K92.省電力通風筒


著者:近藤純正
気温観測用の省電力通風筒を作った。ファンモータは12V、0.06Aの規格品を用いてあり、単一乾電池 で2週間余の連続観測が可能である。もちろんACアダプターを用いれば、AC電源も使える。材料は ホームセンターで入手できる。
気温観測に及ぼす放射影響を小さくするために、通風部は4重構造である。晴天日中の放射影響は ヤング社製を改造した型では0.1℃以下、他の手製品では0.05℃以下、通風経路を単純化した手製品 では0.02℃以下であった。この試験から、通風の流れが単純になる構造にすれば性能が向上する ことが確認できた。(完成:2014年7月3日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

トップページへ 研究指針の目次


更新の記録
2014年6月29日:素案の作成
2014年7月3日:最後の図92.19とその内容文の仕上げ

  目次
        92.1 はしがき
        92.2 省電力型の改造・製作
      その1 ヤング社製品の改造型
      その2 耐久型―長期観測用
      その3 単純型―ファンモータ交換が容易
        92.3 気温観測に及ぼす放射の影響
        92.4  まとめ
        参考文献



92.1 はしがき

AC電源のない場所で気温を測りたい場合がある。多くの人たちは、ファンモータを使わない非通風 のシェルターに気温センサーを入れて観測している。非通風だと晴天日中の気温は数℃も高めに、 夜間は1℃程度低めに観測される。

それは、経費の節減・予算不足のために、やむなく観測しているほかに、大きな誤差があることに 気づいていないことがある。ここでは、10年余の連続長期観測ではなくて、1週間~数か月間の短期 観測が数年間できる通風筒の作り方を説明し、さらに放射誤差が小さいことを試験する。

具体的には、単1アルカリ乾電池8個の12ボルト電源で2週間余の連続観測が可能であり、手製する 場合、ファンモータ以外はホームセンターや百円ショップで5千円以内で入手できる。

通風筒とシェルターの定義
用語の定義をしておく。野外で気温観測を行なう場合、ファンモータを使って強制的に通風し 気温センサーに外気を当てて測る装置を「通風筒」と呼び、ファンモータを使わない日除けのみを 使って測る装置を「シェルター」と呼ぶことにする。

日除けだけの場合、自然通風式通風筒ということがあるが、まぎらわしいので、本シリーズの研究 では、この呼び名は使わず「シェルター」とする。

92.2 省電力型の改造・製作

省電力通風筒の3種類について説明する。(1)市販のヤング社製通風筒のファンモータ部を除いた 部分を購入し、放射影響を小さくするように改造した4重構造の通風筒、(2)10年間ほどの長期に わたり観測する耐久型、(3)1週間~数か月間の短期観測を数年間行ない、かつ目的に応じて ファンモータを交換してもよい単純型について説明する。

ファンモータ
山洋電機社製の何十種類とあるファンモータの中から、大きさ(角径)と厚さが適当で、かつ 「風量 / ワット数」の比が大きいものを選ぶ。参考のために、他の通風筒に用いたファンモータも 含めて表92.1に示した。一番上に示した定格電流0.06A(0.72W)の品を省電力用として用いる。

表92.1 ファンモータの規格
型  番     定格電流 定格電流  最大風量  角径・厚    備考
         V       A       m3/min     mm
SanAce80
9GA0812P6M001    12     0.06      0.84      80×20    省電力用、3,610円
9GA0812P6G001    12     0.3       1.72      80×20    基準気温計、3,790円
9GA0812P1S61     12     0.94      2.6       80×38      比較検定用、5,270円

SanAce92
109P0912H402     12     0.21      1.45      92×25    基準気温計K1, K2用



通風部
通風筒はすべて4重構造とする。比較検定用は4重構造として観測に用いることは可能であるが、 数本のセンサーを束ねて比較検定する際には、もっとも内側の第4通風筒(アクリルパイプ製)は 使わずに3重構造の状態で利用する(「K91.Ptセンサーの検定(比較検定)」 を参照)。

接着剤
アクリル樹脂用接着剤:もっとも内側に入れる第4通風筒に用いるアクリル樹脂の透明パイプの 外側に小さなアクリルの突起を付ける際にのみ使用する。数秒間で付着するので、素早く接着する。

硬質塩化ビニル用接着剤:材料は主に塩化ビニルの雨どい、その繋ぎ具などを使う。 接着剤は少量ですむが、粘度が少し高い業務用の接着剤を使うほうが工作しやすい。値段は 少量の低粘度の接着剤とほとんど同じである。

ボンド・ウルトラ多用途、超強力接着剤:いろいろな材料に使える。プラスチックの種類に よっては接着後、外すことができるので用いる。この接着剤は、本来はポリエチレンやポリ プロピレンの接着に使わないが、ここでは利用価値はある。

通風筒の最後の仕上げに、放射を反射させ、かつ断熱のために通風筒の外側にPETアルミ蒸着 フィルム(ポリエチレン)を貼る。この接着剤で貼ったフィルムは、ファンモータの取り換えや、 改造・修理の場合に、剥がすことができる。

接着剤
図92.1 接着剤の3種類。
左:硬質塩化ビニル管用接着材、業務用、100g
中:硬質塩化ビニル板専用接着剤、注入器付、25ml(低粘度過ぎで使わない)
右:アクリル樹脂用接着剤、注入器付、30ml

その1: ヤング社製品の改造型
Young社製、販売店は英弘精機(形式43502、79,065円税送料込み)がある。この通風筒は性能が 良いわりに安価に入手できる(カタログによれば、晴天日中の放射影響は0.2℃)。見たところ、 通風部と排気部の構造が悪い。強い風雨にも耐えることを考慮したものと考えられ、ファンモータ からの排気部が狭くて長い。

これを入手した場合は、通風部の改造が簡単に終わり、ファンモータを取り付けるための工作が必要 である。

ファンモータを除いた部分(形式43502-NF、64,000円税送料込み)を購入し、次のように改造・加 工した。完成時の重量は取り付け具を含めて約2kgである。

〇もっとも内側に第4通風筒を追加する(図92.2下)。この通風筒の中にPt1000センサー (直径2.3mm)を井形に張った糸で支える。センサー先端は、第1通風筒吸気口から120mm奥 (第4通風筒吸気口から65mm奥)になるように支える。

〇購入品では、センサー受感部のレベルの上が1重の通風筒となっていて断熱が悪いので、その細い 円筒の外側に断熱シートを巻く(図92.4)。

〇狭くて長い排気部を短く切断加工して通風をよくする(図92.3左)。

〇ファンモータを取り付ける上部円筒の内径が僅かに小さいので、省電力用のファンモータの 4隅を2mmほど削って、ビスで固定する(図92.3右)。

〇微風時に排気が下降し、吸気口から吸引され再循環するのを防ぐために、支柱に設置後広い プラダン板(ダンボール構造のプラスチック板、軽くて曲げにも強く安価)をファンモータ部より 低レベルの位置、通風部の上のレベルに取り付ける(図92.5)。この白色のプラダン板は、 太陽高度が高いときの直射光を防ぐ効果もある。

ヤング内部
図92.2 通風部の詳細構造。
上左:通風筒吸気口の下からみた内部構造、この中へ第4通風筒(アクリルの透明パイプ)が入る。
上右:通風部を上からみた内部構造。真ん中の短い円筒の中へ第4通風筒を通し、固定する。
下:第4通風筒。左方が吸気口側(右方)に比べて通風断面積が狭くなるので、白色取り付け具の 右側に4つの穴を開けて外側に流れの一部が出るようにしてあり、センサーコードを支える糸を張る 穴を兼ねる。 第4通風筒の中央付近には糸を井形に張ってあり、この中へセンサーを左方向から通す。右方の先端 に近いところにアクリル材で小突起4つを接着してあり、第4通風筒外壁が第3通風筒内壁に接近して 狭くならないようにしてある。センサーが井形の糸で固定されたのち、外部からの散乱光が受感部 周辺に当たらないように黒ビニールテープを巻いて内部を暗くする。後述の他の省電力型でも同様 である。


ヤング・モータ部
図92.3 ファンモータ部の加工の説明図。
左:狭くて長い排気部を短く切断し、丸まった頭に被せて仮止めする。被せたあと接着剤で接着せず、 修理のとき取り外しができるようにしておく。
右:ファンモータ部を下からみた構造。ファンモータの角(角径=80mm)が2mmほど大きくて 入らないので、ファンモータの4隅を削ったのち、ビスで固定する。電源コードは小穴を通して 外側へ出す。


ヤング・取り付け
図92.4 完成品を支柱に取り付けた写真。L字形の水平の白色は5mm厚のアルミ製取り付け具。

ヤング・取り付け完了
図92.5 支柱への通風筒本体の取り付けが終わったのち、白色5mm厚のアルミ製取り付け具の上に 重なるように広い水平板(排気の下降流防止板)を取り付ける。

その2: 耐久型―長期観測用
例えば、盆地の夜間冷気層の形成とその消滅過程を観測するような場合、突然出かけて観測しても 夜間に雲が現れて強い盆地冷気層が形成されないことがある。それゆえ、春や秋の期間、通風装置を 設置して連続観測する必要がある。降雨もあるので、やや耐久性のある通風筒を作る。

基本的な構造は、他の通風筒と同じであるが、通風部のセンサー取り付け部とファンモータ部は 丈夫な肉厚の水道用塩ビ管の繋ぎ材で作った。完成時の重量は約2.1kgである。

耐久型内部
図92.6 通風部の構造。
左:通風部を支柱に取り付けた写真、上のファンモータ部は外してある。
上中:吸気口を下から見た構造、
上右:通風部を上から見た構造。真ん中のぎざぎざの付いた白色短パイプはガスホース繋ぎ具で この中に第4通風筒を通して固定する。ぎざぎざは弾力性を持ち締め付けができるので第4通風筒が 固定される。外側の左右に出ている蝶ねじは、この上側から被せるファンモータ部(水道管繋ぎ) と結合させるとき締め付けるものである。
右下:第4通風筒、他の省電力型に用いる構造とほとんど同じである。

耐久型完成
図92.7 長期観測用の耐久型の通風筒を支柱に取り付けた写真。天蓋の排気口にはステンレス製 ボール(直径=150mm、百円ショップで入手)を取り付け雨滴が入らぬようにしてあり、その下の 円板は排気が下降して吸気口から再循環することを防止する「下降流防止板」(直径200mm) である。これは運搬などの状況によっては、200mmより大きくてよい。

この通風筒を斜めにして支柱に取り付ける理由は、重心が支柱の軸から大きく離れず、簡単な支柱を 使えることと、日中の高温地面からの長波放射の影響を小さくするためである。受感部から見える 高温地面までの有効な距離が長くなるほど地面からの放射影響が小さくなる。吸気口は主風向に 向けて設置する。

地面までの斜めの距離を長くするために水平に近い角度にすると、風が後方から吹くとき、排気 が吸気口から吸引されて再循環し、気温観測の誤差となる。適当な角度で斜めに取り付ける。

その3:単純型―ファンモータ交換が容易
この通風筒の特徴は軽量で取り付け具を含む重量は約0.5kg、設置が簡単で短時間にできる。単純 構造のため、放射影響はヤング改造型(0.1℃以下)や耐久型(0.05℃以下)よりも小さい。 ファンモータのみ容易に交換できるように作っておくと、より正確な気温の観測も可能となり基準 気温計として用いることもできる。

この形式の通風筒の作り方を大きく分けると次の2つになる。
(ⅰ)3重構造の通風部に第4通風筒(センサーが固定されている)が含まれる構造
(ⅱ)第4通風筒の固定具がファンモータ部に作ってある構造

(ⅰ)の形式は比較検定用の通風筒で示した(「K91.Ptセンサーの検定 (比較検定)」)。ただし比較検定用の通風筒は第1通風筒の内径が太いので、通常の観測では 内径の小さいサイズの雨どいで作る。この節では(ⅱ)の構造の作り方を説明する。

設計の概略図は図92.8と図92.9に示した。ファンモータが入る角筒構造は白色のプラタン (ダンボール構造、加工が簡単で曲げに強い)を折り曲げてつくる。角筒部の両端には雨どいの 繋ぎ具をボルト・ナットで固定してあり、その左側(図92.8の左側)には、天蓋の「雨除け」の取り 付け・取り外しができる。右側には3重の通風筒(図では褐色)の最外側の第1通風筒を差し込む。

単純型全体図
図92.8 単純型の概略図、数値の単位はmm。

単純型通風部の図
図92.9 単純型の通風部(寸法の単位はmm)、観測時における位置関係を示している。青色は第4 通風筒を表し、その左端はファンモータ部に固定されている。この図は、ファンモータ部に、右側から 3重構造の通風部が接続されたときの状態を表している。

第4通風筒組み立て説明図
図92.10 アクリル透明パイプを使った第4通風筒の説明図。
上:Pt1000センサー(直径=2.3mm)
中:第4通風筒。アクリルパイプの左寄りに開けられた4つの穴は右先端から吸引された空気を外側に 抜けさせることで第4通風筒内の通風速度を上げ、同時に内部に糸を張ってセンサーを中心軸に 固定させるためのものである。その右側には井形に糸を張ってありセンサーの先端から20mm付近 (センサーの直径が太くなる所)を支える。センサーの受感部先端はこの第4通風筒吸気口から 65mmの位置となる。 なお、アクリルパイプ先端近くの外側に小さいアクリル突起4個を接着してあるのは、その外壁が 第3通風筒内壁に接着するのを防いでいる(他の通風筒でも同じ構造)。
下:最後にパイプ外側に黒ビニルを巻き、センサーの受感部周辺に外からの散乱光が当たらぬように 暗くする。

通風部の詳細構造
図92.11 通風部の詳細構造。
左:後方からみた構造、筒の外に出ている直径10mmほどの金属円環はファンモータ部と繋いだ とき、糸を通して固定するためのもの。通風部と繋ぐとき接着剤は用いないので、外れぬよう念の ために糸で繋いでおき、修理のときに外せるようにしておく。
中:吸気口からみた構造、真ん中にセンサーの先端が小さく見える。各円筒間の結合の仕方に 注意しよう。このような結合でも、塩ビ用接着剤を念いりに塗っておけば意外に丈夫で外れ難い。
右:吸気口、塩ビの雨どいをコンロで温め適当な寸法のコップや茶碗を当てて回しながらラッパ形状 に加工し、外気がなめらかに吸引されるようにしてある。通風部ができ上がった後、この外側に アルミ蒸着の断熱シートを巻く。

ファンモータ部を開いた写真
図92.12 白色のプラダン(ダンボール構造)で作った角筒を開き、ファンモータを交換する時の 写真。
手が入る寸法が図92.8に示してあり、200m長より短いとこの形でのモータ交換や修理が難しく なり、止めねじなど外しての修理になる。
上:通風筒先端方向からみた構造、3重構造の通風部は外した状態で撮影。
下:通風筒後端方向から見た構造、3重構造の通風部は接続した状態。

   ファンモータ部を閉じた
図92.13 ファンモータ部の白色プラダンを閉じたときの写真。
上:後部、白色面から出た突起は支柱への取り付け金具(L字アングルの角度90度を120度ほどに 変形してある)。
下:先端部、3重構造の通風部を外した状態、第4通風筒とセンサーは取り付けた状態。

完成直前
図92.14 通風筒の完成直前の状態、データロガーも接続されている。最後にこの外側にアルミ蒸着 の断熱シートを巻き、左側には雨除けのステンレスボールを差し込み、糸を突起させてあるネジに 縛り固定する。まだ、最後のアルミ蒸着の断熱シートは巻いていない状態の写真。

設置完了
図92.15 完成した通風筒を支柱に取り付けたときの写真。


92.3 気温観測に及ぼす放射の影響

基準気温計
ここでは基準気温計(K1, K2)を基準として用い、放射による気温観測の誤差について調べる。 基準気温計(K1, K2)は、「K70.気温観測用の電池式通風筒」において 作った2重の通風筒と広い直射除けから成るのだが、設置が簡単にできるよう、しかも強風時も 使えるように、本章で説明している通風筒と同じく4重の通風筒構造に改造した。

さらに、降雨時(強い防風雨除く)でも1~2週間連続して使えるように、排気部の後方に簡単な 雨除けを付けた。この雨除けは白色プラダンで作り、観測しないときは雨除け(プラダン材のため 折り曲げ自在)は排気部プラダン角筒に折り曲げて、小型ダンボール箱に入れて運ぶ。すでに、 室戸岬など多地点で観測に使用した。

基準器K2
図92.16 基準気温計(K2)を支柱に固定し観測中の写真。左に張りだした雨除けの角度は自由に 変えて固定する。

放射影響の試験方法
「K89.通風筒に及ぼす放射影響-農研用」で示したように、水平距離 4mほど離れただけで瞬間(約80秒間平均)ごとの気温は±0.5℃も違う。それゆえ、20秒間隔で 気温を記録し、200データ(約66分)の平均値を比較する。日中は、基準気温計による気温より 高温に記録された気温差を放射影響による誤差とする。だだしゼロ点がずれている場合は(気温計に 器差がある場合は)昼夜の記録からズレ(器差)の大きさが推定できる。

試験する気温計の両側に基準気温計(K1, K2)を設置する(K3を基準気温計として用いる場合もある)。 当初、それら各気温計間の距離は約1m、吸気口の地上高度は1.5mとしたが、単純型では互いの水平 距離は0.6mとし、吸気口の地上高度は2.0mとした。

基準気温計と単純型は、排気が互いの通風筒の吸気口に吸引されにくい構造であるので、互いの距離は 短くした。また場所による気温のムラが少なくなうように吸気口の高さを2mと高くした。

試験は晴天日に行なう(連続記録していて、晴天日の続くときにデータを吸い上げる)。4月14日~ 16日に行なったヤング改造型では、気温差の絶対値abs(K1-K2)<0.1℃の場合のみを採用した。長期 観測用の耐久型では、両側の気温計(K2, K3)による気温差abs(K2-K3)=<0.06℃であり、データは 徐外しなかった。

単純型では、放射影響が小さいので、気温差abs(K1-K2)<0.3℃の場合を採用する。

放射影響の試験結果
図92.17の上図はヤング社製を改造した型について、下図は耐久型についての放射影響の日変化で ある。数日間の観測を重ねて日変化で表した。

晴天日中における放射影響はヤング社製を改造した型では0.1℃以下、耐久型では0.05℃以下と 見なされる。

放射誤差、ヤング改造型と耐久型
図92.17 放射影響の日変化(2014年4月14日~16日)、ヤング社製を改造した型(写真は図92.5)と 長期観測用の耐久型(写真は図92.7)。
上:ヤング改造型
下:耐久型

次に単純型についての試験は梅雨の期間となり、晴天日が少なく、6月23日~7月上旬の期間中の 数時間以上の晴天時のデータを利用する。

図92.18は単純型についての3日間の試験結果である。この型は通風経路が単純な構造であるため、 通風筒内の通風状態がよく放射影響が小さい。それゆえ、より正確な放射影響の値をみるために 基準気温計の気温差abs(K1-K2)<0.03℃のみをプロットした。

放射誤差、単純型3日間
図92.18 単純型(写真は図92.15)についての放射影響の日変化(2014年6月23日~26日)、気温差 abs(K1-K2)<0.03℃のみをプロットしてある。

図92.18 から、晴天時の日中の放射影響は0.03℃以下と見なされる。±0.01℃ほどの不確定さが見られる のは、各プロットが200データ(約66分間)の平均値であり、平均化する際の個数が少ないことも 理由の一つである。

試験を行なったわが家の庭における気温変動の大きさ、標準偏差:σ=0.5℃程度である ( 「K79.都市の地上気温の分布―新しい視点・解析法」の図79.5)。200の平方根は14であり、 0.5℃ / 14=0.04℃となる(「地表面に近い大気の科学」、p.21を参照)。ただし、0.04℃は1地点に おける気温変動から推定した曖昧さ(観測誤差)の概略値である。0.6~1.2m離れた2地点の気温差の 標準偏差は、(測っていないが)0.5℃より小さいので、気温差の曖昧さは0.04℃より小さく、 ±0.01℃程度として得られたことは納得してよい。

追記:2点間の気温差変動の標準偏差
わが家の庭において、1.2m離れた2点間の気温差(K1-K2)と0.6m離れた気温差(M6-K2)の標準偏差 σ12 と σ62 (トレンドを除去するために、これまでと同様、平均化時間 =30分間)を求めた。2014年6月23日7時00分~13時30分の平均値は、
σ12=0.10℃、σ62=0.08℃
である。この値を用いると、曖昧さ(観測誤差)の概略値は 0.10 / 14=0.007℃、0.08 / 14 =0.006℃
となり、図92.18のプロットの不確定さとほぼ一致する。

放射影響の日変化をみるために、上記3日間のデータに、さらに晴天日・晴天時のデータを加えて 合計延べ174時間分の31,320個のデータから放射影響の日変化で表したのが図92.19である。

ついでに、基準気温計(K1, K2)の相対的精度をみてみよう。
全データ31,320個の平均気温は K1=23.577℃、K2=23.579℃となり、気温差(K2-K1)=0.002℃、 相対誤差は無視できるほど微少差であり、検定が厳密に行なわれた結果を表している。 これら K1 と K2 は、最初に行なったもっとも正確な検定によるものである (「K69. 気温観測用Ptセンサーの安定性と器差」)。

この図では、サンプリング個数を多くするために同じ時刻のデータの平均値をプロットしてある。

ただし、この図では放射影響の微少差を見いだす目的のゆえ、気温差の1時間平均値が abs(K1-K2)<0.02℃の場合のみのデータを用いてある(詳しくは abs(K1-K2)<0.016℃)。 除外データの割合は22%(=38/174)である。

放射誤差、単純型日変化
図92.19 単純型の通風筒に及ぼす放射影響の日変化。2014年6月23日~26日、6月27日~28日、 および6月29日~7月2日の晴天日または晴天時のデータによる。
黒小丸印:1時間平均の気温差(平均化個数の不足により曖昧さを含む)、
褐色丸印:延べ9日間の気温差の平均値(曖昧さをほぼ除去した放射影響)
水平の赤破線:ゼロ点のずれ(検定誤差)とみなされる


1時間平均の気温差は平均化個数が少なく、0.01℃ほどの曖昧さがあるので、abs(K1-K2)<0.02℃の 厳選条件から得られた放射影響の日変化を褐色丸印で示してある。図によれば、この単純型通風装置 の日中の放射影響の最大値は0.02℃と見なされる(ただし、ゼロ点ずれ=-0.003℃を考慮)。

図に描いた水平の赤破線はこの通風筒に用いたセンサ-(M6)の検定誤差(ゼロ点のずれ)と見な され、極めて微少であるが-0.003℃程度である。M6 は「ひ孫検定」によるもので、この程度の 誤差が生じたと考えられる。

備考1:3段階目の「ひ孫検定」
センサー(K3, K4, ・・・・K8)の検定は、K1とK2を基準気温計として比較検定を行なった。
センサー(K9, K0, M1.・・・M4)は、 K8 を基準に7本を束ねて比較検定したもので「孫検定」と 呼ぶなら、
センサー(M5, M6)は M3とM4 を基準に4本を束ねて比較検定したもので、「ひ孫検定」に相当する。
したがって、基準を下げて検定を繰り返すと誤差が少しずつ大きくなることを実際に示したのもので ある。ただし、これらの比較検定は150~200時間の長時間をかけて行なったものである。

備考2:単純型を基準気温計とする場合
この単純型はファンモータ部の角筒の長さを200mmに長くしてあり、0.3Aのファンモータ (表92.1の2番目)と容易に交換でき、基準気温計(M5, M6)として利用することができる。


92.4 まとめ

この一連の研究は、現在使われている気温観測用の通風筒に及ぼす放射の影響を調べることのほかに、 次世代の通風筒をつくる際に必要な試験を行うものである。同じ小電力0.72W(12V,0.06A) のファンモータを使った省電力型の通風筒でも、単純構造で通風筒内の空気流の曲がりが少ないほど 放射影響が小さいことが確かめられた。これを次世代通風筒の設計に生かすことができる。

本章は、安価でしかも高性能の通風筒の作り方と放射影響についての内容である。

これまでの結果も含めて、今回の 0.72W(12V,0.06A)のファンモータを用いた3種類の通風筒 について、気温観測に及ぼす放射による誤差を表92.2にまとめた。実際に使うセンサーの直径が 大きくなると、一般的に放射影響は大きくなることに留意すること。


表92.2 各種通風筒に及ぼす放射の影響による気温観測の誤差(通常条件の晴天日中における 最大値の目安)。
    誤差:放射による気温の誤差、ゼロ点ずれ無しの場合
    センサー:試験に用いたPtセンサーの抵抗値(オーム)と直径(mm)
    ファンモータ:通風筒のファンモータの電圧(V)と電流(A)

製作会社または型    誤差    センサー     ファンモータ   備 考
                   抵抗 直径      電圧 電流
                     ℃   オーム  mm       V     A

小笠原計器製作所     0.3     100    3.2     12   1.1      気象官署用、シロッコ(注1)
小笠原計器製作所     0.4    100    6.0   12   0.14     一般アメダス用、ブラシレス(注2)
プリード社           0.5     100    3.2     12   0.125    農研用
ノースワン社         0.15   1000    2.3     12   0.16   下降流防止円板付き

省電力型
ヤング改造型         0.1    1000   2.3      12   0.06     ヤング社製を改造
耐久型               0.05   1000   2.3      12   0.06     長期観測用
単純型               0.02   1000   2.3      12   0.06     ファンモータ交換が容易


注1:「シロッコ」はシロッコファン(多翼送風機、遠心送風機の一種)を指し、排気流の方向が 90度変わる。
注2:「ブラシレス」はここではブラシレスファンを指し、扇風機のように空気流が同じ方向に 排気される。



参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

トップページへ 研究指針の目次