37. 一茶の里と野尻湖
近藤 純正
2004年11月10日、長野県北部の信濃町柏原の小林一茶の里を訪ねてきました。
さらに歩いて野尻湖まで行ってきました。野尻湖は1965年から1967年に
かけて私が湖面蒸発の研究をしたところ、想い出の湖であります。
小林一茶
長野県信濃町柏原小丸山公園にある一茶記念館のパンフレットによれば、
小林一茶(こばやしいっさ、1763年~1827年)は信州柏原村(現在の信濃町
柏原)に生まれた。本名は弥太郎(やたろう)である。
3歳のとき母・くにを亡くした。8歳のとき父・弥五兵衛(やごべえ)が
はつと再婚する。「我と来て遊べや親のない雀(すずめ)」は一茶8歳のときの
作である。1772年、一茶10歳のとき弟・仙六が生まれる。
1777年、15歳のとき江戸に奉公に行き、その後、俳人となって関西・四国・
九州を行脚した。晩年はふるさとに帰って、北信濃に多くの門人を育てた。
生涯に2万句もの俳句をのこした。
史跡小林一茶旧宅前の案内板によれば、50歳で帰郷した一茶は、父の遺言
により家屋敷や田畑を弟と分けた。一茶は52歳で結婚し、4人の子供を
もうけたが、次々と亡くなり妻にも先立たれる。そのうえ、宿場の火災で
類焼し、残った土蔵で65歳の生涯を閉じた。
一茶さんの歌、歌碑 |
一茶の像と俳諧寺(一茶仏堂) |
一茶の弟宅(復元)、左奥に一茶の土蔵 |
一茶の土蔵、終焉の住まい(復元) |
一茶の土蔵の内部 |
小丸山公園内にある一茶の墓 |
一茶の句碑
柏原(現在の信濃町)の道路沿い、小丸山公園、寺などに一茶の句碑が
建てられている。歩いていて気付いたものを写真にまとめた。
ただし、「春風や牛に引かれて善光寺」は長野の善光寺本堂の東側に隣接
する公園内にあった句碑である。
我と来て遊べや親のない雀(8歳) |
初夢に故郷を見て涙かな(14、15歳) |
春風や牛に引かれて善光寺 |
陽炎やきのふは見えぬだんご茶屋 |
おらが世やそこらの草も餅になる |
これがまあついの栖(すみか)か雪五尺(50歳) |
うまそうな雪や ふふはり ふふはりと(51歳) |
蟻の道雲の峰より続きけん(57歳) |
野尻湖
40年ぶりに野尻湖を訪ねた。JR黒姫駅から一茶の旧宅に寄り、そのまま歩いて
約1時間で野尻湖に着いた。道路は新しくなっていた。観光船の船着場周辺
などは昔よりは建物が増え、ナウマンゾウ博物館などができていた。
ナウマンゾウは今からおよそ3.5~4.5万年前の旧石器時代、
野尻湖にすんでいた動物である。
私が湖面蒸発の研究をしていた当時、冬期にナウマンゾウの発掘
調査が行なわれていた。野尻湖は揚水式発電所の貯水池の役目をするもので、
下流の発電所に水路を通して水を落とすが、電力の余った時は、逆に下から
水を汲み上げて野尻湖に貯水しておく。そのポンプを操作する東北電力会社の
建物はなくなっていた。現在は、別地から遠隔操作するようになった
であろうか。
観光客の少なくなる冬期には、野尻湖の水位は満水面から5~6mほど低下
する。そうしたとき、湖の浅いところが干上がって、ナウマンゾウの発掘が
行なわれたのである。
野尻湖の浅い部分が干上がったとき、水天宮(野尻湖国際村の北東)が
湖面に頭を出す。この水天宮に観測塔を建てて気象観測を行なったものだ。
野尻湖の平均水深は21m、最大水深部は41mである。日本では、中程度の深さ
の湖である。湖の標高は655.7m(満水時)、面積は
4.4平方km、冬の平均気温は-2~-3℃、夏の平均気温は22℃である。
野尻湖から南~南西方向に黒姫山(2053m)と妙高山(2446m)が美しい姿を
見せる。
黒姫山の遠望、野尻湖北の山腹より |
妙高山の遠望、野尻湖北の山腹より |
揚水式発電所の水路の端 |
水路、現在はフェンスが張られている |
湖岸の国際村(外国の牧師らの別荘) |
発掘されたナウマンゾウの実物大復元像 |
琵琶島大鳥居(カナダ産樹齢250~400年の桧) |
琵琶島(弁天島)の宇賀神社 |
昔宿泊したハウス(現在は LakeSide Hotel) |
ホテル前は浅く、凍結した冬にワカサギが釣れた |
北西の湖岸、琵琶島の北西方向に宿泊施設があり、現在は改装されて
レイクサイドホテルという名称に変わっていた。その前面の湖の浅い部分は、
年によって冬に凍結する。十分な厚さに凍結すると、氷に孔を開けて、
ワカサギを釣ることができた。宿で出してくれたワカサギのてんぷらが
美味しかったことは忘れられない。
その当時、湖面の凍結条件について考え観察した
ことを覚えている。
湖が凍結するかどうかは気温だけでは
なく、昼夜の天候の偶然のめぐり合わせによって決まる。すなわち、湖の
水温が2~3℃以下になり、微風夜間に晴天で放射冷却が強いと表面に
薄い氷ができる。
翌朝、晴天だと日射で氷が瞬く間に融解するのだが、もし、曇天となり
小雪が降ると薄い氷の上が白く覆われる。この時点で重要なことは、
強い風が吹かないことである。こうなると、アルベドが大きくなり、
日射の吸収量も少なくなって氷結が一層進む。水の鉛直混合
が弱くなり、いったんできた氷が割れ難くなるからである。