K103.林内気温-新宿御苑、神宮の森、北の丸公園


著者:近藤純正・内藤玄一・近藤昌子
東京の新宿御苑と神宮の森と北の丸公園で4~5月の晴天日中、広い芝地基準点の 気温と林内の気温差を観測した。林内は見通し良好・不良で大別し、気温差を 林床の木漏れ日率の関数で表した。低木も多い自然林に近い林内は見通し不良である。 見通し良好・不良は風通しの良し悪しに対応する。木漏れ日率の大・小は樹木の疎・密に 対応し、林床の放射環境を表す。
これまでの他所の観測も含めると、見通し良好の林内での気温差は小さく-0.3~+0.3℃、 木漏れ日の少ない密な林内は-0.4℃~+0.1℃程度に対し、見通し不良の林内の多くでは +0.3℃~+1.2℃の高温であった。また、低温で雨が降った翌日の晴天日には、林外の 地温・気温の上昇は大きいが林内では冷たい貯熱効果で気温上昇は遅れ、林内の気温差 は0.3~0.5℃程度低くなる。(完成:2015年5月6日)。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2015年5月5日:素案の作成
2015年5月6日:細部に加筆


  目次
      103.1 はしがき
      103.2 観測方法
      103.3 新宿御苑
      103.4 神宮の森
      103.5 北の丸公園 
   103.6 気温差の解析  
      まとめ
      参考文献


103.1 はしがき

森林内の気温は蒸散作用によって、都市域や樹木の無い所に比べて低いというのが 研究者・専門家の常識のようだが、正しいだろうか?

この常識とは逆に、森林内が都心部よりも高温になる例がある。気象庁の東京大手 町の観測露場が森林公園内の北の丸に移転する前に、両露場で行われた比較観測 によれば、晴天日中の最高気温の差(=北の丸-大手町)の平均値は、日射量の 少ない寒候期の10~2月と梅雨期の7月を除けば、次に示すように、いずれも森林内 の北の丸が高温である。

2011年8月・・・+0.61℃
2011年9月・・・+0.41℃
2012年3月・・・+1.05℃
2012年4月・・・+1.14℃
2012年5月・・・+0.58℃
2012年6月・・・+0.91℃

ただし、この最高気温差は日照率>90%の日についての値である(「研究の指針」 の「K54.日だまり効果と気温:東京新露場」)。

ここでは晴天日の正午前後について考える。強風など特殊条件を除けば、植物の 葉面は気温より高温になる。葉面と細い枝は熱容量が小さく貯熱量が少なく、 日射エネルギーの大部分は、ほとんど時間遅れなく、葉面からの長波放射と顕熱と 潜熱に配分され、そのうち顕熱は大気を直接加熱する。

顕熱と潜熱に分配される割合(ボーエン比=顕熱÷潜熱)は気温に依存する。 これをボーエン比の気温依存性という(「水環境の気象学」の6.4節を参照)。 気温の高い夏期には、ボーエン比が小さく(顕熱の割合が小さく)、大気加熱への 寄与は小さくなるが葉面は大気を加熱し冷却するわけではない。

林内の木漏れ日は林外における全天日射量よりもエネルギー量は小さいが、風が 弱いため熱拡散が小さく、林内には熱エネルギーがたまり気温は林外より高くなり 易い。

冷たい雨が降った翌日の晴天日、林外では強い日射によって地温・気温は上昇する。 しかし日射量の少ない林内では地温・気温の上昇は時間的に遅れ、林外に比べて 相対的に低温に保たれることがある。

長波放射量(赤外放射量)について比較すると、林床では樹冠層からの大きな長波 放射量がある。林外では下向き大気放射量が地表面からの上向き長波放射量に比べ て小さく、正味長波放射量はマイナス100W/m2前後であるのに対し、 林内ではゼロに近い。この長波放射の役割も日中の林内気温を上げる効果がある。 林内の高温は「日だまり効果」の典型的な例である。

以上をまとめると、林床上の気温を支配する主な要因は、
(1)木漏れ日率:林床における放射量
(2)林内の見通し:通風・熱拡散の良し悪し
(3)林内の地中と太い樹幹の貯熱効果:前日の冷雨の有無
(4)気温: 顕熱による加熱効果の気温依存性(ボーエン比の気温依存性)

これら4要因の兼ね合いによって林内・外の気温差の大きさが決る。その他、森林の 広さや一般風の風速も関係する。ここでは概略100m平方から500m平方の森林を対象 とする。現実の観測では、一般風の強弱幅は小さく、気温差の風速依存性は観測から は見出しにくいので、理論的考察やモデル計算も行なうことになる。

注意:地表面の種類の効果、日陰の効果
林外が加熱されたアスファルト舗装面のような場合、林内に入ると気温は低下する。 これは森林の効果によるとはせず、地表面の種類による地上気温の違いと考えるべき である。また、木陰が涼しいのは日陰の効果であり、森林の蒸散効果としないほう がよい。こうした科学的考察の基本を忘れていると、「森林は蒸散によって大気を 冷却する」というような不正確な常識を生むことになる。

シリーズ研究「森林内の気温」の研究目的
(A)気象観測所の観測環境の維持管理上の基礎知識
観測露場の環境変化が気象観測値にどのような影響を及ぼすかを明らかにし、正しい 気象情報を提供することに役立てる。

(B)都市のヒートアイランド対策
都市気候に及ぼす森林の影響をより詳細に解明し、快適な都市設計の参考資料に する。

(C)大気拡散など諸問題の基礎知識
林内の気温は、林内の風速・乱流状態に依存する。風速・乱流状態の観測は気温に 比べて桁違いに手間がかかる。そのために、気温の振舞いから森林の諸要素を知る ことに役立てる。

具体例として後で示されるように、風通しのよい林内の気温は林外気温とほとんど 同じである。気温を拡散物質に置き換えれば、林外からほぼそのまま林内 に流入することに相当する。この場合、通常ならば林内の拡散特徴を知るために 水平規模100m範囲について手間のかかる風速・乱流観測を行なう、あるいは モデル化の場合には葉面積指数など森林の幾何学的パラメータを測らねばならぬが、 それらは林内の1地点の気温観測で代用できるという簡便さがある。

要するに、林内外の気温差の振舞いを知れば、諸問題への応用範囲が広くなる。


連想される類似な現象
伊豆半島の石廊崎の風速が1965年ころからしだいに弱くなっていた。周辺に人家など 無く、この原因が不明であった。調べてみると、日本の燃料革命により、家庭 燃料が薪炭から灯油になり、気象観測所周辺の樹木が伐採されなくなり、樹木の 成長によって風速が弱化したものであった。
また、風速は1966年に7%減少し、2001年に7%ほど増加していた。これも調べて みると、20mほど離れた場所に無線鉄塔の建設と撤去によるものであった (「K24.伊豆石廊崎の樹木生長と気温上昇」を参照)。
日本の多くの気象台の風速はだんだん弱くなってきている。これは周辺に ビルが増えたことによる。こうした社会の変化が風速の変化として 現れている。社会科学的調査に比べれば、風向別の風速データの解析はとても簡単 であり、気象観測は社会科学の調査の道具として活用できる。


林内の木漏れ日率:
本来は、林床の日射量が林外の何%であるかを測定すべきであるが、今回は、木漏れ 日率として、観測点の周囲20~30m範囲内を目視する。移動観測中に目視される 木漏れ日率の平均値を示す。林内には、一般に低木などが生えているので、林床面上 の高度1m以下の範囲を見たとき「強い直射光」が当たっている面積の割合(%)を 「木漏れ日率」と定義する。

林内の見通し:
目の高さ≒通風筒吸気口の地上高=1.5mで林内を水平に見たときの見通し距離。 林内外の気温差は林床の放射環境「木漏れ日率」と見通しの兼ね合いに依存する。 風通しの良し悪しは、目視によって周辺がよく見えるかどうかで決まる。見通しは 写真によって示す。本章では、「見通し良好」と「見通し不良」の2つに大別する。

高木の中に低木・雑草が生えていれば、見通し不良である。また、全体の樹高が 低く、例えば3~6m程度の低木が多ければ、高度1.5mは樹冠層(葉面層)で あり、太陽光で熱せられて高温になっている( 「K83.気温観測に及ぼす樹木の加熱効果ー実測」)。

気温差の定義:
林内と広場基準点の平均気温の差は、

 気温差=林内気温-広場基準点の気温

によって定義する。広場基準点の気温とは、周囲が開けて空間広さが広い芝地上の 気温である。気象台の露場も広場基準点として用いる。気温差がプラスのときは 林内が高温、マイナスのときは林内が低温である。

気温の時間変動幅(標準偏差)が広場基準点と試験地点でほぼ同じ場合、寒暖の 度合いは最高気温の差で表してもよいが、一般に林内の気温変動幅は直射光の強い 広場基準点より小さく、最高気温で寒暖の度合いを比較するのは不適当である。 それゆえ、ここでは平均気温の差について比較する。

森林公園内では、常緑樹林と落葉樹林で観測したが、気温差は前記の要因で決り、 常緑・落葉の二つの樹林帯と対応させるものではない。気温差の解析では、 見通し良好・不良に大別し、木漏れ日率の関数として表される。

本章は、気温計を持参して東京都内の森林公園を歩いて下見し、それをまとめたもの である。


103.2 観測方法

高精度の強制通風式気温計を用いる。この気温計の総合的誤差(通風筒に及ぼす放射 影響を含む)は0.03℃程度である(「K92. 省電力通風筒」「K100. 気温観測用の次世代通風筒」)。

観測は原則として快晴日または直射の強い薄曇りの日に行なうこととし、1日の最高 気温が現れやすい時間帯の11時~14時までの3時間、または11時~15時までの4時間 とする。ただし、風向などの条件によって0.5時間ずらすこともあり、雲が現れる ときは2時間の観測となることもある。気温のサンプリングは20秒ごとに行ない、 3~4時間の平均気温をもとめる。センサーはPt1000オーム、受感部の直径は2.3mm を用いている。

通風式気温計は伸縮棒(長さ0.85m~2m)の上端に取り付ける。移動観測中の休憩 時には三脚に載せて気温は継続して自動記録する。通風筒の吸気口の地表面からの 高さは1.5mとする。気温計のうちの1台は広い芝地の基準点で、他は林内で観測する。 森林内に分布する樹木の密度は不均一で気温は場所によって異なるので、平均化する ために林内では移動観測を基本とする。

特殊な観測所を除けば、一般に気象台で観測される気温は周辺数km~10km程度 を代表する。また、本研究で行なう広い芝地の基準点も同様に周辺を代表していると 見なされる。

東京の気象観測露場が北の丸公園に移転する前の2011年~2014年の4~5月の晴天日 (日照時間>10時間)について、大手町と横浜の最高・最低気温を比較し、 図103.1に示した。プロットのばらつきはあるが、晴天日の最高・最低気温の差の 平均値は横浜が0.1℃(最高気温)または0.6℃(最低気温)低く、相関係数は それぞれ0.97と0.98でよく対応している。したがって、対象とする森林の近傍 (数100m以内)に広い芝地がない場合は、横浜地方気象台の観測値を基準とする。

大手町横浜の気温比較
図103.1 旧大手町露場と横浜露場で観測された気温の比較、2011年~2014年の4年間 の4~5月の晴天日。
 上:最高気温
 下:最低気温

注1:大手町の気温と横浜の気温の関係を表した図103.1のプロットに最小自乗法で 近似線を引けば、破線よりも傾斜が小さくなり、両者の差は温度の関数となり複雑 になる。 本章で、破線の関係を使う目的は、個々の日についてではなく、多数日について 大手町と横浜の気温差が平均値としていくらになるかに利用する。そのために平均値が 一致するように描いた線が破線である。

今回観測した新宿御苑、神宮の森、北の丸公園では、それぞれに広い芝地の基準点が あり、横浜の観測値は利用しなくてよかったが、今後の観測の場合、他の公園に広場基準点 がないとき利用できることをこれら3公園の広場基準点の観測で確かめた。

すなわち、後掲の表103.2に示すように、横浜と広場基準点の平均値は、横浜が0.1℃ほど 低温であり、広場基準点の気温が都心部を代表していることになる。


103.3 新宿御苑

JR山手線内側、代々木駅の東に新宿御苑がある(図103.2)。きれいに手入れされ た芝地が北西から南東方向に延び、イギリス風景式庭園の空間広さ<1/tanα> =7.7である。ただし、αは観測点から見た周辺地物・樹木の仰角である (「K57. 森林内の開放空間の風速」を参照)。 この中央部を気温観測の広場基準点とする。

新宿御苑の地図
図103.2 新宿御苑の地図(新宿御苑の案内地図をもとに作成、単純化)。
イギリス風景式庭園:芝地中央を広場基準点とする
常緑樹林:見通しはやや良好
落葉樹林(母と子の森):低木などが生えており見通しはやや不良

イギリス風景式庭園
図103.3 新宿御苑内のイギリス風景式庭園(2015年4月6日撮影)。

新宿御苑の常緑樹林
図103.4 新宿御苑内の常緑樹林、見通し良好(2015年4月12日撮影)。

新宿御苑の母と子の森
図103.5 新宿御苑内の落葉樹林(母と子の森)、見通し不良(2015年4月16日撮影)。

快晴日の2015年4月12日と16日に下見の準備観測をした。芝地の基準点における 平均気温は15.88℃(12日)、19.70℃(16日)である。
「見通し良好」な常緑樹林では、
12日・・・・15.66℃、気温差は-0.22℃(林内が低温)
16日・・・・19.77℃、気温差は+0.07℃(林内がわずか高温)

16日に比べて12日の気温差が0.29℃低いのは(=-0.22℃-0.07℃)、前日が低温 の雨日であり、地中と太い樹幹による貯熱効果によると思われる。すなわち、低温雨日 の翌日が晴天になると、林外の地温・気温は急上昇するが、林内は日射量が弱く時間 遅れで地温・気温が上昇する。その結果、平常日に比べて相対的に気温差(林内-林外) が小さくなる。

「見通しやや不良」の落葉樹林(母と子の森)では、木漏れ日率が大きい(50%)こと もあり、
16日・・・・20.42℃、気温差は+0.72℃(林内が高温)

日だまり効果が顕著に現れている。

注2:新宿御苑で観測した2つの範囲は常緑樹林と落葉樹林であった。この常緑 樹林は見通し良好、落葉樹林は見通し不良であった。しかし、一般には常緑・落葉が 見通し良好・不良に対応するわけではない。


103.4 神宮の森

JR山手線の原宿駅の北西側に神宮の森がある。その南西部分は代々木公園である。 代々木公園は樹幹層~林床は見通し良好に対し(図103.7)、神宮の森は低木も 生い茂り見通し不良である(図103.8)。中央広場の空間広さは5.8であり、ここを広場 基準点とする(図103.9)。代々木公園は、通路以外の地表面は芝地である。

神宮の森の地図
図103.6 神宮の森の地図(Google マップに加筆)。
東北部分:神宮の森(緑線上を移動観測、池の北側は明治神宮御苑内の観測コース)
西南部分:代々木公園(中央広場を広場基準点とする)

中央広場東の落葉樹林
図103.7 代々木公園中央広場の東側、落葉樹林、見通し良好(2015年4月19日撮影)

神宮の森の写真
図103.8 神宮の森、見通し不良。
左:社務所の北、右:神宮御苑(2015年4月18日撮影)。

中央広場
図103.9 代々木公園の中央広場、西から東方向を撮影(2015年4月19日)。

下見をかねた予備観測は2015年4月18日と28日に行なった。18日はやや強風の日で あった。中央広場の基準点の気温は17.14℃(18日)、25.63℃(28日)であった。

18日(11-14時の北の丸の高度35.1mの風速=7.2m/s)
見通し良好の落葉樹林内は17.06℃、気温差=-0.08℃・・・・・・木漏れ日率=50%
見通し不良の神宮の森内は17.05℃、気温差=-0.09℃・・・・・・木漏れ日率=15%

28日(11-14時の北の丸の高度35.1mの風速=4.3m/s)
見通し良好の落葉樹林内は25.53℃、気温差=-0.10℃・・・・・・木漏れ日率=23%
見通し不良の神宮の森内は25.33℃、気温差=-0.30℃・・・・・・木漏れ日率=15%

強風の18日の気温差は両森林においてほぼ同じ-0.1℃程度であり、見通しが やや不良の神宮の森における28日の気温差は-0.3℃程度である。


103.5 北の丸公園

観測は2015年5月1日と2日に行なった。

北の丸地図
図103.10 北の丸公園の地図(Google マップに加筆)。観測は緑線で囲む範囲内 で行なった。観測地点の記号(吉田茂N、露場N25、・・・・)は103.7節「気温差の解析」 の表103.1の森林名に対応する。

北の丸の広場基準点
図103.11 北の丸公園の芝地の広場基準点、北西から南東方向を撮影(2015年5月1日)。

北の丸露場南東40m
図103.12 北の丸露場の南東側40m、見通しやや不良(地図上の記号:露場S40) (2015年5月1日撮影)。中央遠方に露場が見える。

北の丸露場北西25m
図103.13 北の丸露場の北西側25m、見通し不良(地図上の記号:露場N25)、 露場側から北西方向を撮影(2015年5月1日)。

北の丸露場北西側落葉樹林
図103.14 北の丸露場の北西側の落葉樹林、見通し良好(地図上の記号:露場W落葉) (2015年5月2日撮影)。

吉田茂像北西
図103.15 吉田茂銅像の北西側の桜林、見通しやや不良(地図上の記号:吉田茂N) (2015年5月2日撮影)。

露場下の南東側
図103.16 露場下の南東側(2015年5月2日撮影)。

5月1日の11~14時の3時間の観測結果
広場基準点の気温:24.23℃
露場南東側の気温:24.65℃(+0.42℃)・・・・・・木漏れ日率=50%、見通しやや不良
露場北西側の気温:25.02℃(+0.79℃)・・・・・・木漏れ日率=50%、見通し不良
気象庁の露場気温:25.22℃-0.3℃=24.92℃(+0.69℃)・・開空間

備考:-0.3℃は気象庁の通風筒に及ぼす放射影響が高めに観測される補正量である (「研究の指針」の「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研 09S型)」を参照)。

5月2日の11~15時の4時間の観測結果
広場基準点の気温:25.20℃
露場西側落葉樹林:25.35℃(+0.15℃)・・・・・・木漏れ日率=50%、見通し良好
吉田茂像の北西側:25.71℃(+0.51℃)・・・・・・木漏れ日率=70%、見通しやや不良
露場下すぐ南東側:25.90℃(+0.70℃)・・・・・・開空間
気象庁の露場気温:26.23℃-0.3℃=25.93℃(+0.73℃)・・開空間

露場下すぐ南東側の気温25.90℃と露場の気温25.93℃は、誤差0.03℃の範囲内で一致して いる。つまり、日中の開空間の気温は鉛直方向によく混合されており、土盛りされた露場の 地上1.5m高度の気温と土盛り下の地上1.5mの気温に明らかな差がないことがわかった。


103.6 気温差の解析

東京都心部の3つの公園(新宿御苑、神宮の森、北の丸公園)で気温を観測し、広場基準点との 気温差をもとめた。前報告「K101.森林内の気温―北の丸公園と自然 教育園」「K102.森林内の気温―湘南海岸公園と平塚市総合 公園」、その他も含めて観測一覧を表103.1にまとめた。これらは3~5月のおもに快晴日 の観測である。

なお、気象庁の気温観測用の通風筒に及ぼす放射影響について、日中の誤差は0.3~0.4℃高め に観測されるので(「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研 09S型」)、正午前後は平均として観測値から0.3℃低い気温を真値として補正し、 表の「広場補正」の列に示してある。

表103.1 広場基準点の気温と林内の気温の一覧表、晴天条件
 自然園:自然教育園(港区白金台)
  開の北:自然教育園の開空間(旧庁舎跡地)の北20mの林内
 海公園:湘南海岸公園の芝地中央
 海公園W:湘南海岸公園の芝地中央のやや西寄り
 総合公園:平塚市総合公園
  西池東:平塚市総合公園内西池の北東側の林内
 イギリス:イギリス風景式庭園(芝地)
 代々木落:代々木公園の落葉樹林
 洞峯-明:つくば市洞峯公園の樹木密度が小さい明るい場所
 洞峯-暗:つくば市洞峯公園の樹木密度が大きいやや暗い場所
 池の北芝:北の丸公園内の池の北側の広い芝地
 空間広さ:広場の空間広さ=<1/tanα>=<X/h>、h:樹高など地物の高さ、X:地物までの距離
 誤差:気象庁の通風筒に及ぼす晴天日中の放射影響
 気温差(℃):林内の気温-広場基準点の気温
  広場補正(℃):気象庁観測所の気温は晴天日中に0.3℃高めであることを補正した気温差
 
番号 月日 観測地   広場    森林名  樹高  時  刻  空間 木漏  広場     広場  林内 気温差   備考
                                広さ 日率  気温 誤差  補正  気温 林-広
                                      m                    %    ℃   ℃   ℃    ℃    ℃
2012年
S1 4/5  自然園    大手町   開空間   14 11:10-13:50  3.4  90  18.55  0.3  18.25 19.29 +1.04
S2  4/8  自然園    大手町  開空間   14  11:00-15:00  3.4  90  12.34  0.3  12.04 13.23 +1.19
S3 4/5  自然園    大手町   開の北   14  11:10-13:50  3.4  30  18.55  0.3  18.25 18.50 +0.25
S4  4/8  自然園    大手町   開の北   14 11:00-15:00 3.4 30 12.34  0.3  12.04 12.63 +0.59
2015年
H1  3/30 平塚     海公園  防砂林   12  11:30-14:30 17.4  40  16.96  0.0  16.96 17.70 +0.74
H2  3/31 平塚     海公園  防砂林   12  11:00-14:00 17.4  40  18.05  0.0  18.05 19.16 +1.11
H3  4/2  平塚     総合公園 西池東   14  12:30-14:30  4.7  20  13.44  0.0  13.44 13.73 +0.29
H4  4/9  平塚    海岸公園 防砂林   12  11:00-14:00 17.4  40  10.40  0.0  10.40 10.84 +0.44 前日冷雨
G1  4/12 新宿御苑 イギリス  W区常緑 20  11:00-14:00  7.7  15  15.88  0.0  15.88 15.66 -0.22 前日冷雨
G2  4/16 新宿御苑 イギリス  W区常緑 20  11:00-13:30  7.7  15  19.70  0.0  19.70 19.77 +0.07
G3  4/16 新宿御苑 イギリス  落葉樹林 20  11:00-13:30  7.7  50  19.70  0.0  19.70 20.42 +0.72
J1  4/18 神宮の森 中央広場  代々木落 15  11:00-14:00  5.8  50  17.14  0.0  17.14 17.06 -0.08 強風
J2  4/18 神宮の森 中央広場  神宮の森 25  11:00-14:00  5.8  15  17.14  0.0  17.14 17.05 -0.09 強風
T1  4/26 つくば  館野   洞峯-明 18  11:00-15:00  6.3  70  22.35  0.3  22.05 21.74 -0.31
T2  4/26 つくば  館野   洞峯-暗 18  11:00-15:00  6.3  10  22.35  0.3  22.05 21.64 -0.41
J3  4/28 神宮の森 中央広場  代々木落 15  11:00-15:00  5.8  23  25.63  0.0  25.63 25.53 -0.10 薄曇
J4  4/28 神宮の森 中央広場  神宮の森 25  11:00-14:00  5.8  15  25.63  0.0  25.63 25.33 -0.30 薄曇
K1  5/1  北の丸  池の北芝  露場S40 16  11:00-14:00  3.5  50  24.23  0.0  24.23 24.65 +0.42
K2  5/1  北の丸  池の北芝  露場N25 16  11:00-14:00  3.5  50  24.23  0.0  24.23 25.02 +0.79
K3  5/2  北の丸  池の北芝  露場W落 16  11:00-15:00  3.5  50  25.20  0.0  25.20 25.35 +0.15
K4  5/2  北の丸  池の北芝  吉田茂N  8  11:00-15:00  3.5  70  25.20  0.0  25.20 25.71 +0.51
K5  5/2  北の丸  池の北芝  露場下S 10  11:00-15:00  3.5  95  25.20  0.0 25.20 25.90 +0.70
H5  5/3  平塚   海公園W  防砂林   12 11:00-15:00 15.0  40  21.44  0.0  21.44 22.44 +1.00


はしがきで述べたように、東京都心部を代表する気温は旧大手町露場で観測されていたが、 現在は観測されておらず、その代わりに横浜地方気象台における観測値で代用できる (図103.1)。 次の表103.2は横浜地方気象台の露場で観測された平均気温が東京都心部を近似的に 代表することを確かめたものである。

J3(4月28日)は薄曇の日であり、東京に比べて横浜の薄雲は厚く、日射量に地域差 が生じた日である。したがって、この4月28日を除く他の5日間の気温差(横浜-広場基準点) を平均すると-0.13℃となる(横浜が低温)。前掲の図103.1の上図に示したように 、4~5月晴天日の横浜の最高気温は大手町に比べて平均0.1℃の低温である。このことから、 東京都心部の新宿御苑、代々木公園、北の丸公園の広場基準点の気温は都心部を代表して いると見なしてよいだろう。


表103.2 都心部の広場基準点の平均気温と横浜地方気象台における平均気温との比較
 広場気温:都心部公園の広い芝地の広場基準点の気温
 誤差:気象庁の通風筒に及ぼす晴天日中の放射影響
 気温差:横浜の気温―広場基準点の気温

番号 月日 観測地   広場      時  刻  空間   広場  横浜     横浜       備考
                      広さ   気温  気温 誤差  補正  気温差
                                                ℃   ℃   ℃    ℃    ℃
G1  4/12 新宿御苑 イギリス  11:00-14:00  7.7   15.88 16.06  0.3  15.76 -0.12  前日冷雨
G2  4/16 新宿御苑 イギリス  11:00-13:30  7.7   19.70 19.94  0.3  19.64 -0.06 
J1  4/18 神宮の森 中央広場  11:00-14:00  5.8   17.14 17.11  0.3  16.81 -0.33  強風
J3  4/28 神宮の森 中央広場  11:00-15:00  5.8   25.63 24.22  0.3  23.92 -1.71  薄曇
K1  5/1 北の丸  池の北芝  11:00-14:00  3.5   24.23 24.28  0.3  23.98 -0.25 
K3  5/2 北の丸  池の北芝  11:00-15:00  3.5   25.20 25.59 0.3  25.29 +0.09 

J3(横浜が厚い薄雲)を除く5日間の平均気温差               -0.13


図103.17は気温差を木漏れ日率の関数として表したもので、縦軸のプラスは林内が高温、 マイナスは低温である。記号は見通しの良好な林内と不良な林内に大別してある。

樹幹層の見通しが良好、 つまり風通しのよい林内での気温差は小さく-0.3~+0.3℃、木漏れ日の少ない密な林内 は-0.4℃~+0.1℃程度の範囲に分布している。他方、風通しの悪い低木もある自然林に 近い林内の多くでは+0.3℃~+1.2℃の高温である。

また、低温で雨が降った翌日の晴天日には(塗つぶし印)、林外の地温・気温の上昇は 大きいが林内では冷たい貯熱効果で気温上昇は遅れ、林内の気温差は通常に比べて 0.3~0.5℃程度低くなることがわかる。

図中の赤破線は、「見通し不良」の森林についての関係であり、今後、観測値が増えると 変わる可能性のある暫定曲線である。

木漏れ日率と気温差の関係
図103.17 木漏れ日率と気温差の関係。塗つぶし印は冷雨の翌日の気温差を示す。


まとめ

(1)広場基準点に対する林内の気温差は-0.41℃~+1.19℃の範囲に分布し、プラス (森林内が高温)の例が多くなっている(図103.17)。

(2)見通しのよい林内、つまり低木も無く樹幹層の葉面積がほとんど無い林内の気温差 は-0.4℃~+0.3℃の範囲内にある。

(3)見通しの悪い林、つまり低木も多い自然に近い林内(湘南海岸公園南隣の防砂林、 新宿御苑の母と子の森)では、気温差は+0.4~+1.1℃である。とくに木漏れ日率が 90%以上の開空間(S1, S2)では気温差は+1.1~+1.2℃程度である。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―.朝倉書店、pp.350.

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