L07 感想文 「黒球温度の定常と非定常過程」
(HS)2006年4月26日
「新雪の日が暖かく感じる」を読みました。
実は昔,アスファルト面と芝生面で体感温度を実測したことがあります.
その時の計測結果でもアルベド(芝生面の方が大きい)のために,
体感温度は芝生面の方が高くなりました.
にわかには信じがたい結果でしたが,芝生でも乾いていると結構高温になる
ために,反射日射の増大が,長波放射の低下分を超えてしまったようです.
うろ覚えなのですが,人間の皮膚は短波よりも長波により強く反応するという
話を聞いたことがあります.ただし,そもそも黒球温度は室内での体感温度,
しかも座ってじっとしている状態,を評価するために開発されたために,短波
に対しても長波に対しても「黒」なのだそうです.
それと,体感温度は体内の生理機能について非定常過程を考えないとうまく説
明できないそうです.これは黒球温度による測定でも問題になります.暑い場
所でもそこに長くいると次第に慣れてきます.日陰から日向に出た瞬間が一番
暑いと感じるというわけです.無論,日射病などには積算温度が効くのだと思
いますが....このへんを物理的に解明したいと思ったことがありましたが,
「暑い」とか「寒い」という主観的な変数を直接扱うのは地球物理の分野では
あまり歓迎されなかったので,その時は諦めました.
先生のホームページを見て,定常解でもやってみると面白いな,と感じまし
た.寒い時の方がアルベドに対して敏感だというのは思いつきませんでした.
[編者のメモ]
編者は、生活の科学は気象学などよりはるかに高度な学問分野だと思って
います。人間の寒暖に対する感覚はたいへん複雑なメカニズムによって決まっている
でしょう。「打ち水の科学」や「新雪日が暖か・・・・・」の章では、
もっとも簡単な黒球温度の定常解から類推したわけです。
おっしゃる通り、日陰から日向に出た瞬間が一番暑いと感じ、暑い場所でも
そこに長くいると次第に慣れてきますね。たとえば、”寒い”という感覚
と”体の芯まで冷える”という状態は異なるのですから、複雑な生理機能
を考察しなければ解決しないと思います。生理機能にまで深入りすると、
一朝一夕には解決できないので、当面は寒暖の感覚に関る環境を黒球温度で
何とか表現できないか、考えたいと思います。
いま、思いつくのは、黒球温度の定常(平衡)解と非定常(遷移)過程を
考え、「周囲の気温からのずれ:⊿T=Tb-T」と「黒球温度の時間変化率:dT/dt」
の2パラメータを利用する方法があります。前者は定常解で得られる値、
後者は非定常過程の時定数(追従時間:τ)で表現できます。おっしゃる通り、環境が変化したとき、
しばらく時間が経つと慣れてきますね。その時間は30分間程度では
ないでしょうか?
仮に、追従時間=600秒の黒球を想定すると、その3倍の1800秒=30分間が
新しい平衡状態になるまでの時間です。実際には、この時間が経過すると、
あるいはそれまでの短時間内に人間は新しい環境に適応できるように着衣の
状態を変えるなど身構えするのではないでしょうか。同時に皮膚の表面温度
が自動的(自律的)に変わり、新しい環境に適応しているのではないで
しょうか。
この考え方で、どこまで人間の感覚に近いものが得られるかが今後の課題
でしょう。おっしゃる通り、個人差が生じるのが難しいところでしょう。
体を鍛えた人とそうでない人のグループにより、あるいは出身地の気候条件
ごとに感覚が異なるのですね。日本のように高温多湿気候で育った人は
ロシヤのように寒い所で育った人に比べて、汗を出す汗腺の数が多いと
聞きます。最近のようにエアコンが普及してくると、環境変化に順応すること
が難しくなる人も出てくるでしょう。そうした場合でも、環境を適切に表現
するパラメータは存在すると考えます。
現在「不快指数」があり、それなりに役立っているのですが、それよりも
黒球温度のほうが、人間の感覚に近い表現が得られるのではないでしょうか。
その際には、「研究の指針」の「K17. 暑熱環境と黒球温度」の章で書いてある
ように、湿った黒球として取り扱い、蒸発効率 BETA をゼロから変更
すれば、計算できるようにプログラムは作ってあり、準備はできています。
蒸発効率は人体の運動状態の関数になりそうです。
感想文を送っていただいたおかげで、こうした議論を進めることができました。
将来のことを考えて、プログラムでは黒球のアルベド REFB、
赤外放射に対する黒体度 BLACKNESS、直径 DIA も変えられるようにして
あります。当面の研究として、ご利用いただければ幸いです。
プログラムは「研究の指針」の
「17. 暑熱環境と黒球温度」の章に掲載した、
黒球温度の逐次近似計算プロ
グラムに示してあります。