updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2122. 違法派遣というのは、どういうものですか?
 労働者派遣は、1985年制定の労働者派遣法によって初めて、一定の要件を満たすものだけが、合法化されることになりました。

 現在でも、労働法の体系のなかでは、労働者派遣は、あくまでも例外であって、派遣労働は、原則としては労働者派遣法・職業安定法によって禁止されているのです。

 つまり、労働法の原則では、労働者を実際に指揮命令し、労働力として利用している者が使用者としての法的な責任をすべて負担しなければなりません。労働契約などの法的関係も、この実態としての支配・従属の関係にある「使用者」と労働者の間に成立することになります。
 労働者派遣のように、この使用者と労働者の間に、第三者が中間に介在する「間接雇用」は、使用者の責任を曖昧にし、労働者の地位を不安定にする不公正なものとして、禁止するのが、労働法の原則です(間接雇用の禁止=直接雇用の原則)。
 違法派遣に含まれる事例の類型としては次のような種類があります。

 (1)対象業務外派遣
 実例としては、次のようなものがあります。

 高崎市内の無許可の人材派遣業者が違法とされる看護婦派遣を行っていたことが同県職業安定課の調査で判明、同課は、労働者派遣事業法に触れる疑いがあるとして派遣の中止を行政指導した。数十人の看護婦が登録し、一時は伝染病隔離病舎など各地の医療機関に毎月延べ数百人を派遣していたとみられている。〔1998/05/23 読売新聞〕

 福岡県警少年課と西署は、労働者派遣事業法違反(適用対象業務以外への派遣)の疑いで「F工務店」社長と専務の二人を逮捕。少年2人(いずれも当時16歳)を、労働者を派遣することができない建設会社(福岡市)など2カ所に派遣して、熊本市内などの工事現場でとび・土木作業に従事させていた疑い。〔1998/02/12 朝日新聞〕

 県警少年課と中署は、女子高校生をホステスとしてスナックに派遣していたとして、コンパニオン派遣業者を労働者派遣事業法違反(適用対象業務以外への派遣)の疑いで逮捕した。〔1998/03/24 朝日新聞〕

 新潟県相川署は、埼玉県三芳町藤久保、人材派遣会社社長を労働者派遣事業法違反の疑いで逮捕した。トルコ人3人を建設会社に派遣し、派遣事業法では認められてない土木作業をさせていた疑い。〔1998/04/18 毎日新聞〕

 ●労働者派遣法違反
 このような対象業務外の労働者派遣は、労働者派遣法の「対象業務外労働者派遣罪」を構成し、また、罰則が派遣元(派遣業者:法人も処罰する両罰規定)適用されます。派遣先については、派遣元に対象業務外派遣を教唆したり、幇助したときには、共犯(教唆犯または幇助犯)の刑事責任が問われます。

 ●職業安定法違反
 さらに、対象業務外の労働者派遣は、職業安定法第44条が禁止する「労働者供給」に該当しますので、派遣元は供給元として「労働者供給罪」、派遣先は供給先として「労働者受供給罪」を犯すことになり、それぞれ罰則を適用されます。



 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)

 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

 この職業安定法第44条違反の行為については、職業安定法第64条で、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられると定められています。
 ●労働基準法違反
 就業にあたって第三者が利益を得ることは「中間搾取」として労働基準法で厳しく禁止されています。違反には、罰則も同法第118条で「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処」せられることになります。

 労働基準法第6条(中間搾取の排除)

 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。


 (2)偽装請負

 製造業だけでなく、事務部門を含めて「請負」を装った違法派遣が広がっています。
 IBMの神奈川県藤沢市にあるパソコン製造ラインは、全員が派遣とアルバイトだという。〔「職場の違法派遣を問題視/JMIU/偽装請負の是正、調査」1998/04/16 連合通信〕

 このような偽装請負は、職業安定法第44条違反に該当しますので、(1)で指摘した、
 ●職業安定法第44条違反
 ●労働基準法第6条違反
などに該当します。

 (3)無許可労働者派遣・無届労働者派遣


 (4)二重、三重、多重派遣

 コンピュータ関連だけでなく、多くの企業が派遣子会社を作り、その子会社も別の派遣会社から社員を導入する二重、三重の派遣の実態が広がっています。

 労働省当局者は、国会での答弁や解説書のなかで、労働者派遣法の趣旨から、「二重派遣」は、本来の労働者派遣から離れており、労働者派遣法に反するとともに、職業安定法第44条の労働者供給事業に該当することを明言しています。
 したがって、(1)と同様に、
 ●労働者派遣法違反
 ●職業安定法第44条違反
 ●労働基準法第6条違反
に該当します。
 (5)直接面接・直接採用

 派遣先が、派遣労働者の派遣受け入れに先立って、直接に面接すること、あるいは、履歴書などを閲覧して、直接採用にかかわることは、労働者派遣法の趣旨に反することです。労働省は、これについても、職業安定法第44条違反に該当することを明確に認めています。
 したがって、(1)と同様に、
 ●労働者派遣法違反
 ●職業安定法第44条違反
 ●労働基準法第6条違反
に該当します。
 (6)関連する法律規定違反

 以上の法規定だけでなく、事情の特殊性によっては関連した規定が適用される可能性が生じます。
 ●労働基準法違反(18歳未満の危険有害業務の就業制限)

 女子高校生らに温泉旅館で接客業務をさせていたとして、栃木県警少年課などは、労働基準法(18歳未満の危険有害業務の就業制限)違反の疑いで、栃木県今市市のコンパニオン派遣業者と妻の2人を逮捕〔1998/04/01 時事通信〕。

 ●出入国管理法違反(不法就労助長あっせん)

 緑、港北両署と県警生活安全総務課は、中国籍T=出入国管理法違反(旅券不携帯)で逮捕済み=を同法違反(不法就労助長あっせん)の疑いで逮捕。Tは仲間と共に人材派遣会社に不法滞在の中国人男性を紹介し、塗装会社で工員として不法に働かせていた疑い。紹介料として現金5万円を受け取っていた。〔1998/03/13 毎日新聞 神奈川地方版〕

 以上は、違法派遣についての主なものですが、これ以外にも、港湾労働法や警備業法など、業務の特殊性に応じた特別な規定が適用される違法派遣が考えられます。
 刑事責任の追及は、警察・検察当局または労働基準監督署、公共職業安定所へ
 違法派遣については、本来、労働行政である職業安定行政当局(労働省・都道府県職業安定担当部局・公共職業安定所など)がそれを取り締まるべき第1次的な行政責任があります。労働大臣には、行政指導や、労働者派遣法の規定のなかには、対象業務外の派遣を指示した派遣先企業名の公表などの制度も活用して、行政的に違法派遣を取り締まることが十分に可能です。
 労働者・労働組合としても、こうした行政を通じての違法派遣の是正や取締りを求める取り組みに力を入れるべきだと考えます。

 違法派遣では、労働者は「被害者」。とくに、派遣先の雇用責任追及を

 なお、「違法派遣」で働いていたときには、使用者(派遣元・派遣先)が法律違反を犯しているのであって、労働者は「被害者」です。これを誤解して、「違法派遣」で働いていると、労働者まで処罰されるように考えている人がおられるようです。むしろ、違法派遣で中間搾取された賃金の一部などの返還を含めて、損害賠償など民事的な責任を派遣元・派遣先に追及することも十分に可能です。
 できれば、違法状態を是正して、派遣先が直接雇用をするように交渉をするべきですし、公共職業安定所にも、そのような是正をさせる取り組みが重要です。この点については、職業安定法第44条違反を明らかにして、派遣先に派遣労働者を直接雇用するように求めた『暁明館病院事件』が参考になります。
 〔民主法律協会派遣労働研究会編『がんばってよかった 派遣から正社員へ』(かもがわ出版、1995年12月)参照〕

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