updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2010. 労働者供給事業と労働者派遣事業ってなに?
 
 労働者供給とは何か?

 労働法の基本原則の一つは、労働者を最終的に利用する使用者が、労働法上の使用者責任を負担し、労働契約上でも使用者となること、すなわち、直接雇用・間接雇用禁止です。
 労働者供給とは、いわゆる「人貸し」のことで、実際に働く職場の使用者ではない第三者が中間に介在する間接雇用の一つの形態です。
 何人かの労働者を登録させたり、契約などで自分の支配下においておき、労働力を必要とする事業主からの依頼を受けて労働者を貸出すことを言います。法的には、職業安定法第5条が「労働者供給」の定義を定めています。そこでは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」を意味することになります。

 職業安定法第5条第6号(労働者供給の定義)

 この法律で労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。


 労働者供給事業の弊害

 戦争前、まだ日本で労働法が十分に整備されていないときには、労働者が就労するにあたって、それを食い物にする悪質な業者が少なくありませんでした。労働者は、仕事を見つけようとする求職状態では最も弱い立場になります。ここにつけこんで、弱い立場の労働者から就職をあっせんする代わりに賃金の一部を「中間搾取」(ピンハネ)する例も見られました。
 とくに、戦前でも、工場法(労働基準法の前身)が普及し、最低の労働条件が法定されたり、健康保険加入が義務づけられるようになると、企業は、こうした法律の適用を嫌って、労働者を直接雇用せずに、「人夫供給業」や「組請負」業者(○○組などの労働者供給業者)から受入れる「間接雇用」の形態が広がったのです。
 法律上の使用者責任を逃れて、あやしげな零細の労働者供給業者を介在させて、工場法・健康保険法の適用を受けない労働者を導入したのです。労働者は、こうした労働者供給業者から人権侵害をともなう酷い扱いをうけ、多額のピンハネもされることになったのです。

 間接雇用の禁止

 敗戦後、日本を占領した連合軍(アメリカ)は、このような遅れた労働関係に驚き、その民主化と間接雇用の禁止=直接雇用を強く指示することになったのです。その結果として制定されたのが、職業安定法や労働基準法です。

 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)

 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。


 請負形式による労働者供給=偽装請負の禁止

 この職業安定法第44条は、原則的に労働者供給事業を禁止しました。そして、これが脱法的に「委託」や「請負」の形式で行われることが多いことから、脱法を許さないために、同法施行規則第4条で、「実体のある請負」といえるために、次の4つの要件を備えることを求めています。とくに、この「請負」の形式が偽装を目的にしたものであってはならないとしています。
 4つの要件とはつぎの通りです。
 1 作業の完成について事業主としての財政上および法律上の全ての責任を負うこと、
 2 作業に従事する労働者を指揮監督するものであること、
 3 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること、
 4 自ら提供する機械、設備器材もしくはその作業に必要な材料・資材を使用し、または企画、もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

 この4つの要件の一つでも欠けるときには、労働者供給事業となり供給元(労働者供給罪)だけでなく、供給先も処罰の対象となる(労働者受供給罪)のです(職業安定法64条)。
 さらに、労働者供給事業は、労働基準法第6条が禁止する賃金の中間搾取にも該当しますし、供給労働者が労働組合をつくって団体交渉を求めるときには供給先の事業主は、これを拒否することはできません(労働組合法第7条)。裁判所のなかには、職業安定法第44条違反などの違法な間接雇用の場合には、労働者と供給先の間に直接契約が成立することを認める考え方も見られました。

 労働者派遣事業制度 労働者供給事業の一部合法化

 職業安定法第44条が労働者供給事業を禁止しているのに、労働行政は、この違反を取り締まることを本格的には行いませんでした。その結果、製造業や造船業などでは、「臨時工」、「社外工」などの事業場内下請の形式で、直接雇用でない労働者が多数受入れられることになりました。
 1970年代以降、サービス業についても、運送関係(港湾、空港など)、民間放送、映画などの多数の職種の労働者が働く部門だけでなく、建物警備、ビルメンテナンス、情報処理、事務処理などの業務で、間接雇用が広がるようになっていきます。
 1986年に施行された労働者派遣法(1985年制定)は、この職業安定法第44条を修正し、特定の対象業務(当初は16)に限って、許可または届出による労働者派遣事業者からの「労働者派遣」を合法化することになりました。港湾、建設関係は、とくに弊害の大きい間接雇用形態が広がっていましたので、特別の法律が定められ、また、警備業については警備業法が適用されることになって、労働者派遣の対象から除外されることになりました。
 労働者派遣法によって、職業安定法違反が広がった状態を規制のもとに置くという考え方でした。対象業務以外の労働者派遣は違法であるし、労働者派遣であっても二重派遣(派遣会社から派遣された労働者を別の会社へ派遣すること)は、職業安定法第44条違反となります。
 また、特定の派遣先だけに派遣することを目的とする派遣会社(系列子会社など)は、望ましくないと法規制・行政指導の対象になっています。親会社から派遣会社に出向させた従業員を同じ職場で派遣で受け入れる方式も少なくありませんが、これらも、労働者派遣法を脱法的に利用するものと考えられる余地が大きいものです。
 具体的な事例では、労働者派遣の導入が、対象業務外で電話交換業務や事務の業務委託といった形で導入されることが広がっています。これらの業務はその特質から仕事を完成して引き渡すことを目的とする業務委託(請負)の実体をもたない業務であって、そのほとんどが違法派遣と考えられます。つまり、労働者派遣法の認める例外としての労働者派遣ではなく、職業安定法が禁止する「労働者供給事業」と考えられるのです。

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