updated Sept. 11 2001  派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)
 質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2136. 「偽装請負」の違法派遣とはどんな場合でしょうか?

会社は、労働者派遣ではなく請負(業務委託)だといいますが、実際には派遣だと思います。よく言われる「偽装請負」の違法派遣とはどんな場合でしょうか?


偽装請負とは?

 現在、業務請負という形式での労務提供が広がっています。実態としては労働者派遣であるのに、請負という形だけをとった「偽装請負」あるいは「違法派遣」と考えられるものが少なくありません。
 しかし、こうした「偽装請負」は違法です。職業安定法、労働基準法などに違反するのです。
 1985年制定の労働者派遣法は、偽装請負による労働力提供の広がりを前提に、それを違法なままにしておくのではなく、新たなルールの下で公認していこうとするものでした。
 しかし、この新たな規制である労働者派遣法さえ守らない「偽装請負」形式の違法派遣が広がっているのが現実です。とくに、1999年の労働者派遣法改正で労働者保護についての多くの新たな規定が導入されたこと、また、受入れ企業にとっては不便な「1年ルール」が設けられたために、労働者派遣法の適用を逃れる目的で「偽装請負」の形式が広がっているのが現実です。
 工場での各種作業、コンピューター関係の作業をはじめ、業務請負形式での労働提供のかなりが「偽装請負」とさえ指摘されています。
 労働行政は、こうした偽装請負による違法派遣の取締りにきわめて不熱心でした。むしろ、対応する人員を十分に配置や増員しないままで、事実上違法の蔓延を放置してきたとさえ考えられます。外国人労働者の請負形式による違法派遣の取締りでは、入国管理や治安政策の点から取り締まる警察関係者から職業安定行政が怠慢の指摘を受けることさえありました。
 こうした行政の怠慢も手伝って、多くの業務請負業者が大手を振って違法派遣をしているのが現実と言わざるを得ません。違法な労働関係であるために労働者保護に欠け、使用者の責任が曖昧になって大きな弊害が生れているのです。

本来の請負

 ところで本来、請負(うけおい)というのは、ごく通常の労務提供の形態です。
 よく知られているのは「建築請負」や「運送請負」ですが、他にも多くの請負があります。
 しかし、こうした本来の請負と、ご相談の労働者派遣に類似した「業務処理請負(委託)」はかなり違っているのです。
 建築請負では「請負人」である建築業者(工務店や建設会社)が、注文を受けた家屋などの建築を完成して注文者に提供することが本質です。注文者は、この仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束する点に特徴があります(民法632条)。

 民法632条
 請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス

 民法の典型契約では、労務供給を目的とする契約として3種類があります。
 請負は、その一種ですが、他の委任や雇傭(雇用)との間に、次のような違いがあります。

目的 労務提供者 労務提供者の裁量 関連規定
請負 仕事の完成 請負人(事業主) あり 建築業者、運送業者 民法632条
委任 事務処理 受任者(事業主) あり 弁護士 民法643条
雇傭 労務の提供 労務者(労働者) なし(指揮命令を受ける) 一般の会社員 民法623条

間接雇用の禁止

 戦前には、請負形式で労務供給を目的とする「業務請負」(現在の業務委託・業務処理請負などに類似したもの)による「間接雇用」が広がっていました。その結果、雇用・労働をめぐって次のような重大な弊害を生んでいました。

 戦後になって、日本の労働関係の民主化のなかで、この労務供給業による「間接雇用」の制限・禁止が、職業安定法、労働基準法などのなかで明確にされたのです。
 まず、1947年に制定された職業安定法は、第44条で、いわゆる人貸しの請負を「労働者供給事業」として、これの原則的に禁止しました。
 そして、日本の民主化を進めていた占領軍は、戦後も日本の職場に広がっていた労働者供給を禁止するだけでなく、供給労働者を供給先(受入れ側)の企業が直接雇用(直用)するように強く求めたのです。
 この第44条は、現在もなお効力をもち続け、次のように規定しています。

 第4条(定義)
 6 この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。

 第44条(労働者供給事業の禁止)
 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

 また、労働基準法第6条も次のように中間搾取を禁止しています。

 労働基準法第6条
 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

 職業安定法第44条に違反する労働者供給事業者は、中間搾取をしていることになります。
 供給先(受入れ企業)は、賃金を直接、かつ全額支払わねければなりませんが(労働基準法第24条)、労働者供給業者を通じて間接に、また、一部を控除してしか渡していないと考えられるのです。


偽装請負と本来の請負の区別

 職業安定法第44条を受けて、職業安定法施行規則第4条は、次のように規定しています。

 労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者は、たとえその契約の形式が請負契約であっても、次の各号のすべてに該当する場合を除き、法第5条第6項の規定による労働者供給の事業を行う者とする。
 一 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。」
 二 作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。
 三 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること。
 四 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。
 2 前項の各号のすべてに該当する場合であっても、それが第44条の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって、その事業の真の目的が労働力の供給にあるときは、法第5条第6項の規定による労働者供給事業を行う者であることを免れることができない。
 3 第1項の労働者を提供する者とは、それが使用者、個人、団体、法人又はその他如何なる名称形式であることを問わない。
 4 第1項の労働者の提供を受けてこれを自らの指揮命令の下に労働させる者とは、個人、団体、法人、政府機関又はその他如何なる名称形式であるとを問わない。

 ちなみに、職安が参考にすべき行政解釈(マニュアル)では、この区別の基準についてより詳しく、次のように書かれています。

「労働者を指揮監督する」とは、自己の責任において労働者を作業上及び身分上直接指揮監督することをいう。
 「指揮監督」とは、作業に従事する労働者について身分上及び作業上指揮監督することをいうのであるが、殊に作業上の監督は仕事の割付け、順序、緩急の調整、技術指導等を内容とし、作業の成否に重大な影響をもたらすものであるから、請負者に対する信用が充分でない場合は往々にして註文主が自らその指揮監督に介入する例が少なくない。註文主がその発註した作業に介入する範囲にはおのずから一定の限度があるべきで(イ、請負者又はその代理者に対する注文上の限られた要求又は指示の程度を超えるものではないこと。ロ、請負者側の監督者が有する労働者に対する指揮監督権に実質上の制限を加えるものではないこと。ハ、作業に従事する労働者に対して直接指揮監督を加えるものではないこと。)、その限度を超えて干渉を行う場合には請負者が「自ら指揮監督するもの」とは解し難く、且つ、第1号の請負業者としての責任能力にも欠くるところがあり、又第4号の企画、技術、経験等を必要とする作業を行うものでないと認められる場合も多い(27・7・23職発502の2)。

 適法な請負の関係では、次の図のように請負人が労働者との間ですべての使用者責任を負い、実際の仕事の指揮命令も自ら責任をもって行うことになります。

 【適法な請負の法律関係】 

  請負人A・・・・・・・・・・・・・・・・労働者W 
 (受託会社)   ○労働契約(雇用契約)
   ・●就業規則 指揮命令関係
   ・ 
   ・
   ・
   ・◇請負契約
   ・
   ・
   ・
   ・
  注文者B
 (委託企業)

 それぞれの当事者(A、B、W)は、下記の内容の文書が存在しなければなりません。
   ○労働契約(雇用契約)〔A←−→W〕
   ●就業規則〔A〕
   ◇業務委託(請負)契約〔A←−→B〕

職業安定法・労働者派遣法に二重に違反

 1985年制定の労働者派遣法は、こうした職業安定法第44条が禁止する労働者供給事業を、一部例外的に適法化しました。原則としては禁止されているものを、特別な要件を満たしたものに限って「労働者派遣事業」として合法化したのです。
 たしかに、法律に基づいて労働者派遣事業の形式をとる限り、職業安定法第44条違反とはなりません。
 しかし逆に、請負形式をとって「偽装請負」の違法派遣ということになれば、法違反の責任は余計に重大です。
 つまり、職業安定法違反の責任があります。
 さらに、より緩やかな新たな規制である労働者派遣法が定める労働者派遣事業を選択できるのに、それからも逃れるという点で、二重に法違反を重ねることになります。
 これでは職業安定法かつ労働者派遣法違反となり、きわめて悪質な法違反の意図をもった「偽装」と考えられることになります。

違法派遣の摘発

 職業安定行政の取締り態勢は不十分です。しかし、それでも明らかな違法派遣については、下記のように警察を中心に「雇用関係事犯」として摘発され続けています。

 職業安定法違反となれば、労働基準法第6条の、賃金の中間搾取の問題もでてきますので、労働基準監督署に同時に申告することもできます。

 公共職業安定所は、こうした偽装請負について、職業安定法違反ではなく、労働者派遣法違反として摘発をすればよいとしているようです。職業安定法違反であれば、供給元・供給先ともに処罰する規定があります。
 労働者派遣法違反であれば、違法派遣の派遣元は処罰の対象ですが、派遣先については、悪質な場合に企業名を公表すればよいとされているだけです。

 業務請負形式の違法派遣については、以上の通り、刑事的には、職業安定法違反の罰則が供給元だけでなく、供給先にも適用されます。
 労働者派遣法違反の罰則は派遣元に適用されますが、同時に、派遣先についても(事情によっては、少なくとも派遣元の共犯(教唆犯)として)処罰対象になる可能性があります。さらに、派遣元が派遣先の子会社や系列会社の場合、両者は一体と考えられますので、強い立場にある派遣先の刑事責任が強くなると考えられます。

 行政としては、職業安定や労働基準監督行政当局が取締りをするべきです。実際に違反の取締りが行われていますが、本来から見れば僅かです。
 むしろ、警察が取締りをしているのが目立っています。ただ警察の取締りは、あくまでも労働者保護を目的としたものではなく、暴力団取締りや外国人対策という視点からのものです。

供給先(派遣先)への直接雇用

 民事的には、違法派遣の場合、派遣先に直接雇用されるという方向で解決するのが、労働者保護と使用者責任を明確にする点から重要です。
 しかし、実際にはなかなか直接雇用にまで至らないという問題が残っています。とくに、日本では違法派遣の場合、ドイツ、フランスのように派遣先の雇用責任を明確にした規定がないことも理由の一つです。
 しかし、職業安定法、労働者派遣法の趣旨や、使用従属の実態から労働者と使用者の関係を判断するという労働法の基本的な考え方(労働契約論)からも違法派遣の場合、派遣先に雇用責任をとらせる解決が筋の通ったものと言えます。
 暁明館病院事件では、長年月の紛争がありましたが、この職業安定法違反の追及で大阪府が指導することになり、医療行政の点から府の指導を受ける病院が改善に追い込まれ、労働側の全面的な勝利で終わっています。(『がんばってよかった 派遣から正社員へ』)

 以上、これまでにも私たちは偽装請負の問題での取り組みをしてきました。
 たしかに、問題の解決は簡単ではありませんが、労働組合の援助を得た粘り強い取り組みによって、労働者が「がんばってよかった」と言える解決に至った事例が少なくありません。
 実際に労働者を利用し、その労働力利用で大きな利益を得ながら、労働法(労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、社会保険法など)が求める使用者責任を全面的に逃れようとする派遣先の態度はあまりにも不公正です。
 こうした違法派遣における派遣先責任を粘り強く追及することは、労働者の保護をはかり、公正雇用を実現するうえできわめて重要なことだと考えられます。


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