K167. 通風式気温計用の太陽光パネル


著者:近藤純正
電源のない場所で、60Wの太陽光パネルを用いて気温と放射量の長期観測を行った。 冬至から夏至の期間にかけてパネルの出力電圧、蓄電池電圧、通風用ファンモータ の電圧を記録した。負荷12V、0.125Aの近藤式精密通風気温計(プリード社製)と 負荷12V、0.13Aの簡易放射計を安定して稼働させることができた。

快晴日の正午前後でも太陽光パネルの出力電圧は風速の強・弱(2.7m/sから1m/s) によって5%ほど変動する。これは、風速の強・弱によってパネル面が低温・高温 に変化し、発電効率の温度依存性によると考えられる。 (完成:2018年7月10日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2018年7月7日:素案の作成
2018年7月10日:太陽光パネルなど細部に訂正・加筆


    目次
        167.1 はじめに
        167.2 試験地と太陽光パネル      
        167.3 各部の電圧変化
        167.4 連続降雨日とパネルの汚れの影響
        まとめ              


研究協力機関・協力者(敬称略)
野口賢次
大森哲男、尾崎文隆
伊丹厚紀
内藤玄一

167.1 はじめに

神奈川県秦野市千村の日立ITエコ実験村では、水車と風車と太陽光パネルによる 電力を使って気象や水温、その他の環境要素を観測・観察している。 ここは100~200m平方の狭い谷戸(V字形の谷)地形である。

エコ実験村一帯を代表する気温の基準点は、約200m北東方向へ離れた丘と している。丘は比較的に開けており風通しもよい。ここに近藤式精密 通風気温計を設置し、電源は単一乾電池または充電式乾電池を用いていたが、 乾電池で1か月ごと、充電式乾電池で1~2週間ごとに交換していた。

基準点の丘のほか、エコ実験村へ入る階段の道路脇と高台の住宅の庭に設置した 気温計でも同様に乾電池を用いていた。

長期にわたる電池交換は費用もかかるので、2017年11月から、これら3地点では 太陽光発電を利用することにした。 本論では、丘に設置した太陽光パネルの出力電圧、蓄電池電圧、通風用ファン モータの電圧の記録を解析した。そのうち、2017年12月23日から2018年7月2日 までの半年余の期間について示す。


167.2 試験地と太陽光パネル

ITエコ実験村一帯の航空写真は「K156. 里地里山の気温分布」 の図156.1~図156.2に示してある。丘は「H1:標高=189.8m」の地点、 入口階段の道路脇は「H2:標高=187.8m」の地点である。高台の住宅の庭 「H3:標高=202.0m」はこれらの図には示していないが、図156.1の H2 の右方 (南西)または図156.2のH2の左方(南西)70mの場所である。

これら3地点の電源は、太陽光パネル50~60W、太陽電池充放電コントローラ、 シール鉛蓄電池(密閉式鉛蓄電池)がセットになっている。

丘に設置したこれらセットは60Wパネル、コントローラ(DENRYO製、Solar Amp B)、 20Ah鉛蓄電池である。太陽光パネルは水平から角度32°に設置した。

図156.1は丘に設置した太陽光パネルと測器類の写真である。太陽光パネルによる 電力は近藤式精密通風気温計と簡易型放射計のファンモータに使用した。前者と 後者の詳細は、「K126.高精度通風式気温計の市販化」「K161.夜間観測用の簡易放射計・微風速計」 に示してある。

丘には3本のポールがある。左側に見える2本は重なって写っているが、距離は2m 余り離れている。右のポールの先端に超音波風速計、その下に手製の精密通風 気温計が取り付けてあり、電源は乾電池を使用している。

丘の写真
図167.1 秦野市千村の丘、南西から北東方向を撮影(2018年4月21日)。
左奥のポール:太陽光パネルと、その下に近藤式精密通風気温計(プリード社製)
左手前のポール:簡易型放射計(通風筒は水平)
右のポール:超音波風速計(Wind Sonic)と、その下に手製の精密通風気温計


近藤式精密通風気温計(プリード社製)のファンモータの規格は12V、0.125A、 適正な使用電圧は10.2~13.8Vである。ファンモータにかける電圧として2つの方法 について試験した。

試験1:DC-DCコンバータ(入力範囲=9~18V、出力=12.0V)を用いて 一定電圧12.0Vをファンモータに供給する。つまり、ファンモータの回転速度は 昼夜一定とする。

試験2:コントローラの出力端子とファンモータの間に20Ω(5W)の電気 抵抗を直列に入れて、日射が強い日中(蓄電池電圧が高いとき)のファンモータは 高速回転に、日射のない夜間(天空長波放射のみで蓄電池電圧が低いとき) のファンモータは低速回転とする。


167.3 各部の電圧変化

図167.2と図167.3はそれぞれ前半の12月23日~2月21日と、後半の2月22日~7月2日 の電圧変化の記録である。ファンモータの電圧(黒線)が12.0 V一定を示している 期間はDC-DCコンバータを用いたときである。

太陽光パネルの出力電圧(赤線)は、晴天日に22~23Vである。日照時間ゼロの 雨日や大雨日でも日中は散乱光があり、13V程度の電圧がある。

蓄電池の電圧(緑線)は12.4~15Vの範囲内にある。雨が続いた期間の電圧の詳細 は次節で説明する。

ファンモータに供給される電圧は、DC-DCコンバータを用いないとき、雨日でも 日中は11.0V以下にはならない。降雨の続く夜間においても10.7V以下にはならず、 適正な使用電圧の範囲10.2~13.8Vに入っている。

電圧、前半
図167.2 各部の電圧変化、2017年12月23日~2018年2月21日。
赤線:太陽光パネルの出力電圧
緑線:蓄電池の電圧
黒線:ファンモータの電圧

電圧、後半
図167.3 各部の電圧変化、前図に同じ、ただし2月22日~7月2日。


なお、4月20日から5月26日までの1か月余、通風気温計のファンモータとは別に、 簡易放射計の通風用のファンモータ(12V、0.13A)の電源としても使用したが、 蓄電池への過剰な影響は認められない。


167.4 連続降雨日とパネルの汚れの影響

日照ゼロの降雨日が続いた3月4日~3月11日の電圧記録 を図167.4に示した。小田原アメダスの記録によれば、5日は49.5mm、8日は 69.5mm、9日は65.5mm、10日は1.5mmの降雨があり、いずれの日も日照時間 はゼロであった。

日照ゼロのこれら4日間の降雨日でも、日中は弱いながらも雲による散乱日射光が あり、日中の太陽光パネルの出力電圧は12~13Vである。つまり、日照ゼロの降雨日 でも日中の蓄電池はわずかではあるが充電されており、同時にファンモータで消費 していることになる。

連続降雨日の最後3月10日の翌朝(3月11日6時)の蓄電池の最低電圧は12.4Vである。 この電圧は、記録した全期間中の最低値であるが、蓄電池にとって正常な範囲で ある。

電圧、連続降雨日
図167.4 降雨と日照時間ゼロが続いた期間の各部の電圧変化。 


この期間の前後40日間は、ファンモータにかかる電圧(黒線)はDC-DCコンバータを 用いて 12.0V 一定に設定してある。

次に、太陽光パネルの表面を清掃すべきかどうか、また清掃の時期についてヒント を得るために快晴日の太陽光パネルの出力電圧を詳しく見ることにした。 図167.5は2日間連続快晴の3月31日~4月1日の記録である。

この地点は開けているが、地形や樹木・建築物の影響により、日の出時刻 (5:32、5:31)から太陽直射光が太陽光パネルに当たるわけではない。 しかし、天空の散乱光(青空)があり太陽光パネルの電圧は日の出前後から上昇 しはじめる。7時30分ころから直射光が太陽光パネルを照射するようになり、 9~15時の時間帯の電圧はほぼ一定の21~22Vである。

太陽光パネル面に照射する太陽光エネルギーは正午ころ最大になるのだが、出力 電圧がほぼ一定であるのは、飽和状態つまり、日射エネルギーがある値を超えても 出力電圧は上がらないことを示している。

なお、9~15時の時間帯における電圧のこまかな変動は、おもに風速変動に ともなう太陽光パネル面の温度変化によるものと考える。

太陽光パネルの発電効率はパネル面の温度に依存する。その関係は後掲の 図167.6で説明する。

日の入時刻の前後にも電圧が10V前後あるのは天空散乱光(青空光)によるものと 考える。

快晴日のソーラパネル電圧
図167.5 快晴日の太陽光パネルの出力電圧、3月31日~4月1日。
3月31日の日の出:5:32、日の入:18:04
4月1日の日の出:5:31、日の入:18:05


以上の結果(図167.4、図167.5)から、太陽光パネル面の清掃などに関して 次の注意点がわかる。

(1)地表面に達する太陽光エネルギーが大きい季節(太陽高度が高い季節)には、 パネル面が多少汚れていても発電力はほとんど落ちない。
ただし、今回用いた太陽光パネルの場合であり、太陽光パネルの方式によっては 汚れの影響が大きい場合があるという。

実際に、パネル面が汚れてきたので、4月3日11時30分に汚れを落とし、きれいに したが、その前後の数日間を比較しても各部の電圧変化は認められなかった。

(2)太陽高度の低い冬期、曇天・降水日が続くようなとき、電力使用量に比べて 発電力が限界に近いときは、パネル面を清掃することが望ましい。

(3)パネル面の傾斜が水平に近いときは、垂直に近いときに比べてパネル面上 での熱対流が弱く、パネル面の温度が上昇しやすい。温度上昇を小さくするには、 パネル面の傾斜を大きくすればよい。しかしながら、傾斜が大きいと天空 散乱光を受ける量が少なくなる。

適度な角度で設置すれば、汚れの一部は降雨時に流れる。しかし傾斜を大きく すれば強風時に風圧がかかる。それらの兼ね合いで、取り付け角度は適度を選ぶ ことになる。今回の丘の設置では傾斜角=32度とした。

図167.6は快晴が続いた2018年5月4日~6日の正午前後、太陽光パネルの電圧が ほぼ一定となる時間帯(10時~14時)について、風速と太陽光パネルの電圧の関係で ある。 太陽光パネルの熱慣性は大きいので、50分間の移動平均値をプロットした。 すなわち、電圧は10分毎観測値の5個の平均、風速は1秒ごと観測の1分間平均値 の50個の平均値である。

風速が強いと日中の高温化されたパネル面は冷却されて相対的に低温に、風が弱く なるとパネル面からの放散熱が少なく高温となる。低温時(強風時)は発電効率が 良く電圧が高いが、高温時(弱風時)は発電効率が悪く電圧が低くなることを 示している。

風速とソーラパネル電圧の関係
図167.5 風速と太陽光パネルの出力電圧の関係、快晴日の10時~14時。


図中に示すように、R(相関係数の2乗)=0.268で有意な関係である とみてよいだろう。この関係からしても、パネル面は水平ではなくて、風当たりが よいように適度な角度で設置する。


まとめ

神奈川県秦野市千村の畑地の丘(北緯35度21分54.4秒、東経139度10分31.7秒) において、60Wの太陽光パネルを用いて気温と放射量の長期観測を行った。 パネル面は南向きで水平面から角度32度に設置した。

冬至から夏至の期間にかけてパネルの出力電圧、蓄電池電圧、通風用ファンモータ の電圧を記録した。負荷12V、0.125Aの近藤式精密通風気温計(プリード社製)と 負荷12V、0.13Aの簡易放射計を安定して余裕をもって稼働させることができた。

(1)曇天・雨天日でも日中は天空・雲による散乱光があり、正午前後の時間帯 には太陽光パネルの電圧は12.4V以下にはならなかった。

(2)晴天日は、9~15時の時間帯における電圧はほぼ一定となるが、こまかな 変動を含む。こまかな変動は、おもに、風速変動にともなう太陽光パネル 面の温度変化によるものと考える。

(3)快晴日正午前後(10時~14時)の太陽光パネルの電圧は、風速が強く2.7m/sに なる(パネル面の温度が低くなる)と 22V 程度に高くなり、風速が1m/sに弱くなる (パネル面の温度が高くなる)と 21V 程度に低くなる。つまり、発電効率は高温時 に低く低温時に高くなる。

(4)今回用いた形式の太陽光パネルでは、パネル面の少しの汚れは、あまり気に しなくてもよいことがわかった。 ただし、冬期の日射量が少ない季節に曇天・降水が長期間続くとき、発電量・蓄電 池容量が限界で使用する場合はパネル面を清掃することが望ましい。

なお、蓄電池は経年劣化という避けられない特性があり、寿命は蓄電池により 2年~4年となっている。しかし、寿命末期でも問題なく動作可能と思われる。


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