7月〜8月は我々草野球人にとって過酷な時期です。ただでさえグランドを自由に使える環境が与えられているわけではないのに、この時期はさらに午前と夕方にグランドのニーズが片寄ってしまうのです。
運良く比較的涼しい午前や夕方に試合ができればいいのですが、昼間の炎天下の中で試合をしなければならないことも時には覚悟しなければなりません。
さて、不幸にも炎天下で試合をしなければならない場合、我々の身体はどのような影響を受けることになるのでしょうか。日本衛生学会誌に、高校野球の選手を調べた論文(1) がありますので参考にしてみます。
グランド気温は34.2℃、試合時間は9回までの平均1時間57分という環境で、試合前と試合後で比較したところ、体重は平均1.2kg減少しています。これは主に発汗による水分の喪失によるものです。体温は平均0.35℃上昇しています。体温の上昇は、太陽や地面からの熱の蓄積、筋肉運動による熱の産生によるものです。多量の発汗が体温上昇をこの程度に抑えてくれているのでしょう。血液は、多量の発汗により水分を失い、若干ですが濃縮されます。
ミネラル類では、発汗によって塩分(NaCl)が失われるため、血中のナトリウムと塩素は減少します。この他では、カリウムが低下します。鉄分は変化がありません。
さて、同じ条件下で審判について調べた別の論文(2) があります。試合の約半分をベンチで過ごせる選手と違い、審判は運動はしないものの試合中はほとんど休息らしい休息はなく、長く炎天下にさらされる運命にあります。この場合の審判の体重減少量(発汗量)は、平均2.0kgで選手よりも多いのです。つまり炎天下においては、意外にも運動の有無よりも、グランドにいる時間の方が発汗量を左右することがわかります。
言い換えれば、
筋肉運動による熱産生よりも、太陽光から吸収する熱量の方が身体に対する影響が大きいということです。
これらのことから、我々草野球人が炎天下の試合に臨む時、とりあえずは太陽光を避ける措置を第一に考える必要があります。ベンチボックスがないグランドでは、攻撃時にベンチに座っているだけでも不必要に太陽光を浴びます。パラソルやアウトドア用のシェードなどを利用するのも手でしょう。少なくとも投手と捕手は、試合後半にバテてしまわないようにベンチでも太陽光に配慮すべきでしょう。バッテリーのコンディションは試合結果を大きく左右するのですから。コーチャーズボックスに立つのも他の選手に任せた方がいいかもしれません。
また、早めにグランドに到着し、前の試合を観戦する時間があったとしても、可能な限り、日陰になる位置から観戦しましょう。
第二に水分を十二分に摂ることです。脱水状態で発汗が十分でなければ、熱射病の危険性が増してしまいます。できれば試合前にもしっかりと水分を補給しておく方がいいでしょう。もちろん、上記の論文の結果や第4章で触れたように、発汗で失われる成分を補うことを考える必要があります。市販のスポーツドリンク類はどのメーカーでもその点は成分的に考慮されています。
炎天下での草野球は、対戦相手だけではなく、太陽と戦うことでもあるのです。
(初版2000.8.19)(二版2000.9.5)
【参考文献】
(1)「夏季の高校野球試合が選手の生体に及ぼす影響」, 倉掛重精ら, 日本衛生学会誌, 50(604-615), 1995.
(2)「暑熱環境下の野球試合における審判員の水分摂取の影響」, 倉掛重精ら, 日本衛生学会誌, 44(1120-1127), 1990. |