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The world of mountain fishing lure fishing

山釣りの生命は、「野生を釣る」ことにある・・・
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 2001年8月、ルアーロッドをザックに入れて、車止めから源流まで20キロ近くもある巨大な静内川水系シュンベツ川に挑んだ。3年前に歩いた実績から、一日で大函を突破できるはずだった。ところが、流れの太さと険悪な大函の迷路に悪戦苦闘。わずか3キロの距離を丸二日もかかってしまった。お陰で目指す源流部をあっさり諦め、中流域の釣りに専念、稚拙なルアーにも野性のファイトが炸裂した。ルアーにヒットしたイワナを、さらに2匹、3匹のイワナが後ろから追い掛けて来る。それは、凝り固まった釣りの常識をことごとく覆す衝撃的な出来事だった。

北海道山釣り紀行
 シュンベツ川は、中部日高の盟主カムイエクウチカウシ山(1979m)、春別岳(1855m)、日高主稜より西に外れるナメワッカ岳(1799m)、イドンナップ岳(1748m)などを源とし、西へゆったり流れる川である。下流の険悪な大函を除けば、単調な川ではあるが、流域が大きいだけに、ちょっと雨が降れば、遡行不能に陥る。20m程度のザイル(今回は10mの布テープシュリンゲ2本)とヒグマ対策は必携。

 (今回のメンバーは、上の写真右から中村会長、私、高橋コック長、長谷川副会長、柴田君、手前が私をルアーへ誘惑した健ちゃん。手に持っているのは、渓で拾ったエゾシカの角)
 車止めには一台の車もない。天気も上々、6名の大パーティ一行は、元気に遡行を開始した。ところが、だんだん雲行きが悪くなり、ついに雨となった。水量は、丘から眺めるのと実際に流れの中に入るのとでは大違い。3年前とは比べようもなく、来るなと言わんばかりの太い流れだった。
 ゴルジュの淵は、すぐに胸まで達する。流れも早く、とても上流に泳げる状態ではなかった。高巻き、懸垂下降、スクラム渡渉、ザイル渡渉・・・を繰り返し、あっという間に時間は過ぎていった。
 廊下の下流を柴田君とスクラム渡渉をしているときだった。流れの中央に大きな岩があったが、その上流が深く抉れていることに気付かず、その深場に足をとられてしまった。簡単に二人は流れされ、首にぶら下げていたデジカメが水没してしまった。(上左のデジカメ二台が水没)。すぐさま電池を抜いたが、レンズ、フラッシュ、メモリーカード・・・全ての部分に水が入っていた。乾くまでに6日間、100%壊れたと思ったが、奇跡的に蘇ったのには驚いた。右の写真は、谷が急に圧縮された大函の始点。
 大函始点にビバーグ。着いたとたんに雨足が強くなり、濁流となった。真夏とは言え、水は冷たく、全身ずぶ濡れで震えが止まらなかった。それにしても、丸一日でわずか1.5キロほどしか進めないとは・・・、自然に逆らうな、ということだろう。  二日目。大函の巻き開始。簡単に突破できると思ったが、藪と化した迷路に悪戦苦闘。獣道や迷い道がやたらにあって、すぐに岩壁にぶつかる。その度に会長がルートを探し回った。
 背丈以上の笹薮の迷路は、3年前のおぼろげな記憶など全く通用しなかった。強いて言えば、山の稜線に向かって延びている明瞭な踏み跡に騙されなかったことぐらいか。大きな高巻きほど注意を要するものはない。一度ルートを誤れば、1時間、2時間はあっと言う間にロスしてしまう。命綱の有り難さが身に沁みた。右の写真は、大函の中間点。圧縮された函が延々と連なり、その中を轟音を発して流れ下る様をただ呆然として眺める。函が険悪なだけに、期待に胸が膨らんだ。
 今回は、ザイルではなく袋状の柔らかい布テープを使用した。ザイルのように滑らず嵩張らず、軽く、機動性に富んでいる。個人で持っている3m程度のシュリンゲとの連結もスムーズだ。
 函の巻きを開始してから6時間余り、やっと谷は開けてきた。右の沢は大山(1362m)から左岸に流れ込む枝沢。この沢が大函の終点を告げる沢である。昨夜の雨は一転快晴、藪こぎで乾いた喉を潤す。計画では、大函を越えた地点に1泊、9キロ地点・カシュツオマナイ沢をベースに、源流部を探る計画であった。しかし、ここまで二日間掛かってしまったのでは、歩くだけに終始してしまう。我々は沢屋ではない。残念だが、源流部探索を諦めざるを得なかった。(ここらあたりが軟弱?でも無垢なる渓魚と遊び、焚き火を囲んで酒さえ飲めれば幸せなのだ。)
 函の上流は、3年前と渓相が大きく変わっていた。ヒグマ対策としては右岸が適地だが、どこを探してもテン場はなかった。左岸は斜面が緩く、林床は笹薮に覆われ、今にもヒグマが出てきそうな雰囲気が漂っていた。ヒグマの痕跡はないか、辺りを調査、100%安全とは言えないが選択の余地はなかった。右の写真は、ヒグマ対策の一環。食糧を食い荒らされないために、翌日以降の食糧をザックに詰めて木に吊るした。
 食糧調達班は、テンカラの柴田君とルアーの健ちゃん。テン場のすぐ前で、白い毛針に食い付いたエゾイワナ。この時点では、瀬畑流ならぬ柴田流テンカラをめざす柴ちゃんは自信満々だったはずだ。ところが・・・。
 我々設営班は、シートを張り、薪集めをしていたが、1時間が過ぎても二人は帰ってこない。夕方はヒグマが活発に動く時間帯だ。「若ぇがら、怖さを知らねぇ」と会長が心配そうに言った。その直後、二人は興奮覚めやらぬ表情で帰ってきた。尺前後から最大38cmのイワナが8本。今晩のオカズには、十分すぎる数だった。
 二人は、ルアーに果敢に食らいつく渓魚に度肝を抜いたという。それを見たテンカラの柴田君は、あっさり転向。健ちゃんからルアーを借りてイワナを一匹釣り上げたというのだ。彼にとっては「こんなトラウト見たことない!」という心境であっただろう。
 シュンベツ川は、何でも釣れるはずだ。だから、私はテンカラを主体に、時間があればルアーをと考えていた。ところが、なかなか釣れないテンカラ、やたら釣れるルアー・・・。焚き火を囲みながら、柴田君と健ちゃんの話を聞いていると、余りの落差に驚かざるを得なかった。それは、山釣りルアーフィッシングの世界を予感させる確かな前兆だった。

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