神奈川月記9502

冠省
話題が乏しくて恐縮である。またパソコン絡みだ。
いやね，時計が遅れるのよ。日差12時間という感じで，いくら合わせてやっても無駄無駄無駄無駄。「コントロールパネル」の「日付と時刻」でやってるんだけど，ここ以外にアジャスタは無いよなあ。時計の電源はどこだ。まーさかＡＣ周波数同期じゃあるまい。
マニュアルを繰ってみるにPS/V Visionは果たしてリチウム電池を持っており，しかして装置構成情報を保持していることしか判らない。目覚まし時計なんかでは何が何でも１年たったら電池を換えろてなことがよく書いてあるが，ここでは交換の時期にも理由にもだんまりでかつ電池の規格さえ明らかでない。ＩＢＭの部品番号を載せて，とにかくこれを使えと言う傲慢さだ。
購入して１年ちょっと，電池ぎれしてもおかしかないか。だけど時計はクォーツ発振だろ，電圧が落ち始めてもぎりぎりまで我慢してパタッと止まるもんじゃないかなあ。後で聞いたら，昨今デスクトップでもそういうバッテリはニッカドか何かで勝手に充電されるようになっているらしい。ボタン電池なんか使ってないはずだそうだ。ったって入ってるもん。ぷんすか。
もうひとつ。ブラウン管が異常発光する。とは穏やかでないが，電源を投入してメモリチェックの始まるとき真っ暗画面であるべきが，全面が光って埃っぽい日向のようになる。例によって必ずこうなるわけではなくて，電源を切って即たちあげ直すような場合に多い。DOSが上がってWindowsに入っても白けたままだ。
テレビ画面でいちばん黒い色というのは，よく考えたらブラウン管の消えている状態の色である。だからテレビを買うときは展示品を消して見て，なるべくダークな物を選ぶと階調の深い豊かな画面を得られる。せっかくそう言ってやるのに調子の悪いVisionはDOS画面でさえ背景が明るい紫である。きみ最近，芸が荒れとるんちゃうか。コントラストや輝度の調整も効かないぞ。
壊れていやがる。
このまま放っておいていつの間にか直ってしまうタイプの不調ではない。こりゃ参ったね。仕事場でラップトップを貰って宙に浮いた恰好のノウトパソコン調達計画(OPERATION P2)，デスクトップに差し替えて発動するべきか。
おれがVisionを放り出すのを楽しみに待ってる奴が結構ある。堪え性の無さを見切られているのだ。この異常発光の問題が無ければ早くともWindows95の登場まで交換するつもりは無かったんだけど，次の御入学セイルを乗りきる自信がなくなってきた。
もともとWin95に合わせてマシンを乗り換えようとしていたのではない。まずはOS/2 WARP日本語版との比較評（お互いβ版じゃなくてね）を読んでからだ。また予め約束された勝者であるWin95に対応したアプリがOS/2でうまく動くものかどうか確認してからでないとワープもできん。それにintelのチップのままで良いかという迷いもある。あ，別に例の欠陥Pentium騒動を指してるんじゃないよ，お立ち合い。
intelはこのたび大いにミソを付けた。でもわしゃどうも腑に落ちんかったんよ。問題になったのはコンピュータが最も不得手な割り算なんだけど，不得手ったっていいかげん作りたおされてきたものであり，今さら間違えっこない。Pentiumだって500円の電卓だって四則演算の遣り方は同じだろ，割り算は畢竟引き算の積み重ねであってそれが速いか遅いかの違いだけだ。
と思ってたら違うんだって。Pentiumは浮動小数点の割り算を，言わば途中まで計算してある表を見ながらやるそうである。はははん。ところがその対照表が間違っていた。なーるほど，納得である。対照表のミスった部分を遣う計算の時だけ答えが狂うのだ。それがintelの言う「90億回に１回」の計算エラなのだな。だけどいくら90億分の１の確率でも或る組み合わせの計算をすれば必ず答えがおかしい，そうと知ってしまえば使う気は起きないぞ。
非難囂囂intelはやっとこさ無償交換に乗り出したのだが，対照表を使うのならソフト上で解決が可能だ。間違いを犯す演算のときに別の対照表を使えば良い。そういうのを配布してついでに次のアップグレイドの割引券を付ける。これじゃ駄目？　却って手間かな。
おれはPentiumよりパワＰＣが気になってしかたがない。でもＩＢＭとAppleは今頃また共同開発を再確認なんて言ってるし，実現はまだ遠そうだ。ＩＢＭも鬼の首を取ったようにintelばかり責めてるんじゃないよ。実現したところでWindows95はパワＰＣなんて知ったこっちゃないだろうから，パワＰＣ側で合わせてやらないと回天どころか休業になりかねない。どの道intel-Microsoftの95体制が覇権を握るのだ。あんまり現実から乖離せんようにしといてや。

ＰＣＭプロセサがいかれたんでちと不安になってきた。同期のアンプも危ないのではないか。
アンプはＮＥＣの初代A-10である。A-10はオリジナルからII・III・IVと来てⅩへ飛び，今はさすがに生産完了じゃないかな。ＮＥＣで唯一まともに評価されたアンプであろう。ひと頃のオウディオ重量主義の立役者で，初代で21kg・Ⅹだと30kgあった。
こいつもまた償却は終わっており，では壊れて何が困るかと言うとＡＤを聴けなくなってしまうのだ。おれはまだＡＤを持っているのである。フォノイコライザが必要なのだ。
ＣＤ(Compact Disk)に対して従来の塩ビレコードをＡＤ(Analog Disk)と呼ぶ。コンパクトとアナログでは対語になっていないが仕方がない。しかしＡＤの絶滅した現在なにがコンパクトなんだかガキども解らないんじゃないかしらん。
A-10が動かなくなったら，ま，後がまを入れるにしてもかなりグレイドの落ちる機械になるだろう。今後一切新曲の入ってこないフォノに大枚をはたく余裕も情熱も失われてしまった。ましてＣＤやＭＤのような高出力機器ばかりならプリメインないしプリアンプを介在させる意義は非常に小さくなるのだ。おれにとってプリアンプとはフォノアンプなのである。今の内か。今の内にＡＤをコピイしておいたほうが良いのか。
ＬＰからＭＤに試しに落としてみた。栄光のテスタはビートルズである。
おれはビートルズの解散にも間に合わなかった。その代わりベスト盤・企画盤がいちおう出揃った後に集め始めたので慎重にセレクトでき，最少の枚数で全曲を網羅している。ただ『Get back』と『Let it be』だけはシングルヴァージョンがどのＬＰにも収められておらず，５in.盤も必要だった。
それはレノンの死去前の話である。あの殺害事件は最も入れ込んでいた時期だけに大変なショックだった。翌朝の新聞はできるだけ手に入れて関連記事をスクラップしてある。だから今レノンの大ファンだと言う奴の殆どが彼の死後転向しただけなのを知っている。
ところでＣＤが出回り始めて間もなく『ABBEY ROAD』だけがぽこっとＣＤ化されたことがある。そりゃあもう何の問題も無く全作品（『赤』と『青』まで）ＣＤで聴けるけれども，当時はＣＤ化の版権というものが整備されてなくて──そりゃそうだ──ビートルズに限らず凍結されたビッグネイムは少なくなかったのである。
掟破りの『ABBEY ROAD』は大問題になってすぐに市場から消えたが，おれは何度も手に取っていた。買っときゃ良かったなあ。でもＣＤに手を出すつもりは無かったんだ，こんな爆発的にＡＤを駆逐するとは思いも寄らなかったんでね。その後ビートルズのＣＤは解禁になるまで何年か掛かっている。確か当時著作権保有者だったポール（現マイケルね）がごねてたんじゃなかったかな。
んで，久しぶりに最初っから聴いてみる。『PLEASE PLEASE ME』，にゃー，おれ全部うたえるぞ。『WITH THE BEATLES』，あぁこんな歌ありましたね。『A HARD DAY'S NIGHT』，ツビナハーデイーズナイ。おやおや，左チャンネルが掠れてるぞ，あらっ，右の音ちいさいぞ，や，リンゴが居なくなったぞ。
壊れていやがる。
嘘ぉん。何故にこうタイミング良く壊れる。しかし不幸中の幸い，調子悪いのはフォノ系でなくＭＤを繋いだテイプ１だった。直ちにテイプ２に替えて録り直し。テイプ１は単なる接触不良という気がする。ＣＲＣを吹いて接点復活に賭けるプシュ。
１曲２分足らずのが多くて入る入る，最初の１枚に32曲はいった。にしてもビートルズを聴くとここ20年間のミュージックシーンが結局なにものをも生み出していないような気になっていけねえ。
おもしろいからこのシリーズしばらく続けよう。ビートルズ・ジョンレノン・スネークマンショーおよび若干のニューミュージックは全部ＭＤに写してＬＰは実家に送り，本棚を空けることにする。クラシックや純邦楽やジャズはＭＤにしてまでしょっちゅう聴きたいタイプでないからそのまんま，ダビングすると価値の無くなる鮮度命の生録ＬＰもいちおう手元に置いとこう。
そうやってレコードを放りこんどいたキャビを浚ってみたら，すっかり忘れてたようなのがぽろぽろ出てきて頬や涙腺が緩むのだった。

新しい職場は地上15階にあり，見事な眺望だ。ベイブリッジや新宿副都心は言うに及ばず，晴れてさえいれば富士山も見える。うちのマンションも見えるんじゃないかと思うがまだ捜せていない。夜景のほうは周りが寂しい分もうひとつだ。
敷地が広くて住宅街まで出るのに割と歩かないといけない。45分間の昼休みに飯を行って食って帰ってくるのは慌ただしいものがある。それでお昼は専ら社員食堂だ。食堂は４階で眺望を楽しむほどじゃあない。
社員食堂に関してはずっと以前に書いたように恨みに近い感情がある。おれは食堂を管理する本社の人間にはあらで，利用はさせてもらえるがヴィジタ料金だ。月単位に集計されて給料天引きなのでひと皿いくらとはつかめないのであるが，どうやら本社員の倍額らしい。それなら市井の定食屋と変わらないかむしろ高いくらい。それでいてまずいんだから話にならん。
おれが贅沢を言ってまずいんじゃあないよ。確かにおれは偏食王であるが，うまいまずいは識別できる。パンパシフィック食堂同盟中ダントツ最下位の腕前なのだ。ちょっと思い出してみてもらいたい，これまでに金を払って食った料理の中で最もまずかったものを。思い出しましたか。うわぁ，ぞっとしますね。腹たちますね。でもそれよりもまずいのだ。
おお，非常に悪意ある文章になってしまった。でも認めてないのは１箇所だけで，同系列でおれの行ったことのある外の３堂はそんな怒りまくるほどじゃあなかった。おれの常駐していた所のがたまさか地獄の料理人だったのだ。
そういう経緯があって，しかし前述のとおり横浜沙漠である。お昼に休みたくば社員食堂を利用するのが一番だ。恐る恐る食ってみたら，ありゃ，うまいね。あれっ，おれ，ここのは積極的にうまいと思うぞ。おかしいな。いや，おかしくはない。ここの飯うまいですよねと感に堪えて言うとそのとき一所だった甘木さんは，そう？と冷たい返事だった。もしかしておれの舌はマイナフォーマット準拠なのか。

不一

1995年２月10日

前月　目次　次月

・無駄無駄無駄無駄
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる最大の悪役DIOの口癖。

戻る

神奈川月記9502

written by nii.n