さて前章では草野球で消費するエネルギー量について触れましたが、エネルギーを消費するということはどういうことなのか、さらに深く考えてみることにします。
我々の体内では様々な形でエネルギーが消費されています。脳神経細胞が活動する時や肝臓細胞が活動する時、筋肉が動く時など、すべてエネルギーがないと実践されません。この章では筋肉が動く時のエネルギーに絞って話を進めます。 自動車のエネルギー源はガソリンです。筋肉でこのガソリンに当たるエネルギー源は、ATP(アデノシン三リン酸)です。ATP1分子から約12kcalのエネルギーが得られます。では、筋肉はこのATPをどのように調達しているのでしょうか。 運動する時、筋肉はまず始めにCP(クレアチンリン酸)を使います。CPを分解することでATPを作り出しているのです。この時酸素は必要ありません。つまり呼吸しなくてもよいということです。このCPは筋肉に元々蓄えられているものですが、蓄積量には限界があり(22mmol/kg)、わずか7.7秒程度で使い切ってしまいます(1)。しかしCPは、疲労の原因と言われている乳酸を発生させることはなく、また得られる最大パワーが大きいのが特徴です。重量挙げなどはほとんどこのCPの分解エネルギーで行なっていると言えます。
CPを使い尽くした後はブドウ糖を分解することでATPを作り出します。このブドウ糖は主にグリコーゲンという形で筋肉に蓄えられています。その量は筋肉1kg当たり 88mmol と、CPの4倍です(2)。ATPが自動車でいうガソリンであれば、グリコーゲンは原油というところでしょうか。 乳酸は、上述したように一般に疲労の原因と言われていますが、筋肉疲労は乳酸だけで起こるものではありません。筋肉中のカリウム濃度が低下して電位が変化するため筋肉の収縮が起こりにくくなることもありますし、その他、筋肉中のpHの低下も原因となります。
さて、これらの現象を草野球に当てはめて考えてみましょう。打撃や守備、盗塁などの動作は7.7秒以内ですから、CPを使った運動です。三塁打やランニングホームランの場合は7.7秒以上かかる場合もあるでしょう。その時はブドウ糖からピルビン酸を作ることで筋肉のエネルギーが供給されています。走塁中に呼吸をしていないことから、無酸素運動であることがわかります。 (初版2000.4.6)
【参考文献】 |
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