2023.03.14

    尼崎の町医者長尾和弘さんの本『政治とワクチン』(ブックマン社)を買った。家庭の医学のコーナーには無くて、政治社会関係の方に分類されていたので、なかなか見つからなかった。

これはブログの記録であるが、それは有料のメルマガだったようである。広く公開するとバッシングが怖かったという。時系列になっていて、報道トピックスが最初にまとめられていて当時の状況を思いだしやすい。

主張については知っていたので特に意外なこともないのだが、この人はやはり誠実な人なんだろうと思った。ワクチンが良いか悪いかについては一つの答えは無いのだろうと思う。その人の立場によって違うのは致し方ないのではないだろうか?ワクチンによって感染爆発が抑制されるからといっても、臨床医の立場から見れば、感染対策よりも感染者の素早い適切な治療の方が重要である。まして、ワクチンによる後遺症に悩まされてやってくる患者を日々手当している医師から見れば、ワクチンは有害あって一利なしと見えるのも致し方ない。イベルメクチンについても、推奨して使ってもらって有効性を確信しているのだから、大規模治験で有効性が否定されても治験の信頼性を疑うだけのことである。但し彼は自分で処方しているのではなくて、患者に勧めているだけである。(米国では処方した医師が解雇されている。)

家庭の医学のコーナーには沢山のワクチン反対派の医師達の本が並んでいるのだが、それらと違うのは、殆ど統計的なデータや論文を引用していないところである。だから、逆に、データの間違った解釈にも陥らない。分をわきまえて、あくまでも一臨床医の主観的な見方を述べている。ひとつ気づいたのは、彼が尊厳死協会副理事長をしていることである。命は数ではない。より多数の人が病死を免れるからと言って、その方が良いとは限らない、という考え方が根底にある。だから、彼はインフルエンザワクチンも推奨していない。個人にとってワクチンは感染の確率をせいぜい半分とか何割かに抑えるだけであるから、他の感染対策でも代用できる。ワクチンの本来の目的は政治的であって、多数の人達に接種して感染の流行そのものを抑え込むことである。短期的には抑え込んだとしても長期的にはどうなのか?とか、ワクチン禍がどの程度なのか、とか、厚生労働省のデータだけでは判らないことが多い。厚生労働省としてワクチンと死の因果関係を認めて賠償したケースは2000件余りの内でまだ67件だそうであるが、僕が言えるのは、インフルエンザワクチンに比べると桁違いに危険性が高いということだけである。長期的な影響(後遺症)については、感染による長期的な影響に比べて統計データが不十分であるから、僕には何とも言えないが、現場の医師は経験した範囲内で考えるしかないというのも理解できる。

僕はワクチンを接種すべきか否かについて何らかの客観的な判断基準を求めようとしていたのであるが、そのような(科学的?)アプローチは必ずしも有効ではないのかもしれない。対立する様々な意見はそれぞれが尊重されるべきであって、一つの統一的な正解を主張すること自身に危うさがあるのではないだろうか?

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