治水方針の大転換

最近、ロス在住の永年の友人から「アル・ゴア元副大統領が作成したドキュメンタリー映画 "An Inconvenient Truth" を夫婦で観て感銘を受けた。そこで早速米国気象局の統計を調べてみると洪水の被害額は年々増加していることがわかった。しかるにブッシュ大統領は頑なに地球温暖化を認めようとはしない」となげくメールをもらった。

私は地球シミュレータが予想するように、化石燃料の継続的使用により今後も温暖化は進み、洪水はますます大型化すると考えて、「河道に水を封じ込め、流域を平等に守る」という日本の戦後の治水の大方針は破綻したと感じていた。そして遊水地構想しか解決法はないと考えていた。2005/5の探鳥会でたまたまご一緒した国土交通省の元河川局長やその部下達にこの考えを伝えたが、「いずれそういう考え方も必要になるでしょうね」とまだ先のことのような感想を述べておられた。

2006/7/17の朝日の社説に新潟県は2003年の400年に一度の大洪水の経験に立ち、この戦後の国の治水方針を放棄し、刈谷田川の上流の堤防の一部を低くし、水田100ヘクタールを遊水地にする計画に変更したと報じた。いっぽう五十嵐川では水につかりそうな400戸の移転をするという。ドイツでも同じ方向に方針転換済みだそうである。国土交通省もようやく重い腰をあげて流域を平等に守る考えを改め、伝統的な輪中堤、二線堤で住民を守るより柔軟な方向に転換することを検討中だそうである。

引退後、全国を旅してまわって、「住民は政府の平等方針にもたれかかって危険な場所に自宅を作っている。そのナイーブさがアブナイ」と危惧していたのだが、やはり国といえども「無い袖は振れない」のだ。国には頼れない、自ら考えて自衛するしかないと考えるのが健全だろう。こう考えるのも終戦直後の洪水の体験があるためであろう。自分の家は高台にあって無傷なのに周辺の家々は濁流に飲まれたのを地形と共に今でも鮮明に思い出す。というわけで洪水は無論、津波も考えて自分の住む場所は慎重に選定したつもりだ。海抜約45mの現在地なら500年に一度の津波でも波に飲まれることはないと最近わかった。

温暖化とは直接関係ないが、グローバリゼーションの結果、アフリカで発生している生物の多様性の喪失によって由々しき事態 が発生しているという。

ロス在住の友人ロンに日本政府の方針転換を知らせると、合理的対処で大変結構。それに比べてブッシュ政権はいまだ温暖化を認めておらず、(どこかのダチョウのように)砂のなかに頭を埋めて「温暖化なんかうそだ!」と言っている 人々が大勢居る。一方地方の政治家の力はつよいため、ニューオーリンズの海面より低い場所に街を再建している。愚かなことだと慨嘆している。まだ 日本政府のほうが柔軟思考していると持ち上げてくれた。

ロンの親しい友人の息子と話したとき、地球温暖化を遅くするために、経済発展を阻害するより、制限無く経済発展させてでできた資金で温暖化によって生ずる被害を救済すべきとの意見だったという。それどころか中近東の産油国すべてを米軍で制圧して石油の安定的生産を維持すべきとの意見だったという。彼はあきれて無言でこの息子と分かれたという。この息子の意見は決して少数派でなく、益々増える傾向にあるところが恐ろしいとなげいていた。

July 19, 2006

Rev. September 15, 2006


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