近い気温変化を評価 しようとするものである。

途中の段階であるが、気象庁17点の解析から得られる100年間当たりの気温上昇 率(1.2℃/100y)のうち、約50%は都市化の影響を含む値であることが わかってきた。



6.その他、コメントや感想など

コメント6.1 1970年代の成果の見直し
1970年代は境界層の基礎過程の解明が大きく進んだ時代である。ただそのころ は、大規模の大気海洋結合変動やストームトラックなどの概念などがなかった 時代である。その後、そうした概念が出揃った現代、もう一度、1970年代の 成果を見直してみるのはとても意義深いと思う。(HN)

コメント6.2 詳しい内容を聞きたい
カルマン定数の変遷についてより詳しく伺いたかった。低温時から高温時へ 変化する際、顕熱輸送量から潜熱輸送量の優位性(ボーエン比の変化)に ついても、より詳しい説明を聴きたかった。赤道海域で行われたMONEX’79 観測時における雲の発達の写真は印象的であった。(KK)

コメント6.3 講演時間が短い
1つ1つのトピックスの時間が短過ぎた。(MK)

コメント6.4 30分では短い
温度風については今まで意識したことがなかったので、参考になった。
熱フラックスは再解析データなどの誤差を評価する上で「真値」とみなす べき観測データが海上で決定的に少なく、複数あるフラックスデータセット でどれが正しいか、何ともいえないのが悩みどころである。
諸問題を講演するのに30分では短い。(YK)

コメント6.5 興味深かったこと
不安定時にバルク係数が大きくなり、風速も大きくなるため、地衡風と 海面ストレスとの関係を見ると、不安定時の海面ストレスがより大きくなる ということがimpressiveであった。
バルク法以前の歴史的経緯はたいへん興味深かった。
大気安定度の安定/不安定の違いをきちんと判断しないといけないことがわ かった。(MK)

コメント6.6 詳しい内容を知りたい
十和田湖の観測の話を、もっと聞きたかった。
安定度と風の関係について最近の見方に対するご意見をもっと聞かせて 欲しかった。(YT)

コメント6.7 考える基礎は1970年代にある
黒潮続流域の海洋前線の変動が大気に及ぼす影響に興味を持っているが、 大陸からの寒気の気団変質過程(東シナ海)における入力放射量の顕熱・潜熱 への配分比は熱フラックスの分布を特徴づけていることが参考になった。
さらに、海面水温の前線構造が大気安定度の変化を通して大気に及ぼす 影響もあり、これらを考える基礎は近藤先生の話にあり参考になった。 (BT)


あとがき

今回の研究会で話題にすべき内容は、昨年度の研究発表目次とコンビナーの 根田昌典先生からのコメントを参考にして選んだものである。バルク式 のことと、大気安定度と海上の風向・風速のことをやや詳細に説明した。 その他の話題は断片的であるが、参加者にはちょっとだけでも話題にすれば 興味を持ってもらえると考えた。

寄せられる質問とコメントのすべてには研究会の時間内(30分間)には 回答できないと予想したので、質問・コメント用紙は講演前に配布しておいた。

講演時間内に出された質問も含め、すべての質問に対して、この章で 回答させていただいた。

参加者の感想文によれば、もっと詳しく聞きたいという希望がある。筆者は 現在、日本各地をまわっているので、そのついでに、 どこでもセミナーを開催できる。

現在までのところ、1話題について90分間(質疑・討論含む)で行っている。 希望があれば申し出て欲しい。 もちろん謝金や旅費はいただかないことにしている。

多くの参加者から質問、コメント、感想文をいただいたことに感謝したい。



参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、pp.189.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支. 朝倉書店、pp.348.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学-理解と応用-.東京大学出版会、 pp.324.

Bradley, E.F., P.A.Coppin, and J.S.Godfrey, 1991: Measurements of sensible and latent heat flux in the western equatorial PacificOcean. J. Geophys. Res., 96(Suppl.), 3375-3389.

Kondo, J., 1972: Applicability of micro-meteorological transfer coefficient to estimate the long-period means of fluxes in the air-sea interface. J. Meteor. Soc. Jpn., 50, 570-576.

Kondo, J., 1975: Air-sea bulk transfer coefficients in diabatic conditions. Boundary-Layer Meteor., 9, 91-112.

Kondo, J., 1976a: Heat balance of the East China Sea during the Air Mass Transformation Experiment. J. Meteor. Soc. Jpn., 54, 382-398.

Kondo, J., 1976b: Parameterization of turbukent transport in the top meter of the ocean. J. Phys. Oceangr., 6, 712-720.

Kondo, J., 1977: Geostrophic drag and the cross-isobar angle of the surface wind in a baroclinic convective boundary layer. J. Meteor. Soc. Jpn., 55, 301-311.

Kondo, J. and S. Ishida, 1997: Sensible heat flux from the earth's surface under natural convective conditions. J. Atmos. Sci., 54, 498-509.

Kondo, J. and O.Kanechika, and N.Yasuda, 1978: Heat and momentum transfers under strong stability in the atmospheric surface layer. J. Atmos. Sci., 35, 1012-1021.

Kondo, J., Y.Sasano, and T.Ishii, 1979: On wind-driven current and temperature profiles with diurnal period in the oceanic planetary boundary layer. J. Phys. Oceangr., 9, 360-372.

Nakamura, H., T.Izumi, and T. Sampe, 2002: Interannual and decadal modulations recently observed in the Pacific storm track activity and east Asia winter monsoon. J. Climate, 15, 1855-1874.

トップページへ 研究指針の目次