覚助法親王 かくじょほっしんのう 建長二〜建武三(1250-1336) 通称:聖護院宮

後嵯峨院の皇子。母は藤原孝時女、刑部卿局。宗尊親王・後深草院・亀山院性助法親王の弟。
静忠の弟子となり、聖護院門跡に入室。正元元年(1259)に出家し、弘長三年(1263)静忠没後、門跡を嗣ぐ。文永五年(1268)、園城寺長吏。正安二年(1300)、二品に叙せられる(のち一品)。嘉元元年(1303)、四天王寺別当。ほかに熊野三山検校などにも補せられた。建武三年(1336)九月十七日、薨去。八十七歳。
弘安・嘉元・文保・正中の各百首、元亨三年(1323)八月十五夜後宇多院月五十首、同四年二月の石清水社歌合、建武二年(1335)の内裏千首などに出詠。また二条為世二条為藤頓阿他を招いて自ら五十首歌会を開催した。二条派と近しいが、伏見院とも度々歌を贈答するなどしている。続拾遺集初出。勅撰入集は計八十九首。

百首歌奉りし時

かすむ夜の月にぞさらにしのばるる忘るばかりの春の昔は(続千載180)

【通釈】朧に霞む夜の月に、いっそう懐かしく偲ばれるのだ。忘れてしまいそうなほど遠い昔の春の思い出は。

【補記】「月」と「昔」の両方に掛かり、涙をも暗示する「かすむ」の用い方が巧妙。第二句「月にぞさらに」に感動を籠め、下記本歌により結句「春の昔」は青春の恋の思い出に薫る。文保百首。続後拾遺集の雑部に重出。

【本歌】在原業平「古今集」
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして

題しらず

時やいつ空にしられぬ月雪の色をうつしてさける卯の花(玉葉305)

【通釈】いったい季節はいつなのか。天の与かり知らぬ月や雪の色をさながら移し染めたように、真っ白に咲いている卯の花よ。

【補記】月光か雪かと見まがうばかりに眩く白い、地上の花。「空にしられぬ」は紀貫之の「桜散る木の下風は寒からで空に知られぬ雪ぞ降りける」(拾遺集)に由り、「空の関知しない」「空の支配下にはない」程の意。

【先蹤歌】よみ人しらず「後撰集」
時わかず月か雪かとみるまでに垣根のままにさける卯の花

心すむわがよの秋のながめかな月を嵐の空にまかせて(嘉元百首)

【通釈】我が人生も秋を迎えたが、そんな私の心も澄み切るような今宵の空の眺めである。嵐が吹くのにまかせ、雲ひとつかからぬ月を見つめて。

弘安元年百首歌たてまつりける時

夕日影さすやたかねの紅葉ばは空も千入(ちしほ)の色ぞうつろふ(新拾遺532)

【通釈】高嶺の紅葉に夕日が射して――その光景はまるで、空までも千入の紅の色が染まっているかのようだ。

【補記】「千入」は布を何度も染料に浸して染め付けること。

嘉元百首歌たてまつりし時、雪

ふる雪もいくへかうづむ吉野山みしは昔のすずの下道(続千載1803)

【通釈】雪は幾重に降り積もったことだろう。吉野山よ、昔見た時は、篠の繁り合う下を通る道だったのが。

【補記】作者には「契あらば又や尋ねん吉野山露わけわびしすずの下道」の詠もある(新後撰集)。いずれも題詠ではあるが、述懐調であり、吉野に籠って修行した実体験が基にあることを窺わせる。

【参考歌】源頼政「新古今集」
こよひたれすずふく風を身にしめて吉野のたけに月をみるらん

題しらず

ながき夜の霜のまくらは夢たえて嵐の窓にこほる月かげ(風雅780)

【通釈】冬の長い夜、霜の降りた枕は私を夢から覚まし、嵐の吹きつける窓には凍りついたような月影が。

文保三年、後宇多院へめされける百首歌の中に

降りつもる雪まにおつる滝川の岩ねにほそき水の白浪(風雅861)

【通釈】いちめん降り積もった雪の、わずかな隙間を縫うように流れ落ちる滝川――岩の根元には細流が白波を立てている。

【補記】文保百首。

【参考歌】西行「新古今集」
ふりつみし高嶺のみ雪とけにけり清滝川の水の白浪

嘉元百首歌たてまつりける時、忘恋

しひて猶したふに似たる涙かな我も忘れんとおもふ夕べを(続後拾遺928)

【通釈】流すまいと思うのだが、我が意に逆らってまでも昔を慕うかのように涙がこぼれる。あの人は私を忘れてしまったのだから、私もあの人と逢った夕暮れ時は忘れようと思うのに。

弘安百首歌に

さだめなき心や見えむ山里をさびしと言ひてまた浮かれなば(新続古今1829)

【通釈】出家したにもかかわらず、いまだに定まらない心が見えてしまうだろうか。山里を淋しいと言って、また浮かれ歩いて出て行ったなら。

【補記】一所に定住し難い心を詠む。続拾遺集の資料とするために亀山院が召し、弘安元年(1278)頃に披講された百首歌の一。作者二十代の作。

題しらず

とどめえぬよはひを花にたぐへても今年やかぎり春の山風(新千載1712)

【通釈】年をとることを止めることなどできず、花と一緒に齢を重ねてきたけれども、それも今年が最後だろうか、春の山風よ。


最終更新日:平成15年01月09日