天園ハイキングコース-鷲峰山・・その3

百八やぐら群
右の写真はハイキングコース沿いに見られるやぐらです。この付近のやぐらは「百八やぐら群」と呼ばれ、鷲峰山(しゅうぶせん)から杉ヶ谷の上部一帯に大小様々なやぐらが集まっています。百八というくらいですからそれだけ多くのやぐらがあるのですが、実際には200以上あるといいます。また百八というやぐら名はその数ではなく除夜の鐘数などで知られる煩悩削滅を意味するものとの説もあるようです。百八やぐら群には一般的なやぐらから特殊な様式のやぐらなどが見られ、やぐらの観察には大変に適しているところですが、未整備の山中に分布範囲が広いので迷子にならないようお気を付けください。

上の写真のやぐらの内部(地蔵像と納骨穴)

左の写真は五輪塔の浮彫が奥壁に見られるやぐらで、ここ百八やぐらにはこのような五輪塔の浮彫があるやぐらが沢山見られます。百八やぐらには浮彫の五輪塔の表面に白色の化粧の痕が残るものがあると資料に見られ、もしかしたら写真のやぐらもその五輪塔やぐらの一つなのかも知れません。写真でもわずかに白い色が確認できます。このように岸壁に直接彫られた五輪塔を一石(いっせき)五輪塔とも呼ぶそうです。

右の写真は天園へのハイキングコースの南側直下にある連続したやぐらで、この付近のやぐらの中には首だけ切り盗られた石像が沢山並んでいて、一種異様な雰囲気が漂うところです。明治になってから、ここ百八やぐらの中に弘法大師の石像八十八体が祀られたそうです。しかしその後、博徒が縁起担ぎにここの石像の首だけを切り盗っていってしまったともいいます。ほんとの話かどうかはわかりませんが、石像の首だけ切って盗むことができる人の心境は私には理解できません。

気持ちを入れかえて他のやぐらを見て行きましょう。左の写真はやぐらの前に五輪塔が建つものです。普通は五輪塔など石塔類はやぐらの中に置かれるものですが、写真のようにやぐらの入口に置かれているものは、五輪塔が最初から入口に置かれていたものか、或いは後に崩れたやぐらの五輪塔をここに置いたものなのか、その真相は私にはわかりません。

それにしても、たった一人で山中のやぐらを探していると、風に揺れる木の枝の音や鳥の鳴き声などにビクッとすることがあります。

天園へのハイキングコースの南側直下のやぐら

首なし石像が並ぶ連続したやぐら

ふと、どこからか声が聞こえてきます。「汝はいったい何を恐れているのか。ひとりきりがそんなに怖いことなのか。他人と自分を比較して何になるというのか。汝は世の暗い部分ばかりを強調しようとしていないか。運命などというものがあるわけがない。運命とは人間が考えた観念である。汝は導かれる道をそのまま進めばよいのである。そう汝には輝く光が見えるではないか。それさえあれば十分ではないか。」 気が付くと目の前に鮮やかな紅葉が光り輝いているのでした。

やぐらが死者を埋葬した施設であるという先入観がおかしな気持ちにさせられてしまいました。死者を恐れる心境として自分自身に何か後ろめたい心があるからではないでしょうか。死者を恐れることは死者(悟り得た者)に対する冒とくでもあるように思えます。非業の死を遂げた人の霊は祟りを及ぼすといいますが、その霊を神として祀れば守護神ともなるという話を聞いたことがあります。やぐらに埋葬されている霊に敬意を持って接したいと思います。

右の写真はやぐら群付近から派生する尾根上に見られる道跡ですが、どこへ続いているのか先は確認していません。

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