●「ゲド戦記」初日用チケット販売レポート
Reports of Previous Sales for the First Day's Ticket

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「ゲド戦記」公開初日の舞台挨拶用チケットの事前販売に関連する出来事をレポートします。


宮崎吾朗監督による「ゲド戦記」は2006年7月29日に公開初日を迎える。これまでのスタジオジブリ作品では、初日の舞台挨拶が行われる映画館には、先着順で良い席を求めて徹夜組が行列するのが一つの風物詩のようになっていた。しかし、「ゲド戦記」では初日の風景が大幅に様変わりしそうだ。なぜなら、今回から舞台挨拶のある劇場は六本木に移り、座席は全席指定となり(以前は全席指定の劇場でも舞台挨拶つきの上映回は全席自由席だった)、指定席は事前に劇場窓口のほかインターネットで売られることになったからである。

「ゲド戦記」の初日初回舞台挨拶は、7月29日10時からの初回上映後に加えて、7月28日24時からのカウントダウン上映前にも行われることが決まった。「ゲド戦記」の初日舞台挨拶は、都合2回行われることになった訳である。場所はどちらも東京・六本木のTOHOシネマズ六本木ヒルズである。



●初日・初回の舞台挨拶チケット
7月29日午前10時から行われる初回上映の舞台挨拶つきチケットは、7月20日午前9時より発売が開始された。この回の舞台挨拶は、宮崎吾朗監督、菅原文太氏、岡田准一氏、手嶌葵氏の挨拶が予定されている。人気タレントV6の岡田氏が挨拶するとあって、7月19日夜より会場前に行列が出来はじめた。

窓口での販売用に用意されたチケットは200枚。一人2枚までチケットを買うことが出来るため、窓口でチケットを買うことが出来る人は100名少々に限られる計算となる。発売開始は7月20日朝9時からであったが、朝8時の時点で100名をはるかに超える行列が出来たため、チケット販売が急遽8時前に繰り上げられ、7時52分には発売が開始された。そして8時25分には完売となり、売り切れがアナウンスされると、それまで並んでいた行列はあえなく解散となった。

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
(2006年7月20日 以下同じ)

会場前の様子* 7:50AM


チケット販売開始*  7:54

行列の様子* 8:00

行列の様子 8:11

チケット売場 少人数づつ案内 8:16

チケット完売寸前の状況 8:22

チケット完売のアナウンス 解散する行列 8:25

携帯での予約方法を説明する係員 8:26
結局、窓口でチケットを買うことが出来たのは、徹夜組と一部の始発電車組に限られた。解散する行列に向かって、朝9時からのインターネット経由での販売は予定通りという説明がなされ、携帯電話からの予約方法を係員に質問する風景が見られた。行列の8割以上は若い女性で占められており、V6岡田氏のファンが大勢含まれていたと思われる。だが、行列には転売目的でチケットを購入する人、いわゆるネットダフ屋が含まれていたことは、窓口で発売されたチケットが写真つきでオークションに多数出品された事実からみて明らかである。特に、B〜E列の席の7割以上がオークションに出品されていたので、行列が上位になるほどネットダフ屋の混入率も高くなっていたのではないだろうか。

インターネット経由の発売分(428枚)は、予定通り7月20日朝9時から受付が始まった。しかし、受け付け開始直後から接続が殺到したためアクセスしにくい状態になって「混雑しています。しばらくお待ち下さい。」という表示が出るばかりとなり、多くのユーザーが予約画面にたどり着くことも出来ないまま売り切れとなってしまった。しかし、その直後からインターネット上のオークションに、この舞台挨拶のチケットが大量に出品されはじめ、7月20日の昼にはチケット2枚ペアが40,500円(正規料金は2枚で3,600円)で落札されたのを皮切りに、出品されたチケットは軒並み高騰することになった。インターネット経由では1回の注文につき6枚まで予約することが出来るため、いわゆるネットダフ屋が特殊なツールを使ってチケットを大量に買い占めたためと思われる。
参考:「ゲド戦記」初日舞台挨拶オークションの実態ウオッチ

(撮影:2006年7月20日 *・・・パクシさん撮影)



●カウントダウン上映の舞台挨拶チケット
7月28日24時から行われるカウントダウン上映の舞台挨拶チケットは、インターネット上では7月20日午前0時より、窓口では7月20日午前9時より発売が開始された。100名近い徹夜組が出た初日初回分とは様相を異にしており、徹夜組は6名ほどにとどまった。カウントダウン上映での舞台挨拶は宮崎吾朗監督と鈴木敏夫プロデューサーの2名しか予定されておらず、特にV6の岡田准一氏の登壇予定がないことが理由であると思われる。

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
(2006年7月26日) 23:30PM


カウントダウン上映の案内ポスター) 23:34


会場前の様子 23:35
徹夜組は6名の模様


会場前の様子 15名
(2006年7月26日)7:58AM


係員の説明・誘導が始まる 8:06


行列の様子 21名  8:26

チケット販売開始  8:32

会場前の様子 8:36
インターネット経由での予約が売り切れても、窓口用として一定数(200枚?)が確保されている。そのため、夜間のうちのネット予約が出来なかった人が、早朝から窓口へ走る選択肢もあった。徹夜組が少なかった理由は、この時間差による要因が大きいかもしれない。しかし、翌朝までにチケットが完売しなかったこともあってか行列はそれほど伸びず、午前9時のチケット発売開始時に並んだのは21名に過ぎなかった。窓口まで足を運んだ全員が無事チケットを確保出来たことは幸いであったというべきだが・・・。

カウントダウン上映での舞台挨拶チケットは、20日午前中までに5件のオークションへの出品が確認されたが、5件中4件は入札者がいないまま終了してしまった。2,101円で落札された残り1件も、落札者が落札を辞退し次点の人も繰り上げ落札を断ったようだ。結局、5件とも買い手が付かなかったことになる。その理由として、27日昼の時点でチケットはまだ完売しておらず、正規料金で充分に入手可能であったためではないかと思われる。カウントダウン上映は、上映終了が午前2時過ぎになるため、気軽に見に行けるものでないのは確かであるが、もし岡田准一氏の登壇がアナウンスされていたとしたら、状況は大きく変わっていたに違いない。

なお、カウントダウン上映での舞台挨拶チケットは、7月28日午後6時現在で、まだ完売になっておらず、開場数時間前にようやく完売になったという。




消えた風物詩
―ノスタルジックな記憶になったファンの徹夜風景―




徹夜の行列は、映画公開前夜の「風物詩」のようなものである。
徹夜組同士の交流も生まれ、お祭り気分も盛り上げられて、独特の雰囲気が醸し出される。
ジブリ作品においても、初日の舞台挨拶が行われる映画館には、前夜から多くのファンが行列した。
「もののけ姫」、「山田くん」、「千と千尋の神隠し」、「猫の恩返し」・・・、みな徹夜組がやってきた。
「ハウル」では舞台挨拶こそなかったが、初日の初回上映は全席自由席であり、少しでも良い席をとるためにファンは徹夜をした。

しかし、今回から初回上映・舞台挨拶の回も全席指定となり、しかも事前に購入するシステムに変更された。
これによって、公開前日の徹夜行列は、事実上消滅することになりそうである。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


もし、今後も徹夜の行列が出来るとしたら、公開初日の前夜ではなく、チケット発売日の前夜に繰り上がるであろう。
舞台挨拶に有名アイドルが登壇するとなれば、その追っかけのファンが徹夜に押し寄せるであろう。
その場合、チケット転売が目的のネットダフ屋も押し寄せるであろう。

アイドルの追っかけのファンは、目当てのアイドルの動向以外にあまり関心がないようだ。
まして、ネットダフ屋はチケットの高値転売以外の目的で徹夜の行列に並んだりしない。
追っかけやダフ屋が多数混じった状況では、徹夜の行列が出来たところでファン同士の交流は難しい。
そもそも、公開初日はまだまだ先のことなのだ。お祭り気分が盛り上がることも考えられない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


確かに、事前に席を確保しておけば、わざわざ徹夜で並んだりする必要はなくなる。
当日は、上映開始時刻になるまでに入場すれば良い。
だが、場内に入ってしまうとファン同士で気軽に話をする余裕は生まれず、舞台挨拶が終わればそのまま解散だ。
そのような行動パターンから、ファン同士の新たな交流が生まれることはあまり期待できそうにない。

徹夜に並ぶことで、封切りを心待ちにするファンの共通の思いを共有する時間が紡がれた。
共通の話題は既に分かっている。見知らぬ者同士でもすぐに打ち解けられた。
行列の秩序維持、買い出し、荷物番、ゴミの片付け等々で一種の連帯感が生まれ、尽きない議論も繰り広げられた。

単に映画や舞台挨拶を見るだけなら、徹夜は「時間の無駄」なのかもしれない。
しかし、「時間の無駄」とは言い切れない何かが、そこにあった。
やはり、徹夜の行列は、封切り前の「前夜祭」だったのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ハウル」の国内最初の上映は、六本木で行われた。「ゲド戦記」の完成披露試写も、六本木で行われた。
ジブリ作品にとっての「一番館」は、日比谷から六本木に移った。
それは、単に場所が移動しただけではない。「ジブリ」が一流のブランドの仲間入りをしたことをも意味する。

いまや、「ジブリ」は世界に通用する一流のブランドになった。
日比谷や有楽町は一流の映画としての到達点であったが、一流のブランドとしての到達点は、たぶん六本木なのだ。
そんな場所での徹夜の行列は、場所柄として相応しいとは言いにくい。
徹夜明けのボサボサの髪や崩れた化粧は、一流のブランドが集積する六本木には似合わないのだ。

いずれにせよ、もう時代が後戻りすることはないだろう。
その現実は受け入れなければならない。
くしくも、「ゲド戦記」は現実を「受け入れる」物語である。
時代の変化を受け入れつつ、新たな初日の楽しみ方が模索される時なのであろう。


かくして、ジブリのファンにとっての徹夜風景は、ノスタルジックな歴史の記憶になった。


過去の公開初日レポート
(2006/07/29 もーり)

(撮影:2006年7月20日、26日、27日)





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