成長ホルモンと聞けば、なにやらドーピングをイメージしてしまいそうですが、ここで取り上げるのはあくまでも生物が自ら合成し分泌するもので、服用するものではありません。
人間が作り出した「ロボット」は、その複雑な動きを電気信号でコントロールされています。この電気信号は電線を介して各動作部位に伝えられています。我々の身体も基本的には同じで、電線に当たるものが「神経」です。しかし、それだけですべてがコントロールされているわけではなく、もう一つのしくみが存在します。それがホルモンによるコントロールです。このホルモンは血液を通じて運ばれます。血管を持たないロボットには絶対に真似のできないコントロール系統です。 ホルモンの正体はほとんどの場合、タンパク質です。分子量の小さいホルモンは特別にペプチドホルモンと呼ばれる場合もあります。ホルモンが作り出される場所は、脳(視床下部、脳下垂体)、甲状腺、副腎、生殖器、膵臓、消化管などですが、体内で作った物質を体内に放出するので、これを「内分泌」と呼びます。
筋肉は運動することによって、様々な程度に傷害を受けます。筋肉線維が目に見えないレベルでブチブチと切れてしまい、筋肉痛の原因となってしまいます。成長ホルモンはこの切れた筋肉線維の修復を促進します。つまりアクチンやミオシンなどの筋肉タンパク質の合成を促しているのです。筋力アップのトレーニングを毎日続けることを想定すると、この時、筋肉が壊れ、それを修復するという生体反応が毎日繰り返されていることになります。この破壊と修復を繰り返すことによって、筋肉組織は増大していきます。
運動により筋肉が壊れると、それを修復しようと成長ホルモンが分泌されます。この時の運動は、15分程度のウェイトトレーニングで十分です。重要なことは、運動後、体を休息状態にすることにあります。成長ホルモンの分泌は約3時間ほどありますので、その間、体を休息状態に保つことが求められます。スポーツ選手の合宿で昼寝の時間が確保されている理由はここにあります。 運動をしなくても、夜間の睡眠中に成長ホルモンは分泌されます。睡眠に入って30分程度で、ノンレム睡眠(深い睡眠)に入りますが、その時、成長ホルモン分泌量は最大となります。ここからの3時間ほどが、一日のうちで最も筋肉が作られている時間といえます。 以上のことからわかるように、成長ホルモンは我々の意志で自由に分泌できるものではありませんが、分泌する状況にセットすることはできるわけで、その方法が睡眠であるわけです。「寝る子は育つ」という言葉は、その意味で生物学的に理にかなった言葉です。
(初版2001.8.14)
【参考資料】 (1)「スポーツにおける栄養対策」, 鈴木正成, Food Style 21, vol.4,2000 (2)「実践的スポーツ栄養学」, 鈴木正成, 文光堂, 1993 |
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