K155. 里地里山の水温の空間・時間変化(1)


著者:近藤純正・野口賢次・山崎慶太
神奈川県秦野市千村の谷間「谷戸」は複雑な地形からなり、そこには湧水を 利用した農耕地・水田がある。湧水温度は水源から流出したあと大気との間の 熱交換によって変化する。谷戸における水温の時間変化と水源からの流路距離 との関係について調べた。この第1報では2017年6月から11月までの結果を示す。

流路の水温は主に流路距離の関数であるのに対し、小池・水田は流速が小さく、 主にその地点の気象条件によって日変化する。

夏の水温は流路距離とともに上昇する。湧水源の近くで急激に上昇し、しだいに 平衡水温に近づいていく。晩秋から冬にかけては逆に水温は流路距離とともに低下し、 やがて平衡水温に近づいていく。ここに平衡水温とは、流路距離と無関係でその 地域の気象条件で熱収支的に決まる水温のことである。

湧水温度は年間を通じてほぼ一定(15℃)のため、湧水源からの流路距離40m~ 300mにある谷戸の水温の年変化幅は比較的に小さい。平均水温は平均気温 よりも夏に低いが、晩秋から冬にかけては逆に高くなる。水温の日変化幅は湧水源 でゼロであるが、流路距離とともに大きくなる。 (完成:2017年12月15日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年9月10日:素案の作成、155.3節まで
2017年9月13日:図155.3と155.4節を追記
2017年9月14日:図155.9~11を追加
2017年9月19日:水温観測点の詳細を加筆
2017年10月18日:図155.8と説明を追加
2017年12月9日:図155.8に11月30日までの水温データを追加

    目次
        155.1 はじめに
        155.2 従来の河川水温に関する研究
        155.3 流路の水温と流路距離の関係
        155.4 水温の日変化
        155.5  月平均の水温日変化(6月~8月)
        まとめ 
        参考文献            


研究協力者(敬称略)
千村ネイチャ―倶楽部:尾崎文隆、大森哲男


155.1 はしめに

里地里山は農林業と暮らしの場であり、そこには森林、農地、湧水、ため池、 水路などさまざまな土地利用形態がある。

神奈川県秦野市千村には日立ITエコ実験村がある。ここは森林が近接する 谷間で湧水のある湿地状態、関東地方では「谷戸」と呼ばれ、台地の浸食 によって形成された谷状地形である。ITエコ実験村は、人間の暮らしを支え ている里山の自然をITと人のちからで再生・保全することを目指して 2011年4月に開設された。ここでは、土・水・大気環境と生き物に関する 調査が行われている。

湧水温度を秦野市の11か所で2016年8月から1年間にわたり観測した (近藤・内藤、2017;「K153.神奈川県秦野の湧水の 水温季節変化(2)」を参照)。その結果によれば、日立ITエコ実験村 の湧水温度の年平均値は14.90℃、8~10月は15.15℃、3~7月は14.80℃、 年較差=0.35℃で小さい。

一般に、水温の季節変化幅は、地中水の平均的な深さ「平均的深度」に依存する。 季節変動幅が0.1℃程度であれば、「平均的深度」は10m程度と推定される (近藤・内藤、2017:「K143.神奈川県秦野の湧水の 水温季節変化(1)」)。

本研究では、湧水の水源からの流路に沿う流路距離と水温の関係や、 流速の小さい池・水田など溜り水の水温の時間変化など、谷戸の水環境を 明らかにすることが目的である。

155.2 従来の河川水温に関する研究

地中から湧き出た水が集まって流下する河川の場合、 地中水の温度は地域の地表面温度の年平均値に等しい。地表面温度の年平均値 (=地中水温の年平均値)は気温の年平均値より少し高いことが多く、 水温・気温差は高緯度で大きく低緯度で小さい。これは熱収支理論から 得られる結果であり、観測からも確かめられている(近藤・松山、2016a; 「K130.東京の都市化と湧水温度―熱収支解析」; 近藤・松山、2016b;「K132.東京の都市化と湧水温度 ―熱収支解析(2)」)。

湧水(河川源流)の水温は年間を通じてほぼ一定であるが、湧出後は水と 大気間で放射・顕熱・潜熱の交換が行われ、流下するにしたがって水温は変化 していく。

気象条件と水深と流速が流路上で同じ場合について近藤(1995)は熱収支理論 から一般的な水温変化の特徴を明らかにした。日変化する放射・気温・湿度・ 風速の条件、および水塊が源流を出発する時刻を与えれば、水温は源流点から の流路距離 lxの関数(あるいは、源流を出てからの経過時間τ)で表される。 この理論的計算結果は、観測からも確かめられている(近藤・菅原・高橋・ 谷井、1995)。

図155.1と図155.2はそれぞれ夏期の快晴日と曇天時の計算結果の例である。 3時間ごとに水温17℃の水塊が源流点を出てからの経過時間と水温の関係が 8本の曲線で描かれ、そのうちの赤線は12時に出発した水塊水温の時間変化である。 各図の上図は水深=0.05m、下図は水深=0.2mの場合である。

気温の低い冬期は源流点の水温は不変であるので、 図の縦軸の17℃に水平線を描いたとき、その線を軸とした上下対称に近い 曲線で表される(図155.3の破線)。

水温変化、快晴
図155.1 水塊が源流点を出てからの経過時間τと水温の関係。
水塊が3時間ごとに源流点を出た場合の8本の曲線が描かれ、そのうちの 赤線は12時に出発した場合。1点鎖線は計算結果の日平均水温。
天気は快晴、日射量は日変化、気温も日変化し日平均気温=23℃、風速も 日変化し日平均風速=2m/s、比湿=0.0141kg/kgの条件(近藤、1995、より転載)。
(上)水深=0.05m、 (下)水深=0.2mの場合


水温変化、曇り
図155.2 前図に同じ、ただし天気は曇天条件(近藤、1995、より転載)。
(上)水深=0.05m、 (下)水深=0.2mの場合


秋山沢の観測例
図155.3 経過時間τ(下横軸)または流路距離 lx(上横軸)と水温(縦軸)の 関係、ただし水深=0.08m、流速 V=0.4m/sのとき、秋山沢川1994年7月29日 正午過ぎ(近藤ほか、1995、より転載、破線を加筆)。
〇印:観測値
実線:理論計算値
破線:気象条件が冬期の場合


図155.3は経過時間τまたは流路距離 lx と水温の関係について、観測値と 理論値を比較したものである(近藤ほか、1995)。この図に、水源水温が 同じで、気象条件が冬期の場合を破線で示してある。

冬期の気温は水源水温より低温になるので、水面は大気に向かって熱量 (放射、顕熱、潜熱の合計)を放出する。その結果、水源を出た水塊温度 は経過時間あるいは流路距離とともに低下する。

つぎに、流路距離が決められた定点における水温日変化は、図155.1また は図155.2から読み取ることができる。例えば、流速V=0.3472m/s (または0.0347m/s)のとき 、τ=24時間は、流路距離 lx=V×τ=30km (または3km)に相当する。この例の場合の流路距離を図155.1および図155.2 の下端に示す横軸に記入してある。

流速V=0.3472m/sのときの流路距離30kmの定点では、図の横軸τ=24時間の 位置に描かれた8本の曲線から縦軸の値を読み取ればよい。
同様に、流速が1桁小さい V=0.0347m/sのときの流路距離3kmの定点では、 図の横軸τ=24時間の同じ位置に相当するので、水温は前者と同じ値になる。

例として、水深=0.05m、流速=0.3472m/s、夏期晴天日の流路距離が1kmと 30km地点における水温日変化を図155.4に示した。源流域に近い所では (左図)、水温は気温より低く日較差も小さいが、流路距離の大きい川下 では(右図)、水温は気温よりも高くなり日較差も大きくなる。

夏期水温1km、30km
図155.4 水深=0.05m、流速=0.347m/sの河川の定点における夏期快晴日 の水温(実線)と気温(破線)の日変化(近藤、1995、より転載)。
左:流路距離lx=1km,
右:lx=30km


以上の理論的計算から河川水温の一般的な特徴が示された。こうした一般的な 特徴は個々の複雑な地形にある河川においても変わらない、ただし、定量的な 数値は変わる。

実は、1989年8月の台風によって宮城県秋山沢川が氾濫し死者がでたことから、 森林内を流れていた小川が改修された。周辺一帯の森林は伐採、川は拡幅、 護岸堤防がつくられた。改修後の秋山沢川の川床はコンクリートで平らにされ、 自然河川と異なるものとなった。その結果、1994年夏の少雨渇水期の水深は浅く、 流速も遅くなり、日陰がほとんど無いために川水には強い日射が注がれ、 風当たりもよくなり、水温は異常上昇した。その結果、源流域の冷水を 利用した養魚場で魚の大量死事件が起きた。

上記の河川水温の理論的研究は、この事件を契機に行われたものであり、 河川水温の時間変化と流路距離による特徴を明らかにしたものである。 ただし、流路上の気象条件がほぼ一定の場合である。


注:河川の再改修
秋山沢川の水温についての上記の研究によって河川改修が適当でなかった ことを指摘した。それが新聞報道され、宮城県河川課はその後、平らだった 川床を自然に近い形状、つまり渇水期でも水深が浅く ならない形状に再改修した。



現実の谷戸は森林が近接する谷間で、日陰・日向が混在し、複雑地形のため 流路上の風速も複雑である。それゆえ、熱収支式を解くよりは、 水温観測から平均的な放射条件・気象条件・流路条件(幅・水深・流速) によって決まる水温の実態を観測から知ることである。その際、上記の図は、 水温の空間・時間変化の振舞いを理解するのに役立てることができる。

本研究で得られた谷戸の水環境・大気環境についての知識は、生態系との つながり、里山の保全と利用に活かされよう。

155.3 流路の水温と流路距離の関係

水温の測定点を示す図155.5に湧水源から流路が4本描かれている。 測定点 d と e 付近を源とする流路では水の流れは目視で確認できない時期 があり、図155.6では溜水としてプロットしてある。明らかな流れがある流路 は a とs を源とする湧水である。

晴天日の2017年8月25日の12:40~15:00の時間帯に水温と流路距離との関係 を調べた。湧水点の日立水源(図155.5のa)から測定を開始し、「若竹の泉」の 脇(E)まで、さらに図155.5の範囲外となるF点(室川と県道秦野大井線の 交わる位置にある交通信号の川下200m)まで測った水温と流路距離の関係を 図155.6に示した。

小野流路(小野薫宅の脇を流れる流路)の湧水点 s から u 点までの流路距離は、 s からの距離として図155.6にプロットしてある。

地図、観測点8月25日
図155.5 水温測定点、2017年8月25日、上方向が北の地図(秦野市提供の白地図 に加筆・加工)。


水温8月25日
図155.6 水温と流路距離の関係、2017年8月25日。
塗つぶし印は日陰の水温、白抜き印は日向の水温
黒丸印:流路の水温
赤四角印:溜水の池・田と流れが微弱な溜水に近い別流路の水温


図155.6によれば、流路上の水温は湧水点で15.08℃、その下流10m地点で 18.88℃、46m地点で21.24℃と急上昇している。その後の水温上昇率は小さく なり、流路距離1450mで29.60℃となった。その変化傾向は黒破線で示してある。 この全範囲では、水深と流速も変化しており、下流に行くにしたがって細かい 支流も合流している。

いっぽう、流速の微弱な溜水の池・水田の水温は、赤線で示すように流路水温 (黒破線)よりも急激な速さで上昇し、流路距離=317mのD点では32.78℃と なっている。 流速の微弱な池・水田の水塊は湧水点を出てからの経過時間が長く、水・大気間 の熱交換の総量が大きいために高温となったわけである。

図155.6の黒破線からすれば、流路の水温がD点の水温32.78℃に達するのは、 流路距離がおそらく10倍の距離に相当する3kmほどの川下と推定される。 同様に黒破線上から読み取ると水温=28℃は流路距離=1200mであるのに対し、 赤線上の水温=28℃は流路距離=120mである。したがって、仮に水深、その他 が同じとすれば、溜水の池・水田の平均的な流速は、流路の流速の1/10 という ことになる。このように、水温変化の観測から流域の流速、水深、その他 さまざまな水環境を間接的に知ることになる。

他の特徴として図から分かることは、流路の水温は観測点が日陰か 日向による違いは小さいが、溜水の池・水田の水温は日陰で2~5℃ ほど低温である。つまり、溜水の池・水田の水温は、ごく局所の気象条件 (放射量、風速など)に大きく支配されていることになる。

なお、8月25日12:40-15:00の流路のE点の北側の気温観測点における平均気温 (センサK16)=33.75℃である。E点の水温32.78℃は気温より0.97℃の低温である。

理論的には、非常に強風でない限り、平衡水温は気温より高くなるのだが、 E点の水温が低いのは、源流域に近い所であると理解してよい。つまり、 図155.4(左図)に相当し、本研究で対象としている谷戸の特徴 「源流点に近く、高温季節の水温は比較的に低温」である。 この特徴は、次項でも示される。

ここに平衡水温とは、流路距離が十分に大きい場所の水温で、その地点の 気象条件だけで決まる水温を意味する。図155.1と図155.2に用いた条件では、 経過時間τが概略24時間以上の範囲における水温である。

155.4 水温の日変化

この節では、源流域「谷戸」の水温の特徴を日変化から見てみよう。

図155.7は9月6日~11日の水温(黒実線)と気温(破線)の日変化の関係 である。放射冷却で気温が低下する晴天夜間の時間帯を除き、水温は気温以上には 上昇しない。源流域に近い谷戸におけるこの基本的特徴は、 理論計算から得た図155.4でも示した通りである。

赤実線は流速が非常に小さい溜水の池の水温を表す。流路水温(黒実線)よりも 平均的に水温は高くなり、日変化の振幅が大きくなる特徴が表れている。

水温日変化9月6-11日
図155.7 水温と気温の日変化、2017年9月6日~11日。
横軸の9/6は9月6日0時、9/7は9月7日0時、・・・・である。図中の数値は 小田原アメダスの日照時間、記入なしの6日~8日は雨または曇りで日照時間は 0.1時間以下である。



備考1:湧水量
9月19日に測定した地点 c における流量は、

2.5×10-5m/s=250cc/s=15リットル/分

水深 d=0.02m、水路幅=0.1mとすれば、流速 V=0.125m/s

に相当する。この流量は、秦野市各地の湧水量と同程度である。ただし、 秦野市平沢の和田大氏宅や稲荷神社の湧水はこれより1桁ほど大きい 湧出量である。


備考2:水源水温の季節変化
水源水温の季節変化における年較差(=最高水温ー最低水温)は0.35℃ である(「K153.神奈川県秦野の湧水の水温季節 変化(2)」の図153.4と表153.1を参照)。




図155.8は、水源 a と、水源からの流路に沿う地点 c(流路距離=46m)、 および地点 k の上流5m(流路距離=143m)の3地点における水温の 時間変化である。ただし、水源水温の年変化は僅かであるので、1年前の 2016年の観測値をプロットしてある。

水温日変化、流路距離差
図155.8 流路距離 lx の違いによる水温日変化、2017年9月19日~11月30日。
水源(lx=0m)と地点 c(lx=46m)、および地点kの上流(lx=143m)。


図155.8によれば、この季節は夏から冬に向かう秋の水温変化の特徴を 示し、
(1)秋のはじめのころ水温は流路距離が大きいほど水源水温との差が大きい
(2)水温は季節が進むにしたがってしだいに下降していく
(3)流路距離が大きい下流(赤線)ほど水温の下降率が大きい
(4)流路距離が大きい下流ほど日変化振幅は大きい
(5)晩秋には、流路の水温は水源水温より低温となる(図155.3の破線を 参照)


155.5 月平均の水温日変化(6月~8月)

図155.9~図155.11は6月から8月まで、月ごとの月平均の水温日変化の図である。 各下図は、晴天日(小田原アメダスの日照時間が8時間以上)の水温日変化である。

水温観測地点は図155.5に記号で示す m(略称:新田出口)、 p(新田出口)、 o(池)、 g(水車) である。各地点の詳細は次のとおりである。

m:新田出口付近(水田水温は稲刈り時期に近づく9月に入れば土壌温度)
p:新田取り入れ口上流の承水路(上流の池eからの水)
o:池、水深=0.27m(9月19日)、水深は季節により変化
g:水車の直ぐ上流側、水流が明瞭な流路、水深=0.02m(9月19日)

統計日数は6月に限り後半の16日からの15日間である。

晴天日の比率は次のとおりで、この比率を参考にして以下の図を見ることに しよう。
6月:5日間/15日間=33%
7月:13日間/31日間=42%
8月:6日間/31日間=19%

平年に比べれば、2017年の6月~7月は晴天の比率が大きいのに対し、 8月は雨天・曇天日が多い。

太陽高度が高くなる6月の図155.9によれば、水流が明瞭な流路(g 黒実線)では、 正午前後の全日数の平均と晴天日の平均との差は小さく2℃前後である。しかし、 流速が微弱な流路・池では日変化幅が大きく、正午前後の最高水温は5℃ないし それ以上の差がある。この特徴は、これまで説明してきたことと同じである。

月平均の水温日変化6月
図155.9 月平均の水温日変化、6月。
上:全日数の平均
下:晴天日の平均(日照時間>=8時間

7月の図155.10によれば、晴天夜間の水温は全日数の平均に比べて0~1℃程度 低くなるのに対し、晴天日中は逆に2℃程度高温になっている。 流速が微弱な流路・池では6月と同様に日変化幅が大きい。

月平均の水温日変化7月
図155.10 月平均の水温日変化、7月。
上:全日数の平均
下:晴天日の平均(日照時間>=8時間

8月の図155.11には新田入口の水温(p: 緑破線)が新しく入った。 この水温が最高になるのは13時ころであるのに対し、水車の上流の 水温は16時ころである。前者は谷間の西側にあり午前中から日射が 当たるのに対し、後者は谷間の東端にあり、午前中は日陰、午後のみ 日当たりができるからである。こうした環境の違いが水温に現れて いる。

月平均の水温日変化8月
図155.11 月平均の水温日変化、8月。
上:全日数の平均
下:晴天日の平均(日照時間>=8時間


まとめ

神奈川県秦野市千村の谷間「谷戸」における水温の時間変化と水源からの流路距離 との関係について調べた。この第1報では2017年6月から11月までの結果である。

水温の基本的な特徴は、理論計算による図155.1~図155.4に示される。

流路の水温は主に流路距離の関数であるのに対し、小池・水田は流速が小さく、 主にその地点の気象条件によって日変化する。

水温は流路距離とともに上昇する。湧水源の近くで水温は急激に上昇し、しだいに 平衡水温に近づいていく(図155.6)。晩秋から冬にかけては逆に水温は流路距離とともに低下し、 やがて平衡水温に近づいていく。ここに平衡水温とは、流路距離と無関係でその 地域の気象条件で熱収支的に決まる水温のことである。

湧水温度は年間を通じてほぼ一定(15℃)のため、湧水源からの流路距離40m~ 300mにある谷戸の水温の年変化幅は比較的に小さい。夏の平均水温は平均気温 よりも低いが、晩秋から冬にかけては逆に高くなる。水温の日変化幅は湧水源 でゼロであるが、流路距離とともに大きくなる。

その特徴が図155.8に示されており、
(1)秋のはじめのころ水温は流路距離が大きいほど水源水温との差が大きい
(2)水温は季節が進むにしたがってしだいに下降していく
(3)流路距離が大きい下流(赤線)ほど水温の下降率が大きい
(4)流路距離が大きい下流ほど日変化振幅は大きい
(5)晩秋には、流路の水温は水源水温より低温となる


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支. 朝倉書店、pp.350.

近藤純正、1995:河川水温の日変化(1)計算モデルー異常昇温と魚の大量 死事件.水文・水資源学会誌、8、184-196.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学ー理解と応用.東京大学出版会、 pp.324.

近藤純正・内藤玄一、2017:K143.神奈川県秦野の湧水の水温季節変化(1)、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke143.html(2017年9月15日閲覧).

近藤純正・内藤玄一、2017:K153.神奈川県秦野の湧水の水温季節変化(2)、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke153.html(2017年9月15日閲覧).

近藤純正・松山 洋、2016a:K130.東京の都市化と湧水温度ー熱収支解析」、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke130.html(2017年9月15日閲覧).

近藤純正・松山 洋、2016b:K132.東京の都市化と湧水温度ー熱収支解析(2)」、
 http;//www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke132.html(2017年9月15日閲覧).

近藤純正・菅原広史・高橋雅人・谷井廸郎、1995:河川水温の日変化(2) 観測による検証ー異常昇温と魚の大量死事件.水文・水資源学会誌、8、197-209.

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