updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2142. 家庭教師の派遣は、労働者派遣法に違反するのでは?  予備校ではなく塾でも、講師と労働契約をしていないところがあるようです。労働組合の仲間であるR学園の組合員に聞いたところ、予備校系で中学生コースも設けている“塾"の講師は、雇用契約ではなく委任か請負であることが多いようです。
 R学園は、「講師派遣会社」を別途に設立して、そこから講師を派遣させて授業をさせています。その「派遣会社」は、R学園にしか派遣していないのですが、こうした講師派遣は労働者派遣法違反になりませんか?

 現行の労働者派遣法では、家庭教師の予備校や塾などへの派遣は、対象業務ではありませんので、明らかに同法違反と考えられます。
 しかし、ご相談にあるような委任や請負の形式であれば、講師や家庭教師が、労働法の適用を受ける労働者かどうか、が最初に検討するべき問題点と言えそうです。
 (A)講師・家庭教師の「労働者性」
 結論としては、講師や家庭教師は、労働法上の「労働者」と言わざるを得ません。
 労働法の考え方では、労働基準法の場合も労働組合法の場合も、ほぼ共通して、「使用従属の実態」「実質的な使用従属性」を労働者性判断の基準とする点では、学説・判例はほぼ一致していますので、業務委託や請負という契約形式にかかわらず、それぞれの具体的個別的な事例について、「実態」「実質」を問題にしなければならないことになります。
 「普遍的な判断基準」を明示することは容易ではありませんが、共通して挙げられているのは、「人格的従属性」に関連して、「仕事の依頼に対する諾否の自由」、「業務遂行上の指揮監督の有無」、「拘束性の有無」、「代替性の有無」など、「経済的従属性」に関連し、「報酬の労務対償性」などです。さらに、「機械、器具、原材料等生産手段の所有」、「専属性の程度」、「選考」、「税法・社会保険法・労働保険上の取扱い」、「服務規律の適用」、「福利厚生の適用」なども、補強的な判断事由としてあげられています。*
*この点についは、少し古くなりましたが、1985年の労働基準法研究会第1部会報告(労働契約関係)〔労働省労働基準局編『労働基準法の問題点と対策の方向 労働基準法研究会報告書』(日本労働協会)〕52頁−70頁を参照しました。
 判例では、大塚印刷事件・東京地判昭48・2・6労働判例179号74頁、中日放送楽団員事件・最判昭51・5・6民集30巻4号437頁等参照。

 派遣型の家庭教師の労働関係についても、この判断基準を適用することになります。つまり、その契約形式が「雇用契約」でなく、「委託契約」や「請負契約」であっても、労働法上の「労働者」にあたると判断される場合が少なくないと思います。
 この点は、すでに多くの方が、ご指摘になっている通りです。

(B)派遣型の家庭教師をめぐる問題

 派遣型の家庭教師の労働関係の実態については詳しく知りませんが、相談に答えるために、次のような新聞記事報道を検索して調べたことがあります。

〔ア〕東京読売新聞1989年5月26日朝刊によれば、
 三鷹労基署が家庭教師派遣会社「早稲田教育センター」の倒産、社長ら雲隠れ、給料不払いという問題で、労基法違反(賃金不払い)の疑いがあると調査を開始した、とのことです。〔その後の成りゆきは不明〕

〔イ〕毎日新聞1992年5月14日朝刊によれば、
 新宿労働基準監督署が大手家庭教師派遣会社「早稲田教育指導センター」の突然の事務所閉鎖問題で、従業員と講師への給料不払いにつき、労基法違反の疑いありとして調査を開始した、とのことです。
〔会社名が酷似していますが、何か関連があるのか、まったくないのかも不明〕

〔ウ〕朝日新聞1992年6月10日朝刊掲載の投書「人材派遣にも法的保護ぜひ(声)」大宮市の家庭教師(29歳)の方が、次のように訴えています。

 登録していた家庭教師センター倒産で講師料60万円がもらえなくなった。
 労働基準監督署では、「家庭教師の派遣は委託業務で請け負いになるので、法律の適用外であり保護されないということだった」「こういう派遣業の場合、普通の請負と違い、条件などは相手のいいなりにならざるをえない。実情はアルバイトのようなものである」、「労災や社会保険もなく、派遣で働く者の立場は弱い。一般の労働者と同じような待遇には、ならないものだろうか。」

〔エ〕読売新聞(西部)1993年1月21日朝刊によれば、

福岡中央労働基準監督署は、家庭教師派遣業「修明学院」の事実上の倒産で、講師らの賃金計約470万円の未払いにつき、労働基準法違反(賃金不払い)の疑いで福岡地検に書類送検する(以上、わき要約)、とのことです。

 これらの報道をみる限り、〔ウ〕では、労働基準監督署が、派遣型の家庭教師に労働基準法適用に消極的なようですが、〔ア〕、〔イ〕、〔エ〕は、いずれも、労働基準法の適用をすること、つまり派遣型の家庭教師も労働基準法上の労働者であることを前提にしていることになります
 詳しくは事情が分りませんが、これまでの派遣の相談の経験でも、労働基準監督署は、対応する職員が少ないこともあって、個人の訴えには概して「冷たく」、組合や集団で訴えたときに初めて「まともに」応対してくれることが少なくありませんでしたので、〔ウ〕と他の3例の違いにも、この点が反映していると思います。(〔ウ〕は〔イ〕と時期的に重なりますので、同じ派遣会社の事件かとも思いますが、その点は不明)

 要するに、派遣型の家庭教師については、委託や請負の契約形式であっても、労働基準法上の「労働者」であると判断できることが多く、その報酬は「賃金」として、労働基準法上の「賃金保護」を受けられると考えてよいと思います。
 労働組合法上の「労働者」であることも、ほぼ同様に確認できると思います。
 派遣型の家庭教師が、労働組合を結成したり、労働組合に加入する例はあるのでしょうか。〔ア〕から〔エ〕の事例では、労働組合結成による団体交渉が問題の実際的な解決に有効ですので、労働組合のかかわりを調べていますが、分りません。どなたかご存知でしたら教えて下さい(未読の書込みにあったのかな?)。

(C)家庭教師派遣と労働者派遣法

 この点については、私自身にも疑問に思うことがあります。

 1.一般家庭への家庭教師派遣は、なぜ労働者派遣に該当しないのか?

 家庭と教師との間には、直接の指揮命令関係や使用従属の実態がないということから、塾への派遣とは違って、家庭と派遣会社の間の「請負」契約関係ということで説明しやすい(?)ことが考えられます。
 〔ほんとうに実態からみて、「請負」と言えるか、疑問があります〕

 2.一般家庭への家庭教師派遣は、「有料職業紹介」に該当しないのか?

 職業安定法第32条は、「何人も、有料の職業紹介事業を行つてはならない。但し、美術、音楽、演芸その他特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあつ旋することを目的とする職業紹介事業について、労働大臣の許可を得て行う場合は、この限りでない。」と、原則として、有料職業紹介事業を禁止し、労働大臣の許可があるときにのみ例外として認めています。

 そして、同施行規則第24条は、次の職業についてのみ、有料職業紹介事業を禁止しています。

 一 事務的職業(新規学卒者のみ)
 二 販売の職業(新規学卒者のみ)
 三 サービスの職業
 四 保安の職業
 五 農林漁業の職業
 六 運輸・通信の職業
 七 技能工、採掘・製造・建設の職業及び労務の職業

 三については、家政婦、理容師、美容師、着物着付師、クリーニング技術者、調理士、バーテンダー、配ぜん人、モデル及びマネキンの職業は有料職業紹介が認められます。
 六については、観光バスガイドの職業、七については、生菓子製造技術者の職業は、有料職業紹介事業が認められます。

 したがって、家庭教師は、この禁止される職業の範囲に入りませんので、有料職業紹介事業の対象となる職業に含まれると考えられます。

 しかし、有料職業紹介事業として家庭教師の職業紹介を行うためには、労働大臣の許可が必要です。

 職業紹介といっても、1回きりのものだけでなく、「派遣型」のものもあり、6ヵ月に限っては、一定割合の手数料を徴収できることになっています。

 家庭教師派遣を請負として、これらと区別する説得的な理由はないと思います。
 実際には、家庭教師の派遣が、有料職業紹介ではなく、労働者派遣法の「労働者派遣」と酷似していることは、すでに問題になっていました。

 1988年当時、全日本家庭教師センター連盟(家庭教師派遣会社の業界団体)が、家庭教師派遣を人材派遣法の適用とすることを求めて、請願書を労働省に提出したといことです〔日経産業新聞1988年11月17日、30日〕。

 この日経産業新聞の記事によれば、
 「家庭教師派遣会社は教師スタッフを一般家庭へは派遣できるが、原則的に塾や予備校などには派遣できない。家庭では親などから派遣教師が指導監督されることはないが、塾などでは、経営者から指揮監督を受ける可能性があり、そうなれば派遣事業に該当するからである」とされ、さらに、
 「家庭教師派遣は労働者派遣法施行後、労働省の定める『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』を満たせば『請負』としてできるとされている」とのことです。

 この区別が困難であることや、塾への家庭教師派遣の要請(実態)もあることから、違法な派遣の実態を「公認」してもらうために、労働者派遣法の適用対象業務にしてほしいというのが、1988年当時の業界団体の意向のようです。

 「派遣先のR学園」とありましたが、もし「R学園」が塾や予備校であれば、労働省の考え方によっても、労働者派遣法に反することになると考えられます。

 なお、労働者派遣の対象業務として、1996年に、研究開発、広告デザイン、セールスエンジニア、アナウンサーなど12業務が追加されましたが、その中に家庭教師は含まれていません。

 家庭教師や塾、予備校の事例そのものではありませんが、1998年に生じた次の事例は、関連したものとして参考になるかと思います。

 1998/03/09 私立高講師、派遣会社から 事業法対象外 批判受け中止へ 千葉・柏〔朝日新聞 夕刊〕

 千葉県柏市内の私立高校が、人材派遣会社と契約を結んで非常勤講師を雇用していることが分かった。労働者派遣事業法に基づく人材派遣の対象業務に「教員」は入っておらず、「教育はビジネスではない」との批判が教員の中からあったことなどから、学校は新年度から取りやめる方針だ。人材派遣会社は「法的には問題はないはずだ」と反論している。背景には経営や生徒数が不安定な私立校の現状もある。
 同校によると、東京都渋谷区内の人材派遣会社を通して五人の非常勤講師を雇用した。
 生徒数の増加などで講師が足りなくなったことから昨年四月、人材派遣会社と契約を結び、国語講師三人と英語講師二人を一年契約で採用した。給料は学校が会社に支払い、講師は会社から受け取っていた。
 だが、五人のうち英語の講師一人が今年一月、突然辞任したり、「講師の立場が不明確で、教育現場にはなじまない」との批判が教員の中から出たりしたことや、労働者派遣事業法に違反する可能性もあると指摘されたことなどから、同校は二月に「来年度の雇用を中止する」という内容の文書を、派遣会社に送ったという。
 学校によると、県立高校の合格発表との関係から三月中旬にならないと生徒数が確定せず、その時期から講師を確保するのが困難だったという。
 校長は「講師との雇用関係も会社を通してすることで比較的スムーズにいくのではないかと考えた。法に抵触する可能性もあるということは後で知り、不勉強だった」と説明している。
 文部省高等教育局私学部私学行政課は「人材派遣会社から講師を雇用しているというケースは聞いたことがない」という。
 一方、人材派遣会社は「労働者派遣事業法で教員の派遣はできないが、(ある授業時間の教育をするという)業務の委託を受けたという形なので法的には問題ない」と主張。少子化が進み、経営が厳しい私立校が増えている現状から「人件費などの経営効率を考えれば学校にとって有効な手段だと思う。会社で講師の研修もしている」と話している。
 労働者派遣事業法で対象業務として認められているのは二十六業務に限られている。現在、労相の諮問機関が「対象業務の原則自由化」の方向で見直し作業を進めているが、教員の派遣が含まれるかははっきりしていない。労働省民間需給調整事業室は「実態を調べないと分からないが、雇用形態の契約内容によっては法に触れる可能性がある」としている。

 これまでの経験からも、職業安定法、労働組合法、労働基準法などを駆使すれ派遣型家庭教師の問題の多くは解決できると思います。

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