K175. 里地里山の水温の空間・時間変化(2)


著者:近藤純正・野口賢次・内藤玄一
神奈川県秦野市千村の谷間「谷戸」には湧水を利用した農耕地・水田がある。 1年間の観測から、谷戸における水温の時間変化と水源からの流路距離との 関係を明らかにした。

一般に、流速が非常に小さい溜水の水温は、その地点の気象条件によって 日変化・年変化するのに対し、水流のある流路の水温は流路距離の関数と なり、距離とともに日変化・年変化の振幅が大きくなる。

(1)高温の夏期には流路水温は水源近くで急上昇、流路距離とともに上昇 して、しだいに平衡水温に近づいていく。逆に低温の冬期には、水温は流路 距離とともに低下し、やがて平衡水温に近づいていく。ここに平衡水温とは、 その地域の気象条件で熱収支的に決まる水温のことである。

水源からの流路距離が350m以内の谷戸では、流速5~10cm/s の場合、 水の滞留時間は1~2時間であり、さらに日陰も多く、水温の日変化幅は 晴天日でも1~2℃である。

(2)水源から十分な距離にある溜水では、強風が吹くなど特殊な地域 でない限り、夏の平均水温は気温よりも高温になる。冬は地域の外的条件 (有効入力放射量)により異なり、平均水温は気温よりも低温になる所 (北海道など)と高温になる所(日射量の多い南日本など)がある。

谷戸では、こうした一般的な特徴と異なり、水温の年変化幅は小さく、 夏期の平均水温は気温よりも低いが、冬期の平均水温は気温より高い。 すなわち、谷戸の水温は冬に暖かく、夏に涼しい。
(完成:2018年10月15日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2018年10月6日:素案の作成
2018年10月9日:所々に短い字句を加筆

    目次
        175.1 はじめに
        175.2 観測
        175.3 流路水と溜水の水温
        175.4 月平均水温と気温の関係
        175.5  日々の流路水温の季節変化
      (A)全般的な特徴
      (B)大雨時の特徴
      (C)水温の日変化と気温の関係
        まとめ 
        参考文献            


研究協力者(敬称略)
千村ネイチャ―倶楽部:尾崎文隆、大森哲男


175.1 はじめに

神奈川県秦野市千村には日立ITエコ実験村がある。ここは森林が近接する 谷間で湧水のある湿地状態、関東地方では「谷戸」と呼ばれ、台地が浸食 されて形成された谷状地形である。ITエコ実験村は、人間の暮らしを支え ている里山の自然をITと人の力で再生・保全することを目指して 2011年4月に開設された。ここでは、土・水・大気環境と生き物に関する 調査が行われている。

本研究では、湧水源からの流路距離と水温の関係や、流速の小さい池・水田 など溜り水の水温の時間変化など、谷戸の水環境を明らかにすることが目的 である。

水温の一般的な特徴
水温に関する一般的な特徴は第一報で説明した( 「K155.里山の水温の空間・時間変化(1)」)。 その要約は次のとおりである。

一般に、河川は地中から湧き出た湧水が集まって流下する流れである。 地中水の温度は地域の地表面温度の年平均値に等しい。地表面温度の年 平均値(=地中水温の年平均値)は気温の年平均値より少し高いことが多く、 水温・気温差は高緯度で大きく低緯度で小さい。これは熱収支理論から 得られる結果であり、観測からも確かめられている(近藤・松山、2016a; 「K130.東京の都市化と湧水温度―熱収支解析」; 近藤・松山、2016b;「K132.東京の都市化と湧水 温度―熱収支解析(2)」)。

河川の源である湧水源の水温は年間を通じてほぼ一定であるが、湧出後は 水と大気間で放射・顕熱・潜熱の交換が行われ、流下するにしたがって 水温は変化していく。

気象条件と水深と流速が流路上で一様な場合について近藤(1995)は熱収支 理論から一般的な水温変化の特徴を明らかにしており、また観測からも 確かめられている(近藤・菅原・高橋・谷井、1995)。

流路の水温の日変化幅は、水源に近い所では小さいが、流路距離とともに 大きくなり、一定幅に近づいていく。日変化幅は水深と流速の関数となる。

谷戸は森林が近接する谷間で、日陰・日向が混在し、複雑地形のため流路上 の風速も複雑である。それゆえ、熱収支式を解くよりは、水温観測から 平均的な放射条件・気象条件・流路条件(幅・水深・流速)によって決まる 水温の実態を観測から知ることである。その際、上述の理論的に分かって いる特徴は水温の空間・時間変化の振舞いを理解するのに役立てることが できる。

本研究で得られた谷戸の水環境についての知識は、生態系とのつながり、 里山の保全と利用に活かされよう。


175.2 観測

水温の測定点は図175.1に示した。図の下方に位置する地点 a と地点 s は 明確な湧水の水源である。

この図では、土地利用を表すカラー分類が明瞭に表現されていない。詳しくは ドローン写真を参照のこと(「K170.里地里山の気温 分布(完結報)」の図170.1)。
その図のF2が湧水源、V1が水温記録の c 点に近く、V3が水温記録の k 点に 近い位置である。ただし、その図は南北が逆で上方が南であることに注意する こと。

地図、観測点8月25日
図175.1 水温測定点の地図(秦野市提供の白地図に加筆・加工) (「K155.里地里山の水温の空間・時間変化(1)」 の図155.5に同じ)。
戸谷の中央部 n の標高を基準とすれば、各地点の概略の標高差は 次のとおりである。 aは+11m、cは+3m、kはー2m、kの左約50mの道路は+0.8m、 その左20mに位置する人家は+14m、はるか北方のEはー8mである。


連続記録
水温計は検定済みの3線式Pt1000センサ、データロガーは「おんどとりTR-55i」 を用いた。連続して1時間間隔で水温を記録した定点はa, c, kの3地点である。 ただし、水源a の水温は年間を通して15.0℃±0.2℃でほぼ一定であることが 分かっている(「K153.神奈川県秦野の湧水の季節 変化(2)」)。それゆえ、本論では1年前の観測値を用いる。

なお、湧水源a の水温は自記記録のほか、不定期的に観測し、1年後も 15.0℃±0.1℃であることは確かめてある。この観測では0.01℃分解能・ 精度の検定済みの4線式Pt100センサの水温計(立山科学工業、PrecyK320) を用いた。

流路に沿う水温観測
自記記録とは別に、夏と冬について水源a 点から流路に沿って・・・c, k, ・・・と下流の距離1400m付近まで水温を観測した。この観測でも検定 済みの4線式Pt100センサの水温計(立山科学工業、PrecyK320)を用いた。

流路の流量
水源a から自記記録点c 付近の流量は季節により変化し10~30 リットル/分である。下流に行くにしたがって、別の湧水からの支流が 合流し、しだいに流量が増えて小川から川の流れとなっていく。 水源a の下流1000m付近では川幅は数m、水深は0.1m程度となる。

なお、この地域の湧水源は森林で覆われた山地斜面の下方に多数箇所あり、 湧水温度はほとんど同じで15℃前後である。

気温観測
「K170.里地里山の気温分布(完結報)」 で報告したように、気温は多地点で1年間余り連続記録した。本論では、 それら多地点のうち丘の観測点H1における気温を用いる。丘は開けた 風通しのよい畑地にあり、この地域を代表する地点である。気温観測では 検定済み3線式Pt1000センサ、データロガーは「おんどとりTR-55i」、 通風筒は近藤式精密通風気温計(プリード社製)を用いた。


175.3 流路水と溜水の水温

水源から流路沿いに下流に向って水温を観測した。
図175.2は晴天日の2017年8月25日の12:40~15:00の時間帯における水温 と流路距離の関係である。横軸は水源aからの流路距離である。流路距離= 1450mは室川と県道秦野大井線の交わる位置にある交通信号の川下200m の位置である。

図中の小野流路(小野薫宅の脇を流れる流路)の水温は水源 s から u 点 までの流路距離としてプロットしてある。

水温8月25日
図175.2 水温と流路距離の関係、2017年8月25日( 「K155.里地里山の水温の空間・時間変化(1)」の図155.6に同じ)。
塗りつぶし印は日陰の水温、白抜き印は日向の水温
黒丸印:流路の水温
赤四角印:溜水の池・田と流れが微弱な溜水に近い別流路の水温


図175.2によれば、流路上の水温は水源で15.08℃、その下流10m地点で 18.88℃、46m地点で21.24℃と急上昇している。その後の水温上昇率は 小さくなり、流路距離1450mで29.60℃となった。その変化傾向は黒破線 で示してある。

いっぽう、流速の微弱な溜水の池・水田の水温は、赤線で示すように流路 水温よりも急激な速さで上昇し、流路距離=317mのD点では32.78℃と なっている。流速の微弱な池・水田の水塊は水源を出てからの経過時間が 長く、水・大気間の熱交換の総量が大きいために高温となったわけである。

黒破線からすれば、流路の水温がD点の水温32.78℃に達するのは、流路距離 がおそらく10倍の距離に相当する3kmほどの川下と推定される。 同様に黒破線上から読み取ると水温=28℃は流路距離=1200mの地点である のに対し、赤線上の水温=28℃は流路距離=120mの地点である。したがって、仮に 水深が同じとすれば、溜水の池・水田の平均的な流速は、流路の流速の 1/10 ということになる。

他の特徴として、流路の水温は観測点が日陰か日向による違いは明らかで ないが、溜水の池・水田の水温は日陰で2~5℃ほど低温である。 つまり、溜水の池・水田の水温は、ごく局所の気象条件(放射量、 風速など)に大きく支配されていることになる。

次の図175.3は冬の2018年1月16日の観測である。夏の観測の前図とは逆に、 水温は流路距離とともに低くなる。これが冬の特徴である。つまり、水源に 近い谷戸の水温は下流域に比べて冬に暖かく、夏に冷たい。

水温1月16日
図175.3 水温と流路距離の関係、2018年1月16日。
塗りつぶし印は日陰の水温、白抜き印は日向の水温
黒丸印:流路の水温
赤四角印:溜水の池・田と流れが微弱な溜水に近い別流路の水温


続く図175.4は再び夏の水温と流路距離の関係を示していて、1年前の夏に 観測した図175.2と同様な傾向を示している。

水温7月10日
図175.4 水温と流路距離の関係、2017年7月10日。
黒丸印:流路の水温
赤四角印:溜水の池・田と流れが微弱な溜水に近い別流路の水温


175.4 月平均水温と気温の関係

2017年10月から2018年9月までの1年間の連続記録から、水源a, 流路距離 lx=46mの c 点と流路距離lx=143mの k 点の3地点の水温を比較し、気温との 関係もみてみよう。

図175.5は月平均水温と月平均気温の季節変化を示している。水源aの水温は 年間を通してほぼ一定の14.97℃±0.2℃で、グラフからは季節変化は見え ない。寒候期(11月~2月)は気温がもっとも低温、水源に近いほど15℃に 近い水温を示している。

暖候期(6月~9月)は気温がもっとも高温、水源に近いほど低温である。 このグラフから、流路距離が概略500m以上の下流の水温を外挿してみると、 11月~2月の水温は気温より低く、6月~9月の水温は気温より高くなる傾向 である。ただし、日照時間が少ない山間地域の水温である。

月平均水温の季節変化
図175.5 月平均水温と月平均気温の季節変化。


熱収支理論によれば(近藤、1994、の式6.33)、強風域でない限り、 有効放射量がプラスであれば、平均水温は平均気温よりも高くなる。 ここに有効放射量とは R↓-σTであり、R↓は入力放射量、 σT4は気温に対する黒体放射量である。高緯度の北海度など を除けば、日本の開けた日当たりのよい場所では有効放射量は年間を通じて プラスである(近藤、1994、の表14.3と表14.4を参照)。

表175.1は水温と気温の月平均値一覧表である。表の最下段に示すように、 水源の年平均水温14.97℃は地域を代表する丘の年平均気温14.70℃に比べて 0.27℃ほど高温である。

表175.1 水温と気温の月平均値一覧表。
月平均水温一覧表


熱収支理論から明らかなことは、水源の平均水温は地域平均の地表面温度 の年平均値よりも少し高温になるのが一般的な特徴であり、これが観測から 確認された。ただし、例外として強風域であれば、水源の水温は年平均気温 より低くなる。

いっぽう、流路距離lx=46mのc 点と流路距離lx=143mのk点の年平均水温 (14.17℃、14.11℃)は丘の平均気温14.70℃よりも0.53℃、0.59℃ほど 低温である。この2地点は森林で覆われた山地がせまる場所で日照時間 が短く、気温も低温である。「K170.里地里山の気温 分布(完結報)」の表170.2に示すように、水田上端や水田下端の 年平均気温は丘に比べて0.54℃、0.63℃も低温である。

流路距離lx=46mの c 点の年平均水温14.17℃に比べて流路距離lx=143m の k点 の年平均水温14.11℃が0.06℃ほど低温であるのは、前の図175.5に示した 寒候期(11月~2月)の特徴、すなわち流路距離が大きいほど低温になる 特徴、つまり日照の少ない冬の特徴が現れたものと考えられる。

備考:0.01℃の桁の精度について
ここで得られた0.06℃の温度差が確かなことは、高精度観測の 結果である。すなわち、市販品の3線式Pt1000センサ(立山科学工業)と データロガー「おんどとりTR-55i」を組み合わせて作った自記水温計の 分解能は0.1℃であるが、他の研究者たちが行ったことのない独特の検定 方法によって、多数の水温データの平均値が0.01℃まで意味を持つよう にしてあるからである。

なお、分解能0.1℃のデータロガーを用いたPtセンサの特別な検定方法は 「K171.サーミスタ温度計の校正(おんどとり TR-52i)」の方法と同じである。検定に用いた基準の水温計の分解 能・精度は0.01℃である(2年ごとに検定済み)。


175.5 日々の流路水温の季節変化

(A) 全般的な特徴
図175.6は水源aからの流路上のc点と k点で連続記録した水温の1年間余の 変化を示している。水源の水温は年間を通してほぼ一定で14.97℃±0.2℃ であるのに対し、c点(lx=46m:緑線)では明瞭な日変化と季節変化がみら れる。その下流のk点(lx=143m、赤線)では、その傾向が顕著に現れ、 日変化幅と季節変化幅が大きくなっている。

数日~30日の周期的な変化も見える。これは移動性高気圧などにともなう 気象の変化(日射量、大気放射量、風速、気温、湿度)によるものである。 気象変化にともない、水と大気間の熱交換が変動し、水温変化として現れた ものである。

さらに、数時間の短時間に水温の急激な変化も見える。特に目立つのは 最下段の図(2018年6月1日~9月30日)において、7月28日、8月6日、 8月24日にc点(lx=46m:緑線)の水温が短時間に急上昇・下降している。 これは大雨にともなう現象である。

日々の水温の季節変化
図175.6 水源a(lx=0m:青線)と流路 c点(lx=46m:緑線)とk点 (lx=143m:赤線)における水温日変化の季節変化、2017年9月19日~2018年 9月30日まで。日付の縦線はその日の0時を表す。


(B) 大雨時の特徴
大雨にともなう流路水温が急変する現象を分かりやすくするために図175.7に、 この地域の代表点(丘:H1点)における気温を黒破線で示してある。 8月6日は、20時~24時にかけて大雨があった(小田原アメダスの降水量 =87mm)。

大雨時の雨滴温と地表面温度は気温(黒破線)にほぼ等しいので、 その温度の水が流路に流れ込むと水温の記録は気温とほぼ同じになる。 このことが図に現れ、流路c点(緑線)の水温が一時的に約5℃も上昇した。

8月24日も同様に、早朝に70mmの大雨が降り、流路c点の水温が一時的に 約3℃も上昇した。

2018年8月の日々水温
図175.7 水温と気温(黒破線)の時間変化(2018年8月)。 日付の縦線はその日の0時を表す。


(C) 水温の日変化と気温の関係
これまでの図から水温の日変化は見えるが、時間軸を拡大して詳しく調べて みよう。
2017年の8月の日照時間(小田原アメダスの観測時間=122時間)に比べて 翌年2018年8月は好天が多く日照時間も大きかった(小田原アメダスの日照 時間=227時間)。それゆえ、水温の日変化の月平均値を見るのに都合が よい。

図175.8は2018年8月の水温の日変化の月平均値である。丘の気温は黒破線 で表した。気温の日較差の月平均値=6.16℃に比べて、水温は1.26℃ (流路lx=46m)および1.24℃(流路 lx=143m)で小さく、気温較差の 1/5である。

これまでに述べてきたように、谷戸では湧水源から出た水の滞留時間が 1~2時間で短いことが大きな理由である。仮に日照時間が長い平坦地で あっても、水源に近い流路では、湧水が水源を出てからの経過時間が 短いので水温の日変化幅は小さい。水源に近い谷戸の水温はこうした 特徴を持つことになる。理論的な関係は、前報の 「K155.里地里山の水温の空間・時間変化(1)」 の図155.1に示されている。

そのうえ、谷戸では山がせまり、日照時間が短いことも水温の日変化幅を 小さくしている。

水温日変化、2018年8月平均
図175.8 水温と気温(黒破線)の日変化(2018年8月平均)。


冬期の水温と気温の日変化について横軸の時間軸を拡大した図は示さない。 しかし、図175.5と図175.6の上から2段目の図から分かるように、 例えば2月についての日変化では、グラフの並び順序が8月の図175.8とは 逆になり、最上部に水源水温(青線)平均=14.92℃、2番目にc点 (lx=46m、緑線)平均=8.96℃、3番目にk点(lx=146m、赤線)平均=5.02℃、 最下部に気温(黒破線)平均=3.62℃、の順序に並ぶ。

谷戸の水温は水源に近いほど冬は暖かいわけである。放射冷却で冷えた 朝方の谷間では、湿度が高い日は水流付近に霧(朝もや)が見られる。

東京都内には所々に湧水があり、古老によれば昔のこと、「生活用水として の湧水を汲みに行くとき朝もやがよく見えた」とのこと。最近は、都内は 都市化の影響で朝の気温が下がり難くなり、また乾燥してきたので、 朝もやを見ることはなくなってしまった。

「身近な気象」の「M59.都市気候」 の図59.5によれば、東京や横浜では1930~1940年代の霧日数は年間50日ほど あったが、最近ではほとんどゼロになっている。


まとめ

神奈川県秦野市千村の谷間「谷戸」には湧水を利用した農耕地・水田がある。 湧水の温度は水源から流出したあと大気との間の熱交換によって変化する。 1年間の観測から、谷戸における水温の時間変化と水源からの流路距離との 関係を明らかにした。

一般に、流速が非常に小さい溜水の水温は、その地点の気象条件によって 日変化・年変化する。これに対して、水流の目視できる流路の水温は流路 距離の関数であり、水温の日変化・年変化の振幅は流路距離とともに 大きくなる。

今回の観測から確認された、谷戸の水温の特徴は次のとおりである。
(1)一般論: 高温の夏期には流路水温は水源近くで急上昇、流路距離とともに 上昇して、しだいに平衡水温に近づいていく。逆に低温の冬期には、 水温は流路距離とともに低下し、やがて平衡水温に近づいていく。 ここに平衡水温とは、その地域の気象条件で熱収支的に決まる水温の ことである。

谷戸の特徴: 水源からの流路距離が350m以内の谷戸では、流速5~10cm/s の場合、 水の滞留時間は1~2時間であり、さらに日陰も多く、水温の日変化幅は 晴天日でも1~2℃である。

(2)一般論: 水源から十分な距離にある溜水では、強風が吹くなど特殊な地域 でない限り、夏の平均水温は気温よりも高温になる。冬は地域 (有効入力放射量)により異なり、平均水温は気温よりも低温になる所 (北海道など)と高温になる所(日射量の多い南日本など)がある。

谷戸の特徴: 水源からの流路距離が350m以内の谷戸では水温の年変化幅は小さく、 夏期の平均水温は気温よりも低いが、冬期の平均水温は気温より高い。 すなわち、谷戸の水温は冬に暖かく、夏に涼しい。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支. 朝倉書店、pp.350.

近藤純正、1995:河川水温の日変化(1)計算モデルー異常昇温と魚の大量 死事件.水文・水資源学会誌、8、184-196.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用.東京大学出版会、 pp.324.

近藤純正、2018:K171.サーミスタ温度計の校正(おんどとりTR-52i)、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke171.html(2018年10月5日閲覧).

近藤純正・松山 洋、2016a:K130.東京の都市化と湧水温度ー熱収支解析」、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke130.html(2018年10月5日閲覧).

近藤純正・松山 洋、2016b:K132.東京の都市化と湧水温度ー熱収支解析(2)」、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke132.html(2018年10月5日閲覧).

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 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke143.html(2018年10月5日閲覧).

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近藤純正・野口賢次、2018:K170.里地里山の気温分布(完結報)、
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近藤純正・菅原広史・高橋雅人・谷井廸郎、1995:河川水温の日変化(2) 観測による検証ー異常昇温と魚の大量死事件.水文・水資源学会誌、8、197-209.

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