グローバル・ヒーティングの黙示録

第一章 歴史と未来

 

第一章 歴史と未来

生命の誕生と炭素循環の変遷

皆様ご存知のとおり、太陽系において水が液体にとどまることができるゴルディロックス帯を地球が周回せず、地球上に生命の 骨格となる炭素がなかったら生命は誕生しなかったでしょう。まして我々の存在はなかったわけです。原始の地球は二酸化炭素と窒素の大気に覆われていまし た。また酸素と水素の化合物である水はタップリとあり、海を形づくっていました。この海の中で摩訶不思議な化学反応の結果、炭素、酸素、水素、窒素 、硫黄、リン(化学的に似た砒素をDNAの構成要素に代用する微生物もいるようだが)を構成元素とし、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、 塩素などを代謝する生命が誕生しました。

宇宙が誕生したビッグバンは150億年前です。 地球はウラン238の半減期に相当する45.5億年くらい昔誕生したとされています。ウラニウムが崩壊してラジウムになり、これが更に崩壊して鉛にな りますからウラン/鉛比を隕石のそれと比較して年齢がわかるのです。この地球上に20億6,000万円前-24億5,000万年前、たまたま炭素、窒 素、水素から構成される4つのピロール環が連結されたポルフィリン環の中にマグネシウムあるいは亜鉛が配位した錯体構造を持つ色素分子ができました。太陽 光を利用して光合成ができる機能を生物が獲得した瞬間です。色素分子をもつバクテリアが水を分解して酸素を大気に放出するシアノバクテリアに進化し、これ を葉緑体として共生した藻類がやがて植物に進化して大気中の二酸化炭素をブドウ糖に変換し、大気には藻類の排泄物だった酸素が溜まるようになったのです。

溜まった酸素は他の物質を酸化させます。この酸素を利用するように進化した生物はポルフィリン環に鉄や銅を配位した錯体構造を持つヘム分子の能力を使い、 藻類や植物が溜め込んだ有機物を酸化させて自身が生きるためのエネルギー通貨、アデノシン三リン酸(ATP)を得るようになります。我々の体細胞に共生し ているミトコンドリアがATP製造の役目を果たしております。こうして酸素の生産と消費が動的にバランスして大気中の酸素濃度が化学平衡ではありえない 21%という濃度を維持しています。

さて死んだ藻類やプランクトンの一部は酸素の無い場所に埋まると酸化されずに地中に残ります。これが主として炭素と水素そして少量の窒素と硫黄からなる石 炭、石油、天然ガスなどの 炭化水素燃料になったと言われています。トーマス・ゴールドはこれにたいし無機成因説を提示しております。生命が誕生する前、地 球がC1コンドライトと いう太陽系のチリから形成されたときにマントルに閉じ込められた炭素、あるいはマントルに太陽系のチリと同程度含まれているウランやトリウムが 放射性崩壊をして鉛になる過程においてトンネル効果で極々まれに放出される微量の炭素などが深いところからにじみでてきて炭化水素になったという説です。 そういう意味で化石燃料とよぶことは誤解をあたえますのでここでは炭化水素と呼びます。またウランやトリウムの放射性崩壊時に発生する熱や核におけるカリウム40の崩壊 によってマントルが暖められて対流し、超大陸が生成したり分裂してきました。そして超大陸の分裂の時にはリンやカルシウムが海水に溶出する量 が増えます。海水中のカルシウムイオンが増えれば、二酸化炭素が海洋に隔離されます。火山活動が活発になれば二酸化炭素が放出されます。

光合成・光化学反応や岩石中のカルシウムのおかげで大気中に多量にあった二酸化炭素は固定され、排出物であった酸素が増えます。ウォーカー、ヘイズ、カス ティングが1981年の論文で指摘した大陸の生成分裂に伴う珪酸塩を含む花崗岩の風化が生命によらない地球の無機的な炭素固定作用としています。大陸地殻 は花崗岩や流紋岩な どを多く含み、二酸化炭素固定の原料を供給します。

CaSiO3 + CO2 → CaCO3 + SiO2

イェール大学のロバート・バーナー(Berner)らは数学モデルを使って過去の大気中の二酸化炭素を算定し「顕世代の炭素循環」という論文を書きま した。(The Phanerozoic Carbon Cycle, 2004) このモデルは3つの変数を使って大気中の二酸化炭素濃度を計算しております。第一の変数は陸の面積と気温から陸の岩石の風化による二酸化炭素の固定速度で す。第二の変数は海底の拡大速度から火山から放出される二酸化炭素放出速度です。そして第三の変数は海洋中の炭酸塩と重炭酸塩の平衡です。このモデルは研 究者3名にちなんでBLAGモデルと呼ばれています。BLAGモデルに生物の影響も加えて改良したものはGEOCARB モデルとよばれています。このモデルによると6億年前以降、図-1.1バーナー・グラフのように二酸化炭素濃度は大局的には減少傾向を示しつつ時 々大きく振れてまいりました。(ピーター・ D・ウォード「地球生命は自滅するのか? ガイア仮説からメディア仮説へ」)

図-1.1 バーナー・グラフ

5億8,000万年前のガスキアス氷河期以降エディアカラ生物群が発生し、5億4,200万年前以降か らカンブリア爆発と いう多様なデザインの生物が発生しています。この爆発の原因としてパーカーが提唱した有眼生物の誕生にあるとする「光スイッチ説」、ゴンドワナ超大陸の分 裂時に増えたリンが殻や骨格を必要とする多細胞生物の出現を可能にしたという説などがあります。

4億年前に急激に減少しましたのは維管束植物の出現によるとされています。こうして3億年前に190-280ppmレベルまで下がりましたが、2.5億年 前のペルム期 のパンゲア大陸が 完 成するとパンゲア周辺の海溝で沈み込んだマントルが千切れてメガリス(Mega-lithosphere)となって地球の核まで沈み込み核を冷却して液体 鉄の対流に変動が生じ、地磁気が弱くなったり、磁極が反転しました。そう すると宇宙線が地表に達するようになり、雲が多量に生じ、地球は寒冷化しました。これをスヴェンスマルク仮説といいます。このとき第一回目の恐竜の絶滅と なりました。ペルム期の磁極の逆転は当時海底で生成した頁岩に記録され、プレートで運ばれて、パンゲア超大陸岸辺であった九州南部の岩盤に付加体となって おり現在は隆起して露出しています。

一方、核まで沈み込んだメガリスは熱せられてスーパープリュームとなって、パンゲアの中心部(現在のシベリア中心部から 北米大陸に相当)に噴出し、厚い シベリア洪水玄武岩からなる溶岩台地を形成しました。このとき一緒に噴出した二酸化炭素は3,000ppmに達し、超ペルム期の大絶滅を引き起こしまし た。 温暖化でメタンハイドレートが融 け、当時30%に達した酸素濃度が10%まで下がりました。低酸素に対応するために胎生の哺乳類が進化しました。中国にある古生代ペルム紀 (Permian)と中生代三畳紀(Triassic)の境目P/T境界からは酸素のあると ころでは形成されないベルチェリン(蛇紋石類似のFe層状珪酸塩鉱物)という鉱物が見つかっています。

その後、二酸化炭素濃度は再度下がって1.5億年前に2,000ppmまで戻しまし た。白亜紀は比較的温暖でしたが、5000万年前のユカタン半島への巨大隕 石の衝突で、寒冷化し、2回目の恐竜が絶滅しました。大絶滅の原因は 隕石の衝突、火山の噴火とするほかに寒冷化で海面が下がったために大陸棚のメタンハイドレートがとけでフィードバックがかかったとする説もあります。これ をK/T境界といいます。この衝突で出来たと思われるナノダイヤが見つかっております。

その後も比較的温暖でしたが200万年前に氷河期にはいりました。 ヒマラヤの造山運動のために二酸化炭素が着実に減少したためとされています。さいわいなことに今は10万年サイクルの温暖な間氷河期にあります。この温暖 な間氷期は過去の記録をみれば1万年しか継続しません。すでに1.1万年経過していますからいつ氷河期にはいってもおかしくありません。この揺らぎは後で 詳しく論じます。

このように二酸化炭素と宇宙線による雲発生というスヴェンスマルク仮説により過去の生物の盛衰を説明できます。

産業革命後、炭化水素燃料の利用という人為的な原因で現在380ppmに増え、更に1,000ppmに向かって上昇中で す。これが温暖化させているという 説がありますが、8,000-6,000年まえの縄文海進もあり、一概に化石燃料からの二酸化炭素が原因ともいえません。長期的には地球は地球生 命の活動により二酸化炭素を地殻に取り込む傾向があり、最終的には5億年後には樹木などのC3植物(光合成の代謝経路で二酸化炭素 をうけとる化合物が炭素鎖3個のカルビン - ベンソン回路しか持たない植物)が光合成できる150ppm以下になると予想されます。

10億年後にはより効率的な光合成を行うトウモロコシなどC4植物(カルビン - ベンソン回路に加えCO2濃縮のためのC4経路を持つ)が光合成を継続できる15ppmまで下がるだろうと予想されております。そうすれば殆どの生物は絶 滅の危機に瀕します。全ての光合成植物が絶滅すれば大気中の酸素は1%にまで下がります。

さて以上は大気中の二酸化炭素量について語ったわけで気温についてではありません。昔の気温は南極のボストーク基地で得られた氷床コアや海底のコアサンプルを採取し、氷や底生有孔虫などの酸素同位体比から推定するの です。氷床コアは42万年より古い層はありません。その原理は18O原子を含む水 の方が、16O原子を含む水分子よりもわずかに凍りやすく、また、水が赤道付近で蒸発され、極周辺へと大気輸送される際に、レイ リー分別効果の影響も受けるため、南極や北極などで蓄積されている過去の氷の酸素原子の同位体比には、当時の気候が反映されており、その測定により過去の 気候変動を解析することができるからです。

気温と大気中の二酸化炭素濃度の関係については後ほど詳しく論じます。いずれにせよ気温は周期的に変動していることは確かです。ただ気候が変動するといっ てなにも気をもむことはないのです。どの種もその種として存在できる期間は400万年と言われています。人類誕生後20万年とすれば残りは380万年しか ないのです。地球はその後も地球が巨星となった太陽に飲み込まれる50億年後まで存在を続けるでしょう。

さて二酸化炭素が次第に岩石に固定されるように、水も次第にマントルに取り込まれて10億年後には海洋は消滅す るだろうと予測されています。

50億年後に地球が太陽に飲み込まれる前に生命は地球上で滅びる可能性が高いのです。究極的には大気中の二酸化炭素濃度はさがり、海は消滅し、生命を維持 できなくなります。しかしそれは10億年先の話です。

我々が今炭化水素燃料を燃して二酸化炭素濃度が短期的に増すとグリーンハウス効果により温暖化が生じるという説がIPCCにより政治的に喧伝されていま す。しかし後に詳しく解説しますように 二酸化炭素の濃度変化は温暖化の原因にはならないようです。むしろ大気中の炭素量は生物の絶滅時に増えるとみなせるようです。気候変動は二酸化炭素以外の 自然変動によるものと考えたほうが良いでしょう。

過去の生物の大量絶滅の割合は下表の通りとなります。

地質学的時代区分

Trillion Years

絶滅量(%)
オルドビス期末 0.44 85
デボン期後期 0.37 82
ペルム期末 0.25 96
三畳期末 0.2 76
白亜期末 0.065 76

表-1.1 生物の大量絶滅

 

ホモサピエンスの出現

20万年前の第2間氷期にアフリカでホモサピエンス が出現し地球上に拡散しました。その後の15万年前のリス氷期にネアンデルタール人が絶滅し、現在に 至っております。

 

農業の発明と人口増

さて氷河期と間氷期を繰り返す環境でを狩と採集などで生きぬいてきた人類は1万年前のビュルム氷河期が終わり第4間氷期にはいってから農業と畜産を発明し ました。草原にはじまり次いで森林を伐採して農地と牧場を拡大させ、安定した食料を確保して人口は増加しはじめました。

1798年にマルサスは人口論で「人口は等比級数的に増加し、食料生産量は等差的に増加する」と予言しましたが1838年にベルギーの数学者ピエール・ ヴェルハルストは生物の増殖速度は生物の個体数に比例し、環境の収容能力に近づくと増殖は減速し、ついに成長はゼロになることを簡単な差分式で表記しまし た。これはロジスティック・ モデルと呼ばれています。

ロジスティック・モデルを差分式で書くと

Nt+1=Nt + r0 Nt (1-Nt/K)

となります。Ntはt年度の人口、r0は増加率、Kは環境の収容能力です。Kが無限大ですとこの式はマルサ スのいうネズミ算の式になります。

1972年にローマクラブが作成した報告書「成長の限界」が使った方程式でもあります。農業と畜産の発明により環境が人間に与えてくれる食料という有限の 資源が増えますと、人類の人口はその収容能力に見合った分だけ増えることになります。

全世界の人口は数100万年前は125万人以下、1万年前の農耕と牧畜が始まる頃は500万人、紀元1650年には5億人、1850年に10億人、 1930年に20億人、1975年に40億人、2000年に63億人を突破しました。草食動物の適性密度は1km2に2匹未満、肉 食獣なら1km2に0匹未満、雑食獣なら1km2に1.5匹です。ところがアフリカの狩猟採集民の密度は 1km2に3人、地球上の平均は1km2に44人と大変に過剰です。どうして人間だけちがうかというと、石 油などのエネルギーを使っているからです。

炭化水素エネルギーの利用と産業革命

有史以来、人類は植物が太陽光エネルギーを使って光合成した食料を食べ、薪などで暖をとってまいりました。移動するのも、土を耕すのも1馬力以下の人力で やりくりしてきました。紀元前2,000年頃から牛を使い始め、3世紀になってようやく馬を使うようになり、出力1馬力の壁を越えました。そして車輪を発 明して馬車による移動、有輪 犂を発明して農業の生産性を向上させたのです。印欧語を話す民族が世界に広まった基盤ともなった技術で す。すべて再生可能エネルギー(renewables)だけをつかっていたわけです。再生可能エネルギーという用語は永久機関を連想させる政治用語なので 自然エネルギーと呼ぶのが適切ですが、ここでは世の中ですでに普及してしまったのでここでは素直に従います。

図-1.2人類史における動力とGDPの変遷

しかし1712年にニューコメンが蒸気機関を発明し、1776年にジェームズ・ワットが改良した往復動蒸気エンジンが炭化水素燃料である石炭の燃焼熱を動 力に変換して10馬力以上の出力を出して馬を置き換えたとき、産業革命が生じました。ニューコメンのスチームエンジンは1トンの石炭を運ぶのに10トンの 石炭を燃さねばならなかったので意味がなかったのですが、ジェームスワットは石炭消費量を1トン以下にできたから普及し産業革命となったわけです。そして 1884年のチャールズ・A・パーソンズの軸流多段スチーム タービンの発明によりタービン時代に入りました。ガスタービンは第二次大戦後に普及しはじめました。

生産能力を飛躍的に向上させた人類は後には石炭より発熱量も多く、液体で取り扱いやすい石油やガス状の天然ガスをつかいはじめます。

アンガス・マディソン(Maddison, The World Economy; A Millennial Perspective, 264)によればこれに伴い世界全体平均の一人当たりGDP(ピンク色曲線)も増えました。この図を見ますとまだ成長するように見えますがバークレー校のJ. Bradford DeLongは両対で表示したずを見ますと成長には限界あるように見えます。これが 地球からフロンティアが消滅したからです。

1859年、アメリカのペンシルバニア州のタイタスビルでドレーク大佐が地下21m掘り下げたところで石油をはじめて堀りあてました。1901年1月10 日には地質学者クラディー・ビンガムがテキサス州ボーモントの町近くのスピンドルトップの丘で井戸を掘 りはじめ323m掘ったところで、石油が30m噴き上がり、石油時代の本格的な幕があがりました。

石油は内燃機関をもたらし、第一次世界大戦も第二次世界大戦も石油が原動力になっています。そして内燃機関に続きジェット・エンジン、スチーム・タービ ン、コンバインド・サイクルなどを発明しました。そしていまや人力の7桁倍の動力機関を手にしました。

すべて炭化水素燃料を掘り出して空気中の酸素と反応させてエネルギーを取り出す動力機関です。第二次世界大戦終盤、石油を絶たれた日本やヨーロッパでは自 動車を木炭ガスで走らせ、石油も石炭から合成するフィッシャー・トロピッシュ合成技術も確立しています。

20世紀初頭、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュは石炭と空気と水から鉄触媒を使って反応させ、窒素と水素の化合物であるアンモニアを合成することに 成功しました。これは空中窒素固定法とよばれ、20世紀最大の発明とされています。アルトハイデルベルグに隣接するライン河の港町ルード ヴィヒスハーフェンで見た大砲の砲身を転用した商用第一号の合成反応搭の真っ黒な姿が目に焼きついております。石炭と空気と水から窒素肥料の原料 となるアンモニアを合成することができるようになったおかげで世界の人口は耕地面積と農業用水の限界にむかって増加しているところです。現在はアンモニア の原料は石炭から天然ガスに代りました。

人類史に登場する総人口は800億人、このうち採集に携わった人数は91%。農業に従事した人口は6%、工業人口は3%である。

 

ピーク・オイル

1950年代、中東に多量の石油が発見された頃、米国のエーデルマンという経済学者がバーレル当たり1ドルまで下がると予言しました。1973年の第一次 石油危機は米国の石油生産がピークに達した直後(ピークアウトという)にOPECの生産制限カルテルが結成されたために発生したものです。原油価格が3ド ルから12ドルまで高騰し、すわ石油が枯渇するのではと慌てふためき 、インフレが進みました。1978年のイラン・イラク戦争で第二次石油危機が発生し、12ドルから34ドルに上昇しました。しかしその後、オイル・アン ド・ガス・ジャーナル誌掲載の埋蔵量は増え続け、価格は下がり続けるのを目撃した経験を持つ人々は石油など、どうせ今後もなくならないと思い込んでいるよ うです。

しかしこれは錯覚です。見掛け上埋蔵量が増えたように見えたのは新規発見がないにも関わらず、産油国が発言力を増そうと毎年、確認埋蔵量の水ぶくれ申告を 行ったためです。原油価格はその後、10ドルまで下がりましたが、次第に値上がりし、2008年には一次147ドルまで高騰しました。米国の金融バブルが 崩壊して40ドルまで暴落しましたが、2011年には100ドルに戻しております。

地中に埋蔵されている原油は古生代(5億7000万年前〜2億2500万年前)から中生代(2億2500万年前〜6500万年前)のプランクトンが大気中 の二酸化炭素を固定化して蓄積してくれた化石(正確には前述のように化石だけではない)という見方は生物起源説に立ちます。貯留岩にトラップされたものを 消費しつくせば、深部からにじみ出てくる非化石由来の炭化水素の移動速度がゆっくりした現象のため、人類の消費速度には間に合いません。追加投資をして油 井の数を増やしても生産量は投資に見合った分増えてはくれません。この生産曲線の形は釣鐘形をしており、1970年にピークとなると予測した米国の油田の 生産実績を分析したシェル社の地質学者マリオン・キング・ハバート博士の名をとってハバート曲線とよばれています。ハバート曲線はロジスティック・モデルの もので下式で 表現されます。

dQ(t)/dt=rQ(t)(1-Q(t)/Qr)x(t) 

Q(t)はt年目の原油生産高、究極可採埋蔵量Qrは究極可採埋蔵量、rは増加率です。

1998年にテキサコ、アモコで探査部長として働いたコリン・キャンベル(Colin Cambell)とトタール社で探査を担当したジャン・H・ラエレール(Jean Laherrère)がスイスのペトロコンサルタンツ社のデータベースを基に1956にMarion King Hubbertが提唱したベル型カーブ(ベル型カーブにはガウス分布もある)であるハバート曲線が囲む面積を究極可採埋蔵量K=1.8兆バーレルと見積 もって今後の予測図を図-1.3のように 1998年のサイエンティフィック・アメリカン誌に発表しました。これをピークオイル理論といいます。

図-1.3 1998年3月サイエンティフィック・アメリカン誌掲載キャンベルとロレールの論文より

ハバート曲線はロジスティック・モデルとおなじです。ロジスティック・モデルはNtをt年度の原 油生産高、Kを究極可採埋蔵量とし増加率をr0とすると毎年の差分生産量は

Nt+1 - Nt = r0 Nt (1-Nt/K)

と記述できます。ここで

K=究極可採埋蔵量=既生産量+可採埋蔵量(確認埋蔵量+推定埋蔵量+予想埋蔵量)

K=1.8兆バーレル、増加率r0 =4.7%として毎年の生産額を計算してプロットすると図-1.4にある赤色の釣鐘型曲線のように2005年に石油生産はピークとなり、年産225億バー レルとなります。(実際米国の統計では2005年に270億バーレルでピークだった) K=3兆バーレルとすれば紺色のようになります。ピーク時期の遅れは高々20年です。

図-1.4 ピークオイル (縦軸 10億 バーレル/年)

地下資源の総量は原始埋蔵量といい、地殻内に包含されている総量をいいます。

ヤマニ氏が主宰するCGESがまとめた世界の究極可採埋蔵量の推移は図-1.5の通りです。米国の地質調査所(USGS)が2000年にまとめた究極可採 埋蔵量はもっと多く、K=3兆バーレルです。この場合は紺色のように2020年にピークをむかえ、年産340億バーレルとなります。

究極可採埋蔵増え、仮にR/Pが2倍になっても消費がいっそう喚起されるため、生産量がピークアウトする時期は少し先延ばしになるだけです。ピークアウト すると価格は暴騰します。1970年代のオイルショックは米国の石油がピークアウトしたことによって生じたのです。人々はマリオン・キング・ハバート博 士の予言を信じませんでしたが、後でその正しさが認識されました 。そしてこのオイルショックは北海油田の開発で緩和されましたがこの北海油田も1994年には伸びはスローダウンし、1999年にはピークを迎え、爾後減 少の一途を辿っています。

1998年のサイエンティフィック・アメリカン誌に掲載されたコリン・キャンベルとジャン・H・ラエレールの非常に説得 力あるピークオイル理論を読んだ著 者は機会ある毎に石油価格高騰を説いてきましたが、それを信じる人は多くはありませんでした。第二次石油危機後、価格低迷期が30年近く続いたので無理も ありません。

図-1.5 世界の究極可採埋蔵量K CGES

ところがコリン・キャンベルの予言通り、2005年頃から様子がおかしくなり、2007年には確実に暴騰がはじまりました。需給バランスできまる価格は シェール・オイや非在来ガスなどの代替燃料の価格ですから70-80ドル位でしょうか。しかし2002年には25ドルだったものが2008年には147ド ルにまで高騰し、第三次石油危機といわれるようになりました。

このころグローバルマーケットは米国のミルトン・フリードマンらが広めたサプライサイド経済学に よって規制緩和が進められ、投資銀行によって投機行為が大々的に展開されていました。需給バランスがタイトになった時にちょうど米国で住宅融資に集中的に 投下されていた資金が逃げ出して石油に向かい、資源バブルを発生させたと理解されております。石油以外の天然ガス、石炭、鉄鉱石、食料の価格まで高騰して 社会問題に発展しております。グローバルマーケット下では投機資金をコントロールできる機関がありません。トービン・タックスのような外国為替取引に課税する方法な どを提唱する向きもありますが、バブルの再発をどう防ぐかは今後の人類に残された課題でしょう。

さて2008年の金融危機で、投機資金が逃げ出し、原油価格は40ドルまで暴落しました。2011年には100ドルまで戻して、2015年には再び40ドルまで下がりまし た。原油価格が需給バ ランスではなく、投機資金に左右されるのは原油の市場価格が産油量の少ないWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)はカナダのオイルサンドか らの原油の増産の影響で主要指標の座を降り、ブレント原油が指標の座を獲得しました。

現在の確認埋蔵量は地震探鉱で発見した背斜構造がある場所に井戸を掘った結果ですが、より高度な三次元地震探鉱で探査す れば向斜構造でも見つけることがで きそうだということが分かってまいりました。

シェールガスと同じ採掘技術を使う非在来資源、タイトオイルの生産は2008年以降、米国の原油生産を25%押し上げました。タールサンド(オイルサン ド)、シェール・オイルなどの非在来資源を開発することも可能です。非在来燃資 源は高コストです。50/bbl以上になれば開発が進みます。確認埋蔵量はR/P=150年とのこと。カナダアルバータ州のフォート・マクマレーFt. McMurreyがブームに沸いております。日本の石油資源開発系のジャパン・カナダ・オイルサンズ社(JACOS)がサグディー法を採用して200°C の水蒸気を注入てビ チューメンを回収してるのが北端に見えます。表土をはがさず井戸を掘ったパッドが規則正しく配置されているのでそれとわかります。


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タールサンド(オイルサンド)、シェール・オイルそれぞれ在来型の10倍はありますが、控えめにみて2倍程度の埋蔵量が あります。オイルサンドは1.7兆 バーレル、オリノコ川流域には1兆バーレルあるとされております。カナダのオイルサンドは生産原価がバーレル当たり50-70ドルですから原油価格がこれ 以上になれば採算に乗るようになります。2008年の石油暴騰時はフォートマクマレーはオイルラッシュとなっていました。世界のシェール・オイルの70% は米国にあり、それ もロッキー山脈の地下に2兆バーレルのシェールオイルがあることが分かっていますが、投入コストと生産できるエネルギー比をみれば経済的な採掘は困難で しょう。石炭はもっと多く、1兆トン(可採年数は164年)はあります。

在来型の油田地帯を自分の目で見た人は多くないと思いますが、アラビア湾上空を石油会社の小型機で海面すれすれに飛ぶと 30年前 にまばらだった生産設備が今では海面をどこまでも覆いつくし、ほんとうに安い石油はもう限界に達したと感じます。ヨーロッパは北海で石油と天然ガスを30 年間生産したのですが、これもピークアウトし、ソ連の石油と天然ガスに頼るようになりました。

メキシコ湾では水深1,500m、油層深度が海底から5,500mの海底油田が33ヶ所掘削されつつあります。2010 年、深海掘削リグDeep Horizonの事故による史上最大の海洋汚染が発生したのを受け、米政府は事故原因が判明するまでの水深1,500m以上の深海油田の掘削を禁 止し、新規掘削の認可の停止しました。これが訴訟になっています。 また2017年まで深海油田の掘削禁止という動きもあります。リスクが大きすぎて開発がスローダウンするとともありえます。

さて石油の価格が暴騰しても日本の電力料金の値上がりが比較的少ないのは日本の電力会社が消費した石油はたった2002年では11%にすぎなかったからで す。残り31%が原子力、24%がLNG、25%がオーストラリアな どから輸入した石炭でした。石油が値 上がりすると石油の使用を減らして石炭の使用量を増やすことができます。1995年に石炭は14%だったのですが、2006年には25%となっています。 しかしこれも2011/3/11の福島原発事故後は様変わりで石油の消費は増えていますがいずれもっと安いLNGいシフトするでしょう。

2015年には中国のスローダウンで再び40ドルに下落しています。

油田の埋蔵量の度数分布が両対数で右下さがりになるスケールフリーのフラクタル分布(べ き乗分布)となります。世界のあちこち に散在するマイナーな油田の開発で究極可採埋蔵量K=4兆バーレル位までは増加させることができるだろうという説もあります。いずれにせよ、石油の価格高 騰は資源探索活動を活発化させ、確認埋蔵量の増加をもたらします。実は資源会社は向こう40年くらいの資源を確保すればそれ以上の無駄な探査はしませんの でこの地球にどのくらいの資源があるかはわからないの です。したがってロジスティック・モデルのNt/KのKはしばらくはNtが増えれば増えますのでピークは先送りになるのです。

2016年米エネルギー市場調査会社ストラテジック・エナジー・アンド・エコノミック・リサーチの社長、マイケル・リン チ氏は深海油田など従来型原油の埋蔵量を含めた資源量は11兆バレルあり、すでに産出した分を除いても向こう250年以上の世界の消費をまかなえる規模だ そうです。。いまの技術で採掘できるのは3.5兆〜4兆バレルにすぎないが、これが増えつつあります。一方、シェールオイルやオイルサンドなど非従来型原 油の資源量はなお未知数です。現在のシェールオイルの産出量は資源量の3-6%程度とされ、技術進歩によって産出量も急増します。原油は生産のピークが来 るどころか、あふれているのです。

石炭、シェールガス・オイル、ガスハイドレートを含む炭素資の総資源量の定義を1単位のエネルギーを掘り出すエネルギー が1を超えない量と定義すると資源の量Kは膨大になります。これを知る人はいないのですが、概算8,000年と いう人もいます。結論として在来型のピークオイルは2005年だったかもしれませんが、ピーク は逃げ水のように先へ先へと動きます。

石油の起源に関して生物起源説とトーマス・ゴールドの地球深部由来説(無 機成因説)があります。生物起源説にたてばピークオイル説が成立し、原油価格を釣り上げて利益を上げるに便利だったのかもしれません。ということで、過去 数十年間生物起源説が主流だったが、どうもおかしい。石油が余って価格がさがっています。無論、再生可能エネルギーの利用が増えているためもありましょ う。しかしもしかしたらやはり地球深部由来説が正しいのかもしれません。


ピーク・ガス

石油がピークアウトしてもまだ在来型の天然ガスは石油と同じくらいの可採埋蔵量(確認埋蔵量+推定埋蔵量+予想埋蔵量)があり、BP統計によれば 2004年時点で180兆立方メートルです。

米地質調査所によれば天然ガスの予想埋蔵量は147兆立方メートル(tcm or trillion m3)で28%は北極圏にあ るとのことで す。確認埋蔵量と合わせ究極可採埋蔵量は327兆立方メートルとなります。

北極海の大陸棚が石油と天然ガス探鉱の最後のフロンティアとなっています。

<非在来型ガス>

モール&エバンズ(Mohr & Evans)がオイル・アンド・ガスジャーナルの2007年12月17日号にピークガスについて論じています。主として砂岩を貯留岩としている在来型天然 ガスの究極可採埋蔵量を346tcm、それ以外の貯留岩から産する 非在来型ガス(unconventional gas)の究極資可採埋蔵量を期待資源量の20%として181tcmと推計し、このうちシェールガス(shale gas)90tcm、タイトサンドガス(tight-sands gas)41tcm、炭層ガス(CBM; coal bed methane or CSM; coal seam methane)51tcmです。これらを含めてもピークガス時期は2043年としていま す。

タイトサンドとは浸透率が1md(ミリダルシー)より低い砂岩で、シェールガスは独立気泡として頁岩中に存在するガスで す。岩盤を水圧破砕しないとガス生産ができません。

2009年には米国・カナダでは新技術である水平掘り(ラテラル・ドリリング)とフラクチャリング技術(水圧破砕)でシェールガスを開発したところ大成功 で生産が急増 し、2012年には米国の天然ガスの40%がシェールガスとなりました。米国へのLNG輸入量は一時的に減少に転じましたので余剰はヨーロッパに振り向け られました。

2011年になり、BP統計は世界のシェールガス埋蔵量は旧来のガスの2.4倍に達すると公表。米国テキサスのバーネットガス田をカナダのエンカナ社が開 発中。2008年に13$/MMbtuまで高騰したガス価格も2$/MMbtuに下がりました。

2011年のIEA統計では在来型天然 ガスの究極可採埋蔵量は404tcmでR/P ratio=120year、シェールガス204tcm、タイトサンドガス84tcm、炭層ガス118tcmで在来型を含む天然ガスの究極可採埋 蔵量は810tcmでR/P ratio=240yearとなります。ロシアや中東は未探査ですからR/P ratio=400yearいなるかもしれません。

JOGMECが2012年、IEA World Energy Outlook 2009からまとめた国別の非在来ガス埋蔵量は

  シェールガス タイトサンドガス CBM 地域別合計
  tcm tcm tcm tcm
アジア・太平洋 174 51 49 274
北米 109 39 85 233
中東・アフリカ 72 23 0 95
中南米 60 37 1 98
旧ソ連 18 25 112 155
ヨーロッパ 16 12 8 36
サブサハラ・アフリカ            8 22 1 31
非在来ガス合計              457 209 256 922
在来ガス - - - 404
表-1.2  IEA World Energy Outlook 2009




米国のシェールガス資源 IEA

このフラクチャリング技術を開発したのは小さなエネルギー調査会社を経営していたジョージ・ミッチェル氏です。というわ けでバーネット・シェールの父と呼 ばれています。在来の石油・ガス資源は根源岩から漏れ出た油やガスが背斜構造にトラップされた油田でした。しかしフラクチャリングはソースロック(根源 岩)そのもの を破砕して直接採取するため、採掘可能量が2倍どころか10倍にもなるということのようです。そうすると米国は中東から輸入する必要がなくなります。そう なるとな ぜ中国のために原子力空母2隻をホルムズ海峡に配備してシーレーンを守る必要があるのかということになります。もしイスラエルを守る必要がなくなれば、米 国が中東から手を引き、サウジアラビ アの王族支配は後ろ盾を失って崩壊します。そのとき、シーレーンが不安定になって一番こまるのが日本ということになります。風力・太陽光はバックアップ電 力は必要だからです。原発は不可変動電源としては使えないのですが、だから原発がいるというのが日本の原子力村が発明した新し い原発必要論です。私はしかし、オーストラリア、パプアニューギニア、インドネシアのオフショア開発や石炭利用は無論のこと、ヨーロッパへの輸出が減って 困るロシアのシベリ アでガス田を開発し、日本海にパイプラインを敷設するほうが良いと思うのです。ただ北方領土を解決しておかねばなりません。

2010年にはニューヨーク州などは高圧水によるフラクチャリングを禁止するなどブレーキもか かりはじめました。掘削井のケーシングが地下水層を通過するときセメンティングに漏れがあるとき、隙間から破砕水が漏洩して地下水を汚染するとか、水溶性 ガス層のガスが シェールガスと間違われたりしましたが、基本的にはシェールガスが環境破壊することは防止可能です。そもそも破砕できる長さは10m程度で、地下水脈に影 響するほどの破砕は不可能です。

日本の商社もカナダの非在来型ガス開発に投資しております。 2011年になり、日本の商社は米国・カナダでシェールガス生産に出資し、日本政府は米政府に対日輸出禁止措置を解除するように要請しています。三菱商事 がカナダはブリティッシュコロンビア州コルドバ堆積盆地のシェールガスを液化して日本に輸出することを決めました。

現在時点では採掘費は低いですが、岩盤の生産性は低いですから次第にコストがかかるようになります。また増産に伴い地下水の汚染、深さ1-4kmの廃水井 戸への水の注入による地震の誘発などの問題も発生しております。



中国のシェールガス資源 IEA

<メタン・ハイドレート>

薄く広く大陸棚を覆っているメタン・ハイドレートは石炭を含む全ての炭化水素燃料の2倍もあると言われておりました。 全世界のメタン・ハイドレート量を炭素換算すると10,000Gt(10兆トン)と推算されています。ちなみに大気中の二酸化炭素の炭素換算値は 600Gtです。海水に炭酸として含まれている全炭素量は30,000Gtですので非常に大きな量です。氷河期が来て海面が下がると減圧効果でハイドレー トが ガス化して大気に放出されて温暖化効果を生じネガティブフィードバックがかかり再度温暖化するという説もあります。 船乗りの墓場と恐れられたサルガッソー海はメタン・ハイドレートが大量に放出されたからというリチャード・マッカイバー説もあるくらいです。

大陸棚の堆積物間隙の5%がハイドレートであるとされています。 大陸棚の海底擬似反射面(BSR)をメタンハイドレートの指標とすると東部南海トラフ海域には1.1兆立方メートルの原始資源量があると推定されておりま す。回収率は不明ですが、仮に50%とすれば日本のLNG輸入量の6年分に相当します。日本ーカナダ国際共同実験がカナダ北極圏で行われ、2012年には 日本でも試掘が予定されています。しかし温水加熱ガス化 方式はエネルギー収支比(EPR Energy Payback Ratio)が低く、 経済的にペイしません 。他にも水と一緒にハイドレートスラリーくみ上げる方式、水をくみ上げて大気圧にする減圧ガス化方式、フラクチャリングおよびこれらの組み合わせなど可能 性があるのではと期待されて い ます。2012年以降渥美半島沖で減圧ガス化方式の試掘試験が計画されています。

日本の大陸棚のハイドレートの資源の可能性についてですが太平洋岸は地層の中に存在し、日本海側は海底上に存在する表層 型である。地中にある場合は掘削してそこの水をくみ上げる減圧法コストを度外視すれば採集可能だが、表層型は多量の海水を汲み上げねばならず、採算はまっ たくとれないだろう。

 

炭化水素燃料の無機成因説

石油、天然ガス、石炭は化石燃料と呼ばれるごとく、生物起源をされてきました。 石油のなかに生物のヘモグロビンやクロロフィルの誘導体であるポルフィリン類、コレステリン、カロチン、テルペンの誘導体などのように光学活性をもつ生物 由来の有機物が微量ながら石油の中に含まれています。分析技術の進歩でバイオマーカーであるポルフィリン類の分析の精度があがり、石油の元になった生物 まで特定できるようになっています。いずれも独立栄養で光合成をする植物プランクトンです。というわけで生物起源説が主力な説でした。大陸地殻の5%に相 当する窪地に土砂が溜まった堆積盆地に油田、ガス田は存在することも生物起源説を裏つけるものとされてきました。

堆積盆地の貯留岩に溜まった安価な炭化水素資源はあと1世紀チョッとで枯渇する資源ですから、人類はいまから再生可能エネルギーの利用技術を育てないとい けないことは確かです。思想家バッ クミンスター・フラーが提唱し、経済学者ケネス・E・ボールディングが経済学に取り込んだ宇宙船地球号というイメージが現実のものとなり始めてい ます。ちなみに炭素60個の球棒モデルの名前フラーレンはバックミンスター・フラーにちなんで命名されています。

しかし トーマス・ゴールドの 無機成因説によれば、地殻内に存在するコンドライトという隕石の破片に含まれているという炭化水素が熱分解されて地表に移動する途中、貯留岩にトラップさ れたものとも理解できます。 その量は膨大ですから流出速度は遅いながら地球深部よりにじみ出てくる可能性があります。最近では上部マントルの主要構成岩であるカンラン岩(periodite) が水と反応して蛇紋岩化する過程で水素が地殻深部に存在する熱水流体中の二酸化炭素と接触し、フィッシャー・トロプッシュ反応により炭化水素(油・ガス) が無機的に生成するとさえいわれています。

無機成因説は地球上広く、あらゆるところで地下数十キロの深度の上部マントル中で無機的に発生しているため、石油・ガスの資源総量は膨大となります。ただ その資源が上部マントルから大陸地殻の亀裂を通過してからにじみ出してくる速度が現在人類が消費する速度に見合う量かといえばすでに枯渇したテキサス油 田、ピークを過ぎた北海ガス田を見るかぎり見合うとは思えません。長い時間かけて貯留岩に溜まった油田、ガス田を掘り尽してしまうと安い石油・ガスの生産 量はロジスティック曲線に従い、 ピークアウトし減少するでしょう。 マントルはいわば製造プラントで油田、ガス田はいわば中間製品タンクのようなものです。これが空になるとまた一杯になるのに相当時間がかかります。

現在の堆積盆地の貯留岩の下の大陸地殻内にまだ大きなガス田、油田が隠れている可能性があり、現に既存油田を掘りぬいた大陸地殻内部の根源岩でシェールガ ス、シェールオイルという新規埋蔵量が発見さ れています。この観点から試掘すれば可採埋蔵量は10倍増する可能性があります。ただフラクチャリングというコストがかかる方法ではあります。シェールガ ス、シェールオイルは深層起源とは考えられず、生物起源でしょう。

日本周辺の大陸棚に膨大な量あるらしいガスハイドレートは広く薄く分布する資源のように見えますので割れ目から湧き上がる無機生成深層ガスというより生物 起源だと推定されます。ガスハイドレートはポンプで海水と一緒にスラリーとして汲み上げ て圧抜きするか温水で暖めるしか手はなく、生産規模が小規模化、分散化して生 産コストが上昇し、自然エネルギーと同じようにコストアップになると私はにらんでいます。ただコストを度外視すれば炭素資源は膨大です。 大局的にみてエネルギーとしては太陽エネルギーの方が安くなると私はおもいます。


ピーク・ウラン

地殻に含まれるウランの量は膨大ですが、その殆どが海水に溶けて今のところ、経済的に回収できる見込みはありません。まだ核分裂するウラン235 という同位元素の含有量は0.71%にすぎません。高速増殖炉を使いウラン235をプルトニウム239に転換すれば無限に近い量が期待できますが、こ うして得られるプルトニウム239は高価ですし、まともに動く高速増殖炉を開発できた国は いまだありません。ということで軽水炉でワンスルーで燃すことが主流です。日本では副産するプルトニウム239を回収して再度MOX燃料として燃すことに していますが、これすら再処理プラントが技術的に難しく、試験的に行っているにすきませんし、再処理して軽水炉にリサイクルすることにより、マイナーアク チニドを含む放射性廃棄物を増やしてしまいます。

このようなわけでワンスルーで燃すと石油のピークオイルと同じ、ピークウランが生じることが容易に推定されます。良質なウラ二ウム鉱山が掘りつくされ れば、コストが上昇するのです。Update of the MIT 2003 Future of Nuclear Power An Interdisciplonary MIT Study によれば現時点でウラン資源は800GWの原発80year分、または1,000GWの原発50year分あるという。

ウラン代替としてはトリウムがあります。トリウムはレアアースと一緒に存在し、レアアースのニーズの高まりと共に有害な廃棄物として環境問題として認 識されています。そしてその総量はウランの4倍もあります。トリウムは弱いながら放射能を持っていますが核分裂はしません。しかし熱中性子を吸収して ウラン233になりますし、その増殖率は1以上になりますので資源としては無限大になる可能性があります。 しかしマイナーアクチニドの生成がすくないといメリットがあるにしろ、軽水炉と同じ、ストロンチウム、セシウム 、ヨウ素という核分裂生成物を発生させますのでブラック・スワンのような広域核汚染の可能性があります。トリウムサイクルは 溶融ウラン233を直接ポンプ循環するとかストロンチウム、セシウム、ヨウ素な どを減圧脱気するなどウランサイクルより格段の難しさがあり、多分、電力会社が採用にしり込みするし、社会の抵抗もおおきく、普及はないと予期できます。

地球温暖化対策として原子力への期待があるにもかかわらず、実際の世界の投資は減少しつづけています。建設費高騰、度を越えたリードタイム、建設開始から 5年で超過費用、銀行団が融資をつけない、ムーディーズが新規原子力発電を積極的に追求している債権発行体に対してさらに否定的な評価を採用することを検 討している、負荷追従型原発の発電単価は低稼働率故上昇するなどが理由です。具体的にはオバマ大統領の政府保証があるにもかかわらずコンステレーション・ エナジー社はカルバート・クリフ建設計画を棚上げしました。

軽水炉から出る放射性廃棄物の量は多く、これをどこに安全に永久保管するかという社会的な問題が生じて、殆どの民主主義国は決めることができないでおりま す。人材も衰退産業を嫌って集まりません。人材という資源が小さくなれば早めにピークアウトとすることはロジスティック方程式が示すところです。すべて総 合すれば石油資源と同じピークウランという現象があることは間違いありません。

 

エネルギー資源可採年数

可採埋蔵量/当該年の年産量=R/P比を可採年数といいますが、天然ガスの可採年数は67年です。ウランの埋蔵量はIAEA統計です。ここでZcal =zetta cal=1021cal。Ultimate Recoverable Reserves=K of Logistic Model

Fuel Heat of Combustion Ultimate Recoverable Reserves Zcal Recoverable Reserve by BP Zcal R/P Ratio
Coal 6.2Gcal/ton

2trillion ton

12.4 1trillion ton 6.2 164
Oil 9.8Gcal/kl (SG0.89)

3-1.8trillion bbls

4.7-2.8 1.186trillion bbls 1.9 41
Natural Gas 13.3Gcal/ton (MW16)

527-346trillion m3

5-3.3 180trillion m3 1.7 67
Uranium -

-

- 4.59million ton - 85

表-1.3 2004年の世界の究極可採埋蔵量、可採埋蔵量、可採年数 (BP統計2005など)

 

ピーク・レアアース

省エネルギーの旗手としてインバーター駆動モーターがハイブリッド車や空調機などあらゆる方面でつかわれていますが、その永久磁石の素材になるネオジムや ジスプロシウムなどのレアアースは安価な中国に依存していたため供給不安が生じています。しかしこれは多少コストがかかっても他の鉱山開発すれば問題は解 決するでしょう。問題はレアアースと併産される放射性物質トリウムの処理です。

要はレアアースを使わない磁性材料を開発すればよいわけです。2011年、東北大学の高橋研教授らはレアアースを使わない強磁性窒化鉄のナノレベルの粉末 の合成に成功したと発表しました。NEDOのプロジェクトとしてトヨタ自動車も強力して高温耐性や磁性の持続力向上につとめることになっていますので期待 しましょう。

 

ピーク・ファームランド、ピーク・リン、ピーク・ウォター

<食生活の文化の変遷>

過去50年間、世界人口一人当たりの穀物生産が増えたのは、家畜に穀物を与えて得られる肉を食する文化が普及したためです。今後もこの傾向が続くと考えて よいでしょう。ということは人口増以上のスピードで穀物生産を増やさねばならないということになります。

西暦 世界人口 穀物生産 生産量の倍率 一人当たり生産量 一人当たり生産量の倍率 窒素肥料使用量 リン肥料使用量
  億人 億t - t/人 - 億tN 億tP2O5
1900 16.0 3 1.0 0.188 1.0 - -
1961 30.8 8.8 2.9 0.286 1.5 0.1 0.11
2007 66.7 23.5 7.8 0.352 1.9 1.1 0.4

表-1.4 世界の穀物生産

<ピーク・ファームランド>

FAOによれば世界の食料生産は2005-2007年の平均にくらべ、2030年には耕地面積を40%、2050年には70%増加させなければならないと いうことになります。ところが過去50年間の耕地増分は10%でしかありません。

<ピーク・リン>

ではなぜ穀物生産を増やせたかというと窒素・リン酸・カリの三大肥料のうち、窒素はハーバー・ボッシュによる空中窒素固定法のおかげです。これで窒素は確 保できました。アンモニア合成は主としてメタンガスに含まれる水素から製造されています。石油や天然ガスが ピーク・アウトすれば、この肥料を作れなくなります。炭化水素燃料が枯渇した暁には後述の再生可能エネルギーによる電解アンモニアを合成するようになるの でしょうか?

リンは元素ですから合成できません。 世界のリン採掘可能なリン鉱石は180億tですから現在の消費量でR/P=180/0.4=450年。今後の人口増を見込めば300年というところでしょ う。それ以後は人類は下水からの回収リサイクルが必要となります。

このようなわけで2008年3月のリン鉱石の価格は38,000円/トンとなり、 2007年の7,600円/トンの5倍に高騰しました。2010年12月、世界の3割を輸出する中国はリン酸アンモニウムの輸出関税を110%に上げまし た。

<ピーク・ウォーター>

農作物1キログラムを生産するに必要な農業用水をバーチャル・ウォーターといいます。トウモロコシは2トン、小麦は3.2トン、米は5.1トン必要です。 これが穀物を食べて育てる肉となると鶏肉4.9トン、豚肉11トン、牛肉100トンです。日本が輸入する食糧のためのバーチャル・ウォーターは日本の農業 用水の2倍となっています。

世界の食料の40%は全耕地面積の17%に相当する灌漑農地で生産しているくらい灌漑、ひいては水資源が大切であるか分かります。

日本は表層水である河川水が豊富なため地下水の利用率は低いのですが、比較的水が少ない大陸では慢性的水不足で灌漑でアラル海が小さくなり、黄河は断流と なっています。

表層水が欠乏している国は飲料水、農業用水、工業用水として地下水を多量につかっています。

地下水を使っている国はピーク・ウォーター現象に見舞われます。1995年にセラゲルディン世界銀行副総裁が「20世紀の戦争が石油をめぐる戦いだったと すれば、21世紀は水をめぐって戦われるだろう」と予言しています。

モンスーン地帯にあり、表流水に不安のない日本ですが、降雪量が減少すると雪として山に貯水できなくなり、農業用水が確保できなくなる恐れはあるのです。 IPCCの二酸化炭素による温暖化予測がたとえ間違いであっても自然現象としての温暖化や寒冷化は今後もあるでしょう。「河道に水を封じ込め、流域を平等 に守る」という家康以来の治水の大方針が破綻する こともありえます。利根川が決壊すれば首都圏の地下鉄が水没することもあるでしょう。

こうして人類は良くて食料生産の頭打ち(フラット・フード)、悪くて減産(ピーク・フード)に直面するでしょう。資本主 義体制下では比較優位の原理が働いて、工業国の食料自給率は下がりますが、食料輸入国は気候変動による水不足、食生活の肉食・乳製品嗜好、バイオ・フュエ ルなどにより食料の価格の突然の上昇に驚くことになるでしょう。 日米政府が喧伝している農業によるバイオエネルギーに未来がないことはこれでもお分かりかと思います。

 

ピーク・ミネラル

次に気候変動と密接に関係ある海産資源の減少について触れます。海の食物連鎖は海水中のミネラル、植物性プランクトン、 動物性プランクトン、魚となっています。植物性プランクトンは光合成をして二酸化炭素から有機物を合成しています。したがってミネラル分のない海水は透明 できれいですが生命のない砂漠と同じです。磯や潮の臭いすらありません。二硫化ジメチルが発生しないからです。

日本の沿岸域は陸から栄養塩が流入し、生産性の高い干潟や藻場が多かったのですが、いずれも工業用地として埋め立てられ たため失われました。こうして漁業資源量が減りました。海表面の温度が低いため 発生する対流による涌流水の栄養塩とアムール河からの栄養塩が合流してオホーツク海から流れ出す親潮が日本沿海にミネラル分をはこんでくるわけです。南氷 洋でオキアミの資源量が300億トンに達するのは海表面温度が低く大規模な涌流水があるからです。

温暖化すれば涌流水が減り、ミネラルが減少します。ミネラル供給がネックとなっていますのでイワシなどの魚を採ってハマ チなどに与える養殖漁業はかえって魚資源枯渇を早めていることがわかってまいりました。 巻き網漁法の発達による乱獲と温暖化があいまって2048年には海から魚が居なくなると米とカナダの研究チームが2006/11のサイエンティフィック・ アメリカンに発表しています。

炭化水素燃料がピーク・アウトすれば漁船の燃料費が高騰し、魚価にも影響を与えるでしょう。炭化水素燃料が枯渇すれば食 料生産にも事欠くようになるのです。食料は実際には石油が形を変えたものともいえます。石油を 炭化水素燃料の代表とすれば食料はバーチャル・オイルと呼んでもよいでしょう。

 

効率向上・省エネルギーについて

ピークオイル、ピークガス、ピークウランを出来るだけ遅くするためには消費効率を向上させる必要があります。効率向上の手段としてレアアースなどをつ かった強力永久磁石などがありますが、これはトリウムなど放射性物質の環境への拡散を即し、別の環境問題を生じるおそれもあります。

効率向上の結果、エネルギー消費効率の高い車が開発されても、人々はそれだけ沢山車を乗り回して消費を拡大させ、省エネの空調機が開発されても、使用時間 を増やし、空調する空間を拡大してしまということになります。これを「ジェボンズのパラドックス」といいます。このように省エネだけでは資源の枯渇を防止 できません。人類はまっしぐらに資源を捕り尽す宿命を背負っていると考えるべきでしょう。

 

非再生可能エネルギーから再生可能エネルギーへ

再生可能エネルギーは永久機関的イメージがあって誤解を生む用語です。自然エネルギーとぶほうが適切という考えもありま すがここでは世の中に流布しているため、使うことにします。

<非再生可能エネルギー>

炭化水素燃料やウラン燃料は使い始めのうちは安価な資源ですが、有限な資源ですのでピークアウトすると価格が暴騰します。これは非再生可能エネルギー だからです。そうすると薄く分布しますが、太陽由来の再生可能エネルギーのコストを凌駕する時期が参ります。

石油価格がバーレル100ドルを越えた2008年はまさにそのような予感を感じさせたものでした。大型化した5MW風力発電機が北海の浅瀬に建設され、そ の発電原価は炭化水素燃料を使う火力発電や原発の発電原価とほぼ横並びになりました。

とはいえ伸び続けるエネルギー需要を満たすためには有限とはいえ最大の埋蔵量を誇る石炭を使わざるをえません。IPCCが主張する気候変動の要因が二酸化 炭素であるという説は後で説明しますようにどうも間違いのようですが、仮に主犯であれば二酸化炭素を地中あるいは海洋に隔離し続ければ、気候変動を防止し つつ現在の文明を維持できるでしょう。 しかし石炭などの炭化水素燃料がなくなればおしまいです。

ウラン燃料はワンスルー利用が世界の潮流です。このままですと2030年以降はピーク・ウランが予想されます。高速増殖炉はウラン238の 60%をプルトニウム239に変え、ウラニウム資源を60倍に増幅すると期待され、各国で研究されましたが、実際に燃料増殖率1を達成した例はありませ ん。 また燃料再処理が足をすくうかもしれません。トリウム溶融塩炉という概念もありますが誰も研究しておりません。原発もウラン資源枯渇で終わり。核融合 も望みありません。とすれば、残るは再生可能エネルギーのうち、最大の太陽放射エネルギーということになります。

<再生可能エネルギー>

太陽は人類が持っている安全な核融合炉です。地球が太陽より受け取る正午の輻射エネルギー(太陽定数)は1.37kW/m2です。 地球の断面積127,400,000km²をかけると地球全体が受け取っているエネルギーは1.740×1017Wとなります。現 在人類が消費しているエネルギーの1万倍相当です。大気で吸収されず地表に達するのはその51%の0.7kW/m2です。

正午の太陽エネルギー密度を1kW/m2とし。山手線内63km2に変換率14%のソーラーセル(PV)を 35.3度の角度で敷き詰めて得られる電力はジオメトリックファクタ=0.3162、ウエザファクタ=0.4で計算するとたしかに1GW/hとなります。 同じ計算で日本の年間総発電量は10,362億kWhを発電するには6,685km2(山手線の106倍)必要になります。日本の 国土は38万km2ですから国土の1.8%にソーラーセル (PV)を設置すればよいことになります。国土の66%は山林・原野ですから100%の国産エネルギー達成は容易であることがお分かりいただけると思いま す。 ただ慣れ親しんだ風景が全く変わる。屋根や壁は無論、あらゆる空き地にPVが並ぶなどあまり見たくない風景です。のどかな田園風景が宇宙ステーション的な ものに変わり、あまり快適なものではなくなる。歓迎できないがやむをえない。

太陽放射エネルギーは人類が炭化水素燃料を使い尽くした時に頼るに充分な量です。そして太陽が核融合反応で作り出しているエネルギーは有限とはいえ途方も ない量で天文学者は太陽は次第に膨張して50億年すれば地球を飲み込むことになると計算しているくらい巨大な存在ですのでご心配なく。その時は生命が地球 に誕生してから30億年に匹敵する遠い未来ですのでそのころは人類はおろか地球上の生物はすべて絶滅していますので別に悩むことはないというわけです。

太陽放射エネルギーは炭化水素燃料を使うことによって発生したとされるグローバル・ヒーティング防止対策としても検討されてきました。再生可能エネルギー またはサステナブル・エネルギーといわれる由縁です。ただエネルギー密度が低いためそれを経済的に集める工夫は必要となります。技術の出番です。

太陽放射エネルギーの特徴は高気圧帯で空気の透明度の高いサンベルト地帯を例外として地球上くまなく均一に降り注ぎますので、炭化水素燃料のように特定の 地域に偏りません。太陽放射エネルギーの利用はトップダウンの集権的エネルギー供給体系が不要になり、分権的、分散的エネルギー供給が可能となります。

サンベルト地帯は広大で砂漠地帯でもあり人口密度も低く、これらの地帯が資源立国することを助けるというプラスの面も持っております。ただ炭化水素燃料の ように極端に偏在する資源を持つ国の覇権という問題も解決し、世界は平和になるかというとそうでもないようです。サンベルト地帯は今は砂漠ですが、太陽エ ネルギーを電力や 水素や合成燃料に転換して輸出するという第二の産油国になるでしょう。すでにドイツ企業はサハラ砂漠をそのように使う大規模開発に着手しています。

愛してる いつまでも 空に太陽があるかぎり・・・ ♪♪

太陽放射エネルギーの一番簡単な方法は植物の光合成能力を利用することです。ただ植物の光合成機能を使うバイオエネルギーは太陽光転換効率1%前後と効率 が低いため、土地と用水の制約が立ちはだかり、あまり頼りになりません。

また価格が暴騰したシリコンの使用量を1/100にする薄膜型ソーラーセル(PV)が開発され、シリコン代替の金属化合物型ソーラーセル(PV)の低価格 化に成功し、グリッドパリティーを達成しそうです。米国やヨーロッパでは蓄熱器をもつ集光型太陽熱発電コストが天然ガス火力と匹敵する発電単価を達成し普 及期に入りました。

太陽放射エネルギーで発電し、この電力で水を電気分解して水素を製造できます。この水素を冷却液化または他の物質と化合させて運ぶケミカルハライド法は経 済的ではありません。他の物質と反応させて合成燃料とするのが適切です。空気中に0.04%ある二酸化炭素と反応させてメタノール、 ジメチル・エーテル、メタンなど炭化水素燃料に転換することが提案されております。燃して二酸化炭素が再び大気中に出ても植物の光合成と同じでカーボン ニュートラルではあります。ただ空気中に0.04%ある二酸化炭素を吸着や膜で分離回収するエネルギーは膨大となります。 それより空気中に80%ある窒素と反応させてアンモニア燃料として利用するのが最も合理的かつ安価なのです。燃えても窒素ガスと水蒸気に変わるだけですか らこれもカーボンニュートラル。NOXは燃焼法で制御できます。深冷分離した窒素ガスを混合昇圧してへーバー・ボッシュ法でアンモニアを合成し、冷凍液化 し ます。これを巨大タンカーで消費地に運べば農業向けの合成肥料は無論、自動車燃料、製鉄、化学産業など素材産業のエネルギー源、風力やソーラーセル (PV)など天候に左右される不安定な再生可能エネルギーを配電する電力産業のバックアップ電源として揚水発電、地熱、水力発電ともども使えます。水の電 気分解時に水素発生電極に窒素を注入するアンモニアの電解合成も夢ではありません。サンベルト地帯は晴れの日が多く安価でかつスケールの大きい集光型太陽 熱発電が可能ですから、サンベルト地帯産アンモニアが第二の石油またはガスとなるでしょう。しかもこれは枯渇することがない資源なのです。

良く水素エコノミーという言葉を聴きますが、アンモニアも水素エコノミーの最も経済的で合理的な一つです。 全て太陽エネルギーに依存するのですから、むしろ太陽社会、太陽経済と呼んだほうがいいかもしれません。

 

一次エネルギーの世代交代予測手法

過去10万年間、人類は人、牛、馬の力で土地を耕し、薪で料理し、暖をとってまいりました。100%太陽の恵みを利用し てきたのです。ところが技術の進歩で安価な石炭が生産され始めると伝統的な薪に次第にとって代わりました。薪資源が枯渇したわけではありません。岩石が枯 渇したから石器 時代が終わったのではないのと同じく資源量・埋蔵量と関係なく、エネルギーの世代交代は技術革新により競合するエネルギーコストの変化の結果としての優劣 と利便性によってきまります。シェイク・ヤマニは「石器時代は石がなくなったから終 わったのではない」といっています。

石炭・石油・天然ガスという非常にローコストの炭化水素燃料をエネルギー源とする機械力、合成化学肥料により、環境の収容能力が膨らんで人類の人口は増え ました。しかし、炭化水素燃料は有限にもかかわらず安価な故に消費量の増加が継続します。そうすると炭化水素燃料の価格の上昇が生じます。一方、再生可能 エネルギーコストは技術の進歩により安くなります。こうして再度エネルギーの世代交代が発生するでしょう。

図-1.6 マーケイティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラム 1992 年

IPCCや専門家は大気中の人為的な二酸化炭素の増加がグローバル・ヒーティングを生じていると考えていますが後で述べますように自然現象である可能性が 大きいのです。仮に人為的二酸化炭素説が間違っていたとしても 炭化水素燃料やウラン資源の有限性故に再生可能エネルギーへの一次エネルギーの世代交代は必ず生じます。それはいつになるか予測する必要があります。

1838年にベルギーの数学者Pierre Verhulstによって考案されたロジスティック曲線Fは人口数Nを環境が維持できる最大人口数Kで割ったN/Kを縦軸、横軸に時間tをとってプロット した曲線でSカーブ状 (シグモイド曲線)になります。図-1.7紺色の曲線がそれです。

F=N/Kの時間微分

dF/dt=r*N(1-F)=f

はK=1、r=3.8のとき、図-1.7の紺色のベル型曲線となります。これがテキサス油田のピークアウトを予測したハバート曲線と同じものです。

国際応用システム解析研究所のマーケイティとナキシェノビッチが1979年に世界の一次エネルギーの世代交代をロジスティック関数(物流関数)のfから log(f/(1-f))でうまく表現できることを示しました。これをマ-ケイティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラムといいます。

さて仮に全エネルギーに対する分率fとこの紺色のベル型曲線が同じだとすれば

f=dF/dt

そうするとfの片対数

log(f/(1-f))

で表示すると図-1.7の萌木色の山形曲線となります。そして右側に相当するf目盛りを表示すればマーケイティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラムが完成し ま す。すなわちハバート曲線=ロジスティック曲線=マ ーケイティ・ナキシェノビッチ指数ということになります。衰退期の勾配は成長期の勾配の符号を変えたものになるのです。なぜなら一つのエネルギーが競合に 負けて衰退する速度は勝ったほうの成長速度と符号を変えるだけで同じだからです。木炭と石炭の盛衰史がこれを証明しています。

図-1.7 ロジスティック曲線、ハバート曲線と物流関数の関係

このマーケイティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラムの2000年以降を新技術を勘案して改訂し、グリーンウッド・ダイヤグラム図-1.8を作ってみまし た。なおオイルショックなど人為的落ち込みは無視してモデル化しております。

 

炭化水素燃料

コリン・キャンベルの石油の採掘可能な総量K=1.8兆バーレルでのロジステイック・モデル微分である山形の形を決めますと図-1.8の紺色の山形曲線に なります。2000年の石油分率 fとこの山形の相似形が一致するように決めました。タールサンド、シェール・オイルは石油価格が上昇すれば可採量も増える可能性がありますが石炭にひっく るめることにしました。

2000年の天然ガス分率 fと石油の型に相似に決めました。石油より送れてピークがやってまいります。 天然ガス(日本ではLNG)はすでに約2割は使ってしまったようにみえます。石油より少し多い埋蔵量のため、石油代替として今後もしばらく伸び続け、 2030頃ピークを迎え、石油と同じように枯渇にむかいます。フラクションのピークが石油より低くても、世界全体のエネルギー全体の消費は2050年には 現在より2倍程度伸びますので、消費量の絶対量は石油よりも大きくなります。

技術の進歩のおかげで水平掘り(ラテラル・ドリリング)や高度なフラクチャリングが可能となりました。この技術を頁岩ガス(shale gas )、砂岩ガス(tight-gas sands)、炭層ガス(CBM, coal bed methane)などの非在来型ガス(unconventional gas)開発に適用したところ、大量に生産が可能になりました。こうして 非在来型ガスの埋蔵量が期待できそうです。非在来ガスはすでに生産されているため天然ガスに含めております。

メタン・ハイドレートの採掘法は夢のようなものです。そこで別勘定はせず、すべてひっくるめて石炭で代表させています。

各年度のSfi=1になるように石炭ないし、もろもろの重質炭化水素の合 計のfを決定しました。

石炭は石油が立ち上がるまでの時代の1940年代に第一のピークが来て、その後、石油に取って代わられてフラクションは減少しておりました。しかし石油と 天然ガスが ピークアウトすると再度消費量増加に転じます。これにより、グローバル・ヒーティングは加速にむかうことが危惧されます。この解決策としてソーラーセル (PV)などの再生可能エネルギーが大々的に採用されるまでの期間、二酸化炭素の海洋隔離策を採用するしか、手段はないように思えます。こうして石炭は第 二のピークを21世紀後半に迎えるのではないでしょうか?

2008年7月にIEAが今後のエネルギー予想を公表しました。これによると表-1.5のような対策をとれば2005年に270億トンあった二酸化炭素の 排出量を2050年には140億トンに削減できるとしております。もしなにもしなければ620億トンに増加します。必要資金は45兆ドルとのことです。

 

一次エネルギーのシェア(%)

年当たり新設(基)

二酸化炭素回収貯留(CCS) 19 55
原子力 6 32
再生可能エネルギー 21 2億平方メートル
燃料転換 18 -
省エネルギー 36 -

表-1.5 IEA試算 2008

 

原子力

IEAによれば2004年、原発が一次エネルギーに占める世界平均は6.7%程度です。ウラン資源の制約がある軽水炉は数を増やしても意味がありませ ん。 資源制約であるなによりの証拠が核兵器解体から得られるウラン源がなくなると共に価格が暴騰しはじめたことに現れています。

燃料増殖率1以上の高速増殖炉の開発に成功した国はありません。それに日本で喧伝されているような安価な電源ではないと分かってまいりました。 原発の二酸化炭素のライフサイクル排出量は少ないのですが、もし二酸化炭素が気候変動の主犯でないなら、ブラック・スワンのリスクを犯すことは意味があり ません。いずれにせよ民主主義国家では原発建設は社会の大きな抵抗を受けています。

原子力はウラン235の埋蔵量R/P=85年が制約条件です。IAEA2007年レポートの可採埋蔵量は547万トン約80年分です。世界のウラン原始資 源量は在来型(通常の鉱石)だけで1,600万MT(約270年分)、燐鉱石に含まれているウランを加えると675年分あり、さらに高速増殖 炉と燃料再処理とを組合わせればR/Pは60倍に増え8,000年になるとされています。全体主義国または儒教の影響下で官僚主導の権威主義の国であった フランス、日本、ロシア、そして新興国である中国、インドが開発に取り組んでいますが、増殖炉が運転できても実際に燃料増殖率1以上を達成した国はありま せん。これでは前述のように3倍程度が限度ではないでしょうか?したがって ウランサイクの原発は人類が将来を託する一次エネルギーたつことは不可能でしょう。

高速増殖炉の発電単価は海洋隔離型石炭火力発電の単価やグリッドパリティーを達成したソーラーセル(PV)の発電単価を下回ることができないでしょう。 (後述)仮にそうでなくても、住民の反対、高騰する核燃料廃棄物処理費、廃炉費増大で敗退するでしょう。

ウランの原始資源量を持ち出すなら炭化水素燃料の原始資源量も膨大です。しかし原始資源量に手をつけることは採掘コストが膨大で環境汚染にもなり世代 交代の要素となりえないプロパガンダ的数値でしょう。

トリウム炉は資源量はウランの4倍で、プルトニウムを副産しません。しかし核兵器がほしかった先進各国はこれを熱心には開発しませんでした。溶融塩炉 など新型炉を開発すれば より安全なため、最近再評価されつつありますが、量は少ないですが放射性廃棄物がでるのはウラ二ウムと同じです。ただ研究開発を停止して時間が経過してい ますのいでこれを再立ち上げするには時間がたりません。再生可能エネルギーがどうしても不足するときの非常用エネルギー源として評価できるのかもしれませ ん。

国際エネルギー機関(IEA)の2010年10月のレポートによると、世界のエネルギー需要における原子力のシェアーは2008年の6%から2035年に は8%へと上昇すると予測。同期間、世界の全体エネルギー需要は36%上昇するという。現在世界中で440基の原子炉が運転中、58基が建設中、更に 150基が計画中で合計648基と1.5倍になります。その新しいプロジェクトの多くはアジア地域にあります。今後の増加も含め、IEAがウランのワ ンスルー利用を前提に現状の3倍程度の原発基数をピークとする試算は原子力の過大評価かもしれません 。そこで1.5倍がほぼ妥当としました。

ジェームス・ラブロック氏は「ガイアの復讐」で原発を過大評価をしたため、氏の限界を露呈させてしまいました。

核融合は実現しない夢物語でしょう。

 

再生可能エネルギー

100%再生可能エネルギーとして使われた薪は広義のバイオですが、伝統的な使い方なので区別しました。この薪から炭化水素燃料である石炭への世代交代は 産業革命後に起こりました。気候変動問題があろうとなかろうと 炭化水素燃料を使い尽くせば、人類は風力とか、薄く分布しているけれどほぼ無限のソーラーセル発電に切り替えなければなりません。

水力もバイオもすでにそのポテンシャルは利用しつくされていて絶対量は一定、すなわち分率は減少するとしました。

現在世界における二次エネルギーである電力の発電量は16.32兆kWh/yです。風力は2008年の風力が世界の電力に占めるシェアが1.14%ですか ら一次エネルギーに関しては0.44%となります。

2013年のソーラーセル(PV)の世界の累積出力予想は40,000MWですから、年間発電量は412億kWh/yとなり、世界電力の0.067%とな ります。一次エネルギーに関しては0.026%となります。

日本政府は2009年にソーラーセル(PV)の発電容量を2020年までに2,800万kWh(年間発電量にして電力の2.8%、一次エネルギーの 1.1%)、2030年までに5,300万kWh(年間発電量にして電力の5.2%、一次エネルギーの2%)にする目標をたてました。世界のソーラーセル (PV)の普及速度は日本と同じとすれば風力と集光型太陽熱発電(Central Solar Thermal Power, CSP)を全て含めて2030年でf=0.03としてもおかしくはありません。実はこのダイヤグラムは政府が目標値を公表する2年前にこうでもしなければ 人類は大変なことになると予想し、ネット公表していたものですが、奇しくも一致したというか参考にしてもらったかなと満足しております。

図-1.8 欧州太陽光発電産業協会のソーラーセルの年産量と累積出力(2009以降は予測値)

図-1.7のように現状は旧技術である結晶型セルを政策的に強引に伸ばしている段階でまだ目標値には達していません。薄膜型シリコンや化合物半導体など新 技術が普及すれば自動的に成長してゆくものと考えられます。セルの成長速度はナキシェノビッチ・ダイヤグラムが示す過去の各種エネルギーの成長速度と同じ と仮定しました。新技術ですので過去より早い速度で普及させることは可能でしょうけれど、社会、政治的抵抗は変わりないだろうという読みです。したがって 2000年にバックキャストすればf=0.007となります。

 

改訂マルケッティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラム

1970年までの薪、石炭、天然ガス、原子力、水力、バイオなどの分率はマーケイティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラムの 数値を使いました。そしてIEAのWorld Energy Outlook を参考にして2000年の分率 f を石油0.35、天然ガス0.21、原子力0.067、水力0.023、バイオ0.1、風力/太陽光0.007、残りは石炭としました。

図-1.9 グリーンウッド・ダイヤグラム

2,000年から2150年までは石油のシェア・ピークが2005年でf=0.3、天然ガスのシェア・ピークは2040年でf=0.3、原発のシェア・ ピークは2040年でf=0.1としソーラーセル (PV)の2000年の初期値を0.07と決めれば全てのエネルギーに関し勾配はほぼ同じであるから簡単にシェア曲線が描けます。水力とバイオはピークに 達した後、次章で説明する総エネルギー消費量が一定になるように試行錯誤で減少傾向に調整しました。

薪、バイオ、水力、風力、ソーラーセル(PV)は太陽エネルギー由来の再生可能エネルギーですので、その合計を参考までに表示しました。これをみますと 2050年の再生可能エネルギーは20%です。このうち太陽光、風力は9%で2010年の日本政府の目標値にほぼ近いのですが、炭化水素燃料の合計は全エ ネルギーの70%を占め、政府が目標とする90年比80%源は二酸化炭素回収・隔離(CCS)無しには不可能なことは明らかです。

炭化水素燃料を使った2世紀間は再生可能エネルギーはバスタブ曲線となって22世紀には再度19世紀の100%再生可能エネルギーの世界に回帰することに なります。ただその利便性はかっての薪に比べて格段にすぐれています。人類は 炭化水素燃料によって次の世代への飛躍を遂げたとも言えるかもしれません。

マルケッティ・ナキシェノビッチ・ダイヤグラムとグリーンウッド・ダイヤグラムを比較してみると、原子力と天然ガスが予 想程ではなく、太陽光が予想より早く伸び、核融合が消え去り、石炭がカムバックすることが違います。

さて私ごときものの予測など信用できるかという方にはEwald Breunesse, Shell Netherlands, 14th IAMA Annual World Conference, Montreux, June 14th 2004がラフですが同様の予想をしていますことを申し上げます。

2010年7月、ドイツ環境庁(Federal Environmental Agency (UBA) )がヨーロッパ最大の応用研究機関であり、ドイツ国内にある59の研究所を含む80の研究ユニット傘下にもつドイツのフラウンホーファー研究機構 (FhG) に委託していた2050年までにEUの原子力、石油、石炭、ガスの消費をゼロにし、100%再生可能エネルギーに切り替えることができるという試算「エネル ギー構想2050」を公表しました。 これは4年かけたシミュレーションモデルで解析したものです。これによると

一次エネルギー

%

PV+CSP発電+太陽熱 20
海上・陸上風力 32
水力 6
バイオマス発電+バイオマス熱 32
地熱 10
合計 100

表-1.6 2050年のEUのエネルギーシナリオ フラウンホーファー研究機構

グリーンウッド予測とドイツ・シナリオはおおよその方向はおなじですが時間に2倍の速さのちがいがあります。グリーンウッド予測はマルケッティー・ナキ シェノビッチが歴史から推定した変化率をつかっています。しかしドイツ報告のシナリオは原子炉を廃棄するという野党時代の法律に従い、その制約条件で作成 されたと推察できます。驚くべきはそれでも技術的にも経済的にも可能という計算結果がでたことです。むろんPVなどのように発展途上技術をどう評価するか が問題なのとまだ化学貯蔵の検討が深くはなされていないようで、少し楽観的だと思います。

意外なのは地熱が10%と重視されていることです。太陽熱も太陽の核融合利用ですが、地熱は無理に核分裂物質を掘り出さ ず、崩壊熱だけ利用するのです。天然ガス掘削技術と高圧水によるフラクチャリング技術の波及効果で16yen/kWhが可能となったようです。発電機はカ リーナサイクルを採用しているようです。

さて原子炉を速く廃棄するという法的制約を保守党がひっくり返しましたが、憲法裁判所で審議中でだそうでこれからどう展開するかまだ不透明のようです。し かしそうであっても技術的に可能という報告は民意に反映されていくような気もします。これはドイツでつくられましたがドイツだけでは実行できません。北海 と地中海とトルコを巻き込んでゆくわけですからいずれEUで審議されるのでしょう。であればそのうち英訳が公式にでるのではと期待しています。

ドイツは発電と送電は別会社です。消費者はどの電源ミックスを買うか選べるとのこと。5年前は原発を含まない電源ミックのメニューのほうが電力料金は高 かったのですが最近は安くなっていると、ケルン在住の望月氏はいっています。国境を越えたノルウェーの水力が安いからだそうですが、フランスの原発の単価 が上昇したのかドイツ国内の原発早期廃棄のために加速償却費を上乗せしたためなのかはわかりません。いいずれにせよ自由市場ではこうして淘汰され、早い変 化をもたらすのだと資本主義の効率性と事業者にとっての怖さを教えてくれているのかもしれません。

理由はどうであれこれは戦争のための投資に匹敵する規模です。こういう投資をすれば今の不景気が蒸発してしまうことはフーバーの優柔不断でますます不景気 になっていた米国が第二次大戦で興隆した事例に見られるとおり、ヨーロッパの勝利を約束しているのかもしれません。

 

予想消費曲線

<資源に無関心でエネルギー消費抑制できないと到来する危機>

図-1.9のグリーンウッド・ダイヤグラムのフラクション f を世界の一次エネルギー消費量予測に適用して図-1.10を作図してみました。エネルギー消費量は2140年の全エネルギー消費を100とする相対値で表 示しました。

エネルギー消費抑制しないで現時点のペースで伸ばすと、表-1.1 2004年の世界の究極可採埋蔵量、可採埋蔵量、可採年数(炭化水素燃料BP統計2005、ウランはIAEAの値)に示された 炭化水素燃料は ピークを過ぎます。そこで価格が急騰して消費が抑制され、消費の伸びはピークし急速に減少に向かい経済はダメージをこうむることになります。

図-1.10 可採埋蔵量を使い切ることになってもエネルギー消費抑制しないと到来する危機

BP統計の石油の可採埋蔵量は不足します。しかし米国の地質調査所は究極可採埋蔵量は3兆バーレルあるとし、キャンベルの1.8兆バーレルの1.7倍あり ますのでなんとかなるでしょう。

天然ガスはBPの可採埋蔵量の2倍以上必要となります。しかしモールとエバンスは非在来型天然ガスも加えれば究極埋蔵量は3倍あるとしております。ウラン のIAEAの可採埋蔵量も少ないことがわかります。

石炭はCSSしてでも資源を目一杯に使いきることになるのでしょう。

水力は降雨と地形の限界のため、世界の絶対量はそれ以上伸びずそのまま使われ続けます。

炭化水素燃料とウラン資源枯渇後は人類は再生可能エネルギーに依存しなければなりません。

<資源を大切に使うためにエネルギー消費抑制する>

可採埋蔵量しか使えないと仮定するとーラーセルの普及には時間がかかりますので、ピーク・オイル後は総消費量の消費を抑制下げないと炭化水素燃料は再生可 能エネルギー普及前に急速に ピークアウトしてしまいます。危機を防止するためには2010年ころエネルギー消費を減速させなければならないことになります。ローマクラブの成長の限界 を書いたメドウズ教授が2030年頃が人類の最も苦しい時期としているのと符合します。

このように節約しても石油は不足します。しかし米国の地質調査所は究極可採埋蔵量は3兆バーレルあるとし、キャンベルの1.8兆バーレルの1.7倍あるか らなんとかなるのでしょうか?天然ガスはBPの可採埋蔵量の2倍以上必要となりますが、モールとエバンスは非在来型天然ガスも加えれば究極埋蔵量は3倍あ るとしております。

2,100年以降はほとんど 風力、ソーラーセル(PV)ならびに集光型太陽熱発電ということになります。これら再生可能エネルギーは設置面積に制約があります。ここでは世界のバイオ 燃料用用地の1.5倍同程度の面積に設置するとしました。バイオの転換効率が1% 薄膜型シリコンの転換効率が7%ですからバイオ燃料の10倍のエネルギーが得られます。空き地、休耕地、農耕放棄地、山地、砂漠、海洋など設置可能な場所 はいくらでもあります。 国土の1.8%にソーラーセル(PV)、CSPを設置すれば日本の電力の100%をまかなえます。

図-1.11 BP可採埋蔵量しかない場合でもエネルギー消費抑制すると

植物などのバイオは光合成の効率が薄膜型シリコン・ソーラーセル(PV)の1/7以下と低いけれど、安価でもあるので現在以上に伸びないがそのまま一定に なるようにfを調整しました。

<可採埋蔵量の2倍使えるとして、エネルギー消費抑制ない場合>

石油でもガスでも可採埋蔵量は価格が上がれば、回収率を上げ、金のかかる三次元地震探鉱をして背斜構造以外の向斜構造にもミクロな油脈をみつけて増えま す。 幸運にもBPの可採埋蔵量の2倍は使えるとするとしますと図-1.11のように2050年ころまで現在の成長速度を継続できることがわかります。

ただし石油はBPの可採埋蔵量の2倍は必要となります。しかし米国の地質調査所は究極可採埋蔵量は3兆バーレルあるとし、キャンベルの1.8兆バーレルの 1.7倍あるからなんとかなるのでしょうか?

天然ガスはBPの可採埋蔵量の3倍以上必要となりますが、モールとエバンスは非在来型天然ガスも加えれば究極埋蔵量は3倍あるとしております。これからは 天然ガスの時代が来るのでしょうか?

図-1.12 BP可採埋蔵量の2倍使えるとして、エネルギー消費抑制ない場合

 

水素社会はくるか?

人為的二酸化炭素増加が気候変動の主犯とされてから水素エネルギー、水素社会、水素エコノミーというキャッチフレーズが過去10年間話題に上っています。 水素エネルギーが一般受けするのは燃えても水蒸気しか発生しないというところにあるのでしょう。マスコミが廃棄物は水しかないという美しいイメージにとび つき、政治家・役人・御用学者と一部業界が無批判に迎合した概念に過ぎません。そうして水素エネルギー研究に税金が無駄に投じられてきました。

しかし、そもそも水素という資源は地球上には存在しません。一次エネルギーではないのです。電力とおなじく、人間が生産する二次エネルギーです。二次エネ ルギーたる水素は 炭化水素燃料を変換して製造するか、原発、火力、ソーラーセル(PV)、集光型太陽熱発電(CSP)などの電力で水を電気分解して製造するか、集光型太陽 熱反応器で熱化学的に製造するしかないのです。核分裂の熱を高温ガス炉から850-950oCのヘリウムガスとして取り出し、熱化 学的に分解する方法もありますが、放射能汚染リスクを考慮すれば好ましくありません。

電力は蓄えが利きませんから海を渡る送電網を完備して昼の国から夜の国へと送電することも考えられます。あるいは水素に変換して蓄え、夜間に燃料電池で再 度電力にする、または蓄電するなどの方法があります。しかし遠隔地にあるサンベルト地帯の太陽エネルギー発電や遠隔地に立地する原発の電力を水素に変換し ても水素を液化し または他の物質に吸蔵させて運ぶより、炭素または窒素を水素の貯蔵・運搬キャリアとするとしたほうが熱効率も高く、低コストでしょう。

炭素を水素キャリアとする場合は水素と二酸化炭素からメタン、LPG、メタノール、ジメチルエーテル(DME)などの低炭素燃料を合成し、既存のタンカー で輸送し、消費地で燃して電力や動力エネルギーを取り出します。

窒素を水素キャリアとする場合は炭化水素燃料由来の水素の場合にはハーバーボッシュ合成で窒素と反応させてアンモニアにしますが、再生可能エネルギーを一 次エネルギーにする場合は電解合成で直接アンモニア変換して燃料とし、タンカー輸送し、消費地でボンベに詰めてハイブリッド車の燃料とします。

人為的な二酸化炭素が気候変動ではないかという危惧は大気の容量が有限であるという事実から発生したものですが、それよりなにより炭化水素燃料が有限であ るということを忘れてはいけません。二酸化炭素が気候変動の主犯で無いと判明しても 炭化水素燃料がピークアウトすれば アンモニアは太陽エネルギー貯蔵と運搬のユニバーサル手段となるでしょう。

二次エネルギーとして電力とともに再生可能エネルギーを転換したアンモニア燃料を使う場合、著者は究極のサステナビリティー社会へと呼ぶことを提案しま す。放射性廃棄物も副産しない安全でクリーンな社会を維持できる究極のエネルギー貯蔵・輸送システムとなるでしょう。

 

アンモニア燃料を含むエネルギーの世代交代

図-1.8のグリーンウッド・ダイヤグラムに二次エネルギーたるアンモニア燃料のシェア曲線を書き加えてみました。前提は2つです。

前提1:最終的には天然ガスと石炭の30%がハーバー・ボッシュ合成によりカーボンフリーの二次エネルギーたるアンモニア燃料に転換される

前提2:最終的には再生可能エネルギー電力の50%は国境を越えての系統連携、残りの50%をアンモニア電解合成で燃料に転換して貯蔵・運搬に供する

図-1.13 2次エネルギーたるアンモニア燃料のシェア予測

図-1.14 BP可採埋蔵量の2倍使えるとして、エネルギー消費抑制ない場合のアンモニア燃料の成長曲線

図-1.13のようなアンモニア燃料のシェア曲線を仮定し、BP可採埋蔵量の2倍使えるとして、エネルギー消費抑制ない場合のアンモニア燃料の成長曲線を 描くと図-1.14のようになります。

22世紀はソーラーセル(PV)を一次エネルギー源とし、アンモニアと電力を二次エネルギーとする世界を想像することができます。 炭化水素燃料が枯渇するから世代交代するのではなく、エネルギーの価格競争に負けて交代するわけで、炭化水素燃料は素材産業の原料としては使い続けられる のではないでしょうか?

この図が意味するところはBP可採埋蔵量の2倍使えるとしても炭化水素燃料とウラン235のピークアウトは石油、天然ガス、石炭、ウラン235で それぞれ2020、2050、2080、2050年です。ウラン資源は高速増殖炉が安全であれば資源量を増すことができますが、コスト的に再生可能エネル ギーに敗れるでしょう。そのとき二次エネルギーとして電力 のほかになにがあると問えばアンモニアがあるということがいえると思います。

 

気候変動の事実

2010年4月にGirma Orssengoがハドレー・センターが公表している1880年からのGlobal Mean Temperature Anomaly(GMTA)データを数学的に回帰分析して”Predictions Of Global Mean Temperatures & IPCC Projections”という論文として公表しました。世界の平均気温の偏差は60年周期で振動しております。IPCCは一時期の傾向をリニアに外挿し ているだけに過ぎないことがわかります。

図-1.15 Girma Orssengoによる世界の平均気温の偏差のモデル化

Orssengoは60年サイクルは多分20〜30 年周期の太平洋十年規模振動(PDO Pacific Decadal Oscillation) が原因としていますが、これに加え70年周期の 大西洋数十年規模振動(AMO Atlantic Multidecadal Oscillationも影響しているでしょう。これらの海洋の振動現象は海洋がもっている非線形性由来の一種自励振動と見られます。PDOは1946年 頃からは「負」位相となり寒冷化させ、1977年頃からは「正」位相となり温暖化させ、2000年頃からは「負」位相へと偏移しています。

IPCCは太陽放射の変化は0.1Wm2(0.03%)しかないとしているために大気中に0.04%しかない二酸化炭素の温室効果だと早合点しました。水 分は数%も含まれるというのに。確かに可視光の変動幅は0.1%ですが、紫外線の変動幅は6-8%、紫外線より短波長放射は紫外線の2倍以上、UVはオ ゾンを破壊する時発熱するのです。
太陽のフレアか ら流れ出る太陽風は大気を加熱します。強い太陽の磁気シールドは宇宙線を遮ぎり、宇宙線が大気に入らず低層の雲が消えて晴れるた め受熱量です。これがIPCCモデルに入っていません。

2,000年以降は太陽活動が低下したため入熱が不足してハイエイタス(hiatus 地球全体の気温上昇の停滞状態)と呼ばれている現象を示し、若干 寒冷化したのですがIPCCモデルは2000年までの温暖化を温室ガスで説明できるモデルを作成してしまったため、2,000年以降の寒冷化 を説明できない でします。 温暖化ガスの温室効果がさほどでないとすると過去500年にあった天明の飢饉とか、ブリューゲルが描いた雪景色、テームズ河が凍結した小氷期がやってくる こと も対策にいれねばならないでしょう。現に五大湖は凍結しはじめました。

ICECAPのJoseph D’Aleoは“US Temperatures and Climate Factors since 1895“で気温と 二酸化炭素、気温と太陽放射、気温とPDO+AMOの回帰分析をして次のような結果を得ました。

Factor  Years  Correlation (Pearson Coefficient)  Correlation Strength (R-squared) 
Carbon Dioxide  1895-2007  0.66 0.43
Total Solar Irradiance  1900-2004  0.76 0.57
Ocean Warming Index (PDO and AMO)  1900-2007  0.92 0.85
Carbon Dioxide Last Decade  1998-2007  -0.14 0.02


表-1.7 Joseph D’Aleo回帰分析


IPCCは中層の海水温度があがったため海水面は膨張したとしていますが、これは2000年までに増えた太陽放射で温められた海水が溜まっただけの時間遅 れ現象だと納がゆきます。

人工衛星のデータでは、水位は一方的に上昇し続けています。水位が上がる最も大きな要因は海水が温 まって膨張することですが、海面の温度はそれほど変化していません。どこか別の場所が温まっているはずです。それが水深700〜2000メートルの深層 だったのです。世界の海には現在、水深2000メートルまでの水温と塩分が観測できるアルゴフロートという観測機器が3,000台以上浮かんでいて、ほぼ 地球全体をカバーできるようになっています。海水温の観測データを見ると、2000年以前は海面の水温が上昇しているのに対して深層はそれほどではありま せん。しかし2000年を境に、海面の水温上昇が収まって深層の水温が急速に上昇しています。ここ十数年で深層の熱吸収が活発化しているということです。 太平洋を南北に切って立体的に見ると、断面にはU字型に温かい水域があります。

深層が温まるという現象は、20〜30年周期で起こる太平洋の海面水温の自 然変動であるPDO:(太平洋十年規模変動)あるいはもっと長期のAMO:

(大西洋数十年規模振動)と連動していま す。言い換えれば、熱帯地域の水温が低く、日本などの中緯度地域が高くなっている時期にが起こっています。このことから、少なくとも自然変動であると推定 できます。

私が10才のころの1950年代はとても寒かった記憶がありますが、このグラフにそれが示されています。

さてGirmaOrssengoの回帰分析には長期的な上昇傾向が見て取れますが、温室効果が温暖化の主要要因でないと すると、 現に2012年から17世紀のマウンダー寒冷期のような太陽黒点が長期間でなくなる徴候が太陽で観測されましたことも踏まえ、過去500年の気温サイクル を考慮してウエスターン・ワシントン大名誉教授のDr Don Easterbrookは”Evidence-Based Climate Science: Data opposing CO2 emissions as the primary source of global warming”で下図のような予想をしています。



図-1.16
寒冷化に向かう?

大気と海洋の炭素収支

1960年にスクリップス海洋研究所のキーリング教授がハワイのマウナロア観測所で大気中のCO2濃度測定を開始しま した。測定結 果は図-1.16の通りです。

図-1.16 マウナロア観測所で大気中のCO2濃度変化  Wikiより

この測定結果の解釈として@温暖化は炭化水素燃焼による人為的原因とする説(AGW: Anthropogenic (man-made) Global Warming)とA温暖化は別の原因により生じ、人為的二酸化炭素排出との相互関係はないとの 2説あります。

現時点ではホートン、真鍋淑郎、松野太 郎、明 日香壽川に代表される世界中の気象学者とIPCCは@説に立っています。A説は懐疑説と言われるもので槌田敦教授や丸山茂徳東京工業大学教授、赤祖父俊一 が提唱しているのものです。@で凝り固まってしまっている主流派であるIPCC、気象学会、物理学会はA説を排除しようとあらゆる 妨害をしてAをまじめに検討しようとしません。これは専門家がそれぞれがタコツボに入ってしまって全体を見ないために発生した認識問題だと思います。

図-1.15は大気中の濃度の観測値でこれは否定しようがありません。これと実際に大気に出た人為的二酸化炭素排出量と海洋による吸収量をエ クセルで炭素 収支とることで検証してみましょう。

炭素収支モデルは大気への排出量から海洋などの吸収量を差し引いた残りが大気に残留すると考えます。そうす ると炭素収支 式はn+1年の大気濃度はn年の大気濃度にn年の残留量を加算したものですので

n+1年の大気濃度 = n年の大気濃度 + n年の残留量

となります。そしてn年の残留量はn年の排出量からn年の吸収量を引き算したものですから。

n年の残留量 = n年の排出量 - n年の吸収量

となります。この式で排出量も吸収量も簡便のため濃度表現します。

基準年は1960年とし、その時の大気濃度測定値316ppmvと2008年の385ppmvを採用しま す。2000年 までのn年の排出量は図-1.3の世界の石油生産の実績に比例するものとすれば炭素排出量は25億トン/y、2ppmv/y相当であるとわかります。 2000年以降の予測は図-1.14のBP可採埋蔵量の2倍使えるとしたときの炭化水素総量に相当するベージュ色の曲線に比例するとして決定します。そう すると放出量は図-1.17の紺色の曲線となります。

IEAの炭化水素燃料消費データから2,000年のCO2排出量は257億トン/y (炭素換算排 出量70億トン/y または7Gt/y)で濃度換算で5.9ppmv/yとされております。地球の表面積は5.1x1014m2、 大気圧は104kg/m2、対流圏は大気圏全体の質量の75%、大気の平均分子量28.8kg/molであ るから5.9ppmv/yの炭酸ガスは0.78x1012mol/yとなります。炭素の原子量は12kg/molですから炭素量に して0.936x1010トン/yすなわち94億トン/yとなります。70億トン/yとはぴったり一致しませんがここではよしとし ました。

残念ながら吸収量は直接測定できません。従ってn年の排出量からn年の残留量を引き算して求めました。大気中蓄積量がキーリングの2009年 までの観測値 に一致する吸収量を逆算すると図-1.16のピンク色の上下に振動する吸収曲線が得られます。上下に激しく振動していますが平均値は約4ppmv/yで す。吸収量は大気中の二酸化炭素濃度が高まればヘンリーの法則で海表面に溶ける量も増えるだろうし、海洋の対流が増加すれば増えるでしょう。特にラニーニャ時、貿易風がチリ沖の深層水を赤道上に引きずり出して赤道上に広げ、吸収が増えるのではという仮説を考え てみました。 無論海中の藻などの生物による固定も影響するでしょう。陸では温暖化でケイ酸塩岩石の風化も増えるということでしょうか?

吸収量の2010年までの変動パターンが図-1.15 Girma Orssengoによる世界の平均気温の偏差のモデル化と酷似しているのは興味があります。つまり温暖化の原因がなんであれ、吸収量は気温に左右されると いうことのようです。そこで2010年以降の吸収量はGirma Orssengo曲線に比例するとしてみました。吸収量は振動しながら平均値は6ppmv/yに向かって徐々に増えます。これは図- 1.17の2010年以降のピンク色の曲線で表されます。

本結果はIPCCの4次報告の海陸合計吸収量2.6ppmより多くなっております。4次報告では炭化水素起源炭素排出量72億トン/y、海へ の正味吸収量 22億トン/y(1.8ppmv/y)、陸への正味吸収量9億トン/y(0.8ppmv/y)です 。

図-1.17 炭素排出量と吸収量

図-1.18の2010年までの大気中のCO2濃度変化(CO2蓄積量 )はハワイの測定値です。1980年代は石油生産が落ち込んでいますが吸収量も減じて二酸化炭素濃度は単調に増加しています。2010年以後の予想は図- 1.17炭素排出量と吸収量から計算しました。2090 年ころ690ppmでピークを過ぎます。 現在の炭化水素燃料の確認埋蔵量の2倍程度消費出来るとしても、また特に抑制策を講じなくとも、炭化水素燃料コストが再生可能エネルギーとのコスト競争に 負けるとすれば最大690ppmを越えることはないということになります。

図-1.18 大気中のCO2濃度変化 (CO2蓄 積量 )

以上を見ますと@説は説得力を失います。別の原因でまず温暖化があり、その結果、海水の対流が激しくなり、海水への吸収量が変動すると考える のが自然で しょう。すくなくとも槌田敦氏や丸山茂徳東京工業大学教授の温暖化がまずあったというロジックは当たっているとおもいます。 丸山茂徳東京工業大学教授のように温暖化で二酸化炭素が増えるのは陸の有機物の酸化分解はありえても海中から放出されるというのはミクロではありえても、 海洋が飽和していないのですから、マクロでは吸収でしょう。それでは温暖化はなんで生じたかですが、自然現象しか考えられません。 温暖化は人為的な放出量という歴史的事件にたまたま一致したのでしょうか?

IPCCの見解はどうかといいますと。二酸化炭素の最高値はKen CaldeiraとMichael E. WickettがNature 425, 365(25 September 2003)に発表した図-1.19の2000ppmという大気中濃度よりは少なくなっております。ケン・カルデイラらは大気中に排出された二酸化炭素は上 層部数百メートルにある急激な温度勾配をもつ温度躍層が表層水(水深数百m)と中深層水(水深数千m)の対流を阻んでおり、またウォーレス・S・ブロッ カー博士が唱える大循環だ けが海洋の対流だとすると二酸化炭素は速やかに海洋に吸収されないとして計算したものです。

図-1.19 二酸化炭素排出量、大気中濃度、海洋のphの変化

Ken Caldeira and Michael E. Wickett Nature 425, 365(25 September 2003)

二酸化炭素の吸収の主役は光合成、海洋吸収、ケイ酸塩岩石の風化により炭酸カルシウムとして固定さ れます。キーリングの測定データを見ますと毎年一定のサイクルで振動ながら少しずつ増加しております。これは植物の光合成とその燃焼 、海洋への溶解と海洋生物による固定、花崗岩のようなケイ酸塩岩石の風化による振動でしょう。IPCCは海洋の対流は大循環しか考えませんが、ラニーニャなど貿易風が対流を促進するとすれば 深層の未飽和の海水が海洋表面でこれを吸収してくれます。

 

海洋の二酸化炭素熔解平衡

2006年の二酸化炭素回収貯留特別報告書の第6章海洋貯留(ローレンス・リバモア国立研究所のケン・カルデイラら執筆)に従い、まず海の生 理を少し詳し く解説しましょう。大気中の二酸化炭素(CO2(g))は海水(H2O)中の炭酸(H2CO3(aq))、 重炭酸イオン(または炭酸水素イオンBicarbonate ion HCO3-)、炭酸イオン(CO32-)、 と水素イオン(H2+)と平衡になっています。

海洋にはpH値を左右する水素イオン(H2+)や水酸イオン(OH-) を凌駕する多 量のアルカリ金属イオンが溶け込んでいるため、緩衝溶液となっております。炭酸カルシウムの溶解度は海深が増すと大きくなり、逆に表層の大気圧下では過飽 和状態になっております。このため、海洋生物がサンゴ礁や珪藻類がその骨格をつくることが出来ているのです。表層で光合成していた珪藻類の死骸は深海に沈 んでゆき、そこでCaCO3は再溶解されます。

海水に二酸化炭素が吸収されると

CO2 + H2O + CO32-  ⇒ 2HCO3-

CO2 + H2O ⇔ H2+ + HCO3-

の平衡がずれて炭酸イオンが重炭酸イオンに変わり、水素イオンが増えてpHが下がります。すると下式の炭酸カルシウムによる中和が生じ、実際 にはpHはた いして低下しません。

CaCO3(s) + CO2(g) + H2O ⇔ Ca2+ + 2HCO3-

しかし表層の過飽和の炭酸カルシウムが消費されつくされれば表層は完全に酸性化されてしまいます。

以上は図-1.20バエスの図で表現するここでmeqはアルカリ度の単位で海水中の水中に含まれるアルカリ分の総量に対応します。アル カリ成分 (OH-やCO32-)をこれに対応する炭酸カルシウム(CaCO3) の量に換算して表したものです。

炭酸カルシウム1mg=0.01998 x アルカリ度(meq)

図-1.20 二酸化炭素の海洋への吸収と中和反応の経路 (Baes 1982)

酸で滴定するときの指示薬としてMR(methylred)混合指示薬やMO(methylorange)指示薬を使うことから、別名Mアル カリ度と呼ば れております。Mアルカリ度は、水中のアルカリ分の総量に対応するため、総アルカリ度とも呼ばれます。アルカリ度は水が持つ酸に対する緩衝能力を現してお ります。

白線と白文字は二酸化炭素分圧をppmで表示し。黒線はpH値を示します。緑色の領域は炭酸カルシウムが過飽和の領域で、褐色の領域は不飽和 の領域です。 表層の平均組成と海洋全体の平均組成も表示してあります。

二酸化炭素が海に溶けるとアルカリ度一定のまま溶存無機炭素量が増します。そうしますと1年くらいかけて炭酸カルシウムが溶解してアルカリ度 と溶存無機炭 素量の双方が増します。二酸化炭素1モルに対し、2モルの炭酸カルシウムが溶解します。

 

大気と海洋のダイポールモード現象

<熱塩循環流(thermohaline circulation)>

一般に海洋は深さ100m位に温度躍層があって、上層が暖かく、中深層水とは対流しておりません。唯一の対流はコロンビア大教授、ウォーレ ス・S・ブロッ カー博士が唱えた大循環のみとされています。これは北極海で冷却された海水が北大西洋の深海に滝のように流れ込み、太平洋とインド洋で湧き上がっていると いう説です。グリーンランド沖で沈み込んで北太平洋で湧き上がるまで1,600年かかるとされている常識より多いということでしょう。これを熱塩循環流と よびます。



図-1.21 熱塩循環流

<Dansgaard - Oeschger cycle>

グリーンランド氷床には過去10万年分の氷が積もっています。この氷の酸素同位体比分析値を時間軸上にプロットするとギザギザの振動波が見 えてきます。これをダンスガード−オシュガー振動(Dansgaard - Oeschger cycle)とも呼びます。氷期における温暖な亜 間氷 期(interstadial)と寒冷な亜氷期(stadial)の顕著な気候変動サイクルで、D-Oサイクルとも呼ばれます。

グリーンランドで掘削された氷河の氷の18O酸素同位体比分析から1.2万年前の石器時代、長い 氷河期を終えて温暖化していた地球の温度が突然下がり始めたことがわかりました。これをヤンガー ・ドライアス寒冷期といいます。ブロッカー博士は1990に海水の大循環が停止したためと説明。ローレンタイド氷床(平坦で広大な大陸を覆って形成されて いる氷河)が急に溶解し、大量の真水が北大西洋に流れ出し、海水の濃度を急に下げたため、海水の大循環が約 1,000年間停止した。このため、急に氷河期に逆戻り10℃も気温が下がったところがありました。生態系が急変し、マンモスも死に、人類は大変苦しんだ のです。

この氷の酸素同位体比分析値を時間軸上にプロットすると下 のwiki掲載図のようにギザギザの振動波が見えてきます。これをダンスガード−オシュガー振動(Dansgaard - Oeschger cycle)といいます。

大西洋には3つの深層水循環モードがあります。

@DOC亜間氷期モード(interstadial)
ADOC亜氷期モード(stadial)
Bハインリッヒ・モード

ハインリッヒ・モードとはハイ ンリッヒ・イベントとして知られる礫層の 礫は礫を含む氷河が温暖化で崩壊して流れだしメキシコ暖流でとけて礫を落とした漂流礫に表現される振動です。このハインリッヒ・イベントはダンスガード− オシュガー振動と同期しているのです。ハインリッヒ・イベント前に水温が低下して寒冷化していますが、ハインリッヒ・イベント後には炭素同位体比が軽くな り深層水循環が停滞したことがわかります。そのメカニズムの詳細は2002年のネイチャー掲載のStefan rahmstorfの論文に詳しく解説されています。

この振動が生じるのは氷床の成長と崩壊は自励振動のためなのです。まるで日本庭園におかれている「鹿威し(し しおどし)」のようなもので、ある状態(しきい値またはthreshold)を越えてしまうと、もう一方の状態へ急激に移行するわけで す。その周期は7,000-8,000年です。シンガーは1500年説をとり、北半球と南半球はシーソーゲームしているとします。

<ダ イポール現 象>

この 他にも熱塩循環流は気候のダイポールモード現象に 影響を与えます。ダイポールモード現象には次の7つが知られております。 赤道付近では、赤道波の解の1つとして、ロスビー波の解が知られています。海洋でのロスビー波は温度躍層を上下させ、西進するロスビー波と東進するケルビ ン波が連動してENSOのサイクルを引き起こします。大気中のロスビー波(Rossby wave)は、大陸・海洋の温度差や地形の高低差などによって大気が揺すぶられて生じる自由振動の波の一つで、地球大気、惑星大気で見られる大気波です。 カール=グスタフ・ロスビーによって発見された事からこの名があります。ケルビン波(Kelvin wave)はコリオリ力によって生じる定常波です。いずれも黒点サイクルと海洋との熱交換と関連して発生する定常波のようです。

海洋 のダイポールモード現象 ダイポール周期 経済サイクル 経済サイクル周期
エルニーニョ・南方振動 (ENSO El Nino - Southern Oscillation)

黒点周期の1/2

キチン・サイクル 40ヶ月
インド洋ダイポールモード現象 (IOD Indian Ocean Dipole)

ENSOに類似

- -
北大西洋振動 (NAO North Atlantic Oscillation)

数10年

コンドラチェフ・サイクル 55年
北極振動 (AO Arctic Oscillation) 南極振動(AAO Antarctic Oscillation)

数10年

コンドラチェフ・サイクル 55年
成層圏準2年周期振動(QBO Quasi-Biennial Oscillation)

26ヶ月

- -
太平洋十年規模振動(PDO Pacific Decadal Oscillation)

11年

ジュグラー・サイクル 20-30年
大西洋数十年規模振動(AMO Atlantic Multidecadal Oscillation
70年
コンド ラチェ フ・サイクル
-

表-1.7 海洋のダイポールモード現象

<エルニーニョ・南方振動>

エルニーニョとは海洋に着目したネーミング、南方振動は気圧の振動に着目したネーミングで両者が深い関係が あることがわかって合体してENSOとなりました。赤道周辺の太平洋の東西方向の振動で黒点周期の1/2周期を持っています。 エルニーニョはスペイン語で「男の子」の意味です。赤道上の赤道海流と貿易風が弱く、チリ沖の太平洋の海水温度が高めになる現象です。チリ沖の冷たい湧昇 流が少ないため、アンチョビ漁は不漁となります。1997年春ー1998年春、2002年 夏-2003冬、2006年夏ー2007年春、2009年夏ー20010年春に発生しました。貿易風が回復すればエルニーニョは終息します。貿易風が非常 に強いとフィリピン周辺の海水温度が上昇しチリ沖に冷たい湧昇流が広がります。これをラニーニャ(女の子La Niña)といいます。ラニーニャは1998年夏ー2000年春、2005秋-2006年春、2007年夏ー2008年春、2010年夏ーに発生し 、日本の猛暑をもたらし、冬に寒波をもたらしました。パナマ地峡に大雨をもたらし、パナマ運河が大雨の洪水のため、90年ぶりに閉鎖されました。ENSO は 自励振動であるAMOと関係あるかもしれません。

serial14.jpg (19773)

図-1.22 衛星TRMMが観測した太平洋の高度2,000メートルの1ヶ月雨滴分布

上 の映像: 98/1・・・20世紀最大のエルニーニョEl Niño
下の映像:99/1 ラニーニャ

<インド洋ダイポールモード現象>

IODは温暖化により温まった海水が貿易風でアフリカ沿岸に吹き寄せられ、ケニアなど に大雨を降らせ、乾燥した空気がインドネシアやオーストラリア北部に吹き降りて渇水を引き遅し、農業と牧畜業を破壊し、小麦価格の上昇をまねくサイクルで す。これは偏西風を経て日本にも影響をもたらしております。黒点周期の1/2周期を持っています。 エルニーニョ・南方振動と類似の現象でしょう。

<北大西洋振動>

NAOは、ENSOに次ぐ大規模な気候変動の卓越モードの1つです。冬季を中心に北大 西洋上のアイスランド低気圧とアゾレス高気圧がともに強まったり弱まったりする大気の東西方向のダイポールモード現象です。「NAOが強(弱)まる」と は、アイスランド低気圧とアゾレス高気圧の双方が強(弱)まり、偏西風が平年より強(弱)まることを意味します。基本的メカニズムについては謎の部分が多 く、あまり黒点との関連もなさそうです。NAOが1950年後半〜1970年代後半まではNAOの負のときが多かったの に1970-2000年の30年間においてプラス傾向になってまた減少しています。むしろゆっくりした数10年周期の振幅の振動と同期しています。コンド ラチェフ・サイクルに影響を与えているのかもしれません。「マッデン・ジュリアン振動(MJO)」もその一つ。

<北極振動>

AOとは北極と北半球中緯度地域の気圧が相反して変動する現象のことです。NAOと似 た挙動をしております。テレコネクション(大気振動)の一種で、気温や上空のジェット気流流路に影響します。ジェットストリームは磁性の北極を避けて流れ る特性があるということです。冬季にこの振動の幅が大きくなると、北半球の 高緯度・中緯度地域で寒波や異常高温が起きます。北極振動が変化する要因の1つとして太陽活動との関連が知られております。また、太陽活動は成層圏準2年 周期振動(QBO:quasi-biennial oscillation)との関連も指摘されております。これら太陽活動と気候変動の関係を調べる研究は徐々に認知されてきております。

<成層圏準2年周期振動>

QBOは赤道成層圏で赤道を中心とする南北対称な東風と西風が交互に現れる現象です。 その周期は2年から2年半程度、平均的には26ヶ月というものです。変動は成層圏界面付近の高度40-50kmで起こります。原因としては、対流圏から上 空に伝播する重力波の運ぶ運動量との関連が知られております。

<太平洋十年規模振動PDO>

PDOは太平洋の南北方向の周期20-30年のダイポール現象です。基本的には11年の黒 点周期かその2倍値の影響が見られます。がなぜ発生するのかまだ不明とされておりますが大西洋と太平洋は熱塩循環で連結されておりますから両者が独自うの サイクルで共振し、循環速度が変動すること により、蓄熱したり放熱したりすると考えるのが妥当でしょう。これが1970-2000年までの温暖化と2000年以降のハイエイタスの原因かもしれませ ん。

図-1.23 PDO

<大西洋数十年規模振動AMO>

海洋開発研究機構(JAMSTEC)の中村元隆主任研究員の「グリーンランド海の表面水温変化とそ れに伴う北半球の気候変化 (Greenland Sea surface temperature change and accompanying changes in the northern hemispheric climate)」というJournal of Climate Volume 26 Issue 21 (November 2013)掲載論文によれば1980年から35年間継続する温暖期は2015年に終了して寒冷期に入ると主張しております。大西洋数十 年規模振動(Atlantic Multidecadal Oscillation:AMO)は大西洋の熱帯域から北緯70度付近までの海面水温が、ほぼ同時にゆっくりと60年〜80年周期で上昇したり下降したり する現象で、北半球のほぼ全域の気候が影響を受ける現象で、大西洋熱塩循環流と密接に関 連しています。そのメカニズムは、本 研究以前には詳しく解明されていませんでした。

グ リーンランド海の水温変動が起こり、それが大西洋熱塩循環流に影響を与え、さらに北半球の気候にも影響が及ぶプロセスは、現在一般的に使われている気候シ ミュレーションモデルでは全く正確に表現されておらず、それらのモデルでは大西洋熱塩循環流に伴う劇的な変化・変動は正確に表現できていません。北向きの 海洋熱輸送と北向きの大気熱輸送・風力強制がポジティブのフィードバックを形成しており、変化が始まると急激に進行する可能性があります。グリーンランド 海の急激な変化は、大西洋数十年規模振動に伴う大きな変動のタイミングを決める鍵であった可能性があります。実際、長周期GSSTIは大西洋数十年規模振 動指標の変遷を10年〜15年先行して同様な長周期変遷を示しています。この10年〜15年の時間差は、グリーンランド海を通過した水温変動シグナルが大 西洋熱塩循環流に影響を与えて、そのシグナルが大西洋数十年規模振動シグナル(基本的に北大西洋平均水温)に現れるのに要すると推定される時間とほぼ一致 しています。このことからも、グリーンランド海は北半球の長周期気候変動・気候変化に重要な役割を果たしていると推測できます。本研究で見出されたグリー ンランド海と大西洋数十年規模振動の関係に基づいて推測すると、2015年前後にグリーンランド海において1979年に起こったのとは逆の現象が起こると 考えられます。最近10年ほどの地球温暖化停滞の傾向は、大西洋数十年規模振動の周期から推測される傾向と一致しており、北大西洋振動が強い負の状態にな る頻度が高くなると、上記のフィードバックが働いて数年間で北半球寒冷化へ移行する可能性もあり、今後は北大西洋近辺の変動を注意深く観察する必要があり ます。

グリーンランド海付近の大きな傾圧性変動は、グリーンランド海の水面温度の偏差によって引き起こされて大気 に強い影響を与えており、グリーンランド海の水面温度が高い状態では北半球に強い影響を持つ「北大 西洋振動」と呼ばれる変動パターンの正の状態に、逆に水面温度が低い場合は北大西洋振動の負の状態になることが分かりました。この結果に基づき、グリーン ランド海の月・領域平均水面温度をグリーンランド海水面温度指標(Greenland Sea surface temperature index、略してGSSTI)として定義し、1957年9月から2002年8月までの時系列に見られる変動と、それに伴う大気の変化・変動を分析しまし た。その結果、グリーンランド海、特に温水と冷水の境界付近の平均海水温の基本値が1979年の2月から3月にかけて急激に2℃近く上昇し、大規模大気場 に力学的強制を与えることで北半球中高緯度域の気候変化をもたらしたことが見出されました。気候変化・変動では、平均値がどの程度変わるのかが注目されが ちですが、実は平均からのズレがどう変わるのかも人間社会や生態系にとっては非常に重要です。例えば日本付近では、1979年以降、8月平均気温の平年値 からのブレが大きくなっています。つまり、毎年8月に期待される「平年並み」の気温から外れる度合いが大きくなり、猛暑や冷夏が起こりやすくなったという わけです。これらの変化が顕著なのは北緯45度から北ですが、北緯30度付近でもある程度の変化が見られます。また、このグリーンランド海の急激な水温上 昇とほぼ同時に、オホーツク海の海面水温が、冬季に限ってではありますが、基本値が大きく下がったことも分かりました。これはグリーンランド海の通年変化 とは違い、大西洋数十年規模振動に伴う季節風の変化による大気主導の変化であると考えられます。

この1979年のグリーンランド海の変化によって大気循環場は北大西洋北部周辺で特に大きく変わり、大気と海洋による北極圏への熱輸送が増加 し、北極海か ら大西洋への海氷輸送は減らされる 傾向に変わりました。この地域・海域では、北向きの海洋熱輸送と北向きの大気熱輸送・風力強制がポジティブのフィードバックを形成しており、変化が始まる と急激に進行する可能性があります。実際、北大西洋振動は1970年代中盤冬季に北向きの海洋熱輸送と大気熱・風力強制が強まる正の状態になる頻度が高 まっており、これが上記のフィードバックを通じて1979年の急激なグリーンランド海の変化をもたらしたと考えられます。さらに、この1979年の変化が アイス・アルベド(氷・雪と太陽光線の反射率)フィードバックの助けをかりて、1980年代以降の北半球の気温上昇と北極の海氷減少を引き起こしたとも考 えられます。ま た、同じ力学的要因が大気循環に影響を与えて冬の北半球中高緯度の平均気温に強い影響を与えていることも分かりました。このグリーンランド海の変化による 大気力学要因の変化は、北半球の1940年代から1970年代にかけての寒冷化、そして1980年代から2000年代前半にかけての温暖化の気温変化の傾 向とも一致しており、1980年代以降の北半球冬季温暖化は、この力学要因の変化が大きな要因となっている可能性が考えられます。そして21世紀に入って からのハイエイタスの原因かもしれません。



図-1.24 AMO

二 酸化炭素濃度は温暖化の原因になりえないとの気体分子運動 論からの説明

<二酸化炭素濃度と温暖化の関係について最初に指摘したのはイギリスの気象学者カレンダーです。奇し くも私の生ま れた 1938年に発表しました。その後、二酸化炭素のグリーンハウス効果は気象学者達の注目を引き、スクリップス海洋研究所のキーリング教授が支持し、真鍋淑 郎らが米国気象局で作った放射対流平衡モデルでモデル化されました。その考えは作業部会をリードするホートンらの伝統的な気象学者によりIPCCに引き継 がれています。IPCCやこれに同調する気象学者達は二酸化炭素にグリーンハウス効果があるとの伝統的ドグマにたって低温の対流圏上層部から全方位に放射 する大気中のグレイ・ガス放射のうち、地表に向かうものが、地表に到達して、暖めることになると図解までして説明しております。下の図は真鍋淑郎の弟子の 松野太郎が単純化したものです。

図-1.23 放射対流平衡モデル

ここで

sT4

は黒体放射に関するステファン・ボルツマンの式で す。左端は大気が透明なら地表の温度Tsは太陽 放射と等価の熱を黒体として宇宙に放射する255oKとなります。真ん中の図は大気中に温暖化ガスがあると温暖化ガスが255oK という平衡温度Teで上下に放射するため、地表は太陽放射の2倍の放射を受けます。したがって

sTs4 =2 sTe4
Ts = 21/4 Te = 21/4 x 255K=303K

から地表温度Tsは303oK となります。しかし対流が地表を冷やしますので実際には地表の平均気温は288oK(15oC)となるとし ております。288-255=33oCが温暖化ガスの効果とされます。

温暖化のコンピュータ・シミュレーションをした真鍋淑郎氏は温暖化は次の ように説明で きるとしています。

戦後、von Neumann,Charney,Phillipsらによって数値気象予報が始まり、1955年に米国気象局大気大循環研究セクションが作られた。 1958年、(東大で)博士号を取った私 は、そこのリーダーSmagorinskyに招かれ渡米した。当時、彼は大気大循環モデル(GCM)(実は海洋まで射程)の構築という壮大な計画を開始し ていた。到着早々、大気GCM作成を命ぜられた私は、当時の計算機能力から、まずは「鉛直1次元放射対流モデル」を作り、平衡状態を計算した。それは3次 元モデルへ組み込む素材でGCMへと発展させたが、同時に私は道草も喰い、CO2や水蒸気、オゾンなどのモデルに登場する量を変えてみて1次元モデルの鉛 直気温分布がどうなるか遊んでみた。この結果を載せた1967年の論文Manabe and Wetherald 1D Radiative-Convective Modelが、後になって、地球温暖化の定量的研究の先駆けと高く評価されることになった。

地球温暖化の本質は、温室効果ガスであ るCO2が増えると放射平衡高度が高くなり、その分、地表温度が上昇することにある。さらに地表面温度上昇は対流圏の温度上昇をもたらす。その結 果、大気中の水蒸気量が増え、その温室効果がさらに温度上昇量を増やす。

と書いています。真鍋淑郎氏らは温室効果とは、温室効果ガスの増加に伴い 大気の光学的厚さが増加し、宇宙への射出を行う大気の高度が上がり、放射温度が下がって平衡がずれる。結果として赤線のように下図の赤線ように対流圏の昇 温がもたらさ れる現象と説明しています。

図-1.24 放射対流平衡モデルによる温暖化の説明(赤線)

<地表の平均気温は288oK(15oC) というのはとても深い意味がある数字です。地表は日中でも太陽直射があるかないか、風があるかな どで大幅に振れますが、年間平均すると中緯度では地下2mより深いところでは15oC になっています。これは二酸化炭素のおかげであることは事実です。だから二酸化炭素濃度が増えれば温暖化するというのはチト早とちりで二酸化炭素が地表か らの赤外放射の二酸化炭素吸収スペクトル幅分を地表10m以内で全て吸収して大気に熱伝導で伝えますから対流支配の熱移動メカニズムとなりまります。対流 に二酸化炭素濃度は影響しないと考えてよいでしょう。ここで真鍋博士は間違ったのです。世界の3,000人の気象学者は真鍋教の信者ですからどうしようも ありません。

IPCC第4次報告によると産業革命前280ppmまで下がっていた二酸 化炭素濃度は380ppmに増えています。現状を放置すれば2035年には二酸化炭素は450ppmになります。(メタンなど他の温暖化ガスを含めれば もっと多のです がここでは二酸化炭素で代表して議論します)

「対流圏の上端(圏界面)における平均的な正味の放射の変化」を「放射強制力」と (Radiative forcing)定義し、1750年の「放射強制力」を基準として工業化以降の大気中の二酸化炭素濃度増加によりその放射強制力が決まるとしております。 そして二酸化炭素濃度の放射強制力は1.66W/m2になったとしております。ちなみにメタンの放射強制力は0.48W/m2で す。正の値は気温上昇を意味します。

そうすると50年後に平均気温は1.9-4.6oC 上昇し、こ の状況が数千年維持されればグリーンランドの氷床は完全に融解し世界の海面は7m上昇すると予想したわけです。

マスコミは北極海の流氷が減っている影像や南極大陸から押し出されて海に落下する氷塊の影像とともに、海面上昇がするというコメントをつけま した。しかし流氷が溶けてもアルキメデスの原理からありえないことです。地球上の氷の89%を持つ南極大陸や10.5%のグリーンランドの氷が溶けて初め て大きな海面上昇が発生するのです。山岳氷河は0.5%にすぎません。海に落下する氷塊だけを観察しても南極大陸に降る雪の量との差を計測しないかぎり、 南極の氷が減少しているとは言えないのであります。ただグリーンランドの厚さ1,000mに達する氷棚が数万個もある巨大な穴「ムーラン」から流れ込む水 により氷床が崩壊し、この水を潤滑剤にして一挙に海に滑り込むことが生じれば別ですが。

東北大の近藤純正教授はしかしこの100年間の気温上昇1.1oC のうち都市化の影響が0.9oCとしております。日本海の海水温も日本海中部は増加傾向にありますが、北東部の温度が下がるという 現象もみられるとしております。

こんな議論をしているうちに、気温は1998年にピークを示したきり、その後の12年 間は下がり続けて予測と実績の乖離が生じました。2009年のCOP15直前にクラメイト・ゲート事件まで発生し、IPCCの威信は地に落ちました。

2001年にフランクフルトでのDECHEMA colloquiumでHugとBarrettがIPCCが前提としているキルヒホッフの法則は空気中の400ppmしか存在しない温暖化ガスには適用で きないと発表しました。

二酸化炭素は赤外線を吸収するガスです。しかしそれが吸収できる波長は決 まっているわ けですから全ての波長の赤外線を吸収できるわけではありません。しかしその吸収波長域での吸収能力はすぐれていてDr. Heinz Hugらが350ppmの 二酸化炭素を含む空気に15mmの赤外線を照射する実験をし たところ10mを通過する間に100%吸収されて空気を暖めます。二酸化炭素濃度が2倍になれば5mでよいことになります。

分子モデルを図示すると下図のようになります。

Near ground level

Altitude 11km

図-1.25 分子の挙動

上図左側は地表近くでの現象を表しています。二酸化炭素は地表からの赤外線を吸収するとそれを回転運動に変化させます。二酸化炭素が再放射す るまえに廻りに2,000個もある窒素分子や550個ある酸素分子に衝突して振動エネルギーに変え てしまいますので二酸化炭素が再放射する前に地表の放射エネルギーは10m以内に空気分子に伝導で伝えられてしまいます。二酸化炭素ガスが赤外線を再放射 するのは緩和時間という時間がかかるというところがミソです。二酸化炭素がもたもたしている間に空気分子が直接衝突で熱を奪い、温度があがり、膨張して軽 くなり、対流で上昇気流が生じるわけです。この対流が対流圏の熱移動の中心を担います。さて二酸化炭素濃度が2倍になっても吸収は5mで完了するだけで、 対流すなわち熱移動はよくなりむしろ地球は冷やされ気味になります。

これをサッカーゲームの比喩で説明しますと、地表近くでボールを拾った炭 酸ガスチーム は互いに放射というロング・パスで成層圏までボールを運ぼうとしてもすぐ窒素・酸素チームにボールを奪われてドリブルで成層圏までボールを運ばれてしまう と表現すればよろしいでしょうか。多勢に無勢でボールを取り返すことなど夢のまた夢。

右側は高度11kmでは気圧が地表の1/4になるため、放射と衝突による伝導が拮抗して放射が優勢になって宇宙に向けての放射ができるように なることを示しています。しかし下方に向かう放射は途中で空気に吸収されて対流で戻ってくるため、 地表には到達しません。そしてこの高度より上では放射が優勢になりますので二酸化炭素濃度が2倍になり上方に拡散して対流がなくとも放射で伝熱しますので 下層の気温が上昇することはありません。即ち図-1.18 放射対流平衡モデルによる温暖化の説明の青線のようになります。

ブラウンシュバイク工科大学、数理物理研究所のゲルハルト・ゲーリッヒ (Gerhard Gerlich)らのAtmospheric and Oceanic Physics 11 Sep 2007掲載の論文「Falsification Of The Atmospheric CO2 Greenhouse Effects Within The Frame Of Physics 2009年にはversion4.0 オリジナルペーパー PDF」において;

二酸化炭素温暖化説に呪術力を与え た真鍋淑郎氏(2021の物理学賞) の「鉛直1次元放射対流モデル」に熱伝導モデルを組み込まなかったのが過ちの始まり。

対流圏はホートンらの伝統的な気象 学者が仮定し たキルヒホッフの放射法則が使える局所的熱力学平衡場(Local Thermodynamic Equilibrium LTE)で、プランク黒体関数を放射伝達方程式の放射源関数に適用することができとしている。 ゲーリッヒは対流圏においてすら、分子過程を考えなければいけないとしている。分子過程からみると熱移動は熱伝導と放射のいずれかである。熱伝導はファン デルワールス力が働く、直接衝突による殻外光子にかかわる現象である。放射は電子軌道の遷移に起因する殻内光子の放出である。電子と光の相互作用は量子論 的に記述される。実際の対流圏ではキルヒホッフの法則とプランク関数で熱移動される場ではなく、全ての熱は放射・伝導・対流、水の蒸発・凝縮、降雨 が相互に絡み合いながら低温に向かって移動する。したがって不透明ガスによる不透明ガス帯域での再放射は地表へ達することは殆どない。従って IPCCが主張するような不透明ガスの再放射が地表に熱をリサイクルするという意味の温室効果を持つことはない。

スーパーコンピューター上に構築さ れたモデルは 真鍋淑郎氏に習い、大気中の炭酸ガスと窒素ガス等の分子間熱伝導をゼロとしているため、モデルはプランク黒 体関数を放射伝達方程式の放射源関数に適用して、ありもしない温室効果を計算しているのだとする。

ゲルハルト・ゲーリッは流動現象のナビアストークス方程式を発展させて放射という電磁現象を記述する電 荷の保存則、物質保存則、マックスウェル方程式、 オーム法則、慣性保存則、エネルギー保存則、ポインティング定理から電磁流動方程式を構築した。これからエントロピー式を導出し、この式の中に二酸化炭素 濃度という項を入れることができないとしている。いずれにせよこのような非線形の微分方程式は解析的には解けない。コンピュータを使って強引に数値計算で 解けくということになる。気体分子運動論がしめす二酸化炭素と空気のあいだの分子衝突も含めた 放射・伝導・対流モデルを作成して地球を分子レベルまで細分化したオングストロームオーダーのメッシュを計算しきれるコンピュータは永遠に出現しないとい う。 現在の並列処理の最高速スーパーコンピュータでもせいぜい10kmオーダーの格子点を処理できる程度という。したがって簡易モデルしかつくれない。でもそ うするとこの簡易モデル はパラメータでごまかすことになる。これでなにが生じるか?研究者はパラメーターを恣意的に設定して政治 的に研究費が得られやすい結果を発表するという誘惑に駆られる。ポリティカリーコレクト、PCすなわち政治的に好ましいモデルしかできない。

と匙を投げています。(批判論文としてはJochen Ebelの博士論文Der Treibhauseffekt existiert doch! 2008)IPCCモデルは対流圏では第二法則に違反するような低温から高 温に熱が移動してありもしない温室効果がでるのだといわれても。はいそうですかという ことにもなりません。そこでJ.T.ホートン(John Theodore Houghton)によって1976年に書かれた教科書「大気物理学」(Physics of atmospheres, Cambridge University Press)を紐解いてみました。

この本は地球も金星など他の惑星も基本的に同じメカニズムであるとしています。そして対流圏はキルヒ ホッフの放射法則が使える局所的熱力学平衡場 (Local Thermodynamic Equilibrium LTE)で、プランク黒体関数を放射伝達方程式の放射源関数に適用することができとしている。これは真鍋氏のよって立つ伝統的な 気象学である。

しかしホートンは第5.7章で、成層圏においては分子課程を考慮しなければならないとし、二酸化炭素の 0.0015cm(15mm))吸収帯の場合、二酸化炭素と空気分子との衝突によるファン・デル・ ワールス力で運動が伝わる伝導の緩和時間は1気圧、210oK(中間圏での平均温度)で生じるとすると3x10-5s、 一方、電磁波として放射される緩和時間は0.74sであるとしている。このように分子間の衝突による緩和時間が圧倒的に短いときは、放射を受け取ったグ レーガスが再放射する前に周りをとりかこむ99%以上の窒素、酸素分子に伝導で熱を伝えるとしている。

以上を総合し、私なりの理解を以下に詳しく説明します。

<地表と対流圏中・上層部放射面間の熱移動モデル 化>

キルヒホッフの法則が成立する条件は熱力学的平衡にあるとき成立する法則で、平衡状態にない大気にはキルヒホッフの放射法則は適用できません。IPCCが その報告書で解説しているモデルは一般的教科書のキルヒホッフの法則に従い、放射による熱移動が生じるとしています。しかし透明ガスである 窒素と酸素が99%以上ある中に1%以下の水蒸気、二酸化炭素、メタン、オゾンなどが混ざっている混合大気では不透明ガスが吸収する地表の放射は再放射さ れるまえに伝導で透明ガスに伝わり、再放射は殆ど行われません。したがって地表上10mの区間で大気に吸収された放射熱は大気を暖め、その顕熱と大気に含 まれる水分の蒸発僭熱は対流で上層に輸送されることになります。空気が希薄になり、伝導に時間がかかる場所に到達して初めて放射が行えるようになります。 このようにキルヒホッフの法則を対流圏下部に適用するのは無理のように見えます。

キルヒホッフの放射法則は先にも比喩としたようにサッカーのロングパスのようなもので、二酸化炭素だけの場合は成立しますが、空気のように大 部分が窒素と酸素であるような場合は、ロングパスはすぐカットされてしまい。ドリブルで運ばれる のでキルヒホッフの放射法則は成立しないとも説明できます。

このような観点から対流圏内の熱の流れを図-1.25のように図解してみました。数値は放射熱量で単位は W/m2です。地球のアルベドは30%とし、太陽光放射の70%が地表に吸収されるとしました。地表は黒体放射するとしています。 吸収スペクトルが存在しない「大気の窓」を素通りして宇宙に向かう地表放射は橙色で示しており ます。地表放射の一部は雲で反射(黒体放射)され、「大気の窓」を通過して宇宙に失われる94.8W/m2は地表に吸収された太陽 光放射239.7W/m2の39.5%です。

図-1.26 地表放射を吸収した不透明ガスが伝導で透明ガスの窒素・酸素を加熱、対流で熱輸送と仮定した熱流れ図

「大気の窓」に該当しない帯域の地表放射は緑色で示しております。これは大気中の水蒸気や二酸化炭素などに 吸収されて、再放射する前に熱は隣の透明ガスに伝導します。伝導で不透明ガスから受け取った熱は対 流により、上空に対流で移動します。紫色が伝導を表し、黄色が対流・蒸発・凝縮による熱輸送を示しております。オゾンとメタンは二酸化炭素にまとめて表示 しました。対流圏上層部では伝導が少なくなり、放射が優勢になります。このとき 、地表に向かう放射は下層で捕捉されて伝導と対流で上層へとリサイクルされ、地表には戻らないようにみえます。これを検討してみましょう。

以下この数値の計算法を説明します。

<温度平衡>

ホートンによれば地球表面の有効温度Teは 太陽光放射と赤外放射の平衡で求められます。

4pa2sTe4=pa2(1-A)F/R2

ここでステファン・ボルツマン定数s=2p5k4/(15c2h3)=5.67x10-8     W/(m2K4)

太陽からの距離R=1(天文単位)における地球の半径a

全球平均反射率A=0.3

太陽フラックス(太陽定数)F=1,369 W/m2 or J/sm2

から

Te=((1-A)F/4s)1/4=(0.7*1369/(4*5.67)1/4*102=255K=-18C

この有効温度Teとは地表放射の平均温度とみなせます。

<太陽光放射>

太陽光放射は人工衛星ACRIM(Active cavity Radiometer Irradiance Monitor)が測定した太陽定数測定値はほぼ11年周期的で変動します。これは黒点周期と一致しております。そして太陽定数(太陽フラックス )F=1,369W/m2とされています。地球の表面積は断面積の4倍ですから地球表面積当たりの太陽光放射は342W/m2と なります。

一方、太陽を黒体とすれば太陽表面での太陽放射BlSunは次ぎのプランク関数 で表現されます。

BlSun=(2hc2/l5)(1/(e(hc/lkT)-1))

ここでプランク定数h=6.626x10-34 Js

光速c=3x108m/s

ボルツマン定数k=1.38x10-23 J/K

自然対数の底e=2.718281

波長l=m

2hc2=1.193x10-16 Jm2/s

hc/k=1.44x10-2 mK

黒体温度T=5,780K

太陽放射BlSunと地球軌道での太陽光放射Blunshineの関係は次 式が成立します。

Blunshine=BlSun(RSun2/REarth's orbit2)=BlSun(1/2152)

ここでRSunは太陽の半径

REarth's orbitは地球軌道半径

太陽実効温度T=5,780Kでの地球軌道上での太陽光放射Blunshinel=0.0000001m-0.000003m(0.1-3mm)の範囲で描くと下図の紺色の曲線になりま す。

図-1.27 太陽光放射スペクトル分布Blunshineと透過光(ピンク色)

<吸収スペクトル>

太陽光放射の紫外線帯域(UV)ではオゾン、赤外線帯域(IR)では水蒸気により吸収されて可視光線だけが 地表に達して地表を暖めます。この吸収スペクトルの 波長は太陽表層にある元素または地球大気にあるガス固有(酸素は690nm=0.69mm)のものです。黒い吸収線を発見したドイツの物理学者にちなんでフ ラウンフォーファー線と呼ばれます。

地球 放射も赤外線帯域で水蒸気や二酸化炭素他のガスにより吸収されます。フラウンフォーファー線 は細い線ですが、ここでは線というより幅が広がっています。その理由はドップラー効果や無放射緩和過程のためと考えられています。

紫外 10〜380 nm 電子遷移
可視 380〜780 nm 〃
赤外 780 nm〜300 m 振動遷移〜回転遷移

A First Course In Atmospheric Radiation (2nd Ed.) by Prof. Grant W. Petty of University of Wisconsin-Madison図集によれば 大気のそれぞれの成分の透過率は太陽天頂角=0、即ち太陽が真上にある とき、図-1.23のようになります。

図-1.28 ガスの吸収スペクトル

このガスの透過率を考慮すると地表に到達する透過光は図-1.27 太陽光放射と透過光のピンク色の曲線になります。

全方向太陽光放射pBunshineは プランク関数を波長0.1-3mmに渡りエクセルで区分積分します。

pBsunshine=pBlsunshine dl  

全波長に渡る全方向太陽光放射pBunshineは 次ぎのステファン・ボルツマンの式で表示できます。

pBunshine= sT4(1/2152)  (J/m2s or W/m2

ここで

地球表面基準=地球断面基準/4

以上まとめますと表-1.8のようにな ります。

バンド 吸収ガス 地球断面基準 (W/m2 地球表面基準 (W/m2 比率(%)
紫外線(UV) オゾン 76 19.0 5.5
可視光他 - 1,133 283.3 82.8
赤外線(IR) 水蒸気 160 40.0 11.7
pBsunshine - 1,369 342.3 100

表-1.8 の紫外域(UV)、可視光域、赤外域(IR)の比率

IPCCと気象庁は太陽放射の変動幅は 0.1W/m2(0.03%、地表の受熱は342W/m2)だから温暖化の説明にはならず温室効果ガスが原因だとしています。確かに可視光の変動幅は 0.1%です。しかし紫外線の変動幅は6-8%、紫外線より短波長放射は紫外線の2倍以上、UVはオゾンを破壊する時、発熱します。太陽のフレアから流れ 出る太 陽風は大気を加熱します。強い太陽の磁気シールドは15%程度宇宙線を遮ぎり、スベンスマルク効果で雲が消えて晴れ、アルベドが減少するなどして気候変動 の主因となっています。こうして歴史上の小氷期がは太陽放射の変化と説明できるのです。

<大気が透明としたときの地球放射>

さて地表に達した太陽光放射は地表を暖めます。暖められた地表はプランク関数に従う黒体放射スペクトル分布 BlEarth(J/m3s or W/m3)となります。

スペクトル分布を波長2mm から100mm に渡ってプランク関数をエクセルで区分積分すると全方向地 球放射BEarthが得られま す。

>pBEarth=pBlEarth dl       (J/m2s or W/m2

全波長に渡る全方向地球放射pBEarthは プランク関数を全波長にわたり積分したステファン・ボルツマンの式でも表示できます。

pBEarth= sTe4 (J/m2s or W/m2

BlEarthl==0.000002m (2mm)から0.00003m(30mm) まで 地球放射面温度T=325K(紺色), 300K(ピンク), 275K(黄色), 250K(空色), 220K(紫色)についてプロットすると図-1.29 地球放射のスペクトル分布BlEarthのようになりま す。

地球大気は窒素と酸素だけならなる透明 ガスとし、地球の有効温度Te(地表放射の平均温度)を255oKとし、地表は黒体とすれば地球放射スペク トル分布は図 -1.29の褐色の曲線になります。

図-1.29 大気が透明としたときの地球放射スペクトル分布

<大気にグレーガスを含む地球放射>

地表とそれぞれのグレーガス(赤外放射吸収ガス)の平均放射温度を地表 (288K)、 水蒸気(270K)、炭酸ガス(216K)、オゾン(250K)、メタン(250K)の温度で放射するとした時の合成スペクトル分布BlEarthを 図-1.30の褐色の曲線で示しました。このときの有効温度は255Kです。

図-1.30 地球放射のスペクトル分布BlEarth

以上の計算結果を整理すると表-1.9 のようになります。

放射面 放射温度(K) 地球表面基準 (W/m2 比率(%)
大気の窓を通過する地表放射 288 94.8 39.5
水蒸気 270 119.8 50.0
二酸化炭素 216 18.1 7.5
メタン 250 2.7 1.1
オゾン 250 4.4 1.8
pBEarth = sTe4  (Te=255K) 255 239.7 100

表-1.9 地球放射の比率

有効温度Te=255K=-18°Cと地表の温度 288K (15oC) と比較して33oCも低いことを大気物理学では大気のグリーンハウス効果と呼んでいます。温室効果ガスであるCO2が増えると放射 平衡高度が高くなり216℃より 低い温度で放射するために宇宙への放熱量が減少して温暖化すると真鍋博士は考えて「鉛直1次元放射対流モデル」を作成したのです。実は成層圏では上空に拡 散 しても上層ではオゾンがUVを熱に変換して上層程高温ですから放射温度が下がることもなく、温暖化はしないのです。ではなぜ2970-2000年まで温暖 化したかといえば、一つには太陽放射の増加、そしてなによりも海洋のダイポール振動により海洋に蓄熱されていた熱が急激に放出されたためかもしれません。


<太陽光放射と地球放射の均衡>

地球は次式のように全波長に渡る太陽光 放射Bsunshineと地球放射BEarthが 釣り合って平衡となっています。

pBsunshine (1-A) = pBEarth

ここでAはアルベドで全球反射率です。

A=1-(pBEarth/pBsunshine)=1-(239.7/342.3)=0.3

<地球放射の実測値>

気象観測衛星が1964年から打ち上げられ、宇宙から見た地球放射を観測しました。

Nimbus 1 1964-08-28
Nimbus 2 1966-05-15
Nimbus 3 1969-04-14
Nimbus 4 1970-04-08
Nimbus 5 1972-12-11
Nimbus 6 1975-06-12
Nimbus 7 1978-10-24

1970年に打ち上げられた気象観測衛星ニンバス4号がサハラ砂漠上空、地中海上空、南極上空で測定した地球放射スペクトル分布です。横軸の 目盛りは波数 (cm-1)で0.0025cm(25mm)から 0.00067cm(6.7mm)の範囲です。

図-1.31 人工衛星ニンバス4号で測定した地球放射スペクトル分布

二酸化炭素の吸収スペクトルの波数は650ですから波長は0.0015cmとなります。サハラ砂漠をみてみましょう。水 蒸気は対流圏中層まで存在できますので280oKで放射しています。波長0.0015cmの二酸化炭素は対流圏上端まで達すること ができますので220oKで宇宙に向かい放射しております。オゾンは275oKとメタンは250oK で放射しております。砂漠の残りの 「大気の窓」の部分は透明ですので320oK(47oC)の地表から直接宇宙に放射しております。

人工衛星の観測結果である図1.31は計算値である図1.30と非常に良く一致します。

<吸収スペクトル幅>

大気分子の速度毎の分子密度は温度が一定なら、マックスウェル分布になります。その平均値は一気圧の空気中の酸素分子は 平均1,700km/h、窒素分子は平均1,700km/hの速度で飛び回っています。

温 室効果ガスの分光学 : 励起状態ダイナミクスによれば地表放射を吸収し振動励起した赤外活性分子は、大気中の99%を占める窒素や酸素などの赤外不活性分子の衝突により消光されます。これは

@振動励起の自然放射の寿命がミリ秒と 比較的長いた め、

A一気圧の大気下における分子との衝突 頻度の時定数 の方が140ピコ秒と圧倒的な速さで衝突するため、

B放射過程以外にも無放射緩和過程によ る失活チャンネルが重要になるものと考えられます。

ここで無放射緩和過程のメカニズムとしては、分子衝突によるエネルギー移 動などによって、振動励起分子のエネルギーが他の分子の運動エネルギーとして分配されるといったことが考えられます。

ここで

@ 振動子強度が小さいほど自然放射の寿命は長い。自然放射遷移確率であるアインシュタインのA係数による見積もりでは、電子遷移が〜10-8s、 振動遷移が〜10-3s、回転遷移が〜1s程度が目安となります。

AMaxwell の気体分子運動論より衝突頻度 = 1/(7×109) ≒ 140ps

地表放射を吸収した分子の大部分は無放射緩和過程を経て失活するため、地 表とのエネルギーのやり取りは主に分子衝突によって行われます。この大気と地表とのエネルギーのやり取りにおいて、「再放射」によって行われているという 説明が IPCCなどのよって行われています。確かに、宇宙への射出は放射しか行えませんが、地表付近では放射よりも分子衝突などによって大気から地表へエネル ギーのやり取りが行われます。つまり、地表とのエネルギーのやり取りに関する限り、再放射という言葉は便宜上の表現であり、科学的な説明としては明らかな 間違いです。

>遷移の線幅(吸収スペクトルの幅)は東 京大学の三好明准教授によれば

不均一幅:個々の分子の状態・環境の違いによる
均一幅 :状態の寿命などの性格による

 線幅

[ドップラー幅] (不均一幅)
  −並進運動方向・速度が分子によって異なる(不均一)

周波数
n の光を発する分子が速度 s で観測点から遠ざかる (+s) / 観測点に近づく(-s) とき観測される周波数 (非相対論条件 s << c, c : 光速)

n'=nc/(c±s)

熱運動 (温度 T ) での線幅 (半値半幅; HWHM)
 

 DnD=n/c (2kT ln2/m)1/2

[寿命幅](均一幅)

遷移に関与する状態が寿命
t で減衰するときの

n = n0 exp(-t/t )

線幅 (HWHM)

 Dn=1/2pt

DE = h Dn = h/Dt

となり Heisenberg の不確定性原理と一致します。

 <自然幅>←自発発光寿命
  <衝突幅, 圧力幅>←分子間衝突/
t = (衝突頻度)-1

たとえばHugの測定のように二 酸化炭素ガスの振動・回転励起の吸収スペクトルは二酸化炭素100%のガスよりヘリウムガス中に二酸化炭素が350ppmある方が吸収強度は増え、窒素ガ ス中に二酸化炭素が350ppmある方がさらに増えます。

このように吸収スペクトル幅は温度(ドップラー効果)や窒素や酸素 の赤外不活性ガス濃度(衝突幅)や気圧(圧力幅)の影響は受けますが、水蒸気や二酸化炭素などの赤外活性ガス濃度の影響はあまり受けません。すなわち図-1.23 地球放射のスペクトル分布は赤外活性ガス濃度の影響はあまりうけないのです。

ホートンは第5.7章で成層圏においては分子課程を考慮しなければならないとし、たとえば二酸化炭素の 0.000015m(15mm)吸収帯の場合、二酸化炭素と空気分子との衝 突が1気圧, 210oK(中間圏での平均温度)で生じるとすると分子間の衝突による緩和時間は3x10-5s、 放射には0.74sかかるとしています。このように分子間の衝突による緩和時間が圧倒的に短いときは、放射を受け取った 不透明ガスが再放射する前に周りをとりかこむ99%以上の窒素、酸素分子に伝導で熱を伝えます。対流圏は成層圏より気圧が高いため、この傾向はより顕著と してよいでしょう。

元原研放射線研究者の大野新一氏は二酸化炭素と空気分子との衝突は1気圧25oCで数百ピコ秒= 10-7s、放射は数ミリ秒かかるとしています。

<まず大気組成は表-1.10とし 、対流圏内部では良く混合されていて一定とします。

成分 mol %
窒素

78.084

酸素 20.946
アルゴン 0.93
水蒸気 Dew Point @ 478mb, 273K
二酸化炭素 0.0381
メタン、オゾン他 0.002

表-1.10 大気組成

対流圏の高度は緯度によって異なりますが平均14kmです。実測値を整理してInternational Civil Aviation Organization (ICAO)では高度、気圧、気温のモデル式を次のように定めております。

P=P0((T0-L*H)/T0)g0M/(R*L)

ここで地表の気圧 P0=101.3   (kPa)

地表の温度 T0=288.15   (K)

高度 H (m)

ガス定数 R=8.31432  (J/K/mol)

地表における重力の加速度 g0=9.80665   (m/s2)

地表の大気の平均分子量 M=0.0289644   (kg/mol)

対流圏の鉛直方向の温度勾配で気温減率(Temperature Laps Rate) L

H<11kmではL=0.0065 (K/m)

20km>H>11kmではL=0 (K/m)

g0M/(R*L)=5.25588

高度15kmまでこの式で計算した気圧と気温は表-1.11のようになります。

高度 気温 放射面 気圧
km K - mb
0 288.2 地表 288K 1,013
2.79 270.0 水蒸気 270K 719.8
5.1 255.0 有効温度 255K 532.9
5.86 250.0 メタン、オゾン 250K 480.8
10 223.2   264.3
11 216.7 二酸化炭素 216K 226.3
15 216.7 二酸化炭素 216K 115.6

表-1.11 ICAO式で計算した高度、気圧、気温

この表をグラフにプロットし、その上にガスの放射温度を示しますと放射面の高度が分かります。

図-1.32 地表と放射面の高度

それぞれの不透明ガスの放射面毎に区分に分け、それぞれの放射面の放射熱への熱輸送量 は表-1.8の通りとします。この熱をそれぞれの区分の上昇気流が運ぶ乾燥空気の顕熱と水の潜熱だけで運ぶことができるか検討してみま しょう。

まずそれぞれのゾーンの乾燥空気の断熱膨張温度降下は

T2=T1*(P2/P1)e*(k-1)/k

Cp=6.713+0.0004697T+0.000001147T2-0.0000000004695T3    (kcal/kgmol K)

Cv=Cp-R

R=1.987 (kcal/kgmol K)

k=Cp/Cv

ここでeは膨張のポリトロープ効率

から計算しました。

放射面 高度 気圧 気温 ゾーン温度減率 乾燥空気の断熱膨張温度降下 (ポリトロープ効率66%) 熱輸送量 乾燥空気密度 見掛け上昇流速 水凝縮量
  km mb K K K W/m2 kg/m3 m/s mol %
地表 0 1,013 288 0 0 0 1.338 0.0105 -
H2O 2.79 719.8 270 -18 -18.1 145 1.014 - 0.66
CH4, O3 5.86 480.8 250 -20 -19.9 25.2 0.732 - -
CO2 11 216 216 -34 -35.4 18.1

-

- -

表-1.12 放射面毎の層状区分とその高度、気温、気圧

となります。どのゾーンでも摩擦損失を考慮してポリトロープ効率70% とすると乾燥空気の断熱膨張温度降下とゾーン温度減率はほぼ同じになります。実際の大気は上昇流と下降流間の混合・熱交換・放射などが複雑にからんでゾー ン温度減率となるのです。詳しくはプ ロセス設計目的で開発された熱力学的モデル・プログラムPRO/IIで詳しく検討することにします。(時間不足でいまだ予定のままです)ここでは仮に顕熱 熱輸送は考えずに地表と水蒸気放射面間の熱輸送は水蒸気の潜熱だけで行われるということにします。

水の蒸発僭熱lは温度T1とT2で のそれぞれの蒸気圧P1とP2からClausius-Clapeyron式で求めます。

l=4.571*(T1*T2/(T1-T2)) *log10(P1/P2)    (cal/mol)

ここで温度Tの単位はKです。

水蒸気圧は近似的にTetensの式を 使います。

Pw=6.11x 10at/(b+t)     (hPa or mb)

ここで温度t  (C)

水上では  a=7.5   b=273.3

氷上では a=9.5   b=265.5

温度  T 水蒸気圧 Pw 気圧 P 飽和水分含量 凝縮量 僭熱 l
K C mb mb mol% mol% cal/mol
288 15 15 1,013 1.481

-

-

270 -3 5.04 719.8 0.701

0.781

9,349
250 -23 0.767 480.8 0.107

0.594

19,920

表-1.13 放射面毎の水蒸気圧、僭熱、水分含量

0oC の水の潜熱は597kcal/kgですから水蒸気の熱放散面までの区間の熱移動量148W/m2を達成するためには 0.0592g/m2s(213g/m2h)の水を放射面で凝縮させればよいことになります。そのためには 15oCの地表での乾燥空気の見掛け上昇速度0.0105m/s(実際には2から10倍になります)に0.68mol%相当の水を 含ませて放射面まで運び、0oCの水蒸気放散面で凝縮すれば良いことになります。

oCの水蒸気放散面以下の大気下層では大気の窓経由 の地表放射以外は対流と凝縮だけで 充分熱移動が可能であることがわかります。

0oCの水蒸気 放散面以上でも雪への凝縮・溶解熱の移動が期待できます が、人工衛星の観測で放射面からの放射が直接観測されているように、ここより上層では伝導より放射が優勢のようですから、キルヒホッフの法則に従う放射が 熱輸送の主力となるのでしょう。

いづれにせよ、上層の放射が大気の窓を通過する波長以外の放射が地表に達することはないとしても 良いのではないでしょうか。この予備計算では二酸化炭素の温暖化効果はないことを示唆します。

以 上の論点を整理すれば、真鍋博士の対流圏と成層圏の境の二酸化炭 素が増えれば、対流圏が上に膨張するため、温暖化するという説は、間違いでその高度では対 流による熱移動より放射による熱移動が卓越するため、対流圏が上方に膨張することはなく、温暖化は生じないと考えられます。したがって IPCCの似非理論というか信仰はこれを支持する世界の世論に支えられた虚構の理論かもしれないと考えて判断と行動をする必要があるのではないでしょう か。

James A. Pedenというウエブ・デザイナーは2008年に赤外線が地表に戻って地表を暖めるというIPCC説をカリカチャーにしてFree energy ovenというパロディー広告を作成しました。これをみていただければ、いままでの七面倒くさい計算のもつ意味が一瞬で理解できる と思います。


<その他の温暖化ガス>

地表からの赤外線を吸収するグレーガスは京都議定書に記載されているだけで25種あります。その代表的なものは二酸化炭素、水蒸気、メタンガ ス、フロンガス、6フッ化硫黄 などがあります。

水蒸気は凝縮して雲になりますからアルベドにも影響し複雑でよくわかりません。メタンガスはすぐ酸化されますのであまり問題はないと思いま す。フロンガスはオゾン層破壊因 子としての規制がすでにあります。

6フッ化硫黄は極めて優秀な絶縁材でまた消弧材ということで1960年代から変電所の高圧遮断機に使われてきました。マグネシウム合金溶解炉 の酸化防止用途や、半導体製品 や液晶パネルのドライエッチング工程でも用いられています。というわけで人工的な温室効果ガスとされています。6フッ化硫黄の地球温暖化係数は京都議定書 では二酸化炭素の23,900倍とされております。気象庁によれば1970年以降2倍になっており、すでに6-7ppt(東京都内では13ppt)という ことです。



6フッ化硫黄の温暖化指数は

23,900x7pptx10-6=0.16

CO2の温暖化 指数は    

1x380ppm=380

となり大きな影響はないようです。

 

懐疑論と懐疑論批判の総括

望月氏によるとドイツのWissen紙に「懐疑家のもっともポピュラーな議論」として 下の7つの懐疑論が紹介され、これらの論はいずれもIPCC系の学者により、少なくとも最近の気候変動の原因ではないと否定されていると教えていただきま した。

@ 気候変動はつねに存在した。
A 気候変動の原因は太陽にある。
B 1998年以来、地球は温暖化していない、すなわち、気候変動は止まった。
C 有名な「ホッケーのスティック(先の曲がった棒)の曲線」は偽造である。
D 大気中のCO2の量が倍増したとしても、それによる地球の温暖化は約1℃に過ぎない。
E 大気中の高いCO2濃度は、以前に、温暖化の後に現れた。すなわち、CO2は地球温暖化の結果であっ て、原因ではない。
F 気候変動に関しては学問的な合意は存在しない。

「ホッケーのスティックの曲線」を作ったマンという学者は多少の修正はし ましたが取り 下げてはいません。実は日本でも2009年5月文部科学省科学技術振興調整費を使った東北大教授の明日香壽川らの「地球温暖化懐疑論批判」があります。こ こでは

@温暖化問題の科学的基礎
A過去および現在の観測データに関する議論
B過去および現在の気候変化の原因に関する議論
C炭素循環に関する議論
D温室効果強化に対する気候システムの応答に関する議論
E地球大気の構造・光学特性に関する議論
F海水準変化に関する議論

という章だてて29の懐疑論にたいし反論しております。

しかしなぜか2007年に出版されたゲーリッヒの100ページにわたる論文が主張する「IPCCは真 鍋が作った 鉛直1次元放射対流平衡モデルを踏襲しているので二酸化炭素濃度があがると温暖化するという間違った結論をだしている。放射・伝導・対流平衡モデルで解析 すればそのような影響は幻だったことがわかる」という説を論破しているIPCC系学者は私が知る限りおりません。2009 年5月にでた明日香壽川(張壽川)らの「地球温暖化懐疑論批判」にもありません。

明日香壽川らの反論書でも鉛直1次元放射対流平衡モデルに従い「地表面から射 出された赤外線 は大気中の温室効果ガスによる吸収・射出を繰り返して大気上端に到達する。大気中の二酸化炭素濃度が増加すると、この吸収・射出の平均回数が増加すること により、温室効果は増加する。したがって、大気全層による一回の吸収が飽和しているからといって、二酸化炭素がこれ以上増加しても温室効果は増加しないと 考えるのは誤りである」とあっけらからんに二酸化炭素による吸収が飽和しているという懐疑論を否定して おります。ここにGerhard Gerlichが指摘する飽和した二酸化炭素から空気分子への熱伝導への言及がまったくなく、単純 化し過ぎの真鍋仮説への盲信が見られ ます。同じ盲信はIPCC第一次報告の技術部会のリーダーを務めたホートンが書いた教科書にも見られ、対流圏の放射についてはキルヒホッフの法則でけりを つけているだけです。

私は 「地球温暖化懐疑論批判」は税金を無駄使いして、古く、単純化しすぎた理論を綺麗な装丁で飾り立てて宣伝している軽薄な悪書だと思っています。素人の懐疑 論をやっつけて得意になっていて、最も強敵のゲーリッヒの理論 を無視しているのか無知なのか全く言及がありません。そもそも明日香壽川氏の学歴をみると、農学修士取得 後、NSEADでMBAを学んだビジネスマンという風情で、これも彼の商売なのでしょう。とても気象物理学が理解できているとは思えませ ん。日本の学者はこんな程度なのでしょうか?

2010 年にカル フォルニア大サンディエゴ校の科学史教授Naomi OreskesがNASAのErik M. ConwayとMerchant of doubtという懐疑論弾劾本を書きました。日本訳「世界を騙しつづける科学者たち」を生物学者の福岡伸一が推奨しています。いやな予感がしたため、Wikiで 彼女の略歴と主張を読み、45分の講演をみました。彼女がいっているのは大多数の科学者のコンセンサスに異をとなえる科学者はだれかの利益のためにしてい るにちがいないという陰謀論です。そして二酸化炭素の温暖化の証拠として成層圏の温度が下がり、対流圏の 温度が上がったのは二酸化炭素が地表近くに熱を閉じ込めるためだと素人論を展開するのです。

大気圏はよく混合されていて地表の濃度が上がれば成層圏の二酸 化炭素濃度があがり、放射冷却がよくなり、成層圏の温度は下がるのは当たりまえ。二酸化炭素 が地表近くに熱を閉じ込めるというのは大気と二酸化炭素分子間の熱伝導を無視し、対流による熱移動を無視した簡便モデルの計算結果で、これが大衆のイメー ジに 合いますので大方の気象学者のコンセンサスになっています。しかし気象学者はミクロな物理現象は理解できないタコツボにはいって生息する生き物です。わた しは気象学者のコンセンサスはマスコミに理解されやすい俗論のため、支持されたと思っております。

科学は政治ではよしとされるコンセンサスをもちこんではいけないとガリレ オやメンデル の歴史が教えていますね。真理は一つしかなく、多数決で決するものでないからです。とことが彼女のよりどころはpeer-reviewed paperの数だけです。それも自派のみの。NIPCCには反論のpeer- reviewed paperが沢山あります。ここらへんから彼女は科学教育 をうけたが理解できていない マスコミと同等の文系人間とわたしは感じたわけ です。カルフォルニア大(といってもサンジエゴ校)のレベルもマスコミ受けだけをねらった行為で落ちたものです。そうしなければ学生が集まらないのかもし れませんね。

いま価値観は大きくかわりつつあります。まず権威を疑えです。かってロー マ法王は権威の中心で、けしからんアラブをやっつけるための十字軍を送る力をもっていましたが今 は敬虔なブッシュを除き、だれも十字軍など頭に浮かばなくなっているではありませんか。二酸化炭素温暖化論もそろそろ賞味期限が切れたのではないでしょう か。

この本をすすめた<福岡伸一氏は DDT、タバコの害、オゾンホールが引き合いにだされたので賛同したと思いたいです ね。福岡氏は分子生物学者で物理 は理解できていないからつい陰謀論の片棒を担いでしまったのだとおもいます。彼女が名指 しで非難 するFred Singerの論を読めば、シンガーこそがIPCCなどのジャンク・サイエンスとたたかった勇士であることがわかります。彼女のほうが間違ってい ると思います。彼女こそが権 力側の狙撃兵なのです。ほぼアル・ゴアと同じ程度の認識力しかない科学史家といえるの で しょう。

 

50億年のタイムスパン の気候変動の 原因

もし、二酸化炭素濃度が気候変動の原因ではないとしたなく、多数の懐疑論者の説でもな いとすれば何が原因なのでしょうか?50億年のタイムスパンにかんしてはIPCC学者は興味をもっておりませんし、ここでは太陽が主要原因ではないかとい うことです。

我々は太陽系誕生から50億年の時代にいます。そして70億年後には太陽 の寿命はつ き、白色巨星となり、地球は太陽に飲み込まれて消滅します。太陽誕生後初期の頃は太陽輝度は現在より30%少なかったとされています。このころ地球は3回 スノーボール・アースとなったと考えられています。第1回目のスノーボール・アースは23.2-22.2億年前で光合成生物の異常増殖が発生しました。第 2回目のスノーボール・アースは7億年前にありました。6億3,000万年前のマリノリアン氷河期には地球はスノーボール・アースとなり、生物生存には厳 しい環境を作り出しました。

このように50億年のタイムスパンの気候変動は太陽の輝度が主要な要因で しょう。

 

5億年のタイムスパン の気候変動の 原因

<太陽系が銀河系のスパイ ラル状の腕の 中を通過>

過去5.45億年間、地球 は大きな気候 変動を4回繰り返しています。その原因として古気象学者は図-1.1 バーナー・グラフに現れた大気中の二酸化炭素濃度増によるグリーンハウス効果で気温上昇があったとしていますが、ゲーリッヒらは物理学の立場から二酸化炭素のグリーンハウス効果を 否定します。

ジャウォロスキーは過去5億年間という大きなタイムスパンの変動要因として銀河宇宙線を紹介しています。この説のオリジナルはオタワ大の地質 学者ジャン・ヴァイザーとヘブライ大の若き研究者ヘブライ大の若き研究者シャヴィーヴの共著N.J. Shaviv, and J. Veizer, 2003. “Celestial Driver of Phanerozoic Climate?” GSA Today (July), pp. 4-10です。

電波望遠鏡で観測された銀河系 にある2本のスパイラルアームを太陽系は過去5億年に4回通過しています。そのたびに超新星の爆発で発生する宇宙線を多く浴びます。どのように他 の恒星にぶつからないで通過できるか不思議です。パリ大学の女性学者によれば、2本の腕はちょうどエトワールのロータリーに発生する車の渋滞のようなも ので、隙間が多いのでぶつからないのではないと言います。銀河系のなかの恒星はそれぞれ240km/secという速度で公転していますが、何らかのきっか けで腕が生じると腕に入る時は重力で加速され、出るときは元の速度に減速する。こうしてできた波は定常波となって固定されるのだそうです。波と水分子の関 係みたいなもので腕は物質ではなく密度波なのです。どこかの大学教授は腕の中はすかすかなので星同志は衝突しないと説明していましたが、腕は物質ではあり ませんで、波動現象ですからぶつかることはないのです。

さてオタワ大の地質学者ジャン・ヴァイザーが世界中から年代の分かっている化石を集め、その中の酸素18同位元素の量を計測したところ、1.4億年サイク ルで波動現象があることを見つけました。気温が高ければ海洋中の酸素18が煮詰まることから酸素18が多ければ気温は高かったということになります。理由 は不明だったのですがこれをみたヘブライ大の若き研究者シャヴィーヴが宇宙線こそ気候変動の原因と気が付いたというわけでこの共同論文ができました。

二酸化炭素説との対比をしてBernerなどの二酸化炭素説は気候変動をよく説明できていないと指摘しています。私も初めBernerから入りましたので 両者を対比してあまり一致していないので苦しんだものです。二酸化炭素は原因ではなく結果だとすればわかります。これで少し気分がらくになりました。これ は図- 1.25の上半分の宇宙線と気温の変動図 として示しました。下にあるのは
図-1.1 バーナー・グラフを同じスケールで対比してみま した。それが図-1.29の下の図です。無関係ではないがあまり良い一致ではありません。

槌田敦(つちだあつし)教授や近藤邦明氏の説は荒削りで、詳細に読む気にはなりませんが、 大気中の二酸化炭素濃度は気温上昇の結果だという説をとっておりま す。この点において宇宙線原因説と整合性があります。温暖な気候で光合成が盛んになり、二酸化炭素が減少するわけです。

図-1.33 過去5億年間の銀河宇宙線と気温

上図 N.J. Shaviv, and J. Veizer, 2003. “Celestial Driver of Phanerozoic Climate?” GSA
Today (July), pp. 4-10

下図 ロバート・バーナー「顕世代の炭素循環」(Berner et.al. The Phanerozoic Carbon Cycle, 2004)GEOCARBモデル

<スベンスマルク仮説>

ではなぜ宇宙線が気候に影響を与えるのでしょうか?1997年に、デンマーク気象研究所のスベンスマルク(Svensmark)とクリステン セン(Friis-Christensen)は、地球全体の雲量、宇宙線の放射強度、太陽放射との間に相関性があると発表しました。これをスベンスマルク 仮説といいます。原理的には霧箱の仕組みを地球大気に当てはめたもので、大気に入 射した13GeV 以上の銀河宇宙線は空気シャワー現象によりミュー粒子などの多量の二次粒子を生じさせ、その二次粒子を核として雲の形成が促進される効果を指します。宇宙 線と大気分子の衝突により大気イオンの生成します。イオン化すると核を中心に水分が凝固して氷の結晶ができ、平均反射率というアルベド効果にも影響 し、太陽放射を反射させて気温が下がります。

1921年に天体物理学者のShapleyが氷河期は銀河と関係あるのではないかと言いだしてか ら何人もの学者がこのテーマを研究してきました。ジャウォロスキー太陽系が銀河系の星の多い腕の中を通過するとき地球環境に影響を与えるといった一人です。 <スベンスマルクはこれを発展させて地球環境は新星爆発の影響を受けると述べ 、下図を"Evidence of nearby supernovae affecting life on Earth", H. Svensmark, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society March 17, 2012"で公表しています。黒線は過去4.4億年の太陽系直近の超新星爆発による宇宙線で青線は化石に記録されたエビ、タ コ、三葉虫、アンモナイトど海洋無脊椎動物の数で海水面変動の影響をのぞいて あります。灰 色は誤差の範囲を示してお ります。従来生物数は大陸が割れていて、氷河が溶けて海水面が高いとき多く、2.5億年前パンゲアという超大陸が形成された時、氷河が増えて海水面はさがり、生物数が減少に転じたと説明されてきまし た。第一章「生命の誕生と炭素循環の変遷」に紹介しましたようにBernerらは二酸化炭素、リン、窒素量で説明しており ます。ところがスベンスマルクは生物減少の原因は二酸化炭素 の影響というより、宇宙線の影響が大きいと主張しています。新星爆発が多いと生物数も増えるという発見です。そして新種の出現も 新星爆発が多いと増えるというのです。炭素13は超新星爆発が多いと増え、二酸化炭素は減りま す。リン、窒素量も増えてバイオマスが増えるとしています。二酸化炭素の量は原因では なく、結果だとしています。原 因と結果は逆ですが現象は同じです。これゆえに二酸化炭素原因説がよのなかに跋扈しているのでしょう。深海のコアサンプル中の10Beよび14Cアイソ トープとも一致します。プレ デヤス星団(Pleiades)の4,000万年前の新星爆発現在も影響を与えていることがわかります。



図1.34 宇宙線と海洋無脊椎動物の数

 ftp://ftp2.space.dtu.dk/pub/Svensmark/SN_WEBDAclusters_ALROY_R.jpg

地球磁場の反転は
100 万年に 1.5 回の割合で生 じていることが海洋底のプレートに記録されています。反転時には次第に地磁気は弱くなります。現に地球磁場は次第に低下しつつあり、今後750年で半分に なるそうです。そうすると宇宙線のほとんどは陽子線ですから磁場で曲がらなくなり、まっすぐ地上に降り注ぐようになります。結果として減衰せず地表に届く ようになって生命にとって危険 になります。温暖化より怖い かもしれません。また宇宙線 が地上にも届くようになればス ベンスマルク効果によりアル ベドが増して寒冷化すると私は思います。二酸化炭素増による温暖化より磁場が消えることの方 が怖いのではありませんか?

CERN(欧州原子核研究機構)のJasper Kirkbyらがクリーンルームを作って対流圏の環境を作り、そこに陽子加速シンクロトロンが作った人造宇宙線を照射すると原子20個程度のクラ スターが宇宙線の無いときに比べ、10倍も多くなることを発見しました。そしてこれがエアロゾルに成長すると2011/8/25 に発表しま した。

宇宙線が空気分子を荷電状態にし、凝集させるメカニズムでエアロゾルが生成されるわけです。このCosmic Ray Cloud Effect」説は元々此の説は「スベンスマルク効果」と呼ばれる仮設として提唱されていたモデルでしたが、地球温暖化気候モデルの 基礎とされた国連のIPCC第4次評価報告書(2007年)には証拠不十分として採用されなかった 経緯があります。CERNの実験チームには提唱者のスベンスマルクも参加しています。宇宙線が雲の生成に関連があり、宇宙線は太陽磁場による減衰の影響が 多きいのです。CERNは今後数年かけて実験して結論を出すことにしているということです。その暁にはIPCCは見解を変えCOP-xxxは解体されるの でしょうか?

<大陸移動>

5億年のタイムスパンでみると大陸移動も関係してきます。マントルより比重が軽い大陸がプレートに乗って地球表面を漂流し ております。北極圏と南極圏にどのくらい大陸が配置されて氷河がどれくらい地表を覆っているかどうかにより、平均反射率というアルベド効果にも影響し、太 陽放射を反射させて気温が下がります。また大陸が寒いところに配置されると海洋にあった水が大陸に氷河となって蓄積し、海面は120mも下がりました。

<その他>

白亜期の6,500万年前の小惑星の衝突が短期的な寒冷化をもたらし、恐竜を絶滅させ たことは確実のようです。その他の生物の絶滅に関しては火山活動、超新星爆発 にともなうガンマ線バースト、超大陸の分裂に伴うスーパープルームなどが短期的変動の原因になったといわれています。スーパープルームは大量のガスをもた らし、洪水玄武岩でできたシベリアの台地状火山岩やデカン高原を残しました。キンバーライトなども地下からの多量のガス噴出を物語るものです。

 

50万年のタイムスパンの気候変 動の原因

<ミランコビッチ・サイクル>

地球が太陽放射を受け取る量(solarforcing)は地球の公転軌道の離心率 (eccentricity)、自転軸の傾き(obliquity)、歳差運動(presession)などの周期的変化します。(広義には銀河系のなか の太陽系の公転も含めることがある)これに起因する氷河期(stages of glaciation)をミランコビッチ・サイクル(Milankovitch cycle)といいます。理論計算によると、周期は約2万年、約4万年、約10万年という3つに大別できます。

ボストーク基地で得られた42万年に渡る氷床コアの酸素同位体比から得られた南極の気 温、有孔虫化石内部の酸素同位体比から推定する海水温、北極や南極の氷床の規模の変化や堆積物から調べた海面の高さと一致するとされております。

図-1.35 ミランコビッチ・サイクル 

This image was produced by Robert A. Rohde from publicly available data, and is incorporated into the Global Warming Art project.

20万年前の第2間氷期にホモサピエンスが出現しました。その後の15万年前のリス氷 期にネアンデルタール人が絶滅しました。11-13万年前はイーミアン間氷期(第3間氷期)とよばれ、比較的温暖 でした。そしてビュルム氷河期に入りますが、1.5万年前にまた暖かくなり、第4間氷期に入りました。

信州大学の地質学の公文富士夫教授らが野尻湖をボーリングし、過去7万年に相当する地層サンプル 866片中の花粉の種類と数を顕微鏡でカウントし、約1.5万年前に亜寒帯針葉樹から落葉広葉樹に遷移したという詳細な変化のヒストグラムを作成しており ます。同時に有機炭素の変化も2,064点を計測し、気温上昇は7度に相当し、花粉の変化と一致することを証明しました。 このヒストグラムを見ますと7万年前に寒くなっていますが、このとき海面が低下し、紅海の幅が狭くなって人類はアフリカからアラビア半島に渡り、海岸沿い にアラビア湾奥地に到達し、東南アジアとオセアニアに広がったとされています。アジアやヨーロッパへはこのルートなのか、地中海よりのルートなのかはまだ 議論のあるところのようです。5万年前の温暖期には人類学や考古学の分野で「心のビッグバン」あるいは「文化のビッグバン」と呼ばれる加工された装飾品、 絵画や彫刻などの芸術品のようなものが一気に現れている。

ミランコビッチ・サイクルは野尻湖の湖底に堆積した花粉にも記録されております。ここ で青色:亜寒帯針葉樹 五葉マツ属、モミ属、ツガ属、淡褐色:落葉広葉樹コナラ亜属、ブナ属、ニレーケヤキ、カバノキ属、クルミ類、黒色:スギ(温暖を好 む針葉樹)です。

図-1.36 野尻湖湖底の花粉  朝日新聞

とはいえミクロな現象として短期的に氷河期にもどる現象も観察されています。グリーン ランドで掘削された氷河の氷の分析から1万2000年前の石器時代、温暖化していた地球の温度が突然下がり始めたことがわかりました。これをヤンガー・ド ライアス寒冷期といいます。公文富士夫教授のチャートにもかすかな痕跡が見て取れます。ドライアスとはチョウノスケ草のことで、この花粉が出たコアサンプ ルより若い層に記録された寒冷期のためヤンガー・ドライアスと命名されたのです。ウォーレス・ブロッカーが北極海で冷却された海水が北大西洋の深海に滝の ように流れ込み、太平洋とインド洋で湧き上がっているという海水の大循環説を提唱しております。現在の五大湖付近で発達し ていたローレンタイド氷床が氷河期末期の温暖化で急に溶解し、大量の真水が北大西洋に流れ出しました。海水の濃度が薄まったため、比重差が無くなって海水 の大循環が約1,000年間停止しました。このため、急に氷河期に逆戻りし、生態系が急変、マンモスが絶滅し、人類は大変苦しんだというわけです。

ローレンタイド氷床とは山岳氷河ではなく、北米の大部分の平地1.1x107km2(地 球の表面積の2%)に積もった氷河です。この厚さが2.4kmありまし た。これが溶けると海水準(地球のアイソスタシー補正後)は75m上昇します。



図-1.37 過去2万年間の神奈川県の海岸線の変化 神奈川県立生命の星・地球博物館2004

8,000-6,000年前には第4間 氷期の最温期で現代より更に1-2oC 高く、サハラ砂漠は緑になり、グリーンランドや南極大陸の氷が溶けて海面が4m上昇しました。これは江坂輝弥氏により日本では縄文海進とよばれています。 現在のJR大船駅周辺は大船入江となっていました。我が家の近くでは七里浜の西端にある小動岬は島とな り、神戸川(ごうどがわ)の流域では津入江が深く切り込み、鎌倉では2010年に倒れた樹齢800年の八幡 宮の大イチョウの下が渚となっていました。

古気象モデル相互比較国際プロジェクト(PMIP)という組織があります。コンピュータ・モデルで古気象が再現できるか検討しております。 21,000年前の氷期と二酸化炭素濃度の関係は再現できました。しかし6,000年前の緑のサハラ は水分移動のモデルがよくないため再現できませんでした。1,200年前の小氷期も火山などの影響がモデル化されていないため、再現できなかったとされて おります。

5,000-5,500年前には第1の寒冷化が加速し、中近東の3大古代文明が発生しました。3,500-3,000年前には第2の寒冷化が 加速し、遊牧民族の南下、有史文明の発生の契機となりました。2,000年前には小氷期となり、 ローマ帝国の勃興と、ゲルマンの大移動が発生しました。太陽黒点は11年サイクルで増えたり減ったりしますが、数百年周期の増減もあり、800年前の寒冷 化では鎌倉の武家政権の確立とモンゴルの台頭しました。

図-1.38 過去22万年間の北海道の海面変動

10万年前の人類はまだアフリカをでたばかりで化石燃料を使っていません。にもかかわ らず 上図に見られるごとく海水準は最高です。4,000年前の縄文海進の時代でも 無論化石燃料はつかっていません。グリーンランドや南極の氷柱分析で、二酸化炭素と酸素18の異性体が同じ波形を示すことから二酸化炭素が温暖化の原因で はないかと疑われたわけですが、少なくとも10万年前と 4,000年前の温暖化は人為的ではないことは確かです。気温があがれば海水の温度もあがり、二酸化炭素もそれにつれて大気中にでてくると も考えられるわけで、原因と結果は真逆なのです。

メタンハイドレートは地球のサーモスタット」 という説をJAMSTECという国家の研究機関が提示しています。メタンハイドレートは温度や圧力によって溶解したり、再度生成されたりします。例えば地 球全体が寒くなれば、極域で氷河が発達し、海面が下降します。このような海面下降に伴い水圧が下がると、ハイドレートは溶解して、温室効果ガスであるメタ ンが海底から放出されます。メタンの多くは海水中の酸素と反応して炭酸ガスとなり、一部のメタンはそのまま大気へと放出されます。ハイドレート起源のメタ ンや炭酸ガスによる温室効果で地表は暖められることになります。反対に暖かくなると海面は上昇し、水圧が上がって温室効果ガスをつくるメタンをため込む働 きをします。つまり、海面変動と関連したハイドレートの溶解は、地球表層の温度変化を一定に保つサーモスタットの役割を果たすと考えられ始めています。 IPCCへは誰がフィードバックするのでしょうか?

前述のDansgaard - Oeschger cycleから人為的温暖化と誤認されたのは70年周期の大西洋数十年規模振動(AMO)である可能性が大きいといえます。このグリーンランド海の変化に よる 大気力学要因の変化は、北半球の1940年代から1970年代にかけての寒冷化、そして1980年代から2000年代前半にかけての温暖化の気温変化の傾 向とも一致しており、1980年代以降の北半球冬季温暖化は、この力学要因の変化が大きな要因となっている可能性が考えられます。そして21世紀に入って からのハイエイタスの原因かもしれません。

<グリーンランドの氷の熱伝導率>

グリーンランドの氷河をボーリングして取り出した氷の熱伝導率から過去のグリーンラン ドに降った雪が出来たときの気温を推定することができます。これが図-1.32の過去8,000年間の気温です。3,500-6,000年前の完新世温暖 化(Holocene Warming)が記録されております。人類史はここに始まります。日本では縄文海進があった時代です。日本の縄文文明もこのころ栄えました。

900-1100年の中世温暖期も記録されております。 ちょうど平安時代の宇多上皇の907年に始まり、鎌倉時代の亀山上皇1281年まで374年間、100回以上行われたという熊野御幸(ごこう)の時代に相当します。 平安の宮廷文化が栄えた時代です。紫式部の源氏物語もこの頃書かれました。この頃、紀伊半島先端 の海岸は那智の補陀洛山寺前までせまっており、ここから船にのって補陀洛渡海(ふだらくとかい)をした僧も 居たと伝えられております。6,000年前の縄文海進と同じように海面上昇があったのかもしれません。

新大陸はコロンブスが発見したことになっています が、中国を鄭和の船団の世界 一周航海を待たなくとも、スカンジナビアの人々は中世温暖期に皮製の小舟で北米に渡っ ていたし、グリーンランドに 大量移民していました。北極海もこの時、溶けていたのです。残念ながら彼らはマウンダー極小期に絶滅してしまい、コロンブスが再発見したというの が実情です。

一方、完新世温暖化が終わって寒冷化しつつある紀元前5世紀はヤスパースが「枢軸時代」、科学史家の伊藤俊太郎が「精神革命」と呼んだ時代で、このときに 「普遍的な原理」を思考する思想が地球上の各地で「同時多発的」の」生成しました。 インドの仏教、ギリシア哲学、中国の儒教や老荘思想、中東の旧約思想などです。それらは共通して、特定のコミュニティーを越えた「人間」という観念を持つ と同時に「欲望の内的規制」を説いています。1世紀ころで弥生時代でももっとも寒冷な時期でした。ちょうど中国では漢がほろび道教が興ってきたころで邪馬 台国の卑弥呼は弥生時代の銅鐸を破壊し、鬼道で国をリードしたとされています。鬼道とは桃を祭りにつかっていたので道教の流れとみられます。鎌倉幕府 も中世温暖期が終わって寒冷化するときに興ったということになります。

太陽活動の極小期であるマウンダーならびにダルトン極小期も記録されております。ここには表示されていませんが12,000年まえにヤンガー・ドライアス寒冷期が ありました。4,000-8,000年は完新世温暖化(Holocene Warm Period)と呼ばれ日本では縄文海進がありました。

図-1.39 グリーンランドの過去8,000年間の気温

D. Dahl-Jensen, et al., 1998. “Past Temperatures Directly from the Greenland Ice
Sheet.” Science, Vol. 282, No. 9 (October), pp. 268-271

12万年のタイムスパンの変動要因はミランコビッチ・サイクルと熱塩循環流(thermohaline circulation)の自励振動が合成されたものとみてよろしいのではないでしょうか?

 

500年のタイムスパンの気候変動の原因

<樹木の木目に記録された気温>

IPCCの観測値の扱いはまず怪しげなコンピュータ・モデルの予測値に合致するものだけを選んで統計処理するという作為があることです。

樹木の木目に500年のタイムスパンの気候が記録されております。1998年にDr. Michael Mannらがネイチャーに公表した氷河のコアサンプル40酸素の同位元素比、サンゴ、花粉、過去の木目などから推定した気温記録をホッケースティック曲線 を発表しま した。Dr.Michael Mannらが年輪測定した長寿命の針葉樹は気温の変化を 受けない樹木のため、中世温暖期が記録されずフラットな気温を示しました。しかし彼らは専門分野に 閉じこもって中世温暖期のことすら知らなかったのです。IPCC の3次報告はこれを1900年以降の人為的二酸 化炭素の濃度増加の温室効果(AGW)の証拠として採用しました。マンらのデータは激しいホッケースティック論争を巻き起こしました。 カナダのスチーブン・マッキンタイヤ(Steve McIntyre)とロス・マキトリック(Ross Mcxitrick)が原データから再構成したものがマンらのデータと共に図-1.37に示してあります。この図はNatureが何度 もリジェクトしたいわくつきのものです。マンらが消し去ってた中世温暖期がはっきり と現れています。学術論文がいかに査読でゆがめられるかを物語る有名な故事となりました。

Ross Mcxitrickのインタビュー

ウッズホール海洋研究所のD.W. Oppoらが2009年8月ネーチャーに海底から採取したコアの放射性同位元素分析から過去の海表面気温を推定した研究を発表 しました。これはスチーブン・マッキンタイヤとロス・マキトリックが正しいことを証明しています。ホッケースティック曲線はIPCCの権威を失墜させた 出来事でした。

図-1.40 過去500年間の気温

S. McIntyre and R. McKitrick, 2003. “Corrections to the Mann et al. (1998)
Proxy Data Base and Northern Hemispheric Average Temperature Series.” Energy &
Environment, Vol. 14, No. 6, pp. 751-771

<太陽黒点周期>

2007年のIPCC第4次評価報告書では二酸化炭素のグリーンハウス効 果理論が崩壊 することを恐れてか太陽黒点サイクルと気候変動との関連は採用されていません。しかし太陽黒点サイクルが<500 年のタイムスパンでの

歴史的 な経済サイクルを引き起こしたことが分かっています。またダイポールモード現象も太陽黒点サイクルにより励起さ れているとみなされます。

黒点(sun spot)の周期は太陽のN極とS極が入れ替わる周期でほぼ11年とされています。黒点の活動周期は11年周期と110年周期(55年周期)です。観測結 果はNASAのSolar Cycle Predictionを参照願います。

約110年周期でやってくる活動極小期は下表のようになります。内モンゴ ル自治区に 11世紀に興り、14世紀ころ滅びた西夏のカラホトという都市がありました。これが滅びた原因は14世紀の小氷期で気温が下がり、祁蓮(チーリ ン)山脈から流れ出る雪解け水が減少したためとされています。

神田茂は入手できる中国の完全な黒点記 録をしらべて 975年の周期を見つけています。むろん、このサイクルは氷河の成長・消滅が反射率に影響して正の帰還回路を作りますので気象変動には直接で来ないのです が、そのきっかけにはなっているようです。

最近の太陽観測結果から2012年以降17世紀後半にあったマウンダー極小期(黒点記録を残したEward Walter Maunder)と同じ太陽活動低調期が100年間続くかもしれ ないという予測もでてきていま す。Eward Walter Maunderは11年間に渡りそれぞれの緯度の現れる黒点の頻度を時系列でプロットすると蝶の羽の型になることを発見しこれをバタフライ・ダイヤグラム とよびました。また彼は1882年と1916年にオーロラがロンドンの北の空に現れるのを観測しています。

名称 西暦
ダルトン極小期 1800-1820
マウンダー極小期 1645-1715
シュペラー極小期 1416-1534
ウォルフ極小期 1282-1342
オールト極小期 1010-1050

表-1.14 太陽活動極小期

マウンダー極小期には図-1.37に示されるように70年間に渡って黒点が少なく、1580 年の一向一揆、1684 年のテームズ 河凍 結を描いたアブラハム・ホンディウスの絵、16世紀フランドルの画家ピーター・ブリューゲルの絵画「雪中の猟人たち」。<1708年の ヴェネツィアのムラーノ側の潟が氷結した銅版画が 残されています。とが可能でした。アイスランドで は海氷が何マイルにもわたって島を取り囲んで長期間に渡って港湾を封鎖し、漁業や交易に打撃を与えまし。167-18世紀のペストの流行、1782年の天明の< 飢饉、1789年のフランス革命とが発生しております。日 本においては、1868 年の幕藩体制の崩壊に到りました。


図-1.41 ウォルフ黒点相対数400年の変遷

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<黒点周期と経済サイクル>

アメリカの経済学者ジョセフ・キチンが1923年の論文で提唱したキチン・サイクルとは、約40ヶ月を周期とする景気循環です。キチン・サイ クルは、ジュグラー・サイクルに三回現れます。 当初は企業の在庫変動が原因と言われましたが。黒点サイクルの1/2周期と一致します。これはエルニーニョの周期と漁獲量の周期とも一致しております。

フランスの経済学者ジュグラーが1862年に書いた論文に11年周期の ジュグラー・サ イクルがあります。この過去150年間の波形が太陽黒点サイクルに一致していることは知られています。

ロシアの経済学者ニコライ・ドミートリエヴィチ・コンドラチエフが 1925年にその存在を主張した約55年周期のコンドラチェフ・サイクルもあります。物価と金利のサイクルで、5回のジュグラー ・サイクルから成り立っております。約55年周期は黒点周期の振幅のゆっくりした振動と同期しています。

<黒点周期と太陽定数>

黒点に代表される太陽活動の周期的な変化に伴って太陽定数も変化しており ます。太陽放 射の変動幅は図-1.38のACRIM (Active cavity Radiometer Irradiance Monitor)の太陽定数測定値のように3 W/m2前後(0.22%)です。そして1997年の極小期と1987年の極小期の 差が0.5W/m2で あったのに2009年の極小期と1987年の極小期との差はたった0.1W/m2に減少しています。IPCCが主張する二酸化炭素 の放射強制 力1.66W/m2なので太陽放射の変動だけでは気候変動を説明できません。ではなにかというとそれは 太陽磁場が弱まると超新星が放射する宇宙線(陽子など)が減衰せず大気に流入し、空気分子が+または-に荷電して互い に凝縮してエアロゾルの核となり、雲に成長して、地球のアルベトを変化させるというスヴェンマルク説がクローズ アップされます。

国立天文台と理研は2012/4/19日に太陽観測衛星「ひ ので」に搭載 された可視光・磁場望遠鏡による太陽極域の磁場 観測の結果を発表しました。11年周期で反転が繰り返されてい極域磁場の極性が通常より早く反転しつつあるというのです。観測結果か ら2013年 5月に予想される太陽活動極大期(黒点の平均的数が最大になる時期)に太陽の北極がマイナスからプラスに転ずると予想され ていましたが。2012年1月の観測で北極の磁場を担う斑点状の磁場の数が急速に減少し、低緯度から逆極性の斑点が現れました。この結果、現在太陽の北極 域では、逆極性の磁場の大規模な消滅と極性の反転が発生していると考えられます。

図-1.42 ACRIM太陽放射計測定値と太陽の極磁場反転予測

この観測結果から、太陽の北極磁場が まもなくマイナスからプラスに転じると予想されます。一方、驚くべきことに、南極では極性反転の兆候がほとんどみられず、安定してプラス極が維持されて 2012/5には北極のみが反転し、太陽の赤道がマイナス極になる4極構造になると予想しています。4極になると太陽磁場が弱くなり、太陽風も弱まりま す。2012 年10月には北極を詳しく観察して確認すると のことです。国立天文台の発見と予測が正しいなら、2012年には早々に極大期を過ぎ、太陽輻射は黄色の太線のように再び減少に向かい、次の極小期には 2008年の極小期より更に最低値が下がる可能性があります。

地球が寒冷であったと言われる 17世紀のマウンダー極小期やダルトン極小期には、黒点が少なかったことが観測されており、太陽がこのような磁場の弱 い状況にあったと推定されます、太陽風が減り、超新星から発せられる宇宙線が減衰されず大気に突入するためにエアロゾルの核が生成され、雲が多く発生し、 2.5° Cの気温低下が予想されるとしています。温暖化どころか寒冷化に向かっているといえます。

では1998年まで観測された温暖化はなにが原因かというと世界中の火力発電所に排煙脱硫装置をつけてSOxを除去し、石油から 硫黄を除去す る脱硫装置を 作 りまくったため、雲ができにくくなったと考えられば合点がゆきます。

<宇宙線と黒点周期>

図-1.43 宇宙線、雲の生成量、 太陽輻射

<炭素14やベリリウム10と黒点周期>

銀河宇宙線は大気に突入しますと二次宇宙線になり、これが中性子を発生させ、窒素14と反応して炭素14を生成します。また核破 砕によりベリ リウム10を生成します。従って樹木の年輪などに含まれる炭素14やベリリウム10から当 時の宇宙線量を推定できます。この推定値を見ますと炭素14やベリリウム10が減少しており、銀河宇宙線は減少傾向にあることを示しております。

しかし1800から1820年の太陽活動のダルトン極小期にピークを示しているのは太陽活動が低下すれば磁力線が減少して銀河宇 宙線を減衰さ せる力が減る ためです

図-1.44 炭素14とベリリウム10から推定した1700年以降の宇宙線量 

Carslaw, Harrison, and Kirkby

<迫りくる極小期>

2010年に入り黒点周期が12年7ヶ月になったと確認されました。 1800年のダルトン極小期および1880年の極小期に入る前に周期が長くなる現象が観測されておりますのでそろそろ極小期に入る可能性があります。雲が 増えてアルベドが 増し、寒冷化します。これが我々が今経験しているところです。IPCCが人為的二酸化炭素増による温暖化が喧伝しましたが、1998年に最高気温を記録し て以降次第に寒冷化したように感ずることと符合しております。

<2010年、東大宇宙研究所の宮原ひろ子特認教授は樹齢392年の杉の木の年輪を調べ 17-18世 紀に太陽活動が極めて弱まった時期の炭素同位元素量から当時の宇宙線量を調べると1-2割増えていることが わかりました。これは0.5Cの気温低下に相当します。太陽活動が特に弱かった年は宇宙線が3-5割り増え。気温は0.7度さがったとしています。太陽活 動は2013年をピークに数十年の停滞期を迎えることが予想されており、地球がミニ氷河期に入る可能性もあるとしています。

<成層圏の水蒸気濃度>

2010年01月米海洋大気局(NOAA)のスーザン・ソロモン博士らがサイエンス誌 に成層圏下部の水蒸気濃度が2000年以降10%減少に転じたと発表しました。このためIPCCの予想の0.14oCの上昇が 0.1oCにとどまったと発表しました。

ソロモン博士らは原因は分からないとしております。しかしこれも太陽黒点サイクルとスベンスマルク効果で説明できような気がしま す。成層圏の 水蒸気が氷核となって対流圏へ沈降したとすれば説明がつきます。

<太陽磁場と地球コア関与説>

大谷 栄治のJournal of geography 114 3  2005によれば地熱はマントルに存在するU、Thの崩壊熱ということです。そして半径1,220km(直径2,440m)の固体である内核の温度は 7,500Kでその熱源は

@沈降に伴う重力エネルギー
A結晶化に伴う潜熱
B放射性Kの崩壊熱も@Aに加え外核の対流を生ずる熱源として寄与している。

というのが一般的な考えのようです。

U、Thは地殻とマントルにはC1コンドライトと同量あるため、核に特に濃縮しているとは考えられません。しかしKは20%しか ありませんの で鉄が核に移動する過程で核に溶解濃縮している可能性があります。そして内核のウランは45億年で ほぼ崩壊されてしまうとされております。質量数40のカリウム(カリウム40)は放射性同位体です。半減期はおよそ12.5億年である ため、地球創生時にとりこまれたものが未だに自然界に残存しているというkとのになります。元を糺せば超新星爆発で核反応がおこって生成・放出されたもの とされています。大気中に存在するアルゴンの多くの部分は、このカリウム40の崩壊により生成したものだと考えられています。また、大気中のアルゴン40 の一部は宇宙線(太陽からの放射線)と反応することによりカリウム40となります。このためカリウム40は炭素14とともに常時生成されているのです。人 体に含まれる量が多いため、人間の内部被曝源として、炭素14と並んで大きな部分を占めております。

さてオーストラリアのTom J. Chalkoという研究 者はもし内核の熱源のうちA結晶化に伴う潜熱は主要ではなくB放射性Kの崩壊熱が主流と仮定すると固体である核の部分的メルトダウンが生じます。そして核 分裂物質が分離されて濃縮されれば核分裂反応が発生して暴走する可能性があるかもしれない?というのです。地球の極地方は地熱放散の適地ですのでそのよう な内核からの熱の通り道となり、北極の氷が溶ける原因となっている可能性があるのではとなります。ほかにも火山の噴火頻度も1995年以降上昇していると のことです。

図-1.45 火山の噴火頻度

John O'SullivanがMay 23, 2010に出版したIs Earth's Newly-discovered Second Core a Key Climate Driver? は中国の地震研究者Xiaodong Song and Xinlei Sunが地震波の研究で発見した直径1,180kmの第二の内核のダイナモ効果が気象研究者やIPCCが見過ごした温暖化の原因かもしれないと指摘してい ます。

これに対し鳥木晃氏は「太陽磁場が秒速400-500kmで地球軌道を回転掃引しているため、液体で10m/sの対流によって地 球磁場を作っ ている外殻が電磁誘導によるジュール熱で加熱され る」という仮説を提案しています。これが5年くらい遅れて地表に出てくると想像しているといいます。太陽磁場は11年の黒点サイクル増減し、11年毎に太 陽磁場が反転するという現象の影響を受けることは必定でしょう。

太陽磁場によるコア加熱仮説を唱える研究者はほかにもおります。John M. Quinnが”Global Warming: Geophysical Counterpounts to the Enhanced Greenhouse Theory”というペーパー・パーバック本を書いています。この本で著者は最近の温暖化はミランコビッチ・サイクルで説明できるとしています。

Louisiana State UniversityのGiovanni P. GREGORI はコア - マントル境界(CMB由来の電源を,太陽からのさまざまな誘導作用による潮汐駆動(TD)ダイナモによって説明するものです。上部マントル内のジュール加 熱および CMB 〜リソスフェア底面の間での密度境界における電気発散は,海洋底拡大とリソスフェア断裂作用を駆動している上部マントルの溶融および関連火成活動をもたら すホットスポットエネルギーのいくぶんかを供給しているであろうと推定します。

<その他>

火山の噴 火は硫黄ガス、微細な粉塵 や硫酸エアロゾル粒子のため数年にわたる天候不順をもたらします。1783年の浅間山の噴火は天明の飢饉、1783年のアイスランドのラキ火山の噴火は 1789年のフランス革命の原因となりました。ラキ火山の傍にはカトラ火山という巨大なマグマ溜まりをかかえた火山があります。2010年のエイヤフィ ヤットラヨークトル火山の噴火がカトラ火山の噴火の誘導をするという危惧もあります。1991年のフィリピンのピナトウボ火山も1883年のクラカタウの 大噴火に匹敵する硫酸エアロゾル粒子を撒き散らしまし、緯度帯で平均した気温偏差は噴火後1年目と2年目の夏に約-0.6℃低下しました。

なかでも7万年前に噴火したスマトラ島のトバ湖の噴火時期にヒトDNAの 多様性が著し く減少する「ボトルネック(遺伝子多様性減少)」が見られることから、この噴火で当時の人類の大半が死滅したという説もあります。(トバ・カタストロフ理 論)

過去の大噴火の噴出量は

火山 時期 噴出量(km3
トバ湖(スマトラ島) 7万年前 2,500-3,000
ラキ(アイスランド) 1783 15
エイヤフィヤットラヨークトル(アイスランド) 2010 0.2
富士山 1707 1.7
雲仙・普賢岳 1990-95 0.2

表-1.15  過去の巨大火山の噴火

1940-1980年の原爆実験。

 

IPCCとは

原子力開発は1979年のスリーマイル島につぐ1986年のチェルノブイリ事故の影響で頓挫していました。サッチャー首相はしか し英国の石炭 依存を下げ、原子力政策を推進したいと考えていました。国連大使クリスピン・ティッケル卿は彼女が 化学の学位を持っていることに着目し、「国際的政治家は科学について無学だから、科学的知識を有した政治家は、サミットで、科学的理解に基づくと見える事 柄に関するどんな議論にも勝てるだろう」と指摘しました。彼女はこの薦めに従い、二酸化炭素に起因する温暖化を調査する国際機関がほしいと提案しました。 国連の世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)がこれを受けて 1988年に気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change IPCC)を編成したのです。サッチャーはハドリー気候予測研究センターも設立し、それは1999年時点ではIPCCの第一ワーキンググループとして機能 していました。

しかし、後年、彼女がその立場を大きく 変えたので す。2003年の彼女の著書「Statecraft」では気候変動防止運動を「超国家的社会主義のためのすばらしい口実(marvellous excuse for supra-national socialism)」 と評し、「不都合な真実」に代表されるアル・ゴア元米副大統領の活動を「終末論的誇張(apocalyptic hyperbole)」と批判しました。彼女は京都議定書を拒絶したブッシュ米大統領を賞賛する一方、「中道左派の支配層において気候変動の新たなドグマ が吹き荒れている(a new dogma about climate change has swept through the left-of-centre governing class)」として、欧州で次々に導入される「高コストで経済的ダメージの大きなCO2抑制策(costly and economically damaging schemes to limit)」 を嘆いていました。このようにサッチャー首相は80年代末、他に先駆けて気候変動問題の重要性を指摘しましたが、2003年、温暖化防止が多くの国の政治 アジェンダを席巻している最中に、他に先駆けて温暖化懐疑論者になっのです。

原子力の研究者であった米国のNational Center for Atmospheric Research in Boulder, Coloradoのシュナイダー(Stephen Schneider)が1989年にU.S. National Science Foundationに提言して巨大研究費をレベルの低い気象研究者2,000名(内博士号保持者60名)に配分したこと もサッチャーのIPCC設立への後押しになったのでしょう。しかし米国は京都プロトコルを批准できませんでしたのでシュネイダーの原子力推進の希望は潰え たのです。宙に浮いたアル・ゴア元副大統領はIPCCのお先棒を担ぎ、二酸化炭素による気候変動という一種の宗教を普及してまわり、IPCCと一緒にノー ベル平和賞までもらうという顛末となっています。

なぜこうなったかは考えてみますと、大多数の人にとってわけの分からない不安がありますと迷信というものを持つのが人間の本能で す。 我々は炭化水素燃料を大量消費してきた罪深いものだ。そうだ 二酸化炭素を排出することは神への冒涜ではないか?という迷信が広がりやすいところに好都合な擬似科学がでてきて人々はこれを信じたと 思えます。IPCCはこの迷信の増幅器の役をかって出ました。擬似科学を主張する人は立証責任を負わず、批判する人が反証しなければならな いと言い張ります。IPCCの二酸化炭素温暖化説などもこれに類することではないかと思われます。これはバートランド・ラッセルのティー・ポットの喩え話の ようになかなか反証が難しいから信仰といわざるをえないものですが、日本はその反証努力もせずにIPCCの説に感染したのはいささか安直すぎるような気が します。無論私も過去20年間迷信の信者の一人でした。しかし本当の科学は懐疑論から始まります。歴史的に みて懐疑論者が科学の推進の原動力でした。そして私はその懐疑が自らの心にポットに浮んだ瞬間から調査を開始し、独自の分析もし、体制派が懐疑論者という レッテルを貼って忌み嫌う人間の仲間入りをしたのです。

IPCCは世界の大多数の研究者が知恵の集約システムと自認してきました。その活動は多重査読により二重三重に科学的厳密性を保 持し、政治的 圧力を排除する仕組みによって行われるという建前になっていました。IPCCはそう いう意味で地球規模の壮大な「知の共有」と自画自賛していたのです。 たとえその分野の専門家全員が真理と考えていたとしても、それと真理とは区別されうるものだというのが科学の前提です。例えば2000年前にプトレマイオ スは天動説を打ちたて1、400年間世界の主流の理解でしたが600年前コペルニクスが地動説を出しましたが、証拠を提出できませんでした。ガリレオなど の観測をまたねばならなかったのです。ましてや査読などは身内で行われるわけです。 ガリレオが実証した時でも、天動説を支持するローマンカトリック教会の圧力で沈黙したこともあります。無論、IPCCや国連、そして日本政府は現代のロー マンカトリック教会です。 ガリレオ以降もボタンの掛け違いは科学の世界で沢山あります。

「知の共有」とは英国の哲学者ジョン・スチュアート・ミルの「権力は地方分権化する と良いが、知識は中央集中化されねばならない」という言葉の後者の実践とも言えます。ただ異論併記型科学的事実の羅列という方式は採用せず、異論も含め徹 底的に評価・判断して報告しているため、真鍋らの行った単純化の成果に基き、一旦指導的理念を間違えてしまうと修正が利かない体制となっています。そ して査読 担当者に偏向が見られ、評価されるべきものが捨てられ、ゴミのような論文が採用されるという事態になっております。すなわち科学的真理にベースをおかず多 数決で決める政治の世界に入り込んだわけで、これは科学の否定といわれてもやむをえないでしょう。

こうしてCOP15の直前に勃発したヒマラヤの氷河が完全に消える時期を 故意に間違え て記載した「グレーシャーゲート事件」でIPCCの権威が傷ついたのに続き、IPCCの中心的機関であった英国のイーストアングリア大学気象研究ユニット 「CRU」(Climate Research Unit)のジョーンズCRU所長が悪名高い「ホーケスティック曲線」作成の中心的役割を担っていたため「クライメイト・ゲート事件」の責任を取り辞任し ました。これら事件が連続したことから「気候変動報告書」自体が捏造されたのではないかとの疑惑が持たれるようになりました。パチャウリIPCC議長は、 企業献金を受けての利益誘導疑惑が浮上し、議長辞任の批判の渦中にあります。そして今アル・ゴアはピエロになりました。英国では国民の半分はもうIPCC のいうことを信じてはいないと聞きました。

IPCCの委員とこれを支援する世界のかなりの数の気象学者、なかんずく権威のいうことを復唱 す るだけで、自らの考えを育てない文化を持った日本の大学と国家研究機関の研究者はIPCC疑惑に対し、あらゆるレトリックを使って反論し。マスコミと若い 学生に もしかしたら間違った認識を注入し続けています。日本の文部省は権威が押し付ける知識を無批判に受け入れる思考停止の人間を多量生産する文化を育て てきたことは大方の認めるところです。先にも指摘しましたが 独立行政法人海洋研究開発機構IPCC貢献地球環境予測プロジェクト特任上席研究員の近藤洋輝氏や東北大の明日香壽川氏は国内の頼りない懐疑論や赤祖父俊 一氏の懐疑論に関し文科省の予算をつかって「地球温暖化懐疑論批判」という反論の書を出版しております。海洋研究開発機構は真鍋淑郎氏を米国から呼び寄せ てその権威を利用して一時期世界最高速という地球シミュレータを作るための予算をせしめた組織です。科 学している組織ではなく、国家予算をどうせしめるかということしか考えない似非科学者の集団のようにも見えます。 明日香壽川氏の反論の書は2009年に出版されたにもかかわらず2007年に出版されたゲーリッヒの100ページにわたる論文を完全に無視しております。 このように文部省の予算を無駄に使ってIPCCの擬似科学理論とおぼしきものを繰り広げ、何も理解できないマスコミと政治家は彼らに乗せられています。か くして日本では年間150億円が無駄使いされているのです。ここにも原子力村と同じメカニズムが働いております。ハイドレートが資源だと言い募って国家予 算を確保する国立研究所の研究員ともどもみな原子力村と同じ国家の金に群がるアリのようなもの。

ロシアがおこなったボストーク基地の氷床コアの分析は有名だが、昭和基地南方1000kmのドーム富士コアの3 回の氷期サイクルを含む過去 34 万年の分析では酸素異性体の濃度やメタン濃度がいず れも良く一致して最近4000年は寒冷にむかっていることを示している。

米国のDr. Fred SingerはIPCC傘下の気象学者達は独自の検討をせずに、無批判にIPCCを支持しているだけの意味のない集団だと断定しており ます。>NOAAのハリケーン研究者のChristopher Landseaは自ら考えるタイプの研究者でIPCCは政治的になり過ぎたとしてIPCCの4次報告作成者を辞任しております。

ドイツの国立の研 究所である「連邦地球科学・資源研究所」Bundesanstalt fu"r Geowissenschaften und Rohstoffeの 学者グループが、2000年頃にIPCCの人間原因説はマヤカシで、地球温暖化の原因は太陽の黒点の活動にあるという結論の立派な本の形で発表していま す。ドイツ語ですが、タイトルはKlimafakten-Ulrich-Bernerです。しかし、この本の結論は結局、ドイツ政府の公式見 解にはなりま せんでした。ドイツ政府の公式見解はIPCCの人間原因説です。

カリフォルニア大学の物理学の名誉教授のハ ロルド・ルイス氏は「科学者としての長い人生の中で、地球温暖化ほどの疑似科学的な巨大詐欺は見たことがない」と非難して学会を脱退しておりま す。

マックス・プランクは 「科学は葬式のた びに進化する」といいましたが、今生存している気象学者達の葬式が終わるまで、二酸化炭素は汚名を着せられ たままになるのでしょうか。

IPCC報告書の軌跡は:

1990年、第1次評価報告書:「温暖化を観測結果からはっきりと検出することはでき そうもない」

1995年、第2次評価報告書:「証拠を検討した結果、識別可能な人為的影響が全球気 候に現れていることが示唆される」

2001年、第3次評価報告書:「近年得られた、より強力な証拠によると最近50年間 に観測された温暖化のほとんどは人間活動によるものである」

2007年、第4次評価報告書:「20世紀中ば以降に観測された世界平均気温上昇のほ とんどは、人為期限の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」として大きく道を外れました。

2011年、IPCCは人類の2050年の鉱石、化 石燃料、バイオマスの消費量は3倍になると警告し、GDP成長と資源消 費率のデカプリングが必要としています。

2013年、第5次評価報告書:「執筆メンバーが変わらず、前回と大同小異 の報告書となっています。これは殆ど政治的文書というかそれ以下で化石 燃料の消費を抑えるという犠牲を貢いで温暖化をさけてもらうという神奉仕という呪術の世界 に 留まっている。もし気候変動が大西洋数十年規模振動に起因するなら2015年を過ぎれば明らかになるだろうから第6次評価報告書で明らかに なるでしょう。

 

COPとは

COPとは気候変動枠組条約の締約国会議(Conference of Parties)の略です。気候変動枠組条約は1994年3月に発効し、1年後の1995年3月にドイツのベルリンで第1回締約国会議(COP1)が開催 されました。この会議は「気候サミット」と呼ばれることもあります。

1997年のCOP3は京都で開催され、京都プロトコル(議定書)が締結されました。 その重要メカニズムとしてクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism CDM)が導入されました。核拡散防止をどうするかという難題がでてくることと、欧州は脱原発を標榜するドイツがメンバーのためCDMには原子力が入って いません。

日本は当時最も省エネが進んでいたにもかかわらず一律の削減目標を課されるという不平 等条約でありました。その後、ニューリー・ディベロッピング・カウントリーの経済規模が拡大するにつれ、先進国だけが削減義務を負っても殆ど意味がないこ とが明らかになりつつあります。

そもそも二酸化炭素が温暖化するという認識が錯覚かもしれないのですからCOPはその存在意味がなくなってきています。2010年のCOP16はCOPが その役目を終えたことを明らかにするのかもしれません。

丸山茂徳東京工業大学教授は温暖化が先で二酸化炭素濃度は結果であると指摘し、京都宣 言は人類史最大の知的汚点と言っています。ちょっと考えてみれば分かりますが、石油も発見されていなかった今から6000年前には大宮や浦和が海岸線だっ たのです。

国 連持続 可能な開発会 議(World Summit on Sustainable Development, "WSSD")

1992年にブラジル連邦共和国のリオ・デ・ジャネイロ市において環境と開発に関する国際連合会議が開かれ、持続可能な開発を旨 とする「ア ジェンダ21」 が採択された。それから約10年後に南アフリカのヨハネスブルグで開かれた持続可能な開発に関する世界首脳会議はリオ+10であった。2012年にはリオ +20がリオで開催されたが、共通だが差異ある責任は再確認し有限な化石燃料を使って先に発展した先進国がより大きな責任を負うとしたが、二酸化炭素排出 責任には触れていない。


温暖化すると

IPCCのいうように温暖化は二酸化炭素のグリーンハウス効果によるものではないとし ても、自然現象で温暖化することも寒冷化することもあります。温暖化すれば赤道上にある空気が太陽光で暖められると軽くなった空気は上昇します。上昇する と冷えて空気中の水分は雨となって海に戻ります。冷えて重くなった空気は緯度30度付近で下降気流となって地上に循環します。緯度30度付近にあるアフリ カのサハラ砂漠やサウジアラビアやオーストラリアの砂漠はこの水分を失った乾燥した空気が下降するためにできたのです。小笠原高気圧もこの下降気流のある ところに発生したものです。この上昇気流と下降気流をセットとしてハドレー循環セルと呼ばれます。1735年にジョー ジ・ハドレーがローヤル・ソサイエティーで貿易風がなぜ発生するのかという理論を発表したことからこうよばれるようになりました。

<温暖化が進むとハドレー循環セルが膨張し、高気圧帯が北に広がって米国、南米、中国、 インド、アフリカ、ヨーロッパ南部が砂漠化します。砂漠化すれば大陸から鉄分を含むチリが風で海まで運ばれ、プランクトンの活動を活発化させて二酸化炭素 を固定化します。ツンドラが溶け、バクテリアが発生するメタンと二酸化炭素が大気中に放散されます。

炭化水素燃料には硫黄が含まれていたため、大気中の二酸化硫黄濃度も高くなり、硫酸エアロゾルが大気中の水分凝縮の核となって雲を発生させ、太陽光を反射 して温暖化を抑制する効果もありました。しかし、二酸化硫黄は酸性雨となって針葉樹林 を痛め、呼吸器障害を発生しました。このような公害を防ぐために二酸化硫黄排出規制が行われ、結果として硫黄による冷却効果は減じ、温暖化は加速されてい るとジェームズ・ラブロック氏は「ガイアの復讐」で指摘し ています。排煙脱硫や燃料油脱硫装置を開発して二酸化硫黄の放出を減らしたのは温暖化を加速したという皮肉なことになります。

温暖化により海表面の平均温度が12oCを越えるようになると 表層の暖かい層がますます厚くなり、海水が光合成するクロロフィルが必要とするミネラルが欠乏し、藻類、珪藻類や円石藻類が光合成できなくなります。そう すると特に円石藻類が海水中の硫黄を二硫化ジメチルに変換してくれなくなります。二硫化ジメチルは磯や潮の臭いの素です。陸から遠い太洋の真ん中では匂い ませんので海の男は陸の臭いと言います。これが大気中で二酸化硫黄になり、雲を発生させて温室効果を抑制していたのですが、海が対流をやめミネラル不足に なれば二硫化ジメチルが海からでてこなくなり、雲が減少して雲の冷却効果もなくなり、ポジティブ・フィードバックに入るというわけです。

このような自然現象としての気候変動を人間の介入で制御しようとするのは、かなり困難で人間は与えられた環境でしのぐことをしなければならないと思いま す。

 

気候変動と経済政策について

すでに述べましたようにIPCCの主張する二酸化炭素によるグリーンハウス効果ははなはだ疑わしいようです。 もしかしたら擬似科学的なものかもしれないわけです。IPCCの予測の下にブラウン英首相の要請で作成されたスターン報告は何も削減策をとらなければ世界 のGDPの5-20%になるとしております。 予防的処置としていますぐ全世界でGDPの1%を対策費に充当して450ppmで止めれば気温上昇は2oC上昇に押さえられグリー ンランド溶解で止められるとしています。このようなわけで他の ヨーロッパ諸国も同じ目標にむかい、炭素税、排出量取引、排出量規制を導入する予定です。

平均気温上昇が1.9oC上昇となる二酸化炭素濃度を 450ppmに押さえ込むために英国は2012年の京都プロトコル12.5%削減は無論、2020年には26-32%、2050年には60%削減しようと しております。日本も民主党政権になってから2020年に90年比25%に抑えると宣言しました。世界平均は50%でも先進国は80%削減をして世界を リードする責任があるとしております。欧州連合は2007年に2020年までに20%削減方針を決めています。

日本は2007年に世界全体の排出量を2050年までには50%削減しようという長期 戦略を掲げ民主党政権が誕生して2020年までに1990年比25%削減すると宣言しました。これは2050年の世界人口が92億人ですから一人当たりの 許容二酸化炭素排出量は0.4炭素トン/年となります。現時点では一人当たりの二酸化炭素排出量は2.5炭素トン/年ですから1/6にしなければならない ことになります。昭和30年頃の排出量です。米国の一人当たりの二酸化炭素排出量は5炭素トン/年ですからもっと大変です。2008年の洞爺湖サミットで はほぼこの線でまとまっています。

予防的処置原則と は未来の予測が不完全である場合、安 全サイドに立ってあらかじめ手を打っておくという考え方です。もし二酸化炭素が気候変動の原因かもしれないなら、あらかじめ手を打っておくほうが賢いとい うことになります。たとえば効率をあげて炭化水素燃料消費を減らすことや炭素税、排出権取引など排出量規は二酸化炭素放出を減らし、かつ炭化水素燃料の ピークアウトまでの時間を長く出来るのでよいことになります。とはいえ遺伝学の生半可な知識から犯罪者やハンセン病患者を遺伝的に劣ったものとして予防的 に隔離したり、断種したり、迫害したりしたことは予防的処置原則の失敗例です。これは予防的処置原則が擬似科学化してしまったといえましょう。二酸化炭素 の回収・隔離などはこの範疇に入るのではないでしょうか。無論原子力もブラック・スワンのリスクをおかしてまでする必要がないということになります。

IPCCの2,500名の科学者は各国政府任命の科学者で税金で買収された存在です。 そして地球は丸いというガリレオを弾圧した法王庁の学者のように、懐疑派を弾圧しております。しかし米国の科学者は御用研究者に批判的で、31,487人 (内9,029人 は博士号所持者が二 酸化炭を犯人にするのは科学的に意味がなく、米国政府に京都プロトコルから脱退すべきと署名している。 日本の学者にも懐疑派はいますが、大部分は体制に従順な臆病者でこのような動きは見られませんし、マスコミも報道しませんので世界の孤児です。下のビデオ は2007年3月、 地球温暖化詐欺に出演した、フィリップ・ストット博士によるスピーチです。




敵は我々自 身か

二酸化炭素が気候変動の原因だと聞いた とき我々は 「敵は我々自身だ(We have met the enemy, and he is us.)」という政治風刺漫画家ウォルト・ケリーが主人公のフクロネズミの「ポゴ」に言わせた言葉を思い出しました。この台詞は浦賀沖 に現れたかのペリー提督の兄、オリバー・ペリーが1913年にエリー湖で英国艦隊と交戦、これに勝利して敵艦を捕獲したとき、”We have met the enemy, and they are ours.”と報告した有名な言葉をもじったものです。

サン=ク・テグジュベリの「星の王子さま」の星は3本のバオバブの木に喰われてしまいました。バオバブの木になってしまった我々 はどうしたら よいのか?と自問自答しているのが我々ということになります。

しかしもし二酸化炭素が気候変動の原因ではないとしたら「敵は我々自身ではない」こと になります。銀河の中を動き回る太陽系の位置や太陽活動を我々はコントロールできません。ただ受容して耐えてゆかなければならないのです。

しかし気候を制御することは出来ない相談だから炭化水素燃料をドンドン使おうではないかともなりません。炭化水素燃料がピークア ウトすれば価 格が暴騰し、経済は深刻な打撃を受けるでしょう。そいうわけで炭化水素燃料はやはり節約しながら消 費しなければならないことは同じです。そういう意味で「敵は我々自身だ」は依然正しい認識となります。

 

有限なエネルギー資源、それに私達はどう対処すればよいのか?

<IPCCの二酸化炭素温暖化説はどういうものか?>
IPCCの人為的二酸化炭素温暖化説は観測データの整理は恣意的であると懐疑派が盛んに批判しております。たしかにIPCCに不祥事はありましたが、これ だけでは人為的な二酸化炭素が温暖化の主犯ではないというには証拠不十分です。IPCCを支える気象学者達の大気気候モデルは放射と対流しか考えません が、ドイツ物理学者のゲアハルト・ゲーリッヒは二酸化炭素と空気分子同士が衝突してエネルギーを伝達するいわゆる伝導を考慮すれば上空の二酸化炭素の放射 が地表に達するとはいえず、二酸化炭素が温暖化の主犯とは言いがたいと主張します。では何が主犯かと言いますと縄文海進のあった6,000年まえには鎌倉 の倒れたイチョウの木の根元が波打ち際であったことからも分かるように公転軌道の離心率(eccentricity)、自転軸の傾き (obliquity)、歳差運動(presession)などの周期的変化に起因するミランコビッチ・サイクルが気候変動の主犯としてよろしいのではな いかと思います。これに宇宙線が絡んできます。IPCCの見解に基いて、仮に京都プロトコルを守ったとしても温暖化であれ、寒冷化であれ、人間の思惑など 無視するがごとく、地球の気候は大きく変動するとみて間違いはないように思います。そして大陸の生成分裂に伴う珪酸塩を含む花崗岩の風化が生命によらない 地球の無機的な炭 素固定作用により10億年後にはカルビン -ベンソン回路に加えCO2濃縮のためのC4経路を持つトウモロコシなどC4植物が光合成をようやく継続できる15ppmまで下がるだろうと予想されてお り ます。そもそも大陸の生成分裂そのものすらウランやトリウムの放射性崩壊時に発生する熱や核におけるカリウム40の崩壊によってマントルが暖められて 対流することにより引き起こされているとされています。かくしてドイツの物理学者マックス・プランクは権力のある支配者層の科学者がたくさんいて、新理論 に反対するので、科学の進歩は彼らの死 まで待たなければならないだろうと思い「科学は葬式のたびに進化する」という箴言を残しました。

<貯留岩の炭化水素燃料のピークアウトはかならずやってくる>
二酸化炭素が気候変動の主犯でないなら炭化水素燃料は無制限に使ってよろしいのかというとそうではありません。炭化水素燃料は生物起源説であれ、無機生成 説であれ、大陸地殻の5%に相当する堆積盆地の貯留岩に長期間かけて溜まったものです。無機成因説によれば地球上広く、あらゆるところで地下数10キロの 深度の上部マントル中で無機的に発生しているため、炭化水素の資源総量は膨大となります。ただその資源が上部マントルから大陸地殻の亀裂を通過してからに じみ出してくる速度が現在人類が消費する速度に見合う量かという疑問がでます。枯渇したテキサス油田、ピークを過ぎた北海ガス田を見るかぎり見合うとは思 えません。長い時間かけて貯留岩に溜まった油田、ガス田を掘り尽してしまうと安い石油・ガスの生産量はロジスティック曲線に従い、ピークアウトし、減少す るでしょう。ピークアウトすると価格が暴騰することは過去の経験でわかっています。過去の経験から可採埋蔵量はいつも増えてきたではないかとおっしゃる方 がいますが、あれは産油国がOPECでの発言権を増そうと可採埋蔵量の基準を甘くして、推定埋蔵量を水増しした結果そういう誤解が広まったのです。ただ現 在の堆積盆地の貯留岩の下の大陸地殻内にまだ大きなガス田、油田が隠れている可能性があり、現に既存油田を掘りぬいた大陸地殻内部で新規埋蔵量が発見され ています。この観点から試掘すれば可採埋蔵量は増える可能性はあります。しかしコスト上昇に加え1万メートルを越える深い井戸は鋼鉄の強度からみて不可能 でしょう。石油のプロはもう経済的に採掘できる石油は終わったと判断し、撤収作戦に入っております。つい最近もエクソン・モービルが世界のマーケットでガ ソリン小売業を縮小することを検討しているとリークしております。石油の一次エネルギーに占めるシェアは2000年で35%でした。石油のピークアウトは 現在の究極可採埋蔵量で2005年、究極可採埋蔵量は現在の可採埋蔵量の2倍あると仮定してもピークアウトは2030年と推定され、その時、シェアは 25%まで落ちるでしょう。天然ガスは2000年のシェアは21%でしたが頁岩ガス、炭層ガス、砂岩ガスなど゙非在来型ガスが経済的な水平掘りのおかげで 採掘可能となり、2050年ころピークアウトし、シェアは30%になるでしょう。石炭は2000年のシェアは30%でした。2080年ころ第二のピークが 来るころにはシェアは35%に上昇します。 石炭使用時炭素分離・隔離(CSS)をすれば二酸化炭素は大気中には排出されません。しかし海洋に隔離する以外はよい捨て場がありません。そしてそれは炭 化水素資源のピークアウトを早めます。そのリスクは気候変動より大きいかもしれません。大陸棚には薄くメタン・ハイドレート層があり、面積が広いので炭化 水素燃料の2倍という膨大な資源量となります。しかし どの生産法もエネルギー収支比が低く、妥当なコストで生産する方法が今のところありませんので現時点では可採埋蔵量はゼロという評価です。むしろ同じく薄 く広く分布する太陽エネルギーの方がローコストとなると予想されます。省エネルギー・高効率化はジェヴォンズのパラドックスで無効化されます。

<ウラン資源は炭化水素燃料と同じく再生可能エネルギーに敗退>
日本では原子力発電が火力発電より相対的に安価とされ、電力の30%は原子力でまかなわれてきました。この安いという意味は使用済み燃料再処理・最終処分 費、廃炉費、政府の支援費を意図的に含めていないためであり、これらを含めると原子力は火力より高価になります。皮肉なことに、今後、炭化水素燃料のピー クアウトに伴い火力の発電単価が急激に上昇するのに対し、原子力は少ししか上昇しないため相対的に安くなります。軽水炉はコストだけを考えれば米国のよう にワンスルーが安価です。しかしワンスルー利用ではウラン資源は現時点ではR/P=85-100年です。必要以上の探鉱活動が行われないために、常時 R/P=100年程度で推移しております。とはいえ世界中に原子力が普及する結果として、鉱山の深度が次第に深くなり、資源は存在しても次第に高コストに 移行することは確実です。ウランは海水中に3ppb含まれていて埋蔵量は膨大ですが、ガスハイドレートと同じで回収法は確立されておりません。ウラン価格 の上昇とPV発電単価の下落で2035年には両者はクロスオーバーします。薪が石炭に駆逐されたごとく、ウラン資源が枯渇せずとも、価格で市 場から駆逐されることになります。米国では炭化水素燃料コストが低いため、ウラン燃料はワンスルーの使い捨てとし、核分裂生成物はユタ州のユッカマウ ンテンの洞窟に永久保管する計画でした。しかし地元の反対で行き場をなくし、暫定的にそれぞれの原子力発電所に中間貯蔵しております。ワシントン州では中 間貯蔵施設から放射性物質が環境に漏れ出し、問題となっております。日本ではウラン資源は外国に依存している関係で、コスト度外視で軽水炉で生成する プルトニウムを回収して再利用するプルサーマルを国家目標としています。しかし六ヶ所村の再処理はいつまでたっても稼動せず。プルサーマルは数回のリサイ クルでアクチニドが蓄積して燃料として使い物にならなくなることも予期されております。再処理、放射性廃棄物の最終処分費用、廃炉費、政府の支援費コスト 更に老朽原発をコアキャッチャーのあるより安全な原子炉に更新することを前提にすると発電単価は11.3円/kWhと上昇します。実際には過去の日本の原 発稼働率が74%と計画よりも低い事実から更に0.5円/kWh高くついております。炉は劣化しますから更なる稼働率低下もありえるのです。原子力の世界 の一次エネルギーでのシェアは高々6.7%。2050年のピークアウトでのシェアは高々10%で世界を救うエネルギー・メジャーとはなりえません。原子力 は巨大プラントであるため、立地の確保が難しく、需要予測の難しい、変化の激しい社会に敏速に対応することが困難です。次第に再生可能エネルギーの敏捷性 について行けなくなり、市場から駆逐されるのでしょう。

<高速増殖炉とプルトニウムサイクルは世界の1次エネルギーを賄えない>
日本政府はウラン資源の有限問題を解決するとして高速増殖炉を使うプルトニウムサイクル構築を国是とし、原型炉「もんじゅ」を建設しました。これは溶 融金属ナトリウムを冷却材に使うため、安全確保のためのコストがかさみ、軽水炉に比べかなりのコスト高となり 、いつまで経っても発電単価がグリッド・パリティーを達成できません。またあまり報道されませんが高速増殖炉の炉心では白金属が多く生成し、プルトニウム 回収目的の再生工程でのピューレックス法(Purex)の硝酸に溶解しにくいため、スラリーを形成し、回収率が低下し、再生工程を含めた転換比がはたして 1を越えるか疑問が残っております。そこで酸化金属廃燃料をフッ素と反応させて6フッ化物にして深冷分離し、水素で還元して金属とし、これを酸化物にする 乾式再処理法も研究されています。しかし10年も研究されていますがフッ素とかフッ化水素などの物質を扱うプロセスですので成功したという報告はありませ ん。そしてロシアにしてもフランスにしても総合転換比が1を越えたとは発表しておりません。仮に増殖炉の増殖比が1.2出たとしても世界の1次エネルギー を賄うために10倍に増やすには13サイクルまわさねばなりません。1サイクルは増殖炉4年、再処理4年として計8年ですから104年かかります。コスト も複利計算でサラ金のように膨れ上がります。このようなわけでどちらもコスト高を理由に廃炉にしております。原型炉「もんじゅ」は欠陥続出で、1兆円の巨 費を投じ、高速実験炉「常陽」の初臨界以後33年の歳月をかけてもマイナートラブルで運転再開は16年遅れの2012年になりそうです。一応2050年に 商業炉完成が国家目標とのことです。フランスはいまだにナトリウム冷却炉やヘリウムガス冷却炉の実証機に未練を持ち、ベルギーは加速器駆動鉛冷却炉の建設 を検討していますが、2012年にto go or not to goを決める段階です。ということは次世紀の中ごろにようやくプルトニウムが10倍になるというスローペースです。これでは2080年の石炭のピークアウ ト時期に完全に間に合いません。 増殖炉は兵器級プルトニウムが生産できてしまうわけで、核兵器所有国+アメリカの同盟国である日本だけが実質ゆるされております。紛争国が使えるものでは なく、世界にあまねく普及させてエネルギーの主役に据えることはできないローカルな技術です。

<トリウム資源はウラン資源より大きいが?>
トリウム資源はレアアース生産に伴い、副産するため、ウランの4倍の資源量あります。トリウム232自身は核分裂しませんが、熱中性子を拾って核分裂でき るウラン233になります。このウラン233の核分裂反応はウラン235やプルトニウム239の核分裂と同じく、強い放射能を持つ半減期30 年程度の核分裂生成物質ストロンチウム90とかセシウム137を生成します。しかし半減期の長いアクチノイドを生成しないというメリットがあります。トリ ウム炉は軽水炉と同じく固体燃料としても使えますが、これを4フッ化物にし、フッ化リチウム・フッ化ベリリウム溶融塩に溶かして黒鉛を通過させる溶融塩炉 も作れます。ただベリリウムは資源量が少なく世界にあまねく普及する炉とはなりえないでしょう。溶融塩炉は燃料交換のため、運転を停止する必要もないし、 制御棒挿入に失敗しても溶融塩を黒鉛のある炉心からドレインさせるだけで反応は自動停止します。また圧力容器がないためm破裂で汚染物質を撒き散らす、い わゆるブラック・スワンの危惧は軽水炉より少ないといえます。強いガンマ線を出すウラン232も生成され、これを含む溶融流体を直接ポンプで循環しな ければならず、黒鉛の交換など遠隔メンテナンスまたは除染を伴うメンテナンスは高度な技術を要求されます。これは再処理プラントで発電するようなもので運 転者にとっては困難が予想されます。燃料循環系に蓄積するストロンチウム90、セシウム137、バリウム141などの核分裂生成物をウラン、プルトニ ウムから除去するには6フッ化物にして、深冷分離法があります。分離後、ウラン・プルトニウムを水素で還元して4フッ化物にし、循環溶融塩に戻す。還 元工程で副生するフッ化水素は電解してフッ素として再利用するというリサイクル系を組みます。全て放射線遮蔽壁を隔てた遠隔操作となります。また6フッ化 物はガスのため、漏洩防止に多重コンテインメントが必要となり、高度な隔離技術を要します。核分裂生成物のうちキセノン135、クリプトン92などの放射 性希ガス、トリチウム(三重水素、半減期12.32年)、ヨウ素131(半減期13時間)などのガスは溶融塩の中をバブルアップするので捕捉して一時保管 し、減衰を待たなければなりません。ただトリチウムを12年間保管するのはコスト上疑問ではあります。このように面倒なものですが、万一、人類が再生可能 エネルギーで生存できないときの非常エネルギー源としての研究をしておけばよく、中国が検討しているようです。
 

<核融合は幻想?>
核融合は成功すればプロメテウスの火となって人類に光明をもたらすと期待されました。しかしプラズマを磁気的に閉じ込めることが出来た時間はまだ数秒程度 でこれを1年に延ばすことが可能か不明です。1兆円という巨額の国家予算を投入しているトカマク方式はディスラプションというプラズマの不安定現象のた め、閉じ込め時間を大きくできず、原因解明すらできておりません。ヘリカル型という安定に核融合ができそうな形式も考案されていますが、まだ構想段階で す。 磁力線でプラズマを閉じ込めるなどゴムバンドでジェリーを閉じ込めるようなものといって米国は離脱しております。核融合炉ではエネルギーは高速の中性子と してプラズマから放射されます。これを熱エネルギーに変換するブランケットの中に中性子増倍材としてベリリウムをぺブル状に充填します。地球のベリリウム 全資源は実験炉3基分しかないと開発者のベリホフは指摘しております。しかし日本ではなぜかこの問題が論じられることはありません。そしてこのブランケッ トには寿命というものがあるので定期的に交換しなければならないのです。困ったことにブランケットの廃棄物は放射能を帯びており、安全なレベルになるまで 100年間の保管は必要となります。ブランケットは中性子を熱に変換し、冷却材に伝えつつ、超伝導コイルと真空容器を中性子から守る役目もあり、かつトリ チウムを製造するという3つの役目を担います。経済的な交換寿命は3年とされています。冷却材としては水、ヘリウム、液体金属、溶融塩、合金(リチウム 鉛)などが検討されています。日本原子力開発機構は水を冷却材に使い、リチウムを含むセラミックスでトリチウムを発生させます。このように核融合はまさに 夢としかいえない代物です。したがって幻となる運命を背負っているように見えます。米国は可能性なしとして手を引いています。日本は確信を持って研究を継 続しているのではなく、撤退する判断力と勇気をもったリーダーが不在なだけのように見えます。 かくして日本国家のエネルギー関連研究費の実に64%が先のない高速増殖炉と核融合炉に無駄に浪費されているのです。これは官僚と政治家の怠慢以外のなに ものでもありません。

<ブラック・スワン>
核分裂にせよ核融合にせよ、放射性廃棄物を多量に溜め込んでいますので一旦コンテインメントが破れれば大量漏出に伴う広大な居住不可地域発生というブラッ ク・スワンの可能性は否定できません。これらの問題を抱えてまでして核反応ににこだわり二酸化炭素排出削減をすることは非理性的行為となります。マーガ レット・サッチャー首相は「予期せぬことが起きると、いつも予期していなければならない」 と言っていますが、日本国政府は彼女のリーダーシップで作られたIPCC予言に従って原発推進するだけで、こちらの警告は耳にはいらぬようです。加えて世 界で原発の放射性廃棄物の最終処分場が決まったのはボトムアップ方式を採用したスエーデンとフィンランドだけで、他の国はトップダウン方式を採用して決ま らず、原発廃棄物は原発内部に中間貯蔵と称して実質永久保管されることになりそうです。トイレのない家を受け入れる自治体は無くなるのではないでしょう か?放射性廃棄物を出すエネルギー源はいずれ行き詰まることは必定でしょう。

フランスの法制史家にして精神分析家にしてドグマ人類学提唱者のピエール・ルジャンドルは 「独裁とは繰り返し語ること、あるいは繰り返し語る立場に身を置くことである」といっています。日本は現在、二酸化炭素温暖化ドグマ信奉者が国を牛耳って おります。有限な資源に思いが至らない視野狭窄症ですから炭化水素燃料を全て原子力で置き換えるという思想です。いずれも袋小路に至る道です。  

<水力>
水力は太陽エネルギーが水の位置のエネルギーに変換されたものです。日本の水力発電の総発電量は年間900億kWhで日本の9%の電力を供給し、発電単価 は10円/kWh程度です。 主要河川のポテンシャルは開発しつくされておりますが、、山間部支流には小規模な発電のポテンシャルがのこされております。ダム式水力発電 は風力、太陽光などの不安定な再生可能電源のバックアップとして増設されるでしょうし、揚水発電は蓄電装置として再評価されるはずです。

<風力>
陸上風力発電のポテンシャル25.8GW、着床式洋上風力のポテンシャル18.0GW、浮体式洋上風力のポテンシャル38.0GWで合計は81.8GWで す。これに対して、日本の原子力総発電能力は49.5GWですから風力で原子力を代替できる量です。発電原価は陸上風力は9.6円/kWhと新型原子力よ り安くなります。フランスでは原子力発電が80%以上ですので原子力 を負荷調整電源にしていますが、日本の電力会社は原子力発電の稼働率を下げると発電単価が上がるため、風力は電力の質を落とすと言い訳をして購入を拒否し ております。こうしてして国家としての炭化水素ピークアウト後の備えをおろそかにしています。そういう意味で原子力は国家にとっての麻薬といえます。風力 は確かに不安定。しかし炭化水素燃料があるうちは火力で、ウランがあるうちは原子力で需給バランスをとることが可能です。炭化水素燃料もウランも 枯渇したら揚水発電とか地熱発電で需給バランスをとる必要があります。 ドイツはこの方向で走っております。

<地熱>
地熱発電は地球深部におけるウランの放射性崩壊熱の間接的利用です。米国での試算ですが火山地帯でなくとも、地温勾配が45 ℃/kmと高い地域は全土の2%ですが、これのみで全世界のエネルギー使用量の2600年分に相当すると評価されました。 ドイツでは不安定な風力と太陽エネルギーのバックアップとして2050年の地熱 発電は10%にして揚水発電と共に不安定な風力と太陽光をバックアップするものとして重視されています。これらの熱エネルギーは水圧破砕で貯留層を形成し た高温岩体よりの熱抽出で行われます。発電単価は14.9円/kWh程度です。日本は火山周辺だけで地熱資源量は世界第3位で、原発13基分あります。高 温岩体も対象にすれば大きな期待がもてます。

<波力・潮汐・潮流・浸透圧・海洋温度差>
波力発電は風まかせて不安定ですが、潮汐発電は月と地球の位置のエネルギーの利用で、確実なものです。しかし高緯度地帯の海岸の地形に限定されます。潮流 発電や河川水と海水の間に半透膜を置く浸透圧発電は概念設計されていますがコスト高の問題がネックとなっています。海洋の表層と深層1,000mとの温度 差は赤道近くでは24℃ですが、日本近海では18℃程度です。日本の経済水域360km(沿岸200カイリ)の範囲に限っても年間約 1,000×1011kWh (100兆キロ・ワット時)の発電量が期待できます。日本の年間発電量が1兆キロ・ワット時ですからその100倍のポテンシャルがあることになります。し かしこれも巨大な海上構造物が必要で、発電単価が高く、実用化は無理でしょう。

<我々には太陽エネルギーしか残されていない>
以上をみますと、どの一次エネルギーも心もとないものです。炭化水素燃料がピークアウトする2050年までに人類は代替エネルギーを開発しておかなければ ならないのです。これに応えるのは太陽エネルギーしかないのではないでしょうか?正午の太陽エネルギー密度を1kW/m2とし。山 手線内63km2に変換率14%のソーラーセル (PV)を35.3度の角度で敷き詰めて得られる電力はジオメトリックファクタ=0.316、ウエザファクタ=0.4で計算しますと1GWとなります。日 本の年間総発電量10,362億kWhを発電するには6,685km2(山手線の106倍)必要になります。日本の国土は38万 km2ですから国土の1.8%にソーラーセル (PV)や集光型太陽熱発電(CSP)を設置すれば日本の電力の100%をまかなえることになります。国土の66%は山林・原野ですから100%の国産エ ネルギー達成は可能なのです。太陽は人類が持っている安全な核融合炉です。地球が太陽より受け取る輻射エネルギー(太陽定数)は1.37kW/m2。 地球の断面積127,400,000km2をかけると地球全体が受け取っているエネルギーは1.740×1017W となり、現在人類が消費しているエネルギーの1万倍もあるのです。太陽エネルギーのアキレス腱は夜にあります。世界を直流あるいは超伝導送電で結べば西の 昼の国から東の夜の国に送電できます。ユーラシア大陸の東端にある日本にとっては有利ですが、ヨーロッパとか米国は不可能です。家庭用の照明や自動車程度 ならバッテリーも使えますが長期の天候不順などには対応できません。位置のエネルギー、熱、化学物質に変換して貯蔵することをしなくてはなりません。太陽 エネルギーをさえぎる雲がないサンベルト地帯で化学物質に変換して貯蔵・輸送する技術が必須となるでしょう。

<宇宙太陽光発電は非現実的>
1977〜1980年にNASA(米国航空宇宙局)とDoE(米国エネルギー省)が宇宙太陽光発電構想を検討しました。アメリカ合衆国全土の全電力を賄う ため、発電性能500万kW、総重量約5万tの超巨大衛星を静止軌道上に年に2機ずつ、合わせて60機程を打ち上げることが計画されましがコストがかかり すぎるとして中断しました。大気の状態によっては、送信されたエネルギーが吸収・減衰して発電量が激減するし、野生動物(特に渡り鳥)の生態に悪影響を与 える可能性が懸念されます。2007年10月には米国防省の国家宇宙安全保障室(NSSO)が「戦略的安全保障としての宇宙太陽光発電」という研究報告を 発表しました。これによれば幅1kmの静止地球軌道上に1年間降り注ぐ太陽エネルギーの量は確認埋蔵量に匹敵するとしております。

<バイオマス・エネルギーはすでに目一杯でこれ以上期待できない>
バイオマス・エネルギーは植物の光合成能力の利用です。転換効率は1%程度で、現在以上の生産は望めません。米国がトウモロコシからのアルコール燃料を生 産した途端、穀物価格が上昇したことは記憶に新しいことです。 特にトウモロコシからのアルコール燃料生産のエネルギー収支比が低く意味をなしません。微細藻類の生産性は高いのですが、受光面積の広い培養装置、水、肥 料が必要となります。ピーク・ランド、ピーク・リンのため、食料生産を優先させて、農業に優先的に土地を配分すべきです。広葉樹林を燃料にする発電は14 円/kWh程度で可能ですが、効率的経営ができない国有林が 多く、民有林は所有が分断されていて身動きがとれません。たとえ効率的経営ができたとしても、傾斜地が治水上制約が多く、生物多様性の損失に連なりますの であまり期待できません。 森林は用材生産に使うべきでしょう。日本で未利用なバイオエネルギーは都市ゴミの分別をしっかり行うメタン発酵、建築廃材の燃料化など廃棄物リサイクルで しょうか?

<ソーラーセル>
ソーラーセル(photovoltaic cell, PV)の太陽光転換効率は10%以上とバイオの約10倍あります。ソーラーセル(PV)は半導体の光起電力効果(内部光電効果)を原理とするもので可視光 を直接電子の流れに変換できます。結晶シリコン型、シリコン薄膜型(Thin Film)、金属化合物型(Metal Compound)、色素増感型(Dye-Sensitized)、有機薄膜型があります。このほかに光を電磁的に電流に変換する技術や熱電変換素子も研 究されております。シリコンを使うソーラーセル (PV)の理論転換効率は33%で500倍集光時は40%となります。効率が低くてもコストが安ければ、発電コストは下がります。ソーラーセル(PV)は エネルギー発生装置なので情報処理用の半導体とは異なり、小型化で素材量を減らすことはできません。そこでコストダウンには2つの流れができました。一つ はアモルファスによる薄膜化で素材量を1/100にするものです。効率は半分に落ちますが発電コストは下がります。ただこれは屋根の面積が小さな家庭用に はむかず大規模発電用です。もう一つはシリコンを使わない化合物半導体の薄膜を使うものです。効率の低下はシリコン程ではありません。いまのところ カドミウムーテルル系の半導体を使う米国のファストソーラーが急成長してマレーシアやベトナムに巨大工場を建設して急成長していますが、テルル資源に制約 があり、年産3GW程度といわれています。銅ーインジウムーセレンあるいは銅ーガリウムーセレンを使う化合物半導体も開発されています。 インジウム資源に制約がありますので銅ー亜鉛ースズーセレン方式が目下研究されています。いずれにせよコストダウンは装置の大規模化ではなく、多量生産に よるものです。多量生産を促進するために各国は定額買取制度、税控除などの政策を採用して普及を計っています。現時点における ソーラーセル(PV)の発電単価は40円/kWh程度ですが、2020年にはグリッド・パリティーを達成し、2035年には原発をクロスオバーして下がる でしょう。炭化水素燃料がピークすぎれば世界的にエネルギーコストは高くな りますが、一方 、太陽エネルギーコストは技術の進歩により下がります。多量生産は人件費の低いアジアが有利で日本に勝ち目のある製品でないところが困った点です。日本の 人口1億2,800万人とし、平均家族構成を4人とすると、日本全土に3,200万戸の家屋があることになります。この全ての屋根に最大出力3.3kWの ソーラーセル(PV)を乗せるだけで、各戸の年間発電量は3,290キロワット時/戸ですから1,050億キロワット時とな ります。日本の総発電量1兆キロワット時の10%のポテンシャルがあることになります。100%の自給率にするためには屋根の10倍の面積にソーラーセル (PV)を設置することで可能となります。ビルの壁面を全てソーラーセル(PV)で覆うことも考えられます。道路の法面、耕作放棄農地もソーラーセル (PV)を設置する場所にできます。陸上で確保できなければ湖に浮かべることができ、将来は洋上の浮体に設置することも考えられます。日本の電力会社はし かし原子力発電の稼働率を下げると発電単価が上がるため、風力とおなじくソーラーセル(PV)は不安定だとして後ろ向きです。そして逆潮流で出来ないとし て自動カットオフするとして抵抗しております。ソーラーセル(PV)所有者は対抗手段としてオフ・グリッド運用があります。

<集光型太陽熱発電>
ガラス製鏡を使う放物線型集光器を使い、太陽光をガラス製の真空管中に格納した集熱管に集め、高温を作り、水蒸気を発生させて発電するものをバラポラ・ト ラフ型集光型太陽熱発電(Parabolic Trough Concentrating Solar Power: CSP)と呼びます。集熱管の表面は赤外放射の放射率を下げる物質でコーティングして放射による熱損失を防ぎます。集熱管内は熱油または溶融塩を流しま す。CSPは溶融塩による蓄熱も可能で24時間発電が可能となります。転換効率は30%以上になります。日本では1970年代に石油がバーレル40ドルに 高騰した時、NEDOがパワー・タワー型のプロトタイプを建設して実証しましたが石油が10ドルに暴落したため、このプランは忘れられました。しかし最近 の原油価格の高騰をうけて晴天の多いサンベルト地帯ではCSP方式が建設されはじめました。現時点では サンベルト地帯の22yen/kWhの発電単価はソーラーセル(PV)より低いためです。日本のような曇天の多いところでは45yen/kWhで 、今後もグリッド・パリティーを達成することはありません。ドイツを代表する20の大企業がコンソーシャムを組み、サハラのCSP事業に総額で4,000 億ユーロ(54 兆円)の投資を意味するプロジェクトを立ち上げますた。電力は地中海を越えてドイツに直流送電します。

<スマート・グリッド>
電力は貯蔵できません。需給アンバランスはフランスを除き、建設費の高い原子力は最高負荷で使い、建設費の安い火力発電を負荷調整用に使っています。フラ ンスは原子力の比率が高いですから原子力を負荷調整用に使っています。不安定なソーラーセル(PV)とか風力などの再生可能エネルギーが入っても安価な火 力で調節できます。ヨーロッパでは中小火力を持つ中小都市が一定間隔で均一に分散して入るた め、都市と都市の空間の農地に分散する風力とは距離的に近く、送電線を太くせずとも火力でバックアップ可能です。このような事情で風車を多量に導入しても 問題ありません。ところが日本は細長い地形に巨大都市は集中していますから土地面積の広い田舎に沢山の風車を導入すると、火力発電所を抱える巨大都市に向 かって長い送電線を逆流させねばなりません。送電網を太くし、サブステーションを逆流させないと、火力で調整できないのです。そこで消費端近くでバッテ リーでバックアップという考えが生じます。問題はバッテリーがいまだ高価で今後も本質的に下がりにくい。下がるとしても半分くらいでしょう。 また劣化という化学特有の問題が生じます。だからドイツは火力についで安い揚水発電で蓄電と思い定めたのです。揚水発電は初期投資額はバッテリーよりも高 価ですが100年は使えますから社会インフラ投資としては絶好です。揚水発電やバッテリーに加えるに、安定な再生可能エネルギーとして地熱、バイオマス、 蓄熱器付き集光型太陽熱発電を補助的に使ってバックアップします。しかし長期間の天候不順への対処法が苦しいところです。解決策は海外のサンベルト地帯で 再生可能エネルギーを転換した合成燃料を使うコンバインドサイクル発電でしょう。さて地球の半分は常に昼です。多国間をケーブルで結び、昼の国から夜の国 に送電することで蓄電なしに電力の供給が可能になります。電流は西から東に向かって流れるようになります。一国間でも送電線の損失は4%程度のため、直流 送電が最も効率的で安価な方法でしょう。伝送損失を5%とすれば、電力原価を10円/kWhとすれば0.5円/kWhの損失となります。

<海外のサンベルト地帯で集光型太陽熱発電からアンモニア燃料合成>
集光型太陽熱発電は曇天の多い日本では不利です。しかし炭化水素燃料もウラン燃料も枯渇したときは直射日光がふりそそぐ海外のサンベルト地帯で集光型 太陽熱発電して合成燃料に転換してタンカー輸送して日本に持ち込むことが考えられます。そして不安定な再生可能エネルギー電源のバックアップ火力発電燃 料、自動車燃料、都市ガス、産業燃料とするのです。水電解で水素を製造しても貯蔵と運搬は芳香属 化合物を水素化するケミカル・ハライド法を使っても困難です。そこで水素と空気中に0.04%ある二酸化炭素を原料にしてフィシャートロピッシュ合成でメ タンガス、炭化水素油、メタノール、これを脱水したジ・メチル・エーテルを合成します。または空気中に80%ある窒素と反応させてハーバーボッシュ法で電 解水素を空気中の窒素と反応させて誘導品たるアンモニアとすればLPGと同様に貯蔵・運搬が可能となります。これは水素を炭素と反応させる誘導品に次いで 容積効率の良い貯蔵・運搬手段です。アンモニア燃料は熱分解で水素になりますから燃料電池車の燃料として最適です。2050年頃、ガソリンとクロスオー バーします。それまでは天然ガスを原料にしてアンモニア燃料の流通網を築いて備えるという手があります。天然ガスを水蒸気改質した水素と一酸化炭素の合成 ガスからハーバーボッシュ法で合成するアンモニア燃料はガソリン税が不要ですから現在でもエネルギーベースでガソリンのリッター120円と同じレベルで す。これはバッテリー車より有利となります。バッテリーコストは今のkWh当たり3万円程度になっても、バッテリー寿命は毎日乗れば7年、少しも使わねば 15年くらいはもちますが、買い替え時車の半分に相当する投資が必要となります。太陽エネルギー転換燃料の研究目標としては水素を経由せず、電解アンモニ ア合成が考えられます。将来的には光触媒を使った人工光反応も考えられます。こうして生物のエネルギー共通通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)と同じ ようにアンモニアを地球人間生存圏のATPとすることが可能です。

図-1.46二酸化炭素温暖化ドグ マの認識

<スマートハウス>
省エネで成功したのはヒートポンプの効率化でした。しかしこれもジェポンズのパラドックスでその分、快適な住空間が出現して終わりました。燃料電池は低価 格化に成功しておりません。ライフスタイル:Lifestyles of Health and Sustainabilityやサマータイムの導入は疑問ですが、郊 外ではスマートハウスが普及するでしょう。スマートハウスとはスェーデン式無暖房住宅とも呼ばれるアクティブソーラハウスと分散発電と蓄 電と蓄冷を組み合わせたものです。アクティブソーラハウスは厚さ45cmの保温材。窓には近赤外輻射をカットする膜をガラス内面に張って室内に反射、2重 ガラスの間隙にはクリプトン・ガスを封入して対流による熱損失を阻止し、出入り口はダブルロック方式。熱交換式換気を採用して生活で発生する熱を回収しま す。そして屋根はソーラーセル(PV)で葺き、余剰電力はバッテリーまたはハイブリッド車搭載バッテリーに蓄えます。地下2mの地盤の温度を集めて空調す るパッシブ・ハウスとします。家電はインバーター内蔵永久磁石同期モーター駆動のヒートポンプまたは吸収式ヒートポンプをつかいます。LED照明、ファ ン、情報機器、 IH調理器はバッテリー駆動です。こうしてスマートハウスは電力網から独立してオフ・グリッド運用するようになるでしょう。プラグインハイブリッド車搭 載バテリーとパッシブ・ハウスの直流システムを直結して連携運用します。天候の悪い日には自家用車が自家発電装置となります。燃料はサンベルト地帯産のア ンモニア燃料も使えます。こうして電力網から独立した分散発電が普及し、高価な電力を一般市民に売り、産業に安く売った電力業とそれの恩恵をこうむった産 業は衰退する でしょう。そのとき原発は止まるのです。高速増殖炉が成功しようがトリウム炉が成功しようが関係ありません。分散電力流通サービスを提供できない電力業は 市場を失うでしょう。これをグリーンウッドのドミノ理論といいます。東大の教授連ですら原発を一定負荷で使うための夜間電力有効利用のヒートポンプと風力 の不安定さを平渇するリチウム電池の研究をしているだけです。ソーラーセル(PV)発電で蓄冷したり、マイクロ揚水発電、浸透圧発電などの研究は皆無で す。したがって世界の研究者は東大教授の文献を孫引きまでして引用することも なくなり、世界における日本の大学ランキングは凋落しつつあります。即ち、日本社会は全てに後ろ向きで電力事業の自由化もできていません。こうして日本は 凋落しつつあるのです。

図-1.47 ピーク・アウト・ドグマの認識

<スマートシティー>
スマートシティーの発展があるでしょう。日傘を使うなどパッシブな都市空間を持ち、アクティブ・ソーラーハウス、LED照明、真空集熱器による給湯も併用 というものです。自動車道路の一部を自転車専用レーンに切り替え、交通機関はEVのみ。電池式路面電車、共用EVで省エネします。LED照明、国境を越え るスマートグリッドで都市間を結びます。炭化水素燃料は一切使わず、ソーラーセル(PV)、風力、溶融塩蓄熱付き付き太陽光集光型発電(CSP)、ダム式 水力、揚水発電、地熱発電で夜間電力を含む全ての電力を賄い、余剰電力は売ります。

<世界人口動向>
世界の生活水準が向上、平均寿命が伸び、識字率が向上し、人口増加は止まります。ただ貧富の差が拡大したままで、今後これをどう解消するかは課題として残 されます。

<生物多様性保護>
気候変動防止のために二酸化炭素を回収・隔離する必要は無くなります。ただ海洋が酸性化して海洋生物に影響が出ないように石灰石で中和するなどの方策は必 要となるでしょう。

以上をまとめますと100年後には下図のようになります。
 

<図-1.48 究極のエネルギーの利用形態

 

二酸化炭素濃度温暖化信仰とバイオ・原発・増殖炉依存

日本の学会も政府もヨーロッパで始まった二酸化炭素濃度温暖化信仰に感染しました。これはバートランド・ラッセルのティー・ポッ トの喩え話の ようになかなか反証が難しいから信仰といわざるをえないのですが、その反証努力もせずに感染したの はいささか安直すぎます。

自民党最後の麻生首相の頃、朝日新聞の藤明論説委員が素粒子欄に書いた「嗚呼 ニッポWindows 10ン依存大国」というギャグがあります。

私がケータイ依存なら、兄はゲーム依存
姉はコンビニ依存で、母がユニクロ依存
クビ切られないように父は上司依存
 

首相が内閣支持率依存なら、大臣は官僚依存
官僚は天下り依存で、野党はスキャンダル依存
舌がよく回る政治家はテレビ露出依存
 

経済界が外需依存なら、学会はバイオ・原発依存

 

嗚呼ニッポン依存大国

私はこれに

マスコミ、学者、業界、役人、政治家は二酸化炭素温暖化信仰とバイオ・原発・ 増殖炉 路線依存

を付け加えたいと思います。

カナダの心理学者ブルース・アレクサンダーがおこなった「ネズミの楽園 Rat Park」実験で「動物は、環境が過酷であればあるほど薬物依存になる」という仮説が立証されました。人も同じ・・・依存症がこれでもかと散見されます。 以下ご紹介します。

 

何が見えますか?

図-1.49の絵を見てください。何が見えますか?

図-1.49 Message damour des dauphins

前のガラスのビンの首にかけられた札にはガラスのビンの首にかけられた札に「ドルフィンの愛の メッセージ」と書かれていますように、10匹のドルフィンが描かれているのです。10歳以下の子供にはしっかりと見え、男女がからみあっていると認識しま せん。しかし大人はなかなかドル フィンをみることができません。 なぜでしょうか?それは人間の認識は無意識下で自動的に行われ、その理由は後付でついてくるからです。

ユ リウス・カエ サルが 『ガリア戦記』3-18に書いた言葉「Fere libenter homines id quod volunt credunt. (願わしいものなら本当と思いこむ人間の一般的傾向)」がぴったりする現象です。


多くの人は自分が見たいと欲するものしか見ない

気候変動は炭化水素燃料の使いすぎではないかと贖罪の気分からか二酸化炭素の人為的増加が気象変動ではないかとの疑惑がマスコミ で増幅されて 排出削減が政治的目標になりま した。しかし気候変動より重要なのは1世紀後には人類は

炭化水素燃料依存

から脱却しなければなりません。枯渇してしまうからです。人類は太陽という安全な核融合炉からの
 

太陽エネルギー依存

という構図になると予見するのが論理的なのに日本ではなぜか国家の科学技術開発の目標にはならず
 

<マスコミ、学者、業界、役人、政治家は原発・バイオ依存

一本槍でした。そしてその理由は日本はエネルギー資源がないので安い原発電力で製造した工業製品を輸出した金でエネルギーを買う という

外需依存

が理由でした。原発は発電単価が低いので国際競争力確保に必須であるというわけです。これは必ずしも真ではありません。役所は

ご都合値公表依存

です。政府支援費、廃炉費、再処理・バックエンド費、原発更新費を加えれば原発は安い電源ではなくなります。

羊頭狗肉依存

です。

 

高速増殖炉と核融合炉幻想

敗戦直後にインプリントされた原爆の力とその背景にあるアインシュタインの一般相対性原理から導かれる E=mC2 が日本のエ リートの無意 識記憶に強烈に残り、日本のマ スコミ、学者、業界、役人、政治家は

E=mC2依存

になりました。 (これが意味するところは化学反応は電子1個の持つ1eVのエネルギーしか出さないのに対し、陽子92個のウラン233、235、238などの核分裂 では200MeV即ち単位重量当たり100万倍のエネルギーを放出するということ )

このエムシー・スクエア依存症がある人がウラン資源のR/P=85-100年という事実に直面すると核融合炉や高速増殖炉による プルトニウム 増殖構想に無意識的にクリ ンチします。しかし核融合炉は中性子を熱に変換するブランケットに中性子増倍材と加えるベリリウム資源が融合炉3基分しかないので完全な幻想です。

しかしエムシー・スクエア依存症の人は高速増殖炉と燃料再処理で突破できるといまだ呪文を唱えております。しかし高速増殖炉は核拡散防止のために世界のあ らゆる国で使える技術ではありません。世界で持てるものともてないものの格差を生み、紛争の火種になります。

不公平依存

でしょう。高速増殖炉によるプルトニウム増殖は兵器級プルトニウムの多量生産となり、核拡散防止の困難に直面しますし、再処理工 程の収率を含 む総合増殖率が1を越えるか疑 問です。仮に1を越えても複利計算すれば分かりますが、世界が必要とする総エネルギーを賄うためには100年という増殖期間を必要とします。増殖路線はた だ単にプルトニウムを持ちたいという無意識下の願望に突き動かされた政治家の妄想によるものではないでしょうか?彼らは

キム・ジョンイル症候群

に罹患しているように見えます。核拡散の恐れもなく、資源量がウランの4倍もあるトリウム炉を開発すれば良いのですが、核兵器が 出来ないので 誰も興味を持ちません。

 

インプリントされた潜在意識

無意識下の衝動に突き動かされている原発依存症の人々は人為的二酸化炭素排出が地球温暖化の原因ではないかという懸念がでると 「原子力こそ解 決策だ」と飛び上がって喜びま した。そして日本国の方針としたのです。彼らは原子力こそ気候変動防止の本命だとコンラート・ローレンツの「ソロモンの指輪」にでてくるハイイロガンのよ うにさわがしく主張します。そして原発はほとんど国産エネルギーだと主張します。食料の国産化率を心配する国民の心理をたくみにとりこむどこかの農水省と 同じです。

国産化率依存

その口吻はなにか米国の投資銀行のディーラー達の雰囲気を漂わせています。もしブラック・スワン現象によって強制疎開をせざるを えなくなれ ば、歴史家はかれら産官学複合体 が国家を壊したと弾劾することでしょう。そしてかって武装官僚が国のエネルギーを確保すると称して国を誤ったとき行われたようなA戦犯裁判が行われるので はないでしょうか?

原発依存症の人々は太陽エネルギーを胡散臭い目で見てきました。太陽エネルギーは本質的に分散発電で大規模の発電所からニコラ・テスラの提唱した交流で電 力を配電するという明治以来のビジネス・モデルが崩壊するからでしょうか。

日本のハイイロガンたちは原発1基分1GWの電力を得るには山手線内63km2をソーラーセル(PV)で埋め尽くさねばならないと声高に宣伝します。

山手線依存

のレトリックです。

 

山手線のレトリックは両刃の刃

たしかに正午の太陽エネルギー密度を1kW/m2とし。山手線内63km2に変換 率14%の ソーラーセル(PV)を35.3 度の角度で敷き詰めて得られる電力はジオメトリックファクタ=0.3162、ウエザファクタ=0.4で計算すると1GWとなります。

ところがこのレトリックは両刃の刃です。同じ計算で日本の年間総発電量10,362億kWhを発電するには6,685km2(山 手線の106倍)必 要になります。日本の国土は38万km2ですから国土の1.8%にソーラーセル(PV)や集光型太陽熱発電を設置すれば日本の電力の100%をまかなえる ことになります。国土の66%は山林・原野ですから100%の国産エネルギー達 成は容易であることがお分かりいただけると思います。

太陽は人類が持っている安全な核融合炉です。地球が太陽より受け取る輻射エネルギー(太陽定数)は1.37kW/m2で す。地球の断面積 127,400,000km2をかけると地球全体が受け取っているエネルギーは1.740×1017Wとなり、現在人類が消費して いるエネルギーの1万倍もあるのです。

太陽エネルギー依存

が本命なのです。 太陽エネルギーは利用は半導体をつかったソーラーセル(PV)と集光型太陽熱発電(CSP)があります。低価格の金属化合物半導体ソーラーセル(PV)、 シリコン必要量が1/100となる薄膜型シリコン・ソーラーセル (PV)がグリッドパリティ-ーを達成すればパラダイムシフトが生じるでしょう。日没後も24時間発電できる溶融塩蓄熱器付集光型太陽熱発電が米国やイタ リアですでに実用化されています。サンベルト地帯設置の場合、その発電単価は、補助金をつけた米国の新設原発ラッシュや日本の新設計画で原発建設費が高騰 したおかげで発電単価はクロスオーバーしてしまいました。

集光型太陽熱発電は雨や曇りの日は発電できませんので日本向きではありませんが、砂漠など晴れの日が多いと原発より安価な電力を 生み出しま す。この電力で合成燃料を作り、 貯蔵・海上輸送することにより、地球的規模の太陽エネルギー利用が期待できます。砂漠が資源となるわけです。山手線依存ではなく

砂漠依存

となるわけです。

 

迷走の果てに

昔々どこかの国に少し知性の低い大統領がおりました。彼は気候変動防止機運に少し配慮するポーズを示し、そしてなによりも農民票 を得んとして かバイオ燃料振興の旗を振った ことがあります。かの国の

バイオ燃料依存

をみた某国の某官庁もなぜか慌てて真似をしましたが、減反政策で農地は放棄され、働き手がおりません。そこで農業国のフランスか らエタノール を緊急輸入してガソリンに混ぜ て売れと石油業界に押し付けたことがありました。結果は食料価格の高騰でアフリカの人々が飢えに苦しんだだけで終わりました。

森林の二酸化炭素固定能力に目をつけて電力会社に一定量の木材を燃料にすることを義務つけましたが、国内林業が崩壊していまった ためコスト高 となり、安価な輸入木材を燃料 にする始末です。

バイオはすでに世界一次エネルギーの9.8%を分担しておりこれ以上は限界。微生物の光合成の効率は高いが、工業規模の装置と二 酸化炭素と肥 料を高濃度に与えねばならず意 味がありません。PVやCSPの方がコストパーフォーマンスは高いのです。

米国の約2%の地域では地温勾配が45 ℃/km と高く、これらの地域のみの熱エネルギーでさえ、1982 年当時の全世界のエネルギー使用量の2600 年分に相当する位ありました。まして日本は地熱資源は世界第3位で、原発13基分はすぐにでも開発できるというのに、原発で行こうという考えで固まってし まった中央政府が、これも継子扱い で、切捨ての口上として

地熱資源は市場依存

という呪文で逃げ回っているため、手付かずで眠っています。高温岩体発電開発にも一般の関心は低い。

 

困ったときの詭弁

原発推進派はブラックスワンが出現して、大勢の避難民が発生すれば風向きが変わり戦犯にされることにも気がつかず、風力発電が ヨーロッパで普 及すると、これをつぶそうと 電力の質維持のためと称して二次電池によるバックアップが必要だとさわぎました。

電力の質維持のための二次電池依存

です。確かにグリッドを管理する電力会社はソーラーセル(PV)、風力導入で乱れる潮流を管理するために火力発電の出力を頻繁に ゼロからフル 出力まで調節する必要に迫ら れます。そこで高価なバッテリーなどの化学蓄電に魅力を感ずるようです。しかしバッテリーは寿命が短く、高価ですから電力料金の大幅な値上げ無しには不可 能でしょう。

化学エネルギーに変換する化学蓄電は高価です。位置、圧力、熱などの物理エネルギーに変換して蓄える物理蓄電は揚水発電のようにグリッド電力コストと等価 です。しかし米国で採用されている夜間も発電を継続できる蓄熱・集光型太陽熱発電、ヨーロッパで採用されている圧縮空気貯蔵ガスタービン発電などの物理蓄 電には興味がないようです。

ヨーロッパは歴史的に馬で一日に移動できる距離を介して中小都市が均一に分散分布していたため、網の目のような配電グリッドが存在しております。分散エネ ルギーである再生可能エネルギーを導入しても、最寄の小都市で消費できます。また発電所も日本のように海岸線に集中しているわけではなく、石炭はどこを 掘ってもあるし、冷水塔をヒートシンクにしてこれも最寄の小都市に対応して存在します。このため、安い石炭火力でバックアップできる仕組みが歴史的に出来 上がっています。

日本は一極集中、ヨーロッパは分散

風力とソーラーセル(PV)の導入率が高くなったヨーロッパでは昼間は炭化水素燃料火力を絞ってソーラーセル電力を使い切り、夜 間は炭化水素 燃料火力の電力を利用しており ます。フランスは原発比率が80%にもかかわらずPWR炉を負荷調節電源として休日には運転を停止することで対応しています。こうしてヨーロッパでは二次 電池などの化学蓄電や揚水発電などの物理蓄電装置はほとんど使わず系統連携で対処できています。

 

グランドビューのないタコツボ発想

しかし日本では地域独占の電力会社に分断され、消費地は東京など大都市だけ、東北などは僻地であるという大きな地域差がありま す。各社自分の 枠の中で特殊に進化しました。

地域独占依存

また日本では原発の発電コストはほとんど資本関連費ですから最大出力で運転して安くするために負荷調整運転をしていません。従っ て低需要時、 火力を絞るだけでなく、完全に 停止しなければならないという実態が生じるのです。

電力会社はソーラーセル発電用の用地をもっておりません。土地・家屋持ちの消費者は自前のソーラーセル(PV)で昼間の自家発電 が可能ですが 夜間は電力会社から購入しな ければなりません。昼間余剰電力を逆潮流させて電力会社に集中蓄電してもらうことは蓄電コストがかかりすぎます。電力会社にできることは火力と原発の負荷 追従運転によるバックアップ位でしょう。

 

何でもいい屁理屈

過剰に原発に投資してしまった電力会社は二次電池自動車を普及させて夜間の電力需要喚起をしなければと電気自動車用リチウムイオ ンの技術開発 が大切と目の色を変えてクワッ クワッと鳴きます。

二次電池自動車依存

だ。 しかしリチウムイオン電池の蓄電コストは69-20円/kWhという程度で揚水発電に一歩譲ります。ガソリンの価格上昇は急ですから、稼働率の高い業務量 EV車は 2050年以降ハイブリッド車より有利になります。しかし稼働率が低い自家用車ではなかなか有利さがみつからないでしょう。おぼれるものは藁をもつかむの たとえ、最近は存亡の危機にたつハイブリッド車開発に乗り遅れた日米の自動車野郎たちも二次電池だと唱和しているがそうなるのは大分先のことだと思いま す。

 

あげくの果ての誤った方向感覚

そもそも日本では気候変動防止といえば原発、バイオ、省エネ一本槍でした。

原発、バイオ、省エネ依存

です。そうして省エネは世界一だと自賛するのです。そしてもう省エネではやりつくした、雑巾を絞っても何もでないと開き直るので した。

一部の研究者は熱サイクルを使う発電方式は古い、燃焼温度3,000oCの熱サイクルと同じ転換効率 83%が期待でき ると

燃料 電池開発研究費依存

しましたが、有機膜を使う自動車用ないし民生用燃料電池本体は高々38%を達成しただけで、コストダウンもできず、効率でもター ビン入口温度 1,500oC のコンバインドサイクルの59%に破れ去りました。こうして燃料電池単体を搭載する燃料電池車は消え去りました。

水素しか燃料として受け付けない燃料電池を開発し、水素燃料時代がくると叫んで廻る人々もいました。

水素燃料依存

です。しかし、液体水素を燃料にできるのは金に糸目をつけない宇宙計画くらいでしょう。このような視野の狭い人々からは水素は裸 でつかうので はなく、炭素や窒素に抱かせて 扱いやすい液体燃料として使うという発想がでてまいりません。

こうして日本はガラパゴス化しているように感じます。オバマがこの不況脱出のために新しい産業を興して雇用を維持するという「グ リー ン・ニューディール」をぶち上げたのを みて、危機感をつのらせた経済産業省の役人が手のひらを返したように倍額買取り制度を法制化すると言い出しました。彼らもようやく目がさめかけたのかルビ コン川を渡ったようです。

 

遅れてやってきた二酸化炭素グリーンハウス効果疑惑

しかし、しかしです。二酸化炭素のグリーンハウス効果が全くのイルージョンではないかとの疑問が澎湃として内外の純粋物理学者達 から呈される ようになりました。素人でも過 去12年間の気候を見ますと温暖化よりむしろ寒冷化しているのではという疑問を感じています。IPCCやこれを支持する一部気象学者達はガリレオが地動説を唱えたとき、天動説を支持するローマンカト リック教会がこれを弾圧したことに匹敵する世紀のスキャンダルと言ってよいでしょう。気象学者達は団結して自分達のドグマを守ろうと躍起になっています。

査 読 依存

です。たとえIPCCが間違っていたとしても貴重な炭化水素燃料を大切に使い、ピークアウトに伴う価格暴騰を防止しつつ再生可能 エネルギーに ソフトランディングさせる ことは大切です。そのためには炭素税という言葉は不適切ですが何らかの有限資源利用税としてなら意味があるかもしれません。日本政府は国際公約と称して 2025年の炭素排出量を1990年比25%増に抑えるとし、これを可能とするために炭素炭素排出権売買に傾斜しております。

炭素排出権売買依存

です。ロナルド・コースの定理を適用する炭素排出権売買は経済理論として は正しくとも炭素が気候変動の原因でないなら有限資源利用権取引とでもしなければ機能しないでしょう。

 

炭素ないし二酸化炭素 の回収法

温暖化の原因がIPCCが主張するように人為的二酸化炭素増ではなく、自然現象とするならば炭化水素燃料はあるだけ使えばよいこ とになり、二 酸化炭素の回収・隔離も原子力利用も不要となります。人類は炭化水素燃料があるうちは現在の文明を 維持するためにも価格さえ妥当ならこれを使い続けるでしょう。

IPCCがもし正しいなら二酸化炭素、または炭素を分離してどこかに隔離するという考え方がでてまいります。通常の発想は燃料を 燃してからこ れを分離回収するということになり ます。しかしノーベル化学賞を受賞したジョージ・オラーが提案するように炭素を燃さないで分離し固体として隔離してしまう方法も考えれます。このためには 炭化水素燃料を触媒を使って1,600oC程度で熱分解して炭素と水素ないし水素の少ない炭化水素に転換し、炭素をカーボンブラッ クという固体微粒子として分離します。欠点は炭素を燃さない分だけエネルギーを回収できない不満が残ることです。そこでタイヤ、電池などの電極の素材とす るか、穴を掘って埋めます。元の木阿弥ですが水と混ぜてスラリー燃料とすることも可能です。

メタンの燃焼熱は888kJ/mol、水素の燃焼熱は284kJ/mol ですから水素として回収できるエネルギーはメタンの持つ燃焼熱の2x284/888=64%となります。これはかなりの損失です。燃してしまえば、二酸化 炭素の回収に 必要なエネルギーは10%をこえないでしょうからエネルギー的には燃したほうが得です。しかし二酸化炭素の安全な捨て場が容易には見つからないときは炭素 にして隔離するしか方法はありません。ただIPCCの見解が必ずしも正しいわけでもありませんから、炭化水素資源を早く枯渇させる オラー法が望ましいかは疑問のあるところです。 ドイツで研究しているようですがなかなか本格採用には踏み切れないのではないでしょうか?

燃して二酸化炭素にしてから回収する場合、燃料の燃焼過程そのものに入り 込めば4つの 方法が考えられます。

@燃焼後回収(ポスト・コンバッション回収):排煙からアミン溶液などで化学吸収分離します。

A燃焼前回収(プレ・コンバッション回収)またはガス化プレコンバッショ ン分離:石炭を酸素で部分燃焼し、または天然ガスを水蒸気改質し、シフト反応で水素と二酸化炭素に変換します。このときガス化や改質反応圧力を高く維持し ながら、副生 する二酸化炭素を高圧で分離する方法です。適用分離プロセスはプレッシャー・スイング法、膜分離法、低温メタノールで物理吸収するレクチゾール法等です。 こうして得られた水素をコンバインドサイクルの燃料にします。同様に石炭や天然ガスから低炭素燃料合成または アンモニアやヒドラジンなどのカーボンフリー燃料合成するときにプレコンバッション分離を適用できます。

B純酸素燃焼後回収:酸素分離装置で分離した純粋酸素でボイラー燃焼ある いはガスタービン燃焼させて二酸化炭素と水だけを生成させる方法です。冷却で簡単に回収できます。燃焼温度はリサイクルする二酸化炭素量で調節。タービン 排気の排熱は コンバインドサイクルとして電力に転換します。このアイディアは確か2007年に本論文を書き下ろしたときに提案させてもらいました。ガスタービンメー カーの仕事だと思っていましたが、5年後の201年6月16日に東芝が米国で本方式の発電プラントを2014年に建設すると発表しました。まずは25MW ららはじめ2017年には250MWにするということです。回収した二酸化炭素は枯渇した油田でEORに利用されます。

Cケミカル・ルーピング・コンバッション:鉄、ニッケル、銅などの金属粒を空気反応器で酸化させ熱を得ます。そして生成する酸化 金属粒は燃料 反応器に送り還元(吸熱反応)して燃料を二酸化炭素と水に変換 します。燃料と酸化剤たる空気が直接燃料と接触しないため、空気反応器からの排ガスがほとんど窒素だけで燃料反応器からの排気は二酸化炭素と水蒸気だけに なります。これを冷却するだけでほぼ純粋の二酸化炭素が分離できるのです。

 

炭素または二酸化炭素の隔離法

前述の固体炭素として分離された炭素は燃さず素材として利用するか、地中に穴を掘って隔離します。

燃して二酸化炭素にしてしまったものは地中あるいは海洋に隔離して大気に出さないようにします。

表-1.16に2006年に公表されたIPCC二酸化炭素回収貯留特別報告書(IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage CCS)に準拠し、二酸化炭素隔離法をまとめました。地中隔離コストは第5章地中貯留の値、海洋隔離コストは 第6章海洋貯留の値です。いずれかを採用すればスターン報告にあるようにGDPの1%以内の費用で充分可能でしょう。

方式 特徴 輸送 隔離コスト ($/ton CO2)
地中隔離 廃油田や帯水層に注入する。廃油田注入の場合EOR効果期待可。収容能力に限界あり。漏出事故のリス ク。 0.4-4.5
海域地中隔離 深さ1,000mの大陸棚の海底の帯水層に貯留。2006年11月ロンドン条約で認められる。収容能 力に限界あり 4.7-12

海洋自然吸収

海には深さ100m位に温度躍層があって、中深層水とは対流していないた め、大気と平衡状態になるのに数千年の時間が必要で表層は酸性化する

0
深海直接注入海洋隔離法 海深1,000-3,000m位の海中に二酸化炭素を注入する。海洋の収容能力は十分。海底に二酸化 炭素の液体あるいはハイドレートのプールが出来て、そ の部分の海底生物は死滅し、中深層水の海洋生物への影響が懸念され 、国際的に認められるかどうかはまだ不明 11.9
石灰石中和海洋隔離法 微粉砕した石灰石で中和して海に放流する。海洋の収容能力は十分。石灰石の資源量は炭化水素燃料の1 万倍。石灰石中の不純物による海洋汚染などが未知だ が、海の生理に適った方法で、海にミネラルを供給して海産物の増産対策になるというメリットもある 10-110
太陽光による炭素への直接変換法 和光信也筑波大学名誉教授が提唱されている 太陽光をつかって大気中の二酸化炭素を酸素と安定した炭素へ変換して隔離する、救世山羊構想 * -

表-1.16二酸化炭素隔離法

換器を意味する山羊や炭素を象徴する黒い糞は上品なイメージではないので使わないほうがよ いとアドバイスされたそうです。

 

地中隔離

排煙などから各種アミン水溶液や熱炭酸カリ水溶液などで二酸化炭素を回収し、圧縮液化して廃油田や帯水層に注入することを地中隔 離と言いま す。充填物を充填した向流またが十字流の吸収器で二酸化炭素を吸収し、熱を加えて溶液を再生して循環 する方式が採用されます。再生器から得られる二酸化炭素を圧縮・液化してこれを隔離しようとするものです。

廃油田注入の場合、エンハンスト・オイル・リカバリー(EOR)効果が期 待できます。 また将来、炭素資源が必要になったとき、再利用も可能です。地中隔離によって80年分の二酸化炭素隔離が可能という試算もあるようです。

しかしジェームズ・ラブロック氏が指摘するようにカメルーンであった火口 湖のロール オーバーのような漏出事故が発生しないようにしなければなりません。

100年後の残留率は99%、1000年後の残留率は66-90%と推定されています。


海域地中隔離

日本などの海洋国家は深さ1,000mの大陸棚の海底の帯水層に貯留する海域地中隔離とか海洋隔離法が適しております。海域地中 隔離は52億 トン以上の貯留容量がありますが、2005年の年間総排出量は13.6億トンですから、4年分の容 量しかないことになります。廃棄物の海洋投棄を禁ずるロンドン条約は2006年11月、海域地中隔離を認めました。日本でも許可制で認めてゆくことになり そうです。

ノルウェー南部のモングスタットで天然ガス発電所から分離する二酸化炭素を回収液化し、250km沖合いの北海の海底下 1,000mに注入す る施設がスタット社により建設中です。年間の回収量133万トンの投資額は250億クローネ (3,700億円)。炭素税と同水準なのが採用理由だそうです。処理費は1ー5セント/kWh。

日本では2020年の実用化を目指し岩城市で調査中です。

2016-2019年に北海道苫小牧沖の砂に電力会社や石油精製からでる二酸化炭素10万トン /年貯留する 計画が進行中。事業費450億円。

 

海洋自然吸収

大気に比べ、海の二酸化炭素収容能力は膨大です。しかし海には深さ100m位に温度躍層があって、上層が暖かく中深層水とは対流 していないた め、大気中の二酸化炭素濃度があがると自然に吸収され、海水中の炭酸イオンが重炭酸イオンに変わ り、水素イオンが増えてpHが下がります。 過去200年間にpHは0.1下がったと推定されています。

そうすると海洋表層で過飽和になっている炭酸カルシウムがこれを中和して いますが、表 層の炭酸カルシウムが減少すると次第に酸性化してサンゴ礁が出来にくくなり 、太陽光で光合成する植物性プランクトンの生育を阻害してしまいます。

こういうわけで自然吸収法に期待できません。2006年に公表された IPCC第4次評 価報告によれば2000-2005年の人為的炭素排出量は72億炭素トンであるのにも関らず海洋や森林での自然の炭素吸収量は31億炭素トンしかありませ ん。自然にある海水の大循環で は不足しているわけです。海水を人為的に対流させればもっと早く吸収できるのですが、海水を人為的に循環することは膨大なエネルギーが必要で不可能です。

 

深海直接注入海洋隔離法

<深海1000m>

パイプでガス状または液状の二酸化炭素 を深度1000m程度の深海に注入して熔解させる方法で す。ローコストです。中深層水の海洋生物の多様性への影 響が懸念されて、大規模実験すら国際的に認められるかどうかはまだ不明です。第二の公害 発生ということになるかもしれません。

<深海3000m>

発電プラントの廃煙から回収した液化二酸化炭素を液化してその比重が海水より 重くなる海深3,000m位のところに直接注入して海底に二酸化炭素のプール(湖)を形成させる方法です 。欠点は湖の部分の海底生物は死滅することになります。100年後の残留率は65 -100%、500年後の残留率は35-85%と推定されています。

 

石灰石中和海洋隔離法

速度は遅いのですが、実際に海水に溶解した二酸化炭素は石灰石が溶けて重炭酸塩になってpHを一定に保つバッファー溶液となるの です。

海洋の酸性化の解決法としてケン・カルデイラらは回収した二酸化炭素を海水に溶かして海中に放流する とき石灰石を溶かし込む海洋隔離法を提案しております。ジェームズ・ラブロック氏もこれを支持しております。重炭酸カルシウム塩の水溶液にして海洋に放流 するので海水が酸性化しません。二酸化炭素の完全除去は無理ですが、放出量を減らせます。

石灰石は隔離する二酸化炭素の3.5倍の石灰石が必要となりますが、世界の石灰石資源は炭化水素燃料の1万倍あります。特に日本 には太平洋プ レートが数億年かけて運んで日本列島に付加してくれたサンゴ礁からなる石灰石資源は充分過ぎるほど あります。石灰石は海の生物に有害な重金属などを含まないものを選び、未溶解の石灰石微粉末は遠心分離するなどして白濁を防止する必要はあるでしょう。直 接放流よりコストはかかりますが、生態系を維持するコストと考えれば安いものです。

 

炭素への直接変換による隔離

和光信也筑波大学名誉教授が提唱されている太陽光をつかって大気中の二酸 化炭素を酸素 と安定した炭素へ変換して隔離する、救世山羊構想があります。

ブラック・ユーモアの類のように見えますが、そうでもありません。まず大 気中の二酸化 炭素水素を吸着か膜で分離・回収します。この二酸化炭素を水素で還元してCOにし、これと水素からメタンガスに します。それを触媒を使って1,600oC程度で熱分解すれば炭素がカーボンブラックとして回収できます。分離する水素はリサイク ルします。生成 した炭素大気中に放置すれば自然酸化で再び二酸化炭素になりますので、 大気から隔離するか、タイヤなどの素材にして利用します。

類似技術に石油に含まれる硫黄分を水素化して硫化水素にしてこれを部分酸 化して硫黄に する技術があります。


超マフィック岩+H2O→水素

「腐った石」と言われていた蛇紋岩がこの十数年の間に状況が一変した。とりわけ、大西洋中央海嶺付近で蛇紋岩を母岩とした熱水噴出孔が発見されてから、蛇紋岩は一気にメジャーなものになってしまった。磁鉄鉱は150-350℃程度の温度条件で生成し、その量はおよそ300℃で極大になる。磁鉄鉱の生成に伴って水素が発生する。野坂俊夫による蛇紋岩の水素発生についてによると。

3(Mg0.9Fe0.1)2SiO44.1H2O1.5Mg3Si2O5(OH)40.9Mg(OH)20.2Fe3O40.2H2(aq)

そもそも2009年9月10日、独立行政法人海洋研究開発機構コマチアイトと熱水との反応により高濃度の水素が生成されることを初めて実証した。

新電力大手のイーレックスは2022年9月16日、2022年3月に山梨県で水素発電所を稼働すると発表した。イーレックスは水素を30円/Nm3で調達する計画。将 来的には発電所の大型化などにより、同10〜20円まで引き下げたいとしている。同日に山梨県富士吉田市で起工式を開いた。水素製造ではスタートアップの ハイドロゲン・テクノロジー(東京・中央)と提携し、黒曜石やかんらん岩などの「超マフィック岩」と水を反応させて水素を製造する。プラントは日揮が担 当。

至仏山、谷川岳、早池峰山、アポイ岳、日高山脈などから岩石を採掘して、そこで水素ガスを分離し,そのガスをパイプラインで輸送するというスキームは考えられるが、風光とバッテxングするだろう。

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最終稿 April 2, 2007

追補版 Rev. September 24, 2021


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