源善 みなもとのよし 生没年未詳

嵯峨天皇の曾孫。源舒の子。昌泰元年(898)の宇多上皇吉野宮滝行幸に従駕、歌を奉る(袋草紙)。同四年、菅原道真の事件にかかわり、右近衛中将から出雲権守に左遷された。勅撰入集は後撰集の四首のみ。

中将にて内にさぶらひける頃、相知りたりける女蔵人の曹司に、壺やなぐひ、老懸(おいかけ)を宿し置きて侍りけるを、俄に事ありて、遠き所にまかり侍りけり。この女のもとより、この老懸をおこせて、あはれなる事など言ひて侍りける返り事に

いづくとて尋ね来つらむ玉かづら我は昔の我ならなくに(後撰1253)

【通釈】どこにいるかと尋ねて来たのだろう。冠飾りよ。私はもう昔の私ではなく、おまえは無用になってしまったのに。

【語釈】◇老懸 武官の冠の両耳につける半月形の飾り。◇俄に事ありて 菅原道真左遷事件をいう。◇遠き所にまかり 出雲権守に左遷されたこと。◇尋ね来つらむ 老懸を擬人化していう。◇玉かづら 「懸け」にかかる枕詞だが、ここでは老懸をさす。◇我は昔の… もはや中将ではないこと。武官でなければ老懸は無用である。


公開日:平成12年09月02日
最終更新日:平成15年03月21日