K133.高精度水温計の検定


著者:近藤純正
湧水温度の観測から周辺地域の環境パラメータを求めることができる。その際に必要な温度 の精度は±0.1℃である。 この目的にかなう水温計として、金属ケース入り水銀水温計(較正表付き)、 防水型のA級Pt1000センサーをデータロガー(おんどとり)につないだ水温計、高精度温度 ロガー・プレシイK320(立山科学工業社製)などがある。これらについて、検定方法の例を 示した。(完成:2016年7月14日予定)。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

トップページへ 研究指針の目次


更新の記録
2016年7月7日:素案の作成
2016年7月8日:細部に微少な加筆
2016年7月11日:図133.1、2、4に説明を追記

  目次
      133.1 はじめに
      133.2 金属ケース入り水銀水温計
   133.3 Pt1000水温計
   133.4 高精度温度ロガー(プレシイK320)
   まとめ



133.1 はじめに

湧水の涵養域における環境変化は湧水温度の変化として現れる。環境変化は地球温暖化、 都市乾燥化、および地被状態の変化の3つが含まれる。

水温データを熱収支解析した結果、観測精度として±0.1℃が必要であることがわかった (K130.東京の都市化と湧水温度―熱収支解析K132. 東京の都市化と湧水温度―熱収支解析(2))

湧水温度の観測は市役所など地方自治体や、ホタルなど生物の生息環境、その他の環境関係 の方々が水質などとともに測定している。それらの多くは精度±1℃のサーミスタ-水温計を 用いている。通常の水質観測のような場合はこの精度でよいのだが、環境変化を知るには、 ±0.1℃の高精度が必要である。

サーミスタのデジタル水温計
5,000~10,000円程度のサーミスタ水温計について検定を行い、現地で湧水の水温を測るとき 水銀温度計でチェックすると、0.2℃ほど狂ったことがある。そこで、再度の詳しい検定を 行なったところ、示度に0.2℃程度の不安定性があることがわかった。

また、地方自治体などから貰った資料で、ほとんど年変化しない湧水の水温データの中に、 0.3℃程度の異常値と思われる数値が含まれている。

これらのことから、筆者はサーミスタ水温計の精度に疑問を抱いている。今後も引き続き サーミスタ水温計の安定性について確かめたい。

この章では、筆者が用いている安定したPtセンサーの水温計について検定方法を 紹介する。

133.2 金属ケース入り水銀水温計

検定された水銀温度計はもっとも信頼できる温度計である。以後の節で述べるPtセンサーを 用いたデジタル水温計のチェックのために、筆者は水銀温度計を必ず持参している。

携帯する水銀温度計は、次のいずれかである。
(1)金属ケース入り水銀水温計:
検定表付、-5~35℃、0.1℃目盛(吉野計測、約8,000円)

(2)フース型水銀温度計:
検定表付、-30~50℃、0.2℃目盛(吉野計測、全長380mm、2~3万円)

(3)アスマン通風乾湿計用水銀温度計:
検定表付、-30~50℃、0.2℃目盛(吉野計測、全長290mm、1~2万円)

水銀温度計の示度は、直径の大きな拡大鏡やルーペを用いると読みやすい。

注意
水銀温度計は、球部(水銀の受感部)が下になるようにして持ち運びする。逆にすると 水銀が途中で切れやすくなり、気づかぬ間に誤差が生じるので注意しよう。

133.3  Pt1000水温計

A級のPt1000センサーは、精密通風気温計にも用いている (「K69.気温観測用Ptセンサーの安定性と器差」「K126.高精度通風式気温計の市販化」)。

気温計用センサーは完全防水となっておらず、水温計用に完全防水型の品を入手した (立山科学工業、約19,000円)。これに小型データロガー(T&D社、おんどとり TR‐55i‐Pt、モジュールPTM‐3010付、約2万円)を接続する。この液晶画面には0.1℃単位 で温度が表示される。

検定方法
基準として標準温度計を用い、その球部とPt1000センサーの受感部を接近させて一体 化して水中に入れる。Pt1000センサーへはケーブルを通して伝導熱が伝わるので、受感部の 近くのケーブルは直径100mmほどに1回丸めて水中に入れる。

データロガーの温度表示は0.1℃単位であるので、一定水温で検定すると最大±0.05℃の 誤差が生じる。そのため、水温が時間とともに自然に上昇または下降する状態で検定する。 データロガーは20秒間隔で記録させ、標準温度計の読みは1分ごとに読み取る。それ以外の 時間は検定槽内の水、または不凍液を手動で撹拌し、温度ムラがないようにする。

図133.1、133.2、133.4の温度範囲(15℃~30℃)にプロットがないには、このためである。

市販されている検定槽の不凍液はモータで撹拌されるが、検定槽に付けられている温度計の 場所と検定しようとする水温計の場所による温度ムラがありそうなので、基準温度計と 被水温計は同じ位置にセットする。

30分~90分間かけて標準温度計を30~90回読み取り、これを1プロットとする。

標準温度計の水銀柱を正しく読むために、視線が水平になるように部屋の壁に標準温度計と 同じ高さの温度目盛を貼り付けておく。眼球→ ルーペ→ 水銀柱→ 壁の温度目盛が水平に 一直線になるような状態で水銀柱の示度を読み取る。

水温計(W51、W52)の検定
図133.1はケーブル長=5mの自記記録用の水温計(W51とW52)の検定結果である。 室温に近い水温の場合、水温の時間変化は小さく、誤差が最大±0.05℃程度となるので、 0℃近くから自然に水温が上昇するときと、40℃近くから自然に水温が下降する状態で 検定した。

このPt1000センサーの器差は温度に対してほとんど直線になることはセンサー16個によって 確認(気温センサーについて確認)してあるので、図中には器差を直線近似で表してある。 プラスは示度に器差を加えれば真値が、マイナスは示度からマイナスすれば真値が得られる。

w51w52の検定
図133.1 水温計W51とW52の器差(標準温度計Yoshino No.11738による検定)
15℃~30℃範囲にプロットされていない理由は「検定の方法」を参照。

水温計(W11,W12)の検定
図132.2は携帯用水温計としてケーブル長=2mの水温計W11と、井戸水の水温も測ることの できるケーブル長=8mの水温計W12の検定結果である。基準器(W52)と水温計(W11,W12) は、ともに20秒間隔で30分間の記録を1プロットとした。

w11w12の検定
図133.2 水温計W11とW12の器差(W52を基準として検定)
15℃~30℃範囲にプロットされていない理由は「検定の方法」を参照。

水温計の写真
図133.3 Pt1000を用いた水温計の写真。
左:W11(ケーブル長=2m)
右:W12(ケーブル長=8m)、センサーが水と直接触れるように溝のある金属重りを付けて ある。

133.4 高精度温度ロガー(プレシイK320)

0.01℃まで読み取ることのできるプレシィK320水温計(立山科学工業、Pt100、約13万円)も 使ってみることにした。センサーとして100オームのPtが使われている。センサーを本体の 表示・記録部のセンサーケーブル差し込みに接続するとき、その都度わずかに接触抵抗が 異なり誤差が生じるのではないか?

メーカに問い合わせると、「接触部は金メッキしてあり接触抵抗については問題が起きない ように工夫してある」との回答があった。

筆者は心配性なので、当分の間、上記のPt1000の水温計や水銀温度計と併用して水温を測り、 安心できるまで確かめる予定である。

図133.4は基準器としてW52を用いて検定した結果である。

K320の検定
図133.4 高精度水温計K320の検定結果
15℃~30℃範囲にプロットされていない理由は「検定の方法」を参照。

以上5個のPt水温計の検定結果から、総合的な精度は±0.02℃程度と考える。

図133.5は携帯時と測定時に便利なように、本体はボール紙で作った箱に入れ、 センサーは塩ビパイプに入れる。測定時は本体を水中に落とさぬよう、首にかける 細紐をつけてある。常時、ケーブルは取り外しせず、つないだ状態にしておく。

K320の写真
図133.5 高精度水温計K320の写真、センサーは塩ビ管の入口を熱加工で狭めてセンサーの グリップ部が止められるようにしてある。グリップ部は完全防水ではないので注意すること。
左:携帯時に右側の本体を入れる紙箱、脇に塩ビ管を貼り付けて中にセンサーを入れる
右:表示・記録部の本体

まとめ

(1)湧水温度の変化から周辺環境の変化(地球温暖化、都市乾燥化、地被状態の変化)を 知るためには、精度が±0.1℃の水温計を利用する必要がある。較正表付きの水銀温度計は 安心して利用できる。

予算が5万円ほどの場合は、水銀温度計とともにデジタルの防水型Pt1000センサーの 水温計を勧めたい。

(2)湧水温度観測用または井戸水用の水温計5個について検定した。指示温度から真値を 求める計算式は、次のとおりである。

W11の真値=0.9901×W11指示温度+0.209
W12の真値=0.9900×W12指示温度+0.184

W51の真値=0.9890×W51指示温度+0.108
W52の真値=0.9907×W52指示温度+0.046

K320の真値=0.9911×K320指示温度+0.196

なお、筆者は現場へは、上記のデジタル温度計と水銀温度計(較正表付)とともに、 検定の図133.1、133.2、133.4を10℃~25℃範囲について拡大したグラフを持参し、 その都度、補正して水温観測値をチェックすることにしている。前回の測定値から 予想される水温と矛盾していないか、現場で確かめている。

トップページへ 研究指針の目次