K39.気温の日だまり効果の補正(2)


著者:近藤 純正
地球温暖化量の正しい値は、都市化や日だまり効果を含まない気温の長期的な 変化量である。この章では、周辺に適当な田舎観測所がなく、おもに遠方の 観測所のデータとの比較から得た日だまり効果の補正を示す。
前章の結果と合わせた34地点について、種々の補正が施された気温データ が揃うことになる。この内、日だまり効果がゼロまたは微小な6地点 について50年以上100年程度の長期変動には地域的な違いがなく、また6地点 と34地点の間でも長期変動には違いが認められず補正が適切に行われたと みなすことができる。
なお、日だまり効果によって生じる年平均気温の上昇量は、風速減少率10% に対して0.1℃、風速減少率20%に対して0.2℃が目安である。 (完成:2008年3月21日、B群に6地点を追加: 4月5日)


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  目次
	39.1 はじめに
	39.2 日だまり効果のまとめ
	39.3 バックグラウンド温暖化量の地域差
		寿都、浦河、宮古、深浦、室戸岬、屋久島、金華山
	39.4 やや近傍の観測所から評価した日だまり効果
		石垣島、土佐清水、御前崎
	39.5 A群12地点平均値から評価した日だまり効果
		網走、根室、稚内、石巻、石廊崎、潮岬、
		飯田、彦根、浜田、平戸、水戸、長野
	39.6 B群6地点の追加
		室蘭、山形、相川、洲本、宇和島、枕崎


39.1 はじめに

風速や気温などの気象観測値には、観測所の周辺環境の変化が敏感に反映される。 そのため、より正しい地球温暖化量を見積もるには、観測所のごく近くの10m ~数100mの範囲に樹木が繁茂していないか、大きな建築物ができていないか等 の環境変化を知り、気象要素に及ぼす補正を施さなければならない。

前章の「K38.気温の日だまり効果の補正(1)」 では、周辺に比較できる適当な田舎観測所がある場合について補正を行った が、本章では周辺に適当な田舎観測所がなく、やや近傍および遠方の観測所 (A群12地点)のデータとの比較から日だまり効果を求めるものである。

前章の結果によれば、対象地点の年平均気温と周辺にある田舎観測所の 比較から評価した日だまり効果と、広域に分布するA群12地点 (室戸岬、宮古、寿都、浦河、屋久島、深浦、および津山、多度津、伏木、 境、勝浦、日光) との比較から評価した日だまり効果の違いは僅かで、0.05~0.1℃程度の誤差 で一致することがわかった。

本章では最初に結論を述べ、その後で詳細を説明したい。
第2節では日だまり効果のまとめについて、第3節ではバックグラウンド 温暖化量(都市化や日だまり効果を含まない温暖化量)に地域的な違いが ないことを示す。

第4節以下は詳細についての説明である。 第4節では近傍の観測所から推定した日だまり効果を、第5節では、 A群12地点との比較から網走、石廊崎、飯田、浜田など11地点について 日だまり効果を推定する。第6節は室蘭など6地点の追加である。

日だまり効果の評価では、前章「日だまり効果の補正(1)」と同様に、
(1)年平均気温の精度として、±0.05~0.1℃程度で評価する。
(2)年平均風速に変化が生じた期間に注目する。
(3)現地調査による過去~現在までの露場周辺の環境変化に注目する。
ほとんどの観測所では1950年代から1980年代にかけて周辺環境が大きく変わり、 風速の減少と気温の上昇がほぼ対応している。石廊崎などでは”燃料革命” により数年ごとの周期的に行われてきた里山の伐採が行われなくなり樹木の 繁茂によるものである。その他の多数の観測所ではちょうどこの時代、 周辺に建物が多くなったり舗装道路が増えてきた。

39.2 日だまり効果のまとめ

この章では最初に、結果のまとめを述べる。次の表39.1は日だまり効果を評価 した結果の一覧である。

近傍の観測所から得た日だまり効果と、A群12地点から得た値と、さらにAB26地点 (最後に求めたB群の水戸と長野を除く26地点)から得た値は、0.05~0.1℃ 以内の違いで一致していることがわかる。

表39.1 日だまり効果の評価一覧表、28地点
気温上昇(近傍):近傍観測所の平均気温との比較から評価した日だまり効果
気温上昇(AB26点):A群17地点とB9までの26地点の平均気温との比較による日だまり効果、
気温上昇(A群12点):最終的に得たA群12地点の平均気温との比較による日だまり効果、
気温上昇(推定):AB26地点や近傍との比較によるが日だまり効果が小さく推定値

日だまり効果一覧表

表39.2は最終的に施した日だまり効果の補正値の一覧である。 補正は、ごく最近の気温がそのまま使えるように、最近の気温観測値を基準に して過去の値が相対的に高温になるように補正する。その際、表に示した期間内について 直線状に補正するが、期間の最初・最後付近は僅かずつ滑らかになるように 接続する。

表39.2 日だまり効果(最終的に用いた値)による気温の上昇量と
日だまり効果の期間(補正した期間)、及び気温の観測開始の年、
それ以前に接続する観測所(不連続がある場合は他所より補正)。



   区分 観測所名   気温上昇(℃)  期 間(年)  観測開始年  観測開始年以前の接続                  
    A群12地点     
      A1    室戸岬         0              ―           1921      高知、宮崎など9地点
      A2    宮 古         0              ―           1884        ―
      A3    寿 都         0              ―           1888        ―
      A4    津 山        0.35          1980-99        1942      境、多度津      
      A5    多度津        0.6           1962-90        1893        ― 
      A6    伏 木        0.3           1969-76        1886        ―                
 
      A7     境          0.5           1968-84        1883        ―
      A8    勝 浦        0.2           1965-01        1906      東京、銚子
      A9    浦 河         0              ―           1927      根室、寿都、宮古
      A10   屋久島         0              ―           1938      宮崎
      A11   日 光        0.43          1955-99        1944      宇都宮     
      A12   深 浦        0.06          1950-70        1940      秋田(~1895は青森)

 A群その他
      A13   石 巻        0.25          1965-84        1888        ―
      A14   御前崎        0.21          1965-89        1932      浜松
      A15   清 水        0.28          1965-94        1941      高知、松山、大分
      A16   石垣島        0.30          1955-85        1897      (~1896は那覇)
      A17   金華山         0              ―           1883        ―(1992~は江の島)

 B群
      B1  根 室        0.1           1966-89        1880        ―
      B2  網 走        0.3           1955-77        1890        ―
      B3  稚 内        0.28          1955-84        1938      網走、寿都
      B4  石廊崎        0.25          1965-84        1940      浜松
      B5  潮 岬        0.28          1965-87        1913      和歌山

      B6  飯 田        0.38          1953-87        1898      長野
      B7  彦 根        0.48          1955-80        1893        ―
      B8  平 戸        0.19          1960-84        1940      長崎(~1898は厳原・福岡)
      B9  浜 田        0.44          1950-84        1893        ―    

  B群その他
      B10   水 戸        0.45          1955-89        1897      (1893-96は東京、宇都宮)
      B11   長  野        0.55          1950-80        1889 
      B12   室 蘭        0.07          1955-85        1923      函館、寿都、根室
      B13   山 形        0.60          1955-90        1891
      B14   相 川        0.25          1975-80        1912      深浦、山形、伏木  
      B15   洲 本        0.26          1965-90        1919      神戸、和歌山など8地点**
      B16   宇和島        0.10          1960-85        1923      宮崎、松山、高知
      B17   枕 崎        0.54          1955-90        1924      鹿児島、宮崎、松山、高知
    以上合計34地点
          (注)9地点は高知、和歌山、松山、宮崎、大分、多度津、岡山、津、鹿児島
        8地点**は神戸、和歌山、徳島、高知、岡山、多度津、津、彦根
	  AB26地点:A群のすべて17地点とB群のB1~B9までの9地点
      AB28地点:A群のすべて17地点とB群のB1~B11までの11地点
            AB34地点:A群のすべて17地点とB群のすべて17地点の合計34地点


注: A群12地点からはじまって、AB26地点、AB28地点、AB34地点と増えていった のは、これらバックグラウンド温暖化量をもとに都市化による各都市の 都市昇温を見積もってみると、当初は都市によっては誤差が±0.1℃ほど出て しまった。そのため、地点数を増やすことになった。
CO増加による地球温暖化など気候変化(バックグラウンド温暖化) は、数十年以上の長期的な変動であり、質のよい観測資料が数地点~10地点 程度あれば十分である。一方、都市は数年~10年程度の短期間に環境が 大きく変り都市化となって現れる。そのため、後者を評価する にはバックグラウンド温暖化量について短期間の変動(地域変動)も0.1℃ 以下の精度で評価しておかなければならない。

図39.1(左)は年平均風速の増加率と近傍観測所から得た日だまり効果による 気温上昇との関係である。バラツキが大きいのは、風速は観測高度が 10~20mで、やや広域(100~数km)の環境を表すのに対し、 気温は観測高度が1~2mで、ごく近傍(10~100m程度)の環境変化 を表すためである。日だまり効果は、露場の風通りの悪化によって生じる。

多くの場合、日だまり効果には都市化による影響も含まれているが、両者の 占める割合は個々のデータからは求めることはできない。

日だまり効果の図
図39.1 日だまり効果の図。左:年平均風速の増加率と近傍観測所による 気温上昇との関係(青印は深浦、根室、寿都)、右:広域A群12地点による 気温上昇と近傍観測所による気温上昇の関係。

図39.1(右)は広域A群12地点から評価した日だまり効果と近傍観測所から 評価した日だまり効果の比較である。両者間には0.05~0.1℃以内の違いしか ないことがわかる。

このことから、近傍に適当な観測所が無い場合は、日本全域について求めら れたバックグラウンド温暖化量(都市化や日だまり効果を含まない温暖化量) との比較から日だまり効果が評価できることを意味する。

39.3 バックグラウンド温暖化量の地域差

日だまり効果がきちんと評価されたかどうかを見てみよう。

図39.2は日だまり効果が認められない7地点のうち、金華山を除く6地点と AB26地点平均の気温差の経年変化である。

注1:金華山を除外した理由:
金華山は南三陸の沖にある小島であり、黒潮・親潮境界の南北移動にとも なう影響を受けやすいところである。年平均海水温度が40~50年サイクルで 1.4~1.5℃の幅でジャンプ・ダウンし、海水温度と気温が高い相関係数で 変動する特異な地点である。詳細は「K28.海水 温度と陸上年平均気温の関係」の図28.4と表28.1を参照のこと。

注2:AB26地点とAB28地点:
当初、26地点について日だまり効果を評価したが、後で2地点(水戸と長野) を追加して28地点について評価した。この章では、相対的な地域特性など をみる際には26地点の平均値との差を図示するが、次章以後では28地点を 用いて日本平均のバックグラウンド温暖化量や都市昇温量を評価する。

図39.2には日だまり効果の微小な6地点と26地点(上図)または28地点 (下図)との気温差である。両図を比較してみると、年代による変化傾向は 同じであるとしてよい。

日だまりゼロの6点との差
図39.2 日だまり効果が微小な6地点との気温差。上:AB26地点との気温差、 下:AB28地点との気温差、青線はいずれも15年移動平均。 6地点は寿都、浦河、宮古、深浦、室戸岬、屋久島である。

図39.2によれば、50年以上100年程度の長期間では±0.05℃の幅の変動が 見える。これは6地点では日本の平均値を表すには地点数が少なく、 0.05℃程度の誤差を含むことを意味している。

さらに、この図からは50年以上100年程度の長期的な上昇・下降のトレンドは 見出せないので、日だまり効果の補正は全体として適切に行われたと 見なすことができよう。

以下では相対的な関係を調べるのに、AB26地点平均値との差を用いる。

次に、日だまり効果がほとんど認められない個々の地点と、AB26地点平均の 気温の差について経年変化を比較することによって、地域によるバックグラ ウンド温暖化量に違いがないかどうかを見ることができる。

寿都(北海道南部日本海沿岸)
日だまりチェック、寿都
図39.3 寿都とAB26地点の気温差、青線は5年移動平均。

浦河(北海道中部太平洋沿岸)
日だまりチェック、浦河
図39.4 浦河とAB26地点の気温差、青線は5年移動平均。

宮古(岩手県太平洋沿岸)
日だまりチェック、宮古
図39.5 宮古とAB26地点の気温差、青線は15年移動平均。

深浦(青森県日本海沿岸)
日だまりチェック、深浦
図39.6 深浦とAB26地点の気温差、青線は15年移動平均。

室戸岬(高知県東部太平洋沿岸)
日だまりチェック、室戸岬
図39.7 室戸岬とAB26地点の気温差、青線は5年移動平均。

屋久島(鹿児島県の南方)
日だまりチェック、屋久島
図39.8 屋久島とAB26地点の気温差、青線は15年移動平均。

以上の寿都~屋久島までの6地点を見ると、短周期の変動では地域間で 特徴があるが、長周期の変動では、たとえば北日本で気温上昇量が 大きいとか、地域的な特徴は明確でない。つまり、 50年以上、100年程度の長い期間では、バックグラウンド 温暖化量に地域的な違いは見えない。

なお、50年以下、10~30年程度のサイクルにおける地域的な特徴は 「K40.基準34地点による日本の温暖化量」で示す 予定である。

金華山(宮城県南三陸の沖)
長期的な海水温度のジャンプ・ダウンの影響がある金華山を見ておこう。
図39.9は金華山とAB26地点の気温差の経年変化である。横の赤線は金華山周辺の 海水温度が長期的にジャンプ・ダウンした期間を示し、赤数値はその期間の 気温差(金華山-AB26地点)である。

日だまりチェック、金華山
図39.9 金華山とAB26地点の気温差、青線は5年移動平均。 横の赤線は金華山周辺の海水温度がジャンプ・ダウンした期間を示す。

1945/46年に金華山の南隣の江の島において、年平均海水温度が1.4℃の幅で ジャンプしている。図39.9によれば、このジャンプにともなう気温差は 0.34℃(=1.70-1.36)である。

気温差でなく、気温と海水温度の関係についての詳細は、 「K28.海水温度と陸上年平均気温の 関係」を参照のこと。

39.4 やや近傍の観測所から評価した日だまり効果

石垣島(南西諸島の先島諸島)
近傍の観測所として西表島と与那国島のどちらが適当なのか判断ができな かったが、現地を訪問し聞き取り調査などの結果、石垣島の日だまり効果 (都市化も含む)による年平均気温の上昇量は0.3℃と見積もることが できる(「写真の記録」の「88.与那国島と 西表島の観測所」を参照)。

それと同じ図を次の図39.10(a)に掲げる。

石垣島日だまり効果2
図39.10(a) 石垣島の日だまり効果を判断する図。 青:年平均気温の石垣島と与那国島の差、赤:石垣島と西表島の差 (ただし、西表島2003年の移転に伴う気温ジャンプは補正済み)。 西表島の気温は「西表島の気象49年」に掲載された資料を用いてプロット してある(1970年以前について気象庁ホームページ掲載の資料と0.1~0.2℃ ほど異なり、また掲載されている期間も違う)。
「写真の記録」の「88.与那国島と西表島の観測所」 の図88.15に同じ。

つまり、石垣島と与那国島の比較から0.22℃、石垣島と西表島の 比較から0.36℃と評価され、それらの平均をとって0.3℃とする。 この0.3℃は、図39.10(b)と比べて矛盾していないことがわかる。 すなわち、石垣島の日だまり効果は、A群12点との比較から0.29℃、 AB26点との比較から0.27℃である。

日だまりチェック、石垣島2
図39.10(b) 石垣島の日だまり効果のチェックの図。上:石垣島とA群12地点 の気温差(青線は5年移動平均)、下:石垣島とAB26地点の気温差。

清水(高知県南西、足摺岬)
日だまり効果、清水
図39.11 清水の日だまり効果。上:清水とA群12地点 の気温差(青線は5年移動平均)、下:清水と室戸岬・屋久島平均の気温差。

御前崎(静岡県)
日だまり効果、御前崎
図39.12 御前崎の日だまり効果。上:御前崎とA群12地点 の気温差(青線は5年移動平均)、下:御前崎とAB26地点の気温差。

39.5 A群12地点平均値から評価した日だまり効果

網走(北海道オホーツク海沿岸)
網走では、1977年12月に現在の新庁舎が完成したあと、1995年から2003年に かけて官舎数棟が解体され、露場周辺の植栽や駐車場ができるなど変化が あった。環境変化のどれと1998年の気温ジャンプが一致するのかはっきり しない(「K12.温暖化は進んでいるか(3)」の 12.2節を参照)。

次の図39.13(a)は、網走と周辺10アメダスを比較した気温差であり、 1998年に0.24℃(=0.76-0.52)の気温ジャンプがあったことを示している。

このジャンプと、観測法変更にともなう補正(1日に3回観測の時代の補正と 百葉箱内から外部通風装置内への変更に伴う補正)をした後、網走の日だまり 効果の評価を行った。

気温のずれ、網走
図39.13(a) 網走と周辺10アメダス(斜里、常呂、佐呂間、宇登呂、小清水、 美幌、北見、遠軽、湧別、紋別)平均の気温差。

図39.13(b)に示すように、網走では0.3℃(=6.65-6.35)の日だまり効果が あった。図中に示した赤の数値(-6.65℃と-6.35℃)は、横の赤線の期間に ついて気温差を平均した値である。

日だまり効果、網走
図39.13(b) 網走とA群12地点の気温差。


「K12.温暖化は進んでいるか(3)」の 図12.1(網走に関する図)では、1978年以前(アメダス以前の区内観測所時代)には最高最低気温 の平均値から日平均値を求めていたが、当時は日界(1日の区切り)が9時 であり、現在の日界24時への変更に伴う補正は施していない。 また、図12.1でわかるように、網走で日だまり効果の生じたと考えられる 1960、1970年代に気温差に大きな波があり、その方法では日だまり効果の 評価が非常に難しかった。さらに、図12.6までの資料から判断して、その 段階では、網走の日だまり効果は暫定的に0.1~0.2℃としてあった。

根室(北海道東端域)
根室では、1991年12月20日に測器の移設、1993年8月26日に新合同庁舎に入居 する変更があったので、それに伴う年平均気温のずれはなかったかどうか 検討した。

図39.14(a)に示すように、周辺との比較によって、気温のずれは認められない。

気温のずれ、根室
図39.14(a) 根室と周辺9アメダス(標津、中標津、別海、納沙布、厚床、 榊町、太田、地方学、白糠)平均の気温差。

北海道では、別の章「K40.基準34地点による日本の 温暖化量」で述べるように、年平均気温において約11年の 周期的変化が卓越するので、根室の日だまり効果は北海道4地点(網走、稚内、 浦河、寿都)と三陸2地点(宮古、石巻)の合計6地点との差(図39.14(b)) から日だまり効果を見積もることにした。この図では40~50年の長周期 変動が見られ、日だまり効果の大きさの評価が難しい。しかし、推定値として 0.1℃の日だまり効果(1965~1989年の期間)を認定したい。

この期間(1965~1989年)の決め方は、根室における年平均風速の減少する 期間(1965~1990年)と、現地調査による周辺の環境変化に基づくもので ある(「写真の記録」の「76.根室、納沙布、 釧路の観測所」を参照のこと)。

日だまり効果、根室
図39.14(b) 根室と周辺6地点(網走、稚内、浦河、寿都、宮古、石巻)の 気温差。

稚内(北海道北端域)
次の図39.15から、稚内の日だまり効果は0.28℃(6.52-6.24)と評価される。 赤の数値(-6.52℃と-6.24℃)は横の赤線の期間について気温差を平均した数値 である。

日だまり効果、稚内
図39.15 稚内とA群12地点の気温差。

稚内の周辺環境については「写真の記録」の 「78.稚内と宗谷岬の観測所」を参照のこと。

石巻(宮城県仙台湾沿岸)
以下の図でも同じ方法で各地点の日だまり効果を評価した。

日だまり効果、石巻
図39.16 石巻とA群12地点の気温差。

石廊崎(静岡県伊豆半島南端)
石廊崎では、日だまり効果は0.25℃と評価される。0.25℃の値は、すでに
「K27.風速減少と気温上昇の関係」の27.2節に おいて、石廊崎の気温と隣(南熱海)の網代の気温の比較、および 周辺の樹木の繁茂による年平均風速の減少率との関係から推定した 気温上昇と一致している。

日だまり効果、石廊崎
図39.17 石廊崎とA群12地点の気温差。

石廊崎の周辺環境の変化については「写真の記録」の 「62.石廊崎測候所」を参照のこと。

石廊崎の日だまり効果(0.25℃)には都市化の影響は含まず、露場風速の 減衰によって生じた、ほぼ純粋な日だまり効果である。風速計高度における 風速減少率0.24(24%)に対して生じる日だまり効果に よる気温上昇は0.25℃である(表39.1参照)。

潮岬(和歌山県紀伊半島南端)
日だまり効果、潮岬
図39.18 潮岬とA群12地点の気温差。

潮岬の周辺環境については「写真の記録」の
「87. 潮岬測候所」を参照のこと。

飯田(長野県南部)
飯田では2002年5月27日に合同庁舎へ移転した。この移転に伴う気温の 不連続は図39.19(a)に示した。わずか0.06℃の下降であるが、 これは補正する。

気温のずれ、飯田
図39.19(a) 飯田と周辺8アメダス(諏訪、木曾福島、飯島、浪合、南信濃、 辰野、木曾平沢、原村)の気温差。

図39.19(b)は日だまり効果の見積り用の図であり、0.38℃(=0.63- 0.25)と評価される。なお、周辺環境については、「写真の記録」の
「80.長野県の旧飯田測候所」を参照の こと。

日だまり効果、飯田
図39.19(b) 飯田とA群12地点の気温差。

彦根(滋賀県琵琶湖東岸)
日だまり効果、彦根
図39.20 彦根とA群12地点の気温差。

彦根の周辺環境については「写真の記録」の
「35.彦根と木之本ほかの観測所」を参照のこと。

浜田(島根県日本海沿岸)
日だまり効果、浜田
図39.21 浜田とA群12地点の気温差。

平戸(長崎県北部の島)
日だまり効果、平戸
図39.21 平戸とA群12地点の気温差。

周辺環境については「写真の記録」の
「70. 長崎県の平戸測候所」を参照のこと。

水戸(茨城県)
図39.22に日だまり効果を見積もる図を示した。日だまり効果は上図からは 0.48℃(=0.97-0.49℃)、下図からは0.46℃(=0.69-0.23℃)、図示して いないがAB26地点との比較からは0.45℃と見積もることができる。

日だまり効果、水戸
図39.22 水戸の日だまり効果を見積る図。 上:水戸と周辺4地点の気温差、下:水戸とA群12地点の気温差。

長野(長野県北部)
長野では1917年に移転があったので、これにともなう気温の不連続を図39.23 (a)により見積もると、0.18℃(=1.81-1.63℃)の下降があった。 これを補正する(後の時代のデータがそのまま使えるように、1917年以前の 気温を0.18℃低くする)。

気温不連続1917年、長野
図39.23(a) 長野の1917年移転にともなう気温不連続を見積る図。 長野と周辺7観測所(飯田、高山、岐阜、前橋、宇都宮、熊谷、彦根) の気温差。

次の図39.23(b)は日だまり効果を見積もる図である。上図から0.55℃(=1.56 -1.01℃)、下図から0.57℃(=1.64-1.07℃)と見積ることができる。

日だまり効果、長野
図39.23(b) 長野の日だまり効果を見積る図。 上:長野と周辺5地点の気温差、下:長野とA群12地点の気温差。

周辺環境については「写真の記録」の
「34. 長野と飯山の気象観測所」を参照のこと。

39.6 B群6地点の追加

バックグラウンド温暖化量について、10~20年以上の長周期変動の傾向を みるには、12地点程度で十分であるが、これをもとに各都市の都市昇温量を 評価してみると、誤差が少し大きいことがわかった。

そこで、さらに地点数を増やすことにして、室蘭、山形、相川、洲本、宇和島、 枕崎の6地点を追加した。これらの多くは1910~20年代に創立しており、 それ以前は古くから観測が行なわれている近傍の数地点の気温データと接続 させた。接続に用いた観測所名などの詳細は表39.2にまとめて示した。 また、移転等に伴う気温の不連続は近傍の多地点との比較から見積った。

1950~1990年の頃に生じた日だまり効果は、年平均風速の減少傾向に注目し、 すでにデータ整理が終っている28地点平均、または近傍の10地点以上の平均 気温との比較から見積もった。

追加6地点の平均気温
図39.24 追加6地点(室蘭、山形、相川、洲本、宇和島、枕崎)とAB26地点の 気温差。プロットは毎年の値、青線は11年移動平均。

図39.24は追加したこれら6地点について補正がうまく行われたかどうかを 調べたものであり、はじめに選んでいたAB26地点との気温差であり、ほぼ 妥当であることがわかる。

以上によって評価した日だまり効果による年平均気温の上昇量は、本章の 最初に掲げた表39.1~2に一覧にしてまとめた。

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