“時間的無限大”
スティーヴン・バクスター
(ハヤカワSF)
二点の離れた空間を繋ぐワームホール (空間の虫喰い穴) を作る。
そして、その片方を光速に近い速度で遠ざけ、そして帰ってくるようにする。
すると、移動したほうには相対論的時間の遅れが生じるから、
二点を繋ぐワームホールは、二つの離れた時間を繋ぐワームホールと化す。
つまり、一種のタイムトンネルが出来上がるのである。
そのようにして、遂に、1500年先の未来と繋がるワームホールが出来上がった。
しかし、1500年先の未来の地球は、
クワックスという異星種族に支配されていた。
支配の目をあざむいてワームホールをくぐってやってきた
「ウィグナーの友人」と名乗る人々の目的はいったい何か?
最後にはタイトルから連想されるような「時の果て」の話も出てきますが、
基本的には、タイムトンネルの製作者である主人公と「ウィグナーの友人」、
そしてクワックスの勝負(?)の話です。
勝敗は比較的あっさりと決してしまいますが…。
外交官のジャソフト・パーツとスプライン戦艦がいい味出してます^^;。
(12/25)
“時空ドーナツ”
ルーディ・ラッカー
(ハヤカワSF)
“ホワイト・ライト”と同じように、
無限を扱った、マッドなSFです。
もしくは、マッドなハード(?!)SFかも。
巨大ネットワークコンピュータ、フィズウィズが管理する未来。
「人々の安全」を最重要視するフィズウィズのお蔭で、
人々は仕事らしい仕事もせずに安穏と暮らす日々だった。
しかし、フィズウィズには「真の創造性」というものがない。
このままでは、人類には何の進歩もないだろう。
そこで、フィズウィズに「魂」を与えよう、
という試みがなされようとしているわけだが…。
それの鍵となるのが、クルトフスキ教授の発明した、
大きさの尺度を伸び縮みさせる仮想場発生機。
ミクロの世界へどんどん進んでいって、素粒子の世界を越えると、
そこには我々の宇宙がある?!
小難しい言葉も登場しますが、やはり何と言ってもマッドSF、
フランク・ザッパや、ローリング・ストーンズの音楽に合わせて、
ノリ良く読み進んでしまいましょう^^;。
(12/20)
“Robot Visions”アイザック・アシモフ
(Byron Preiss Visual Publications, Roc Book)
このコーナーでは初登場のペーパーバックです^^;。
アシモフのロボットものの短篇と、エッセイを集めた短篇集です。
ほとんどの話が邦訳されていますが、この本自体は日本で出ていません。
日本でまだ単行本・文庫本に収録されていないものや、
収録されていても目にすることが難しいもの
(ベイリ&ダニールものの短篇“Mirror Image”)
もあるので、
是非出してほしいものです。> 早川書房
ちなみに、序文は“ゴールド −黄金−”
で読めます。
“Mirror Image”以外の未収録ものでも、
SFマガジンでたまたま読んだものがあるので、
短篇で純粋に初めて読むのは“Think!”と“Chiristmas without Rodney”
くらいでしたが、“Runaround”や“The Bicentennial Man”など、
あらためて読んでもやはりよいですね。
エッセイで語られる、
コンピュータ・ネットワークを介したコミュニケーションの重要性なども、
さすがだな、と思わせます。
1970年代に書いているんですから。
今のインターネットの普及を見れば、きっと喜ぶでしょうね。
あ、そういえば、スーザン・キャルビン博士は、どうやら今年(1999年)、
大学に入学しているようです(^_^)。
(12/16)
“リングワールド”ラリイ・ニーヴン
(ハヤカワSF)
ニーヴンの“ノウンスペース・シリーズ”の集大成とも言うべき長編です。
故に、“ノウンスペース・シリーズ”
の他の作品をいろいろと読んでからのほうが楽しめます。
パペッティア人が銀河を去ることにしてからもかなりの年月がたった頃、
長生きし過ぎて退屈しかけていた地球人の探検家、
ルイス・ウーのもとに一人のパペッティア人が現れた。
ノウンスペースの端よりも遙か彼方、
200光年先のとある目的地への探検に参加しないか、
というのだ。
この二人に凶暴なクジン人<獣への話し手>と、
「幸運の遺伝子」を持つという地球人ティーラ・ブラウンをメンバーに加え、
一行が赴いた先は、恒星を取り巻く、広大なリボン状の建造物だった。
面積は、地球の表面積の三百万倍。
いったい、そこには何が待ちうけているのか?
このような巨大な建造物が相手だとしても、所詮は一チームの探検隊、
あまり広くは見て回れません。
そして、いろいろと謎も残したまま終わってしまいます。
“リングワールドふたたび”
などの続編が書かれるのは必然でしょう。
これだけの世界を構築してしまった以上、
作家には、それに見合うだけのさまざまなストーリーも生み出してもらわねば(^_^)
(11/9)
“夢みる宝石”
シオドア・スタージョン
(ハヤカワSF)
「全てのものの90%はクズである」のスタージョンの法則でも知られる、
シオドア・スタージョンの、かなりファンタジーっぽい SFというか、
ちょっと SFっぽいファンタジーというか…という感じの物語です。
養父に虐待されて家を飛び出したホーティは、
奇妙な人々や、奇怪な動物ばかりがいるカーニヴァルの一座に紛れ込んだ。
そこの団長、モネートルがそのような人間や動物を集めているのには理由があった。
一見何の変哲もない水晶のような見かけをしたもの、実はそれは生物で、
彼らが夢を見るとき、他の生き物の複製や、
他の生き物をモデルにした新たな生物を作り出す。
そして、その夢の見方が不完全であった場合に、奇怪な動物が生まれる、
というのだ。
その水晶を集めるモネートルの企みは…。
生きた水晶の設定はぶっとんではいますが、凝ったもので、
なかなか面白いものです。
だんだんと明らかになっていく秘密も、読ませる展開になっています。
最後のところはちょっと無理があるかな、という気もしますが。
(10/18)
“月は無慈悲な夜の女王”
ロバート・A・ハインライン
(ハヤカワSF)
このコーナー、150作品目です。
流刑者と、その子孫たちから成る月世界植民地。
そこは、資源と労働力豊かな世界として、
地球から搾取され続けていた。
このままでは、月世界に住む人々の食糧もなくなってしまう。
もはや、月世界行政府を倒し、地球から独立するしか道はない。
その「革命」の中心となったのは、
一人のコンピュータ技術者をはじめとする何人かと、
自意識を持つ巨大コンピュータ、マイクだった。
宇宙船も武器も持たない彼らに、勝ち目はあるのか?
ハインラインらしい、物語です。
単純な革命アクション劇ではありません。
随所にハインラインらしい哲学が登場します
(後に
“愛に時間を”
でラザルス・ロングの覚書として登場するものも幾つかあります)。
ハインラインの世界では、実力のある人というのはいい人
(でも、闘わねばならないときは躊躇なく闘う人) ばかりなので、
そこのところは気持ち良いですね。
マイクのキャラクターもよいです。
と、素晴らしい作品なのに、
誤植や、訳のミスと思われる変なところが結構たくさんあるのがもったいないです。
タイトルも、原題“The Moon is a Harsh Mistress”のほうが
(結末にも係わると思うので) よいと思います。
(10/13)
“つかぬことをうかがいますが…
〜科学者も思わず苦笑した102の質問〜”
ニュー・サイエンティスト編集部 編
(ハヤカワNF)
ここに載る久々の非SFです。
読者の素朴な科学的?!疑問に読者が答える、という
イギリスの週刊科学雑誌“New Scientist”
の巻末の人気コーナーの投書をまとめたものです。
Q&Aの形で、一つの質問に(たいてい)幾つかの回答がついています。
回答のほうも読者の投稿にすぎませんから、必ずしも正しいとは限りません。
ときには、ユーモアをきかせた回答もありますし。
鵜のみにしてはいけません。
常に「本当か?」と自分できちんと考えつつ読みましょう。
それが、正しい「科学的」態度なんですから。
ささやかな謎から奥深いなぞまで、回答のほうも洒落から凄く専門的な答え、
そして自ら実験してみて得た答まで、いろいろあって楽しめます。
“科学者も思わず苦笑した102の質問”という邦題のサブタイトルと、
ファンシーな表紙からお遊び的な内容を想像する方もいるかもしれませんが、
遊び心はあっても中身はなかなか濃いもので、勉強にもなります。
あなたの素朴な疑問の答えも載っているかも。
…文字数を数える話で、自分でも引っかかったのはひじょうに悔しい^^;
(9/30)
“禅 <ゼン・ガン> 銃”
バリントン・J・ベイリー
(ハヤカワSF)
退廃し、崩壊しかけている銀河帝国。
人口は激減し、生活は知性化された動物の労働力で支えられていた。
宇宙艦隊も数少なくなっていたが、
過去の威信を利用してかろうじて辺境星域の反乱を抑えていた。
そこへ、辺境星域に帝国を滅ぼし得る究極兵器が存在する、
との託宣が出た。
辺境星域のとある星、地球では、人間と他の霊長類とのキメラ
(合成動物) が、博物館から禅銃 (ゼン・ガン)
と呼ばれる古い銃を盗んで逃げ出していた。
そして、行きがかり上、そのキメラを護ることになった超戦士、
<小姓>池松。
彼は禅銃に興味を示しているが、直接手出しはしない。
究極兵器を探しに来た宇宙艦隊に収容された一行であるが…。
ああ、たいしてストーリーの説明になっていないなぁ。
というか、あまりストーリーが明確でないというか、
あまり厚くない小説ですが、
全体の筋と直接に関係ない部分が多い感じです。
疑似物理理論の部分も、作者は気に入っているようですが、
あまり説得力はなくて、ややこしいだけな感じがしてしまいます。
トンデモ本に出てきそうな感じというか。
“カエアンの聖衣”
の低周波音の惑星とかは面白かったのに…。
<小姓>などの変な日本文化観はおもしろいです^^;。
(9/10)
“星は、昴”
谷 甲州
(ハヤカワSF)
たまには日本人作家のも読んでみようシリーズ^^;。
宇宙を舞台にした短篇集です。
作者自身があとがきで書いているのですが、
同じアイデアが繰り返し出てくる感じです。
同じ基本設定、とか同じテーマのバリエーション、とかだったら良いんですけど、
「同じアイデア」なんですよねー。
あとは、架空理論の類や状況などに、
いまいち説得力を持ちきれないところが多いのが気になります
(説明自体もうまくないような)。
コンピュータ内部のデータを覗いて人間の言葉を理解するようなやつが、
自分の規準が変わったからって相手の単位系は変化しないことに気づかない、
なんていうまどろっこしいボケをかますとは思えません。
他にも「情報」ネタが何回も出てくるんですけど、
どうも、世間一般で使われるいわゆる「知識」という意味での「情報」と、
情報科学でいう基礎的な意味の「情報」
とがごっちゃになっている
(まあ、この二つは大差ないといえばないんですけど)
ところとか…。
いろんなものを使って自己のアイデンティを記述して自己を保存する、
とか基本的には面白いアイデアなんですけどね。
表題作“星は、昴”は (最後のシーンなど特に) いい話だと思います。
が、この話にこの舞台設定は必要でないような…。
タイトルもあまり適切とは思えないし。
(8/27)
“仮想空間計画”
ジェームズ・P・ホーガン
(創元SF)
脳へ情報を送る神経に直接、信号を乗せることにより、
人間に仮想空間を“体験”させることができるシステムが開発された。
現実をシミュレートした仮想空間内で、本物の人間と、
コンピュータが操作するアニメーションの人間がやりとりすることにより、
人間に近い人工知能を開発しよう、という計画のはずだった。
しかし、計画の立案者であるはずのコリガンは、
ふと気がつくと、ある期間の記憶を失い、見知らぬ場所にいた。
計画はとうの昔に放棄されたという。
よく分からないまま、その奇妙な世界で暮らしていたコリガンであったが、
ある日、一人の女性が現れて
「私たちはシミュレーションの中に閉じ込められている」
という。
誰かの陰謀にはめられたのか?
このところたて続けに出ている、ホーガンの新作です。
原題は“Realtime Interrupt”ですが、
“仮想空間計画”のほうが内容的にもわかりやすいですね。
今回は架空物理理論は登場しませんが、
ヴァーチャル・リアリティ関係の工学的技術が、
まだ実現されていない部分もしっかりと書かれていて楽しめます。
ストーリー的にはちょっと単純かな、という気もしますが。
でも、研究を実際に進める人たちと、
資金を出す人たちの確執が垣間見えるのはよいです。
そうそう、MITが登場して、
マービン・ミンスキー教授も登場するあたりもなかなか :-)。
訳がいまいちに感じられたのは残念なところです。
(8/8)
“ガイア −母なる地球− (上・下)”
デイヴィッド・ブリン
(ハヤカワSF)
過剰な人口や深刻な環境汚染で苦しむ地球の人々は、
さまざまな技術革新で、致命的な事態をかろうじて先送りにしてきた。
そんな技術革新の一つとなるであろう人工のマイクロ・ブラックホールを、
若き天才物理学者・アレックスは地中へと落してしまった。
従来の理論に反して安定なそのマイクロ・ブラックホールは、
地球を内部から食らいつくしてしまうかもしれない。
重力波を用いた探索で、
無事そのマイクロ・ブラックホールはみつかった。
しかし、それと同時に、
それ以外のもっと大きなマイクロ・ブラックホールが地球内部に存在することも判明した。
そして、探索に伴い、予想もしなかった異変も起こっていた。
このまま、地球は壊滅してしまうのか?
科学的なたとえとして、もしくは宗教的な人格として、
(その上に住む生物を含めた)
地球全体を一個の自律的なシステムとして捉えることが一般化している社会が舞台となっています。
その“システム”の中で人類や他の生物の占める意味は何なのか?
高度なネットワークを持った人類は、地球の頭脳足り得るのか?
そのような、地球環境絡みの展開と、
発見されたブラックホールをどうにかしよう、という話が軸になり、
終盤の予想外の事態へと繋がります。
なかなか重厚な話です。
特に、各節の間に挟まれる、
一見ストーリーに関係なさそうなネットワーク上の記事などが、
背景を膨らまし、話により深みを与えている気がします。
上下巻で計1200ページありますが、そのボリュームに見合った、
圧巻の内容だと思います。
(7/23)
“ヴァーチャル・ガール”
エイミー・トムスン
(ハヤカワSF)
人づきあいの苦手なコンピュータの天才アーノルドは、
自らの伴侶とすべく、
外見も知能も人間そっくりに振舞えるアンドロイド、マギーを作成した。
しかし、この世界では人工知能の開発は禁じられていた。
マギーの存在がバレれば、即座に彼女は破壊されてしまう。
アーノルドはマギーに人間らしい行動や動作を教え込み、
追っ手から逃れるべく放浪の旅に出る。
旅の道すがらに、
さまざまな人たちに出会って成長していったマギーの求めるものは…。
ありがちな話といえば、まあそうかもしれませんが、
ほのぼのとした感じのいいお話、です。
アーノルドの、マギーに対する感覚は、
子供に過度の愛情を期待する母親のようなものに思えます。
アーノルドの過去に起因することなので、
あまり責められるべきでもないとも思いますが。
何はともあれ、マギーは真直ないい子に育って、良かったね
(アーノルドは不満かもしれませんが)、ってところです。
「ヴァーチャル」という言葉は、「ヴァーチャル・リアリティ」
が仮想現実と訳されるので、勘違いされがちなのですが、
元々は「実質的な」というニュアンスの言葉です。
この本のタイトルも、その辺りのニュアンスを含んで解釈すべきでしょう。
(7/7)