2022.11.17
『イベルメクチン(新型コロナの救世主になり得るのか)』 大村智(編・著)(河出新書)を読んだ。元々はノーベル賞受賞対象ともなった寄生虫の特効薬で、副作用もあまりなく、特許も切れていて安価な薬であるが、抗ウイルス作用が知られていた。

・・第4章に生理学的な作用機序が説明されている。

1.ウイルスが細胞に取りつくのを阻害する作用と、
2.細胞内に入ったウイルスRNAから合成される一本鎖のポリたんぱく質を切断してウイルスを再生する時に働くメインプロテアーゼを阻害する作用と、
3.宿主細胞の核に入り込むための運び屋(インポーチン)の片方と結合することで、(感染を知らせる)インターフェロン産生阻害(これが肺炎になるまで発症を遅らせている)を起こさせない作用と、
4.炎症性サイトカインの産生(重症化の原因)を抑制する作用、
の4つである。これだけ揃っていると効かないはずがないように思われるが、実際の体内では非常に複雑な反応が起きているので、使ってみないと判らない。

・・インド、アフリカ、南米など、ワクチン供給が間に合わなかった地域において、積極的に使われていて、結構効果があるように報告されていて、非常に多くの論文が書かれている。インドの各州においてイベルメクチンを配布した州と配布しなかった州との比較でも感染拡大にかなりの差が見られた。状況証拠は有利である。しかし、開発元のメルクは当初から大規模治験を行う気がなかった。薬が安価な為に、治験にかかる膨大な費用を回収する見込みがないからである。また、WHO を始めとする国際機関は充分なエビデンスが無いという理由で、治療薬として推奨していない。Facebook や YouTube もイベルメクチンの効能について語ることを規制している。第3章でのイベルメクチン反対派の論理の不自然さや不十分さを語っているのを読むと、確かに背後にやや政治的な意図があるのではないか、とも思わせる。なかなか難しい問題である。勿論、僕には判断できない。そもそも、エビデンスが無いからといって、使うべきでないとは必ずしも言えない。他に手段がなくて、医師が経験的な確信を持つなら使うべきだろうと思う。

・・この本は2021年末の発刊であるので、最後に、これから医師主導の大規模治験が行われるので期待したい、と終わっている。その治験結果(1030人)が最近出て、結果が思わしくなかったので、興和は治療薬としての申請を諦めた。また海外でも3月30日に3515人の治験結果 10月21日に1800人の治験結果が発表されていて、やはり効果が確認されなかった。デルタ株までのコロナだと肯定的な結果が出たのかもしれないなあ、とも思うけれども。。。

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