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神奈川月記9503

冠省
麦ごはんが社員食堂のメニュにある。とてもうまい。配分は米:麦で10:1てなところ。
この比率については官能検査をやったことがある。9:1からハト麦を増やしていって1:1まで試してみたら──炊飯前の体積比である──何の不都合もない。うん,食べれる食べれる。しかし実験はここまでで,ハト麦100%は水加減に自信が無くてやらなんだ。もし失敗したら目も当てられん。
食堂でおれは好んでチョイスするのだが,他の人はあんまり手を出さないようである。どうも病人食か罪人食に思われているらしい。おれは産まれてこのかた半病人であり世間の柵に囚われておりついでながら貧乏人だ。なるべく麦飯を戴こう。
あ,これってひょっとして一昨年の米不足の名残なのかな。


MDはどうやら定着したと言えそうだ。生ディスク生産に参入するメイカが増えてきた。
気になるお値段のほうは95年2月現在で74分ディスク(ソニー盤)の10枚組が8800円,ずいぶん安くなったものである。ってもこの売価は下北沢の激安店のもので,突出した特殊な例だろう。コンビニに置かれるようになればいよいよ本物であるが,さて先鞭を付けるのはセブンイレブンかローソンか。あんがい客の流れが変わるかもよ。

It's a Sony 星取表(95年3月現在;筆者の印象)
種目 Sony方式 競合媒体 仮想敵社 時期 勝敗
録音機 *1 - - - 50年代
ラジオ トランジスタ 真空管 - 50年代
テレビ トリニトロン 3銃シャドウマスク RCA 60年代
録音機 エルカセット コンパクトカセット - 70年代
ビデオ ベータ/EDβ VHS/S-VHS ビクター 80年代前
ビデオカメラ 8mm/Hi8 VHS-C/S-VHS-C 松下 80年代後
レコード *2 CD AD - 80年代
ビデオディスク *3 LD VHD ビクター 80年代
録音機 DAT コンパクトカセット - 80-90年代
録音機 MD dcc 松下 90-94
PC記録媒体 DATA MD FD/MO/PD -/-/松下 90-
TVゲイム PLAY STATION SFC/SS/MD 任天堂/SEGA 95-
DVD 片面2.5h 両面4.5h 東芝/松下 95- ●?
*1 テイプデッキ自体世界初の商品化
*2 Philipsと共同開発
*3 オリジナルはPioneer

ソニー久久の勝利という気がするな。ちょっと星取り表を作ってみよう。久久ってこたぁないか。
ただデータMDを採る気はない。松下にPD(MOの変形)なる高密度記録媒体があって630MBの容量(CD-ROMに匹敵)を誇る。これがこの4月にサードパーティ込みで発売開始なのだが,4倍速CD-ROMドライヴとコンパチらしいのだ。すんばらしい。倍速ドライヴとタンデムすりゃあ音楽CDを聴きながら辞書CDを使え,HDまるごとバックアップも楽楽ではないか。おれ,こっちにしよっと。
話もどって,昔からソニーはこんなんできましたと言っては即商品化し,売れなきゃこれならどうだ,売れればこれも良いよてな性分だった。確かに単体で見ればツボを押さえた見事な造りであり,その時点で最高の性能を叩き出してくる。
しかしどうブームを創り出したところでオウディオにせよヴィジュアルにせよ市場はさほど大きくない。近年あちこちに進出しようと躍起になっているものの舳先はやはりそれぞれに趣味性の強い分野である。彼の社のマニアックさをマニアックな人たちが愛でていられる間は良ろしいが,いざ普及(家電化)が始まると松下や日立の量販網に阻まれてしまうのだった。
ソニーくん独白。ウチが育てた市場をいつも後から来て浚っていく,何でえ,何にも生み出さないくせに,今度こそウチが主導権を握るんだい。
ソニーの開発力が飛び抜けて秀でておりヒットのたくさんあるのはご存じのとおり。さりながら才能を鼻に掛けた権力志向が緩やかな変化を好む他社の反感を買っているのもまた疑いない。そうかソニーはPaul McCartneyなのだ。JETなのだ。WINGSなのだ。
それでもベータ-VHS戦争に敗れたことはソニーを少しはおとなにしている。技術力だけでは勝てない,またユーザの意識がそれほど理性的でないことを学んだ。最近は耐久性にも気を遣っているようである,昔は10万円以下の製品なら2年以内に必ず壊れたものだ。ビクターを始めとする競合各社もソニーに勝ったとは思っていないだろう。強大なライヴァルが増えて迷惑なだけだ。ベータで失ったソニー神話よりも8mmで体得した経営術のほうが遥かに重要に違いないのだ。
さて問題は今後である。ごく近い将来の目玉,TVニューズでも取り上げられたDVD(DigitalVideoDisk)だ。誤解を恐れず言えばDVDとはCDサイズのLDである。非常に紛らわしいが現行の30cmLD・20cmLD・LDシングル・CDV,どれとも違う。何が違うって映像がディジタル録画である点だ。しかしLDが普及しきっていないのに何を急いでいるのだ,さてはVHDで苦汁を嘗めたビクターの陰謀だな。
と思ったらこれは主としてソニーと東芝の対立だった。ソニーはCDの流れを汲む片面7.4GB・2時間ちょいの単板式,東芝はLDの流れを汲む両面10GB・4時間の薄板はり合わせ式である。
先攻はソニーだ。取り敢えずフィリップスと必勝CDコンビを組み,次いで松下に参加を打診した。松下いちおう頷く。それってんでハリウッドに見せたところが,2時間分じゃしょうがねえなあと容量を盾に東芝式に軍配を挙げられる。ここで松下ゲルニ。東芝側には日立と,ありゃLDの盟主パイオニアが鎮座ましましているぞ。こ・これはベータ-VHS戦の再現か。
と言うわけでちょいとゴシップ的に一般マスコミが扱ったのである。気になるのは総じて連敗必至だうひょひょひょひょという論調だ。ソニーは営業妨害を訴えても良いのではないか。それにベータの衰退はVCRが家電品に降りてからの話だ。趣味の録画マシーンとしてはVHSなぞ歯牙にも掛けない性能だったのだぞ。
でもDVDって趣味の領域じゃないの? さあそこだ。どこ? 探すんじゃあないよ。Digital Video Diskと言ってしまうと水平解像度がどうの色温度がこうの言うVAマニアの玩具であるが,ギガ単位の容量を持つディジタル媒体となればコンピュータの世界に片足つっこんでいるのである。これが前述の,何を急いでいるのかという問いへの回答になる。実際DVDの映像記録方式は今まさにパソコン界を騒がせているMPEGの2なのだ。ここで出遅れたらかなりやばい事態となり,逆に自社の仕様が業界標準となればどんなにおいしい思いができるか想像に難くない。CDをモノにしたフィリップスとソニー・WINDOWSをモノにしたマイクロソフトインテルを羨んでばかりはいられないのである。
ソニーはたぶん自社仕様で突っ張ると思う。おれもこの対決ならソニーに加担したい。東芝式の両面媒体だとピックアップのUターン機構が必要で,裏へ廻るさい何秒かは再生が中断する。これをキャンセルできるメモリを積んだりピックアップのふらつきをフォロウするサーボを強めたりするのにコストを高めてもらいたくない,ツインピックアップなんかにしたら高くついてかなわんぞ。
記録時間は2時間もあれば充分だ。現行LDだってわざと1時間たらずのパケイジングを組み物にして売っているではないか。──実はこれ,非常にベータ的発想なんだけどね。


災難2題。
昨年12月,山手線は20時頃と思いねえ。当時おれの家路は代沢から小田急バスで渋谷へ出,渋谷から品川へ繋ぎ京浜東北線に乗り換えてもう少し南下するものだった。
おれが乗り込むのを待っていたかのように話しかける奴がある。「新宿へ行くのはこれで良いの?」は。小きたないオヤジである。50前くらい。どう見てもサラリーマンではない。息子の給食費で馬券を買いそうなタイプだ。しかしおれは行きずりの人には愛想が良い。いや,新宿なら逆回りのほうが早いですよ(山手線は環状線だからいずれは新宿にも着く。1周1時間),こっちは品川まわりです。「あぁ,そうかオレ新宿から乗ったんだ。品川で良いんだ」何でえ,怪しいな。ふと見るにワンカップなんか開けていやがる。おれは酒を飲まないので酔っぱらいには不寛容だ。文庫本を取り出してコミュニケイション遮断モウドに入る。「きょう再就職の面接に行ってきたんだけどさあ」ん,何だ何だ,おれに言っているのか。「これ(夕刊紙)にホストの募集があって赤羽まで行ったんだよ」はて,ホストというのは主に容姿を売り物にするはずだが。しかも赤羽だと?「事務所に行ったらどうも堅気じゃないんだよ」そりゃそうだろ。「で,登録料に5万円はらえってんだ。オレ,カネ持ってなかったからそう言ったらもうケンもホロロよ。財布しらべられて本当に無かったから,出てけって突き出され てそれっきりよ。で,側に屋台が出てたから一杯やってたら,(屋台のオヤジが言うには)そこはそうやって金だけ取るところなんだってよ。毎日何人か来て騙されてるんだと」おれ,ちっとも気の毒に思わない。「こうやって新聞に載せてだよ」そんなエロ新聞の求人広告を信じるかな。「不況につけ込んで人を騙すんだからなあ」不況とは関係ないと思うよ。「なあ,同じ日本人を騙すかなあ,同じ日本人を」むっ,何だと。何でそこで日本人が出てくるんですか。日本人かどうかは関係ないでしょう。外国人なら騙されても構わないみたいに聞こえるぞ。「な・なんだ,あんた日本人じゃないのか」日本人だよ。「だろ? 日本人どうし仲良くやらなきゃ」むかむかむかむか,そしてとほほほほほほ。品川に着いてこの莫迦まだおれに絡んできそうだったのでしかたない,『世界』を遣って逃げた。うー,けったくそ悪い。

これは昨晩のこと。
甘木が退職することになってその送別会に行って来た。2次会がハネてもまだ冷たい雨が上がらないで例外的に寒い。タクシで帰ることにした。走り出して早早になんと路地から飛び出してきた莫迦面学生(ふう)のクルマとクラーッシュ! おれの乗った側にゴリグレガリと接触して停まった。幸い双方30km/hくらいだったんで,おれの感じた衝撃は急ブレーキに因る慣性だけである。すぐ済みますから待っててくださいと言って運ちゃんは出ていった。示談に持ち込むのかと思ったが,プロのドライヴァがそんなわけない。しかし相手が警察を呼ぶと頑張っているのを押し切って免許証番号を控え,後で連絡するということでその場は収まった。良いのかな。タクシは擦り傷とブリンカレンズの割れを喫する。ドアの閉める音が何か変だった。おれにとっては産まれて初めての交通事故である。
まことに興味深かったのは運ちゃんの残念そうな口振りだ。「あーあ,(このクルマ)まだ38万kmしか走ってなかったのに。もう10万kmは行けるのになあ」どっひゃー。タクシの償却は50万km走行だそうである。知ーらなかった知らなんだ。桁違いとはこのことだ。距離計も1/10表示に改造してあるんだって。尤も年に12万km走るらしい。えっと,期間に直せば,そんなもんなのかな。それにしても凄いや。

不一

1995年3月12日


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セブンイレブンかローソンか
WebのURL載せようと思ったんだけど,何かどっちも自前のは作ってないみたいよ。ちょっと意外。(97/07/06 記)

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ソニーくん
片山まさゆき『ぎゅあんぶらあ自己中心派』に出てきたのとは無関係。なお「星取表」は飽くまでも当時のおれの印象だからね,抗議してこないように。

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VAマニア
Audio-Videoなんだから本当はAVマニアなんだけど,違う趣味に取られちゃうから仕方なくひっくり返してこう言う。Adult Videoってのもどうかと思うよ,大人がポルノしか観ないみたいじゃん。

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東芝式の両面媒体だとピックアップのUターン機構が必要で…
この辺おれの莫迦まる出しであるが,Uターンなんかせんで良いのだ。2枚貼り合わせと言っても記録面を背中合わせじゃなくて同じ向きに貼るのである。上側を読むとき下側を読むときそれぞれレイザ光の焦点深度が異なるから干渉が無く,貼り合わせてないのと同じなんだって。よくもまぁこんなこと考え付くよ。
結局ソニーと東芝は規格を一本化して──これにもびっくりした──DVD-ROMを立ちあげた。(97/07/06記)

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世界(The World)
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる最大の悪役DIOのスタンド。十数秒間時間を止められる。スタンドの属性は初期にはタロットカード(大アルカナ)の種類に従っていた。すぐに足りなくなって,何でもありになったけど。

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written by nii.n