「草野球の窓」
第2章
「筋肉のエネルギー源」

 さて前章では草野球で消費するエネルギー量について触れましたが、エネルギーを消費するということはどういうことなのか、さらに深く考えてみることにします。

 我々の体内では様々な形でエネルギーが消費されています。脳神経細胞が活動する時や肝臓細胞が活動する時、筋肉が動く時など、すべてエネルギーがないと実践されません。この章では筋肉が動く時のエネルギーに絞って話を進めます。

 自動車のエネルギー源はガソリンです。筋肉でこのガソリンに当たるエネルギー源は、ATP(アデノシン三リン酸)です。ATP1分子から約12kcalのエネルギーが得られます。では、筋肉はこのATPをどのように調達しているのでしょうか。

 運動する時、筋肉はまず始めにCP(クレアチンリン酸)を使います。CPを分解することでATPを作り出しているのです。この時酸素は必要ありません。つまり呼吸しなくてもよいということです。このCPは筋肉に元々蓄えられているものですが、蓄積量には限界があり(22mmol/kg)、わずか7.7秒程度で使い切ってしまいます(1)。しかしCPは、疲労の原因と言われている乳酸を発生させることはなく、また得られる最大パワーが大きいのが特徴です。重量挙げなどはほとんどこのCPの分解エネルギーで行なっていると言えます。

 CPを使い尽くした後はブドウ糖を分解することでATPを作り出します。このブドウ糖は主にグリコーゲンという形で筋肉に蓄えられています。その量は筋肉1kg当たり 88mmol と、CPの4倍です(2)。ATPが自動車でいうガソリンであれば、グリコーゲンは原油というところでしょうか。
 ブドウ糖からATPを作り出す過程は2段階あり、中間産物のピルビン酸を作り出すまでの過程と、その後ピルビン酸を完全に分解してしまうまでの過程に分けられます。ピルビン酸を作り出すまでの過程でATPは2分子作られますが、この過程では酸素は必要ありません(3)。筋肉中のグリコーゲンを使い尽くすまでの時間は約33秒です。つまり、無酸素運動中はCPの分解とグリコーゲンからピルビン酸の生成という二つの過程によりエネルギーが供給されています。運動時間で言えば、二つの過程合わせて41秒程度の運動です。
 41秒以上の運動では、ピルビン酸を分解することでATPが作られます。この過程で36分子という多量のATPが作られますが、その際には酸素の存在が必要となります。つまり呼吸しなければならないということです。酸素の供給が十分になされていれば、ピルビン酸は水と二酸化炭素にまで分解されますが、酸素が十分でない場合は分解されず、乳酸が生成され筋肉は速やかに疲労してしまいます。

 乳酸は、上述したように一般に疲労の原因と言われていますが、筋肉疲労は乳酸だけで起こるものではありません。筋肉中のカリウム濃度が低下して電位が変化するため筋肉の収縮が起こりにくくなることもありますし、その他、筋肉中のpHの低下も原因となります。

 さて、これらの現象を草野球に当てはめて考えてみましょう。打撃や守備、盗塁などの動作は7.7秒以内ですから、CPを使った運動です。三塁打やランニングホームランの場合は7.7秒以上かかる場合もあるでしょう。その時はブドウ糖からピルビン酸を作ることで筋肉のエネルギーが供給されています。走塁中に呼吸をしていないことから、無酸素運動であることがわかります。
 投手は第1章で示したようにかなりの運動量になるのですが、一つ一つの動作はやはり7.7秒以内です。メインのエネルギー源はCPであると言えるでしょう。投球と投球の間に自分のペースで時間を取れますから、その間にCPの回復が図れます。しかし投球回数が増え、回復が追いつかなくなると筋肉は疲労し、球威の低下を来たしてしまいます。

(初版2000.4.6)

【参考文献】
(1)「最新スポーツ医学」,文光堂, 1990.
(2)「身体運動中のエネルギーの供給と代謝」, 田畑 泉, 月刊フードケミカル, Vol6, 1993.
(3)「生理学」, 金芳堂



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