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The world of mountain fishing lure fishing

夢と感激を釣る
 三日目、水温12度。出発は、魚の食事時間がとうに過ぎた10時。天気も快晴、釣れない釣り日和だったが、魚影の濃さに距離がほとんど進まなかった。この現実に柴田君曰く「魚に邪魔されで、前に進めないなんて、大歓迎だ」と。終わってみれば、2.5キロ・熊の沢合流点で時間切れとなった。昼過ぎまでカメラに専念していたが、ルアーに突進してくるイワナに堪らずロッドを背中から出す。ルアー一年生にも大物が釣れました。それもそのはず、一年生がいきなりプロにでもなったように釣れるのだから不思議だ。

 同じ疑似餌でも毛針ならまだ理解できる。しかし、スプーンやスピナーは、どんなに眺めても自然界には存在しない化け物のような金属の塊である。何で野性のトラウトたちが、理性を失った獣のようにルアーに反応するのか。理屈はどうあれ、ルアーはシュンベツのトラウトたちに最高の効果を発揮したことだけは確かであった。

巨大な羆の足跡が・・・
 ヒグマの真新しい足跡。3年前より水量が多く、河原が全体的に洗われ、ヒグマの足跡が残る砂場が少なかった。注意深く観察すると、人間の足跡や焚き火の跡は皆無だったが、ヒグマとエゾシカの足跡があちこちにあった。それにしてもデカイ!!。日高では、人跡稀な渓を一人では歩けない。恐らく襲われる確率が高いだろう。安全を期し、熊鈴と熊撃退スプレーは全員が持ち、仲間がバラバラにならないように同一行動をとった。
 現場で急遽、熊撃退スプレーのイメージトレーニングを行った。でも現実的に使えるかどうか、これははなはだ疑問。柴田君は、腰に熊撃退スプレーと水の入ったペットボトルを下げている。熊と遭遇したら・・・スプレーではなくペットボトルを構えて、「ゴメンナサイ!」のポーズ。これには笑ってしまった。でも、無用な恐怖心を抱き冷静さを失った行動やゴミ、残飯を捨てるなど、モラルのない人間側の対応こそトラブルの最大の原因であることを肝に銘ずべきだろう。熊鈴を鳴らし「ちょっと遊ばせてください」といった謙虚な姿勢を忘れてはならない。

 夏の陽射しに森が輝き、川は深い緑に染まっている。川幅は格段に広く、見た目より流れも深く太い。キャスティングの邪魔をするブッシュや枝もなく、ルアーをキャストするには最適だ。 二日目最初の大淵。まず餌釣りとテンカラで右岸側を攻める。もちろん次々とイワナは掛かった。最後に健ちゃんが対岸の淵にスピナーを投げ込む。イワナは、落下点に沈むスピナーに早くも食い付いた。その瞬間が上の写真だ。ロッドがしなり、水面が炸裂した。
 渓流ルアーのマニュアル本には、高価なロッドやリール、数え切れないほどのスプーン、スピナー、ミノー、ライン・・・アップだとかダウンだとかクロス、トゥイッチングだとかシェイキングなどのルアーアクション・・・初心者には余りにも難解で消化不良を起こしてしまうほどだ。
 大物を狙うなら高価なミノーがいいらしい。確かに渓魚とミノーは、恰好が良く絵になるが、1個千円以上もするのはいただけない。おまけに、年配者には、横文字だらけのマニュアルはしっくりこない。瀬畑翁じゃないけれど、釣りをことさら高価に、難しくしているだけのような気がする。
 渓魚が居着くポイントの見分け方、アプローチと正確なキャストだけで釣れる、それが本来のルアーの基本だと思う。その基本どおりの釣りができる釣り場は、だんだん少なくなっているのが現実だが、そうした貴重な世界を「山釣りルアーフイッシングの世界」と呼びたい。人間の匂いがしない獣の世界、そこは、「釣りのための釣り」では決して辿り着くことのできない桃源郷のような世界だ。それをじっくりご覧ください。嘘か真か・・・。

 一方、テンカラはどうか。シュンベツ川は、川幅が広くポイントが深い。小さな毛針ではアピール度が足りないという印象を受けた。瀬畑翁のようにできるだけ遠くへ飛ばせる技術がないと釣りにはならないのでは?当然のことながら、テンカラ師をめざす柴田君は悪戦苦闘、やっと白い毛針でイワナを釣り上げたのだが・・・。

 餌釣りはどうだろうか。6.1mの竿に長い仕掛け、餌は健ちゃんが農家の堆肥場から掘り起こしてきた特大のドバミミズ。結果は当然入れ食いで釣れてくる。ただし、ルアーに比べると飛距離が足りず小物に邪魔されるケースが目立った。ルアーと同じように釣れるが、サイズではルアーに軍配といった印象だ。

 左はスピナーにきた尺上のニジマス。健ちゃんは、試しに奥新冠で釣れたウルトラマンも使ってみたが、なぜか反応がなかった。同じポイントで、今度は、50円玉2個の自作スプーンに変えた。すると、すかさずイワナがヒット。この自作スプーンは大きな効果があった。キャッチ&リリース派じゃないが、釣ってはリリースに忙しかった。(もちろん、一人2尾程度、今晩の酒のツマミとして網袋に生かしたままキープ。中村会長は、一切竿を出さず、デジタルビデオの撮影と釣り上げた魚が死なないように網袋を水に浸しながら歩いてくれた。いつも苦労をかけてスミマセン!釣りに夢中になる余り、山の恵みを腐らすような粗末なことをしてはいけません。)

 原始岩が突き出した大淵、底はかなり深い。先行した柴田君が右の淀みに毛針を振り込む。すると瀬から黒い影がユラユラと浮き上がり、毛針の回りを一回転してふたたび瀬に潜った。デカイ!。彼はニヤリと笑った。この大物を釣り上げて、皆に自慢する絶好のチャンスだと・・・。しかし、何度振り込んでも浮いてはくるが食い付かない。数回振り込んだ後、魚に馬鹿にされていることに気付く。
 後からきた長谷川副会長に「大物がいるから頼む!」と懇願。副会長は、いつものようにドバを瀬に沈めた。いきなり、ガツンときた。強く重いアタリに竿は完全にノサレて水面に没してしまった。慌てて竿を上げようとすると、1号のハリスは、いとも簡単に切れた。ほんの一瞬の出来事だったが、巨大な黒い影は、深みに隠れて二度と出てはこなかった。結果論だが、ルアーなら仕留めることができたのではないか。どうせリリースするのだから、顔だけでも拝みたかったが・・・。

 釣りの核心部に突入すると、右岸の砂場に巨大なヒグマの足跡があった。私の背中には、テンカラ竿2本とルアーの振出式ロッド1本が入っていた。私も釣りに参加させてもらうことにしたが、迷わずルアーを選択した。ルアー一年生にとって、入れ食いなんて経験したことがあろうはずもない。キャスティングの練習ができる広い川は、日帰り激戦区だけ。当然ながら、ルアーで尺を越えたこともなかった。ところが・・・。

 銀色の「岩魚5g」と書いたスプーンをラインに結んだ。私は、右投げ左巻きができない。写真撮影には偏向メガネが使えない。レンズを覗いた時に、偏向メガネを掛けていれば目で見たとおりの写真が撮れないからだ。とてもルアーマンとは呼べないスタイルで、ポイントからできるだけ離れた位置に立ち、ポイントへ投げ込んだ。ポイントは深いから、右で投げてロッドを左に持ち替え右巻きする貪くさい初心者でも、ちょうどいいくらいだった。

 一投目で、いきなり尺上のイワナがヒット。ただそれだけなら驚くに値しないが、掛かったイワナのスプーンの後ろに2匹、3匹と追い掛けてくるではないか。限りなく透明に近い流れ、偏向メガネがなくてもイワナの姿は丸見えだ。同一の場所で2匹、3匹とヒットするではないか。ただスプーンを棒引きするだけで、狂ったように追いかけてくるイワナとニジマス、まるで入れ食いの夢でも見ているようだった。

 山釣りのフィールドで、自然繁殖したニジマスが釣れるのは北海道だけ。ヒットした後、水面を切り裂き、華麗なジャンプを繰り返す。アワセのタイミングが甘く、手前まで持ってきて逃げられるケースも多々あった。健ちゃんに「掛かったら、もっと強くアワセないと浅掛かりですぐに逃げられちゃうよ」と指摘された。単なる棒引きでは、子供と同じじゃないか、と言われればそのとおりだ。反省!反省!

 上の写真は、左から熊の沢が合流するすぐ下の深い廊下を下流から撮影したもの。右の写真は、上流から撮影した写真だ。イワナとニジマスが群れている絶好のポイントだ。下流から順次釣り上がったが小物ばかり。小物とは言っても、サイズは尺前後、普通の沢なら立派なサイズなのだが・・・ここシュンベツ川では、「なんだ尺しかないのか」と小馬鹿にされるくらい小さく見えてしまうのだ。

 左の写真をじっくりご覧ください。大物が潜むポイントは、右のミオ筋側にある大きな穴。下流からでは、うまくキャストできない。左の岩の上に上がり、スプーンを投げたが、立つ位置が高過ぎてすぐに浮いてしまう。追い掛けてきたのは小物のイワナだった。諦めて上流へ向かった。

 上流に出ると、ちょうど気になる穴に投げられそうだった。いくら大きなポイントとはいえ、下流から、岩の上からさんざんスプーンをキャストしただけに、期待感もはなかった。とりあえず、という感じで投げてみた。スプーンが沈むのを待って、ゆっくり棒引きを開始した。

 岩の上では、釣り終えた柴田君と健ちゃんが気になる穴を眺めていた。黒い大きな影がユラユラしているのが見えたという。下に下がった私には全く見えなかったが、彼らの観察によると、こうである。影を見つけたと思ったら、ちょうどそのポイントにスプーンが投げ込まれてきた。上流に巻かれて行くスプーンの回りを2,3回回転するようにイワナは追い掛けてきたが、流れの早さと巻くスピードのバランスが悪かったのだろう。イワナは、スプーンのスピードが早く食い付けなかったようだ。その時、目が悪い私でもスプーンを追い掛けてきた影がかすかに見えた。すかさず巻くスピードを緩めると、ガツンと重い手応えがランイを伝わってロッドを握る手に走った。

 ヒットしたのは、立った位置から遠く、しかも流れの早い瀬の中心部だ。上流からキャストしたために、流れに逆らって上流へ引きずり込まないと取り込めない。決して条件はよくなかった。ルアーマンなら、待ちに待ったアタリ、慎重に取り込む作戦をとるだろう。しかし私はルアー一年生、1.5号のラインを切られることはないだろう、と勝手に決め付け、強引に竿を立てリールを巻いた。流れに逆らった力も加わり、とてつもなく大きな手応えだった。背後から仲間の声援が飛んできた。夢中でリールを巻くと、廊下のミオ筋から手前の流れが淀んだ岩盤へと引きずり込むのに成功した。ルアー一年生にしては上出来、丸々太った魚体を手に持った時の心地よい感触、感激を手にした瞬間は、高巻きと藪こぎの連続だった悪夢の二日間をあっと言う間に吹き飛ばしてくれた。自然界では、苦労すれば、必ず報われる。何とも有り難い事だ。完全に山釣りルアーフィッシングにハマッタ瞬間でもあった。 

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