痛風といえば、昔は王侯貴族に、現在では会社役員、力士などによく発症しています。美食、多食、アルコール多飲が大きな要因であるため、かつては「帝王病」と呼ばれました。しかし近年、痛風発症者数は、特に若い人に増加しているそうで、意外にも身近な病気になりつつあります。
痛風の特徴的な症状は関節痛です。これは尿酸という物質が結晶となって関節に蓄積することが原因です。尿酸は血液中に普通に存在するものです。それが結晶化して蓄積するのは、(1) 血液中の尿酸が増えている、(2) 血液のpHが低下する、からです。激しい運動をすると、血液中の尿酸、乳酸が上昇しますから、この二つの条件を満たしてしまいます。「帝王病」と呼ばれた頃は偏食が主な原因でしたが、現在若い人に痛風発症者が増えているのは、運動性高尿酸血症が背景にあります。
ではその尿酸はどこからやってくるのでしょう? 尿酸の合成経路をたどっていくと「アデニン」と「グアニン」という二種類の物質に行き当たります。高校の教科書を思い出してみてください。DNAやRNAなどの核酸の構成要素として、「塩基」「糖」「リン酸」の三つが載っていましたね。この「塩基」には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U) がありました。この塩基配列で生物のすべての遺伝情報が表現できる、とても重要な存在です。尿酸のおおもとはこの核酸中の「塩基」です。アデニンとグアニンは塩基の中でもその構造から「プリン体」と総称されることもあります。洋菓子のプリンとはまったく関係がありませんから、誤解しないでください。
その他、第2章でも触れたATP(アデノシン三リン酸)のアデノシンもプリン体の一つです。
尿酸は「尿」という単語が示すように、腎臓で尿の成分となります。しかし最終的には腎臓内で再吸収されて血液中に戻ります。哺乳類では、尿酸がさらに「尿素」という形に変化するか、または尿酸ナトリウムや尿酸カリウムなどの化合物として尿として排泄されます。
ではなぜ一度尿になった尿酸を再吸収するのでしょうか。第6章で「酸素の毒性」について述べましたが、実は尿酸には抗酸化作用があり、酸素の毒性から細胞を守る働きがあります。そのため一定の濃度を保つために腎臓で再吸収し、うまい具合に廃物利用しているわけです。
痛風の原因物質である尿酸のおおもとは核酸ですが、この核酸は細胞一つ一つの中にある核の中にあります。つまり細胞のあるところには核酸があります。
一般に、肉食がメインの食生活を続けてると痛風になりやすいと言われているのは、肉が細胞のかたまりだからなのです。また筋肉は運動するための組織ですから、ATPも多量に存在します。まさにプリン体の宝庫なのです。当然、激しい運動をするとATPを大量消費し、かつ筋肉組織が破壊されますから、多量の尿酸が産生されます。
もちろん自分の筋肉だけでなく、食肉にもプリン体が豊富に含まれています。ただし、肉類にも程度はあるようで、レバーはヒレ肉の2倍以上あったり、肉の種類にも差があるようです。その他肉類以外にもプリン体は存在します。一般的な食品中のプリン体の量は表に示すとおりです。
プリン体の量 |
主な食品 |
0〜25mg |
ごはん、パン、うどん、そば、とうもろこし、いも、牛乳、チーズ、鶏卵、ソーセージ、かまぼこ、キャベツ、ニンジン、トマト、果汁、ジャム、バター、のり、わかめ、豆腐 |
26〜50mg |
うなぎ、マグロ缶詰、牛ロース、牛ヒレ、牛モモ、くじら肉、ハム、ほうれんそう、あずき |
51〜75mg |
まぐろ、ひらめ、にしん、ぶり、さけ、たこ、たらこ、豚ヒレ、豚モモ、鶏ささ身、納豆 |
76〜100mg |
かつお、にじます、くるまえび、豚腎臓、牛肝臓、牛心臓、大豆 |
101〜125mg |
大正えび、豚レバー、牛レバー、かつお節、干ししいたけ |
運動して血中尿酸が上昇することは仕方がありませんから、運動性高尿酸血症を防止するためには、尿酸を尿中排泄してしまうのが一番です。我々が簡単にできる対策しては、運動後に水分を多く摂り、尿量を増やすことが挙げられます。しかし、ただ単に水を飲んだだけでは、尿量は増えますが、肝心の尿酸排泄量は増えないことがわかっています。その理由は、先に述べましたように、尿酸がナトリウムやカリウムとの化合物として排泄されているからです。つまり、水とともにミネラル分も多く摂る必要があるわけです。スポーツドリンクはこれらのミネラル分が強化されていますから、運動後の水分摂取には最適です。
筋肉づくりのためには、多くのタンパク質を食べる必要があります。ただし、これまで示しましたように、肉だけをタンパク源とする食生活は、同時にプリン体をも大量に摂取することになりますから、痛風の原因となる尿酸の生成も増加するということにつながります。乳タンパク(牛乳)や卵タンパク(鶏卵)、大豆タンパク(豆腐)などは安価でプリン体の少ないタンパク質ですから、筋肉づくりのための食生活に取り入れてみることをお勧めします。
(初版2002.1.27)
【参考資料】
(1)「生物学辞典第三版」, 岩波書店
(2)「食卓の生化学」, 三浦義彰, 医歯薬出版, 1998
(3)「痛風の新しい食事療法」, 織田敏次編 , 同文書院, 1985
(4)「高強度・長時間運動による摂取水分の量及び組成の違いが尿酸代謝に及ぼす影響」, 高西敏正ら, 日本衛生学会誌, 53(463-469), 1998.
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