Art Gallery 古城シリーズ

スイス・レマン湖付近の古城

絵・和田賢一

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ジュシー城 コペ城 ニヨン城
ロール城 アラマン城 シヨン城
エーグル城 オロン城 グリュイエール城

 スイスの南西部に位置するレマン湖の北岸には大小さまざまな古城が点在している。というのは、南岸はフランス領で切り立った山々が湖水に迫っており、北岸は肥沃な田園地帯となって、スイス中部の町まちに通じているのだ。
 古城といえば、ドイツの「古城街道」に沿ってそびえる中世の城塞を連想したり、またフランスのロアール地方の華麗な城館を想像する人が多い。が、スイスも「古城王国」なのである。その数、100とも200とも言われている。
 スイスの国際都市ジュネーブから車でレマン湖畔を走ることにした。中世の名残をとどめる旧市街をぬけると、窓の外はのどかな牧草畑やぶどう畑だ。右手の木々の向こうに静かな湖面が見え隠れする。
 高速道路とともに、鉄道もレマン湖畔を走っている。ひと駅ごとに下車して、レンガ色の中世の町と城館をのんびりと散策するのも格別だ。しかし私には時間がない。友人のスイス男性2人とともに、車で湖水を半周することにしたのだ。
 ジュネーブ周辺にもジュシー城、コンペジェール城などの小さな城館があるが、次回訪問することにした。さて最初はコペ城、そしてニヨン城、ロール城、アラマン城、モルジェ城、サン・メール城、シヨン城と駆け足で見学。さらに内陸部に入りエーグル城を見て回った。
 ジュネーブ州発行の湖畔の観光パンフレットによると、16の古城があるという。中には見学できないプライベートな城もあり、予約を必要とするものもあり、一定人数を揃えて申し込まないと見学できない城もあるのだ。
 私たちが回った城は、サン・メール城を除いて公開されている。特に、モルジェ城は軍事博物館、エーグル城はワイン博物館だ。コペ城などはかつての所有者が使った武具、調度品などが展示されている。ちなみにサン・メール城はジュネーブに次ぐ湖畔の都市ローザンヌにあり、中世期の当地の僧正の居館で、現在は市当局の所有で非公開となっている。
 ヨーロッパの古城の特徴は、築城された年代による違いが楽しめること。
 例えば中世には峻険な山や丘の上や中腹に戦闘的な造りの城塞が建てられ、近世になると平坦な地形に城館風の建物が築かれる。わが国では戦国初期に築かれた砦も安土桃山、江戸時代に建てられた城の様式によって再現されたり、また天守閣がないにもかかわらず後に模造天守閣が建てられたりして、歴史に忠実でない場合が多い。その点、ヨーロッパの城は再現されても、昔そのままに復元される例が多い。
 またヨーロッパの城はどれ一つとっても同じ形の城はない。地形を最大限に利用して防御に適した城壁、主塔、城門などを配しているためだ。日本の城はその点、類似している場合が多い。城の形と周囲の光景が織りなすさまざまな城館は私にはいつも新鮮に目に飛び込んでくる。
 さらに城の持つ逸話がさらに興味を倍加させる。
 コペ城は、フランス皇帝ナポレオンに反発したロマン主義者のスタール夫人がスイスに亡命して移り住んだ城館である。内部にはスタール夫人の遺品などが展示されている。フランス文学に関心のある人には興味あるところ。
 12、3世紀に建てられたシヨン城は、スイスの覇者サヴォイ家の支配下にあった。この城は詩人バイロンによって歌われたことで一躍有名になった。「シヨンの囚人」は、16世紀の宗教改革者、フランソワ・ボニヴァールがサヴォイ公に逮捕されて、シヨン城に監禁された事件を素材にしたものだ。レマン湖畔にたたずむ美しいシヨン城の姿とあいまって、バイロンの詩は訪れる人々の心にロマンをかき立てている。
 旅には風光明美な所も、またおいしい食事も欠かせない。お土産も必要だ。ニヨン城の中庭から見た中世の町のたたずまいと太陽に輝くレマン湖が圧巻だ。アラマン城内には西洋アンティークの店もあり、レストランでスイス料理に舌つづみを打つこともできる。エーグル城ではワインを楽しめる。
 時間が許せば、リュッセンス城やオロン城に足を延ばすもよし、またチーズ産地で有名なグリュイエール城を見て回るもよし。とにかくスイスでは、ドイツやフランスに劣らぬ古城があなたを待っているのだ。
(ジュネーブで、和田賢一)


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和田賢一プロフィール

 昭和24年(1949年)、大阪府堺市生まれ。大阪市立工芸高等学校卒業後、月刊誌、日刊紙編集にたずさわり、現在フリーランスライター。ヨーロッパを舞台にエッセイ、写真、スケッチをライフワークとしている。
 浪漫工房代表、大阪工芸会会員、写友会会員、東京ペンネットワーク会員、等。