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99.12.20

ミレニアム

 新宿駅を歩いていると、このようなポスターが目に付きました。

ミレニアム気分満喫!キラメキの2000年をプレゼント
brilliant millennium
11/22mon-12/31fri
 35th anniversary MY CITY SHINJUKU(JR新宿駅壁面ポスター 1999.12.20採集)

 なんじゃその「ミレニアム気分」というのは。
 「ミレニアム」ということばは、最近よく聞きますが、どうも定義のあいまいなことばです。
 朝日新聞では「千年期」「千年紀」「千年祭」「千年」「千年の期間」などという訳語をつけていましたが、最近では「千年紀」でほぼ一定しているようです。政府の「ミレニアム(千年紀)プロジェクト」などを踏まえているのでしょうか。
 このことばを理解するにあたり、BANYUU氏による「2001年の迎え方大研究」というサイトが参考になりました。「21世紀は2000年からか、2001年からか」「21世紀最初の10年間の呼び方は」など、世紀の変わり目関連の話題だけで成り立っている驚嘆すべきサイトです。
 いろいろな説明を参考にしつつ、僕なりに「ミレニアム」を定義すると、「21世紀である2001年の到来を待ちきれない人々が、西暦2000年に対してつけたあだ名」ということになりましょうか。
 どうも「ミレニアム」は、「千年紀」という一定の期間の意味(これが本来らしい)では使われていないようです。手元の「サンデー毎日」2000.01.02-09号を見てみると、「ミレニアム」ということばが実に6、7個所も出てきますが、

 読者参加型のコーナーとして、俳句ファンのみならず、多くの皆様から支持をいただいてきた「サンデー俳句王」。ミレニアムを迎え、気分も新たに俳句道をまい進しようと、1年ぶりに宗匠たちが集まりました。(p.135)

というような使い方がされている。単に「世紀を迎え」とか「1世紀を迎えて」というのがおかしいのと同じで、「ミレニアム=千年紀を迎え」というのは変でしょう。「新しいミレニアムを迎え」なら分かる。また、次の広告でははっきり「ミレニアム」を「2000年」のこととしています。

ミレニアム(2000年)の受験生へ その1 〔大阪経済法科大学広告〕(p.67)

 大学の広告にしては、不用意なコピーではないかと思います。
 また、「ミレニアム」が「千年紀」という意味だとしても、「千年紀」とは「1世紀」の10倍のことでしょうから、新しい千年紀の始まりは2000年ではなく、新しい世紀の始まりと同じく2001年でなければならないはず。西暦2000年は、「世紀末」や「千年紀末」ではあっても、何かの始まりの年ではない。小渕首相が今年初めの施政方針演説で

 本年、一九九九年は一九〇〇年代最後の年であります。と同時に次の新しい千年紀、ミレニアムを迎える前夜であります。(朝日新聞夕刊 1999.01.19 p.3)

と言ったのは1年ずれているのです
 この「ミレニアム」騒ぎを早くから予想していたのは筒井康隆氏でしょう。『脱走と追跡のサンバ』(1970〜71年発表)にはこうあります。

二〇〇〇年と二〇〇一年が別べつの世紀に所属するなど、まともな感覚の人間に理解できる筈はありません。その証拠に、おそらく二〇〇〇年になれば、二十一世紀開幕の祭典が大々的に行われることでしょう。見ててごらんなさい。みんな、きっとそうします。(角川文庫 p.29)

 名称こそ「ミレニアム」ですが、実際には「二十一世紀開幕」と同じようなお祝いが続くのでしょう。あまり2000年に騒ぎすぎてしまうと、本当に21世紀となる2001年に、感激が薄れるのではないかと心配になります。
 それからもう一つ、今年を「1900年代最後の年」というのも、ちょっと不思議な気がする。1900年代は、日露戦争などがあった明治時代の終わりごろ(1900〜1909)のことではないでしょうか。「1900年代」ということばは一種の多義語でしょうか。


追記 朝日新聞2000.12.29 p.1によれば、1999年の終わりに「ミレニアム」を祝ってしまったため、2001年を迎えるにあたって「世界ではどうも「世紀の変わり目」ムードが盛り上がっていない」そうです。イギリス・フランス・アメリカ・香港などでは、とくにお祭り騒ぎもなく、静かな年末を迎えている由。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団だけは、2000年末のニューイヤーイブ・コンサートを「今世紀最後」と位置づけているそうです。
 まさに、筒井康隆氏の予言が的中、せっかくの21世紀は気の抜けた幕開けを迎えるわけ。(2000.12.31)

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