スイス・レマン湖付近の古城


グリュイエール城

古風な家並ぶ城郭都市

 スイスのジュネーブに滞在している知人が、古城に連れていってやると言って案内してくれたのが、このグリュイエール城だった。レマン湖畔のジュネーブから車で1時間半。グリュイエールの町から、丘の上に腰をすえた城郭を仰ぎ見ることができる。
 丘陵をめぐる坂道を走ると、城門前の駐車場に到着する。車を降りてさらに坂道を登り、城門をくぐるとまるで中世の街に迷いこんだような錯覚に陥る。道の中央は石が敷き詰められ、道の両側には古風な家々が並んでいる。グリュイエール城は典型的な城郭都市である。
 石畳の道は二つに分かれている。その中央には小さな教会があり、グリュイエール城へは左側の坂道を登らねばならない。右手の道を行くと再びグリュイエールの町に通じるのだ。
 グリュイエール城は創建は、12世紀。サリーヌ川の谷を治めていたグリュイエール伯爵家によって造られた。当時のものは主館に一部残っているにすぎない。大部分は15世紀以後に建てられた。グリュイエール伯爵家最後の城主となったのは、ミッシェル一世で、城を去ったのは、1554年のこと。それ以後、代官屋敷としてあるいは、グリュイエールの郡長の住まいとして使用された。
 19世紀に入り、城は取り壊されることになったが、それを救ったのが、当時ジュネーブ州の貨幣造幣局長だったジョン・ボーヴィ。1848年にフリブール州から城を購入してボーヴィ家は修復した。
 城内の一階には衛兵室、厨房がある。二階には、伯爵家の居間。三階には18世紀風の大広間や騎士の間がある。二階のブルゴーニュの間にはフランスのブルゴーニュ公シャルル豪胆王の紋章の入った儀式用法衣が展示されている。グリュイエール伯爵家のルイ二世がモラの戦い(1476年)で得た戦利品の一部である。
 城の回廊から中庭が見える。堅牢な城壁に囲まれた庭には季節の花が咲き乱れている。さらにその向こうにグリュイエールの町と山々が見てとれる。城は籠城戦の舞台ではあるが、城主の住まいでもある。立木や花壇は城には似つかわしくないと思うが、住人の心意気が伝わってくるような気がする。
 城に入る前にスケッチをした。その時、雨がポツポツと降り出して、本降りになった。当然スケッチはできない。が、ドイツから来た老夫婦が私に傘を差してくれたのだ。私はそのためにスケッチを中断することなく描き終えることができた。
 絵を愛する人々が世界各地にいるものだ。素人の私にさえ親切にしてくれた老夫婦の名も住所もわからない。感謝の一言に尽きる。

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